このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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閑話、ドリスの町

ドリスに着いた俺達は、高級宿を見上げていた。

 

「おお!此処が紹介された宿かっ!?」

 

「結構良い所じゃない!?」

 

報酬の受け取りを断ったら、高級宿の割引券が貰えた。

流石にこう言う物まで拒んだら、逆に失礼になるんじゃないかと思って、

人数分を受け取った訳なんだが…。

 

「まさか、ドリスの町で一番の宿とはな…。」

 

「しかも此れ!宿代が普通の宿と殆ど変わらなくなりますよ!?」

 

本当だ…、つか此れ人数分貰っているし、下手したら最初に出された報酬より高いのでは?

 

「二人ともー!何時までそんな所にいるのよ!?早く部屋を決めちゃいましょ!!」

 

宿に入ったアクアが、玄関ホールから叫んでいた。

 

「暢気だな、あいつ。」

 

「アクアに習って私たちも気にしない様にしましょうか。」

 

「そうだな。じゃ、行くか。」

 

 

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を決めた俺達は、荷物を預けて早速露天風呂に入っていた。

 

「ああああ………、沁みるぜ…。」

 

俺達の屋敷は風呂が大きいのでそれなりに満足していたんだが……。

 

「露天だからこその開放感!湯からあがると肌寒い。だがそれが良い!」

 

そして、少し冷えた体をまた湯に浸ける!

 

「あああああ…!!」

 

来て良かった……!

 

心の底から、そう思えるほど、俺は満足していた。

 

「ふう…、良い湯だねえ。」

 

「まったくだ。…これのバスソルトとかって売ってねえのかな?」

 

あったら大人買いするんだが…いや、やっぱり買い占めよう!

 

「さ、流石にないと思うよ?バスソルト自体、こっちじゃ見た事もないし…。」

 

「そっか…、なあ、ミツルギ。お前はバスソルトの作り方…」

 

「いや、知らないよ!?」

 

俺が聞こうとすると、ミツルギは食い気味に答える。

 

ちっ、知らないのかよ。

どうすっかな、テレポートの登録先にすると、戦術面で影響が出るんだよな。

また温泉に入りたいし、後でゆんゆんかリーンに頼んでみよう。

 

「でも本当に良い風呂だよね。また来たいなぁ。」

 

「あー、お前らのパーティーはテレポート持ち居ないもんな。」

 

というより、魔法を使える奴が一人もいないしな。

 

「はは、魔法職の重要さは分かっているから、探してはいるんだけどね。」

 

「見つからないのか?この前まで王都にいたんだろ?」

 

「いや、見つける事は出来るんだ。ただ、パーティーに入ってくれるっていう人はいなくてね。」

 

「何だ?お前嫌われて……あ…。」

 

思い出した。

確か、アクアの話にあったよな?ハーレム野郎に捨てられたのかっていうのが…。

 

こいつがアクセルに留まる理由は、アクアだけじゃないのかもな。

 

俺達が会話を続けているとテイラーとキースが内風呂から露天に出てくる。

 

「何だ、二人とも此処に居たのか。」

 

「そりゃ、温泉といったら露天風呂だからな!」

 

「ふふ、そうだね。」

 

テイラー達も、露天風呂に入って来る。

 

「ほう、此れは……、中の浴場とは違うものだな…。」

 

「そうだろ?やっぱ、温泉に来たらこっちに入るもんなんだよ。」

 

「…確かに、此れは良いな…。日頃の疲れが抜けていくようだ……。」

 

テイラーは満足気な表情で肩まで浸かっていた。

まったり湯に浸かっていると、キースが思い出したように口を開いた。

 

「それにしても、お前がこっちにいるとは思わなかったぜ。」

 

「ん?」

 

「いや、てっきりめぐみんと混浴風呂の方に行くと思っていたからな。」

 

「ああ、実は俺達も最初はそのつもりだったんだよ。」

 

夜の露天風呂なんて、思いで作りにはもってこいだしな。

 

「ん?なら、どうして行かなかったんだい?」

 

「……ダストが入ってきた。」

 

「「「ああ……。」」」

 

そう、俺達が脱衣所で服を脱ごうとしたら、あの空気の読めないチンピラが入って来たんだ。

 

「それで、仕方なく男女別で分かれる事に…。」

 

「なあ、カズマ。お前達の自由ではあるが、それ俺達に話して良かったのか?」

 

「今更だし、お前らが相手の時は、もう開き直る事にしたんだ。」

 

良いも悪いも、あの百合の女神が、調子に乗って全部ばらしやがったからな。

 

「開き直るのは良いけどよ、あまり自慢はすんなよな。殴りたくなるから。」

 

「ああ、分かった、精々惚気てやるよ!」

 

俺がそう言うと、キースが掴みかかってきた。

 

「おい!お前らやめろ!騒ぐなら此処から出て行け!」

 

冗談じゃない、俺はもうちょっと此処でのんびりして行きたいんだ。

 

「此処は休戦だ。良いな、キース!」

 

「ちっ!この旅で彼女作って、俺もお前に自慢してやるからな!」

 

