このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
俺は今、畳の上で正座をしている。
部屋の真ん中にちゃぶ台があり、対面には強面の中年男性と優しそうに微笑む女性が座っていた。
「あ~、もう一度言って貰えるかね?うちの娘と何だって?」
中年男性―…ひょいざぶろーさんは不機嫌そうな表情で、再度確認してくる。
「は、はい!…自分はめぐみんと恋仲でして…、結婚を前提でお付き合いを…。」
「なあああああああーーーーっ!!」
「やめてあなた!今月は特にお金が無いの!!ちゃぶ台を壊そうとしないで!!」
ちゃぶ台返しをしようとしたひょいざぶろーさんを、奥さん…ゆいゆいさんが必死で止める。
何この人!?滅茶苦茶怖いんですけど!?
「……失礼、取り乱してしまったよ…。キミがいきなり結婚などと言う話をするからね。」
いきなり結婚の話をしたのは不味かったか……。ん?
違和感を感じて、横を見やると、俺の横に座っていためぐみんが服の裾を引っ張っていた。
『オミヤゲ』
あ、忘れてた…。
「あの、此れつまらないものですが…。」
こういうのって普通、先に出すべきだよな…。
既にやらかした感じが否めないが、渡さないというのは論外なので、
俺は恐る恐るお土産を差し出した。
「…母さん、手をどけなさい。これはカズマさんがワシにとくれたものだろう。」
「あらあらやだわあなたったら、さっきまでカズマさんの事をキミなんてよそよそしい呼び方をしておいて。」
「これは今夜の酒のつまみにするんだ、だから手を離しなさい。」
「ダメです、これは晩御飯にするんです。あなた、手を離して。」
え?温泉饅頭なのに酒の肴や晩飯??
「あの…、お土産ならまだありますし、台所を貸して頂ければ食材もあるので俺が夕食を作りますよ?」
「「!?」」
「いやあ、さっきは怒鳴ってしまって済まなかったね!我が家で一番の茶をどうぞ!」
「家のお茶は一種類しかありませんけど、ようこそ!」
ええ…。
さっきまでの険悪なムードはどこへやら…。
めぐみんのご両親は一変して歓迎ムードになっていた。
めぐみん家の台所を借りた俺は、持って来た食材を元に夕飯を作っている。
「後は味噌を入れて…と。」
これで豚汁の完成だな。
「カズマ、ご飯が炊けましたよ。」
「こっちも全部揃ったよ。じゃあ、持って行こうぜ。」
「おいしー!」
「あら本当!美味しいわね!」
「いやーすまないね!カズマ君!態々酒のつまみまで用意してもらっちゃって。」
「そんなに手間が掛かるものではないので、お気になさらずに。」
俺の作った夕食は、めぐみん家の方々に大好評だった。
「ほらほら、こめっこちゃん!そんなにがっついたら体に悪いわよ。」
アクアはこめっこが気に入ったのか、膝の上に座らせてお世話をしている。
ダクネスはそんなアクア達を、優しそうな表情で見ていた。
穏やかな雰囲気の中で、ゆいゆいさんは口を開く。
「それで…先程のお話に戻りますけど、うちの娘と結婚をしたいとか。」
それを聞いたひょいざぶろーさんは、一瞬顔を強張らせていた。
「あ、はい!今直ぐにと言う訳ではないのですが、いずれは結婚をと考えています!」
「そうですね、めぐみんが選んだ相手ですし、親の立場からとやかく言いたくは無いのですが…。」
「二人ともまだ若いんだ、何も急いで決める必要は無いだろう?」
いや、流石にそう言う訳にも…、
「それに冒険者は収入が不安定だと聞きます。娘と一緒になるのならある程度の貯蓄を作るか、
安定収入が入るようになってからの方が良いのでは?」
「うむ!冒険者家業以外にも手に職をつけ、稼げるようにならんとな!」
「「は?」」
ひょいざぶろーさんがそう言うと、めぐみんとゆいゆいさんは低い声をあげ、睨みつけていた。
「ゴホン!まあ、そういう訳だ。娘と一緒になるのなら母さんの言う通りにしてからにしなさい。」
…俺、貯蓄もあるし安定収入もあるんだけど……。
ひょいざぶろーさんは話は終わったという感じで、再び飲み始める。
「つまり、お父さんとお母さんはカズマに安定収入と貯金があれば、私達の結婚には反対しないという事ですね?」
「ええ、そうね。それなら安心して娘を預けられるもの。」
「だがまだ若い、そうなる為に10年は頑張ってもらわないとな!」
そう言って、ひょいざぶろーさんは酒を呷る。
「えっと、俺貯蓄もありますし、冒険者家業以外の安定収入もあるんですけど…。」
「「え!?」」
驚いた二人が動きを止める。
「し、しかし、100万や200万の貯蓄があるぐらいではダメだぞ?収入に関してもバイト程度では…。」
「いえ、貯蓄の方はめぐみんと合わせると6億2000万ぐらいありまして、
収入の方も、毎月100万、多い時は200万以上遊んでいても入ってきます。」
「「6億!!??毎月100万以上!!??」」
「カズマ…この二人に具体的な数字を言うのは…。」
え?何か不味いの!?
