このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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ラストのカズめぐの会話が少し変わっています。



お帰りなさい。

≪ゆんゆん視点≫

 

 

マクスウェルと戦ってから、三日が過ぎました。

 

アクアさん達の話によると、あの後も色々あったそうです。

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

≪アクア視点≫

 

 

<三日前>

 

 

私はまだ此処に用があったので、ゆんゆん達を見届けてから、皆の元に戻った。

 

私が傍まで行くと、豚領主はチンピラに胸座をつかまれて、何度も殴られていた。

 

「ひ、ひぃ!!ガッ!ぎゃ!!き、貴様!?ひ!!ワシにこんな事をして、ただで済むと思うなよ!?」

 

「あん?もっと痛めつけて欲しいのか?俺のダチを傷つけておいて、テメエこそ、ただで済むと思うなよ?」

 

「ひ!!ガッ!!やめろ!!やめ!!」

 

「お、おい!ダスト、やり過ぎだぞ!?死んだら如何すんだよ?」

 

「そ、そうだよ!アルダープにはまだ、聞きたい事があるんだからさ!」

 

チンピラの行動にクリスとキースが止めに入った。

 

「うっせーな!こいつの所為で俺達は苦労したんだぜ? そうだ、キースお前も殴っとけよ。」

 

「いや、俺は…。」

 

チンピラの言葉にキースは言い淀んでいた。

 

その様子を見るに、キースも本当は殴りたいみたいね。

 

「ダ、ダスト殿、その辺で…本当に死なれたら困るんですよ!?」

 

「ああ、それなら心配は要らないわよ!『ヒール!』 ほら、これで問題は無いでしょ?」

 

「おお!ナイスだ!アクア!!これで気が済むまで殴れるぜ!!」

 

チンピラはウキウキした表情で拳を振り上げる。

 

「ちょっと!ヒール一回、高級シュワシュワ一本よ!」

 

私がそう言うと、チンピラは動きを止めた。

 

「しゅ、シュワシュワで!」

 

「ダメよ。」

 

「か、蛙の唐揚げもつけるから!」

 

「ダメね!」

 

「な、なら、支払いは報酬が出た後でも?」

 

「良いわよ。」

 

「…高級シュワシュワでお願いします。」

 

チンピラの言葉に、私は大きく頷いた。

 

「ちょっ!ちょっと待てえ!!貴様ら、何の相談!?ゴハッ!」

 

「よっしゃ!これでまだまだボコれるぜ!!キースもどうだ?支払いは高級シュワシュワだけどよ?」

 

「そうだな。じゃあ、俺も一本分くらいはやっておくか!!」

 

チンピラに続いて、キースまで豚領主を足蹴にしはじめる。

 

「アクアさん!何で協力しちゃっているんですか!?」

 

ジト目で見てくるクリスの姿に、後輩の影が重なる。

 

やっぱり、この子…エリスにそっくりね。

 

後輩に怒られた時の様な居心地の悪さを感じて、私は殴っている二人に釘を刺す。

 

「アンタら、”これ”があるんだから、程々にしておきなさいよ。」

 

私が”それ”を見せると、二人は黙って豚領主を殴る。

殴っている二人の表情は、とても険しく、怒りに満ちていた。

 

その様子を見ていた私の所に、ダクネスとミツルギが近づいて来た。

 

「アクア、カズマの容態は如何なんだ?」

 

「腕の方は、問題ないわ。ただ、体の方は心配ね。

傷は治したけど、失った血液まで戻るわけじゃないから。

あ、『ヒール!』」

 

「…サトウ君が倒れたのは、出血多量でショックを起こしたからなんですね…。

あ!アクア様。輸血とかは出来ないんですか?」

 

「うーん?難しいんじゃないかしら?道具もないし、私も詳しい知識があるわけじゃないから。」

 

「そ、そうですか…。」

 

「アクア、何か私達に出来る事はないのか?」

 

「そうねえ、今はないけど、何かあればあなた達にも協力してもらうわ。

まずはあの豚…あ、『ヒール!』そこの豚領主の後始末を、お願いするわね。」

 

「む、分かった。」「分かりました。」

 