ああ、紅魔族の女性を狙ってんだっけ。

こいつら紅魔族の事分かってんのかな?どうなることやら…

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

食事を終えた俺達は、部屋に向かっていた。

 

「いやー、美味かったな!流石高級宿なだけある!」

 

高級食材がふんだんに使われた料理に、俺は満足していた。

 

「…確かに美味しかったですけど、私はカズマが作った料理の方が好きですよ。」

 

「そ、そうか?」

 

褒められるのは悪い気がしないけど、なんだかむず痒い。

 

「え、えーと、俺達の部屋は…。」

 

「あ!あそこの角の部屋みたいですよ!」

 

部屋の鍵を開け、中に入る。

部屋の隅に俺達の荷物が置かれていて、中央には布団が二つ敷いてあった。

 

「おお!畳張りの部屋とは!?…あったんだな…。」

 

良いな…、畳。この香りが落ち着くんだよな…。

 

「カズマー!小さいですけど、露天風呂もありますよー!?」

 

「何!?」

 

ベランダに出ためぐみんから、とんでもない情報が来た。

堪らず駆け出し、めぐみんの元に駆け付ける。

 

「おお!二人で入るにはちょっと狭いけど、…後で入るか?」

 

「そうですね、寝る前に入りましょうか。先ずは明日の準備をしてしまいましょう!」

 

荷物整理と武器の手入れを済ませ、ミツルギ、テイラーを呼び出す。

 

「ミツルギ、アルカンレティアの先で気を付けるべき相手は?」

 

ギルドから貰った地図とモンスター情報を広げて、ミツルギに問う。

 

「うーん、先ずは安楽少女かな?」

 

「安楽少女?」

 

「生物を養分にする植物型のモンスターですよ。彼女を見ると庇護欲にかられてしまうので注意が必要です。」

 

「成程、そうやって虜にして養分にするのか…、結構狡猾だな。」

 

「そうだね…、ただ、此れだけの人数がいれば彼女は隠れてしまうと思うけど。」

 

「ですね、一人でも魅了されない者がいれば退治されてしまいますから。」

 

めぐみんの解説もあって、俺とテイラーは質問を続けていく。

 

「ん?オーク?何でこんな危険地域にオークなんているんだ?」

 

オークなんて、ゴブリンやコボルドに並ぶ雑魚モンスターだろ?

 

「え?…さ、さあ?」

 

俺がそう聞くと、ミツルギは首を傾げる。そしてそれを見ためぐみんが口を開いた。

 

「この辺りにいるオーク達は、繰り返された異種配合で強靭な肉体と魔法抵抗を持っています。」

 

「…それ、もうオークじゃねえだろ?」

 

「いえ、オークですよ。他ではこうなる前に淘汰される様ですが。」

 

「独自の進化をしてしまったんだね。」

 

最悪だな…。オークといえば女の敵だ。

現れたら、男連中で皆を守らないとな!

 

俺達は無言で頷きあう。

 

「よし、こんなもんか。明日に備えて解散だな。」

 

「ではな、カズマ。明日は寝坊をするなよ?」

 

「サトウ君、めぐみん!お休み!」

 

ミツルギ達が部屋から出て行く。

 

「では、そろそろ寝ましょうか?」

 

「その前に、ひとっ風呂浴びるんだろ?」

 

「ああ、そうでしたね。…明日は早いので変な事はしないで下さいね?」

 

「え…何で!?い、一回!一回だけでいいから!?」

 

「カズマは何時もそう言って、何度もするじゃないですか。」

 

う、それを言われると…

 

「それに今回の旅で、私の両親に会うことになるという事を、カズマは忘れていませんか?」

 

「あ…、そうだった…。」

 

すっかり忘れてた!?と、とりあえず、明日は出発前に温泉土産を幾つか買わないと!

 

「カズマ、早く入りましょうよ。」

 

既に服を脱いだめぐみんが、急かせて来る。

 

「…これを前にして、何も出来ないのかよ…。」

 

絶望感に包まれながら服を脱ぎ、ベランダの露天風呂に入る。

 

「浴場の露天風呂より、ちょっと温いな。」

 

「カズマ、ティンダーで温度調節は出来ませんか?」

 

その手があったか。

 

ティンダーを強めに発動して、温度調節に計る。

 

「此れぐらいかな?」

 

あまり熱くするとめぐみんが入れないだろうし、この温度でゆっくりと浸かれば十分温まるだろう。

 

「…と、めぐみん?何をしているのかな?」

 

「あっちは狭いんですよ。でも、ここなら足を伸ばせます。」

 

めぐみんは俺に背を向けて、胸元に寄り掛かる様に寛いでいた。

 

俺の今の状態が分かっている癖に…、クソ!このまま胸とか下とか弄ってやろうかな!?

 

「カズマ、腰に当たっているモノは何とか出来ませんか?」

 

「無理だっつの!?」

 

むしろ、どんどん元気になってるよ!?

