このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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第一章
死後、天界にて


「ようこそ死後の世界へ。佐藤和真さん、あなたはつい先程、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたね。」

 

此処は何処だろうか?ふと気付いたら俺はその部屋に設けられた木製の椅子に座っていて、

そんな事をなんの前触れもなく告げられた。

 

「そして私は、貴方に新たな道を案内する女神です。」

 

そう言い、女神は微笑む。目の前にいる美少女は眼を見張る程、美しかった。

 

「あの、質問いいですか?」

 

「……どうぞ?」

 

「……俺…死んだんですね?…そのトラックに轢かれそうになっていた女の子はどうなりましたか?助けられましたか?」

 

意識がはっきりしていく中、最後の記憶を頼りに質問してみる。

 

「生きてはいますよ? しかし残念ながら、左足を骨折するという大怪我を負いましたが」

 

そっか、怪我をさせてしまったか。完全には守りきれなかったな。

 

でも、俺のような引き篭もりのゲームオタクでも、最後に善行を積めたと思えば悪くはないか。

 

と、そんな感傷に浸っている俺をおかしく思ったのか、美少女が可愛らしく小首を傾ける。

 

「まぁでも、貴方が何もしなければ、そんな大怪我を負う事もなかったんですけどね」

 

「…え?」

 

あれ?なんて言った?この子!?

 

 

「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんですよ。当たり前ですよね。

だってトラクターですもん。そんなにスピードも出てなかったし…

つまり、あなたは余計なことをしただけって事です。……プークスクス」

 

なんだ?こい、この子…いや…相手は女神だ。我慢だ我慢!!

 

「…!……というか、俺はトラクターに轢かれて死んだんですか!?」

 

「いいえ、違うわよ!貴方の死因はショック死よ!

貴方はトラックに轢かれたと勘違いしてそのショックで死んだのよ!!

私、案内人役を長くしているのだけど、こんな変な死に方した人は初めて見たわ!!」

 

目の前の女神らしき存在がひとしきり笑うと自分の椅子に戻り―――。

 

「…さて、仕事のストレス解消も出来たことだし、名乗りましょう!

―――改めまして、佐藤和真さん。私の名前はアクア。

日本において、若くして死んだ若者たちに新たな道を導く女神よ!」

 

こい、このアクアという子が女神だというのは間違いはないだろう。尤も敬意を払うつもりもないが……ここは大人しくしておく方がよさそうだ。

 

「さて、貴方には二つの選択肢があります。一つ目は、このまま天国に行くこと。

もう一つは、再び地球に赤ちゃんとして生まれ変わるか。どちらにしますか?」

 

「天国なんて本当にあるもんなんですね」

 

「天国っていっても貴方が想像しているような素晴らしい所ではないわよ。

肉体がないから食事も睡眠も必要ない。早い話、三大欲求は何も満たせない。

できることといえばそこで暮らしている人とまったりお喋りすることくらいね。」

 

「……成程。魂の墓場だなソレ。」

 

「まぁ、そうね。ちなみにそのまま地球で生まれ変わる場合は今の貴方の記憶は失われるわよ。」

 

「どっちも詰んでるじゃねーか・・・」

 

俺が絶望の声を上げると、当のアクアはニコニコと笑顔を浮かべた。

 

「うんうん、そうよねー天国なんて行きたくないわよね?かと言って、

すべてがゼロになる輪廻転生もいやよね!そこで!!ちょっといい話があるのよー!」

 

なんだ?物凄く胡散臭く感じるんだが…。

アクアは警戒する俺にニコニコしながら、話し始める。

 

「あなたゲームは好きよね?というかかなりのオタクよね!

そんな貴方に、今の記憶と肉体を引き継いでの異世界行きを提供できるといったらどう?

剣と魔法の世界よ?」

 

アクアの態度や言動が相変わらず胡散臭いが

 

「確かに魅力的な話ではあるんだけど。何かあるんじゃないのか?」

 

「…実はね?その世界、俗に言う魔王軍ってのがいてね。

連中相手にその世界の人族が随分と数を減らされちゃってピンチなのよね。

魔王軍に殺された人たちは、その世界での輪廻転生を嫌がって他の世界に逃げちゃうのよ。

このままではその世界が滅びちゃうから、それなら他の世界で死んじゃった人たちを、

そこに送り込んでしまえって話になってね?」

 

移民政策みたいなもんか…

 

「それでね、どうせ送るなら若くして死んだ人達を、

肉体と記憶を継がせて送ってあげようって事になったの。」

 

「いや、そんな世界に送られても、また死ぬだけじゃねーか。」

 

俺がそう言うと、アクアはフフンとドヤ顔をしながら―――

 

「そう、だから特典をつけてあげることになったのよ。

それは強力な固有スキルだったり、とんでもない才能だったり。

神器級の装備だったりね!……如何?これならお互いにメリットがある話でしょ?

