このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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二週間ぶりの休みで爆睡した。
お陰でこんな時間になりました。


見合いの席での攻防

 

 

≪クリス視点≫

 

闇夜に紛れる影が二つ。

豪華絢爛という言葉が似合いそうな、煌びやかな屋敷に向かって影が移動する。

 

「あれがアルダープの屋敷だよ。」

 

私は屋敷が一望出来る場所に、相方を案内した。

彼は屋敷に着くなり、周辺の様子を伺う。

そして、屋敷内に目を向け、一人云々と唸っていた。

 

「如何したの?」

 

「いや、予想以上に警備が多いと思ってさ。」

 

その言葉に、私も屋敷内に目を向ける。

彼の言う通り、私が以前来た時よりも格段に人数が増えていた。

 

「ホントだ。確実に前よりも増えているよ。」

 

「…お前がドジ踏んで、見つかったから、とかじゃないよな?」

 

「!?それは失礼だよ!!」

 

「シッ!!声がでかい。」

 

「ちょっ!!うぐっ!」

 

私は彼に抱き寄せられ、手で口を塞がれてしまった。

 

「…『ライト・オブ・リフレクション』」

 

今の状況に、軽くパニックを起こしていた私は、彼の腕を振り払おうとした。

だけど、彼はもがけばもがくほど、強く私を抱き寄せた。

 

…これって絶対セクハラだよね!?

後で彼女に報告しておかないと!!

っていうか、いい加減放してよ!!

 

私が必死にもがいていると、唐突に敵感知に反応が出た。

 

ヤバ!?もしかして、バレちゃったの!?

 

「あれ?この辺りで人の声がしたと思ったんだけどな?」

 

「おいおい、聞き違いじゃないのか?はあ、そっちはどうだ?」

 

男が一人、私達の前まで迫る!

 

…そして、横を通り過ぎた…。

 

「こっちもいねえな。やっぱりテメエの勘違いだったんじゃねーか?」

 

「確かに女の声が聞こえたと思ったんだけどな…。」

 

「ハン!それは、お前が単に溜まってるだけじゃねーのか!?」

 

「うるせーよ!はぁ、アルダープ様が羨ましいぜ。」

 

「おいおい、何処で誰が聞いているのかわからねえぞ?」

 

「うっせーな!少しは愚痴らせろってんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………。

 

「行ったな…。ふう、ドキドキしたぜ…。目の前に立たれた時はバレたかと思った。」

 

彼は軽くため息を吐いて、腕の力を緩める。

それでようやく私は、彼の腕から解放された。

 

「…ごめん、軽率だったよ。」

 

「いや、こっちも悪かった。」

 

まだ、ドキドキしてるよ…。

この人は、誤解されるような行動を取り過ぎだと思う…。

 

「少し場所を変えた方が、良さそうだね。」

 

「…任せる、魔法の範囲からは出るなよ。」

 

私達は、潜伏と光の屈折魔法を併用しながら、先程居た場所から反対側まで移動した。

 

「途中、何人かが通り過ぎたが、見つかる気配がなかったな。」

 

「…この組み合わせ、最悪じゃない…。完全犯罪が出来ちゃうよ…。」

 

問題なのは、彼一人でもこれをやれてしまう事だ。

しかも、彼はテレポートまで持っている。

 

彼は犯罪に走るような人ではないと思ってるけど…。

 

「ハハ、これは良いな。明日もこれで移動しようぜ。

これなら見つからないし、安全に行けるだろ?」

 

無邪気に笑う彼の表情は、子供の様に輝いていた。

 

その後も、私達は警備の人数や厳重になっている箇所などをチェックしていく。

 

暫く観察を続けていると、彼に手招きをされた。

 

「何?」

 

私が傍まで行くと、彼は悪戯っぽい表情を浮かべた。

 

「盗聴スキルで、連中の話を聞いてたんだけどさ。」

 

「…よく、そんなに色んなスキルを使いこなせるね…。」

 

こういう発想やセンスは特典とは関係ないから、これはこの人が持つ天性の才能なんだろうね。

 

「えっと、話続けてもいいか?」

 

「ああ、ごめん。それでどんな話が聞けたのさ?」

 

「明日の見合い、アルダープが直々にダスティネス家へ顔を出すんだってさ。」

 

「…えっと、それで?」

 

