このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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最近、可笑しな天気が続いてますね。
そして蒸し暑い!!


キールのダンジョン

 

 

草木も眠る丑三つ時。

 

キールのダンジョンに併設された小屋で、一夜を過ごす俺達に忍び寄る影があった。

 

”それら”の出現により、小屋の周辺に居た動物や昆虫達も何処へと姿を消して行った。

キーンと耳が痛くなってくるような、静寂が訪れる。

俺達が出す寝息以外の音が消えた世界。そこへ何者かの足音のような音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

違和感を感じて、俺は目を覚ます。

敵感知には何も反応が無い筈なのに、何かの気配を感じる。

 

「んん…、如何したんですか?カズマ。」

 

一緒に寝ていためぐみんが目を擦りながら起き上がる。

 

「何かの気配を感じるんだよ。だけど、敵感知に反応しなくて…。」

 

「?…感知しないのなら動物か何かじゃないですか?」

 

めぐみんは欠伸をしながら、俺の疑問に答える。

本当にそうだろうか? めぐみんの言葉通りであれば、

その動物の鳴き声ぐらいは、聞こえて来てもいい筈だが。

 

相変わらず、この部屋以外の音は聞こえて来ない。

 

「ん?めぐみん、何処に行くんだ?」

 

「…トイレですよ。…そのカズマ、何か怖くなってきたので一緒に来てもらえますか?」

 

「ああ、分かったよ。」

 

立ち上がった事で目が覚めたのか。めぐみんも、異変に気が付いた様だ。

 

俺達が感じている悪寒は、前に屋敷で起きた幽霊騒ぎを思い出させる。

嫌な予感が拭い切れず、俺はちゅんちゅん丸を腰に挿し、杖を持った。

 

他の連中を見ると、気持ち良さそうに寝息を立てている。

うーん、アクア達を起こすべきか?…俺達の勘違いという可能性もまだあるが。

トイレは部屋に併設されているから、距離があるわけでもないけど。

まあ、いざとなったら、大声を出して起こせばいいか。

 

「カ、カズマ、此処に一人で入るのはかなり恐ろしいのですが…」

 

併設されていたトイレは、和式タイプの所謂ぼっとん便所だった。

そもそも、アクセルでは水が豊富なのか洋式の水洗トイレが主流だ。

俺達の屋敷も洋式タイプの水洗トイレなので、かなり勝手が違うだろう。

 

「えっと、めぐみんは使い方は分かるか?」

 

「大丈夫です、ただ…この状態で扉を閉められるとかなりの恐怖なのですが。」

 

すぐ傍で皆が寝ているし、流石に俺は入れないな。

 

「扉を開けてするしかないな。」

 

「うぅ、最悪ですよ…。カズマ其処に居てくださいね。」

 

めぐみんは下着を下ろして便器に跨る。

この状況じゃ出ないだろうなぁ、…おっと、見てたら怒られちまうな。

めぐみんに気づかれない様に顔を逸らそうとして、ふと見上げると、

何か黒い影の様な物が、トイレの小窓から此方を覗き込んでいた。

 

「!?…誰だ!?」

 

「えっ!?」

 

「…消えた?いや、移動しただけか?」

 

「如何したんですか?カズマ。」

 

俺の声に驚いて、めぐみんが此方に振り向く。

 

「窓の外に何かが居たんだ。…クソ!相変わらず、敵感知に反応がねえ!」

 

「カ、カズマ…!?」

 

「ん?」

 

めぐみんに呼ばれて顔を見ると、めぐみんが真っ青になっていた。

俺の後ろを見ている?

…恐る恐る振り返るも、何も異常はない。

 

「…な、何も無いぞ?」

 

「だ、誰かが窓から此方を見ていたんですよ…。」

 

…俺が見た物と同じか?

 

「と、とりあえずアクア達を起こしたいから、早く済ませてくれ!

っていうか、アクア!みんな!!起きろっての!!」

 

俺がアクア達に声を掛けている間に、いそいそとめぐみんは用を足す。

 

「アクア達、起きませんね。…何やらホラー物の主人公にでもなった気分です。」

 

そんなものは願い下げなんだが!?

トイレを済ませためぐみんが、俺の横に立ってそんな事を呟いていた。

 

「とにかく起こすぞ!」

 

めぐみんと一緒にアクア達を揺り起こす。

ダクネスを揺さぶると、不機嫌そうな顔をしながらダクネスが目を開ける。

 

「むう…何だ?まだ真夜中ではないか…。!?まさか夜這いか!!