貴方達転生者は特典と共に第二の人生を送ることが出来る。

その世界の人達は即戦力になる人がやってくると。悪くない話だと思わない?」

 

成程。チート貰って第二の人生か、確かに悪い話ではないな。しかしどうしたもんか。

 

「いくつか、聞きたいんですけど、言語とかどうなるんですか?喋れない読み書きできないでは…」

 

「その辺は問題ないわよ。神様の超パワーって奴で都合よく解決できるわ。勿論読み書きもできるし、向こうの貨幣も日本円で脳内換算されるわ、だから後は特典を選ぶだけよ!」

 

そう言ってアクアはカタログのようなものを渡してくる。

それに目を通すと、成程。どれも強力なチートばかりだな。

それにスキルに職業か。剣とか扱ってみたいが正直前に出れる度胸はないんだよな。

やはり魔法系がいいか…

俺が悩んでいると、どこから持ってきたのかアクアはスナック菓子を食いながら―――

 

「ねぇ、早くしてくれない?どうせ何選んでも一緒よ。

最初から引きニートのロリコンに期待してないから。

何でもいいから、早くしてくんないー?」

 

アクアの言動にイラつきながらも、カタログを読み込んでいく。

そして、これならという答えを見つける。

 

「…決まったよ。」

 

俺の言葉にアクアは気だるそうにしながら――

 

「それで?何にすんの?」

 

「その世界に存在する、あらゆるスキルを本職と遜色なく始めから使えるようになりたい。」

 

そんな俺の望みにアクアは心底面倒そうに。

 

「あらゆるスキルって、随分面倒なことをいうわね。というか全ては無理よ!

個人スキルや武器の固有スキルとかは覚えることはできないわ!

それに魔王軍や魔物が持っているスキルもあるわけだしね。

出来て上級職までのスキルと、固体スキルではない魔物のスキルは一つ位ね。」

 

「ふむ…スキルに関してはそれでもいいんだが、ちゃんと本職に遜色なく扱えるんだろうな?

特に魔法系は大切だ。」

 

「わかってるわよ…!てか!?本職に遜色なくって言った!?」

 

随分慌てているようだが、そんなこと俺には関係ない。

 

「最初にそう言った筈だが?」

 

「ハァ!?あんた、どれだけ面倒なこと言えば気が済むのよ!!」

 

「できないのなら、代替案はあるが?……アンタにとってはもっと面倒になると思うぞ?」

 

そんな、俺の言葉にアクアはたじろぎながら

 

「どうするって言うのよ!」

 

「―――アンタについてきてもらおうと思っている。」

 

俺の言葉にアクアは後ずさり青い顔をしている。

 

「そ、そんなことできるはず………え?」

 

アクアの顔が絶望に染まっていく。多分できるんだろう。

 

「そそそれでは、先程のスキルの方でよろしいでしょうか?可能な限りは叶えますので

その代替案は引っ込めて頂けると嬉しいのですが……?」

 

アクアは泣きそうな顔でこちらを見てくる。俺はアクアの言葉に大きく頷いた。

 

「…それでは上級職までの全スキルと、それを遜色なく使えるためのステータス。

そして成長及び限界値の突破、…ただし魔力を高めにするため、

他のステータスは若干さがる事をご了承ください。それでは魔物のスキルを一つだけ選んでください。」

 

アクアの言葉を聞いた俺はカタログをぺらぺらと捲り、目的のページを開く。

 

「このリッチーのスキル、ドレインタッチを覚えたい。魔力の回復に便利そうだしな」

 

それを聞くとアクアはあからさまに顔を引きつらせる

 

「あの、女神にアンデッドのスキルを覚えさせろっていうのは……

うわあああああああ!!わかりました!!わかりましたから!!

―――時間が掛かるので暫くお待ちいただけますか?」

 

「ああ、それは問題ない、これ読んで待っているよ。」

 

そう言って俺はカタログに再び目を落とした。

スキル項目の魔法の詠唱や動作を覚えるためだ。

多分特典がもらえれば、言語の話のように頭や体に入ってくるのかもしれないが…

オンラインゲームのように効率的に敵を倒すことができれば、色々と楽になっていくだろう。

そんなことを思いながらページを捲り進めると…

先程は読み飛ばしていた、爆裂魔法という項目を見つける。

爆裂魔法とは。高火力広範囲でその上燃費の悪いという、扱いにくい攻撃魔法だと書いてある。

でも、俺が特典を貰えれば、問題なく使えそうだと思った。

敵をクルセイダーのデコイスキルで呼び寄せ、アークウィザードのテレポートスキルで脱出すればいいだけなんだから…

そういや、敵寄せができる、フォルスファイアというのもあったな。それも併用すれば……

…とはいえ、爆裂魔法までは唱える暇はないか、そもそも魔力が持つかもわからないか。うーん。

俺が戦闘の脳内シミュレートをし続けているとアクアが戻ってきた。

 

 

「…お待たせしました。準備ができましたのでこちらへ来て下さい。」

 

俺がアクアの側までまでいくとアクアは目を瞑り、知らない言語で何かを呟いている

 

「―――!―――――!」

 

瞬間、俺の体の中に熱いものが駆け巡る!

大きな力に耐え切れなくなり膝から崩れ落ちる。

意識が朦朧とし目を開けられなくなる。

視界が真っ白に染まっていき俺の意識は落ちていった。

 

 


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