「分かってないなクリス。これは奴の狙いを探るチャンスなんだぜ?」

 

「え?如何いう事?」

 

「奴が出張るという事は、当然護衛も付くだろう?」

 

「…例の悪魔が出て来るかも知れないってこ、むぐ!!」

 

つい興奮してしまった私は、再び彼に拘束されてしまった。

 

「…今回は大丈夫か…。なあ、悪魔の話が出る度に興奮するのはやめてくれないか?」

 

「ご、ごめん…。」

 

そんな事言っても、悪魔は私達にとって天敵なんだよ…。

…でも、何度もこんな事をしてたら、何をされるか分からないよね…。

そのうち…く、口とかで塞がれちゃうかも…。

うん、其れは不味いよね…。

 

「どうした?顔が赤いぞ?…体の調子が悪いなら、先に戻っても良いぞ。」

 

「え、あ、大丈夫だよ、うん。…えっと、悪魔が出て来る可能性があるんだよね?」

 

「いや、正直そっちは期待してないな、俺が奴の立場なら連れ回そうとか思わねーもん。」

 

「え?じゃあ?」

 

「少なくても、側近の部下ぐらいは連れて来るだろ?」

 

「う、うん。でも、其れぐらいじゃ…。」

 

「其処で役に立つのが、俺が今使っている盗聴スキルと読唇術スキルですよ。」

 

彼は得意げな顔をして、私を見ている。

 

「これを使えば、連中の会話は全て俺に筒抜けと言う訳だ。

…どんなヤバイ会話内容だろうとな。」

 

あ!そっか!その情報次第では、此方が先手を打てる可能性もあるんだね!?

 

それにしても、その顔は無いと思うよ。

…正直、恐怖を覚えるんだけど…。

 

彼は不敵に笑い、邪悪な笑みを浮かべていた…。

 

 

 

――――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

≪カズマ視点≫

 

 

「……うーん、流石はめぐみんと言うべきか。」

 

「あの、カズマ。意味が分からないのですが。」

 

「めぐみんは、何着ても似合うなぁと、思ってな。」

 

めぐみんは今、ダスティネス家のメイド服に身を包んでいる。

メイド服としては地味めな印象で、全体的な作りとしては清楚系の正道という感じだ。

 

まぁ、萌え文化にあるような、ミニスカやフリルのメイド服があるわけねーよな。

しかし、萌え系のメイド服か…めぐみんに着せてみたいよな…今度自作してみよう。

 

「カズマも着替えるんですよね?」

 

「ああ、今、用意して貰っている所だよ。」

 

俺のサイズに合う執事服はなかった。

というか、どれもこれも股下が長すぎて、

俺みたいな日本人体型には向かない服だった。

 

はぁ…世の中、やっぱり不公平だよなー。

めぐみんやゆんゆんも顔立ちこそ日本人っぽい癖に、スラっと足が長いし…

アクアやダクネスなんてスタイル抜群だし!

こういう奴らって何着ても似合うんだろうな。

 

「サトウ様、準備が整いました。」

 

「あ、はい、今行きます。」

 

着替え部屋に通された俺は、仕立て直された執事服に身を包む。

 

うっ!足元がかなり直されている……。

民族的に仕方ないとはいえ、これでは正直…。

 

げっそりしながら更衣室を出ると、皆が揃っていた。

 

「プーー!!カズマさん、似合わな過ぎー!!」

 

俺を見るなり、アクアは腹を抱えて笑い出した。

 

つか、笑いすぎだろ!?

似合わないのは分かってるよ!!

 

「ぷ、いや、良いんじゃないか?微笑ましい感じがするぞ?」

 

「そうですか?私は結構良いと思いますが?」

 

「そ、そうですよ!ちょっと背伸びしてる感じはしますけど、悪くはないと思います!」

 

「…めぐみん、ゆんゆん。ありがとうな。」

 

うん、未来の嫁には褒められたんだ。前向きに行こう。

 

「しかし…其れは目立つんじゃないか?」

 

そう言って、ダクネスは俺の腰元に指を指す。

 

今回俺は、執事兼護衛と言う名目でこの席に同席する事になっている。

それで、武器の帯刀を許されているのだが。

 

「こういうのは、目立つ方が良いんだよ。俺は護衛なんだから、こういうのは抑止力として有効だろ?」

 

「確かにそうだが…。」

 

「まあ、任せろって!あ、そうだ。親父さんから言われたんだが、

ダクネスお前、断るにしてもやんわりやれよ?」

 

ダクネスの親父さんは、バルターをかなり気に入っているらしく、

今回の件が無ければ、是が非でも婚約をさせたかったそうだ。

だからせめて、ダクネスが相手に失礼な事をしない様にと、俺は監視役も頼まれた。

 

「父上もカズマも心配し過ぎだ!確かにつまらぬ男ではあるが、言ってる場合ではないからな。」

 

…本当に大丈夫かなぁ?

