完璧じゃない人間らしさあって好きだけど。
side奈桜
(オルコットさん、やっぱり勇樹と同じタイプだったかぁ……)
イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットさん。
妹の1人が(主に彼女の西洋人形のような美しい容姿に)注目していため、代わりに番組を録画したり、一緒にそれを見ていたりしていた。
そういった経緯から僕は彼女のことを普通の人よりかはよく知っていたのだが、やはり映像と実際では受ける印象は違うものである。
彼女の行動は側からみれば、高圧的で、自信家で、女尊男卑のこの世界でよく見られるような男性を見下した女性である。
確かに男性を見下していることに関してはフォローは出来ないが、それ以外の部分においてはなんとなく見覚えのある振る舞いをしていた。
それが今は孤児院にいる弟の1人、勇樹である。
彼は6歳の頃、実の両親に捨てられて僕の居た孤児院へとやってきた。その頃の彼は自身の学力を周りに自慢して回り、それこそ先程のオルコットさんの様に、「〜してやるから感謝しろよ」といった押し付けを繰り返していた。
当然、そんな彼を周囲は鬱陶しく思い、彼は日に日に孤立していったのだが……
しかしそんな尊大な言動の源となっていたのは至極単純で、とても子供らしいものだった。
要は彼は、褒められたかったのである。
もっと正しくいうのであれば、自分の努力が認められたい。そしてそんな自分を頼りにしてもらいたい。それだけだったのだ。
話を聞けば彼は捨てられる以前から両親との不和が続いていており、テストで良い点を取って褒められることで認めてもらおうとしていたという。
……しかしその努力は実らなかった。
多くの努力をし、結果を出したにも関わらず実を結ばない。それがどれだけ辛いことか、彼の場合は両親に捨てられたというマイナスの結果が残ってしまっただけに、認められたいという欲が歪な形で大きくなってしまったのだろう。
オルコットさんも同じ目をしていた。
誇らしげに自分の功績を語り、胸を張って誇示すれど、その瞳には認められないことへの恐れが少しだけ混じっていた。
歪み膨らんだ彼女の承認欲求は一体どういう過程で生まれたのか、僕にはそれは分からない。
けれど、そんな彼女の内心が分かる数少ない人間が自分ならば、僕は遠慮なく彼女に踏み込んで肯定したいと思った。
(ああいう子は素直になるとお節介焼きさんになるから。周囲と溝を作ってしまう前になんとかしてあげれば、きっと皆に好かれるはず。)
自分自身にも余裕がないはずなのに見て見ぬ振りができない、これが染み付いてしまったお姉(兄)ちゃん気質というものなのだろうか。
ただ、苦労はするが、実はそんな自分のことが嫌いではない。
(けど、彼女の男性嫌いだけは僕にはどうしようもならないかな……)
これに関しては自分ではなく、織斑一夏の方が適任なのではないか。なんとなくそう思ったので投げることにした。
大丈夫大丈夫、彼ならきっとなんやかんやしてくれる。
「信じてますからね、織斑くん。」
「え?なにを……?」
直後に教室に入ってきた千冬さんに流れる様に出席簿でしばかれた彼にとりあえず笑っておいた。
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「全員、席に着いているな。それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する。
……が、その前に、クラス代表者を決めねばならん。立候補する者、あるいは推薦する者は挙手をしろ。」
授業が始まると同時にそうまくし立てた千冬さんは目を細めて周囲を見渡した。
クラス代表者、要はクラス長である。生徒会の会議や委員会への出席などが主な仕事だ。
それと、来月行われるクラス対抗戦。
これは各クラス代表者たちがISで戦うというものだが、私達はまだ初心者だ。
それこそ代表候補生でもなければ誰がなっても変わりはしないだろう。
(僕は少し遠慮したいけど……)
そんなことを思っていると、
「はい、織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思います~」
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
「……へ?」
流れる様に織斑くんが指名された。
「お、俺!?え、なんで!?」
「織斑。席に着け、邪魔だ。……さて、他にはいないのか?いないなら無投票当選だ。」
「ちょっ、ちょっと待った!なんなんだ、一体何がどうなってるんだ!?」
「お前は推薦された。それは期待されているということだ。期待には応える義務がある、よってお前に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ。」
「そんな無茶苦茶な……」
「もちろん、選んだ側にも相応の責任が伴うがな。」
「「「え?」」」
「当然だろう、何のリスクもなく人に役目を押し付けられるとでも思っていたのか?」
この数秒の間に驚くべき速さで事が進んでいく。
恐らく彼女達は男性という珍しさだけで一夏くんを推薦したのだろうが、推薦することと押し付けることは別物である。
こういう場合は黙って座っているのが吉なのだ。
そう、今の僕の様に、黙って、静かに、冷静に……
「じゃ、じゃあ私は綾崎さんに推薦を変更します!綾崎さんなら上手くやってくれると思うし!」
「……へ?」
「わ、私も!」
「私は……織斑くんのままでいいかな……」
「どっちでもいい……いえ!2人のどちらかがいいと思います!!」
「え、えぇぇぇ……」
なんか飛び火した。
なんで?どうして?火種が近いから?
