このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
「ダクネス!?冗談だよな!?」
「フ、フフフ…。」
突如、笑い始めるダクネスに絶望感が漂ってくる。
「フハハハハ!聞くがいい小僧!この娘の体は、我輩が乗っ取った!!」
やっぱり、そういう事かよ!?
「この娘は小僧の大切な仲間であろう!?フハハハハ!さあ、どうだ小僧!
この娘に攻撃出来るものなら「『ライトニング!!』『バインド!!』」」
「あああああああ!!」
『くっ!流石はカズマだ!さあ!遠慮なくもっと来い!!』
……何で、ダクネスの意識が普通にあるんだよ!?
此処はギリギリの精神下で耐えていて、絶妙なタイミングで隙を作ってくれるとか、そういう展開だろ!?
「ぐう!何の躊躇いもなく仲間に向かって魔法を放つとは!?」
『カズマ!何をしている!?もっと攻撃してくれ!!』
「何をしているは貴様だ!バカな!何だこの『麗しい』娘は!?」
…。
「ええい!余計な口を挟むな!どれだけ頑強な精神をしているのだ、こやつは…
『まるでクルセイダーの鏡の様な奴だな!!』 ってやかましいわっ!!」
何だ、この、何?
バニルは疲れたように溜息を漏らす。
「…なんという事だ、わ、我が支配に耐えるとは、この娘…!」
『其れほどでもない!』
アホなやり取りを続けているけど、俺の得意技はどちらにも効いてなさそうですね?
このクラスと、まともにやり合いたくないから、対話に持って行きたかったんだけど…。
兎に角、二人が言い争いをしているウチに、なんとか対策を考えないとな。
ただ…、奴はそこまで悪い奴だとは思えないんだよな、
いや、悪魔だから悪い奴ではあるんだろうけど。
マクスウェルみたいな危うさはないし、なにより理知的で話も分かる。
ウィズの正体を知っている手前、魔王軍だからという理由だけで敵対するのも可笑しな話だし、
悪魔だと言う事を理由にしても、俺の恩人のロリーサがサキュバスなわけで……。
毒気も抜かれたという事もあって、かなりやり辛い。
こいつが仲間(アクア)を狙っていなければ、俺としては敵対する理由がないんだけど。
ダクネス達の方を見ると、未だに二人で言い争いを続けていた。
言い争いっていうか、傍から見てるとダクネスのボケに一方的にバニルが突っ込んでいる状況だけど。
あの漫才で疲れている様子だし、いい加減、諦めて帰ってくれないかな?
正直俺は、あいつが言っていたダンジョンっていうのも気になっているし、
あのウィズの元で、どんな仕事をするのかと言うのも見てみたい。
ウィズの店が、まともに商売出来る様になれば、
俺の作ったキャスターローラーとかも売りに出せそうなんだが。
「もう良い!支配を強めてくれる!」
あ、やべえか?しかし、ライトニングバインドが効かないとなると…。
上級魔法でどうにかなるとも思えないし、正直、俺に残された手段は皆無だ。
つっても、ダクネスを置いて外に出るわけにはいかないし、どうすりゃ…。
「む!まだ完全に支配が出来ていないだと?だ、だが…我慢は得策ではない!
我が支配に耐える程、その身に激痛が襲うのだ!『何だと!?』」
ダクネスの驚愕した様子に、バニルは不敵な笑みを浮かべる。
「フハハ、何処まで耐えられるか見物であるな!」
『そ…そんなにすごい激痛が…』
……さて、一旦俺一人テレポートで戻って、アクア達に注意を促してくるか?
ただ、それをやると敵対確定だから、ダクネスの身が心配なんだよな。一応。
何とか穏便に済まないものか…。
「はて?先程から我輩にとっては、あまり好ましくない、喜びの感情が…?」
それは悦び違いだと思うぞ。
『んっくっ!私はっ!こんな痛みなんかに負けたりはしないっ!!』
「ちょっと待て!貴様、この状況を楽しんでいないか!?」
愉しんでいますよーっと、しかし、緊張感に欠けるな…。
状況的には、どう見ても俺達が不利なのに、まるで絶望感が沸いてこない。
「くっ…、この体は失敗だった様だ『おい!人の体に失敗だとか言うのは失礼ではないのか!?』」
「これ以上付き合ってられん!貴様から出て行く!!」
『何だと!?』
いや、ちょっと待て。それは困るぞ?
ダクネスが開放されても、事態が好転するわけじゃないし。
『やめろっ!行かないでくれ!!』
「断る!!」
こ、此方の行動を見透かされている以上、テレポートを使えば乱入されるだろうし!
