最近はほんわか気味でしたが、ここからは私のターンです。
「ナターシャ・ファイルス」
「……?どうしたの束?貴女が私の名前を呼ぶなんて珍しいじゃない。」
薄暗く散らかった研究室。
米軍からの指示と新亡国企業の要望(強制)を頭を痛めながらもまとめているナターシャに珍しく束が話しかけた。
ナターシャ・ファイルスはアメリカと新亡国企業の繋ぎ役だった。
あらゆる国家のあらゆる界隈の重鎮達によって構成されていた旧亡国企業。欲に導かれるがままに世界を裏から操っていた彼等ではあったが、その影響力は無視する事ができず、 彼等の持つあらゆるコネや権力を頼りにしている国も多かった。
しかしそんな権力者達の溜まり場とも言える、ある意味で世界で最も安全である場所が、ある日突如として消え去ったのだ。
その時の各国上層部の混乱と言ったら無いだろう。
そうして新たに新生された新亡国企業。
以前のモノとはまた違った意味で錚々たる面子で構成された、完全無欠の少数精鋭。
例え国々が纏めて襲い掛かったとしても敵わないであろう化け物集団に対し、出来る事と言えば表向きだけでも対等な条件の取引を持ちかけることくらい。
ナターシャ・ファイルスはその取引の結果として生まれた、窓口となった母国アメリカと新生亡国企業の仲介役なのだ。
少しばかり亡国企業側の人間に気を許し過ぎてはいるが、それでもやはり本来の立場はあちら側。
基本的に新生亡国企業の目的と信念に共感を示しているが、根本的に立場が違う以上は束が完全に心を許すはずがない。
それ故に、こうして同じ部屋に居ることはあっても必要でない以上は話さない、名前も呼ばない、それがこれまでの普通だった。
それならばどうして今日、突然普通ではなくなったのか。
ナターシャはそれが気になった。
「2週間後の作戦のことだよ」
「……ああ、貴方達と私達の合同作戦のこと?多少強引な手を使ったけど、問題なく進んでるわよ。あとは私の可愛いあの子の調整くらいかしらね」
「うん。その子の調整さ、束さんがしといたから。調整前よりスペック上がってるけど別にいいよね?」
「……え?」
寝耳に水とはこのことかとナターシャは驚愕する。
そもそも束は取引としてISに関する知識を多少はこちらに流したが、それでもこれまで直接機体を提供したり手を加えたりすることはなかった。
それは彼女がもちろん忙しいということもあるだろうが、彼女の信念としてISに関する技術進歩については多少のヒントは与えても極力手助けはしないというものがあるからだ。
それが自分に近しい化け物を見つけるためなのか、はたまた困惑し驚愕する者達を嘲笑うためなのかは分からないが、それでもそういった理由で束は一切といって良いほど直接使えるような技術知識を与えたり、機体に触れたりすることはなかった。
「……一体どういう風の吹き回し?私とあの子じゃ次の作戦には物足りないということかしら」
「それもあるよ。確かに君達の広域殲滅力は他の追随を許さない凄まじいものだけど、それだけで圧倒できるほどアレは甘くないからね。」
「……確かにあの子は展開装甲すら存在しない第3世代。オータムやマドカの持つ第5世代『限核兵装』なんて勿論無いわ。けど、今回は学園の生徒や教師、米軍の支援もあるのよ?そこまで警戒するほどかしら。マドカなんて他の地点を1人で抑え込むんでしょう?」
「……まあねぇ。」
そんなことなど分かっているとばかりに溜息をつく束。やはりいつもとは様子の異なるそんな束を見て、思わずナターシャは仕事を放り出して束がもたれかかる椅子を上から覗き込んだ。
「あの篠ノ之束さんが何か心配ごとでもあるのかしら?」
「……ま、そんなところだよ。」
「あら素直。もしかしてそれは学園の生徒に関連したこと?」
「君も会ったでしょ?なーくんと」
「ああ、あの可愛い子ね。あの子がどうかしたの?」
「いやぁ、なんていうかさぁ……」
口から取り出した棒付き飴でモニターを指し、彼女にしてはやはり珍しく難しい顔をして内心に秘めていた懸念を言葉にした。
「なーくんってばさぁ、なーんかあいつ等に狙われてるっぽいんだよねぇ……」
