このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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平和な時間

翌朝

 

まだ薄暗く、日も出ていない町を、めぐみんと共に歩く。

 

「…めぐみんさ、あれは流石にやり過ぎじゃないか?」

 

「う、言わないでください!私も途中から意識が途切れそうになっていたんですから!」

 

ああ、やっぱりそうだったのか。

うわ言の様に俺の名前を呼び続けて、虚ろな目で涎を垂らしながら動いていたし、

此方からはいくら呼びかけても、反応すらない状態だったからな。

 

その光景を思い出しただけで、また元気になって来てるんだから、俺も懲りないよな。

でも、あのめぐみんはマジで綺麗だったなぁ。

 

「ああ、そうだ!あのめぐみんは髪の毛が長かったけど、伸ばしたりする予定はあるか?」

 

「うーん、そうですねぇ…カズマは長い方が良いですか?」

 

「まあ、長い方が好みだな。あのめぐみんもすごく似合っていたし。」

 

「そ、そうですか。少し複雑ではありますが、あの姿の私も気に入ってくれたんですよね?」

 

「ああ、正直言ってかなり好みだったよ。」

 

本当、ドストライクだったからな。欲を言えばもう少し胸があればとは思ったけど。

でもまあ、あの華奢な体なら、あれぐらいのサイズが丁度良いのかもな。

 

「…カズマが其処まで言うのなら、髪を伸ばす事にします。

その、長い髪は手入れが大変なので、伸びて来たら手入れを手伝ってくれますか?」

 

「風呂上りに髪を乾かしたりとか、寝る前に梳かしたりか?」

 

「そうです!…カズマ、やってくれますか?」

 

めぐみんは不安げな表情で聞いてくる。

 

うーん、想像してみると悪くない。

それに続けていれば、娘が生まれた時も父娘のスキンシップを図る事が出来そうだ。

 

「ああ、やってやるぞ!俺達そういう恋人っぽいこと全然やってないしな!」

 

「…恋人っぽい事が出来ないのは、カズマがすぐにセクハラをするからでは?」

 

唐突にめぐみんから反撃を受けて、返す言葉も浮かばず俺は固まってしまった。

畜生、何も言い返せねえ…。

 

「…い、いや、触れ合いっつうかスキンシップって大事じゃね?」

 

「ふむ、カズマの中では胸やお尻を揉みしだくというのがスキンシップとやらに入るのですね?」

 

「あ、えーとダメかな?」

 

「では、今後はアクア達に近づかないで下さい。無論他の女性にもです。近づいた時点で浮気と見なします!」

 

「調子こいてすんませんでしたー!」

 

めぐみんに論破された俺は、早朝の人通りの無い往来で、其れは見事な土下座を決めた。

 

 

 

 

―――――――――…

 

 

 

 

 

その日の昼、珍しくゆんゆんが一人で出掛けたので、アクアは暇を持て余していた。

宴会の後に泊まっていったメンバーも、朝食後には解散していたのでかなり暇だったらしい。

 

「めぐみん!ダクネス!たまには女の子同士で交流しましょう!!」

 

突然そんな事を言い出したアクアが、めぐみんやダクネスを誘って遊びに行ってしまった。

俺は一人で屋敷に残されたので、暇になってしまった。

 

屋敷で料理開発をしていても良かったんだが、昨日大量に作ったばかりなので今はその気力が無い。

一人寂しく昼食を済ませた俺は、町へ買い物ついでの散歩に出掛けた。

 

「めぐみんの誕生日プレゼントがまだ決まらないんだよなぁ。」

 

俺は独り言のように、ぼやく。

 

プレゼントは二つ用意しようと決めているので、正確に言えば一つは決まっている。

決まっているプレゼントと言うのは、俺とめぐみんの婚約指輪だ。

俺の覚悟を伝えるのに、これ以上最適なプレゼントはないと思っている。

 

ただ、此れは俺のケジメの様な物なので、此れとは別にめぐみんが喜びそうなものを送りたい。

 

だが困った事に、俺にはそういう経験がまったくない。

めぐみんぐらいの年頃の女の子が喜びそうな物って何なんだろう?

