このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
<めぐみん視点>
鳥が囀り、朝日が差し込む…
そんな時間は当に過ぎ、外からは喧騒が聞こえてくる。
「か、かずまあ、もう、無理ですよー!?」
「こ、これが最後だからっ!」
私達が夢から戻ったのは朝方だった。
その後、カズマは私に覆い被さり、何度もキスを交わして愛し合った。
何回すれば気が済むんですかっ!!もうクタクタですよぉ!
ドタッドタッドタッ!!
されるがままの状態になっていた私は異変に気が付けなかった。
「め、めぐみん!そ…!?」
バタンッ!!
「おっはよー!!めぐみん!!カズマは起きたー?」
空気が凍った。
この場に居る誰もが凍り付き、冷や汗を流す。
その呪縛から、いち早く抜け出せたのは、他ならぬ私だった。
な、何かありませんか!?
ベッドに寝ていた私は、何か手が無いかと周辺を見回す。
あ!あれです!!
見つけた物を取ろうと、私は手を伸ばす。
「あ、あはは、はは…。ご、ごめんね!二人とも!?」
そう言いながら、ゆっくり後ずさる。
「ま、待て!アクア!!」
「カズマ、これを!!」
私は、荷物からはみ出ていたロープを、カズマに手渡した。
「ちょっ!?」
「!?ば、『バインド!!』」
「うひゃあ!!」
バタンッ!
カズマが放ったバインドスキルは、寸での所でアクアに扉を閉められて不発となった。
「ま、不味いぞ!?早くアクアを追い掛けないと!!」
「か、カズマ!落ち着いてください!!この状態で外に出られる筈がないでしょう!?」
「あ…!」
現状を思い出したカズマは冷や汗を流す。
「ど、如何しよう?めぐみん!」
「如何と言われましても…。」
目撃したのは、よりにもよってあのアクアだ。
私達の事はすぐにでも、ギルド中…いえ町中に噂が広まってしまう事でしょう!?
「…あれ?」
よく考えたら、問題ないのでは?
そもそも私達は、付き合う前から町中の公認カップルだった。
今回の件で、結婚指輪の話も皆に知られたでしょうし、今更と言う気がしますね。
「カズマ、この際ですから、もう開き直ってしまうというのは如何でしょう?」
「はあ!?何言ってるんだよ!?」
「今更、噂話が増えた程度で、如何にかなるとは思いませんが?」
それに、アクアはお調子者としても有名ですし、冗談だと思われる可能性も高い気がします。
「うーん…、どの道今から追い掛けても遅いか…。でもなぁ…、からかわれたら如何するんだ?」
「そうですねぇ、素っ気無い反応を取り続ければ、諦めてくれるのではないのですか?」
「そうなると、お互いに素っ気無い態度を取らないといけなくなるだろ?嫌だぞ、俺は。」
「それは私も嫌ですね…。」
「だろ?」
こうなったら逆に、皆の前でイチャイチャをするべきですかね?
ベルディアを倒して以来、カズマの人気が密かに上がってますし、
他の女達に牽制が出来るかも知れません!
