このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
≪アクア視点≫
翌朝。
王都から魔術師隊が派遣された。
カズマから聞いた話によると、あのクレアとか言う貴族が、
町の住民を王都に退避させる為に呼び寄せたという事らしい。
そんな訳で、私達が泊まっていた宿前の広場は、すごく混雑していた。
「あ!おねえちゃん!!」
「あら、昨日の…。」
「わたしたちねー!いまから、おうとへりょこうにいくんだよ!!」
旅行?
ふと顔を上げると、この子の両親だと思われる一組の男女が、苦笑いを浮かべていた。
そっか…。旅行と言って連れ出したのね。
「へー、良いわね!お姉ちゃんも今度行きたいな!」
「えへへー!いいでしょ!!もうすぐ、しゅっぱつなんだよ!!」
「そっか。じゃあ、いっぱい楽しまないとね!!」
「うん!!おねえちゃんはいかないの?」
「お姉ちゃんはね、これからデストロイヤーと戦うから一緒には行けないのよ。」
「え!?…おねえちゃんもたたかうの…?」
女の子は心配そうな表情で私を見つめる。
「そんな心配しなくても大丈夫よ!お姉ちゃん実は女神様なんだから!!」
「ええー!?めがみさまなのー!?」
「そうよ、だから何も心配はいらないわよ。」
女の子は最初、驚いた顔をしていたけど、徐々にその表情を曇らせる。
「めがみのおねえちゃん…。」
「ん?どうかしたの?」
私はしゃがんで女の子と目線を合わせる。
「…わたしのおともだちがね、ですとろいやーがきたら、おうちもぜんぶなくなっちゃうっていってたの。」
あ…
「そんなことないよね!?めがみのおねえちゃんがいれば、ぜったいだいじょうぶだよね!?」
女の子は、今にも泣き出しそうな表情で私に訴えかける。
「大丈夫よ、私のお友達には最強の指揮官と最強の魔術師がいるんだから!!
それに、女神である私まで戦うのよ!絶対にデストロイヤーを破壊してあげるわ!!」
「ほんとう?」
「本当よ!だから、貴方は旅行を精一杯楽しみなさい!」
「うん、…わかった。」
そこに両親と思われる男女が近づいてくる。
「ほら、もう行くぞ。」
「…うん。」
女の子の両親は私にペコりと、頭を下げて魔術師隊の列に並ぶ。
そして、順番が来ると女の子は私を見た。
「おねえちゃん!!がんばってねー!!ぜったいまけないでねー!!」
女の子は精一杯の大声を上げて、私にエールを送ってくれた。
私がそれに精一杯手を振って返していると、背後に立つ気配を感じた。
「良い子だな。…にしてもアクア、お前中々良い事を言うじゃねーか。」
「あの子を励ますアクアの姿は、とても格好良かったですよ。」
二人は私を冷やかすように、ニヤニヤとした表情で声を掛けてきた。
「何よ、見ていたんならもっと早く声を掛けてくれても良かったのに。」
「邪魔しちゃ悪いと思ったからな。…アクア、あの子の為にも頑張らないとな!」
「当然じゃない!二人とも、ミスなんてしないでよ!?」
私たちはお互いに軽口を叩き合う。
さあ、いよいよ決戦ね!私達の力を見せてあげましょう!!
―――――――…
≪カズマ視点≫
もうすぐ昼と言う時間帯、辺りは静寂に包まれていた。
冬前とはいえ、正午に近いこの時間に近隣の森からは、動物や魔物の気配すら消えていた。
横槍が入る可能性が減った事は喜ばしい事だけど、正直これは異様だ。
「まるで嵐の前の静けさって奴だな。」
俺はボソりとそう呟く。
我ながら言い得て妙だと思う、これまでデストロイヤーは、天災の様な扱いを受けて来たからな。
そんな事を考えていると、盗聴スキルを使っていた俺の耳にデストロイヤーの駆動音が聞こえてきた。
「そろそろ来るぞ!皆、切り替えろ!!」
俺が皆に喝を飛ばすと、一斉に緊張感が高まっていく。
櫓の中間地点で中繋ぎをしてくれたクレアが、前方で待機しているダクネスともう一つの櫓に合図を送る。
「そろそろ前に出て、指揮を執らないとな。…めぐみん平気か?」
「正直不安です。デストロイヤーは魔王軍すら手を出せないと言われています。…私達の力で、破壊なんて出来るのでしょうか…。」
この期に及んでめぐみんがヘタレだした。
さっきまでは虚勢だったのかよ。
「おいこら。肝心なところでヘタレてんじゃねーよ!
