このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
何でまた暑くなるんだよ…
俺、ミツルギ、テイラーの3パーティーとウィズはクレア達に連れられて、
デストロイヤーの侵攻上にある、山間に囲まれた小さな町を訪れていた。
「此処も駄目だな。ミツルギ、次のポイントは?」
「うーん、そうだね。此処が駄目となると、こっちも駄目だろうから…。」
俺とミツルギは、迎撃ポイントを選出する為に、目星をつけた場所を探っていた。
山間に出来た町だけに、周辺は深い森と山に囲まれ、とてもじゃないが見通しが悪い。
『もっと手前で迎撃すれば!』という意見も出たが、魔物が多くて危険過ぎるという事。
それで結局、町の傍になってしまったワケだが…。
「やっぱり、ある程度開けた場所となると、どうしても町の近くになってしまうね。」
俺達が開けた場所を探している理由は、いくつかある。
先ず、ある程度の距離が無ければ、爆裂魔法が撃てない。
いかに爆裂魔法でも、アレだけの質量を持つ相手に対して、本体を破壊するなんて事は出来ない。
つまり、止める為には爆裂魔法の狙いを、デストロイヤーの脚部に絞る必要がある。
脚部は当然、要塞の下側についているので、見通しの悪い所では直撃させる事が難しい。
結界破壊を担当するアクアも、見通しの悪い所では危険が伴う。
それは連絡が遅れるという事もあるが、魔物に襲われる可能性もあるからだ。
結界破壊の最中に横槍が入れば、全てが水泡に帰する可能性もある。
そして、全体指揮を担っている俺は、瞬時に判断を下さないとならない。
少しでも判断を迷えば、作戦の失敗に繋がり、仲間や友人を危険に晒してしまう事になる。
「クソ!空を飛べるスキルが欲しいぜ!」
「ない物ネダリしても仕方ないよ。一回戻るしかないね。」
――――――――――…
「サトウ殿とミツルギ殿が戻られました!」
俺達が町に戻ると、待機していた騎士にクレアの元へ案内された。
「戻られましたか!それで首尾の方は?」
「予想通り、見通しが悪すぎて、迎撃に使えそうな場所はなかったですよ。」
「クレア様、ご期待に沿えず申し訳ありません!」
そう報告すると、クレアは表情を曇らせる。
「不本意ではありますが、やはり最初の案で行くしか無さそうですね。」
「準備の方は?」
「念の為に進めてあります。町の住人が協力的なので、今日のうちに完成出来そうです。」
準備と言うのは、物見櫓(ものみやぐら)の事だ。
この町の周辺地図を確認した時に、期待薄と思っていたので予め建設を頼んでおいた。
デストロイヤーの脚部は、左右両方破壊する必要があるので作ってもらう櫓は二つだ。
「それで他の皆は、何処です?」
「めぐみん殿とウィズ殿、そしてダスティネス卿以外の皆様は、櫓の建設を手伝っています。」
「うん?三人は何処に行ったんです?」
「ウィズ殿が一度、狙いの確認をしたいと仰ったので、
進路の測定が出来るめぐみん殿と、護衛役を買って出たダスティネス卿と共に、
騎士団所属の魔術師を連れてデストロイヤーの観測へ向かいました。」
めぐみんもダクネスも無茶をするな…。
まぁ、ウィズが付いているんなら心配はいらないか。
「サトウ君、めぐみんが心配かい?」
「まあな、けど大丈夫だろ。そこらの魔物に後れを取るような面子じゃねえよ。
さてと…おい、ミツルギ。俺達も櫓の建設を手伝いに行こうぜ。」
「ん、そうだね!土木工事のアルバイトで培った経験の見せ所だね!!」
「おう!存分に発揮してやろうじゃねえか!」
「では、クレア様。僕達は此れで失礼させて頂きます!」
クレアは何故か、困惑の表情を浮かべていた。
「お、お二人は土木工事の経験があるのですか?」
「?ええ、ありますよ。クレア様何故その様な事をお聞きに?」
「あ、いえ!気にしないでください!櫓の方、よろしくお願いします!」
クレアが何かを言い掛けたのが気にはなったが、今は櫓作りを急がないといけない。
「よし、『スピードアゲイン!』それぞれの櫓に分かれて作業手伝うぞ!」
「わかった!じゃあ僕は此方に向かうよ!」
俺達は其々の櫓に走っていった。
――――――――――――…
≪アクア視点≫
町の人が総出で手伝ってるんじゃないかと思うほど、協力してくれる住人は多かった。
見れば女性は勿論、お年寄りから小さな子供までいる。
私は手先が器用で物作りも得意だったので、こっちの櫓作りは私を中心に進められている。
うん!魔剣を作るより、こっちの方がよっぽど楽ね!!
