このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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撤退戦

「確認が完了しました。マンティコア2体とグリフォン1匹ですか…報告より、

マンティコアが1体多かったんですね。追加報酬と合わせて600万エリスになります。」

 

「ありがとうございます。」

 

報酬を受け取り、俺はミツルギが言ってた言葉が気になってたので聞いてみる事にした。

 

「そういえば、この依頼。王都であれば800万位だと聞きましたけど、本当ですか?」

 

俺の質問にすこし目を泳がせたルナさんは答えてくれる。

 

「…そうですね、本来ギルドで設定されている金額はカズマさんの言うとおりです。

ですが、実際に依頼を出されるときの金額は地域によって多少前後するんです。」

 

「地域によってですか?」

 

「…ええ、そうです。」

 

…以前、聞いた話が頭をよぎる。

 

「わかりました。お時間を取らせてしまって申し訳ないです。」

 

俺はルナさんに頭を下げて、皆の所に戻った。

 

「カズマ、追加報酬は出たの?」

 

「ああ、100万エリス追加されたよ。…一人75万か。異論はないよな?」

 

特に反対意見が出なかったので全員に均等に配っていく。

 

「しかし、明日からはどうする?何か依頼が入っていればいいのだが。」

 

「そうだな…まあ、明日になれば変わるかもしれないだろ。今日はもう帰ろうぜ?」

 

「そうですね。あ、カズマ!帰ったら、今朝作ってくれた料理を教えてください!」

 

「あいよ。」

 

「カズマさん!それでしたらまだ時間も早い事ですし、食材の買出しも行きませんか?」

 

「うーん、そうだな。買える時に買っておくか。」

 

「なら、私も荷物持ち役で付いていこう。」

 

「あ、カズマー。私もお酒が欲しいんですけど。」

 

「自分で買えよ?」

 

「えー!?たまには奢ってくれてもいいじゃない!」

 

たまにって、お前な…結構奢ってやっているだろう。

 

「それなら、私もちょむすけのご飯を買いについて行きますよ。」

 

ちょむすけ。

俺とめぐみんが出会った頃から、めぐみんがちょくちょくエサを上げていた猫だ。

今は、屋敷で飼っていて、皆から可愛がられているが何故かアクアには懐いてない。

それにしても、紅魔族のネーミングセンスは本当に…

将来、俺達に子供が出来たら絶対に俺が名前をつけよう!

 

「じゃあ、行くか。ミツルギ、フィオ、クレメア、お先に。」

 

「ああ、お疲れ様!」

 

「「お疲れ~。」」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「なあ、カズマ。聞いたか?何でも、強い魔物が現れた所為で周辺のモンスターが隠れてしまっているらしいぞ?」

 

ギルド内の酒場で、まだ午前中だというのに酒を飲んでだべっているキース達から話を聞いていた。

 

「まったく、迷惑な話だよなー!なあ、カズマ。お前ちょっと行って倒してきてくれよ。」

 

そんな無茶振りをしたのは、ここアクセルで頻繁に警察のお世話になっているチンピラだった。

 

「バカいうなよ、ダスト。相手の詳細も解からないのに俺が戦うわけないだろ!」

 

「でも、困ったよねー。あたし達も蓄えがそんなにあるわけじゃないから、早く対処して欲しいんだけどねー」

 

「そうだな、冬が来る前にある程度は稼いでおきたい物だが…」

 

「ああ、まったくだな。」

 

俺がテイラーに同意していると、リーンが頬を膨らませる。

 

「カズマはいいじゃない!お屋敷持っているんだし、必要なのは食費位でしょ?」

 

「うちには、たくさん食べる子とバカみたいに酒を飲む子がいるんだ、用意出来る金は多いほうがいいんだよ。」

 

「…めぐみん達が羨ましいなぁ…、ねえ!カズマ!冬になったらカズマの屋敷に泊めてよ!」

 

…そりゃまぁ、リーンを泊めるのは構わねえけど…

テイラーやキースはともかく、問題児が一人いるからなぁ。

 

「そん時になっても、まだ状況が好転してなければな。」

 

「なあ、カズマ。その時は俺も頼むぜ!」

 

案の定、ダストも追随してきた。

 

「…うちの女性陣が許可を出したらな。」

 