 

「ダスティネス卿、バルター殿が到着した!

サトウ殿の情報通り、アルダープも一緒だ!!」

 

来たか。

 

「さて、…戦争第一幕の開始だな。」

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

正面玄関に一同が揃う。アレクセイ親子を迎え入れる為だ。

 

「良いか?ララティーナ。バルター殿にはくれぐれも粗相のない様にな。」

 

「ええ、分かっていますわ、お父様。何の心配もありませんわ。」

 

ダクネスは親父さんに笑顔を向けて、安心するように諭す。

 

…何か悪寒がするんだが、マジでぶち壊したりするなよ?

 

「旦那様!お見えになりました!!」

 

さて、ここからは集中だ。

 

俺は盗聴スキルと読唇スキル、そして敵感知スキルを発動させる。

 

屋敷の扉が開かれると、卑しい笑みを浮かべた中年のおっさんと、

凛々しい表情の青年が護衛の者を連れて入って来た。

 

あの豚がアルダープで、隣のイケメンがバルターか。

本当に似ても似つかねーな、親子じゃないって噂は本当かもな。

 

俺がそんな事を考えていると、バルターは一歩前に出て、ダクネス親子に頭を下げた。

 

「本日はお招き頂き、ありが「おおっ!ララティーナ!!」」

 

バルターの言葉を遮るように、いきなり豚が喚き出し、ダクネスに近づいて来た。

 

「何じゃ!貴様は!!無礼であろう!!」

 

俺が遮るように、行く手を阻むと、見るからに豚が激高する。

 

「申し訳ありません、アルダープ様。しかし本日お招きしたのは、バルター様お一人だった筈。」

 

俺の行動にこの場に居る全員が驚く。

そして、顔を真っ赤にさせた豚が俺に詰め寄ってきた。

 

「誰なんだ貴様は!?このワシに意見をするつもりなのか!?」

 

「此れは申し遅れました。この度、お嬢様の護衛を任せられました、サトウカズマと申します。」

 

俺が名乗ると、アルダープは目を丸く見開く、

そして苦笑いを浮かべながら、一歩引いた。

 

「…これは申し訳ない、魔王軍の幹部やデストロイヤーを破壊した英雄殿だったとは気づきませんでした。」

 

ふーん?俺が名乗った途端、態度を変えてきたか。

さて、如何出る?

 

『ちぃ、何でコイツが此処に居るのだ。邪魔をしおって!!』

 

「しかし、英雄殿も災難でしたな、屋敷があんな有様では何かと大変でしょう。

そうだ!私が新しい屋敷を手配致しましょう!如何ですかな?」

 

これは、此方に貸しを作ろうとしているのか?

それとも、取り入ろうとしているのか…、その両方か。

どちらにしても、随分手の込んだ…舐めた真似をしてくれたもんだ。

 

「いえ、それには及びません。直にデストロイヤーの討伐報酬が出ます。

それで十分に修理する事が出来るでしょう。

…それよりも、ベルディアの報酬がまだ出ていないのですが、何かご存知ありませんか?」

 

『ちっ!胸糞悪い小僧め!!今回の金も入ると思わん事だ!!』

 

俺は思わず噴出しそうになった。

まさか、読唇だけでここまでの情報を得られるとは。

 

「……。確か、私の所に国からの使者が来ましたな。

出ていないのなら、その者が怪しいのではないですかな?」

 

これは…、その人が消されちまったのか?

もし、そうだとしたら思っていた以上のクズだな。

そして、かなりの危険人物だ。

 

「そういう事でしたら、やはり手配致しますぞ?