見ると二人はプルプルと震えていた。そして茶碗と銚子を置き、満面な笑顔で此方を見る。
「カズマさん!今日は泊まって行きなさい!何、遠慮はいらん!
なんなら此処に住んで貰っても構わんぞ!冒険者やっているのなら家なんかないだろう?」
「い、いえ!俺達はアクセルに屋敷を持っているので…。」
「「屋敷!!?」」
それを聞いて二人は更にテンションを上げる。
「母さん!式は何時にしよう!?」
「そうですね!早ければ早い方が良いので明日でも!?」
先程までとは正反対な事を言う二人の様子に、めぐみんが呟いた言葉の意味が分かってしまった。
「では、お風呂を沸かしてくるのでカズマさん一番風呂をどうぞ!なんなら娘と一緒でも良いですよ!」
「いや!待て母さん!それは早いんじゃないか!?」
「何言っているのよ!あなたは孫の顔が見たくは無いの!?」
ぶっ!?
「そうか、孫か…。しかし、めぐみんはまだ14で…。」
流石に彼女の実家で、そんな事する勇気はねえよ!
――――――――…
「ふう、なんつうか疲れたな…。」
一番風呂を貰えた俺は、湯船に浸かりながら先程の事を思い返す。
しかし、金額や屋敷の話までしたのは失敗だったかな。
めぐみんの実家の事は出会った頃から知っていたし、結婚したら援助するつもりだったけど…。
「ふう…。」
あまり此方を頼られても俺達が困るんだよな…。
だけど、話しちまったものはしょうがない!
自分の親に孝行出来なかった分も、めぐみんの両親にしておくか。
風呂から上がり、居間に戻るとひょいざぶろーさんがイビキを掻いて寝ていた。
そしてその傍らでゆいゆいさんが、静かにお茶を飲んでいた。
「あ、カズマさん上がったんですね。湯加減は如何でしたか?」
「丁度良かったです。…あの、皆は?」
「めぐみんは自分の部屋で、アクアさんとダクネスさんは、こめっこと一緒に客間で寝ています。」
「あ、そうですか…、何か大勢で押し掛けてしまってすみません。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
しばらく沈黙が訪れる。
「…あの、俺は何処で寝れば良いですかね?」
「うちは見ての通り狭いので、めぐみんの部屋で一緒に寝てもらえますか?」
「め、めぐみんの部屋ですか…。」
毎日ベッドを共にしているんだから、今更同衾ぐらいで緊張をする事はないけど問題はある。
「あの、それは流石に…。」
問題なのは彼女の実家と言う点だ。
「あら?娘と結婚するのなら何も問題は無いじゃないですか?」
「あ、いや…そうかも知れませんが…。」
この人さっき、孫がどうこう言ってたんだよな…。
そんな人が同衾を進めるという事は、やれって事だよな…親公認で。
「では、案内しますね。娘はもう眠っているので、するのならちゃんと起してあげてくださいね。」
「い、いや!流石にしませんって!」
やりたい気持ちはあるけど、この状況じゃ監視されかねない…。
俺が慌てて反論をすると、ゆいゆいさんは何故か此方をジッと見てきた。
「あのカズマさん?もしかしてもう娘と繋がって…?」
げっ!?