「其処の二人!他にもやる事があるんだから、それ位にしてくれない!?」

 

「ああ。」「ちっ!仕方ねえな!」

 

最後に二人で一通り殴った後、豚領主は解放された。

 

さて、後は、協力者を…

 

周囲を見回すとウィズの姿がなかった。

 

「あら?ウィズは如何したのよ?」

 

「む?そういえば、見てないな。」

 

「僕も見てないです。」

 

「ウィズ殿ですか?彼女なら明日が早いとかで、帰られましたよ。」

 

「そうなの?仕方ないわね…。クリスとリーン、後そこの二人手伝ってくれる?」

 

「御免なさい、アクアさん!私はまだアルダープに聞きたい事があるので…。」

 

「そうなの?もう!仕方ないわね。」

 

チンピラさん達にやらせればいいわね、

 

「じゃあ、三人とも!付いて来て頂戴!!」

 

私は三人を連れて、屋敷の敷地内に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

≪クリス視点≫

 

先輩は、この世界に来てから変わった様に見えてたんだけど…

本質的には、あまり変わって無さそうだね。

それでも昔に比べれば、格段にマシだけど…。

 

アルダープを見ると、二人に殴られ続けた事がよっぽど堪えたのか、かなり憔悴していた。

そんなアルダープにダクネス達が尋問を始めた。

 

うーん?神器の事を聞きたいんだけど、今は無理そうだね。

後でダクネスに頼んでみようかな?

あーでも、それだとダクネスに事情を話さないといけないし、如何しようかな?

 

そんな事を考えていたら、急にアルダープが喚き出した。

 

「わ、ワシは悪くない!!悪いのは全部あの悪魔だ!!ワシはヤツに操られていただけだ!!」

 

いや、この神器を悪用した時点で黒確定だよ…。

この神器だと、持ち主以外は使役の効果が発揮出来ないから、契約を結んだんだろうけど。

 

あれ?そういえば、マクスウェルの好きな悪感情って…。

 

「ねえ、何で貴方は無事でいられたの?」

 

「な、何の事だ!?」

 

「ん?如何いう事だ?クリス。」

 

これは説明が必要かな。

 

「えっとね。マクスウェルの契約の代償は苦痛とかを含めた、所謂絶望なんだよ。」

 

私の言葉にダクネスとクレアさんは顔を見合わせる。

 

「クリス殿の話が本当であれば、確かに可笑しな話ですね。」

 

「クリス、今の話は確証があるのか?」

 

「うん、間違いない筈だよ。」

 

そう、間違いは無かった筈。

だからこそ、今のアルダープの状態は不可解なんだよね。

あの悪魔に代償を払っていたのなら、心を壊されそうなものなんだけど…

見た限りでは、そんな状態じゃ無さそうだし、何か抜け道があったのかな?

 

ダクネス達が尋問を続けているけど、アルダープは知らぬ存ぜぬばかり。

このままでは、埒が明かないという事で、連行するという話になった。

 

あ!?どうしよう!?まだ神器を隠し持っているかも知れないのに!!

 

「大人しくしろ!アルダープ!!ミツルギ殿!手伝って貰えますか?」

 

「分かりました。」

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

焦った私は、思わず止めてしまう。

 

「うん?如何したんだ、クリス?」

 

ど、どうしよう?考えてなかった!?

えーとえーっと!!あ!そうだ!!

 

「不用意に近づくのは危険だよ。もしかしたら、まだ武器を隠し持っているかも知れないよ。」

 

「大丈夫ですよ!クリスさん!!僕は後れを取ったりしません!!」

 

うん、それは間違いないと思うんだけど、ちょっとは空気を読んでくれないかなぁ?

