このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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潜入

「アクア、どうだった?」

 

「結界に異常は無しね!進入されていないと思うわ!!」

 

盗聴や潜伏の心配は無しと…、よし!

 

「じゃあ、始めよう!!」

 

潜入前の最終会議、俺は新たに得た情報を、皆に話した

 

「奴め…、そんな事を口にしていたのか。」

 

「おい、良いのかよ?クレア。俺の話を、そんな簡単に信じちまって。」

 

それと、俺の口調も咎められていないんだが、問題はないのか?

今更、敬語に戻すのは面倒だし、問題ないならこのまま行くぞ?

 

「そうですね…、本来であれば真偽を問い、裏付けも行うところですが…。

今回は、猶予が不明な上に、相手があのアルダープですからね。」

 

成程、アルダープが相手じゃ、元よりまともな裏付けは出来ないか。

それに今回は、俺が見聞きしただけの情報だし、確認のしようもないわな。

 

「それにしても、気になる情報が多いね…。」

 

クリスは真剣な表情のまま、腕組をして思案していた。

 

「何か気になる事があるのか?」

 

「ちょっとね…。」

 

クリスは曖昧な返事をして、顔を伏せた。

 

これは訳有り……。というより、もしかして神器絡みか?

 

これは後で、クリスに確認を取った方が良いかもな。

 

「なあ、金はクレア様が持って来るんだろ?それを、あの豚はどうやって横取りする気なんだ?」

 

ダストの疑問は尤もだ。前回は領主への報告があった様だが、今回は直接、俺達の所にクレアが来る。

 

「今回の報酬は、ベルディアの時とは比べ物にならないぐらい多額です。

シンフォニア家に仕える者達で、運び込むつもりでしたが…

これは暫く待った方が良さそうですね。」

 

「それがいいわね。あの豚領主が悪魔の力を使って、何か干渉してくるかも知れないもの。」

 

「ん?悪魔の力?」

 

「ああそういえば、カズマは知らなかったわね?

えっとね、高位の悪魔って、何かしらの特殊能力を持っているモノなのよ。」

 

おいおい、初耳だぞ!?

 

「もしかして、前に倒したホーストもか?」

 

「そうよ。あの時は不意討ちでホーストの半身を消し飛ばしたから、

能力が使えなかったのかも知れないけど、あいつも持っていた筈よ!」

 

マジかよ…、高位の悪魔って、そんなにヤバイのか!?

 

一人で突っ込むなんて案は、無謀極まりなかったって訳だな…。

結果的にだけど、此れは命拾いをしたか?

 

「これは、尚更慎重にやらねえとな…。」

 

相手はホーストより格上という話だ。

クソ!今更怖くなってきたぜ…。

 

「カズマ…。」

 

めぐみんが心配そうな顔で、此方を覗き込む。

 

「…そんな顔するなって。大丈夫だ、いざとなったら直ぐに逃げるよ。」

 

めぐみんに、そして自分に言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。

 

折角幸せを手にしたのに、こんな所で死んでたまるか!

…結婚指輪を買った手前、それが死亡フラグになってるんじゃないかと心配はしてるが…。

 

「兎に角、皆!手筈通りに頼む!」

 

俺の言葉に、皆が力強く応える。

 

「…こんな所か?他は無いよな?」

 

確認を取ると、ミツルギが何かを思い出したかの様に手を上げる。

 

「作戦には関係無い事なんだけど…。」

 

「ん?どうした?」

 

「親方さんがOKしてくれたから、一応報告しておこうと思ってね。」

 

「お!本当か!?…親方には感謝だな…。」

 

「後は、今回の件を無事に切り抜けるだけだよ。」

 

「ああ!そうだな!!」

 

彼女の誕生日が控えているとか、結婚前だとか…

それを死亡フラグになんか絶対にしてやるもんか!!

 

絶対無事に切り抜けて!めぐみんを皆で盛大に祝って!そして結婚まで漕ぎ着けてやる!!

 

 

 

―――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクアさん、この辺りで良いですよ。」

 

「此処からじゃ、まだ距離があるじゃない?大丈夫なの?」

 

アルダープの屋敷に向かう道中、潜入班の俺とクリスはギリギリの地点までアクアを連れて来ていた。

 

「此処まで来れれば十分だ。アクア、俺とクリスに支援魔法を頼む。」

 

「分かったわ、…あ、カズマ。芸達者になれる支援スキルを取っているんだけど、ソレはいる?」

 

「…何だソレ??」

 

「一発芸とか、そういう宴会芸をプロ並に演じることが出来るの!!如何?二人とも!?」

 

いや、如何って言われても……?