そもそもめぐみんって、普通の女の子という枠に括っても良いのか?

 

「とりあえず、指輪を買いに行くか。」

 

銀行でそれなりの貯金を下ろして、宝石店に向かう。

 

「知り合いに会わなきゃいいけど…。」

 

恐る恐る店内へと入ったが、俺の心配とは裏腹に特に誰とも遭遇しなかった。

 

「いらっしゃいませー。どのような物をお探しでしょうか?」

 

宝石店の若い女性店員さんが俺に声を掛けて来た。

 

「えあ!…そ、その!こ、婚約指輪をを!!」

 

慌てて返事をしようとして、思いっ切り噛んでしまった。

 

テンパった俺の様子を見て、お姉さんは笑いを堪えながら話し始める。

 

「…婚約指輪でしたら、此方のケースです。」

 

「あ、はい…。」

 

俺は気恥ずかしさで顔を上げることも出来ないまま、ショーケースに近づく。

展示された指輪の値段を見ると数万エリスの物から数百万エリスする物まである。

 

「…あ!指輪のサイズ確認してねーじゃん!」

 

うーん、一度めぐみんと一緒に来るしかないか?

そうなると指輪は誕生日のプレゼントには出来ないな。

 

あーでも、誕生日のサプライズからのデートで指輪を渡すという当日のプランが…

 

「彼女さんはまだ成長期なんですし、少しぐらいであれば大きめのサイズでも良いと思いますよ?

どうしても気になるのでしたら、此方に便利なマジックリングも取り揃えてありますよ!」

 

「マジックリング?」

 

「はい!自動的にサイズ修正してくれるリングです。

通常のリングより少し値は張りますが、お客様なら誤差だと思いますよ?」

 

おお!そんな便利な物があるのか!?

提示された値段を確認すると確かに問題ない金額だ。

リングの方は此れにするとして、あとは宝石か。

………ん?今の会話の流れ、可笑しくなかったか?

 

「あれ?俺、お姉さんに相手の事を伝えましたっけ?」

 

確か言ってない筈だ。何でこの人は俺達の事を知ってる風なんだ?そういうセールストークか?

 

「あ!申し訳ありません!!有名な方だったのでつい…。」

 

「え!?…あの、俺はどの様に有名なんですかね?」

 

「えーとですね…。アクセルの爆裂コンビにして、所構わずイチャつくば…カップルだと…。」

 

お姉さんは目を泳がせながら、言葉を選ぶように説明してくれた。

というか、一応言葉選んでるっぽいのにバカップルって言いそうになったよな!?

…それは一先ず置いておくとしても、俺達の事どれだけ伝わっているんだ!?

 

「…えっと、その話はもういいです。とりあえずお勧めの宝石ってありますかね?」

 

「あ、はい。そうですね…。

婚約指輪でしたら、そこまで高価な石をつける必要は無いとは思いますが、

そのまま結婚指輪として扱うというのなら、お勧めの宝石がありますね。」

 

「え?兼用にしちゃっても良いものなの?」

 

「それは、彼女さん次第ですね。やはり一生物ですし、別々に欲しいという女性も多いですから。」

 

めぐみんはかなり倹約家だし、兼用を選びそうではあるけど。

 

「うーんとりあえず、お勧めの宝石という奴を見せてもらえますか?」

 

「はい!…此方になります。」

 

お姉さんはカウンターの下から高そうな箱を取り出し、中身を見せてくれた。

 

「この宝石は身に着けた人の魔力を高めてくれる宝石なんです。」

 

ほう!魔力を高める効果があるのか!

折角のペアリングだし、そういう効果があるのは良いな!

あーでも、マジックアイテムだろうし、かなり高いんじゃないか?

 

「それで、幾ら位なんです?」

 

「そうですね、一つで300万、ペアなら500万という所でしょうか。」

 

ペアで500か…貯金の半額ぐらいだから出せない額じゃないけど。

越冬の準備もあるし、これから結構入用に成るんだよな。

食費もバカみたいに高いし、今この時期に高い買い物をすると言うのは…

 

 

よし、決めた!

