「あなた、少しよろしくて?」
「……んえ?」
内心で決意を固めていた俺の元に、鮮やかな金髪縦ロールの少女が近付き、声をかけてきた。
突然話しかけられ呆けた声を出してしまった俺に対して、金髪の少女は問答無用と高飛車に言葉をぶつけてくる。
「まあ!?なんですの、そのお返事!わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくて?それともそんな常識すら分からないほど無知なのかしら?」
「お、おお……?」
唖然とする。
落差が激し過ぎたのだ、お淑やかな黒髪少女から気性の激しそうな金髪少女という移り変わりは。
10秒前までの時間が天国に思える。
「えっと……綾崎さん?誰なんだこの子?」
「もう、本人の前で失礼ですよ、織斑くん。彼女はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんです。」
「代表、候補生……?」
「イギリスのIS操縦者の代表者、その候補に選ばれている方のことです。オルコットさんは特に、イギリスにおけるIS関連の発表に何度も出席している有名なお方なんですよ。」
「そう!そして本学年の入試でももちろん首席!エリート中のエリートなのですわ!残念ながら貴方はそんな私のことすら知らない様ですが……流石は極東の雄猿、底が知れますわね。わたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくすることだけでも奇跡なのですから、その幸福を噛み締めなさいな。……まあ?例えあなたの様な雄猿でも?頭を下げて頼み込むのであれば教えを施すのもやぶさかではないのですが?わたくしは貴族ですし。」
俺の疑問に対し一瞬鬼のような形相を浮かべた彼女だったが、直後の綾崎さんの解説に気を良くしたのか胸を張って聞いてもいないことをペラペラとまくし立てる。
ノリノリである。
鼻高々に考えるより先に口が動いているという感じだ。
まるでテストで満点を取った時の小学生のように、嬉しげに、誇らしげに。
それでもここまで言われては黙っていられない。
彼女の発言にムッとした俺は何か反論をしようと立ち上がるが、直後にそれを遮るようにして綾崎さんが前へと歩み出た。
もし彼女が俺の代わりに反論してくれようとしているのならそれは確かに嬉しいが、男が女に庇われるというのはよろしくない。
どう伝えようかと悩んでいた俺だったが、直ぐにその考えが自意識過剰であったと気付かされることとなった。
「ふふ、オルコットさんは凄い方なのですね。IS学園の主席ともなれば、並みの努力だけでは掴み取ることはできませんから。さぞ血の滲むような努力をされたのでしょう。」
「……へ?」
「?」
素っ頓狂な声を出したのは俺……ではなく、オルコットの方だった。
自分から自慢しておいて褒められたら困惑する、そんな彼女の様子に俺は怒りも忘れて首を傾げるが、こちらへ目線を向けてウインクをした綾崎さんに口に出すのを止められる。
……というよりは彼女のウインクの破壊力に押されて目を背けざるを得なかった。
だってあんなの……卑怯だろ……
頰をかいて目を背ける俺を他所に会話は続く。
「そ、そんなことはありませんのよ……?その、代表候補生でもある私にかかれば首席程度……ゆ、唯一試験官を倒したことだって?その、簡単にできると言いますか、当然のことと言いますか……」
「それこそそんなことはありません。ISに関する知識はまだまだ乏しい私ですが、代表候補生になるだけでも大変な競争だと聞きます。加えて候補生になっても驕ることなく努力を続け、こうして首席を取るに至ったのです。なかなか出来ることではありません、本当に頑張ったのですね。」
綾崎さんはそう言ってオルコットさんの手を両手で包み込み、目線を合わせるようにして彼女の瞳を覗き込んだ。
「あ、う……アヤサキ、さん……?」
「大丈夫ですよセシリアさん、私は貴方の頑張りを肯定します。貴方が誰よりも頑張って掴み取った貴方の居場所を、素晴らしいものだと讃えます。ですので、貴方自身もご自分を大切になさってください。貴女が彼に抱く感情は、きっと口にすれば貴女の孤立を招きます。私はこれからも貴方に頑張っていて欲しいのです。」
「あ、あぅ……で、ですが、私はそこの男のことが……」
「実は私の妹がオルコットさんのファンなんです。私も妹と一緒にテレビ越しでオルコットさんのことを見ていましたが、本当に美しい笑顔をする方だと思いました。私は、そんな貴女の笑顔が見られない生活なんて辛いですよ?」
「う、ぐぅ、そ、その言い方は卑怯です……!わ、わかりました、わかりましたから。今日は引きますので、そろそろ手を離していただけますか……?せ、席に戻りますので……!」
「ええ。オルコットさん、これから1年間、仲良くしてくださいね?」
「こ、こちらこそですわ!そ、それでは……ししし失礼いたしました……!」
顔を真っ赤にしながら小走りで席に戻るオルコット、一連の流れを見ていた俺は訳が分からず混乱していた。
一方で綾崎さんは今もニコニコと席に戻って突っ伏してしまったオルコットを見守っている。
「な、なあ綾崎さん?今のって一体……」
意を決して話しかけた俺に対し、綾崎さんは一瞬だけ考え込み、笑って答えた。
「セシリアさんの様子が初めて会ったばかりの頃の弟の1人と重なりまして、その時の経験を生かしたまでです。」
「……?綾崎さんは兄弟が多いのか?」
「いえ、血は繋がっていませんよ?それでもみんな、私の大事な家族ですけど。」
そう言って微笑ましいものを思い出しているのか、優しい目をしている彼女に俺はもう何も言う事が出来なかった。
ただ、この人が見た目だけの人じゃないということだけは確かに分かった。
……そういえば、俺も教官倒したけど言わない方がいいよな?
顔が良いから出来る事だと思います。