「おねえちゃん、おつかれしゃまです!これ、おみずです!」
私の所に小さな可愛らしい女の子が、水を持って来てくれた。
「ありがとね!お姉ちゃん頑張るからね!!」
私がそう言うと、女の子は満面の笑みを浮かべてくれた。
「がんばってねー!」
女の子は私に大きく手を振って、補給所の方に走っていった。
あんな小さな子まで、頑張っているんだもん!私も頑張らないと!!
それにしても、あの子可愛かったわね。本当、癒されると言うか…
将来あの二人(カズマめぐみん)に子供が出来たら、私がお世話しようかしら!?
「アクアさん、こっちも見て貰えますか!?」
「ええ、ゆんゆん。今行くわ!」
ゆんゆんが担当しているのは土台となる基礎工事の部分。
ここを疎かにすると、高い櫓を建てた時に倒壊してしまうわ!
「うん、これで合っているわよ!流石はゆんゆんね!!」
「えへへ…、ありがとう御座います!アクアさん!!」
私が褒めると、ゆんゆんは満面の笑顔を返してくる。
親友って、本当にいいわねぇ。
「おーい!こっちも見てくれよ!お前の説明通りに作ってみたぞ!」
今度はチンピラこと、ダストに呼ばれる。
ダスト達には、木材を繋ぎ合わせた分厚い板を作ってもらった。
「これだと後で使いづらいわよ。上下の長さは揃えて頂戴!」
「何だよ!こまけーなー!」
「此れを壁代わりに貼り付けていくんだから、長さが疎らだと付け辛いでしょ!!」
「ああん!分かったよ!なおしゃいいんだろ!?」
チンピラはやっぱりチンピラね!
せっかく、この私が天界で読んでいた漫画…
信奈ちゃんの野望から知識を引っ張ってきてあげたというのに!
「おー!一夜城か!考えたな、アクア!!」
いつの間にか戻ってきたカズマが、私の事を褒めてくれる。
「ふふん!どう?カズマー。私だってやる時はやるのよ!!」
「そうみたいだな!で?俺は何を手伝えばいい?」
「そうねぇ、カズマは趣旨が分かっているのだから、私と一緒に作業した方が良いわね。」
「あいよ!じゃ、一夜城ならぬ一夜櫓を完成させちまおうぜ!!」
皆の頑張りに加えて、カズマも手伝ってくれたこともあって、此方の櫓は夕方前に完成した。
櫓の見張りを騎士の人に任せて、私達はもう一つの櫓へ向かった。
―――――――――…
≪めぐみん視点≫
夕方、私たちが調査から戻ると、皆はまだ作業中だとクレアから聞いた。
「では、私達は皆の食事を作りましょうか。ダクネス、手伝ってください。」
「分かった。この私も料理ぐらい出来るという事をカズマ達に分からせよう!」
我が家の料理当番は基本的に、カズマと私だけで担当している。
たまにゆんゆんやアクアが作る事もあるが、ダクネスは作らせて貰ってない。
カズマ曰く、『そんなに不器用なのに料理なんて出来るのかよ?』
中々に酷い話だと思う、ダクネスだって女性なんだから料理ぐらい出来るでしょうに。
私達は厨房を借りて、料理に取り掛かった。
ダクネスを見ると、手際良く料理をしている。
実は私も少し心配だったので、その光景を見て安堵のため息が出た。
「ふむ、めぐみん。味見をしてもらえないか?」
「良いですよ………。」
…何でしょう?不味くはないのですが、なんと言うか…普通。
普段から、カズマの美味しい手料理を食べ慣れてしまった所為なのか、
普通という感想以外が出なかった。
でも、そのまま伝えると、ダクネスを傷つけてしまいそうです。
「その、もう少し、濃い味付けにした方が良いと思います!」
「む?そうか?これでは駄目か?」
「あ、いえ。皆作業で疲れているでしょうし、そういう時は濃い味付けの方が喜ばれるのですよ。」
我ながら上手い返しが出来たと思う。
ダクネスは、成程と言って調味料を足していた。
「今度はどうだ?」
…塩辛い…私がなんとか修正しなくては…
「そ、そうですねぇ。あ!煮込むなら、もう少しお水を足した方が良いですよ!」
「お、そ、そうか。それで味付けの方なんだが…」
「あ!すみません!ダクネス。揚げ物があがったのでちょっと待ってください!