まあ、許可するとは思えねえけどな。

そんな事を考えていると、めぐみん達が戻ってきた。

 

「おー、お帰り!バイトどうだった?」

 

めぐみん達はアクシズ教会で売り子のバイトをする事になっていた。

今朝此処に来る途中でスカウトされたわけだが…

あの女神官の目がやばかったんだよなぁ…

 

「…ただいまです…カズマ。」

 

「うう…」

 

めぐみんとゆんゆんが死んだ目をしていた。

 

「え?マジでどうしたんだよ?」

 

困惑しながら、アクア達を見ると

 

「あーうん、売り子が恥ずかしかっただけじゃないかしら?あはは…

(え?うちの子って、みんなあんな感じじゃないわよね?)」

 

「ふふ…、中々に遣り甲斐がある仕事だったぞ…。ああ、悪くは無かった…」

 

こちらに目を合わせようとしないアクアと、何やら興奮気味のダクネスを見る限り、何かがあったことは間違いなさそうだ。

でも、売り子だろ?本当に恥ずかしかっただけかもな。とりあえず、後でめぐみんに聞いておこう。

 

「…とりあえず、今日はどうするか?」

 

「…カズマ何か、良いクエストはありましたか?」

 

「相変わらず、塩漬けしか残ってねーよ。」

 

「それなら、今日はもうお休みにしましょう。では、カズマ爆裂散歩に行きましょう!!!」

 

めぐみんは何かを払拭するように力強く宣言した。

 

「アクア達はどうする?」

 

「そうねえ…暇だし、付き合ってあげてもいいわよ!ゆんゆんもいくわよね?」

 

「そうですね、あ!せっかくですし、そのままピクニックをするのはどうでしょう!?」

 

「ふむ、たまにはのんびりと言うのも悪くは無いな。」

 

ゆんゆんの提案に皆が乗る。

 

「じゃあ、弁当作っていくか。あ…折角だし、何時もと違う場所に行くか?」

 

「そうですね。湖畔周辺の岩は粗方吹き飛ばしてしまいましたし、新しい場所を開拓していきましょう!!」

 

俺達の話が纏まると、リーンが走ってきた。

 

「待ってカズマ!あたしも行きたい!っていうか、カズマのご飯が食べたい!!」

 

リーン達は練習で作った料理を試食してもらっている間に、俺の料理に嵌ったらしい。

 

「カズマ、材料費くらいは出すぞ?…俺も行ってもいいか?」

 

リーンに続き、テイラーまで行くと言い出す。

そうなると当然、キースやダストも付いてくる事になる。

料理作るのが大変なんですけど…

 

屋敷に戻る途中でミツルギ達とも会ってしまったので、この際だから全員で行く事になった。

 

「カズマ、私も手伝いますから、がんばって作りましょう。」

 

 

 

 

―――――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、すっかり出発が遅れてしまった俺達は、新しい目標探しをしていた。

 

「この辺りから、撃っても平気な地域だな。」

 

旧街道を歩き続け、なんとか目的の地域に到達した。

 

「カズマー!私、お腹が空いたんですけどー!!」

 

時刻を見るともう14時を回っていた。

 

「仕方ない、ここらで良さそうな場所を探してみよう。」

 

俺の提案で各自が良さそうな場所を探し始める。

 

「あ!あそこの丘の上とかどうですか?見晴らし良さそうですよ!」

 

ゆんゆんが良い場所を見つけたらしい。

 

「じゃあ、其処にしようぜ。」

 

その場所は見晴らしが良く、風通しも良かった。ピクニックをするには最適だろう。

そう思い、荷物を下ろしたところである場所が目に入った。

 

「あれは?廃城?」

 

テイラー達の話によると、遠い昔に廃棄され、今は使われなくなった城らしい。

 

「カズマカズマ。あれに撃ってもいいですかっ!?」

 

廃棄されたとはいえ、誰かが所有している可能性もある。

 

「やめとけって!賠償請求とかされたら、払えねーぞ!!」

 

「う…そうですね。仕方ないです!目標はご飯を食べてから探しましょう!!」

 

「じゃあ、とりあえず飯にするか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅めの昼食を食べていると、

 

「サトウ君、さっきテイラー達から聞いたんだけど、何やら強い魔物が現れたんだってね。」

 

