このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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本編は進まないと言ったが、アレは嘘だった。
と言う訳で多少進みました。


紅魔の里で

「カズマ、まだ落ち込んでいるのですか?」

 

 

―――…

 

 

 

今朝の事だ。

 

結局、朝方までしていた俺達は、途中で力尽きて繋がった状態のまま眠っちまったらしい。

 

「二人とも、するんならちゃんとしなさい?そのまま寝てしまうと抜けなくなる事もあるのよ。」

 

と、朝からゆいゆいさんに注意をされてしまった。

 

そんな爆弾投下を突然されてしまった俺は、そのまま固まってしまう。

そして、当のゆいゆいさんは固まっている俺を尻目に、涼しい顔で洗濯に行ってしまった。

 

 

―――…

 

 

 

その後、めぐみんから事情を聞いて今に至るわけだ。

 

「お前は何で平気そうなの!?」

 

「…平気ではありませんよ、ただ、見られたのが母だったので、まだ良かったと思ってるだけです。」

 

そりゃ、ひょいざぶろーさんに見つかるよりはマシだけど…。

 

「大丈夫かなあ?ひょいざぶろーさんに伝わってなきゃ良いけど…。」

 

どう見ても娘バカっぽいし、この事がバレたら何をされるか…。

 

考えるだけで不安になってくるが、こればかりはなるようにしかならない。

 

俺は、不安を払拭するように目的地を見据える。

 

「って、何で神社?」

 

俺は今、めぐみんの案内で里の観光をしている。

そして、これが最初の目的地らしいのだが…。

 

どう見ても神社だ、長い階段の先に鳥居があって、境内にはお社もある。

 

めぐみんに促されて社に入ると、何故か猫耳スク水少女のフィギュアという神社にはミスマッチな物が祀られていた。

 

「この里の御神体ですよ。」

 

「……これが?」

 

「昔、モンスターに襲われた旅人を、ご先祖様が助けた時に貰ったらしく、

旅人の話では、自分の命より大事な御神体だと言っていたんだそうです。」

 

何の御神体だよ!?

 

「結局何の神様かは知られていないのですが、何かのご利益があるかも?

と、こうして大切に祀られているのです。」

 

ご利益…あるのか……?

 

「じゃあ、この神社も?」

 

「はい、その旅人から教えてもらったみたいです。」

 

その旅人は間違いなく日本人だな…、ん?ご先祖様つったよな?

爺さん婆さんの代ならそう言うだろうから、それよりも昔って事だよな?

 

これって、時間の流れが違うって事か?後でアクアにでも聞いてみるか。

 

「では、そろそろ次に行きましょうか!」

 

「ん、ああ。」

 

その後は、鍛冶屋製作の聖剣が刺さってある場所だとか、

地球の御伽噺が混ざっている願いの泉だとか、如何でもいい様な場所を案内される。

 

「何で、こんなしょうもない場所ばかりが、名所になってるんだよ…。」

 

「う、つ、次に行く場所はカズマだって驚く筈ですよ!」

 

本当かよ…、俺そろそろ定食屋に行ってカレーを食いたいんだが。

 

 

 

「ここは?」

 

今度の目的地は、地下に続く階段があり物々しい大きな扉がある場所だった。

 

ん、あれはもしかして制御盤か?

 

「ここの地下施設には、世界を滅ぼしかねない兵器が眠っているらしいのです。」

 

「おい、いきなり物騒になったな。」

 

「一体何時ごろから此処にあるのかも分からないのですが、謎の施設と共に作られたとも言われていて…。」

 

「謎の施設?」

 

俺がそう聞き返すと、めぐみんは別の場所を指し示す。

 

「あれですよ。」

 

「ん?何だ?あの建物は。」

 

「謎施設です。その名の通り用途も謎ですし、何時誰が何の目的で作ったのか…

中を探索してみてもサッパリ分からないので、謎施設と呼んで何となく残してあるんです。」

 

って、あれコンクリートじゃねえか!?何でこの世界に!?

 

畳ぐらいなら、材料さえあれば作り出されることもあるだろうけど、

地下施設の制御盤といい、これは転生した日本人が関与してるかも知れないな。

 

「しかし、世界を滅ぼしかねない兵器か…。」

 

物騒ではあるが、紅魔の里にあるのなら下手な場所にあるよりかは安全か。

 

「でも、残念です。本当ならまだ案内出来る場所があったのですが…。」

 

「ん?他にもこういう施設があったのか?」

 

「いえ、施設ではないのですが、以前は邪神が封印された墓だの、

名も無き女神が封印された土地だのがあったのですが、色々あって両方とも解けてしまったのです。」

 

「お前んとこの封印ザル過ぎねぇか!?」

 

色々あってっていうか、考えてみれば紅魔族って中二病だったんだ。

それなら中二心を擽られて封印を解いた奴がいても不思議じゃねえ!?

 

「だ、大丈夫ですよ!ここの施設は、紅魔族でも読めないような古代文字で、リドルを組まれているのですから!」

 

古代文字…?あ、もしかして日本語か!?

