IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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2話連続投稿です。
前に5分前に投稿したものがあるので、そちらからお願いします。


70.楽しく危うい臨海学校編 - 絶望 -

 

 

 

「チィッ!!シャルロット!私がAICで抑える!その隙にシールドピアーズで潰せ!」

 

「了解!でも気をつけて!一筋縄ではいかないよ!」

 

「分かっている!」

 

剣で形成された翼の様な武装を持つ相手に対し、ラウラとシャルロットはそれなりのチームワークで立ち回ってはいたものの、当然のように苦戦を強いられていた。

 

超高速でヒット&アウェイを繰り返し、死界に潜り込む様にして翼や細い槍の様な両手を抉り込んでくる相手は、他のものより一回り小さい。

カウンターを狙おうとしても驚異的な反応速度と軌道制御によって逆にカウンターを叩き込まれる始末である。

 

更にバリアを中和するという話は本当の様で、一度だけ腹部に攻撃をまともに食らったラウラは痛みを伴う強い衝撃をその身に感じた。

流石にシャルロットが取り出した重厚なシールドは特に問題はなかったが、バリアが通用しないというのは思いのほか軍人ではないシャルロットにとって精神的なダメージを与えていた。その分厚いシールドが一撃防ぐたびに大きな傷を付けられていることを認識してしまえば、更に恐怖が増すのは当然の話だ。

 

「くっ!早過ぎる!!」

 

「しかも硬い……!攻撃力も尋常じゃない!銃弾程度じゃ動きを止められないよ!」

 

「やはり有効武器はAICくらいしかない……だが早過ぎて集中が……ぐぁっ!」

 

「ラウラ!……このままじゃジリ貧だ、どうすれば……!」

 

背後から再びまともに攻撃を受けてしまったラウラは苦痛に顔を歪めながらも頭を回す。

 

AICの使用には相当な集中力が必要であり、咄嗟の使用には片手を前に出すというルーティンが今のラウラではどうしても必要になる。

元々の動体視力がそこまで良い訳ではない2人にとっては(それでも一般人よりは良い)、攻撃を防ぐのが精一杯だ。

ただしシャルロットの言う通り、その小柄に似合わず攻撃力も高い為、エネルギーはガリガリと削られていく。中和されている部分も増え始め、ISだけでなく自分達にもそのうちダメージが周ることは明白。

 

焦りと恐怖はシャルロットの頭から次第に冷静さを失わせていく。

 

「ラウラ!!」

 

「っ、シャルロット!時間を稼ぐぞ!私達ではこいつは倒せない!他のペアが合流するまではなんとしてでも踏み止まれ!!」

 

「で、でも……!」

 

「余計な事を考えるな!!今はなるべく長く生き残る事だけを考えろ!!」

 

「う、うん……!」

 

そんなシャルロットの変化に気付いていたラウラは、シャルロットから思考の余地を奪う。余計なことを考えさせることなく、ただ1つのことだけに集中させるように。

 

……だが、実際に不味いのはラウラの方である。

竦んでしまったシャルロットに代わり何度か無茶をしたせいでバリアの中和はかなり進んでしまい、捕らえようと広げたワイヤーブレードは全て引き裂かれた。レールカノンなど全く役に立たなければ、両手のプラズマ手刀も度重なる防御によって限界寸前だ。

防御装備などAIC以外に持っていない彼女にとって、これ以上の戦闘は最早危険であった。

 

それでも彼女は逃げ出さない。

この場にリーダーとして立っている限りは。

他の全員が撤退するまでは逃げ出すことは許されない。

 

……例え先の一撃によって背部から流れ出る夥しい血量によって危険アラートが鳴り始めていようとも。

それが逃げる理由にはなり得ない。

シャルロットが取り乱すことのない様に、この事実を晒すことはあり得ない。

 

 

 

 

 

「セシリア!」「鈴さん!」

 

『フルバースト!!』

 

6機のビットと大型ライフル、そして4機の衝撃砲による一点集中の全力砲撃。実弾、レーザー、衝撃の3種類の攻撃がたった一体の敵に向けて凄まじい精度と共に撃ち込まれる。