 

「ミツルギ君はそう言って、カズマ君に負けたんでしょ?どんな相手でも油断しちゃ駄目だよ。」

 

「う…、サトウ君との話を持ち出されると…。」

 

地味にトラウマになっているのか、ミツルギ君は言い淀んだ。

 

「私がスティールをして、何か危険なものを持ってないか調べるよ。」

 

私がそう提案すると、ダクネスは納得したような顔をする。

 

「その手があったか。良いか?シンフォニア卿?」

 

「構いませんよ。ではクリス殿、お願いします。」

 

「うん。」

 

これで神器が出てきたら、後で回収しないといけなくなるけど、この男が持っているよりはマシだよね。

 

「『スティール!』」

 

私がアルダープにスティールを発動させると、彼が指に付けていた指輪が私の手の中に納まった。

 

うん、これなら神器は勿論、武器の類も隠し持っては無さそうだね。

 

「大丈夫そうだね。はい、ダクネス。」

 

「ありがとう、クリス。…これも調べれば、別の持ち主が出てきそうだな。」

 

「そうですね、では証拠品として押収致しましょう!では、ミツルギ殿。」

 

「はい。…フィオ、念の為にバインドを掛けてくれるかい?」

 

「うん、任せて!キョウヤ!」

 

「じゃあ、私が前を歩くわね!奪還しようとしてくる連中がいるかも知れないから、フィオは警戒を頼むわよ。」

 

アルダープはミツルギ君達に連行されていく。

 

「クリス、後日改めて礼をしよう。済まないが今は…。」

 

「あ、いいよいいよ!それよりもカズマ君を気に掛けてあげて!」

 

「そうだな、何事も無ければ良いんだが…。」

 

先輩がいるんだし、大事にはならないと思うんだけど…。

 

はぁ…、カズマ君も心配だけど、天界に戻ってからが大変だよ…。今夜は徹夜で仕事かな?

今回の事件でかなりの死亡者を出してしまったし、私、女神失格なんじゃないかな…。

 

「はあ…。」

 

 

 

 

―――――――――…

 

 

 

 

 

 

≪ゆんゆん視点≫

 

 

 

「そろそろお昼か、めぐみんにご飯を持って行ってあげないと。」

 

あれからめぐみんは、カズマさんの傍にずっといます。

 

「めぐみん、ご飯持って来たけど…。」

 

「…其処に置いといてください。」

 

「う、うん。」

 

カズマさんは、未だに目を覚ましていません。

 

アクアさんの話によると、カズマさんの体は大分回復しているんだそうです。

右腕もすっかり元通りで、失っていた血液も徐々に戻って来ていると聞きました。

 

「…カズマがまたうなされていました…。それなのに何も出来ない自分が歯痒いです…。」

 

めぐみんは日毎に落ち着いていきましたが、元気はどんどん無くなっています。

カズマさんが倒れてからは、今までずっと欠かさなかった爆裂散歩にも行っていません。

 

「で、でも!めぐみんが声を掛けると少しは収まるんでしょ!?

だから、めぐみんはカズマさんを十分に助けていると思うよ!!」

 

「そうですか?…そうだと良いのですが…。」

 

そう言って、めぐみんは自嘲的な笑みを零しました。

 

「カズマさんは、きっと悪い夢を見ているだけなんだから、直ぐに目を覚ましてくれるよ!?」

 

こんなめぐみんを私は見た事がない…。

 

何とかめぐみんを励まそうと私は声を上げてしまいました。

するとめぐみんは、目を丸く見開いていました。

 

「ゆ、ゆんゆん?今なんと言いましたか?」

 

「え?ええ?直ぐに目を覚ましてくれるって…?」

 

「その前です!!」

 

「え?…悪い夢を見ている?」

 

「!?それです!!」

 

めぐみんは急に立ち上がって、その場で着替え始めました。

 

「ど、どうしたのよ!?めぐみん!?」

 

「ゆんゆん!申し訳ありませんが、暫くカズマをお願いします!!」

 

めぐみんはそう言い捨てると、すごい速さで宿を出て行きました。

 

「え?ええ!?めぐみん、ご飯はどうするの…?」

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

≪めぐみん視点≫

 

 

私は今、全力である場所に向かっている。

 

「失念していました…、まさかゆんゆんに言われるまで気が付けないなんて…。」

 

私は裏通りにある、目的の建物を見上げる。

 

此処に来るのは二度目ですね。

あの時、カズマに連れて来てもらって良かったです。

 

「いらっしゃいませー。あら?今日はめぐみんさん お一人なんですか?」

 

カズマが目を覚まさないのは、きっと心が悪夢に囚われている所為だ。

 

それなら、カズマに別の夢を見せればいいだけです!

