このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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ここから新章です。


第二章
油断と慢心


幽霊騒動の翌朝。

少女の墓を掃除していると、ミツルギがやってきた。

 

「サトウ君、何か手伝うことはないかい?」

 

「いや、直に終わるから大丈夫だ…それより、何か元気ないみたいだな?」

 

昨日は騒動があったし、あの後も寝付けなかったのかもしれないが、親方には迷惑を掛けるなよ?

 

「…その、自分の剣の腕に自信がなくなってしまって…サトウ君にも僕の連撃スキルを見切られていたようだったし、昨夜は人形達に攻撃を当てることも出来なかった…」

 

「ああ、何だ、そんな事か。」

 

ミツルギは俺の言葉に気が触ったのか、機嫌を損ねる。

 

「そんな事かって…僕にとっては死活問題なんだぞ!」

 

そりゃそうだろうけどさ。

 

「解かっているよ、それくらいは。」

 

「本当に解かってくれているのかい?…それなら君に聞いてみたいのだけど、僕の剣は何処が悪いのか分かるかい?」

 

ミツルギの問いに以前テイラーに教えてもらったことをそのまま話してやる。

 

「基本形?つまり、変化が必要だということかい?」

 

「必要っていうか、必須というか。今まではグラムの効果で力を底上げされていたから、

何とかなっていたんだと思うけどよ、同格、もしくは頭の回る奴には簡単に出し抜かれるぞ?」

 

「その、キミが僕の攻撃を見切れた理由は聞いてもいいかい?」

 

「ん?単純に練習の成果だよ。スキルとは別に、攻撃を避け続ける訓練もしているからな。

だから、スキルがあるからって鍛錬が必要ないなんて事はないんだぞ?」

 

「そ、そうだったのか…サトウ君、僕は強くなれると思うかい?」

 

「そんなのお前次第だろ?…っと、掃除終わりっと。」

 

墓の拭き掃除を終えて、立ち上がる。

 

「俺もそうだったんだけど。多分、今のお前も基礎が足りないんだよ。それで応用も出来ないんだと思う。」

 

「確かに僕は、グラムが無ければステータスも其処まで強くはない。

基礎を鍛えるといっても、僕にはどうすればいいのかが分からないんだ…」

 

「そうだなー…俺も本職じゃねーからな…俺の剣の師匠にでも相談してみるか?」

 

「そんな人が居るのかい!?」

 

「ああ、とは言ってもレベルはお前より遥かに低いぞ?お前がそれでも良いと言うのなら話は通しておくぞ?」

 

「ああ…でも、相手はどんな人なんだい?」

 

テイラーの特徴か。

 

「んー、気の良い奴だよ。そいつは男のクルセイダーでレベルは20ぐらいだったか。」

 

「…僕のレベルの半分なんだね。」

 

「お前40かよ!?…だけど、グラム無しじゃ逆立ちしたってお前は勝てないと思うぞ?

お前に勝った俺だって、まともに剣だけで戦ったら、まったく勝ち目なんてないしな。」

 

テイラーは技術が高いと思う。将来大化けするんじゃないか?

 

「そういえば、サトウ君はレベルいくつなんだい?」

 

「ん?俺か?18だよ。」

 

「そっか…それであの強さなんだね。」

 

「まあ、俺にも特典はあるからな。」

 

「そうだったね…僕はなんて不利な勝負をしてしまったのか…」

 

「はは、高い授業料だったな!」

 

「支払った価値はあると思っているよ。おっと、そろそろ二人を起こしてこないとだね。」

 

「んじゃ朝飯までは用意してやるから、後は頑張れよ。あー、夜はギルドに寄れよな。」

 

「わかった。よろしく頼むよ。」

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

「さて、どういう作戦でいこうかね?」

 

今回俺達が受けたのはリザードランナーの討伐。

普段であれば、特に危険のない、草食性の二足歩行のトカゲらしいのだが。

姫様ランナーという大きなメスの個体が発生すると、リザードランナー達は厄介な生物に変貌するという。

姫様ランナーに率いられた群れは、どんどん集まって大きな群れとなり、その姫様のつがいとなる為に、リザードランナー達はオス同士で勝負をするという。

その勝負の決め方は独特であり…走るという事。

 

こいつらは同属同士で競い合ったりするのではなく、他種族の足の速い生物に対して勝負を挑む。

そして、その勝負の勝利数が一番多いものが、姫様とつがいになり王様ランナーと呼ばれる存在になる。この世界の生物は野菜にしろ魚にしろ果物にしろ…突っ込みどころが多すぎる!!