 

「買います。ペアリングでお願いします。」

 

「おお!本当ですか!?では先程のマジックリングはサービスしておきますね!」

 

此れも惚れた弱みと言う奴だな。

指輪を手にして喜んでいる姿を想像しただけで、是が非でも手に入れたくなっちまったよ。

 

指輪の購入を決めた俺は一度銀行に戻り、必要額を追加で下ろして再び宝石店に戻った。

高額商品の購入という事で、俺が銀行から戻ってきた後は店主さんが丁寧に応対してくれた。

 

お店の奥に在る豪華な応接室に案内されて、商談に入る。

スムーズに商談が進むと、店主さんは気を良くしたのか、

おまけのアクセサリーを数点付けて貰って商談は成立した。

 

無事に目的の者が手に入った上に、おまけまで貰えたので、俺は上機嫌で応接室を出る。

 

「では、今後もご贔屓に。」

 

考えてみれば、こんな所に来る奴なんていないよな。

野郎共は勿論。仲間や女友達連中にも此処に来る奴なんて…。

 

そんな事を考えながら店内に戻ると、見知った奴に呼び止められた。

 

「あ!カズマさん!」

 

「ゆんゆん!?…こんな所で会うなんて珍しいな?」

 

「アクアさんから、珍しい石を集めるのが趣味だと聞いたので、

何か珍しい宝石でもないかなと思って来たんです。」

 

…吃驚した…。でも、此処に来てたのがゆんゆん一人でよかったわ。

アクアも一緒だったら根掘り葉掘り聞かれていただろうからな。

 

「ところでカズマさんはどうして此方に?」

 

…ゆんゆんには色々ばれちまっているし、この際相談するのもありか。

 

「あー、めぐみんの誕生日プレゼントを探していたんだよ。」

 

「そういえば、そろそろでしたね。私も何か探さないと…。」

 

「ゆんゆんはめぐみんと幼馴染だったよな?何かあいつが好きそうな物知らない?」

 

「…判りますけど、カズマさんはもう買ったんじゃないんですか?

其れ、めぐみんへのプレゼントですよね?」

 

「ああ、これはな…。」

 

俺はゆんゆんに近づくように手招きをすると、ゆんゆんは素直に近づいてくる。

俺は周囲を確認しながら、周りに聞こえないように小声で話し始める。

 

「…ゆんゆん、これから俺が言う事を秘密に出来るか?」

 

「はい!カズマさんは大切なお友達ですから!」

 

「……アクアに聞かれても、言っちゃダメだぞ!?」

 

「…は、はい!だ、大丈夫です!」

 

言っちゃっても平気なんだろうか?

そもそもこういう話って、女の子的には話したい内容なんじゃないか?

でも、伝えないと余計な勘ぐりをされそうだし、下手をしたらめぐみんにばれる。

 

「じゃあ、言うぞ。…俺が買ったのはペアの指輪だよ。」

 

「…え?ええ!?」

 

「ゆんゆん!声がでかいって!!」

 

「あ!?」

 

俺の言葉に、ゆんゆんは慌てて自分の口を手で塞いだが、その目は赤く輝いていた。

 

「あの、其れって…!?…もしかして、そういう事なんですか!?」

 

ゆんゆんは期待に満ちた目で俺の事を見てくる。

 

「ああ、そうだよ。」

 

「ふああ…カズマさんって意外と男らしいんですね。」

 

「おい!?意外とって何だよ!?」

 

「あ!!御免なさい!!変な意味で言ったんじゃないんです!!

ただ、カズマさんってヘタ…大胆な事をしない人だと思っていたので…。」

 

今絶対ヘタレって言いかけたよな!?

 

文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、ゆんゆんってガチで怯えるから言い辛いんだよな。

っていうか、ゆんゆんに余計な事を吹き込んでいるのって、絶対アクアだろ!

今度アイツが大事にしている酒を、料理で使ってやろうかな!?