「カズマ。」
私は真剣な表情でカズマを見つめ。
「な、なんだよ?」
「諦めましょう!」
キッパリとカズマに言い放った。
「はあ!?」
「さて、そうと決まれば先ずはお風呂ですね。」
カズマに好き放題されてしまいましたからね、早くさっぱりしたいです。
私が着替え始めると、カズマは慌てて私に詰め寄る。
「おい!待てよ!めぐみん!お前は其れで良いのかよ!?」
「別に事実なんですから、良いじゃないですか、それともカズマは私と噂になるのが、嫌なんですか?」
「嫌って事は…ねぇけど…。」
「なら、この話はもう終わりですね!カズマお風呂に行きますよ!!」
何も言えなくなったのか、カズマは黙って着替え始める。
其れを待ってから、私達は揃って大浴場に向かった。
―――――――――…
≪カズマ視点≫
大浴場でさっぱりした俺達は、重い足取りでギルドに向かっていた。
「あー、気が重いぜ…。」
「元はといえば、カズマが調子に乗って、あんな時間まで続けた所為なんですからね。」
「う!分かってるよ…。はあ…。」
ギルドの入り口が見えてくる。
俺は心の準備を済ませ、意を決して扉を開けた。
「やっと来たわね!」
「遅いぞ!カズマ!」
「もう、料理が出来てますよ。二人とも早く座ってください!」
あれ…?何か思ってた反応と違うんだけど…。
横に居るめぐみんを見ると、俺と同じ様な反応をしていた。
『な、なあ、これって如何言う事だと思う?』
『わ、分かりませんよ…、如何言うつもりなんでしょうか…。』
絶対にからかわれると思っていた俺達は、予想外の歓迎ムードに驚きを隠せなかった。
「ん?どうした、カズマ。」
「主役がそんなトコに突っ立ってんなよ。」
「早く座れよ!そんで宴会をおっぱじめよーぜ!」
俺達が固まっていると、リーンが近づいてきた。
「ほらほら二人とも!早くおいでよ!」
俺達はリーンに手を引かれて席に着く。
「二人とも、サトウ君達に飲み物を頼むよ。」
「ええ!」「分かったわ!」
ミツルギの指示で、フィオとクレメアが俺達に飲み物を運んでくる。
「カズマはシュワシュワで良いわよね!?」
「めぐみんはジュースね!」
俺達は訳の分からないまま飲み物を受け取る。
すると、アクアが立ち上がった。
「皆!飲み物は持ったわね!?じゃあ、カズマの快復を祝して!!乾杯!!」
『乾杯!!』
仲間や友人達だけではなく、ギルド中の冒険者からルナさん達ギルド職員、
更にウェイトレスやコックの皆さんまでもが、乾杯と共に飲み物をあおる。
「お、おう…。」
俺は、この状況に何とか頭を追いつかせ、皆への返事を搾り出した。
「良かったですね、カズマ。」
「あ、ああ、そうだな!」
皆に祝福された事に感謝して、俺達も飲み始める。
「ぷはっー!!そして!!カズマ、めぐみんの結婚とぉー!めぐみんの懐妊を祝してー!!」
「「ぶふぅ!!」」
アクアの爆弾投下で、俺とめぐみんは同時に噴出してしまった。
『おめでとう!!』
ギルド中から送られる祝福の言葉に、俺達は揃って反論するハメになった。
「皆も勝手な事ばかり言いやがって…。」
「でもサトウ君も、何れはめぐみんと結婚する気なんだろ?」
「まぁ、そりゃ…。」
めぐみんが女子連中に捕まったので、仕方なく唯一素面だったミツルギとギルドの片隅で飲んでいた。
「それなら良いじゃないか、あまり考えたくは無いんだけど、
僕達の家業は何時、命を落とすか分からないからね。」
「あ、でもそれはアクアが…。」
「アクア様がいるからと言って、安心して良い事にはならないよ。
死体がある程度残ってないと蘇生する事が出来ないらしいから。」
マジか…。まぁ、蘇生なんて普通は気軽に出来るもんじゃないしな。
「それよりも、腕の方はどうだい?」
「ん、まだ少し指先が痺れるぐらいか。」
「そっか、サトウ君は出血多量でショック死寸前だったんだから、当分は大人しくしていた方がいいよ。」
ああ、だから指先が痺れるのか。
「ああ、そうするよ。最近寒くなってきたし、部屋でノンビリするさ。」
「あ、いや、大人しくしろとは言ったけど、健康の為に少しは運動した方がいいよ。」
「めんどくせえ、当分俺はベッドの上でゴロゴロする!」
「はあ、じゃあ朝練は如何するんだい?」
「そっちも暫くはパスだ。せめて体調が戻るまでは勘弁してくれ。」