 

「ロリーサをお願い出来ますか?」

 

私達の夢を何度も繋げた事がある彼女なら、悪夢に干渉する事も出来る筈です!

 

「…。分かりました。席にご案内しますね。」

 

サキュバスのお姉さんに席へ案内されて、そこで私はロリーサを待っていた。

 

「…来ましたね、ロリーサ。座って貰えますか?」

 

私が座るように促すと、ロリーサはビクビクしながら座る。

その様子を不思議に思って、私はロリーサに問い掛けた。

 

「あの、如何かしましたか?ロリーサ。」

 

私の問い掛けに何故か震えた様子で、ロリーサが口を開く。

 

「…めぐみんさんは、あのマクスウェル様を倒したと聞きました。」

 

「ええ、倒しましたよ?証拠を見せましょうか?」

 

そう言って、私が冒険者カードを見せようとすると、ロリーサが慌て出す。

 

「い、いえ!大丈夫です!!」

 

「ん?様子が可笑しいですね。…もしかして、ロリーサはあの悪魔の部下だったのですか?」

 

「そ、そんなの恐れ多い事!!」

 

「違いましたか。なら、どうして様付けを?」

 

「え、えっとですね…、私達にとってマクスウェル様は、人間で言う所の大貴族や王族みたいな者なんです。」

 

成程、そういう事ですか。

 

「部下でないのなら構いませんよ。でも、何故そんなにビクビクしているのです?」

 

「あ、その…、めぐみんさんは、私達を退治しに来た訳ではないのですか?」

 

「いえ、そんな事をするつもりはありませんが。どうして、そう思ったのですか?」

 

「す、すみません!以前ホースト様を倒されたと聞いていたので、勘違いをしてしまいました!!」

 

ロリーサはテーブルにおでこを擦り付ける様にして、私に謝罪をして来る

 

「か、顔を上げてください、ロリーサ!!何か私が悪者みたいじゃないですかっ!?」

 

ロリーサは見た目が幼いので、余計罪悪感に苛まれるのですが…。

 

「ゆ、許して頂けるんですか?」

 

「許すも何も、私は最初から怒っていませんよ!」

 

つ、疲れる。

私はこんな事をする為に此処に来たのではないのですが…。

 

「あの、それでは何故、めぐみんさんがお一人で来られたのですか?」

 

ロリーサは不思議そうに私を見る。

 

ああ、やっと本題に入れます…。

 

「今日はロリーサにお願いがあって来たのです。だから立場的にはお客さんですね。」

 

お客さんとして来たという事を伝えると、ようやくロリーサの体から力が抜ける。

 

「そうだったんですね…。でも意外でした、まさかめぐみんさんが一人で来られるなんて。」

 

「そこです。来れるものなら、私だってカズマと来たかったですよ。」

 

「如何か…されたんですか?」

 

私はロリーサに事情を説明して、協力が可能かどうかを尋ねる。

 

「そうですか…。カズマさんは悪夢に囚われているのですね。」

 

ロリーサは暫く思案して、やがて顔を上げた。

 

「多分カズマさんは、何かしらの影響で心に傷を負ったんだと思います。

夢というのは本来、記憶や心象が影響しますから、それで悪夢を見ているんだと思います。」

 

あの日、カズマの心に傷が出来たという事ですか。

 

「ただ…、そういう方の場合、夢への進入が困難になります。」

 

「そ、そうなのですか!?」

 

サキュバスでも無理だとしたら、カズマは…!?

 

「ですが、めぐみんさんと一緒なら、何とかなるかも知れません。」

 

ロリーサの言葉に、私は顔を上げる。

 

「本当ですか!?」

 

「あ、ちょっと、めぐみんさん落ち着いてください!!」

 

興奮した私は、ロリーサの肩に掴み掛かっていた。

 

「すみません、少し取り乱しました。」

 

私は何とか冷静さを取り戻して、椅子に座り直す。

 

「今回は私も同行する事になりますけど、めぐみんさんは大丈夫ですか?」

 

ロリーサは私に確認を取るように、質問してくる。

 

「私一人じゃ、如何すれば良いのかも分かりませんし、是非お願いしたい所なんですが?」

 

「私が傍にいるとその…、多分、お二人のタガが外れてしまうかも知れませんよ?」

 

あ!そういう事ですか!?