何時もは俺に散々ヘタレだと言っているんだ、出来ねえとか言うなよな。」
「で、出来ないなんて言ってませんよ!それにカズマがヘタレだと言うのは事実じゃないですか!!」
結婚指輪の準備すら終わっている俺が、ヘタレだと言うのか!
いやまあ、まだめぐみんには言ってねえけどさ。
それはサプライズする為だし、決して俺がヘタレだという事ではない!
「ヘタレじゃねーとこ、見せてやるよ!」
「カズマ、何をする気…うぷ…。」
俺は無理やりめぐみんの口を塞ぐ。
傍に居る護衛の騎士達が、何事かと驚愕の声をあげた。
「ぷはっ!人前でいきなり何をするんですかっ!」
「俺がヘタレじゃないって事を見せたかっただけだ。めぐみん、もう大丈夫だよな。」
「他にもやりようはあるでしょうに、カズマは本当にずるいですよ。」
めぐみんは思いっきり深い溜息をついて、俺の事を睨む。
「分かりましたよ!出来る限りの事はしますよ!カズマ、後で覚えて置いてくださいね!!」
「ああ、事が済んだら、殴るなり抱きつくなり好きにしてくれ!」
俺はめぐみんにそう言い捨てて、急いでアクアの元に向かった。
≪アクア視点≫
ダクネスから合図が来た、そろそろデストロイヤーの登場ね!
「アクア様、そろそろ来ます!準備はよろしいですか?」
「誰に言っているのよ!私は何時でもいけるわ!それよりもモンスターの反応はないわよね!?」
「うん、今のところ反応はないわよ!」
「あ!アクアさん!カズマさんがこっちに来ます。」
カズマが?
「何しに来たのよ!指揮官は後ろにいなさいよ!!」
「めぐみんが途中でヘタレたんでな、心配になって見に来たんだが…問題無さそうだな。」
「大丈夫ですよ、カズマさん!アクアさんには私達が付いているのですから、カズマさんは指揮執りに集中していてください!」
そうこうしているうちに地響きが大きくなってくる。
「分かった、頼むぞアクア、皆!」
カズマの言葉に、私達は大きく頷き前を見据える。
其れを確認したカズマは戻っていった。
「さあ!勝負よ!!」
私は体内で、思いっきり魔力を練りこむ。
この前、めぐみんに教わったやり方だけど、私でも効果があるというのは驚いた。
これなら確実に破壊出来る筈!…いいえ!してみせるわ!!
「!アクアさん!来ました!!」
まだよ!焦ったら駄目!!確実に捉えてからよ!
「アクア!モンスターの気配はないわ!横槍の心配はいらないわよ!!」
「アクア様!全身が見えました!!」
此処ね!全身全霊掛けていくわよ!!
「『セイクリッド・ブレイクスペル!!!!』」
私の前方に幾重もの魔方陣が展開されていく。
そこから、魔力が収束されてゆき、デストロイヤーに放たれる。
「ぐううう!!」
何これ!?思ったより固いじゃないの!?
これにヒビを入れるめぐみんの爆裂魔法って、どれだけの威力があるのよ!!
「アクアさん!!」「アクア様!!」「アクア!!」
三人が心配そうな顔で私を見ている。
諦める訳無いじゃない!私はあの子と約束したもの!!
解呪魔法を押し込みながら、私は体内で無理やり魔力を練り込む。
「うぐううう!!」
「あ!?更に魔方陣が!?」
これで決めるわ!!
更に展開された魔方陣から解呪魔法に魔力が流れ込む。
「結界が!!」
ガラスが割れるような耳障りな音と共に、デストロイヤーの結界が消滅した。
「アクアさん!成功です!!退避しましょう!!」
「分かったわ!」
ゆんゆんのテレポートで私達は後方へ退避した。
≪めぐみん視点≫
カズマの唐突な行動で、緊張していた自分がバカらしくなる。
もっと、気楽に考えるべきでした。
「私は以前にもデストロイヤーに向けて、爆裂魔法を放った事があるんでしたね。」
その時は結界に阻まれたものの、その結界にヒビを入れる事が出来たんです。
直撃さえさせれば、脚部ぐらい簡単に壊せる筈です。
考えれば考えるほど、何故自分が緊張していたのか分からなくなる。
…多分、アクアに懐いていたあの子の事が気になっていたんでしょうね。
絶対に失敗出来ないなどと思って、変に力が入り過ぎていたようです。
カズマには感謝しないといけませんね。もちろんお仕置きも必要ですが…
「デストロイヤーが見えてきました!!」
護衛の騎士さんの声で、私の意識は現実に戻る。
「カズマからの来る合図を見逃さないで下さい!私は詠唱の準備に入ります!!」
「分かりました!めぐみん殿、お願い致します!」
私は杖を構えて、時間ギリギリまで魔力を練り込み続ける。
ここにいる皆が驚くような爆裂魔法を見せてあげますよ!!