 

「姫様自体は見れば分かるだろう。だけど王様は見分けが付かない。なら如何すればいい?」

 

「はい!」

 

「はい、めぐみん。どうぞ!」

 

「爆裂魔法で全部消し飛ばせば、王様を態々探す必要がありません!!」

 

「流石はめぐみん!」

 

俺達がアホな会話をしていたら、みんなの視線が冷たくなっていた。

 

「…あの、二人とも?流石にあの数は無理じゃないですか?」

 

ゆんゆんから、冷静なツッコミが入った。

 

「カズマって、頭いいのかアホなのかたまに解からなくなるわね…」

 

少なくても君よりかは知力は高いよ!アクア!

 

「ま、まあ、この二人らしいのかもしれないがな。…それよりカズマ!あの群れの中に飛び込んでみたいのだが!!」

 

「おい!馬鹿!やめろ!!」

 

いきなり、スイッチが入ったダクネスに思わずツッコミを入れつつ、作戦を考える。

 

「まあ…数がもうちょっと少なければめぐみんの案だけでも良かったが…流石にそれだけだと、やっぱり足りないよな。」

 

ルナさんの話によると、今までで例を見ない程の群れの大きさらしい。

 

「え?…カズマ今日の作戦は爆裂魔法無しですか?」

 

「無論組み込むよ。ただそれだけだと全滅は出来ないだろうから、保険を掛けるんだ。」

 

今回はやたら数が多いと聞いていたので、俺の装備は軽装を心掛ける為に、ちゅんちゅん丸の一振りだけだ。連中は足が速いらしいので、フル支援フル強化しても追いつかれる可能性がある。そこをどうするかだ。

 

「ねえ、カズマ思ったんだけど、王様ランナーってすっごく足が速いのよね?

それなら、フォルスファイアで呼び寄せて一番足が速い奴が王様じゃない?」

 

「そうだな、アクアの案は正解だよ。でもな、フォルスファイアを使うだけでは足りないんだよ。

使えば連中が全部こっちに来る…つまり、すぐに対処が必要になるんだ。」

 

「ぜ、全部…。」

 

アクアの顔が青くなる、蛙の時の事でも思い出したんだろう。

 

「では、どうする?」

 

「先ずは数を減らす。戦闘前にアクアは全員にフルで支援をいれて、万が一に備える。

次に、俺とダクネスだけが皆と離れて、俺がフォルスファイアを使い、ダクネスがデコイを使う。

当然、寄ってくるリザードランナー達は俺とゆんゆんのボトムレス・スワンプで足止めして、

そこにめぐみんの爆裂魔法をぶち込む!これで大半が消し飛ぶはずだ。

めぐみんが魔法を撃ったら、アクアはめぐみんを回収して、こちらにはヒールで支援してもらう。

残敵は俺とゆんゆんの魔法とダクネスの剣で対処すればいいだろう。」

 

ダクネスの剣があたるかは分からないが…いや、アクアの魔法があればきっと、多分いけるはず。

それに、うまくやれば真っ先に足の速い王様姫様を討ち取れるはずだ。

そうすれば、群れは解散になるだろうから無理に追撃をする必要もないはずだ。

 

「作戦としてはこんなものか?」

 

「…カズマ、泥沼魔法の制御はどうです?」

 

「そうだなぁ…ゆんゆん程大きくは出来ないだろうけど、制御自体は問題ないと思うぞ。」

 

あれから、色んな魔法を練習してきたんだ。キャベツの時のトルネードよりかは出力を上げられるはずだ。

 

「よし!作戦開始だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

アクアに支援魔法を掛けてもらい、俺達はそれぞれの配置についた。

 

「始めるぞ!!」

 

開始の合図を送ると、みんなから緊張感が伝わってくる。

 

「『フォルスファイア!!』」

 

俺が魔法を唱えると、リザード達が一斉にこちらを向く。

怖っ!…ビビってる場合じゃねー、冷静に冷静に…

リザード達は俺の放っている光に向けて走ってくる!