 

「仕方の無い男ですね…、後で鎮めてあげますから、…そういうのはやめてください。」

 

めぐみんの胸元や下に手を伸ばそうとすると、咎められてしまった。

 

俺は無言で手を引っ込めて、空を仰いだ。

 

「……綺麗だな。」

 

「…そうですね。」

 

そろそろ日付が変わる時間。町明かりは少なく、空に輝く星が良く見えた。

 

そういや此処って世界線が違うのかな?それとも星系が違うのか。

後者なら、この星空の彼方に地球があるのかもな…。

 

暫く二人で星空を見上げていると、めぐみんが身じろいだ。

 

それに反応してめぐみんを見ると、俺の顔を見上げていた。

 

「カズマ……。貴方は何処からやって来たのですか?」

 

「いきなり如何したんだよ?」

 

「星空を見上げていたカズマの表情が、どこか寂しそうに見えたので…。」

 

そんな顔をしてたのか…。

 

「別に今が楽しくないってわけじゃねえよ。

むしろこっちに来てからの方が充実しているぐらいなんだから。」

 

相棒で恋人であるめぐみんと、騒がしくも楽しい友人達。

こんな連中と一緒に過ごせているのだから、此れは間違いのない俺の本心だ。

 

「カズマはその、…故郷に戻りたいとは思わないのですか?」

 

「そうだな…、戻りたくないと言えば嘘になるな…。」

 

せめて、両親にはちゃんと報告をしておきたい。…そして謝りたい。

 

「それなら、いずれ帰ってしまうのですか?」

 

めぐみんは、心配そうな表情で俺を見上げている。

 

「それはねえよ。そもそも帰りたくても帰れないからな。」

 

「?……それはどういう意味ですか?」

 

そろそろ話しておくべきだな。俺やミツルギの過去を。

 

「薄々感づいているかも知れないけど、”俺”や”御剣”はこの世界の人間じゃないんだ。」

 

「え?」

 

「うーん、なんて説明したらいいか…。兎に角俺達は、

めぐみん達から見たら異世界人って事になるんだよ。」

 

「異世界…。それならどうして此処に?」

 

「…俺は前の世界で一度死んだんだ…そして天界でアクアに出会った。

前に天界でスキルを貰ったって話したろ?」

 

「ええ、聞きました…。」

 

「それで、アクアにスキルを用意してもらって、記憶と肉体を持ったまま、この世界に転生したんだ。」

 

「そんな事が…。」

 

「で、この世界に来た後の事は、お前はほぼ知っていると思うぞ。」

 

「え?」

 

「なんせ、俺がこっちに来てから24時間以内にお前に会ったからな。

俺のこの世界での思い出には、常にお前が横にいるんだよ。」

 

俺はめぐみんを抱きしめる。

 

「……もし、前の世界に戻れたとしても、俺の居場所はもう決まっているんだ。」

 

「カズマ……。」

 

「嫌だって言っても、絶対放さないからな!覚悟して置けよ。」

 

そう言って俺はめぐみんに口付ける。

何時もの様な激しいものではなく、ただ触れ合うだけ…。

 

何時までそうしていたんだろう?

 

「くしゅん!」

 

唐突にめぐみんがクシャミをした。

 

「いつの間にか温くなっているな…。」

 

「すっかり体が冷えてしまいましたよ。カズマ、なんとかしてください。」

 

「ああ、わかってる。調節して…『ファイア・ボール』」

 

小型の火球を湯に沈めると、どんどん水温が上がってきた。

 

「ふう…。」

 

「か、カズマ?少し熱すぎませんか?」

 

ん?確かにさっきよりは熱いとは思うけど、これぐらいなら。

 

「カズマ、すこし冷ましてください!これでは私が入れません!」

 

「えー…、此れぐらいなら、一度入れば体が慣れるって。」

 

「なら、先に寝ますよ!鎮めると言った件は勿論無しです!」

 

「『クリエイトウォーター』」

 

実はもう収まってきているが、そう言われてしまえば、やって貰わない手はない。

 

「……カズマって、本当に変態ですよね。そんなにして欲しいのですか?」

 

「何当たり前な事を聞いているんだよ。」

 

俺が真顔で答えると、めぐみんは呆れたような表情をしていた。

 

「はあ…、この男は本当に…。」

 

文句を言いながら、湯に入って来るめぐみんを抱き寄せて、二人で暖まる。

 

「ってカズマ、何処触ってるんですか!?」

 

「してくれるんだろ?」

 

「それは寝室でですよ!」

 

「じゃあ、十分暖まったし、そろそろあがるか!」

 

そう言って、俺は立ち上がった。

 

「…なんでそんなに元気になっているんですかね?先程よりも大きくなってるじゃないですか…。」

 

「めぐみんが渋るからだぞ?ほら、早く出て体を拭けって!!」

 

「せ、急かさないで下さいよ!どんだけ必死なんですか!?」

 

体が拭き終わり、服を着ようとしためぐみんを布団の中に引きずり込む。

 

「か、カズマ!?服ぐらい着させて下さいよ!?」

 

「どうせすぐに脱ぐんだから良いだろ?」

 

「なっ!?だ、駄目ですって!今日は!って!ちょっと!カズマ!!あっ!」

 

こうして、俺達の夜は更けて行った。

 

 

 




次回は本編進めます。道中どうなる事やら…

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