束が指すモニターには宇宙で数十もの何かを相手に対峙する一機のISが映し出されていた。
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「ナターシャさん!?どうしてここに!?」
突然攻撃を仕掛けてきたと思われた銀の福音は次の瞬間、迎撃を試みようとしていた奈桜に向かって抱き着いた。
そしてフルフェイスから現れた操縦者こそ、以前マドカとの別れた際に学園にまで奈桜を送り届けた人物。
ナターシャ・ファイルスであった。
「んふふ、相変わらず可愛い顔してるわね♪あら、前にあった時より血色がよくなったかしら?」
「い、いえ、あの……ぼ、暴走してたんじゃないんですか?」
「ああ、それは軍と貴方達を引っ張り出す為の表向きの理由よ。束が敵に回りでもしない限り、私とこの子が暴走なんてするはずないじゃない♪」
「え、えぇ……?」
奈桜は困惑するが、それは周囲も同様である。そもそも彼等はナターシャを知らないのだから、余計に訳がわからない。
奈桜の知り合いというのだから多少は大丈夫だろうが、それでも奈桜自身がとんでもないお人好しなのだから、そういう意味では完全に信用できるわけもない。
ラウラは小隊のリーダーとして声をかける。
「綾崎。そいつは一体誰なのだ?」
「えっと……ナターシャ・ファイルスさんです。アメリカ所属の方で、私が前に攫われた時に学園まで送り届けてくださった方です。」
「な、そいつが例の……!?」
その言葉にラウラがナターシャの方に目を向ければ彼女は笑顔でピースサインをこちらに送る。
そもそもあの誘拐事件とて彼等の中では意味の分からない事件なのだ。
何かを知っているであろう千冬や奈桜は詳しいことは教えてくれないし、敵機体の性能の高さから犯人に篠ノ之束が関係しているかと思えば何故か今日、篠ノ之束と綾崎奈桜はとても仲良さげにしていた。
いくら奈桜がお人好しとは言え、まさか自分を殺しかけた相手と親密になれる筈もないだろうし、ラウラ達の中ではとりあえずあの蜘蛛型ISの操縦者は篠ノ之束とは無関係な危険人物とされている。
そして、そんな恐ろしい相手から奈桜を取り返して学園に送り届けたというのが米軍であり、その中心にいたのが奈桜を送り届けた1人の女性IS使いだと聞いた。
だとすれば彼女も相当な実力者……ラウラ達は彼女を見る目を変えた。
「……1つ伺いたい。もし貴女の言うことを信じるならば、暴走した銀の福音を迎撃するという任務は、所謂カバーストーリーということで良いのだろうか?」
「ええ、そうよ。全てはある事実を隠蔽しながらも、その対処を行うため。アメリカと日本、そしてIS学園と束達の間で作られた架空の任務。私と貴女達はその主役ってところかしら?」
「なぜそれを私達に事前に知らせなかった? そうすればもう少しそれに応じた準備ができていた筈だ。」
「1つは、情報の流出の可能性を可能な限り減らしたかったからね。この件に関しては各国のIS研究なんかとは比べ物にならない最高機密の話。いくら代表候補生も居るとは言え、経験の少ない子供である貴女達はその辺りはまだ信用されていないのね。」
「私にはお前達がその子供に頼らざるを得ないような状況に居る様に見えるのだがな」
「ふふ、それはそうね。だから私からはちゃんと謝罪させてもらうわ、ごめんなさい。
……けど、まあ2つ目の理由として、どうせ準備なんか必要無いっていう理由もあるのよ。どうせやる事は対象の殲滅なのだから変わらないのだもの。」
「なに……?」
ナターシャのそんな言葉に訝しげな表情になるラウラ。
相変わらずニコニコとして彼女に対して話を聞き出そうとすると、そこである小さな異変が起きた。
「っ!?」
「……?どうしたの?奈桜」
まだ話の最中であるにも関わらず、突然バッと引き寄せられるように空を見上げた奈桜。
レーダーに特に反応はない、目視しても何も見えない。にも関わらず、奈桜は一瞬も迷う事なくある一点を見上げて睨みつける。
意味が分からず首をかしげるラウラだが、対してナターシャは何かを探るような目付きで奈桜を見ていた。
……そして、突然割り込んできた束からの通信がその静寂を打ち破る。