一度、そのまま煮込んでいてください。その後でもう一度味見をして見ます!」
「わ、分かった。」
あの水で、丁度良い塩加減になってくれれば良いのですが…
――――――――…
「うーん…普通ね!」
ダクネスの料理を食べたアクアが開口一番にそう答えた。
「ふ、普通!?」
「ああ、勘違いしないでね!別に不味いってわけじゃないの!
ただ、カズマやめぐみんの料理と比べちゃうとねー。」
アクアの言葉に悪意はないが、ダクネスは酷く落ち込んでしまった。
「まぁ、思った…ん?」
カズマがダクネスにトドメをさす前に、カズマのわき腹をひじで突く。
「…悪くは無いと思うぞ?この前はごめんな、ダクネス。料理出来ないなんて決め付けちまって。」
「そ、そうか?それなら、私も当番に加えてもらって良いか?」
ダクネスの言葉に、カズマは私をチラっと見てくる。
(上手く切り抜けてください。)
カズマは唇を読む事が出来るので、口パクでカズマに伝えた。
カズマは一瞬、嫌そうな表情をしたけど、上手くやってくれる筈。
「あー、実はな。最近料理の開発をしててな。」
「む、そういえば最近は変わった料理が多かったな。」
「そう!俺の国にあった料理を皆にも味わって欲しくてな!だから、俺が作りたいんだよ!」
「む…そうか。確かにあの料理は魅力的だな…。」
「だろ?基本的にめぐみんに手伝って貰おうと思っているけど、
うどんの時みたいにダクネスにも手伝ってもらう事があるからさ、
なるべく、俺達に任せて貰えねーか?」
流石はカズマです!これならダクネスも納得してくれる筈!
「む、う…。分かった。ただ、偶にで良いから私にも作らせてもらえないか?」
「ああ、うん。その時は頼むわ。」
最後はしまらなかったけど、これでダクネスがキッチンに立つ事はあまり無さそうです。
…ダクネスには個人的に料理を教えておきましょうか。
作った料理はアクアのおつまみにすればいいですし。
―――――――…
≪カズマ視点≫
夕食が終わり、作戦会議が始まった。
「では、それぞれの櫓でめぐみん殿とウィズ殿が待機して、アクア殿は櫓が交差する前方100メートル程の場所で奴の結界を破壊する。 アクア殿には護衛として、ミツルギ殿、ゆんゆん殿、フィオ殿が付くという事ですね。」
アクア殿は櫓が交差する前方100メートル程の場所で奴の結界を破壊する。
アクア殿には護衛として、ミツルギ殿、ゆんゆん殿、フィオ殿が付くという事ですね。」
クレアの言葉に俺は頷き、話を続ける。
「残りのメンバーは、デストロイヤーを無力化させる為にとりあえずは待機だ。」
「おいおい、無力化ってまさか、乗り込めってんじゃねえよな?」
作戦が気に入らないのか、ダストが不機嫌そうに言い放つ。
「何当たり前の事を聞いてるんだよ。乗り込まないと無力化出来ねえだろ?」
首尾良くデストロイヤーの足を止めたとしても、各種兵器が生き残っていたら危険しかない。
デストロイヤーは対空砲があるが、対地に関してはゴーレムぐらいしか戦力が無いので、
直接乗り込んで制圧しちまう方が、後々面倒が起こらなくて良いだろう。
「カズマ、乗り込む時は私が先陣を切るぞ!」
「…ああ、そうしてくれ。だが、先ずは止める事が重要だ。」
「アクア、そして私とウィズの責任が大きいですね…。」
めぐみんが不安そうに呟いた。
…そうだよな、めぐみんはまだ13歳だもんな。平気な筈がないよな。
「大丈夫だ、お前なら絶対出来るさ!頼りにしてるぜ、相棒!!」
俺がそう言うと、めぐみんは一度目を閉じて、俺に笑顔を向けた。
「カズマの方こそ、しっかり指揮を執って下さいね!信頼してますよ、相棒!!」
俺達は笑い合いながら、拳を合わせる。
「ねえ、いい雰囲気のところ悪いんだけど…私には何も無いの?」
「それを言うなら、私にも一言欲しいです。」
アクアとウィズが不満そうに此方を見ていた。
「お、お前らは言うまでもないだろ?絶対出来るって信じているよ!」
「そうよねぇ!カズマ分かっているじゃない!」
ちょろい女神様は簡単に口車に乗ってくれた。
其れを見たウィズは複雑そうな顔をしていたけど。
「じゃあ、皆!明日は頑張るわよー!!」
アクアの宣言にミツルギをはじめ、次々に鬨の声を上げた。
明日の昼には、デストロイヤーが此処に来る。
何としても、此処で止めないとな…
次回はいよいよ決戦開始です。