つか、何口走ってんだ!?あのバカは!?
そ、そうだ!ダクネスはアイツにとって苦手な相手っぽい!
この札を付けた上で、アイツに諦めるよう説得すれば流石に折れるんじゃないか!?
幸い、バニルはダクネスから離れるのに必死だ。今の内に…!
こっそりと潜伏状態で近づいて、札を貼ろうとすると。
「小僧の考え等、見抜いておるわ!!」
「なっ!?」
瞬間、ダクネスの顔から仮面が外れ、それが俺を襲う。
「カズマ!?」
ヤバイヤバイヤバイ!?
俺に取り付くとか、マジで簡便しろよ!?
「だ、ダクネス!!すぐに皆に、し、らせ…ろ!」
「ぐっ!待っていろよカズマ!!」
そう言ってダクネスは地上へ向けて走っていく。
油断した!クソッ!俺はマクスウェル戦から何も学んでないのかよ!?
気を抜いていい相手じゃなかった!このままじゃ皆を危険に…!?
「落ち着け、小僧。」
『これが落ち着いていられる状況か!?』
「まだ、体の自由を奪っただけだ。支配はしとらんぞ。」
『……どういう意味だ?』
「小僧、相談がある。」
――――――――――…
<めぐみん視点>
カズマ達がダンジョンに入ってから、もう30分以上も経つ。
「おかしいですね、先程の様子から、直ぐに戻って来られると思っていたのですが。」
「そうだよね、どうしたんだろ?」
「人形達の自爆攻撃をダクネスは無傷でやり過ごしていましたからね、
蓄積して多少のダメージを受けたとしても、カズマが居れば問題ない筈なんですが…。」
「もう!めぐみんは心配性ね。カズマだって其れぐらい弁えているでしょ?」
あ!その可能性がありましたか…!?
後で、問い質す必要がありそうですね!?
沸々と込み上げてくる感情を押し留め、ダンジョンの様子を窺っていると、ダクネスが走ってきた。
「大変だ!か、カズマが!!」
まさか、ダクネスを襲ったとかじゃないでしょうね!?
「カズマが、魔王の幹部の大悪魔に取り付かれた!!」
「「「「!?」」」」
…え?う、嘘ですよね?冗談ですよね!?
「!?邪悪な気配が近づいて来ているわ!!ダクネス早く戻って!!」
「くっ!ああ!!」
ダクネスは申し訳無さそうな顔で、私を見る。
「だ、ダクネス?先ほどの事は…。」
「済まない、めぐみん…。」
そ、そんな!?
「安心して!めぐみん!!取り付いただけなら悪魔を倒しちゃえば解決よ!!」
「皆でカズマさんを、助けてあげようよ!」
「お前達の事は、私が護る。皆!頼むぞ!!」
…まったく、カズマは皆に心配ばかりを掛けて…
「良いでしょう!絶対カズマを助け出しますよ!」
「「「おー!」」」
「!来るわよ!!…先手必勝!!『セイクリッド・エクソシズム!!』」
「ぬわーーー!!!」
ダンジョンから出て来たカズマに、アクアの退魔魔法が炸裂する。
相当効いたのか、カズマは地面の上を転げまわっていた。
「ぐっ!貴様!!挨拶もなしにいきなり魔法を放つとか、礼儀も知らんのか!?」
「あら、御免なさい。人の悪感情が無ければ存在出来ない寄生虫に、挨拶が必要だとは思ってなかったわ!」
「貴様!その風貌から見て、かの悪名高き水の女神か!?平然と仲間に攻撃をするとは恥を知れ!!」
「何言っているのよ!?この魔法はね、アンタ達みたいなゴキブリ相手以外には無害なのよ!!」
「くぅ!!…む、……しかし、貴様の魔法でも、我輩を倒す事が出来ない様だな!?」
「…言ってくれるじゃない!?とっておきを見せてあげるわ!?」
そう言って、アクアは集中を始める。
「食らいなさい!!『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム!!!』」
「甘いわ!!」
カズマに取り付いた悪魔は、軽々と魔法を躱す。
「嘘!?避けられた!!」
「ほう、身体能力はそこの娘にかなり劣るが、反応は悪く無い。今度は此方から行くぞ!」
「私が抑える!!」
悪魔が攻撃に転じると、ダクネスが立ち塞がった。
「小僧達の情事を、密かに覗き見たいと思っている其処の娘よ、
我輩は貴様の後ろの奴に用がある、其処を退くのだ。」
「なあっ!?て、適当な事を言うなー!!」
……今の話は本当でしょうか?
い、いえ、悪魔の言う事です!きっと仲違いをさせるのが目的でしょう!
