このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
年明けから、一月が経過したある日。
「よし!完成だ!」
「おお!ありがとう御座います!!カズマ!!」
以前、見せた小太刀を、めぐみんは相当気に入ったらしい。
それならと思って、めぐみん用に二振りの小太刀を作ってみた。
「めぐみんの要望通り、高級マナタイトを使っているけど、多分杖より効果は出ないと思うぞ?」
金に物を言わせて、高級マナタイトをふんだんに使っているが、どれ程の効果が出るのかは分からない。
「いえ、カズマ!これなら今使っている杖よりも、威力は上がるかも知れません!」
「お?本当か!?」
マナタイトの杖より、威力が上がると言うなら作った甲斐がある!
「ただ、制御系の力はあまり感じられませんね。
ですが!この私が使うのなら問題はなしです!!」
今のめぐみんは、杖無しでも爆裂魔法を撃てるぐらい極めているし、威力が上がるならそれで十分なのか。
「ちなみに、俺が使った場合は?」
「そうですね、カズマがよく使うテレポートや雷系の魔法なら、上級魔法でも問題なく行使出来ると思いますよ?」
確かにその辺りの魔法なら、俺も杖はいらない。
「他は?」
「中級までは問題ないかと。」
「じゃあ、爆裂魔法は?」
「練習あるのみですね!!」
うん、知ってた。
って言っても、爆裂魔法を使う機会なんて…、ベルディアには撃ってたっけ。
まぁ、幹部クラスが早々現れる訳ないし、今までがおかしかっただけだ。
あの事件以来、平和な時間が続いているし、この分なら今年はのんびり出来そうだ。
いつの間にか、鏡の前に移動していためぐみんは、小太刀を構えて決めポーズを色々試していた。
暫くの間、そうしていたと思ったら何かを思いついたらしく、作業を続けている俺の傍に寄ってきた。
「カズマカズマ!!」
「はいはい、カズマですよ。」
「クエストに行きましょうよ!試し切りもしたいです!!」
「いや…試し切りって、剣の覚えはないだろ?」
「そこは、カズマが敵をバインドしてですね!」
ああ、ダクネスのレべリングでやっているアレか。
「二月に入ったばかりなんだし、まだ寒いだろ?行くのは春になってからにしないか?」
「む、むう。確かに寒いのは私も嫌なのですが…。」
撃ったら即帰れる爆裂散歩違って、クエストは仕事が終わるまで帰れない。
そもそも、今の時期にお手ごろなクエストなんてないし、
寒さに震えながら危険なモンスターとやり合うなんてのは御免だ。
「そろそろ、昼飯を作らないとな。」
「はあ、そうですね…、アクアが騒ぐでしょうし。」
「だな!さて、今日は何にするかな。」
そんな会話を続けながら厨房に向かっていると、屋敷の扉が叩かれた。
「ん?来客か?」
「また、行商人でも来たんでしょうか?」
訪問販売が来たっていうなら、俺達で対処しないとな。
厨房に向かっていた足を止めて、俺達は玄関に向かう。
すると、扉の向こうから声が上がった。
「サトウさん!!サトウカズマさんはご在宅でしょうか!?」
どうやら俺に用があるようだ。
―――――――――…
尋ねて来た眼鏡の女性は、王国検察官のセナと名乗った。
「それで、何の用なのよ?早く伝えてくれないかしら?」
昼飯時に来られた所為か、アクアは不機嫌そうに言い放つ。
「あ、はい。」
アクアに促されたセナさんは、佇まいを直して話し始める。
「実はですね、最近隣町の近くでジャイアントトードが目撃される様になったのです。」
隣町?それで何で俺達の所に来たんだ?
「ジャイアントトードって、この時期だとまだ冬眠中の筈ですよね?」
ゆんゆんは当然の疑問をぶつける。
「ええ、本来なら冬眠中なのですが、近頃街の近くで爆音や地響きが聞こえているらしいので…。」
ああ、理解した。つまり…
「俺達の所為って事ですか!?」
「恐らく、そうかと思われます。」
参ったな…、爆裂散歩の範囲を広げ過ぎたのが仇になったか。
「分かりましたよ。俺がその地に飛んで直ぐにカタをつけてきます。」
蛙相手とはいえ、油断をする気はないけど、今となれば幾等でもやり様はある。
「あ!ずるいですよ!!カズマ!!私も行きたいです!!」
「つっても、爆裂魔法は無しだぞ?余計なモノが起きると面倒だし。」
「分かっていますよ!私はただ、試し切りがしたいだけなのです!!」
ああ、そっちが目的か。
でも、どうするかなぁ…、正直一人行って、さっさと終わらせたい所なんだけど。
「あの、サトウさんにもう一つ、伝えないといけない事があります。」
「え?なんですか?」
「討伐には私も同行させて頂きます。」
「は?」
何でこの人が態々付いて来るんだ?