 

「えっと、私は良いかな?カズマ君はどうするの?」

 

……ふむ。

 

「アクア、それの効果時間はどれぐらいあるんだ?」

 

「最大で、1時間まで効果を伸ばせるけど…掛けて欲しいの?」

 

「ああ、頼む。」

 

そう言うとアクアは、嬉しそうな顔を見せる。

 

「ふふん!任せなさい!!」

 

アクアは笑顔のまま、次々と支援魔法を俺達に掛けていく。

 

「ありがとう、アクア。じゃあ、皆の所に戻っていてくれ。」

 

「ええ、分かったわ。カズマ達も気をつけなさいよ!」

 

アクアが戻っていくのを見届けて、俺達は行動に移した。

 

 

 

闇夜に紛れ、二つの影が高速で移動していく。

 

見張りの目を掻い潜って屋敷に近づき、設置されている高い塀の傍までやってきた。

塀を見上げてみると、鼠返しの様な物が付いている為、普通には上れそうに無い。

 

「助手君、如何する?」

 

「少し待ってて下さい、御頭。…よし、テレポートの登録完了っと。」

 

御頭と助手。

間違っても本名で呼び合う事なんて出来ないので、お互いを呼ぶ為に定めた呼び名だ。

 

「じゃあ、御頭。俺を踏み台にして跳んで下さい。

手に乗った時に、上に押し上げますから。」

 

そう言って俺は、腰を落として構える。

 

俺が今やろうとしているのは、忍者とかがよくやるアレだ。

土台になる人間が下から押し上げ、アシストされた跳躍者が高く飛ぶっていう奴だな。

 

「え…?本当に大丈夫なの?」

 

「御頭がバランスを崩したりしない限りは平気ですよ。…それとも怖いんですか?」

 

「…本職を舐めないでよね。」

 

軽く助走をつけ、クリスが俺のアシストを受けて、塀の上に跳ぶ。

そしてクリスは振り返り、俺に向けてドヤ顔でVサインを送ってきた。

 

「ウザ…。良いから早くロープを下ろしてくださいよ。」

 

ジト目でクリスを見ていると、バツが悪くなってきたのか、クリスは頬を掻いてロープを下ろす。

 

「よっと、…よし、早速屋敷内に潜入するよ。付いてきて助手君。」

 

事前に下見をしていたクリスの案内で、俺達は無事屋敷内に潜入が出来る。

 

「そういや…、前はどうやって入ったんです?」

 

「以前はこんなに見張りがいなかったからね…。門番に退いて貰うだけで入れたんだよ。」

 

「…なんでこんなに護衛が増えたんでしょうね?」

 

「さあね?何か企んでいるのは間違いないと思うけど…。」

 

一体何をしでかすつもりなのか…。

 

屋敷内を移動して、アルダープの私室を目指す。

その道中で、俺はあることに気が付いていた。

 

「御頭、なんか見張りの連中、外見ばかりで大した事ない奴ばかりじゃないですか?」

 

強面ばかりで、大して強さは感じない。どいつもこいつも見掛け倒しに見える。

 

「多分、ただのチンピラだろうね。正規の傭兵よりも安く雇えるだろうから。」

 

「ああ、ケチってるんすね。それなら雇う意味自体ないんじゃないんすか?」

 

「さあ?アルダープが考えている事なんて、分かる訳が無いよ。」

 

それもそうか……!?

 

片手でクリスを静止し、盗聴スキルに集中する。

 

「…この先…いるな。……かなり多いぞ。」

 

「…扉の向こうだね。どうしよっか?」

 

俺達は周辺を探り、使えないものが無いか確認を取る。

 

「通気口があるね、あそこから行って見よう。」

 

俺達は通気口まで攀じ登って中に入った。

中は思ったよりも広く、俺でも余裕で通る事が出来る程だ。

 

「うーん、困ったね。彼らがいる所って、アルダープの私室の前なんだよね。」

 

「無力化しないと不味いか。」

 

いくら気配を消し、姿も消せても、不自然に扉が開閉すれば、誰の目にも異常に映る。

つまり、中に入る為には護衛の連中を黙らせる必要がある。

 

「と言っても、結構な人数がいるよ?下手に倒したら騒ぎになるし、助手君は何か手があるの?」

 

さて、如何するか?