この時期に窓もない部屋で寝泊りされては、お体に障りますからな。」

 

「ほう?随分詳しいのですね、アルダープ殿。」

 

そう言って、メイド達の間からクレアが出てくる。

 

『なっ!?シンフォニア家のクレアだと!?何故あの小娘が此処に居る!?

王都へ報告に戻ったのではないのか!?』

 

「…私はこれでも此処の領主ですからな。町で起きた事は私の耳に入るのですよ。

しかし、シンフォニア卿がどうして此方に?」

 

「昨日は此方でお世話になりましてね。聞けば、今日はバルター殿がお見えになるとの事。

久しぶりに挨拶でもと、お待ちしていたのですよ。」

 

「し、しかし、本日は見合いの席でして…。」

 

「ふむ、アルダープ殿は私が邪魔だと、申されるのですね?」

 

「い、いえ!?そう言う訳では…。」

 

『クソ!忌々しい小娘め!!しかし、これでは動きづらい…。それに英雄の小僧も此方を見て居る…。』

 

やっぱり、何か目的があったのか。

しまったな、ちょっと圧を強め過ぎたか?

 

「ば、バルター!ワシはそろそろ政務に戻る!粗相のない様にな!!」

 

粗相しているのはお前だろ。

…読唇で得た情報だけじゃ、今後の方針はあまり変わらねえな。

 

「父上?急に如何されたのですか?今日は最後まで居ると、あれ程仰っていたではないですか?」

 

「ぐっ!?急用を思い出したのだ。それではダスティネス卿!シンフォニア卿!私はこれで…」

 

アルダープは数人の部下と屋敷を出ようとする。

 

俺はダクネスの親父さんに目配せをすると、親父さんは頷いてくれた。

 

「それではアルダープ様、私が門までお送り致しましょう!」

 

「い、いえ!英雄殿!お気遣いは結構です!!」

 

「それではせめて、扉の向こうまで…。」

 

俺が扉を開けると、アルダーブは苦い表情のまま外に出る。

 

「お気をつけてお帰りください!!」

 

俺は頭を下げたまま、少し顔を上げアルダープ達の会話に注視する。

 

『宜しかったのですか?アルダープ様。』

 

『良いも悪いもあるか!あれでは迂闊に手が出せんわ!』

 

『後はバルター様が、上手くやってくれる事を期待するしかありませんね。』

 

『ふん!!あの口煩い小僧を拾ってやったのだ!役立たずでは困るわ!』

 

『首尾よく行けば、アルダープ様は更なる権力を得られますな。』

 

『ふん!愚か者め!それだけではないわ!…入れ替わってしまえば全てが手に入る…クク。』

 

入れ替わる?

 

その会話を最後に、アルダープたちは馬車に乗り込み、帰っていく。

 

入れ替わるってどういう意味だ?

 

あ、やべ!バルターを放置しっぱなしだ!!

 

慌てて屋敷の中に戻ると、バルターは親父さんと楽しそうに話をしていた。

 

「おお、戻ったかね、カズマ君。アルダープ殿はお帰りになったか?」

 

「ええ、馬車に乗り込むところまで見届けました。」

 

「結構。ではそろそろ案内してくれたまえ、私が居ては弾む会話も出来ぬだろう。」

 

親父さんは他のメイドや執事と共に戻っていく。

 

残されたのは俺達のパーティーとバルターだけだ。

 

「では、バルター様、案内を「ふん!やはり、貴様はつまらぬおと、へぶ!」

 

俺がバルターを案内しようとすると、急にダクネスが態度を変え、高圧的な態度を取った。

 

「ああ、すみません!ララティーナお嬢様!お嬢様の頭に虫が飛んで来たもので!!」

 

それを阻止したのは、我が生涯の相棒めぐみん。

めぐみんは態度を変えたダクネスを見るや否や、持っていた箒で頭を引っ叩いたのだった。

俺はバルターには見えない様に、めぐみんにサムズアップを送った。

 

ぐっじょぶ!めぐみん!!

 

「ら、ララティーナ様、大丈夫ですか!?」

 

「これぐらい、何でもない!ひ弱なきさま!ぶふ!!」

 

今度はアクアが止めに入る

 

「あら?ごめんなさい、ララティーナ様。手が滑ってしまったわ。」

 

アクアは持っていた濡れ雑巾をダクネスの顔面に叩き付けていた。

 

ナイス!アクア!