 

「と、兎に角!絶対に黙っていてくれよ?めぐみんを驚かせてやりたいんだから。」

 

「わ、分かりました!あ、それならこっそり誕生日会の準備をするのはどうですか?」

 

誕生日会か。成程、悪くない。

 

「…悪くは無いがめぐみんにばれずに出来るのか?」

 

「大丈夫です!上手くやって見せます!あ、でも、お料理はカズマさんにお願いしたいです。」

 

「それは別に良いけどさ、本当に上手くやってくれよ?」

 

「はい!任せて下さい!」

 

心配ではあるけど、協力を得られたのは正直嬉しい。

どうせなら、皆で祝ってやりたいもんな!

 

「ああ、そうだ!話を戻すけど、めぐみんの好きな物が判るって言っていたよな?」

 

「あ、はい。めぐみんが欲しがりそうな物は大体わかりますよ。」

 

おお!此れは心強い!

 

「それならゆんゆん、今から時間はあるか?」

 

「大丈夫ですよ。今日の用事は終わりましたし、此処の商品も見終わりましたから。」

 

「そういえば、今日は朝から出掛けてたんだよな。何処に行っていたんだ?」

 

「実家です。一応私は長の娘なので、定期的に連絡を入れる必要があるんです。」

 

「そういえば、次期族長だったっけ。ゆんゆんも大変だなぁ。」

 

「確かに以前までは大変だったんですけど、今はテレポートを覚えたのでかなり楽ですよ。」

 

移動もそうだけど、定期的に報告って事自体が面倒じゃないか?

其れを気にしない辺り、ゆんゆんはやっぱり真面目なんだな。

 

「それではカズマさん、めぐみんのプレゼントを探しに行きましょうか!」

 

「ああ、頼むよ。」

 

ゆんゆんと一緒に雑貨屋を回った。

おすすめ商品を改めて確認すると、如何にも中二向けという様な商品が多かった。

めぐみんの趣味はやっぱりこっち方面なんだな。

流石に無いよなと思って除外していたんだけど、これはそっち系を買うべきかな。

 

「何か気になる物はありましたか?」

 

「うーん、イマイチしっくり来るものがないんだよな。

それに、どうせ送るんなら実用性があって、使ってくれる物がいいし。」

 

「実用性ですか…。あ!お財布とか如何ですか?」

 

成程財布か!めぐみんが今使っているガマ口財布は、使い辛そうだもんな。

でも、財布のデザインってシンプルな奴しかないんだよな。…まてよ?

 

「…裁縫スキルを使えば財布ぐらい作れないか?」

 

「手作りですか!?それは良い考えですね!」

 

「よし!そうと決まればここで材料を買っていっちまおう!」

 

よし、俺が持っている日本の長財布を参考に作ってみよう。

メインの素材は牛皮だな、チャックの部分は鍛冶スキルで何とかしてみよう。

後は装飾用にめぐみんが好きそうな物をいくつか買ってと…。

 

「え?カズマさん、そんなに買うんですか?」

 

ゆんゆんに指摘されて、我に返る。

改めて自分の状況を確認すると、両手一杯に材料を持っていた。

 

「…あーほら、一発で成功するとは限らないし。」

 

此れぐらいは必要だと、自分とゆんゆんに言い聞かせる。

…明日はクエストに行こう。ちょっと散財しすぎたな。

 

帰りに食材の買出しに行って、屋敷に戻った。

めぐみん達がまだ戻っていなかったので、空き部屋を掃除して材料や指輪を仕舞う。

よし、この部屋は俺の工房という事にしよう。

 

とりあえず、財布作りは後回しにして工房としての体裁を整えるか。

 

先ず作るものは…。

ふと、昨日の記憶が蘇る。そうだ!台車が欲しかったんだっけ。

車輪の部分さえ何とか出来れば、作る事が出来るはずだ。

 

 

 

―――――――――…

 

 

 

 

 

「ただまー!カズマーお腹減ったー!!」

 

俺が工房に篭って数時間が経過していた。

車輪作りは中々思う様には行かず、何とか形に出来た程度だ。

 

「お、戻ってきたな。今日は此れぐらいにしておくか。」

 