もう、カズマと三日も話せてない今の私が、そんな状況になって耐えられるのでしょうか?

 

「何よりも、その、私の目の前でしてしまう事になるかもですよ?」

 

!?ダクネスじゃあるまいし、私はそんな羞恥プレイは願い下げなのですが…

でも、カズマが戻ってくる可能性がある以上、そこは飲み込むしかないですね…。

 

「…う、お、お願いします!ロリーサ!!」

 

「ほ、本当に後で文句とか言わないで下さいね?」

 

ロリーサの必要以上の念押しに、少し心配になってくる。

 

私はどうなってしまうと言うのでしょうか?

ですが、背に腹は代えられません!!

 

「約束しますよ、ロリーサ。あ、そうです。無事にカズマが戻ったら、今度美味しい食べ物をご馳走しますよ。」

 

この子に協力して貰わないと先に進めません!

この際、細かい事には全部目を瞑りましょう!!

 

「分かりました、其処まで仰るのでしたら、めぐみんさんを信じたいと思います。」

 

これで希望が見えました。

 

「では、今夜お願いします。あ!宿の情報が必要でしたね。」

 

宿の情報と報酬をロリーサに渡して、私はカズマの元へ帰った。

 

 

 

 

―――――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

ゆんゆんとアクアに、今夜はカズマと二人きりになりたいと頼んだ。

その時に、ものすごくニヤニヤされたのが腹立たしいですが……

二人が別の宿に移動してくれたので、とりあえず今は許してあげましょう。

 

そして今、私達は暗い道を進んで、カズマがいる所を目指している。

 

「ロリーサ、カズマがいる所には、まだ着かないのですか?」

 

お互いの姿は見えるものの、私達の周りは真っ暗で、上下感覚すら狂ってしまう。

 

「もう直ぐです。…視えました!!」

 

突然視界が晴れて、どこかの空間に出る。

 

此処は?

 

見覚えがあります。此処はアルダープの屋敷ですね!

それならもしかして、カズマは!?

 

カズマがいるであろう場所へ駆け出す。

 

「あ、めぐみんさん!置いてかないで下さい!!」

 

ロリーサも私を追って駆け出した。

 

「正面門にはいない!?それなら…!」

 

正面門が破壊されていなかった!ならカズマは絶対に中に居る!

そう確信して、私は屋敷の敷地内に足を踏み込んだ。

 

そこは地獄だった。

 

アクアから話は聞いていたけど、これ程だったなんて!?

 

中庭には護衛達の死体が詰み上がっていた。

 

「ひっ!マクスウェル様!?」

 

死体の山の向こうにマクスウェルがいた。

そして、戦っている片腕のカズマも。

 

「カズマ!!」

 

マクスウェルを見て、竦み上がっているロリーサを引っ張り、私はカズマの元へ行く。

 

「アルダープ!!!お前さえ死ねば!!」

 

カズマは憎悪を撒き散らしながら、アルダープに攻撃を繰り返していた。

その攻撃は全てマクスウェルに阻まれ、カズマは疲弊していく。

 

「カズマ!!もうマクスウェルは倒しました!!アルダープも今は牢獄にいますよ!!」

 

私の声が届かないのか、カズマは攻撃を続けている。

 

「ロリーサ!何とかなりませんか!?」

 

ロリーサを見ると、ガクガクと震えていた。

 

「あわわわ、ま、マクスウェル様が…。」

 

「しっかりして下さい!!これはカズマが見ている夢ですよ!!」

 

「ハっ!そうでした!…でも怖いものは怖いんですよ…。」

 

「我慢してください!それで、何か手は無いのですか?」

 

「わかりませんよぉ、カズマさんの事はめぐみんさんが一番詳しいんじゃないんですか?」

 

ロリーサはその場でぺたりと座り込んで、涙目で訴えてくる。

 

そんな事を言われても…

 

先程、此処に来た時に正面門が破壊されていなかった。

つまり、これは私達が来る前だと言う事ですね。

 

「ロリーサ!この世界は何時もの夢世界と一緒ですか!?」

 

「え?はい!私が干渉出来たので、こちらである程度の設定が出来ます。」

 

それなら、手があります。

 

「それなら何時もの設定をお願いします!!」

 

「わ、分かりました!……改変出来ました!」

 

私とカズマの絆!私とカズマだけの連携!!