だけど、ドヤ顔で俺にサムズアップするのは止めろ!

 

「ほ、本当に大丈夫ですか!ララティーナ様!?」

 

「はい、問題はありません。貴方とは鍛え方がちが、ひゃああああ!!!」

 

ゆんゆんは申し訳無さそうな顔で、氷結魔法をダクネスの首元に放つ。

 

おお!やる時はやるんだな。ゆんゆん!

 

「くっ!仲間達から、この様な責めを受けるとは!しかし、こういうのも…。」

 

仲間から散々妨害されて、困惑していたダクネスだったが、結局何時ものスイッチが入ってしまった。

 

「ララティーナお嬢様、お戯れはその辺で…、バルター様が困ってらっしゃいますよ?」

 

俺は、そう言いながらダクネスに近づき、ダクネスの耳元で話す。

 

「おい、ダクネス。いい加減にしろよな。

断るのはお前の勝手だが、親父さんから言われた事は覚えているだろう?」

 

破談させる為に本性を現せ、なんて誰も言っていない。

 

「し、しかしだな…、私はああいう男は苦手なのだ。」

 

言いたい事はわからんでもない。

最近こそ、ミツルギと話せるようになった様だが、

ダクネスがアイツに対して苦手意識を持っているのは知っている。

 

「それは分かっているって、だけど今日だけは辛抱しててくれないか?」

 

俺の懇願にダクネスは口を尖らせるが、一応は従ってくれるみたいだ。

 

「では、バルター様。此方へ。」

 

バルターを中庭に案内して、一歩引く。

 

取り留めのない会話が続く。

 

アクアは暇なのか、池にいる鯉を呼び集め、まるでイルカショーの様な事をしていた。

 

…マジですげえな。どうやっているのかが気になるんだが!?

 

アクアの大道芸に気を取られていた俺達は、目的を忘れ、二人から離れてしまった。

 

おっと、不味い不味い。

 

「ララティーナ様、ご趣味は?」

 

「あ…えーと、筋トレとゴブリン退治を少々…ぐふっ!!」

 

「これは申し訳ありません!ララティーナ様!足を滑らせてしまいました!!」

 

おいおい…、親父さんから釘を刺されているんだから、下手な事言うのは止めてくれよな。

 

「ゲホッ!何をする…。」

 

「バカか、もっとマシな事を言えっての。」

 

俺達はバルターに聞こえないように小声で話す。

 

「随分仲がよろしいのですね。」

 

あ、やべ!余計な勘違いをされたか!?

 

「そうですのよ?このカズマとは何時も一緒に居りますの。」

 

ダクネスはすごい力で俺の手を掴み、嘘を並べ始める。

 

「食事もお風呂も…勿論、夜寝るときも…。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

おい、バカ、止めろ!めぐみんが滅茶苦茶睨んでるぞ!!

 

「いえとんでもない!ララティーナお嬢様はご冗談が大好きでして!」

 

身体強化魔法で無理やり手を振り払い、俺は反撃に出る。

 

「ララティーナお嬢様!お戯れはその辺にして置いてください!」

 

「へぶっ!」

 

俺に顔面を掴まれたダクネスは、変顔のまま俺に反撃しようとする。

 

「おや?如何されました?ララティーナ様?…ララティーナ様!?」

 

しかし、俺がダクネスの本名を連呼すると、恥かしさからかダクネスが蹲る。

 

「お、覚えて居ろよ、カズマ。」

 

よし、勝った。後は場の空気を元に戻すだけだ。

 

そう思い、バルターの方を見ると何故か寂しそうな表情をしていた。

 

「本当に仲が良いのですね…。妬いてしまいますよ。」

 

あ、あれ?思ったよりも不味い流れじゃね!?

いっその事、俺には婚約者がいるって言っちまうか?

 

困惑していると、急にダクネスが立ち上がった。

 

「もう止めだ!こんな事をやってられるか!!」

 

そのままの勢いでダクネスはドレスのスカートを破り捨てる。

 

お、おお!生足が…

 

「ら、ララティーナ様?」

 

「おい、貴様!バルターとか言ったな!?正直私は貴様の事を噂程度でしか知らない!

お前の素質を見定めてやる!だから、私と剣で勝負をしろ!!」

 

「え…?」

 

こ、こいつ、とうとう開き直りやがった!?