そもそもミツルギのペースに合わせたら、かなりのハードワークになる。
今の状態でコイツに付き合ったら、マジで死にかねない。
「やっほー、カズマ君。快復おめでとう!!」
ミツルギと話をしていたら、ほろ酔い状態のクリスがやって来た。
「なんだよ、クリス。ダクネスと飲んでたんじゃないのか?」
「あー、ダクネスの例のアレが出ちゃってね…、恥ずかしくて逃げてきちゃったよ。」
「お前アイツの親友なんだろ?止めなくいいのかよ?」
「あ、あはは…、そうなんだけどねー。ダクネスがかなり泥酔しちゃっててさー、手が付けられないんだよね。」
「た、大変だね…二人とも…。」
俺とクリスのげんなりした顔を見たのか、ミツルギが俺達に労いの言葉を掛けてきた。
「そういや、豚領主はどうなったんだ?」
「ああ、アルダープなら、あの後色んな事件の証拠が出てきて、未だに王都で取調べ中だよ。」
「マクスウェルが居なくなったから、捻じ曲げていたモノが一気に出て来たんだろうね。」
自業自得だな、今までのツケって訳だ。
「あ!ちょっとカズマー!!何そんな隅っこに居るのよー!!こっちに来なさい!!」
宴会の中心で騒いでいたアクアに見つかった。
「行って来なよ、カズマ君。」
「こっちは気にしなくてもいいよ。」
「ちっ、静かに飲んでいたかったのに。…しゃあねえな!!」
態々俺の為に、こんな宴会を開いてくれたんだ…、今日ぐらいは朝まで付き合おう。
結局、このバカ騒ぎは翌日の昼まで続いたのだった。
そして、数日が経ち………
「親方!こっちは終わりましたぜ!!」
「おう!それじゃ、他を手伝ってやれ!!今日中に仕上げるぞ!!」
「すげ…。」
「おう、カズマ!今晩は自分の家で寝られる様にしてやるぞ!」
「あ、ありがとうございます!!本当に助かりました!!」
俺達の屋敷が、親方達の尽力で僅か数日という、短い期間で修繕されていった。
「そんなに畏まる必要はないぞ、お前達には散々助けられたからな!!」
本当にこの人には頭が下がる、感謝してもし切れない恩人だ。
「これから、ギルドで授与式なんだろ?早く行ってやれ。」
「はい!!失礼します!!」
「魔王軍幹部のベルディア、そしてデストロイヤーに加え、
地獄の公爵を操り国家転覆を狙った狼藉者を捕らえた功を賞し、
参加した者全員に、それぞれ金三億エリスを贈る!!」
凛とした表情のクレアがそう宣言すると、ギルド中から大歓声が起きた。
「ひ、一人三億エリス!?」
「お、おいおいマジかよ!?」
一人当たり、精々一億ぐらいだと思っていたから、かなり吃驚した。
それは皆も同様で、ウィズなんて卒倒してた。
「代表者!サトウカズマ殿!!前へ!!」
「はい!」
授与式と言う事で、代表して先ず俺がクレアから賞金を受け取る。
「ありがとう御座います!」
俺の後に続き、仲間達も次々に賞金を受け取っていく。
全員に金が行き渡り、無事に授与式が終わると、アクアが皆の前に飛び出した。
「さあ!みんな!!今日は宴会よーーーー!!!!そして、めぐみん!!」
『誕生日おめでとう!!!』
「あ、ありがとう御座います…。」
クレア達も含め、ギルド中の人々から祝福されためぐみんは、かなり萎縮していた。
そして、宴会が始まる。
「残念だったな、めぐみん。授与式と被っちまって。」
「いえ、これだけの人数から祝福されたのです、十分ですよ。」
確かに大人数から祝福はされたけど、やっぱりおまけと言う感じが否めない。
「途中で抜け出して、デートでも行こうぜ。」
「え?皆に悪くないですか?」
「構わねえよ、ミツルギあたりに言付けしていけば問題ねえだろ。」
「そうですね。では、早速付き合っていただけますか?」
「勿論!!」
俺達は、ミツルギに伝言を頼みギルドから出る。
「さて、何処に行く?」
「カズマと二人きりになれるなら何処でも良いですよ。」
めぐみんは満面の笑顔で答える。
「じゃ、思い出の作り直しをしようぜ?」
「ふふ、カズマにしては悪くない案ですね。」
「俺にしてはってなんだよ。ったく!!」
そう言って俺は左手を差し出す。
するとめぐみんは俺の手を取り、左手を見せる。
「行きましょう!カズマ!!」
「ああ、今日はトコトン楽しもうぜ!!」
デートに向かう俺達の左手には、お揃いの指輪が光り輝いていた。
これで2章が終了となります。
次回からは3章に突入です。