「らしいな。つっても、まるで詳細なしじゃ倒しに行くなんていうのは無理だぞ?」

 

「そうだね。最悪ドラゴンが住み着いたなんていうのもある。

でも、僕達で倒せるような相手だったら倒してしまわないか?」

 

「相手次第だなぁ…可能なら倒しておきたいが。」

 

クエストがないのは本当に困る。まだ蓄えがある程度ある俺のパーティーや、

いざとなれば、王都に戻れば仕事に困らないミツルギのパーティーは何とかなるが…

テイラー達のような一般冒険者はそうは行かないだろうからな。

 

「…ねえ、カズマ。折角だし、あの城にもっと近づいてみない?」

 

先程から、廃城をじっと見ていたアクアが突然そんな提案をして来た。

 

「え?まぁ、そりゃ構わないが…急にどうしたんだ?」

 

「…何かね、感じるの…不快な感じがするのよ…。」

 

アクアの言葉に嫌な予感が走った。

アクアがこう言うという事は、何かしら大物の悪魔かアンデッドが居る可能性が高い。

 

「あの城に何かいるっていうのか?」

 

「…わからない。でも、とっても不快な感じがするわね。」

 

「カズマ…アクアがこう言うのでしたら、もしかしたら何か大物がいるのではないですか?」

 

「俺も丁度、同じことを考えていたよ。」

 

「サトウ君、どうするんだい?」

 

俺達が顔を見合わせていると

 

「ん?どうしたの?カズマ達…?」

 

「カズマ達はあの廃城に近づきたいらしいな。」

 

「お?もしかして、お宝でもあるのか?」

 

「いや、ねーだろ!ダストよく考えろよ、廃棄された城だぞ?

とっくに金目のものは持ち出されているだろ?」

 

「なんだよ…折角儲けられると思ったのによー!」

 

そう言ってダストは悪態をついていた。

 

「…宝は無いかもしれないが、敵ならいるかもしれんぞ?お前達はどうする?」

 

ダクネスが、テイラー達に問いかける。

 

「もし、噂の強い魔物がいるのなら調査をする必要がある。」

 

今、此処に居るのは12人。この人数では流石に目立ちすぎる。

 

「ある程度近寄ったら、俺一人で調べてみるよ。皆は何かあった時にすぐに撤退できるようにしておいてくれないか?」

 

「分かった、こちらの守りは任せてくれ。」

 

「サトウ君、非常時になったらキミはどうするんだい?」

 

「俺一人なら、無詠唱テレポートでアクセルに戻れる。だから問題はねえよ。」

 

こうして、俺達の調査が始まった。

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり居るわね。アンデッド臭がするわ!」

 

城にある程度近寄った時点で、アクアがそう宣言する。

 

「…アンデッドか。潜伏が利かねーし…こりゃ出直しだな。」

 

「え?カズマ!?アンデッドを野放しにする気なの!?それは流石に見逃せないんですけど!!」

 

そう言って、アクアは城に向かって走り出す。

 

「ちょ!?バカ!待てって!!」

 

慌てて、俺とミツルギがアクアの後を追う。

 

「あ、アクア様!待ってください!!せめて僕達と共に…!」

 

急に違和感が訪れる。見ればアクアも立ち止まっている。

 

「おいおい!何だよ!?これ!!」

 

空気が震えていた。そして、一斉に敵感知に反応が出る!!

 

「敵襲だ!!」

 

俺は全員に聞こえるように腹から声を上げた。

そして、其れに答えるように…強そうなアンデッド達に周囲を囲まれた!

 

「アンデッドなんて、いくら出てきても私の敵じゃないわよ!!『ターンアンデッド!!』」

 

アクアの魔法を食らったアンデッドは一瞬止まって、何かが弾けるように魔法を打ち消した。

 

「な!?」

 

何だ今のは?魔法が利かなかったというより打ち消されたように見えたぞ!?

 

「アクア様!!」

 

呆然としていたアクアに襲い掛かろうとしているアンデッド達を、ミツルギが一刀で薙ぎ倒す。

 

「ちっ!今は呆けている場合じゃねえな…!

ミツルギ!そのままアクアを守って皆と撤退しろ!!

ダクネス!テイラー!そっちの守りは任せる!