 

「は、はえええ!?」

 

思ったより速かった…。タイミングを見失わないようにしないと…

 

「!カズマさん!!」

 

「ああ、分かっている!!」

 

「「『ボトムレス・スワンプ!!』」」

 

先頭集団の殆どが泥沼に足を取られ、後続のリザードたちはそれを綺麗に迂回してきている。

 

「めぐみん!いけ!!」

 

「『エクスプロージョン!!!』」

 

「ナーイス爆裂!!…言っている場合じゃねえな。」

 

てか、めぐみんの奴…また範囲スキルを振りやがったな。

 

「やったか!?これ程の破壊力なら、殆ど消し飛んでしまったのではないか?」

 

おい、ダクネス!それはフラグって奴だぞ!!

 

「あ、あれ?リザードランナーの動きが止まってますよ?解散してくれるんでしょうか?」

 

ゆんゆんの言葉に応えるように、止まっていたリザードは雄たけびを上げた!

 

「ちっ!ダクネス!引き付けろ!!」

 

解散してくれるんじゃなかったのかよ!!

 

「あ!カズマ!まだ姫様ランナーが残っているわ!!」

 

「…!?そういうことかよ!!」

 

姫様は見物を決めたらしい…クソ!弓も持って来るべきだったぜ!

 

「ダクネス!ゆんゆん!やるぞ!!」

 

「ああ!」「はい!」

 

 

 

 

 

 

「さあ!こい!!『デコイ!!』」

 

「『ライトオブセイバー!』」

 

「『ファイアボール!!』」

 

まだ、こんなに数が居るのかよ!

 

「きゃ!ら『ライトオブセイバー!』」

 

ダクネスだけでは抑えが利かなくなっているのか、俺とゆんゆんにも敵が流れ込む!

 

「クソ!『ライトニング!!』」

 

俺は魔法を撃ちながら、ゆんゆんの方に駆け出す。

 

「カ、カズマさん!!『ライトニング!』」

 

「『デコイ!』」

 

ゆんゆんの前に出て守るようにデコイスキルを発動させる。

 

「いててて!こなくそ!!がはっ!」

 

当然のように俺に殺到したリザードランナーから、猛攻撃を受ける。

アクアの支援がなかったら致命傷だぞ…これ…!

 

「『ヒール!』」

 

アクアから回復魔法が飛んできた!

 

「ゆ、ゆんゆん!俺の方はいい!それより姫様ランナーを狙えるか!?「『ヒール!』」」

 

猛攻を受けながら、何とか剣を振り回す。

クソ、もっと練習するべきだなこれ…当てても致命傷になりやがらねえ!

 

「分かりました!やってみます!!」

 

ゆんゆんが、大きく移動していく…

 

「アクアー!ゆんゆんを援護しろー!!」

 

「ええ!ゆんゆん…あなたは私が絶対守ってあげるからね!!」

 

めぐみんを安全な場所に下ろして、アクアはゆんゆんの元に走っていく。

ゆんゆんが魔法の射程内に姫様ランナーを捉えるが其れを守るリザードランナーに阻まれた!

 

「邪魔よ!みんなを助けないといけないの!!『ライトオブセイバー!』」

 

行く手を阻む、リザードランナーをゆんゆんは蹴散らしていくが、

多勢に無勢となり、ゆんゆんにリザードランナーの攻撃が飛びそうになる。

 

「ゆんゆん!『ゴッドブロー!!』」

 

間一髪で間に合ったアクアがリザードランナーを纏めてぶっ飛ばした。

 

「アクアさん!…!!行きます!!『インフェルノ!!』」

 

取り巻きのリザードランナーごと、姫様ランナーが業火で焼き尽くされ、其れを契機にリザードランナーは散っていった。

 

「…ぐっ…皆無事か!」

 

「大丈夫よ!私もゆんゆんも平気よ。もちろん!めぐみんもね!!」

 

「…ダクネスは?」

 

「うむ、私も問題はないぞ。リザードランナーの蹴りが中々に激しくて、気持ちよかったくらいだからな。」

 

「…今、気持ちよかったって言ったか?」

 

「…言ってない。」

 

キリっとした顔で言い切るダクネスにジト目を送っていると

 