工房部屋にロックの魔法を掛けて、リビングに向かう。

 

「おかりー。楽しんできたか?」

 

「楽しめましたよ。カズマは如何していましたか?」

 

「うん?俺は買出しに行った後、物作りをしていたよ。」

 

「何を作っていたんです?」

 

「今作っているのは台車だな。小さい車輪を付けた家の中用の奴だよ。」

 

「成程、昨日みたいに大量に料理を運ぶ時は重宝しそうですね。」

 

「そういう事だ。まあ、まだ作り始めたばかりだからあまり期待はしないでくれ。

…ああそうだ!一応部屋にはロック掛けたけど入るなよ?工具とかあって危ないからな。」

 

めぐみんだけでなく、アクアやダクネスにも注意を促す。

とは言っても、それ程危ない道具があるわけではないけど。

 

「カズマー!お腹空いたってば!ご飯まだー?」

 

「はいはい、今用意するからもう少し待って居ろよ。」

 

「あ、カズマ!今日はさっぱりした物が食べたいわ!」

 

「さっぱりした物って何がいいんだよ?」

 

「そうねえ、おうどんなんてどうかしら?」

 

うどんって、こいつはまた無茶な事を。

せめて、この世界にあるものにしてくれよ。

 

えーっと?確か小麦粉を塩と水で練るんだったっけ?

配分は覚えてないけど、俺には料理スキル先生がいるのでなんとかなるだろう。

 

「作れるとは思うけど、時間掛かると思うぞ?」

 

「インスタントでいいじゃない、ちょっと買って来なさいよ。」

 

「あるわけねーだろ!?アホかお前は!」

 

「う、怒鳴らなくてもいいじゃない…。そんなに怒らないでよ。」

 

…つい、イラっとして声を荒げちまったな。

 

「はぁ、とりあえずつまみの串焼きがあるから、それ食って待ってろよ。」

 

「う、うん…。」

 

俺に怒られたのがショックだったのか、アクアはしゅんとしていた。

その後は、何時も通りにゆんゆんがアクアを慰めていたので、すぐに元気を取り戻すだろう。

 

それを見届けた後、俺はキッチンに入る。

 

「さて、作るとするか。」

 

うどん作りの準備をしていると、キッチンにめぐみんが入ってくる。

 

「カズマ、何か手伝う事はありますか?」

 

「あーちょっと待って。………このレシピ通りに汁を作ってもらえるか?」

 

俺はうどんつゆのレシピをその場で書き出して、めぐみんに渡す。

 

「ふむ、此れが必要なのですね。…所でカズマ、これから作るうどんとはどのような料理なのです?」

 

「うーんと、小麦粉を練って細長くした物だよ。

それを今めぐみんに渡したレシピの汁に漬けて食べる料理なんだ。」

 

「そうですか、変わった料理ですね。あまり想像がつきません。」

 

「ま、一度食ってみればわかるだろ?…上手く出来ればいいけど…。」

 

「大丈夫ですよ!カズマの料理はどれも美味しいのですから!」

 

こういう時、めぐみんは俺を全肯定してくれるから、ついつい甘えてしまう。

 

「めぐみんの料理だって、全部美味いよ…っとそろそろ作り始めるか、アクアがまたごね出しちまう。」

 

「ふふ、そうですね。アクアは本当に大きな子供ですから。」

 

「違いない。」

 

女神なんてやっているくらいだし、俺達の中では一番年上だと思うんだけどな、アイツ。

実態は我侭なお子様って感じだけど。

 

めぐみんと笑い合い、料理に取り掛かる。

 

先ずは塩を水に溶いて、小麦粉の量はこれぐらいかな?

んで、少しずつ塩水を混ぜながら、タネを作っていくっと。

 

「あ、麺棒どうしよう?」

 

何か代用が出来る物が無いかとキッチン内を探していると、

復活したアクアがゆんゆんとダクネスを連れてキッチンに入って来た。

 

「まだ出来てないぞ、大人しく待って居ろよ。」

 

「邪魔して済まない、だがアクアが私達にも手伝えることがあると言っていたのでな。」

 

「私達もお手伝いしますよ、カズマさん!」

 

ん?手伝える事って何かあったか?