「えあ………!?……その、すみません…。」
「…そうですか。それであんなに結婚と…。娘の事を大切にしてくださいね?」
「は、はい!それは勿論!!」
俺がそう言うと、ゆいゆいさんは優しい表情で御願いしますと懇願してきた。
言われるまでもない、俺は一生あいつの傍にいるって決めたんだ。
ゆいゆいさんに促されて、めぐみんの部屋に入る。
「では、カズマさんお休みなさい。早く孫の顔を見せてくださいね。」
悪戯っぽい表情でそういい残し、ゆいゆいさんは居間に戻っていった。
「…娘を持つ親が、あんな事言っても良いのかよ…」
俺は苦笑いをしながらそう呟く。
「うう、さみっ!」
風呂上りという事もあって、体が冷えてきた俺はそのままめぐみんの布団に入る。
「ん、わりい…。起しちまったか?」
「…何でカズマが私の布団に入っているんですか?」
「お前の母ちゃんに勧められた。っつうか、全部ばれちまった。」
「…そうですか、母は何と言ってましたか?」
「はよ、子供作って孫の顔見せろってさ。」
正直に言うと、めぐみんは頭を抱えていた。
「まったく、あの母は何を考えているんでしょうね!」
「でもまあ、反対されるよりかは良いかなって思ってるよ。」
「そうですね。」
そう言ってめぐみんは一度伸びをして、俺の顔をみる。
「さて、これから如何しましょうか?」
「そうだなあ、明日起きたら先ずは幹部の情報を集めてみるか。」
ミツルギ達がやる気になっているし、紅魔族との共闘が出来る今なら、幹部打倒を目指すのも悪くは無い。
「はあ、違いますよ。何時もはがっついて来るのにこういう時は気付けないんですね。」
「何の事だ?」
一体めぐみんは何を?
「この男は!……うちの両親が許した事で、私達は何時でも結婚が出来るんですよ?」
「ああ、そうだな。」
結婚か、何時頃にすっかなあ。…!?
「何してるんだよ…。そんな事されたらカズマさんのカズマさんが元気になってくるだろ。」
「むう、これでも分からないのですか?」
え?……もしかして、これってめぐみんからのお誘い!?
「いやいやいや、不味いってゆいゆいさんに聞かれているかも知れないんだぜ?」
下手したら何処からか見られている可能性もある。
「だとしてもカズマなら対処は可能でしょう?どうせ母にはバレているんですし。」
確かにバレている以上してもしなくても同じではあるし、対処も余裕だ。
「ダメだって、じゃあめぐみん、『エンギ』寝るぞ。」
「『ワカリマシタ』はあ、仕方ないですね。」
俺達はそのまま寝る振りをして、30分程そのまま待つ。
感知スキルを最大にして外の様子を伺う。
「…。」
「…。」
めぐみんと頷き合い、消音魔法を唱える。
次に、部屋と窓にロックの魔法を掛け、更にライト・オブ・リフレクションで姿を消した。
「此処まですれば平気かな?」、
「何かドキドキしてきましたよ。いけない事をしている気分です。」
「ああ、俺もだ。」
親の目を盗んで悪戯をするような、小さい頃に感じたあのドキドキワクワクが蘇ってくる。
まあ、やるのは子供の悪戯じゃないんだけど…。
「ん…ふう、…うん。」
「ふう、れろ…カズ…マ…。」
何時もの様にキスをしてから、互いの服を脱がしあう。
「でも、本当に嬉しいですよ。カズマ、これからもよろしく御願いしますね。」
「ああ、此方こそ!めぐみんがイヤだって言っても一緒にいるからな。」
「ふふ、それはこの間、聞きましたよ。……カズマ、そろそろ来て下さい。」
俺達はお互いを確かめるように愛し合った。
時間が経つのを忘れ、俺達が気を失うように眠ったのは朝方の事だった。
―――――――…
≪めぐみん視点≫
目が覚めると、声が聞こえてきた。
「暇ねー、カズマもめぐみんもまだ起きてこないし。」
「まあ、二人も疲れているのだろう。何時もは早起きして朝食を用意してくれているのだし、
偶にはゆっくりさせても良いだろう。」
「でも、暇なのよ。あ!私ゆんゆんの所に行って来るわね。」
「ふむ、其れも良いか。族長殿にはもう少し詳しく話を聞きたいところだからな。」
「決まりね!じゃあ、行きましょ!」
アクアとダクネスが出掛けましたか。
私はまどろみの中でそんな事を考える。
私達もそろそろ起きた方が良さそうですね。
そう思って体を動かそうとすると、体の中に違和感を感じた。
「あ…!」
目を開けると、私はカズマの上に乗っていた。
こ、これはまさか…!?
確認をしようと慌てて布団を捲っていると
「『アンロック!』めぐみん?そろそろ起きなさい!アクアさん達は出かけたわよ!?」
母ゆいゆいが、私の部屋に入ってきた。
私が固まっていると、母が口を開く。
「夕べはお楽しみだったようね。でも体の負担にならないようにしなさい?」
母はそう言葉を残して、部屋から出て行ってしまった。
短いですが、今回は此処までです。
今月はもう一本上げる予定ですが、本編はさほど動かないと思います。