 

誰もが笑い、蔑んだ私の大切なモノを、カズマだけが褒めくれました!!

 

カズマ、覚えていますか?私は貴方に、この先何があっても相棒だと宣言しましたよね?

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。

覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!

踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。

万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!

これが私達をつなぐ絆、これこそが私達の究極の攻撃魔法!!」

 

私の周りに魔力の奔流が纏い、地響きを起こす。

 

「めぐみん?」

 

こちらに気が付きましたか!?

なら、何時も通りにお願いしますよ!!

 

カズマは相手をけん制する様に動き、何時も通りにその場から消えた。

 

「『エクスプロージョン!!』」

 

マクスウェル達の幻影は爆炎に飲まれ、消滅していく。

 

良かったです。オリジナルと違って、辻褄合わせの力は使って来ませんでしたか。

 

「カズマ、やりましたよ!」

 

私が振り返ると、カズマの姿は無かった。

 

「え?ロリーサ、カズマは?」

 

「別の空間に飛んだみたいです。追い掛けますか?」

 

「勿論です!」

 

私達はまた暗闇の飛び込み、カズマを追いかける。

 

そして、すぐに視界が晴れていった。

 

「!?あれ?めぐみんさん。此処ってこんな感じでしたっけ?」

 

今度は湖畔ですか…。まだ引き摺っていたのですね。

 

湖まで行くと、カズマが一人で座り込んでいた。

 

「カズマ、こんな所で何をしているんですか?」

 

私が声を掛けても、カズマは反応がなく、黙って湖を見つめていた。

 

この男は!私を無視するとはいい度胸です!!

 

私はカズマの前に回りこみ、口を重ねた。

 

「ふぅ、ちゅ、れろ…ん!」

 

カズマが僅かに反応した。でも、舌まで合わせてくれなかった。

 

私とのキスでこの反応とは…流石に腹が立ってきましたよ!!

 

先程から、体がうずく。

 

ロリーサが言っていたのはこの事ですか…。、

今の状況なら丁度良いとは思えますが、見られているのは流石に恥かしいですね。

 

私はロリーサに後ろを向けという指示を出す。

すると、ロリーサは不服そうな表情をしたので、私は彼女を睨み付けた。

 

やっと後ろを向きましたか…。今度奢るので許してくださいね。

 

準備を進めるために、私はカズマの膝の上に座る。

私の行動に、カズマは少し反応を見せたが、すぐに顔を逸らした。

 

あれ?この男…?

もしかして、もう意識を取り戻しているのでは?

 

確認しようと、自分の体をカズマに預けると固い物が当たった。

 

仕方の無い男ですね。

 

私はカズマの左手を掴み、自分の胸に当てる。

 

さあ!思う存分揉みしだくが良いです!!今日は許しますよ!!

 

だけどカズマは一向に揉んでこない。

 

?おかしいですね、何時もは執拗に攻めてくるのに…。

 

不思議に思ってカズマの方に振り向くと、何やら残念そうな顔をしていた。

 

「せいっ!」

 

「へぶっ!?」

 

カズマのあんまりな反応に、腹を立てた私は、そのまま頭突きをかました。

 

「酷いじゃないですか!カズマ!!」

 

「ひ、酷いのはお前だろうが!?いっ痛ぅ!!」

 

とりあえず、今は口論をしている時ではありませんね。

 

「カズマ、一体何があったのですか?」

 

最初カズマはお前が頭突きしたんだろ!?みたいな反応を示したが、

すぐに、私の意図に気づいて、顔を伏せた。

 

「また、だんまりですか…。」

 

私はカズマに仲直りの意を示すキスをして、そのままカズマを押し倒す。

 

「カズマ、したくなって来ているのではありませんか?」

 

「…。」

 

「黙っていても分かりますよ。カズマとはずっと一緒に居るんですから。」

 