やべえよ!これ!どうやって収拾付けろってんだよ!?

 

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

結局、剣の勝負という可笑しな流れになってしまい、俺達は屋敷内の修練場に移動した。

 

「勝負はどちらかが音を上げるまで!!」

 

お前に有利じゃねえか。

 

「こんなのもう無理!お願い、これ以上は許して!と言わせてみろ!」

 

それ、お前にとってはただのご褒美じゃね?

 

「そうしたら、嫁でも何でも行ってやる!!」

 

勝ち確なんだよなぁ。

 

それにしても、この状況…如何すりゃ良いんだ?

 

「……。ララティーナ様、僕は騎士です。訓練とはいえ、女性に剣を向ける事など出来ません。」

 

「なんと言う腑抜けか!!其処に居るカズマを見てみろ!

この男は相手が女だろうと、一切手を抜かない!根っからの負けず嫌いなのだ!」

 

お、おい!

 

「貴様は敵であろうとも、相手が女なら戦わないとでも言うつもりか!?

そんな調子で、民を護れると言うのか!?だとしたらとんだ勘違いだ!!」

 

…正論だろうけど、こいつの目的って多分…

 

「……分かりました。其処まで言われては僕も引き下がれません。

正直言って、僕はあの父に押し付けられた今回の見合いを断る為に来たんです。

…でも、貴方を見ていたら気が変わった。」

 

バルターは一呼吸置いて、更に続ける。

 

「何処にでも居る、貴族の令嬢とは訳が違う。流石は王国の懐刀の一人娘だ…。

僕は貴方に興味が湧いた。…行きますよ!ララティーナ様!!」

 

バルターは木剣を構え、ダクネスを促す。

 

「ふん!面白い!やれるものならやって見せろ!!」

 

ダクネスは素早い剣撃を繰り出し、バルターに攻め立てる。

が、それを表情一つ変えずにバルターが受け止めた。

 

「!?すごい力だ!ですが、力だけでは僕には勝てませんよ!」

 

バルターはダクネスの剣をそのまま受け流し、流れる様にダクネスの剣を弾いた。

 

やるな…、剣の腕は俺どころか、ミツルギより上かも知れない。

 

「…勝負有り、ですね。ララティーナ様。」

 

「成程…、そこらの軟弱な貴族の御曹司とは違うという事か。」

 

弾かれた剣を拾い上げながら、ダクネスが呟く。

 

「だが、これで終わりではなかろう!女と思って遠慮するなっ!構わず打ち込んで来い!!」

 

バルターを挑発するように、剣を構えながらダクネスが叫ぶ。

 

「流石です、ララティーナ様。では!遠慮なく!!」

 

バルターの素早い攻撃がダクネスに襲い掛かる。

ダクネスはそれを何とか受け止めるが、バルターはそこから剣撃を変化させる。

それに反応しきれ無かったダクネスは、肩に剣を打ち込まれた。

 

おお!ああやれば、力比べをしないで済むのか!

だけど、あれは相当練習しないと出来そうに無いな。

 

「ぐっ…!」

 

ダクネスは肩を抑えながら膝をつく。

 

「何の!まだまだ!!」

 

ダクネスは何度も打ちのめされるが、その度に何度も立ち上がる。

 

正直、単純な剣の勝負だけなら、これは100年掛けても勝てそうにねえな。

 

「はぁはぁ…。」

 

何度も打ち込まれ、全身が痣だらけになっているダクネスは、それでも真っ直ぐバルターを見据える。

 

「…どうした?もう終いか?」

 

「なっ!?」

 

ダクネスの言葉に、バルターは驚愕して剣を下ろす。

 

「も、もういいでしょうっ!?勝負は視えている!!なぜ貴方は諦めないんですか!?」

 

「……私はクルセイダーだ。その私が膝を折り、相手に屈してしまったら誰が仲間を護るのだ…!」

 

ダクネス…。そうだよな!お前は何時だって俺達を護ってくれたよな!!

 

「たとえどんなに打ちのめされようと、私の心は折れない!絶対にだ!!」

 

ん?あれ?