めぐみん!!何時ものをやる!!上手く決めてくれ!!信頼してるぞ!!相棒!!」

 

「わかった!サトウ君も気をつけて!!」「「こちらは任せろ!」」

 

「カズマ!絶対成功させます!!…だから、無事でいてください!!」

 

皆は撤退を始める…

分かっているよ!信じているからな!めぐみん!!

 

「『フォルスファイア!!』」「『デコイ!!』」

 

囮セットを発動して、更に引き付ける為に俺は戦闘を開始した。

 

 

 

―――――――――――……

 

 

 

 

 

 

≪めぐみん視点≫

 

 

囮セットを使ったカズマが更に魔法でアンデッド達を攻撃し始めた。

いくらカズマでも、一人で戦い続けられるわけがない。

相手はどういうわけか、アクアの浄化魔法を打ち消してしまったのだから…

 

「先程の丘へ向かってください!あそこなら一望出来るはずです!!」

 

「めぐみん!まだ結構追ってきているよ!」

 

カズマの囮セットでも反応漏れがありましたか…

 

「ゆんゆん!リーン!キース!あなた達の遠距離攻撃でけん制してください!」

 

「うん、わかった!」「任せて!」「やってやろうじゃねえか!」

 

ゆんゆん達の遠距離攻撃は効果的だった。

 

「倒せるみたいですね!一度足を止めて迎撃してください!!ここは任せます!!

ダクネス!テイラー!貴方方は私の援護をお願いします!」

 

「「わかった!」」

 

ダクネス達と一緒に丘に戻る、城の方を見るとまだカズマが応戦していた。

 

「カズマ!気づいてくださいよ!!」

 

私はカズマに気づいてもらうためにあえて詠唱を始める…

周囲の魔力が震えだし、いくつもの魔力の奔流が現れる。

それで気づいたのか、カズマはこちらを一瞥した。

 

「カズマ…」

 

カズマは杖を取り下げ、私が見えやすいように移動をし始める。

そして、周囲に敵を集めたところでカズマの体は魔方陣によって掻き消えた。

 

「流石です、我が相棒!『エクスプロージョン!!』」

 

カズマを追い回していたアンデッド達は爆裂魔法によって、全て掻き消されていた。

 

「カズマと合流しましょう!!」

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

「皆無事か!?」

 

急いでアクセルへ戻っていると途中でカズマと合流が出来た。

 

「皆無事ですよ。カズマは大丈夫ですか?」

 

「ああ、ちょっとダメージは貰ったけど、回復しているよ。」

 

「大丈夫なの?カズマ。『ヒール!』一応回復しておくわね。」

 

「あ、ありがとうな。アクア。」

 

「それにしてもカズマも無茶するよなー。」

 

「まったくだ!そんなんじゃ何時か死んじまうぜ?」

 

縁起でもない…

 

「そう簡単にくたばってたまるかよ!…ん?ミツルギどうかしたのか?」

 

「…いや、少し考え事をしていた。とりあえずギルドに戻ろう。」

 

考え事?ミツルギは何かに気が付いたのでしょうか?

 

「そうだな、戻るか。あ、ダクネス変わるぜ。」

 

そう言って、カズマはダクネスから私を受け取って…

 

「ちょ!カズマ!!」

 

何時かやってくれた、お姫様抱っこを私はカズマにされてしまった。

皆がニヤニヤとしている。…これはかなり恥かしいのですが!

 

「上手くやったんだろ?…なら、これは相棒にご褒美だよ!」

 

カズマは顔を赤くして、私を褒めてくれた。

 

「カズマ!見せ付けんじゃねえよ!」

 

「お姫様抱っこ!いいな~!!」

 

「うるさいぞ!これはご褒美だって言ってるだろ!!」

 

恥かしいならしなければいいのに…でも、久々に見れましたよ。カズマのその表情。

 

「じゃあ、帰りましょうか!…カズマ、疲れたからと言って途中で降ろすのはなしですからね!!」

 

「え?………ああもう!分かってるよ!!」

 

結局カズマは、ギルドの中まで私をお姫様抱っこで運んでくれました。

 

 




12人もいたら、全員を喋らせるのは無理ですよね。
今回フィオとクレメア喋ってないし。あ、前半に一言あったか。

次回は長くなりそうなので時間が掛かると思います。

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