「その、ですね。クレア様から聞き及んでいるので、私はサトウさんを信じたいのですが…。」
セナさんは言い辛そうに目を泳がせていたが、やがて口を開いた。
「多くの貴族の方が…ですね?テロ行為だ!とサトウさん達を糾弾しているんです。」
て、テロ行為って!?
「クレア様の計らいで、何とか厳罰は免れたのですが、監視をつける様にと…。」
冗談じゃねえぞ!?
確かに隣町には迷惑を掛けちまったけど、そんなんでテロ扱いだなんて!?
「カズマが貴方の同行を許可すれば、私達の容疑は晴れるのですか?」
「は、はい…とりあえずは…。」
とりあえずって、如何いう事だ?まだ何かあるのかよ…。
何れにしても、ここは素直に従ったほうが良さそうだ。
「わかりました。では、早速向かいます、と言いたい所ですが、昼飯の後でも良いですか?」
「え?ええ!其れ位でしたら…。」
そろそろダクネスも帰ってくる頃だし、この人を護りながら戦うのなら全員で行った方が良いだろう。
「では、食事の準備があるので一旦下がらせて貰います。ゆんゆん、後は頼む。」
「分かりました!」
「ちょっと!カズマさん!!私もいるんですけどー!!」
セナさんの事はゆんゆんに任せて、俺達は厨房に向かった。
昼食の準備を進める中、俺は口を開いた。
「如何思うよ?」
「うーん…、私達の事を快く思ってない貴族が居る事は確かですね。」
「やっぱり、そう考える方が自然だよな。」
ダスティネス家、シンフォニア家…この国の重鎮たる二大貴族が中心になっているとは言え、
両家の実働部隊で、アルダープを捕まえた俺達の印象は良くはないだろう。
特に俺達は中心人物だ、その俺達を厳罰に処することが出来れば、両家の力を弱める事も出来るかも知れない。
多分、そんな事を考えているんじゃねえかな?
「ったく、貴族ってのはこれだから!」
「まあまあ、カズマ。ダクネスやクレア、レインと言った良い貴族もいるのですから。」
「後はバルターか。俺達の味方になってくれそうな貴族は。」
これは、寒いとか言ってる暇はねえな。
今回はクレアの口添えがあったみたいだけど、今の内に根回しを進めた方が良さそうだ。
昼食の準備が終わり、リビングに運んでいる最中に丁度ダクネスが戻ってきた。
「お帰り!」
「お帰りなさいです!ダクネス!」
「ああ、ただいま!ふむ、丁度昼食が出来た所か、これは良い頃合に戻る事が出来たな。」
ダクネスは上機嫌のまま、リビングの扉を開ける。
「む?来客中だったか。」
廊下から中の様子を窺うと、セナが驚いたように振り返っていた。
「だ!ダスティネス卿!?」
「ん?お前は王国検察官か?カズマ、これは如何いう事だ?」
「ああ、それはな…。」
経緯を説明すると、ダクネスは溜息を零した。
「今回の件は二人が悪いな!」
「分かってるっての!」
「だが、テロリスト呼ばわりというのは、行き過ぎだな。」
ダクネスがそう言うと、セナさんは萎縮しながら答え始めた。
「は、はい。今回の件なら、私は精々罰金くらいが妥当だと思っています。」
「それで?そんな事を言い出したのは一体誰なんだ?」
「そ、それは…。」
ダクネスの直球な質問に、セナさんは言い淀む。
「やはり、お前の立場では答え辛いか?」
「も、申し訳ありません!」
「いや、気にしなくても良い。どちらにせよ、明日はシンフォニア卿と会う約束をしている。
彼女から聞いてみるとするさ。」
そういや、アルダープが消えた件で調査をしているんだったな。
アレから一月以上が経っているし、アクアの予想通りなんじゃねえのかな?