 

「さあ、どうした!?殺すつもりで掛かって来い!!」

 

おい、顔が緩んできてるぞ…

 

「……参りました、僕の負けです。」

 

そう言って、バルターは剣を落とす。

 

「剣の技量は勝っていても、心の強さには敵わなかった…。貴方はとても強い女性(ひと)だ。」

 

「…何だ、終わりか…。つまらん、修行して出直して来い。」

 

「…ぷっ、あはははっ!完敗ですよ、ララティーナ様。」

 

ふう、やっと終わったか…、一時はどうなるかと思ってたけど、

バルターも満足そうだし、丸く収まったようでよかったぜ。

 

「…本当に惚れてしまった…。」

 

…マジか、あのダクネスを見ても、そう言えるのかよ…。

 

「…だが、これでは収まりがつかんな。」

 

いやもう、十分収まってるよ!

大方収まって無いのは、お前の体の火照りだろ!?

 

「ならば…。」

 

ダクネスは木剣を拾い上げ、それを俺に投げてよこした。

 

「来い!カズマ!久々に手合わせをしよう!!」

 

「はあ!?何でだよ!?せっかく円満に事が収まったんだから、この空気を壊すんじゃねーよ!!」

 

「…僕も見てみたいな、英雄殿がどんな戦いをするのかを…。」

 

「なっ!?」

 

「良いじゃない、やりなさいよ!カズマ!」

 

「そうですよ、此処は男を見せる時です。」

 

「お前らまで…。あーもう!仕方ねえな!!」

 

俺は剣を構えて、ダクネスと向き合う。

 

「”本気”で来いカズマ!手加減はいらぬぞ!!」

 

「本気で良いんだな?…おい、アクア、合図を。」

 

今夜は大事な仕事があるというのに、ダクネスの奴…

こうなったら、さっさと終わらせてやる。

 

「じゃ、始めなさい!」

 

「行くぞ、カズマ!」「『クリエイトウォーター!!』」

 

「なっ!剣での勝負にいきなり魔法を撃つなんて…!?」

 

俺の行動にバルターは批難の声を上げる

 

「見たか!?これがカズマという男の戦い方だ!!」

 

「お、お前が本気で来いって言ったんだろ!?俺の本業は魔術師なんだよ!!」

 

「それでこそ、カズマだ!さあ、続けるぞ!!」

 

言葉だけでは止まらない、暴走状態のダクネスを止めるには気絶させるのが手っ取り早い。

正直、こんなしょうもない事で、余計な魔力を使いたくなかったんだが…。

 

「悪いがこれで終いにするぞ!『ライトニング!』『バインド!』」

 

「ひにゃあああああああああああ!!!?」

 

「何と言う外道な事を…水に濡れた状態の相手に雷魔法を撃つなんて…

流石は音に聞こえた、アクセルの鬼畜男…噂通りの人物だったとは。」

 

「おい!待て!あんたこの町の人間じゃないんだろ!?なんで知ってんだ!?」

 

本当に俺の悪評はどこまで広がっているんだよ!?

 

「あ、ダクネスが落ちました。」

 

めぐみんの言葉に釣られて下を見ると、ダクネスは恍惚な表情で涎を垂らしながら果てていた。

 

うわぁ…。これ癖になったりしないよな!?

 

「なんという容赦のない攻め!鬼畜の所業!?しかし…僕もまだまだ精進が足りない。

もっと修行して、ララティーナ様の理想に近づかなくては…!!」

 

「いや、アンタはそのままで良いと思うぞ。」

 

間違った道に進もうとしているバルターに突っ込みを入れていると、突然修練場の扉が開く。

 

「やっとるかね?修練場にいると聞いたので、飲み物の差し入れを…。」

 

ダクネスの親父さんが修練場に入って来る、そしてこの惨状を見て固まった。

 

「「あの二人がやりました。」」

 

ゆんゆんが一人オロオロしている中で、めぐみんとアクアはそう言い捨てた。

 

「よし!処刑しろ。」

 

「「ちょ!待ってください!!」」

 

俺達は慌てて、親父さんに弁明した。

 

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

 

 

「娘は昔から人付き合いが苦手でなあ…

毎日友達が出来ます様にと、エリス様にお祈りしていたよ。

盗賊の女の子と友達になれた時はそれはもう喜んで…」

 

ああ、クリスから聞いた事あったな。

 

「妻を早くに亡くし、男で一つで自由に育ててしまったのが良くなかったのかな…。

あんな風に!なってしまって…。」

 

これはアレか?あの性癖の事を言っているのか?

