IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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箒ちゃんのスペックって普通に人外じゃない……?
そう思ったのでウチの箒ちゃんはそこそこ強いです。そこそこ。


9.変わらない幼馴染

side一夏

 

オルコットの数々の発言によるフラストレーションが爆発し決闘の約束を取り付けた後、俺は放課後まで一人居残って復習と予習を行なった。

……が、特に成果は得られなかった。

 

綾崎さんに勉強を教えてもらうという手もあったのだが、今回の決闘には彼女も入っている。

各々やるべきことがあるはずだと思ってやめておいたのだ。

 

……まあ、オルコットに『男を証明する』なんて言ったのに、その直後に女子の手を借りるというのも違うだろう。

 

その後は山田先生と千冬姉から寮の鍵と着替えを受け取り、部屋に入った瞬間に風呂上がりの箒を目撃してしまい、ボッコボコにされるという珍事が起きた。

偶然にも千冬姉が俺と箒が同部屋だということを発言せず、箒にそのことを伝えるはずだった山田先生がポンコツをやらかしてしまい、俺が部屋に入った時間帯が丁度箒の入浴時間だったというところにピタゴラスイッチ的な悪意を感じた。

 

そして現在、俺達は一連のやり取りで破壊してしまった部屋のドアについて報告を行うために寮長室までやってきていた。

 

箒も強くなったものである。

木製とはいえ、分厚いドアを木刀の突きだけで、さながらウエハース相手のように軽々と破壊するのだから。

ぶっちゃけ本気で死を覚悟した。

 

「……一夏、この寮の長が誰かは知っているか?」

 

「……もしかして、千冬姉?」

 

「大正解だ、そしてこれがつまりどういうことを意味しているかは言うまでもないな?」

 

「ああ、夕飯先に食ってくればよかった。」

 

「私は自炊するつもりは無かったのでな、小さめのキッチンはあっても材料がない。」

 

「そうか、今日は夕飯抜きか。」

 

「ああ。」

 

「「………」」

 

「……なあ箒、これ夕飯の後じゃ駄目なのか?」

 

「一夏よ、罪を犯した直後に自首するのと、罪が発覚した後に逮捕されるの、どちらが罰が重いと思う?」

 

「……前例は?」

 

「3日前、テレビ破壊隠蔽、グラウンド10周(50km)×5日間。」

 

「よし謝ろう。」

 

「ノックは任せた。」

 

コンコン

 

半ばヤケクソになりながら寮長室のドアをノックする。

夕飯抜きと5日間連続のフルマラソン、比べるまでもない。

鬼のような顔の千冬姉を幻視しながら待っていると、中からパタパタと誰かが走る音が聞こえてくる。

 

「……?千冬姉じゃないな。」

 

「ああ、あの人はこう慌ただしく走るタイプでは無い。」

 

ガチャリとドアが開く。

中から現れたのは……

 

「申し訳ありません、お待たせしてしまいました。……?どうかなさいましたか?お二人とも。」

 

登校初日にして既に1組の母と名高い綾崎奈桜さんだった。

 

「え?綾崎さん、だよな……?どうして寮長室に……?」

 

「どうして、と言われましても。私がここに住んでいるから、でしょうか……?」

 

「なに?綾崎は織斑先生と同部屋だったのか?」

 

「ええ、そうですよ。……あ、立ち話もなんですし、お二人とも入って下さい。丁度お夕飯を作っているのですが、よろしければご一緒にいかがですか?」

 

「え?いいのか?」

 

「もちろんです。篠ノ之さんも食べていきますよね?」

 

「あ、ああ……それと、私のことは箒でいい。名字で呼ばれるのは好きではないのでな。」

 

「分かりました、箒さん。ではこちらに。」

 

寮長室に住んでいるというだけでも驚きなのに、なんと彼女は自炊をしているらしい。

流れるように部屋へと案内された俺達は正方形の机に案内される。

キッチンからはカレーの良い香りが漂ってくるのが分かり、放課後にまで頭を使っていたせいか、活発な腹の虫がいつもより大きな主張を始めた。

 

「ふっ、夕食にありつけて良かったな、一夏。」

 

「うぐ、仕方ないだろ。あんな宣言しちまったんだ、結構気合い入れて取り組んでるんだよ……」

 