対象が立っていた海面は様々な種類の連続する爆発によって視認するのも不可能な有様であるが、それでも容赦のない攻撃は続く。

普通の機体ならば一片も残ることなく確実に木っ端微塵になる規模のものだ。

 

 

 

しかし、

 

 

「……冗談、ですわよね?」

 

「無傷って……流石に笑えないわよ、これ。」

 

水飛沫と水蒸気が晴れた空間に、他のものと比べて比較的防御的な容姿をした機体が、爆撃前と変わらない姿でそこに立っていた。

まるで何事も無かったかのように、ジッと2人の方を目の無い顔を向けて。

 

「あれは所謂、防御特化型ということでしょうか。」

 

「まあ、見た目的にはそれっぽいわよね。それにしても無傷は行き過ぎだと思うけど。」

 

「……作戦は?」

 

「直接攻撃が効かない以上、搦め手しか無いでしょ。私達はあんまり得意じゃないけど。」

 

「もしかしたら装甲の薄い部分や弱点があるかもしれません。最悪の場合、他のペアと分担を交代することも考えた方がいいですわね。」

 

「まあ、相性はかなり悪いわよね。待機してた場所で目の前に現れたから流れで相手してるけど、アレを突破できる気がしないわ。まあスピードは無さそうだから、多少は放っておいても問題は無いとは思うけど……」

 

その巨体と全く動きの無い様子からそういった思考に辿り着くのは当然の話だった。

防御型は鎧や装甲によってスピードが遅くなるものだ、それはISですらも同様であり、ISに慣れ親しんだ代表候補生である2人が特にそう思い込んでしまったのは仕方ない。

……もちろん、今回ばかりはそんな思い込みが2人にとっては命取りであったのだが。

 

「っ!?セシリア!!」

 

「なっ!?ぐぅっ……!」

 

突如として水面から飛び上がった敵機は、白式の瞬時加速を思い起こす様な速度でセシリアに迫った。

セシリアはそれに対して辛うじて反応してビットで迎撃したものの、フルバーストを無傷で耐えた相手にその程度の攻撃では軌道をズラす事すら叶わない。

鈴ですら生来の反射神経があっても、油断していたせいもあって割り込むことはできなかったため、むしろよく迎撃したというレベルの話だ。

 

「あ"っ……がっ……」

 

「セシリア!!このっ、離しなさいよ!!」

 

セシリアの首を掴んだそれは万力のような怪力で彼女の首を絞め上げる。

バリアはまだ働いているが徐々に中和されており、そもそもこういった攻撃に対してISのバリアは殆ど意味を成さないという欠点が存在している。

 

セシリアも必死に腕を引き離そうとするが、首ごと圧し折ろうかと言うほどの圧倒的な力に対し、徐々に身体から力が抜けていく。

 

鈴は必死になって青龍刀を振るうが、やはり敵機は微動だにしない。

そうこうしている間にもブルー・ティアーズが様々なアラートを全力で出し続け、生命維持装置をフル稼働させているにも関わらず、セシリアの目は虚ろになっていく。

 

その身体のどこに叩き込んでもダメージはない。

弱点などない。

装甲の薄い部分などない。

身体から突き出ている槍のような細い部分ですら折ることができない。

 

このままでは本当にセシリアが死んでしまう。

 

鈴は必死になって攻撃を続けた。

周囲に向かって助けも求めた。

だが、なんの変化も起こらない。

それも当然、周囲のペアもこの場と同じかそれ以上に絶望的な状態になっているのだから。

 

「……っ、こうなったら!!」

 

最早どうしようもないと悟った鈴は青龍刀をしまい込み、無防備にセシリアの真横、敵機の目の前に立ち尽くした。

そんな訳の分からない行動に顔のない頭を鈴の方に向けた敵機は、当然のようにセシリアから片手を離して鈴の首へと向ける。

 

そしてその瞬間……

 

「せやぁぁぁ!!!」

 

セシリアに飛びついた鈴は強引に片手からセシリアを奪い返し、海の中へと叩き込む。同時に今度は鈴の首に両手をかけられるが、彼女の目的は達成された。

 