それなら親父!娘があんなになるまで何故ほっといたんだ!?

 

「ララティーナ様は素晴らしい女性ですよ。カズマ君がいなかったら、僕が嫁に貰いたいぐらいです。」

 

「は?ちょっとアンタ、何か勘違い…」

 

「ははは、そうか、それなら仕方ないな。カズマ君娘の事を頼むよ。」

 

「いや、だからっ!?」

 

めぐみんの目が怖くなってきたから、冗談でもそういう事いうのやめてくれよ!

 

二人の勘違いをどうにか正そうとしていると、部屋の扉が開いた。

 

「ん?どうしたんだ?私が寝ている間に何が起きた?」

 

目を覚ましたダクネスが部屋に入ってくる。

 

「おお、目が覚めたかララティーナ。」

 

「む?これは一体どういう状況だ?」

 

「…お前の所為で微妙な空気になってるんだよ。」

 

「…何のことだ?」

 

「いや…だから…。」

 

俺が事情を説明しようとしていると、ダクネスは何かに気づいた様に、はっとした表情になる。

 

「お父様、バルター様、今回の見合いは無かった事にして貰いたい。」

 

いや、んなこと改めて言わなくても…。

 

「実は私のお腹には、カズマの子が…。」

 

「!?はぁ!?お前言う事欠いてなんて事言いやがる!?」

 

何か、めぐみんがやべえ目で睨んでるんだけど!?え?何?お前まで信じちゃってんの!?

 

「そうか、お腹にカズマ君の子供が…、そういう事なら僕は諦めます。」

 

「おい!信じんな!!」

 

「カズマとダクネスがそんな関係だったなんて、これは修羅場ね!血の雨が降るわ!!」

 

「お前は黙ってろ!!」

 

「めぐみんの事は遊びだったんですね。最低です!カズマさん!」

 

「ちょお!ゆんゆんまで何言っちゃってんの!?」

 

「孫…私の初孫…」

 

「お、親父さんそんなんじゃないから、早く戻ってきてくれー!!」

 

「カズマ、私は何時でも貴方を信じていますよ?」

 

みんなが好き勝手な事を口走る中、めぐみんだけは優しく俺に語りかけた。

 

「おお!流石は俺のめぐみんだ!」

 

「ええ、だから……早く本当の事を言ってください。

何時したんです?何故今まで黙っていたんですか?」

 

全然信じてくれてねーじゃん!?

 

めぐみんは表情こそ笑顔だったが、その目は怒りに満ちていた。

 

あまりの剣幕にめぐみんは瞳だけではなく、杖まで光らせてしまう。

其れを見たダクネスは、慌てて冗談であった事を明かした。

 

「ダクネス!言っても良い冗談と、悪い冗談があるんですよ!?」

 

「は、はい。」

 

ダクネスはめぐみんに説教されて小さくなっている。

其れを見ていた親父さんとバルターは唖然としていたが、もうどうでも良いだろう。

 

「所でめぐみん?」

 

「何ですか?」

 

「…何で俺まで正座させられているのかな?」

 

そう言うと、めぐみんは俺の事をキっと睨んだ。

 

「日ごろの行いを考えてみてください。」

 

「……ごめんなさい。」

 

結局俺達は、小一時間ほど、めぐみんから説教を受けてしまった。

 

 

 

そして、その後…

 

「では、父には僕からお断りしたと伝えておきます。その方が色々と都合が良いのでしょう?」

 

「悪いな…、だけどあいつの事は諦めなくても良いからな?」

 

「ふふ、僕には高嶺の花ですよ。」

 

いや、アイツの見た目と家柄はそうかも知れんが中身は雑草だぞ?

 

「俺はお似合いだと思うんだがな。まぁ、また来いよ。アンタだけなら歓迎するから。」

 

「ええ、何れまた。」

 

そう言って、バルターは馬車に乗り込み、自分の領地へ帰っていく。

 

アイツ良い奴だったな、何時かダクネスを貰ってくれると良いんだが。

 

さて、そろそろ集合時間だ。

 

バルターには悪いが、きっちりカタはつけないとな…。

 

空が夕闇に染まっていく中、俺は一人拳を握った。

 

 




次回はいよいよ、アルダープと対決です。……多分。

次話は大分長くなると思うので期間が開くと思います。
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