アクアが居る方を見ると、幾重にも連なった巨大な魔方陣が展開されていた。
正体が女神というだけあって、アクアの魔力は私でも足元に及ばない。
そんな彼女が放つ魔法に、抗える存在はきっといないだろう。
アクアは更に魔方陣を増やして、トドメとばかりに巨大な魔力をデストロイヤーに放った。
「サトウ殿から、合図が来ました!!」
流石はアクアです!!今度は私の番ですね!!
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。
終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ!」
大気が振るえ、私の体に幾重もの魔力の奔流が纏わり付く。
横目でウィズを確認して、彼女とタイミングを合わせる。
他は兎も角、爆裂魔法の事に関して、私は誰にも負けたくは無いのです!
行きます!これが今の私の全力全開!!我が究極の破壊魔法!!
「『エクスプロージョン!!』」
デストロイヤーに二発の爆裂魔法が刺さる。
魔力切れで倒れそうになった私は、護衛の女性騎士に支えられて崩壊の様子を見ていた。
暫く崩壊の様子を見守っていると、デストロイヤーは完全に停止した様に見えた。
そして、そこら中から歓声が沸き起こる。
そこでようやく、作戦が成功した事を実感出来た。
よし!ウィズの方は確認出来ませんが、私が担当した方は脚部が全て消し飛んだようです!
私はカズマと合流するために、騎士の人に手を借りて櫓から降りた。
後はカズマ達が突入して、機能を完全に止めるだけですね!
―――――――――…
≪カズマ視点≫
めぐみんとウィズの爆裂魔法を受けて、突如脚部を失った起動要塞は、轟音を響かせ墜落し、慣性で大地を滑ってゆく。
その滑る巨体は町の方までは到底届かず、一人最前線で立ち塞がっていたダクネスの鼻先で動きを止めた。
二人が破壊した脚部は、ウィズが担当した方には瓦礫の山が積み上げられ、めぐみんが担当した方はほぼ消し飛んでいた。
「流石は俺の相棒、見事なもんだ。」
俺は独り言の様に感心していると、女騎士に支えられためぐみんが立っていた。
「ふ、ふふ…。我が爆裂魔法は日々進化しているのです。欠片も残さず、消し飛びましたよ。」
「ああ、よくやったよ。」
俺は女騎士からめぐみんを引き取って、抱き寄せる。
「後はカズマ達が制圧するだけですね。…あの、少し恥ずかしいのですが…。」
俺はめぐみんを抱き寄せた状態で頭を撫でていた。
「何でだよ?別にやましい事はしてないだろ?」
そう言うとめぐみんは、恥ずかしさからか黙ってされるがままになる。
「ねえ、カズマさん。私も褒めて欲しいんですけどー!」
「あ、アクアさん!邪魔しちゃ悪いですよー!」
皆が集まって来てしまい、流石に恥かしくなった俺はめぐみんをそのまま背負う。
「じゃ、そろそろ制圧に行こうぜ。頼んだぞ、皆!」
改めてデストロイヤーの巨体を見上げると、脚部を失った巨大要塞は沈黙を保っていた。
後はこのまま内部を制圧するだけ…と思っているが、そんな簡単に事が運ぶだろうか?
そんな事を考えていると、突如大地が震えだす。
「なっ!?地震か!?」
「いや、違う!大地が震えるようなこの振動は、デストロイヤーが原因だ!」
俺の言葉に皆がその巨体を見上げる中、唐突に警告音が鳴り響く。
『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。
排熱、及び機動エネルギーの消費が出来なくなっています。搭乗員は速やかに、
この機体から離れ、避難して下さい。この機体は……まもなく自爆します。』
『はあ!?』
その場にいた全員の声がハモる。
警告音が鳴り響き、繰り返しアナウンスが流れる中、俺達は決断を迫られる。
「おいおい!自爆って何だよ!!」
「そんな!?こんな所で爆発が起きればこの町は……!」
排熱及びエネルギー消費が出来なくなっているのか。
「皆!慌てるな!多分動力を抜けば解決する筈だ!急いで制圧するぞ!!」
やっぱり、一筋縄では行かなかったか!
皆に指示を飛ばし、俺達はデストロイヤーに乗り込んだ。