待て!カズマ!!私は無理やりになんて…いや、それも…あ!絶対に屈しないからな!!」

 

「んなわけねーだろ!?寝惚けた事言ってんじゃねーよ!!」

 

俺がダクネスとアホなやり取りをしている間にめぐみんはアクア達を起こす。

 

「アクア!ゆんゆん!早く起きてください!!非常事態です!!」

 

「うーん…何よ、煩いわね…。」

 

「ふぁぁ、どうしたのよ…めぐみん…」

 

アクアとゆんゆんも目を覚ます。

ああ、良かった。こいつらが目覚めなかったら、マジでホラー展開だからな!

 

「って!二人とも、早く胸元を隠してください!!モロに出ちゃってますよ!?」

 

ナンデスト!!?

しまった!!俺がアクア達を起こせば良かった!!!

 

「まったく!どうやったらそんな事になるのですか!?

それと、カズマ!!こっちを見ようとしないで下さい!!」

 

クソ!それはねーだろ!!

 

「それで、一体何があったんだ?」

 

変態モードから一転して真面目モードに切り替わったダクネスが俺に問い掛けて来る。

 

「ん、ああ!そうだった!!何かがこの小屋の周りに居るんだよ。」

 

相変わらず、敵感知に反応はない。

…そうだ!盗聴スキルなら!

 

盗聴スキルを使うと、微かにひたひたという音が無数に聞こえてくる。

 

「…はっ?……何かすげえ数の音が聞こえるんだけど…」

 

「ふぁぁ、どういう意味よ、カズ…ん?…何か臭わない?」

 

ん?ああ!トイレの扉が開けっ放しだった。

俺はそっと扉を閉める。

 

「あ、アクアさん!?あ、あれ!」

 

ゆんゆんが何かに怯えるように指を指す。

 

「「「「っ!?」」」」

 

ゆんゆんが指し示した方向へ、全員が振り返る…だが先程と同じく何も居なかった。

いや、居るのは分かっている。何かが這いずるようなこの音。

アクアの発言から、示される答えは…十中八九アンデッドだ。

 

ドン!!

 

不意に玄関の方から、叩くような音が鳴る。

すると、どんどん叩く数が増えていく。

 

「この気配はアンデッドね!私達の安眠を妨害するなんて、良い度胸じゃない!?」

 

アクアは腕捲りをしながら、肩をコキコキと鳴らす。

 

「って、バカ!今出て行ったら囲まれるぞ!」

 

アクアが玄関に近づくと、外に居る連中が一斉に雄たけびを上げた。

それと同時に敵感知のほうにも一斉に反応が出る。

 

「ちょ!?多いってレベルじゃねーぞ!?」

 

数だけで言うなら、何時かのリザードランナーと変わらないかも知れない。

 

「なら、此処は私の出番だな!」

 

いつの間にか鎧までしっかり着込んでいたダクネスがアクアの前に立つ。

 

「気をつけろよ、ダクネス!…アクア全員に支援魔法を!!迎え撃つぞ!」

 

バン!!っと、ダクネスが勢い良く扉を開ける、

その衝撃により群がっていたアンデッド達が吹き飛ばされる。

 

「さあ!私が全てを受け切ってみせよう!」

 

頬を赤らめたダクネスがアンデッド達に突撃した。

あのバカ!まだ支援が途中だってのに!!

 

「アクア、予定変更だ。浄化魔法で殲滅を急いでくれ!

俺も前に出るから、めぐみんは全体指揮を頼んだ!!」

 

「わかったわ!」「分かりました!」

 

身体強化魔法と支援魔法を掛けて杖を置く。

 

ちゅんちゅん丸を抜きながら、外へ飛び出すとアンデッド達が押し寄せてくる。

 

「ダクネスの奴、デコイを使ってないのか!?…クッ!『ファイア・ボール!』」

 

目の前に迫ってきた奴を切り払い、集団に向けて炎玉を放つ。

 

「カズマ!数は多いですが、相手は最下級のアンデッドだけみたいです!」

 

「了解だ!」

 

それなら、ダクネスは放置していても問題ない。ベルディアの攻撃すら耐え切ったダクネスだ。

流石に下級のアンデッド相手に倒れる事は無いだろう。

 

「ははは!当たる!当たるぞ!見てみろカズマ!こいつらに私の攻撃がガンガン当たっているぞ!!」

 

は?ダクネスの攻撃がガンガン当たる?