気絶したセシリアでは水中で身動きは取れないだろうが、それでもあの場で首を折られたり気管を締め上げられたままでいるよりはISの生態維持装置も働く筈だ。確実に先程よりはマシであるだろうし、生き残る可能性だって高くなる。

 

自分の油断によって引き起こしたことなのだから、自分で責任を取るのは当たり前だと鈴は思った。

 

「がっ……ぁ……」

 

しかし今度は甲龍からアラートが鳴り始める。

視界が真っ赤に染まっていく。

ミシミシと首元から身体を通して音が聞こえてくる。

全身から力が抜けて、両手がダラリと無抵抗に垂れてしまう。

 

(……せし、りあ……いち、か……!まま……!)

 

着実に近づいて来る死を前にして、頭の中に過ぎったのは今や大切になりすぎた人達の笑顔だった。

 

 

 

 

 

「うっ、ぐっ……しまっ!」

「一夏ァ!!」

 

凄まじい複数の剣撃音と共に一夏は箒に連れられて後方へと下げられる。

 

敵は異様な格好をしていた。

10本もの巨大な鎌を持った長い腕を生やしており、本体の方の両手は剣の様な形をしている。

 

近接戦闘を挑めば12本もの手数を相手にしなければならず、そもそも意識や視界という概念があるのか無いのか、例え箒と一夏が正面と背後から同時に攻め立てようとも平然と両方に対応してくる。

速度、攻撃力、防御力と全体的に高い位置でバランスが取れているため、一夏では簡単に落とされてしまうし、箒でさえも規則性や癖の全く無い12本もの手数を相手取るのは難しい。

戦況は圧倒的に敵に傾いていた。

 

「くっそ!こんな時に遠距離武装があれば……!」

 

「一応背後から斬撃を飛ばしてみたが、案の定簡単に避けられたな。あれではマルチタスクどころの話ではないぞ。」

 

「むしろ俺が斬られそうになったしな。……箒なら懐に入って切り捨てたりできないのか?ほら、スピード型の展開装甲で入って、攻撃型の展開装甲で斬る、みたいな。」

 

「それをするには私の熟練度が足りない。装甲切替は出来ても最高スペックの攻撃力が出せないだろう。今のままではダメージを与えた所で直後に串刺しにされるのが関の山だろうな。」

 

「あーくそっ、あれが相手だとマジで俺なんの役にも立てないんだよなぁ……」

 

その言葉通り、一夏は戦闘が始まってからなんの役にも立ててはいなかった。

箒の助けになろうと何度も隙をつけないか、囮になれないかと努力したが、その全てが箒の足を引っ張るという結果で終わっている。

 

零落白夜が通用するかどうか以前に、そもそもそこまで近付けさせてすら貰えないのだから議論にすら上がらない。

 

「……仕方ない。一夏、他のペアの助けに行け、ここは私1人でやる。」

 

「なっ、大丈夫なのかよ箒!」

 

「お前がさっさと周りを片付けて援軍を連れてこれば済む話だ。私の事を心配するのならば、早めにそうしてくれると助かるのだがな。」

 

「……わかった。死ぬなよ!箒!」

 

「ふっ、こんな所で死ぬつもりなど毛頭無い!」

 

いくら敵のスペックが高かろうとも、紅椿は第4世代の完成形だ。装甲を切り替えればどの分野でも相手の基礎能力を上回ることができる。

 

「自分より少し弱い相手を12人相手にしていると考えれば……頭の痛くなる話だな。」

 

量より質、質より量などという話はあるが、質もあって量もある相手に単独で勝てるはずもない。むしろウネウネと動き回る複数の大鎌の位置を全て把握して立ち回っている箒が異常なのだ。

 

「っ、来るか……!」

 

背後のラウラとシャルロットのペアを助けに向かうために走り出した一夏を守る様にして箒は襲い掛かる敵に立ち向かう。

10もの大鎌が次々と振り下ろされるが、箒はその全てを両手に持った二本の剣で弾き、捌き、徐々に本体へと近づいて行く。

 

いくら敵の手数があろうとも、どれほど柔軟に武器を動かそうとも、形が人の腕と大鎌という武器であるならば必ず攻撃が不可能な空間が存在する。

箒は防御型の展開装甲でその空間を見極めながら着実に堅実に敵の懐へと潜り込む。

 

(いまだっ!篠ノ之流剣術・舞葉……!)