 

「カズマ、アレやらせてよ!足で踏む奴!」

 

ああ、その手があったか。

つっても、最後は伸ばさないといけないんだから麺棒の代用品は用意しておかないと。

 

「やるのは良いけど、ちゃんと足は洗って来いよ。」

 

「分かったわ!じゃ、ゆんゆん、ダクネス!お風呂に行くわよ!」

 

「ちょっと待ってくれアクア!足で踏むとは一体何だ?」

 

「アクアさん!もっと詳しく教えてくださいー!」

 

意気揚々とお風呂に向かうアクアを慌てて二人が追いかける。

 

「カズマ、今アクアが言っていた事は如何いう事ですか?」

 

「ん、そのままの意味だよ。コイツを踏むんだよ。」

 

と、めぐみんにうどんのタネを見せる。

 

「コイツをよく踏む事で弾力や噛みごたえを出すんだ。」

 

「…本当に変わった料理なのですね。」

 

「まぁ、そうかもな。っと、とりあえず人数分のタネを作っちまうか。」

 

アクア達が戻るまでに人数分のタネを揃え、めぐみんのつゆ作りを手伝う。

 

「戻ったわよー。」

 

「ああ、おかえり。そこに準備してあるから、早速やってくれ。」

 

「ええ!任せておきなさい!」

 

アクアが足踏みを始めると、風呂場で説明を受けていたのか、

ゆんゆんとダクネスも見よう見真似でやり始めた。

 

「むう、やはり食べ物を踏みつけると言うのは良い気がしないものだな。」

 

「もう!ダクネス!これは美味しくする為だと言ったじゃない!」

 

「こ、此れで良いんですよね?アクアさん、私ちゃんと出来ていますか?」

 

「うんうん!あ、でもゆんゆんは、もう少し強く踏んだ方がいいわよ。

其れこそ踏み抜くつもりでやった方が良いらしいわ!?」

 

「そうなんですね、頑張ってみます。」

 

ダクネスは複雑そうにしていたが、アクアとゆんゆんは楽しそうに足踏みをしていた。

 

「じゃあ、少しの間頼むわ。」

 

キッチンに皆を残して、俺は工房部屋に向かう。

確か木材も買っていた。それを軽く加工すれば、麺棒代わりに出来る筈だ。

 

俺は手早く木材の加工を済ませ、急いで皆の元に戻った。

 

足踏みを始めて数分が経過し、アクアが生地の具合を確かめ始める。

 

「んー?ねえカズマー、ちょっと見てくれる?」

 

「お?出来たのか?」

 

アクアに呼ばれて、生地の具合を確かめる。

 

「うーん、これぐらいなら後一回って所だな。」

 

「ん、わかったわ!」

 

俺が生地をたたみ直すと、アクアはそのまま足踏みを始めた。

 

「!?」

 

俺の目の前にアクアの生足が晒され、そのエロさについ見惚れてしまった。

 

「いでっ!?」

 

カランと音がなったほうを見ると、お玉が転がっていた。

どうやらめぐみんが投げてきたらしい。

 

「カズマ!何いやらしい目つきで見ているんですか!?」

 

「みみみ、見てねーしぃ!?い、言い掛かりは止してくれよ、めぐみん!!」

 

クソ、何で尽くめぐみんにバレるんだ?

てか、しょうがねえじゃん!目の前で美少女の生足が晒されたら、男は絶対見ちゃうって!

 

「めぐみんあまりカズマを怒らないであげて?カズマだって男の子なんだから、私に見惚れてしまうのは仕方の無い事なのよ!」

 

「だ、だから、見てねえって!!」

 

アクアの奴、絶対この状況を楽しんでやがるな!?