…いや、以前よりはマシになっているだろうけど、

止まっている相手にすら外すお前が、ガンガン当たるってどういうことだ?

 

気になってダクネスが居る方を見ると、次々にとアンデッド達を薙ぎ倒しているダクネスの姿があった。

 

「!?」

 

え?如何いう事?あいつ両手剣スキルでも取ったの!?

 

「って!…あっぶね!」

 

ダクネスの方に注意が行き過ぎていて、俺は噛み付かれそうになったが、

ゆんゆんの援護攻撃で事無きを得る。

後方から様々な支援を受けながら、俺は小屋への侵入を防ぐ。

若干余裕が出て来たので、もう一度ダクネスの様子を見る。

 

可笑しいな?俺にはアンデッド達が、ワザとダクネスの剣に当たりに行っている様に見えるんだが。

 

「カズマ、道を作ってください!敵の数が大分減ったので、そろそろ上級の浄化魔法を撃てる余裕がある筈です。」

 

「分かった!ゆんゆん、援護を頼む!」

 

「任せて下さい!カズマさん!!」

 

ゆんゆんの援護を受けながら、道を切り開く。

先程から、デコイスキルで此方に呼んでいるのだが。何故か抜けていく奴が多い。

 

「クソ!上手く寄りやがらねえ!!」

 

「大丈夫です!アクアさんは私が護ります!」

 

抜けていく連中をゆんゆんが次々に光剣で倒していく。

 

「二人とも良くやったわね!ふふん、後は私に任せておきなさい!!

…『セイクリッド・ターンアンデッドー!!』」

 

アクアを中心に極大な魔法陣が現れる。

青白く輝く浄化の光に包まれて、アンデッド達は死体も残さずに消えていった。

 

「…終わりましたかね?」

 

「む、もう終わりなのか…もっと愉しみたかったのだが。」

 

念の為に敵感知と盗聴スキルで周囲を探る。

すると、先程までは静寂に包まれていたこの地に

小動物の気配や昆虫の羽音等が聞こえてくる。

 

「…どうやら、本当に終わったみたいだ。」

 

それにしても、何故敵感知に反応がなかったんだろう?

敵感知は、敵意を持っている相手に反応する。

つまり、最初に反応がなかったという事は、

あのアンデッド達は敵意を持っていなかったって事になる。

 

「カズマー、私達叩き起こされたから、もう限界なんですけどー。」

 

「ん?ああ、分かった。」

 

「じゃあ、後は任せるわねー。ゆんゆん寝ましょう!」

 

「あ、はい!…すみませんカズマさん、先に休ませてもらいますね。」

 

ゆんゆんは申し訳無さそうな顔を此方に向けてから、アクアと一緒に部屋へ戻っていった。

 

「良いのですか?カズマ。襲撃が起きたばかりですし、もう少し警戒しておくべきでは?」

 

「それは、俺が起きておくから大丈夫だ。めぐみんも休んでていいぞ。」

 

めぐみんの背中を押して、寝るように促す。

 

「カズマだけに任せるというのは気が引けるのですが、カズマは休まないのですか?」

 

「朝方になったら、誰かに交代してもらうよ。だから、そんな心配はするなって。」

 

「むう、分かりました。カズマも無理はしないで下さいね。」

 

俺だって本当は今すぐにでも寝たいよ。けど、さっきの様に敵感知に掛からない相手だと困るだろ?

 

不服そうに、頬を膨らませているめぐみんを休ませて、俺は椅子に腰掛ける。。

それにしても、敵意が無いのなら何故あのアンデッド達は寄ってきたんだろう?

 

「戻ったぞ。…む?みんなは寝たのか?」

 

アンデッド達から揉みくちゃにされていたダクネスが、汚れを落として戻ってきた。

 

「お帰り、念の為に見張りをしておくからお前も先に寝ていいぞ。」

 

「む?カズマは寝ないのか?」

 

「あんな事が遭ったばかりだし、一応警戒しておこうと思ってな。」

 

「そうか、それなら私も付き合うぞ。」

 

ダクネスの申し出はありがたいが、出来れば交代を頼みたい。

アクアは起きないだろうし、まだ成長期のめぐみんやゆんゆんはゆっくり寝かせておきたい。

そう!特にめぐみんには色々と育って貰いたい!!