 

…他の連中が見回りに来る可能性もあるから、ただ倒すだけじゃダメだろうな。

 

暫し、思案に耽っていると、連中の会話が耳に入ってきた。

 

「ふわああ、ねみーなあ!ったく、領主サマは俺達の事をコキ使いすぎじゃねぇか?」

 

「…気持ちは分かるが、こんな所で言うなよ…。」

 

「気にするこたーねーよ。どーせ今頃、高いびき掻いて寝てるだろうしよ。」

 

「それもそうだ、じゃあもう休んじまうか?」

 

「バーカ、そんな事したら、俺達揃って解雇されちまうぞ。」

 

「もう、構わねえよ!給金だってまともに貰えてねえんだからよ!」

 

「お、おい!声が大きい!起きたら如何するんだ!?」

 

いや、お前の声もでけーよ!

ったく、耳が痛くなっちまったじゃねえか。

 

「不味いかな?これ。」

 

「シッ!…暫く様子を見ましょう。」

 

そろそろアクアの支援が切れちまうな。

芸達者スキルとかいうのはまだまだ持つけど…

 

数分程、様子を見ていたが、アルダープが起きてくる気配はない。

 

「そろそろ、行動に移すか…。」

 

「ん?何するの?」

 

「奴らの希望を叶えてやろうと思いましてね。」

 

俺は手の中で印を結び、準備を整える。

 

「御頭、少し離れてて下さい…巻き込まれるかも知れません。」

 

「う、うん。」

 

この魔法が、術者自身には効果が薄いと言うのは経験済みだ。

 

「上手く行けよ…。『ウィンド・カーテン』『スリープ』」

 

柔らかい風と共に、眠りの魔法が護衛達を誘う。

 

一人、また一人と夢の世界に誘われ、瞬く間に全員が眠ってしまう。

 

範囲内の集団を無力化させられないかと、考えた組み合わせだったが、上手く行った様だ。

 

「ちっ、効果が薄いって言っても、多少はあるな…。」

 

俺は頬を両手で叩き、眠気を吹き飛ばす。

 

「…すごいね、助手君…。ねえ、今後も私の仕事に付き合ってくれないかな?」

 

「考えておく…。それよりも御頭、今は先ず仕事を片付けましょうよ。」

 

「そうだね!やっちゃおうか。」

 

俺達は様子を伺いながら、廊下に降り立つ。

 

俺が、護衛の連中を空き部屋に押し込んでいる間に、クリスが扉の開錠を行う。

首尾よく扉が開き、二人で部屋に侵入した。

 

部屋の中もとても豪華で、例えるなら高級ホテルのキングスイートと言えば分かり易いだろう。

 

『ここはリビングみたいだね。寝室は隣の部屋かな?』

 

盗聴スキルを使って、耳を澄ますと隣の部屋からいびきが聞こえてくる。

 

『そうみたいですね。隣から豚のいびきが聞こえますから。』

 

『豚って……。気持ちは分かるけど…。』

 

『そんな事より、先ずは証拠品を探しましょうよ。』

 

というか、先ずは俺達の指輪を取り戻したい!!

 

クリスにそう提案すると、彼女は頷いて直ぐに行動に移った。

 

音を立てない様に気をつけながら、部屋の捜索を進める。

 

「あ!?」

 

静寂の中で急にクリスが声を上げる。

 

『ちょっと、御頭!声を上げないでくださいよ!』

 

『あ、ごめん。…でも、見てよこれ。』

 

『…?なんですか?そのペンダントみたいな物は?』

 

『アルダープが入れ替わるって言ってたんでしょ?多分これを使おうとしたんだと思うよ。』

 

どういう事だ?

 

俺が意味分からないという風で見ていたのを、クリスが感じ取ったのか、更に言葉を連ねる。

 

『これ、神器だよ。…やっぱり此処にあったんだね…。』

 

それが神器か…。あ!そう言えば…。

 

『御頭、聞きたいんすけど…。』

 

『ん?何。』

 

『悪魔の召還とか使役って、簡単に出来るもんなんすか?』

 

そう聞くと、クリスの表情が険しくなっていく。

 

『何?助手君、興味があるわけ?絶対ダメだからね!悪魔の使役なんて!』

 

クリスは小声ではあるが、若干興奮気味で、俺に捲くし立てた。

 

『いや、そうじゃなくて、あの豚が悪魔を使役しているでしょ?しかも高位の悪魔を。』

 

そこが、ずっと引っ掛かっている。

 

昼間見たアルダープからは、さほど魔力を感じなかった。

というより、ほぼ一般人レベルの魔力しかない。

そんな奴が、悪魔の召還…引いては高位悪魔の使役なんて出来るのだろうか?