昼食を終えた俺達は、蛙討伐の準備を各々進めていた。
「やっぱり持って行くのか、其れ。」
「当たり前じゃないですか!?あ、カズマ。これは如何すれば良いのですか?」
めぐみんは、腰にお手製のウェポンホルダーを装着しようとして手間取っていた。
「ん、ああそれは…。」
俺はめぐみんの腰に手を回し、そのままホルダーを固定する。
「後は此処と此処に其々小太刀を差せば完成だよ。」
「ふむふむ!…おお!!此れはカッコイイです!!」
言われた通りに小太刀を差しためぐみんは、鏡に映った自分の姿を見て興奮していた。
確かに悪くないんだけど、刀には着物の方が合うんだよな。
紅魔族ローブだと、やっぱりちょっと違和感が…俺も人の事言えないけど。
準備を整えた俺達は、皆と合流してすぐに出発となった。
――――――――――――…
テレポートで、付近まで転移して来た俺達は、蛙が目撃されたと言う地点まで移動をしている。
「ねえ、さっきから気になっていたんだけど、めぐみんの腰にあるのは何なの?」
ゆんゆんの指摘に、めぐみんは得意そうな顔をして答える。
「これは、私の新しい武器ですよ!カズマに作って貰ったんです!!」
「へ、へえ…。」
「如何ですか!?カッコイイでしょう!?」
めぐみんは小太刀を抜いて、ゆんゆん相手にポーズを決めた。
「え?う、うん、カッコイイとは思うんだけど…。」
「何ですか?何か問題があるとでも言うのですか?」
「問題というか…、何で剣…えっとカズマさんのと同じだからカタナっていうんだっけ?」
そう言って、ゆんゆんはめぐみんの腰にある小太刀を指差す。
「これはコダチと言う物らしいですよ。」
「そうなんだ。…それで何でめぐみんがそのコダチを装備しているの?」
ゆんゆんは困惑した表情で、めぐみんに質問を続ける。
「分からないのですか!?さっきも言いましたが、これは新たな私の武器ですよ!!」
「ええ!?めぐみん其れで戦うの!?そけっとさんみたいな訓練はしていないでしょ!?」
「違いますよ!?貴方は此れの強い魔力を感じないのですか!?」
「…本当だ!?あ、でも、制御系の力は感じないね。」
「そこは問題無しです!私は爆裂魔法を極めし者なのですから!!」
ドヤ顔でポーズを決めるめぐみんを、ゆんゆんは冷めたような表情で見ていた。
お子様達がそんなやりとりを続けている間に、俺達は問題となっている区画に足を踏み込んだ。
「後ろの二人、そろそろ警戒しておけよ。ぬるぬるになっても知らねーからな!」
俺が注意を促すと、二人は警戒を始める。
「私は一向に構わんが?むしろ、望むところだ!!」
「アクア、そろそろ皆に支援を掛けてくれ。」
「はいはい、寒いから早く終わらせてよね。」
そう言ってアクアは、皆に支援魔法を掛けていく。
「くっ!ここまで完全に無視されるとは…、腕を上げたな!カズマ!!」
さて、ダクネスは放っておくとして、どうするかな?
「セナさん、ジャイアントトードの目撃数ってどんなモンです?」
ダクネスの言動に、ドン引きしていたセナさんに問い掛けてみる。
「あ、はい。確か10にも満たない数だったかと。」
10匹…大目に見積もって、倍の20を想定して…。
「何時もので呼び集めて、俺とゆんゆんでパラライズかな?」
「分かりました!ダクネスさんの経験値稼ぎですね!」
「ああ、他のが来ちまったら、優先で倒しちゃってくれ。」
「はい!」
この時期に他のなんて言ったら、ヤバイ奴らしかいないわけだけども…
幸いこの辺りは開けているが、警戒だけはしっかりしておかないとな。
「じゃ、やるぞ!」
俺の号令で皆が構える。
皆もすっかり慣れた様子で、俺は安心感を覚えていた。
「『フォルスファイア!』『デコイ!』」
囮セットに釣られて、蛙がどんどん湧き始める。
……13匹か。此れで全部なのか?