「う。くう…その視線ゾクゾクするぞ!さあ!カズマ!!私にライトニングバインドを掛けるんだ!!」

 

「やらねえよ!!」

 

 

 

 

―――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだカズマ!?お前がボロボロになっているなんて、何があったんだ?」

 

ギルドに戻ると俺の姿を見たテイラーが慌てて、駆け寄ってくる。

 

「ああ、ちょっとドジを踏んだというか…考えが浅かった結果だよ…」

 

今回の事は反省すべきだ。

今までが上手くいってばかりだったから正直、油断していた。

 

「でも!カズマさんの指示で乗り切れたじゃないですか!」

 

「いや、ゆんゆんお前を危険な目に遭わせてしまったのも事実だ。

あの場合、安全を期するならテレポートで一度、弓を取りに行って、

狙撃で姫様ランナーを狙い打ち、その場で倒してしまうのが正解だったはずだ。

その後は先程の作戦通りに王様ランナーを討ち取れば、群れは解散していたはずだからな。」

 

「…そうですね。確かに今回の作戦はカズマにしては詰めが甘すぎました。

でも、私達も簡単に考えていました!だから、カズマの所為だけではないですよ!」

 

めぐみん…流石は俺の相棒だな。悪いところは悪いと言ってくれるのは本当に助かるよ。

 

「成程。話はわかった…だがなカズマ、その後は機転を利かせて、切り抜けたんじゃないのか?」

 

テイラーはフォローをしてくれるが俺は何も出来なかったに等しい。

 

「いや、そんな大層な物じゃない。ゆんゆんに迫っていた敵を引き受けて、後はゆんゆんに丸投げしたようなものだからな。」

 

「なあ、カズマ。あまり自分を責め続けないでくれ。お前が責任を感じるというのなら私の責も多いだろう。

私がもっと引き付ける事が出来ていれば、お前達は危険な目に遭っていなかったはずだからな。」

 

「解かっているさ、ダクネス…これは自分を責めているというよりはただの反省だよ。

もっと、上手くやれたはずだからな…今回の失敗は次に活かす!

だからこそ、今回は反省すべきところは反省するんだ!」

 

「はー、カズマって意外に真面目なのねー。でも、言う通りかもしれないわね。

失敗を次に活かすか…私もこっちに来てから身につまされているからね。」

 

「ああそうだ。テイラーお前にまた頼みたいことがあるんだけど。」

 

「ん?また模擬戦か?お前と戦うのはいい訓練になるから、クエストが無い時は何時でもいいぞ?」

 

流石テイラー話が早い。近接スキルの訓練もしたかったからな。

後はあいつの事も言わないとな。

 

「ああ、頼むよ。今回敵に張り付かれて痛い目に遭ったからな。後、もう一つ頼みがあるんだが…」

 

「ん?何だ?」

 

さて、どう切り出すか…謝ったとはいえ、あいつの心象は悪いままだろうからな。

 

「…もう一人稽古をつけて欲しい奴がいるんだ。」

 

俺がそう言うとテイラーはダクネスを見る。

 

「もう一人?ダクネスのことか?…ダクネスは先ず両手剣スキルを取れ、と言いたくはなるが…」

 

お?もしかして、ダクネスも見てもらえるのか?それはそれでありがたいような…

 

「あー、ダクネスじゃない。…昨日俺に喧嘩売ってきた奴が居ただろ?」

 

「…もしかして、あの魔剣使いの男の事か?…確かに見ていて動きが悪いとは思っていたが…

あれはてっきり、カズマの事を舐めていただけだと思っていたのだが。」

 

やはり、心象は良くないようだ。

 

「実はさ、あの馬鹿。俺と同郷なんだよ…。あれからあいつなりに反省もしていて、

あいつは心の底から強くなりたいと思っているらしいんだ。」

 

「…カズマ、お前は何処まで面倒見がいいんだよ。

はは、わかったよ!カズマに免じてそいつの相手もしてやるよ。」

 

やっぱり、テイラーは良い奴だな。

 

「ねえ、カズマ。話は終わった?私おなかが空いたんですけどー。」

 

「はいはい。先に行って注文しておいてくれ、俺はクエストの報告してくるから。

テイラー!引き受けてくれてありがとうな!昼食は済ませたか?奢るぞ。」

 