「そうか、それは喜ばしいことだ。

……だ、だがな一夏よ。お前はISに関する知識は殆ど無いのだから、少しくらい他人に頼ってもいいと思うのだ。たっ、例えばその、目の前にいる、幼馴染とか、な……?」

 

「……いいのか?箒」

 

「いいも悪いも。何を意地になっているかは知らないが、本気で挑むのなら誰にでも頼るべきだ。私だって、その、大切な幼馴染の願いなら叶えてやらないことはないというか……むしろ叶えてやりたいというか……」

 

「……サンキューな、箒。」

 

「……ふふっ、お前と私の仲だろう。今更そのような遠慮など不要だ。」

 

再開してからずっとしかめっ面をしていた箒の表情が、この時になってようやく緩んだ。

その表情が昔の彼女に重なって、やっと再会したという実感が湧いてくる。

そしてそんな俺の気持ちを、箒も察してくれたらしい。

 

「……むぅ、この厳つい表情はどうにも治らんのだ。ここ数年、こうして気を許せる相手が周りに居なかったというのも理由の1つなのだが。」

 

「重要人物保護プログラムだっけか。こうして俺がIS学園に来なければ、もしかしたら一生会えないなんてこともあり得たんだよな。そう考えるとIS動かせて良かったって思えるけど。」

 

「その代わり、今度は一夏が自由を奪われる羽目になったのだがな……。なんだったらこのまま2人で高飛びするか?本当の自由を求めて、なんてな。」

 

「はは、まるで映画だな。……けど、まあ、もし本当にどうしようもなくなったらそうするか。旅費は今までの迷惑料ってことで束さんにでも取立てよう。」

 

「くふふっ、それはいいな。今までの迷惑料に利息分まで含めて思いっきりふんだくってやらんといかん。むしろ簀巻きにして他国に引き渡した方がスッキリするかもしれん。」

 

「はは、その時は千冬姉に引き渡した方が良さそうだ。」

 

「違いないな。」

 

あることないこと空想して、笑い合う。

もう何年も会っていなかったのに、それでも互いの間に壁なんて無かった。

きっと昔のままなんてことはない、箒にだって色々とあったはずだし、変わったことだってあるだろう。

……けれど、

 

「……ああ、やはり一夏と話すのは楽しいな。いつもは思い出すだけでも嫌な姉さんの話ですらこうして笑えるとは。」

 

「そうか、そう言ってくれるなら俺も嬉しいよ。」

 

こうして見せる彼女の笑みは変わっていなかった。

ならば、それでいいのだ。

それだけでいいのだと、俺は思う。

 

「イチャイチャタイムはもうよろしいですか?」

 

「え?」「……あ!」

 

箒の様子を微笑ましく見ていると、そんな言葉と共に現実へと引き戻される。

そして、この部屋には自分達以外にももう1人の人物がいたのを思い出す。

 

「あー、いや、悪い綾崎さん、全部やらしちまって。皿並べるのくらい手伝うべきだった。」

 

「ふふ、構いませんよ。私もお二人のいじらしい様子をバッチリ楽しませてもらいましたから。良かったですね、箒さん♪」

 

「な、な、な!待て、綾崎!これは違うんだ!いや、違うことはないんだが私は別に……!」

 

「はいはい、今日のお二人の様子はしっかりと千冬さんと共有しますから、安心してください。」

 

「なんにも安心できねぇ!マジでやめてくれ!!」

 

ガチャリ

 

「いま帰っ……ん?なんだ、お前達も居たのか。」

 

「あ、千冬さん、お疲れ様です。それより聞いてくださいよ、織斑くんと箒ちゃんがですね?」

 

「ほうほう……」

 

「待て待て待て待て!それ以上はダメだ!」

「待て綾崎!それ以上は私の沽券に関わる!」

 

必死の説得も虚しく、結局全て千冬姉にバラされた俺達はめちゃくちゃ弄られた。

綾崎さん、意外と茶目っ気があるというか、ノリが良いというか……とりあえず、エプロン姿が似合ってたなぁ……と思っていたら箒に叩かれた。節操なしって何の話だ。解せぬ。

 




うーんこれはメインヒロイン……

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