 

「カ、カズマ!此方は如何だ?」

 

めぐみんが目を光らせているので、俺はなるべくダクネスを見ないようにして、生地の具合を確かめた。

 

「えっと…。うん、これぐらいなら丁度いいな!」

 

「……。」

 

「うん?如何かしたのか、ダクネス?」

 

「カズマは何故、私を見てくれないんだ?」

 

「は?」

 

「アクアにした様な、いやらしく嘗め回す様な視線を、この私にもしてくれないか!?」

 

ダクネスは顔を紅潮させて、息を荒げながらアホな事を言い出す。

 

「や、やらねえっての!!」

 

ただでさえ、エロい身体をしていてその上薄着の状態なんだから、下手な事はいわないでくれよ。

毎度思う事だが、ダクネスは一体何処に向かっているんだろうか?

 

ダクネスが踏んでいた生地を回収して、作った麺棒で伸ばす。

打粉をしながら繰り返し、生地の弾力を確かめてから包丁を入れた。

 

「こんなもんかな?」

 

アクアとゆんゆんの分も回収して、同じ工程を繰り返す。

 

「中々良い感じになったじゃない!」

 

「じゃあ、仕上げるから皆は休んでてくれ。」

 

作った麺を鍋に入れて茹でる、その間に長ネギを刻み薬味の準備をする。

茹で上がった麺を回収し、人数分に小分けした後、どんぶりにうどんを入れて、

最後にめぐみんと一緒に味付けしためんつゆを入れる。

 

「よし!完成だ!皆、自分の分を運んでくれ。」

 

みんなでリビングにうどんを運び込む。

それぞれが食卓について、手を合わせた。

 

『いただきます!』

 

「ほう!これがうどんと言う物ですか!とても美味しいです!!」

 

「アクアから調理法を聞いた時は耳を疑ったものだが、この弾力に繋がると思えばやらない手はないな!」

 

「本当美味しいですね、アクアさん!」

 

「ふふん、どう?私が言った通り美味しいでしょ?」

 

「何でお前がドヤ顔してんだよ。手伝っては貰ったが、作ったのは俺とめぐみんだぞ?

ったく、こっちの小鉢に薬味も用意した、皆好みで使ってくれ。」

 

用意した薬味は刻みネギと刻んだ唐辛子…所謂一味唐辛子だ。

 

「あら?気が利くじゃないカズマー。うどんは薬味もいれないとね!」

 

「あまり入れすぎるなよ?」

 

「此れぐらい平気よ!カズマは心配性なのよ。」

 

そう言ってアクアは調子良く薬味を盛っていく。

アレ絶対むせる奴だ、アクアは本当にアホだな。

毎度毎度調子こいて自爆するんだから見てて飽きないけどさ。

 

俺はこれから起こるであろう事を予測し、丼を持って退避した。

 

「ブフッ!ゲッホ!ゲホ!」

 

「だ、大丈夫ですか!?アクアさん!?」

 

案の定アクアは涙目でむせて、手元に在る飲み物を一気に飲み込む。

 

「あ、其れ…。」

 

結構度数の高い酒じゃなかったか?

 

「ひぐぅ!?」

 

唐辛子で喉がやられている時にそんな物を一気飲みしたもんだから、アクアは悶絶していた。

 

「『クリエイトウォーター』…ほら、アクア水だ。」

 

「ひぅ、ありがとカズマー。」

 

アクアは涙目になりながら、コップを受け取った。

その姿を可愛いと思ってしまった事はめぐみんに内緒だ。

 

「ほら、俺のつゆを分けてやるから、ちゃんと食えよな。」

 

「うう、かじゅまさん、ありがとねー!」

 

本当に賑やかになったな。もう昔の生活には戻れねーわ。

…パソコンとネットは欲しいところだけど、それは無理だしな。

めぐみんとも、将来を誓い合っているし、何だかんだ言いつつも、

俺はこいつらの事を気に入っているんだな。

 

「かじゅまー!まだ辛い~!」

 

「自業自得だろ。残さずに食えよ?」

 

アクアは自爆したけど、うどん自体は高評価だったので、また今度作ってやるか。

 

騒がしくも楽しげな雰囲気のまま、夜が更けていった。

 

 




前回から引き続き料理ネタ連発です。
時間が時間なだけに、見事な自爆メシテロでした。…お腹空いた。

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