 

「いや、ダクネスは先に寝てくれると助かる。後で見張りを交代して貰いたいからな。」

 

「そうか、それなら先に休ませて貰おう。」

 

ダクネスがベッドに入ったのを確認して、俺は荷物の中からマグカップと珈琲の粉袋を取り出す。

 

「『クリエイトウォーター』」

 

珈琲に水を注いで、カップの底をティンダーで暖める。

 

「…ふう。」

 

珈琲を飲んで一息を入れ、先程の件を考える。

 

結局、あのアンデッド達は何処から来たんだろうな?

そもそも、ここに集まってきた理由も分かっていない。

それに、いくら最低位のアンデッドだと言っても、

あれ程の規模なら、ギルドに何かしらの情報が入っていてもいい筈だ。

 

「となると…」

 

一番有力なのは、やはりダンジョンか?でも、あんなにアンデッドが居るとは聞いてなかったが。

ここは初心者向けのダンジョンだった筈だ。それなのに、あれ程いるなんてあり得るのか?

…つっても、まだダンジョンから出て来たとは決まってないか。

 

気になる事はあっても、此れと言った答えを出す事が出来ず、手持ち無沙汰になってしまった。

…自分で見張りをすると言ってしまった手前…あまり言いたくはないが。

はっきり言って暇だ!

格好なんてつけずに、めぐみんかダクネスを付き合わせるべきだったかなぁ。

 

頬杖を着きながら、めぐみん達の方を見る。

皆幸せそうに寝てやがるな…

ああ…まだまだ、夜は長そうだ。

 

 

――――――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めたのは、もうすぐ昼と言う時間だった。

 

「あ!カズマさん、おはようございます。」

 

「やっと、起きたわね!皆もう待ち草臥れてるわよ!」

 

まずったな、三時間程の仮眠で済ませる予定だったのに、大分寝過ごしちまった。

まだ、完全には頭が回っておらず、寝過ごしてしまった事への弁明を考えていると…

 

「カズマ、おはようです。食事は食べられますか?」

 

「ああ、貰うよ。」

 

予定より大分遅れてしまったが、今更飯を抜いた程度で、時間は大して変わらないだろう。

 

「ねえ、カズマー。私は早く行きたいんですけどー。」

 

飯を食っている横でアクアがぶつくさ文句をたれる。

分かってるっての!寝坊しちまったけど、飯くらいは食わせてくれよ!?

 

「カズマ、気にしなくていいですよ。文句を言っているアクアも、起きた時間は遅かったのですから。」

 

めぐみんに痛い所を突かれたのか、アクアは顔を逸らして下手な口笛を吹き始めた。

こ、こいつ……まあいい、とにかくこれでゆっくり飯が食える。

 

「ちょっと、めぐみん!アクアさんだって、昨晩あれだけ浄化魔法を使ったのだから、疲れてるのは当然でしょ!」

 

「アクアは十分に睡眠を取れている筈ですよ。アクアが起きてこれなかったのは、

二人して朝早くからベッドの中でゴソゴソしていたからじゃないんですか?

まったく、朝からナニしてるんですかね?お二人は!!」

 

ゆんゆんがアクアを庇ってめぐみんに食い掛かるも、めぐみんが即座に反撃に出る。

 

ちょっと待ってくれ!その話を詳しく教えてくれないか!?

っていうか、アクアの顔が赤くなってきてるんだが?マジで二人してナニしてたんだよ!?

 

「な!?ナニもしていないわよ!そう言うめぐみん達だって、昨日寝る前に…!」

 

げ!見られていたのか。…もう開き直っちまった方がいいかな。

 

「おい!二人とも!喧嘩はやめないか!」

 

「私は喧嘩しているつもりはなかったのですが、ゆんゆんこの話は終わりにしましょう。」

 

「むう!…わかりました。」

 

ダクネスに怒られて、二人は渋々言い争いをやめる。

…事の発端が俺なだけに居心地が悪いんだけど…。すまん!めぐみん、ゆんゆん!