「嘘ではないぞ?小僧との交わりが密かに楽しみになってきている娘よ。」
「嘘ですね!?そんな事有り得ませんから!?アクア!!早く浄化しちゃって下さい!!」
アクアにそう促すと、好奇な目で私を見てきた。
「あら?めぐみんってばそうなの?」
「そ、その、めぐみん?節度は、その護った方がいいよ?本当に赤ちゃん出来ちゃうよ?」
「何で二人まで信じちゃっているんですか!?というか!何なんですか貴方は!!」
カズマですら知らない、私の内情を知っているなんて如何いう事なんですか!?
「確か、奴は全てを見通すとか言っていた。」
ちょっと待ってください!今なんと言いましたか?
「フハハハ!いかにも!我輩はこの世の全てを見通す大悪魔バニルである!」
「ば、バニル!?魔王軍幹部の中でも特に危険視されている!?」
恐怖のあまり、セナが座り込む。
「性格が災いし、未だに男が出来ない娘よ、安心するが良い。我輩は人間を傷つけたりはせぬ。」
「は?」
セナは座ったまま、バニルを睨みつけていた。
…多分、図星だったんですね……。カズマには触れないよう注意しておきましょう。
「と、兎に角アクア!皆に支援を御願いします!!隙を作れれば貴方の魔法も当たる筈です!」
「わ、分かったわ!」
セナの様子に怯えていたアクアは、慌てて皆に支援を掛ける。
カズマをこのままにして置けませんからね!何が何でもカズマから出て行って貰いますよ!!
「ふむ、やはり立ち塞がるか。不本意ではあるが相手をしよう。」
バニルは、ちゅんちゅん丸を抜いて、ダクネスに切り掛かった。
「この程度の攻撃!」
ダクネスが攻撃を防ぎ、そのまま押し返そうとする。
「ふむ、やはり自力では敵わぬか。ならば。」
「ぐっ!身体強化魔法か!流石はカズマの体!一筋縄では行かないな!!」
「言ってる場合ですか!何とか抑えてください!」
カズマを敵に回すのは、本当に厄介です!何か手はありませんか?
「……ふむ、…む!小僧!まだ意識が残っていたか!?」
カズマの意識が!?…いえ、騙される訳にはいきませんよ!
『…諦めが、…悪い、んだ…よ…俺は…!』
カズマの声!?
「カズマ!?」
私が呼び掛けると、カズマの体は硬直した様に、動きを止める。
「小僧!抵抗をするな!貴様ではその激痛に耐えられまい!」
『ぐぎ!』
「!?アクア!!カズマが耐えている内に!!」
「ええ!『セイクリッド・ハイネス・エクソシズムー!!』」
体の主導権を奪い合っているのか、今度はアクアの魔法が直撃した。
「ぬううう!!!」
ブスブスと音を立てて、悪魔は膝を付く。
「しぶといわね!でも、後何発耐えられるかしら?」
「じょ、冗談ではない!?貴様なぞに浄化されるものか!」
『めぐみん!!』
バニルの隙を突いたのか、カズマは仮面を剥がしに掛かった。
「ぬ!小僧!!まだ、こんな力が残っておったか!?」
『こいつの本体はこの仮面だ!吹き飛ばせ!』
「!?分かりましたっ!!」
カズマが無理やり仮面を剥がし、其れを投げ捨てた。
「空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼。我が前に訪れた静寂なる神雷。
時は来た!今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ!穿て!」
二振りの小太刀に魔力の奔流が絡みつく。
良い感じです!これなら!!
「『エクスプロージョン!!』」
デストロイヤーを真っ二つに割った、あの時の爆裂魔法には及ばないものの、
確実に威力を増した爆裂魔法が、バニルに襲い掛かる。
「此処までであるか。」
そう言葉を残し、バニルは爆裂魔法に飲み込まれて消滅した。
―――――――――…
数日後。
バニル討伐の表彰が終わった後、私たちはウィズの元に向かっていた。
「まさか、奴が訪ねようとした相手がウィズだったとは…。」
「アンタ達、何で黙ってたのよ?」
「いや、言うタイミングが逸れたと言うか…。」
「でも、良いんでしょうか?」
「何がですか?」
「ウィズさんはその…。」
ゆんゆんは、最後まで言えずに口ごもる。
「別に良いわよ、心配しなくても魔王城の結界ぐらい、私が破壊して見せるわよ!!」
「そうですよね!アクアさんが居れば安心ですよね!!」
そう言って、アクアの手を取るゆんゆん。
それが、少し気恥かしいのか、アクアは照れくさそうにしていた。
「ん?どうかしたのか?ダクネス。」
「…いや、バニルの事を考えていた。…あいつは人をからかいはしたが、
そこまで悪い奴ではなかった気がしてな…。」
「ウィズとも仲が良かったかも知れないんですよね。」
ウィズには何と言ったら良いのだろう?