 

『…簡単には無理だよ。召還だけでも魔力を相当使うだろうし、

さらに其れを使役するとなれば、相応の代償が必要になる。』

 

代償?

 

『それって、どんな代償なんですか?』

 

『召還された悪魔ごとに、支払う代償は変わるから同じではないんだけど、

ただ、悪魔ってね…人の出す、悪感情が好きなんだよ。』

 

『悪感情?』

 

『嫌だなって言う気持ちの事だよ。それは憎悪や絶望、恐怖や嫌悪感、後は痛みとか言うのもあるね。』

 

『成程、所謂負の感情を好むんですね。』

 

……。

 

『俺、嫌な事に気づいちまったかも知れません。』

 

『ん?如何いう事?』

 

『一連の事件なんですが、その悪魔の代償だったんじゃないかと思いまして…

それに、あの豚の欲が絡んでいったのではないかと。』

 

それなら護衛の連中が多いのも納得がいく。

奴らをこき使う事によって、悪感情を生み出していたんじゃないかな?

 

『…うーん。確かに悪魔はそれでも喜ぶかも知れないけど、

普通、代償は契約者が払わないといけないんだよ?』

 

あれ?的外れだったか?

 

『だけど、助手君の疑問は尤もだね。一体どうやって……っ!?』

 

思案をしていたクリスはハッとした表情で顔を上げた。

 

『如何したんです?御頭。』

 

『…そうだよ!神器なら可能性があるよ!現にこうして一つは出てきているんだから!』

 

『悪魔を召還使役する神器ですか。それが本当なら、かなり不味いんじゃないですか?』

 

『うん!思ったより深刻かも…、悪魔を倒したとしても最悪、再召喚される可能性もあるよ!』

 

想定以上だ…、如何すりゃ良い?

 

『…寝室以外は粗方探し終わってますよ?』

 

『…助手君は見てないよね?多分石ころみたいな道具だけど。』

 

『ええ、そんな物が大事にしまってあれば、御頭に確認取ってますよ。』

 

『そうだよね…。』

 

此処に無いという事は、寝室にあるか…もしくは豚が身に着けているかだ。

 

俺達はお互いに頷き合い、寝室に侵入する。

 

部屋に備え付けられた豪華なベッドにアルダープが寝ている。

それを起こさぬ様、細心の注意を払って部屋を物色していく。

 

『ないっすね…。』

 

『じゃあ、やっぱりアルダープが?』

 

俺達はアルダープの方を見て、暫く沈黙する。

 

『……助手君調べてくれない?』

 

『…嫌に決まってるじゃないですか。』

 

もうすぐ冬に入るというのに、アルダープは寝汗が酷く、近くに寄るだけでとても臭かった。

 

『助手君は男の子でしょ!?キミは女の子にこんな事させるつもりなの!?』

 

『俺、男女平等主義者なんで…、こういう時に女の子の特権発動させても、俺は動じませんよ。』

 

お互いに譲り合いの精神?で、嫌な事を押し付けあう。

 

暫く、馬鹿なやり取りを続けていると…アルダープ以外の気配を感じ取った。

 

『…今、笑い声が聞こえなかった?何か居るよね?』

 

『御頭も感じ取りましたか…』

 

もしやと思い、アルダープのベッドに近づく。

周辺を隈なく探すと、引き戸を見つけた。

 

引き戸を開けると、下に続く階段があった。

 

『…地下か?如何します?おかし…』

 

顔を上げると、クリスが鬼のような形相をしていた。

 

『…いるよ。……とんでもない奴が。』

 

どうやら、目的のモノを見つけた様だ…。

 

 

 

―――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

暗視を頼りに、地下に続くと思われる階段を下りていく。

 

「ヒューヒュー」

 

『こんな場所に隠れていたなんてね。…分からない筈だよ…。』

 

クリスは機嫌悪そうに、そう言い捨てる。

 

階段を降り切ると部屋があった。

そこで一際目に付いたのは、巨大な檻。

嘗て、クエスト攻略の為にアクアが入った様な頑丈な檻があった。

其処に入っているのは、端整な顔つきの美青年…

 

『あいつが…!?』

 

一目で分かる。たとえアクアの人相書きがなくても…

 

何故なら彼には後頭部がなかった。まるですっぽりと抜けてしまった様に。

 

彼は虚ろな目をして嗤う。

 

「…これは!?随分大物がいたみたいだね!!」

 

「お、御頭!声!」

 

あ、やば!俺も声を上げちまった。

 

時既に遅く、敵感知が上の階から反応した。

 

「不味いね、これは。」

 

「いや!御頭の所為っすよ!?」

 

ドタドタドタと階段を降りて来る音に俺達は距離を取る。

 

「こんな所に侵入者とは!?貴様ら、余程死にたいのだな?」

 

「ちっ!」

 

「ん?そっちは女か?貧相な体ではあるが殺す前に愉しむとしよう。」

 

豚が…。クソッ!如何する!?