「まだだ、美味い物を頼むぞ!」

 

「了解だ。」

 

「ねぇ、カズマー私達はー?」

 

いつの間にか来ていたらしいリーンとキースが自分達にも奢れと催促してきた。

 

「高いものは無しな。…と、報告にいかねえと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー!?カズマ達、家を買ったの!?しかも屋敷って!?」

 

「なんだ、そういう事は早く言ってくれればお祝いを用意したんだが。」

 

「別に今から祝ってもいいんじゃね?てか、カズマ。お前の家で宴会やろうじゃねえか!」

 

テイラー達に家を買ったことを報告した。

 

「あら、いいじゃない!カズマいいわよね?」

 

「ん?ああ、別に構わねえけど。調子に乗って高い酒を買い漁るなよ?」

 

「う、わ、解かっているわよ!…あ、カズマ、アンナが甘い果実酒を飲みたいって言ってたんだけど買ってもいいかしら?」

 

え?あの幽霊少女、酒なんて飲むのかよ。…まぁお供え物だと思えばいいか。

 

「アンナの分か。じゃあ、その分は後で払ってやるから領収書貰って置けよ?」

 

「流石カズマさん!話が解かる!!」

 

「カズマカズマ、今夜は宴会するのですよね?私達も何か買ってきてもいいですか?」

 

あれ?もしかして宴会の金、俺が出す流れ?

 

「…あまり高いものは買ってくるなよ?」

 

「解かっていますよ!では、アクア!ゆんゆん!ダクネス!買出しに行きますよ!!」

 

めぐみんは楽しそうに皆を連れ立ってギルドから出て行った。

 

「あいかわらず賑やかだな、お前のところは。」

 

「まあな、あいつらと一緒にいると退屈しないぞ?」

 

「でも、羨ましいぜ、カズマよお!皆見てくれはいいからハーレム状態じゃん!」

 

「おい、バカ!そういう事言うと俺の悪評がまた広がるだろうが!」

 

「でもさー、カズマの悪評って自業自得な事多いよね?」

 

リーンまでそんなこというなよ…

 

「俺は全うに生きているつもりだぞ!人様に後ろ指を指されるようなことは何もしてないんだからな!!」

 

俺が高らかに宣言をすると、三人は何故か顔を逸らせた。

 

納得できねえ!!

 

 

 

 

―――――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教えられるのはこれくらいかしらね。」

 

「ありがとうございます。」

 

俺は大衆食堂のおば、お姉さんに頭を下げて店を出た。

 

「ふう…結構時間掛かっちまったな。」

 

料理スキルを覚えるために、買出しや配膳、皿洗い等の雑用を終えてから調理を習った。

色々とこき使われたので、もう既に夜の帳が訪れている。

 

「…っと、ギルドに向かわないとな。」

 

ギルドに向かって歩いていると、後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえた。

 

「あ!サトウ君!」

 

声がしたほうに振り向くとミツルギ達が居た。

 

「丁度良かった。今ギルドに向かっていた所だったんだよ。」

 

「お、ミツルギ。仕事は終わったのか?」

 

「ああ、ついさっき終わった所だよ。」

 

テイラーが了承したという件をミツルギに伝えておくか。

 

「ミツルギ、今朝のことだが引き受けてもらえたぞ。

今頃、俺達の屋敷にいると思うけどお前らも来るか?」

 

「えっと、行ってもいいのかい?」

 

「ああ、別に構わないぞ。」

 

今朝の様子を見る限り、もう誰もコイツの事を怒ってはいないだろう。

 

「ありがたい…けど、どうしてキミの屋敷にいるんだい?」

 

「引っ越し祝いに託けて、宴会しようって話になったんだよ。それで友人連中が集まっていてな。」

 

「…それに僕が加わっても平気なのかい?」

 

めんどくせえ奴だな!

 

「気にするって言うのなら、何か手土産でも持っていけよ!

アクアは酒が好きだから、そこの酒屋で適当に買えばいいさ。」

 

「お酒か…僕は飲まないから詳しくは無いんだけど…サトウ君、どういうのがいいか解からないか?」

 

「そうだな…果実酒でいいんじゃないか?そこの3000エリスの奴でいいだろう。」

 

アクアが飲まなければ、アンナに供えればいいし。

 

「分かった!買って来るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、カズマ!お帰りなさいです!」

 

タタっと、めぐみんが駆け寄ってくる。

ああ…可愛いなぁ…っと、萌えている場合じゃねえ!