 

意外にもあっさりと全ての大鎌を潜り抜け、あれほど猛烈であった敵からの攻撃が止んだ一瞬を突いて、箒は攻撃型の展開装甲に切り替える。

必ずこの一撃で仕留めるために、全身全霊をもってこの一振りを決めるために。

 

勝利を確信して全エネルギーを集中させた刀を解き放とうとした。

 

 

 

 

……しかし、

 

 

 

 

『……ほう、き……』

 

 

「っ!!」

 

 

今は聞こえるはずのない一夏の声が聞こえた。

ラウラとシャルロットを助けに向かったはずの彼が、何故か助けを求める様な声を自分に向けて投げかけている。

箒の攻撃の手が止まったのは仕方のないことだった。

 

導かれる様にしてレーダーを見れば、一夏の反応は何故か先程別れた位置とあまり変わらない所にあった。

そして、今やその反応は非常に微弱で、その場所からこれっぽっちも動いていない。

何かがあったことは明白だった。

 

「いち……か……?」

 

恐る恐ると背後を振り向く。

見てしまえば、認識してしまえば、自分が冷静さを保っていられないだろうということは分かっている筈なのに、それでも箒は振り返る。

目の前の敵のことなど忘れて、トドメを刺すことすらも忘れて、戦闘員としてではなく、ただの1人の少女のように無防備に……

 

『ほう、き……に、にげ……』

 

「……ぁ……」

 

振り向いた視線の先には、胸部、頭部、腕部、脚部、その全てに恐ろしい裂傷を負い、全身の大半を赤色で染め上げている一夏の姿があった。

特に白式の装甲に覆われている腹部からはあの忌々しい大鎌の先端が突き出ており、何が原因となってこうなってしまったのかは明らかで……

 

「投げて、いたのか……?私を迎撃するフリをして、本命は私ではなく……」

 

一夏は完全に箒を信用して背中を向けていた。

まさかその背中から攻撃されるなど考えもしなかった筈だ。

箒でさえも、いくら敵がマルチタスクに優れるからと言って戦線を離脱した一夏にこれほどまで強引に、しかし狡猾に攻撃を向けるとは思いもしていなかった。

 

『ぐぁっ……!!』

 

「一夏!!」

 

腹部に突き刺さっていた大鎌が1人でに動き出し、一夏を海面へと投げ捨てて敵機の腕へと戻っていく。投げ捨てられていた他の数本もまた吸い寄せられるかのように水中から舞い戻ってきた。

 

対して投げ捨てられた一夏はというと、白式が自然に解除されてしまい、完全に脱力した状態となって海中へと沈んでいく。

箒は戦闘など忘れて無我夢中で一夏を追う。

 

(一夏……一夏……!!)

 

飛び込んだ水中で意識を失った一夏を見つけて抱き寄せると、直ぐに水面から顔を出す。

しかしそんな2人を出迎えたのは呆れるほどに見たあの10本の大鎌……

 

「……くっ!ぅあっ!」

 

一夏という荷物を抱え、庇いながらその全てを防ぎきる事など、いくら箒であっても不可能だった。

覆う装甲ごと切り裂き、腕に深い傷を負い、それでもと距離を取ろうとするが敵機は執念深く追いかけてくる。

 

確かに紅椿のスペックならば、最高速を出せば簡単に振り切ることはできるだろう。

だがそんな速度を出してしまえば、ISを纏っていない上に重傷である一夏に致命的な負担をかけてしまう。

冷静さを完全に失った箒にとって、今は周りの助けを待つことしかできなかった。

 

「誰か……!誰かいないのか!!」

 

それでも、彼女の声は誰にも届かない。

届いたとしても、それを実行できるほど余裕のある人物が周りには居ないのだから……

 

 




代表候補生3人分とは……?

次の日常パートについて(1)

  • 一夏+αと買い物デート
  • 箒と負けない花嫁修行
  • セシリアと優雅にティータイム
  • マドカとドキドキお泊り会
  • 千冬の奮闘恩返し

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