IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

66 / 74
忙しく色々と追い詰められている中でも感想の通知が来るだけで心ハピハピになるのでこれからもよろしくお願いします……(切実


65.楽しく危うい臨海学校編 - 2人は変態 -

「ふむ、専用機持ちはこれで全員揃ったな?」

 

浜辺から少し離れた岩質の水場に集められた7人。

本来ならばIS の訓練と称して体力作りや諸々を浜辺という普段とは異なる空間で行う予定だったのだが、専用機持ちに関しては違うメニューということで千冬によってこうして呼び集められたのだ。

 

ただし、7人を見渡す千冬が一番端の奈桜に目を向けた途端に笑みを返されて顔を赤くして背けたことはさておき、『専用機持ち』が集められたにも関わらず、1人だけ『専用機持ちではない』者がいることには当の本人を含めて皆が困惑していたりもする。

 

「あの、箒は専用機を持っていないのでは……?」

 

「私としても訳が分からず困惑しているのですが……」

 

「ふむ、まあそれについてなのだがな……」

 

 

 

『ぃやぁっほぉ〜♪』

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

突如として水の音しか聞こえないほどの静寂な空間にヘリコプターの喧しい音が響き渡る。

そこにそんな音にも負けず耳に届く1人の女性の気さくな挨拶(とんでも肺活量)。

しかし更にその直後、そんな声よりももっと大きな掛け声が海岸線を貫いた。

 

『……は?え、ちょ、待ってオトちゃん!流石に死ぬから!これは束さんでも流石に死ぬから!絶対に無理だかr』

 

【破壊の美(ビューティフル・バスター)!!】

 

『ぎゃぁぁぁあぁ!!!』

 

ヘリコプターから飛び出した2つの影はあの筋○バスターを彷彿とさせる様な動きで空中で絡み合い、上空50mほどからの垂直落下によって恐ろしい勢いとなって水辺に着水した。

そこそこ水深の浅いところに落下したために凄まじい水飛沫が周囲に弾け飛ぶが、そんな人間離れしたとんでもを披露した2つの人影は何事もなかったかの様に立ち上がる。

 

……あまりにも濃過ぎる2人組が一同の目の前に現れた。

 

「あっrrrrrらぁん♡奈桜ちゃん久しぶりねぇ♡ちゃぁんとあーしのこと、お・ぼ・え・て・る?」

 

「え、ええ……ちゃんと記憶してますよ、なかなか消えてくれなくて困っているくらいです……」

 

「んもぅ♡あーしのことが忘れられないだなんて、可愛いこと言ってくれるじゃなぁいのっ♡」

 

「あ、あははは……」

 

サイズの小さなピンクのスクール水着に紺色のニーソックス、そして猫耳尻尾という究極完全形態で出現した筋肉モリモリの青髭の変態。

以前より露出度は下がっているとはいえ、これはキツい。これはしんどい。

 

あの奈桜でさえも無意識に千冬の背後に隠れるようになってしまうし、そんな奈桜からの期待に応えるという一途な信念だけで千冬もなんとか一歩も引くことなく真顔を貫いていた。

 

……なお、他の一同は各々に腰を抜かしていたり嘔吐していたりと尋常ではないダメージを負っている模様。

あのラウラと箒ですら酷く顔色が悪い。

 

「ちょっとオトちゃん!!束さん危うく死ぬところだったんだけど!?なにしてくれるの!?」

 

「なぁに言ってるのん、別にあーたはこの程度じゃ死なないじゃないの。奈桜ちゃんやちふゆんに迷惑かけたんでしょう?美の破壊(ビューティフル・バスター)の1つや2つは甘んじて受け入れなさいな」

 

「純粋な人間なのに束さんと同じくらい筋力のあるオトちゃんがやったら笑い事じゃ済まないんだよ!!」

 

「……全く、しょうがのない子ねぇん……」

 