『ナターシャ・ファイルス!5分後に来るよ!場所は寸分違わずその位置でドンピシャ!』
「あら……やっぱりそういうことなのかしら。予め包囲網の中央付近まで移動しておいて正解だったわね。」
恐らく包囲網というのはIS学園の教師陣と米軍によって構成されたものの事だろう。だが、そもそも話の内容が全く掴めない。
相変わらず奈桜は何の反応も示す事なく空を見上げているし、そろそろラウラのフラストレーションは溜まりかけていた。
「……っ、だからお前達は何の話をしているのだ。」
「ふふ、そんなに難しい話じゃないわ。私達が倒すべき敵が来たというだけよ。」
「だからそれが一体どこに居ると……っ!!これは!?」
「そういえば前にオータムと一緒に撃ち落としたのは他でもない貴女だったかしら。それなら分かるでしょう?なにせ、高性能のレーダーならそろそろあの独特な波長を捉えられる距離なのだから。」
導かれるようにラウラとセシリアが空を見上げる。見上げた方角は正に寸分違わず奈桜の視線と同じ場所……
ISの高性能なセンサーでは既にそれをハッキリと捉えることが出来ていた。
真っ赤に燃え盛りながらも少しもその体積を減らす事なく一直線にこちらへと落下してくる銀色の7つの飛来物……ナターシャの言う通り、ラウラとセシリアにとってはその存在は記憶に新しい。
「誰よりも自由で、誰よりも利己的な災害とまで評された篠ノ之束が、こうして他者に助けを求めてまで何かを成そうとしている。
この地球上で最もチカラを持っているはずの彼女がそこまでするなんて、一体相手がどんな敵ならあり得ると思うかしら?」
ナターシャのその言葉は千冬と箒に対して特に強く響いた。
どんな我儘であろうと、どんな願望だろうと、自身の力だけで成し遂げる事ができるほどのチカラを手に入れた彼女がそこまでするほどの理由。
最高である篠ノ之束が、最強である織斑千冬と手を組んででも対抗しなければならないという敵……
人間同士の争いなどに彼女が手を出すはずがない。
災害や病などを治めようと思うほど正義感に溢れた人間でもない。
だとすれば……
「束、まさかお前が戦っている相手というのは……」
「……そうだよ、ちーちゃん。
私の目線はもう地球(ここ)にはなくてさ、あの日からずーっと宙ばかり見てたんだよね。
そんな時にだよ。
私、見つけちゃったんだよね。」
問い詰める千冬に対して、束は何かを思い出す様に目を閉じて呟く。しかしその額には少しの冷汗が流れ出ており、その深刻さが伺えた。
「ちーちゃん、知ってる?
地球外生命体って居るんだよ、ちなみに私が第一発見者ね。」
「……で、その地球外生命体は侵略者でもあったということか。」
「そんな言葉じゃ生温いよ。あれは侵略者って言うより、捕食者だね。言葉なんて通じないし、容赦も油断もない。ただ目の前のものを食べるだけ。そして何より一番厄介なのが……」
「私1人じゃ絶対に勝てないってところかな☆」
満面の笑みでそう言う束だが、付き合いの長い千冬にはそれが開き直った時の彼女の表情である事が分かってしまい、なんとも言えなくなってしまった。
他の小説を読んだり、アーキタイプブレイカーのシナリオ買ってたり、絵を描き描きしてたら更新が遅れてしまいました……
地球外生命体だと私はエボルトが好きです。
次の日常パートについて(1)
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一夏+αと買い物デート
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箒と負けない花嫁修行
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セシリアと優雅にティータイム
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マドカとドキドキお泊り会
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千冬の奮闘恩返し