「……出会ってから、まだ半年も経ってないけどな。」

 

「出会ってから二週間程で、私はカズマに襲われたわけですが?」

 

「お、襲ったとか言うなよ!アレは同意の上だろ!?」

 

「……心配したんですよ。」

 

そう言うとカズマは顔を伏せる。

 

「ごめん…。」

 

「…もう、良いですよ。カズマが無事だったのですから、早く帰りましょう?」

 

私がそう促すと、カズマは俯いた。

 

「良いのかな…、俺…。」

 

「何がですか?」

 

「…俺が巻き込んでしまったばっかりに、沢山の人が死んだ。なのに、俺は…。」

 

成程、先程見た死体の山が心の傷の原因ですか。

 

「カズマが気にする事はないと思いますよ。遅かれ早かれ彼らは犠牲になっていたかも知れませんし。」

 

むしろ、私達が行って良かったとすら言える。

 

「俺は、そう簡単に割り切れねえよ…。今だってあの時の悲鳴が脳裏にこびり付いてんだ。」

 

「なら、カズマは如何したいのですか?」

 

「分からない…でも、出来れば奴らに謝りたい。」

 

「はあ、なら謝れば良いのではないですか?」

 

「そんなの!?出来るわけ!!「出来ますよ。」」

 

「へ?」

 

私の言葉が意外だったのか、カズマは間抜けな声を上げた。

 

「カズマは知らないのでしょうけど、あの日、犠牲になった人たちは、全員アクアが生き返らせましたよ。」

 

「は?はああ!!??」

 

カズマは目を白黒させながら、驚いていた。

 

「え?じゃあ、俺が思い悩む必要は…。」

 

「ないですね…とは言い切れませんか。アクアが居なければ大惨事だったのですから。」

 

本当に、アクアが居なかったらと思うとぞっとする。

犠牲者達もそうだけど、カズマだって生き残れるか分からなかった。

 

仮に生き残っても、右腕は確実に喪失していたでしょうからね…。

 

「あ、…そうだよな。反省はしないと駄目だな。」

 

「ですが、もう十分でしょう。カズマ戻って来てください。」

 

「ああ…。所でどうやって戻れば良いんだ?テレポートも出来ねえぞ?」

 

「カズマ、気が付いていないのですか?ここは夢の中ですよ?」

 

「え?夢!?あ、でもそうか…、倒した筈のマクスウェルと戦ってたんだもんな。」

 

カズマは納得したように一人で頷く。

 

「あれ?そうなると、目の前に居るめぐみんは?」

 

「本人ですよ、此処にはロリーサに連れて来て貰いました。」

 

「え?ロリーサって……あ!」

 

カズマがようやくロリーサの存在に気づいた。

 

「こ、こんばんわ、カズマさん。」

 

「お、おう?ああ、そうか夢サービスで繋げたのか。」

 

「そういう事です。」

 

全てを理解したカズマは、急に挙動不審になった。

 

「な、なあ、めぐみん?」

 

「駄目ですよ。」

 

「そ、そりゃないぜ!?」

 

ロリーサの影響下で始めてしまったら、どうなるか分かりませんからね。

 

「ロリーサ、今日は本当に助かりました。ありがとう御座います。」

 

「いえ、お役に立てて良かったです。では、もう戻られますか?」

 

「はい、お願いします。」

 

「ちょっと待ってくれよ!え?本当にこのまま戻るのか!?」

 

この男は…立ち直ったと思ったら直ぐこれですか!!

 

「カズマ、戻りますよ。」

 

「ええ!?せめて一回!一回だけ!!」

 

「…はぁ、夢の中で良いのですか?現実の私は裸の状態でカズマの横で眠っていますよ。」

 

私がそう言うと、カズマは目を見開いた。

 

「戻ろう!!今すぐに!!」

 

カズマの呆れてしまう程の変わり身に、私は思わず噴出してしまう。

 

「カズマ。」

 

「ん?」

 

「お帰りなさい。」

 

 

 

 




すみません、終わりませんでした!
次回が2章ラストになります。

追記、今回はやり過ぎました…。
ご心配を掛けてしまい、すみませんでした。

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