ゆんゆんと協力して、次々と蛙を麻痺させていく。
程なくして、全ての蛙を無力化出来たので、後処理が始まった。
「むう…、一度は此れに飲まれてみたいものだ。」
「まだ言ってるのかよ。大体こいつらは金属を嫌うから、お前は飲み込まれないと思うぞ?」
「なっ!?そうなのか!?」
「剣ぐらいなら兎も角、金属鎧相手は避けるって聞いたぞ?…っておい!」
俺がそう説明すると、何を思った…いや、考えている事は予想出来ているが、ダクネスが鎧を脱ぎ始めた。
「こ、これで私もぬるぬるになれるんだな!?」
アルダープと対峙していた時のララティーナお嬢様は凛々しかったのにな…。
俺が遠い目をしていると、ダクネスが騒ぎ出した。
「か、カズマ!!蛙たちが全部麻痺していて襲われないんだが!?何とかしてくれないか!?」
「うるせえよ!さっさと倒せ!!」
俺がダクネスに叫んでいると、おずおずとした様子でセナさんが話しかけてきた。
「あの、サトウさん?その、ダスティネス卿は何時もあんな感じなのですか?」
あ、セナさんが居たの忘れてた。
うーむ、言い繕うべきか、事実を伝えるべきか…。
「…戦いになると、高揚する奴って偶に居るじゃないですか…アレと同じですよ。」
「な、成程…、そ、その普段のイメージからはかけ離れ過ぎていたので、少し困惑していました。」
ダクネスはともかく、親父さん達にまで迷惑は掛けられないからな。
これで納得して貰えた様で良かったよ。
粗方カタが付いた頃、めぐみんがそわそわしながら近寄って来た。
「カズマカズマ、そろそろ良いですか?」
「ん?ああ、後3匹か。ちょっと待ってろ、魔法を掛け直して来る。」
俺は生き残りの三匹に、パラライズを掛け直し、めぐみんに手招きをした。
「良いですか?」
「ああ、『パワード!』っと、これでめぐみんでも倒せるだろ?」
「ありがとう御座います!!さあ、行きますよ!ぴょん吉!しげしげ!」
「は?」
俺が間抜けな声を出すのと同時に、めぐみんが蛙に切りかかった。
「フフフ、我が太刀筋に抗えるものは無く…。」
麻痺している蛙を切り刻んでいくめぐみんは、とてもご満悦な表情を浮かべていた。
おい、あいつ。新しい世界とか開いてないよな?
めぐみんってS気があるし、癖になったりはしないでくれよ?
「カズマカズマ!如何ですか!?カッコ良かったですか!?」
「ああ、悪くは無いけど、もうちょっとあっさり倒してやれ。」
「むう、色々と試したかったんですよ!」
「でも、一撃必殺の方がカッコ良くないか?爆裂魔法だってそうだろ?」
「はっ!?そうでした!!一撃で決めてこそですよね!?」
そんな会話を続けているうちに、新たな反応が現れた。
「ん?まだ居るな。あっちから反応がある。」
何気なく敵の居る方向を指差すと、ダクネスが猛ダッシュで駆けて行った。
「って、あのバカ!蛙か如何かも分からないのに!?」
慌ててダクネスを追ったが、既に遅く、ダクネスは蛙に飲み込まれかけていた。
「おお!?この感覚…はぁはぁ…悪くない、悪くないぞ!!」
何やらテンションマックスで悦んでいたので、俺はそのまま構えた。
「『ライトニング!!!』」
「ぴぎゃああああああ!!!!」
強めのライトニングで、ダクネスごと貫いた俺は、そのままアクアを呼び寄せる。
「あのバカにヒールを頼む。」
「はいはい。まったく、ダクネスも懲りないわねえ。」
「さて、此れで終わりかな?」
敵感知、盗聴、千里眼。それらを駆使して周辺の様子を探ってみたが、特に何も見つからない。
「如何ですか?カズマ。」
「うん、終わりみたいだ。じゃあ、帰ろうぜ。」
蛙からダクネスを引っ張り出していると、セナさんから声が掛かった。
「皆さんお疲れ様です。問題は無事解決出来たと報告しておきます!」
セナさんはダクネスの様子が気になるのか、横目でチラチラと見ていた。
「では、アクセルに転移しますよ。ゆんゆん。」
「はい!任せてください!」
「御願い致します…あの、ダスティネス卿は大丈夫なのですか?」
「ん?ああ、気にしなくても良いですよ、こいつは上級魔法食らったって問題ないぐらいですから。」
「さ、流石!ダスティネス卿ですね!?そ、尊敬しています!!?」
何処か無理をしているような、セナさんの賛辞を聞いていると、
何だか、申し訳ない気持ちになってくる。
居心地の悪さを、少しでも早く解消したかった俺達は、急いでアクセルの街に帰った。
ようやくセナさん登場で3章が始まりました。
そろそろ、皆さんが大好きな”奴”が出てきます。
あの人上手く表現出来るかなぁ…。