ゲシゲシと蹴りを入れる束の脚をヒョイッと爪楊枝でも摘むように持ち上げてぶら下げる身長2m近くある彦星 乙女社長。

乙女はドレスのスカートの下が丸見えになりそうな事に気付いた束が抵抗しようとした瞬間に、そのまま軽々と海面へと投げ入れる。何の容赦もそこにはなかった。

 

「ぎゃぁあぁああ!!!」

 

「全く、最近はようやく丸くなったと思ったのに。束ちゃんってば、ほんっとにお茶目なんだから。」

 

「あ、あの姉さんがあんなに軽々と……」

 

「筋力で束と張り合うとは、やはり化け物だったか……」

 

「当然じゃなぁい♡あーしは美の怪物なンだから♡」

 

「……?頭まで筋肉なのか……?」

 

「まだ筋肉であった方が理性的だったのではないでしょうか……?」

 

千冬と箒が奈桜を守る様に前に立ち、顔を引きつらせながら各々の感想を述べていると、海に投げ入れられた束が水を吸って重くなったドレスを引きずりながら海面から這い出てくる。

全身ぐしょ濡れになり裾に脚を引っ掛けてドシャリと転ぶ束。

 

今の彼女は酷く哀れであった。

 

そんな彼女に唯一優しく接するのはもちろん、ここには奈桜しかいないわけで。

 

「た、束さん、大丈夫ですか?どうぞ、このタオル使ってください。」

 

「あはは、なーくんは優しいなぁ。いやぁ助かるよ、ありがとうね♪」

 

「えっと、着替えとかありませんか?このままでは風邪を引いてしまいますし……」

 

「大丈夫大丈夫!束さん最強だから!風邪とかもう何年も引いてないよ!あっはっは!」

 

などと言いながらも全身びしょ濡れなことに変わりはなく、奈桜は見ていられないとばかりに自分の上着を束にかける。

これだけ心配されることなど束の人生にはなかなか無かったので、彼女は珍しく少しだけ照れていた。

 

……そして、そんな2人の姿を見て驚愕をしていたのは当然見ていた者達である。

 

(た、束が照れているだと……!?い、いや、そもそもよくよく考えてみればあいつが変態仲間とは言え他人とコミュニケーションを取っていること自体が驚くべきことだ……!)

 

(ね、姉さんと母さんが親しそうに!しかも姉さんのコミュ障が改善されているだと……!?なにが、一体なにが起きている!?)

 

(束さんと綾崎さん、絵になるなぁ。束さんも前より雰囲気柔らかくなった気がするし、人って変わるもんだなぁ……)

 

一夏は呑気に考えていたが、束という人間を最も近くで見てきた者達にとっては久し振りに顔を合わせた束の変わりようはそれほどの驚愕に値するものなのだ。

 

そんな束は奈桜から受け取った上着を大事そうに抱えながら乙女に抗議をするが、目の前にヌッと現れた巨大なデコピンに恐れをなして奈桜の後ろに隠れたりしている。

そんな少しのやりとりですら千冬と箒にとっては信じられないものだった。

 

「お、おい篠ノ之……お前、先程あの女を姉さんと呼ばなかったか?ということは……」

 

「……ああ、そうだラウラ。あれが私の姉であり、同時にISの始祖とも呼ばれる篠ノ之束だ。」

 

「ほ、本当ですの!?」

 

「あ、あの人が篠ノ之束……!?」

 

「ね、ねえ?なんでお姉さんはお母さんとあんなに親しそうなの……?」

 

「知らん、そんなことはむしろ私が知りたい。」

 

「ちなみにあっちの変態はなんなのだ……?」

 

「知らん、そんなことはむしろ私が知りたい。」

 

「私もアレが束と交友があったということは知らなかったが、あれは乙女コーポレーションの社長、彦星乙女だ。綾崎の支援者だな。」

 

「「「「「はあぁあぁあぁぁ!?」」」」」

 