 

「ただいま!めぐみん!みんなはどうしている?」

 

「アクアとゆんゆんはお風呂です。ダクネスはリーン達と部屋の掃除をしています。

今日は泊まって行きなさいと、アクアが勝手に決めてしまったのですが、大丈夫でしたか?」

 

「ああ、問題ないよ。こいつらも来てるしな。アクアに付き合ったら結局こいつらもまた泊まる事になるだろうし。あ、そういえば宿は取れたのか?」

 

「えっと、馬小屋なら取れそうだったんだけど、部屋が空くかもしれないって言われてまだ決めてなかったんだ。」

 

「なら、お前らも泊まったらどうだ?…めぐみん、こいつらの部屋はどうした?」

 

「なんか、戻ってくるような予感がしていたので、リーン達には別の部屋を案内しましたよ。

カズマは何だかんだ言っても面倒見がいいですからね。こうなるだろうと思ってましたよ。」

 

なんか、めぐみんには色々と見透かされている気がするな…将来苦労をしないだろうか?

 

「あーそういうわけだ。お前らが使っていた部屋でいいなら今夜も泊まっていいぞ。」

 

「あ、ありがとう!サトウ君!」

 

「でも…えっと、もうお化けは出ないわよね?」

 

「昨日は本当に怖かったんだから…」

 

さぁ?そんなのアンナ次第じゃないか?

 

「まあ、昨日みたいに人形に追いかけられることはないんじゃないか?

それやってた霊達は昨日みんな浄化されていたし、平気じゃね?」

 

「今度こそ僕が二人を守るよ。だから安心してフィオ、クレメア。」

 

「う、うん。」

 

「キョウヤがそう言うなら…」

 

この二人は相変わらずだな…こっちに噛み付かなくなっただけマシか。

 

「カズマー!何しているんです?早く入りましょうよ。」

 

「今行くよー!」

 

 

――――――――……

 

 

 

 

 

 

キッチンに入り、めぐみんと一緒に夕食の準備をしているとダクネスが箱を抱えてキッチンに入ってきた。

 

「カズマ!うちの実家から差し入れが入ったぞ!引っ越し祝いだそうだ!」

 

「おお!」

 

ダクネスが箱を開けると、高そうな酒が三本。そして大量の蟹が入っていた!

 

「おおー!霜降り赤蟹ではないですか!!」

 

めぐみんが瞳を輝かせて喜んでいた。

 

「そんなに良い物なのか?確かに蟹は高級食材だとは思うが。」

 

「何を言っているんですか!カズマ!!いいですか?

私がこの高級な霜降り赤蟹を食べられると聞いたら、爆裂魔法を撃つのを我慢します!

そして、食べた後に爆裂魔法をぶっ放します!!それ程、美味しいものなのです!」

 

「お、おおー?何か可笑しかったような気もするが、めぐみんがそれ程言うなら美味いんだろうな。」

 

「ああ、是非今夜の宴会で振舞ってくれ。さて、私も今の内に風呂を済ませておこう。では二人ともまかせたぞ。」

 

ダクネスを見送っていると、めぐみんが俺の服の袖を引っ張る。

 

「カズマカズマ!これで何を作るんですか?」

 

やはりここはシンプルに行くべきだろう。

 

「蟹鍋だ!!」

 

俺は手早く野菜を切り分け、大鍋に放り込んでいく。

次にカニの下ごしらえを済ませ、カニも放り込む。

出汁を入れていないがカニだけで十分だろう。

 

「カズマ、手際が良くなってますね。」

 

「ああ、料理スキル覚えてきたからな…っとめぐみん、土鍋で米を炊いておいてくれるか?」

 

「解かりました!」

 

鍋の方はこのまま煮込むだけだが、鍋後のお楽しみの為にもう一つ下準備をする。

 

「…あとはこれを弱火で程よく暖めておけば…」

 

中で固まったら悲惨だからな。見ておかねば…

 

 

 

 

――――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来たぞー!」

 

「お待たせです!」

 

俺とめぐみんは広間に料理を運ぶ。

 