心の中で二人に謝りつつ、飯をかっ食らう。

 

「ご馳走様。じゃあ、片付けたら行くか。」

 

「では、私が後片付けをしておくので、カズマは準備を整えてください。」

 

「済まないけど、頼むよ。」

 

めぐみんに後片付けをしてもらい、俺は支度に入る。

…何か仕事に行く夫と、それを支えてくれる妻って感じがして…

何か、こういうのも悪くないなぁ。

 

「カズマ、何面白い顔してるのよ。」

 

浸りきっていた気分はアクアによってぶち壊される。

面白い顔って何だよ…

アクアに文句を言いたくなるのを我慢して準備を終わらせる。

 

「めぐみん、こっちは終わった。」

 

「此方も終わりです。では行きましょうか。」

 

 

小屋から荷物を引き払い、ダンジョンへ移動する。

 

「やっとダンジョンに入れるわね。」

 

「カズマ、隊列はどうする?」

 

「斥候役の俺が先頭で、少し離れてめぐみん、ダクネス、ゆんゆん…そして最後尾がアクアだな。

めぐみんが松明を持つから、光源の確保は出来るだろう。だからダクネスは三人を護ってくれ。」

 

「分かった。」

 

「それから、戦闘時の指揮は私が執りますよ。その方がカズマも動き易いでしょうから。」

 

「よし、皆行くぞ!」

 

さあ、初めてのダンジョン探索だ。気合を入れて行こう。

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

 

≪アクア視点≫

 

昨夜のアンデッド騒ぎとかカズマの寝坊とか、色々と予定は狂ってしまったけど、

ようやくダンジョン内に入る事が出来たわね。

私達の予想通り、キールの遺産があればいいのだけど…

 

長い階段を下りて、広めの場所に出るとカズマが動きを止める。

 

「ん、敵感知に掛かったな。警戒しててくれ。」

 

どうやら敵がいるようね、初心者のダンジョンって話だし、強いモンスターは出ないと思うのだけど。

それにしても、此処はアンデッド臭いわね。もしかして昨夜のアンデッド達は此処から出て来たのかしら?

 

私達が警戒をしていると、低級の悪魔が現れた。

グレムリンじゃない、悪魔までいるなんて道理で臭いわけね。

 

「…よし、感知範囲にはいないな。とは言っても昨日の事もあるから警戒だけはしてくれ。」

 

そういえば、昨日カズマが言ってたわね。

敵感知にアンデッドが引っ掛からないなんて、カズマ寝ぼけて違うスキルを使ってたんじゃないかしら?

 

その後も順調に進み、大分奥まで進む事が出来た。

そして、少し広めの部屋に辿り着く。

 

「あ、カズマ!宝箱よ!!」

 

運が良いわね!これも私の普段の行いが良いからなのね!?

宝箱に近づこうとすると、カズマがいきなり私の腕を掴んだ。

 

「ちょっと、何するのよ!カズマ!?」

 

「待てって!…その宝箱から敵感知の反応が出ているぞ。」

 

え?そんなミミックみたいなモンスターなんて居たかしら?

 

「ダンジョンモドキですね。アクアさん、あれは擬態しているんだと思います。」

 

ゆんゆんが適当に石を拾って、宝箱に投げつける。

すると、空間が歪み巨大な口が現れて石を飲み込んだ。

 

何あれ!?怖いんですけど!!

 

「退治して置きますね、『ライトオブセイバー!』」

 

ゆんゆんの光剣で宝箱のある空間が切り裂かれる。

モンスターから断末魔のような、不快な音が聞こえると宝箱と共にモンスター消滅した。

 

「せっかく見つけたと思ったのに…」

 

「まあ、アクア。そう落ち込むな、何…此処はまだ探索されている範囲内だ。

アクア達が言っていた遺産があるとすれば、隠し部屋の類だろう。」

 

私が落ち込んでいたら、ダクネスがフォローしてくれた。

カズマももう少し、私を気遣ってくれてもいいのに!

 

「そうね、隠し部屋…絶対に探さないとね!」

 

と力強く宣言していたけれど、結局隠し部屋の類は見つけられずに最奥まで進んでしまった。

 

「…ここで行き止まりですね。」

 

「んー?何処か見落としがあるのかなー?」

 

もしかして、空振りなの?

私が俯いていると、カズマが壁を調べ始める。

 

「ん?どうしたんだ、カズマ?」

 

「…此処ってさ、人工的に作られたダンジョンなわけだろう?」

 

「ああ、そう伝わっているな。」

 

ダクネスの答えにカズマは思案し始める。

 

「なあ、めぐみん。お前は如何思うよ?

人工的に作られたダンジョンの最奥がこんな半端な場所だと思うか?」

 

「そうですね…カズマの言う通り、可笑しな話です。普通に考えるなら部屋があっても良いと思うのですが。」

 

つまり、この辺りに隠し部屋があるかも知れないって事!?

 

私もカズマに習って、壁を調べ始めると不意に壁が動いた。

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「其処に誰か居るのかね?」

 

壁が開ききると、声の主が姿を現した。

!?リッチーじゃない!?