なんだかんだと言っても篠ノ之束のネームバリューは凄まじい。

しかし乙女社長のファーストインパクトも凄まじい。

生徒達の驚きは当然のものであり、それを見ていた束は奈桜の後ろからダブルピースを、乙女社長はその際どい格好で全力のポージングをして見せる。

もはや通報ものである。

千冬は心の中でポロリだけはするなと祈っているが、実際には乙女はその辺りはプロ級なので(そんなプロはない)無様なポロリなど絶対にないことだけは救いか……

 

「……さて、そろそろ本題に入ろうかしらぁん?束ちゃん、やっちゃいなさいな♡」

 

「うぇぇ?……んー、まあいっか。

ちょっと待っててよ、今なーくんの上着着ちゃうからさ。」

 

「ぶっ!?た、束さん!?」

 

束はそう言って後ろを向いてドレスの上半身部分を豪快に脱ぎ捨てた。そんな突然の奇行に皆が各々に焦りを見せるが、んなこと自分には関係ないとばかりに束は素肌の上に奈桜から借り受けた上着を着用する。

そのようなことをされては恥ずかしいのはむしろ奈桜の方なのだが、束はむしろ機嫌をよくして両手を広げた。

 

「さあさあ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今週のビックリドッキリメカを持ってきたよぉ〜!」

 

古臭い文言を用いながら満面の笑みで束がそう告げると、上空から2つの金属製のカプセルのようなものが落下してくる。

束が手元のリモコンを操作することで2つの金属体は光と共に消え失せ、内部から2機のISが姿を現した。

 

片方は赤より赤い紅の装甲を持つ派手な見た目の機体。

 

もう片方は薄い水色に赤黒い線が入っているこれまた独特なペイントのされた機体だった。

 

「じゃじゃーん!これが箒ちゃん専用のIS"紅椿(あかつばき)"と〜?」

 

「うっふふ〜ん♡こっちが奈桜ちゃん専用のIS "命涙(めいるい)"よぉん♡」

 

「あ、紅椿……?」

 

「……命涙、ですか。」

 

まさか自分が専用機を手にする日が来るとは夢にも思っていなかった箒と、嬉しくも悲しくもあるような複雑な表情でそれを見つめる奈桜。反応はそれぞれ。

箒は一瞬嬉しさを垣間見せたが、直後に気の緩んだ自分に気づいたのか頰を両手でピシャリと叩いた。

奈桜は考えるように両手を胸の前で握りながら少しの間俯いていたが、何かを決心したのかキリッとした表情で向き合った。

 

……だがこの中でも1人だけ、2人の様子ではなく、機体の『名前』に安心している人物がいた。

それは言わずもがな、千冬であった。

 

(命涙……鉄涙ではない、か。

まあ、だからと言ってどうというわけではないのだがな……)

 

昨夜のあれを思い出すと、前日から聞いていた奈桜に新しい機体を渡すという言葉が千冬はとても恐ろしく感じていた。

もしその機体の名前が"鉄涙"だったら……奈桜はあの仮想空間にいた直人になってしまうのではないかと。どうしてもそう思ってしまう自分がいたのだ。

 

「ちーちゃんちーちゃん!なーくんの機体の説明、聞かなくてもいいのかな?」

 

「……綾崎のだけではなく、篠ノ之の説明も聞かせろ。なんならこの場で軽く実演してみても構わん。」

 

「さっすがちーちゃん!分かってるぅ♪

ささっ!そういうことだから2人とも乗った乗ったぁ!!」

 

「せ、急かすな姉さん!」

 

「あわわ……!」

 

……しかし、彼等の……いや、奈桜の苦難がこれからだということを千冬はまだ知らない。




箒の紅椿のスペックは本編と変わらないです。
箒のスペックが変わってるので色々と違いますが……

命涙のスペックはまだ次回でした。

次の日常パートについて(1)

  • 一夏+αと買い物デート
  • 箒と負けない花嫁修行
  • セシリアと優雅にティータイム
  • マドカとドキドキお泊り会
  • 千冬の奮闘恩返し

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。