気が重くなりますね。
「ああ、その事なら心配はいらねえよ。」
「は?」「え?」
カランとドアベルが鳴り、お店の扉が開かれる。
「へい!いらっしゃい!」
「あ!皆さんいらっしゃいませー!バニルさんから聞きましたよー!」
ウィズのお店には何故かバニルがいた。
私達は、その光景に固まってしまったのだけど、カズマだけは平然としていた。
「よ!約束通り来てやったぞ。」
「うむ!これで約束は果たされた!早速商談に移ろうではないか!」
「なっ!?」
「か、カズマ!?私は聞いてませんよ!?」
「ああ悪い、めぐみん、こいつとの約束だったんでな。」
「ちょ、ちょっとカズマ!!まさか、この悪魔と契約をしたんじゃないでしょうね!?」
「ふむ、そこのぼっち娘と朝からいちゃつき、快楽を貪っていた堕落した女神よ、
少し黙っていてくれないか?我輩は小僧と大事な商談があるのだ。」
「そ、そんな事してないわよ!唯の友達同士のスキンシップよ!?変な言い掛かりはやめて頂戴!?」
「そ、そうですよ!!アクアさんはお友達として私に接してくれているだけです!
後、私はもうぼっちじゃないですよ!!!」
「二人の事は兎も角、カズマ、これは如何いう事ですか?そもそも、何故バニルが無事なんですか!?」
「無事ではないぞ、流石の我輩でも爆裂魔法には耐えられんのでな、ホレ!」
そう言ってバニルは仮面を指し示す。
「この通り残機が一人減って、今は二代目バニル様だ!」
「は?」
「蘇ったバニルさんは、魔王軍の幹部ではないのでとっても無害なんですよ!」
「えっと、そういう事なんだよ。あ、バニル。あの件はどうだった?」
「うむ、小僧達の予想通り、地獄に居ったぞ。あの様子では後1000年は掛かるであろうな。」
「そうか、あの豚領主の自業自得とはいえ、流石に少し不憫に思えるな。」
本当にアルダープが地獄に…、一つ問題は解決しましたけど、此れはどうしましょう!?
「心配すんなって、めぐみん。俺は別にバニルと契約したわけじゃないから。」
「うむ!小僧と我輩は唯のビジネスパートナーである!
だから、我輩に敵意を向けるのはやめてくれないか?」
「めぐみん!頼むからこんな所でぶっ放さないでくれよ!?」
「…分かっていますよ。」
私がそう言うと、二人はほっとした表情をしていた。
「そういう事でしたら、私も商談に加わりますよ!良いですね!?」
「まぁいいけどよ…。良いよなバニル。」
「うむ、爆裂娘なら邪魔にはなるまい。」
良かった、これでカズマが騙されそうになっても私がフォロー出来ます!
「ちょっと!アンタ達、私を無視しないで頂戴!」
あ、アクア達はどうしましょう!?
「アクア、これをやるからウィズを連れて、皆で美味い物でも食って来いよ。」
そう言って、カズマはポンと100万エリスをアクアに手渡した。
「!仕方ないわね!!此れで蟹でも食べに行きましょう!!
ほら、行くわよ!ゆんゆん!ダクネス!ウィズ!!」
「いや、しかしだな!」
「私も良いんですか!?」
「えっと、カズマさん、めぐみん!また後で!!」
アクアは皆を押して、バタバタとお店から出て行く。
その様子を見守っていたカズマはぼそりと呟いた。
「ちょろいな。」
「甘いですよね。」
「ちょろ甘であるな。」
「さて、バニル…。商談に入ろうぜ。」
バニル編も無事に終わりました。
次はアルカンレティア編か紅魔の里編か…、迷いますね。
下のアンケートですが、日にち間違えてますね(汗)
10月7日の月曜日です。失礼しました。
アルカンレティアと紅魔の里、次に向かうのはどちらにするか迷っています。アルカンレティア編はアクアを中心に話を進めようと思っています。紅魔の里編は、勿論カズめぐが中心で両親に挨拶とか結婚の話関連を盛り込もうと思っています。更に言えばサブキャラも多く絡ませる事になるでしょう。 ここで皆さんにアンケートなのですが、どちらが良いでしょう?締め切りは10月6日月曜のお昼までです。
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アルカンレティア編
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紅魔の里編