「おおー!これ霜降り赤蟹じゃない!いいわね!!今夜はこれで飲み明かしましょう!」

 

おおー!!と皆のテンションが上がる。

俺達も自分の席に座って手を合わせる。

 

「頂きます!!!」

 

全員の声が合わさった。

 

「おお!!これは美味い!!」

 

皆も蟹の味に舌鼓を打ち、一心不乱に食べ続ける。

 

「あ、カズマー。こっちに火を頂戴!」

 

「あいよ。『ティンダー』」

 

アクアは七輪のような物の上に蟹の甲羅を乗せて、酒を注いだ。

 

「ふふん、みんなにこれの美味しい飲み方を教えてあげるわ!」

 

甲羅が暖められ、中に入った酒から湯気が出てくる。

 

「そろそろね……うく…ん…ん……ほぅ…」

 

アクアはうっとりとした表情で甲羅に入った酒を飲み干す。

 

「ほう、私も試そう!」「「お、俺も!」」「あたしも!」

 

ダクネスに続き、テイラー達もアクアの真似をする。

 

「「「「ほぅ…」」」」

 

「カ、カズマ!私も飲みたいです!」

 

「私も…飲んでみたいです。」

 

アクア達に感化されたのか、うちのお子様達まで我侭を言い始める。

 

「ダメだ!めぐみんは酒癖悪いんだから飲むなよ?ゆんゆんも酒を飲むのはまだ早いと思うぞ。」

 

めぐみんに飲ませると嬉しいハプニングが起きそうだけど、何を口走るかもわからないので危険だ。

同様にゆんゆんにも今日は飲ませないほうがいいだろう。

 

「うう、カズマはケチです!」

 

「やっぱり、ダメですよね…」

 

「いいじゃない、カズマ今日ぐらいは許しなさいよ!」

 

ちっ、アクアめ!余計なことを。

 

「流石アクアです!ささ、カズマ、アクアの許しも出たのですから、私にも火をください。」

 

「カズマさん、すみません。あの、私もお願いします。」

 

はあ…しょうがねえな。

 

「『ティンダー』」

 

「よかったのか?カズマ。めぐみん達には私も早いと思ったのだが…」

 

「よくはねーけど、この空気じゃしょうがねえよ。」

 

めぐみんがそのまま酔い潰れることを期待してよう。

 

「ああ、そうだ。テイラー、ミツルギ。話はどうなった?」

 

「手が空いている時に見てもらえることになったよ。」

 

「カズマと模擬戦をやる日が一番いいがな。」

 

「お前ら、今日は泊まっていくんだろ?明日の朝はどうだ?ここの庭なら十分広さはあるだろ?」

 

「そうだな、なら明日の朝に一度手合わせと行くか。」

 

「お願いするよ。僕は今のままではダメだと思うから…」

 

明日の朝は模擬戦か…俺も強くならないとな。

 

「あー、鍋終わっちゃったわね。カズマおつまみはあるかしら?」

 

「ああ、めぐみんが買ってきているよ。それより先に出すものがあるけどな。」

 

キッチンに入り、土鍋と下ごしらえしていた物を持ってくる。

 

「ん?何するの?」

 

「これはこうするんだ。」

 

蟹鍋の残り汁にご飯を入れていく。

 

「いいわね!雑炊とはなかなかやるじゃない!」

 

「それだけじゃないぞ。これを掛けろよ。多分上手くいっていると思うから。」

 

俺は下ごしらえを済ませた温玉モドキを皆に配る。

 

「おお!」

 

「これは良い物ね!ナイスよ!カズマ!!」

 

上手いこと半熟になっていた卵を雑炊の上に乗せて皆は食べ始める。

 

「最高ね!!」

 

美味い飯と美味い酒で宴会は盛り上がり、そのまま夜が更けていった。

 

 

 




カズマも他の特典持ちの転生者同様に楽にクエストをこなしていた所為か、油断をしてしまいました。自分が立てた作戦の詰めの甘さで仲間を危険にさらしてしまった為、皆には平静を装っていますが、かなり凹んだようです。

ミツルギ君がカズマさんの弟弟子になりました。師匠はテイラーさんです。
はたしてミツルギ君は成長が出来るのか!?


いつの間にか、ミツルギも順レギュラーに…
カズマさんの面倒見の良さが原因ですね。

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