こんな狭いところで、悪魔の力を行使されたら逃げ場なんてねーぞ!?

ここはテレポートで逃げるのが正解か!?

いや・・・!

 

「御頭!」

 

俺はアルダープに掌を突き出してクリスを呼ぶ。

 

「あ!うん!やるよ!助手君!!」

 

「こんな状況で何をすると言うのだ?マクス!二人「『スティール!!』」「『スティール!!』」」

 

アルダープの言葉を遮る様に、俺達はスティールを発動させる。

 

「…やっぱり、持ってた!…でも此れは…!?」

 

クリスは目的の物を引き当てた様だ。

そして、俺の手の中にはペアの指輪があった。

 

「!?」

 

やっぱり、こいつが持ってたのか!!

クソッ!汚ねーな!!油塗れじゃねぇか!!

 

「どうやら、証拠品を抑えた様だぜ?観念したら如何だ?豚領主さんよ!?」

 

「くっ!貴様!!誰の手の者だ!?ワシにこんな事をして、ただ済まさんぞ!?」

 

豚は喚き散らしながら、悪魔が入った檻を開ける。

 

不味い!制御出来なかったとしても、こんな所では満足に戦える訳が無い!!

 

「御頭!引きましょう!!」

 

直ぐにテレポートをとも思ったが、追いかけさせないと意味がない。

多分、これらの証拠品だけでは言い逃れられる。そう感じた。

 

クリスの手を引きながら、効果が切れている速度の支援を掛け直す。

 

「上手く行きそうだね!」

 

「まだだ!アレが追いかけてこないと…!?」

 

激高し、顔を真っ赤にした豚を抱え、悪魔が追ってくるのが見えた。

 

「意外に早い!」

 

「逃がさんぞ!下賎の輩の分際でワシに逆らえると思うな!やれ!!マクス!!」

 

「ヒューヒュー。わかったよ、アルダープ。」

 

じょ、冗談だろ!?追ってくるのは分かってたけど、なんであの豚に従ってんだ!?

 

マクスと呼ばれた悪魔はライトニングを連発で飛ばしてくる。

俺達はそれを何とか掻い潜り、逃走を続けた。

 

「ちっ!護衛が多いんだった!」

 

「不味いよこれ!このままじゃ彼らも巻き込まれるよ!」

 

まだ、俺達には気づいていない!なら!!

 

「侵入者は外だ!捕まえた者には破格の報酬を払ってやる!!」

 

アルダープの声色を使って、護衛の連中に命令を飛ばす。

すると、怒声を上げながら連中が外に向かって走り出した。

 

「…使えるじゃないか、これ。」

 

「……ホントだね。」

 

外にさえ出てもらえれば、連中も逃げる事が出来るだろう。

それに、目撃者にもなって貰えそうだ。

 

「行くよ!助手君!!」

 

!?

 

瞬間、悪寒が走る。

 

気が付いたら、俺はクリスを突き飛ばしていた。

 

「うあああああ!!」

 

右腕に鋭い痛みが走り、何かが落ちた音がする。

激しい痛みで、俺は一瞬ぐらついて膝を突いた。

 

「助手君!?」

 

クリスが慌てて駆け寄ってくる。

そこに不敵な笑みを浮かべた豚が現れた。

 

「手こずらせおって、だが、その傷では逃げる事も出来まい。」

 

「…ぐ、どう、かな?」

 

俺は落としたものを手に取ると、高速詠唱に入る。

 

ここは一時撤退だ。

 

「何をする気だ!?貴様!!逃げられはせんぞ!!」

 

「はは、…この場は凌げるさ。」

 

『『テレポート』』

 

瞬間、俺達はアルダープの前から掻き消えた。

 

 

 

 

 




悪魔は引っ張り出せたものの、深手を負ったカズマは撤退を余儀なくされました。

次話はもう書き始めているので、そんなに掛からないと思います。

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