不味いわ!いくらカズマ達でも相手が悪すぎる!!

 

「皆!リッチーよ!!離れなさい!!」

 

私の言葉にカズマ達は驚いて後ずさる。

ここは私が前に出ないといけないわね!

 

「待ってくれないか?確かに私はリッチーだが、君達に危害を加えるつもりは無い。」

 

は?…うーんウィズの例もあるけど!

というか、このリッチーどうみても魔物なんですけど!骸骨なんですけどー!

 

私が杖を構えるとカズマが引き止める。

 

「ちょっと待てアクア。…アンタ、危害を与える気が無いって本当か?」

 

カズマがそう問いかけると、カッカッカとリッチーは笑う。

…邪悪ね、やっぱり浄化しようかしら!

 

「いや、済まないね。久々の客人で気分が高ぶってしまったようだ。

本当に危害を加えるつもりは無いさ。ただ、頼みたい事はあるがね。」

 

「頼み?」

 

リッチーの言葉にカズマが警戒しながら聞き返す。

 

「ああ、…私を浄化してくれないか?」

 

「え?浄化?」

 

「実は昨夜、強烈な光を浴びてね、それで私は目覚めたのだが

他のアンデッド達も目覚めてしまってね。私は暫く静観しようと思っていたら……

その光の主が、こうして私の元にやって来たではないか。」

 

「「光の主?」」

 

カズマとめぐみんが顔を見合わせる、そして二人して私を見てきた。

 

「…なあ、めぐみん…昨夜アンデッドが寄って来たのって…」

 

「…でしょうね、どうしましょうか?」

 

「とりあえず、このリッチーの話が先だな。」

 

「ですねぇ、それにしてもリッチーが浄化を頼むなんて…」

 

二人が此方をチラチラ見ながら何か、ヒソヒソ話しているんですけど…

 

「あー、リッチーさん?何で浄化をして欲しいんだ?」

 

「おっと、その前に紹介が遅れたね。私はキール、嘗て偉大な魔法使いとして名を馳せた咎人だよ。」

 

キール!?え?このリッチーが!?

 

キールと名乗ったリッチーは事情を話してくる。

 

「成程な、その愛するお嬢様を護るためにリッチーになったのか。」

 

カズマは深く感心するように、頷いていた。

 

「如何だろう?そこの女性は私を浄化するだけの力があるのだろう?私を逝かせてはくれないか?」

 

キールの言葉に皆が私を見つめる。

そうね、逝かせてあげましょうか!

 

「分かったわ、私に任せなさい!」

 

「おお!ありがたい…リッチーが自殺するなんてシュールな事は出来なかったのでね、本当に感謝するよ。」

 

「そんな事を考えるだけで十分シュールよ。」

 

「ふふ、違いない。…そうだ、このお礼に其処に在る私の財産を持っていくが良い。」

 

ふむふむ、中々殊勝な心がけじゃない!

私が魔方陣を展開すると、キールは自嘲気味に呟く。

 

「…私はお嬢様を幸せにする事が出来たのだろうか。

長い逃亡生活につき合わせてしまって、お嬢様は笑顔を絶やさなかったが…」

 

……

 

「神の理を捨て…自らリッチーと成ったアークウィザード、キール。

水の女神アクアの名において…貴方の罪を許します。」

 

「…カズマ、私にはあそこに居る人が、ちょっと誰だか分からないのですが。」

 

「言うなめぐみん、俺も思ったから。」

 

「ちょ、二人ともアクアさんに失礼じゃない!」

 

…外野煩い、ゆんゆんフォローありがとね。…コホン!

 

「目が覚めるとエリスと言う胸が不自然に膨らんだ女神がいるでしょう。

…もし、貴方がどのような形であっても、彼女との再会を望むのなら、その女神に頼みなさい。

貴方の想いが本物であるのなら、きっと叶えてくれるわ。」

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド!』」

 

キールは光に包まれて天に昇っていく。

エリス、彼の事を頼んだからね!

 

「さあ!お宝よー!!」

 

やっと財宝が手に入るわね!

 

「あ、カズマ!アクアが帰ってきましたよ!」

 

「そうだな!やっぱアクアはこうだよな!」

 

「だから二人ともー!!」

 

あの二人、私に対して容赦なさ過ぎないかしら!?

少しは私を褒めてよ!

 

 

 

 




今回は此処までです。
皆様も体調にはお気をつけください。

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