そんな僕を見て千冬さんの口角が微妙に持ち上がる。絶対この人僕の反応見て楽しんでるよ!!
だったらこっちにも手はある、どうせ推薦されたのだから、こっちが推薦したって構わないだろう。
実際、僕や一夏くんより適任な人がいるのだから。
「織斑先生、私はセシリア・オルコットさんを推薦するつもりなのですが……」
「!!」
私の言葉に反応する様に、後ろの方の席から机の揺れる音がした。
「ほう?その心は?」
「私も織斑くんもISに関してはまだまだ初心者です。成長を期待して、というのも分かりますが、それよりも代表候補生でもある彼女を据えてクラス全体のレベルUPを図るべきかと。実力も確かですし。」
「なるほど、上手い言い訳を考えたな。」
「織斑先生?ご冗談が過ぎます。」
フッと鼻で笑って再びクラスを見渡す千冬さん。
これは助かったのか?助かったのだろうか?僕はそう信じたい。
「オルコットはどう思う?綾崎はこう言っているが……」
なんでオルコットさんだけ承認制!?推薦された人は強制みたいなことを言ってたじゃないですかやだー!!
オルコットさんお願い!引き受けて!!実際僕はほんとは目立つべきじゃないの!
いや、乙女コーポレーションで女装が完成した瞬間に『……目立たないで生活するのは諦めた方が良いな。』って千冬さんに言われたけど!僕はまだ諦めてないの!!
ちらっとオルコットさんの方へと振り返って優しく微笑んでみる。
さっきとは違う打算120%の笑みだ。
そんな僕の行動を受けて、オルコットさんは顔を真っ赤にしながら俯き、言葉を紡ぎ出す。なんか可愛い。
「……その、お姉様が推して下さるのであれば、断る理由はございませんっ……!」
……ん?待って?今なんて言った?
「お、お姉様……?」
あ、一夏くん、君もやっぱりそう聞こえた?これ僕の気のせいじゃないよね?
「ほう?この短期間で随分と慕われるようになったな綾崎。初日から他国の代表候補生を誑かすとは、手の速さは織斑並みだな。」
「た、誑かすだなんてそんな……お姉様ったら……!」
「え?なんで俺引き合いに出されたの?」
「織斑先生、人聞きが悪過ぎます……」
加えて千冬さんからの追い打ち。
これはあれだ、後から根掘り葉掘り聞かれて思いっきり弄られるやつだ。今から頭が痛い。
そして追い打ちはそれだけではなく……
「まあ、あんなことされたらオルコットさんもああなるよね……」
「わかるっ……!私も『貴女の笑顔が見たい』とか言われてみたい……!」
「あんたらが叱られたいって言ってた意味、あたしもようやく分かったわ。」
やめて……やめて……!!(懇願
思い返したら凄い恥ずかしくなってきたじゃん!!あとその意味だけは一生分からないで欲しかった!これで7人目ですよ!
あー!あー!こーろーせーよー!!もいっそ、こーろーせーよーー!!
恥ずかし過ぎて顔も上げられないよぉ!!
「……さて、綾崎イジリはこの辺にして、代表者をどう決めるか。多数決でもいいんだが……オルコット、案はあるか?」
「ISで決めるのはどうでしょう?わたくしが有利な条件ではありますが、現状や将来性もハッキリしますし。……個人的にも戦いたい方がいらっしゃいますから。勿論、必要でしたらハンデを差し上げますわ。」
「……だそうだが織斑、お前はどう思う?」
「ハンデなんて要らねぇよ、ここでそんなの貰ったらオルコットに『男も捨てたもんじゃない』って証明できなくなる。これ以上情けない姿も見せられないからな。」
「口先だけならなんとでも言えますわ。」
「ふっ、そうか。ならば勝負は一週間後の月曜日、放課後の第3アリーナで行う。3名はそれぞれ出来うる限りの準備をしておけ、詳細は後日伝える。」
「さぁ!決闘ですわ!貴方のような無知で愚かな男、その無駄に図太いプライドごとへし折ってさしあげます!」
「やってみろ!絶対にお前を見返してやる!男を証明してやる!ここからは誰にも横入りさせねぇ!俺とお前だけの喧嘩だ!」
そうして始まった熱血的な決闘の契り。
きっとこれから2人は1週間後のその日に向けて血の滲むような努力を積み重ねるのだろう。
だからこそ言わせてもらいたい。
僕、要らないよね?むしろ邪魔だよね?ほんとに一夏くんとオルコットさんだけの喧嘩でいいよね?
いいえ先輩!実はこれ、私達の喧嘩なんです!(涙
この後めちゃくちゃ授業受けた。
まだお姉様……お姉様だからセーフ……