 

俺は思わず制御盤を見る。

この距離じゃ、暗視だけでははっきりと読む事は出来ないが、”小並”という文字は確認が出来た。

 

おっと、これ以上は見ない方がいいな。

うっかり口を滑らせたら大惨事になっちまう。

 

「さてカズマ、観光はこれぐらいで良いですか?」

 

「別に良いけど、何か用事でも出来たのか?」

 

「ええ、少し…では、町の方に戻りましょう!」

 

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

「おや!めぐみんいらっしゃい。」

 

めぐみんに連れられてやって来たのは、紅魔族ローブを仕立てている服屋だった。

 

「ん?そちらの方は外から来た人かね?」

 

「はい、私の相棒で…。」

 

「我が名はちぇけら!アークウィザードにして上級魔法を操る者!紅魔族随一の服屋の店主!!」

 

やはり紅魔族っていうのは、此れをやらないと気が済まないらしい。

 

「我が名はカズマ!アクセル最強の冒険者で爆裂コンビが一人!数多のスキルを操る者!」

 

まあ、これで仲良く出来るんだ。郷に入っては郷に従えっていうしな。

 

「おお!外の人が合わせてくれるとは!」

 

「当然です!カズマは我が相棒なのですから!」

 

「それで、今日は何か入用かい?」

 

「ええ、代えローブと、カズマ用の紅魔族ローブが欲しくてですね。」

 

「え?俺用の?」

 

「そうですよ、紅魔族ローブは性能が良いのでカズマにも着てもらおうかと。」

 

成程、俺が持ってる服は、駆け出し用装備とお揃いの衣装だけだし、装備を更新するというのは悪くない。

 

「そういう事なら、めぐみんと衣装を揃えたいな!」

 

俺がそう提案すると、めぐみんはとても嬉しそうな顔をして、

 

「流石カズマ、分かってますね!ちぇけら、御願い出来ますか?」

.

「構わないよ、ああ、めぐみんはデザインを変えるかい?」

 

「うーん、迷いますね。今のデザインも気に入っているのですが…。」

 

「ふむ、ならそれをベースに二人のローブを作ってみるかい?」

 

「良いですね!では、それで御願いします!」

 

あ、どうせ作ってもらうんだったら…。

 

「紅魔族ローブの性能って、まだ上げられますか?」

 

「そうだねえ…、多少値が張るけど性能は上げられるよ?」

 

「ならそれで。後、可能であれば2着ずつ用意して貰えませんか?」

 

「構わないけど、作るのに数日は掛かってしまうし、結構な金額になるよ?」

 

金額はともかく、製作に時間が掛かるか。

 

「どうする、めぐみん?」

 

「良いんじゃないですか?テレポートもありますし、滞在中に完成出来なくても問題はないでしょう。」

 

それもそっか。

 

「じゃあ、ちぇけらさん!御願いします!」

 

「分かった!ああ、材料を仕入れないといけないから、先払いになるけど良いかい?」

 

「大丈夫ですよ。」

 

「じゃあ、採寸をするからこちらに。」

 

 

 

それから俺は、採寸をしてもらい料金を支払った。

 

「それにしても、あのめぐみんが随分とブルジョワになったものだ!冒険者として成功をしたんだね?」

 

「ええ、私達の名声が里に届いていても可笑しくは無いのですが、紅魔の里では仕方ありませんね。」

 

めぐみんはちぇけらさんと楽しげに会話しているが、俺は俺で気になる物を見つけていた。

 

「……これ、どう見てもライフル銃だよな、何で物干し竿になってんだ?」

 

先程の施設の事を考えると、これも日本人が作った物なんだろうな…。

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

「二人とも、こんな所にいたのね。」

 

「おはようございます!カズマさん、めぐみん。」

 

「姉ちゃんだー!」

 

「おや、こめっこ。アクア達と一緒だったんですね。」

 

ローブの特注が終わった俺達は、里が一望出来る小高い丘の上で休憩をしていた。

 

「おはよ、ってか何でこめっこを連れまわしてるんだよ。」

 

見れば、こめっこはアクアに手を引かれていた。

 

「別に良いじゃない!?ねえ、こめっこちゃん!」

 

「おなかすいたーー!」

 

「そういえば、そろそろお昼だな。こめっこ!兄ちゃんが美味いもん食わせてやるよ!」

 

昨日は色々あって、こめっことちゃんと話せてなかったからな。

将来は俺の義妹になるわけだし、良い所は見せておかないとな!

 

「ほんと!?やったー!!」

 

こめっこはあっさりとアクアの手から離れて、俺の所に走ってくる。

 

「ちょっと!カズマそういうのは狡くない!?」

 

アクアからの苦情を無視して里を眺めていると、コソコソと周りを気にしている集団を見つけた。

 

「ん?あれは魔王軍じゃねえか!?あの辺りってめぐみんの実家の近くだよな!?」

 

「えっ?本当ですか!」

 

「ああ、あそこだ!」

 

「あれ程こっぴどくやられておいてまた来たのですか…。」

 

「こめっこ、飯はもうちょっと待っててくれ!アクアしえ「ええーーー!?」」

 

「こめっこ!我侭を言ってはいけませんよ!」

 

「えー!やだやだ!ごはんーー!!」

 

「後で好きなだけ食わせてやるから!」

 

「ほんと?やくそくだよ!」

 

「おう!」

 

俺が快諾すると、こめっこは嬉しそうな表情を見せてくれた。

 

「よし!みんな、向かうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!何だ、この女は!?」

 

「一体何処から出てきたんだ!?」

 

侵入して来た魔王軍を相手に、ダクネスはたった一人で挑んでいた。

 

「魔王軍め!私の目の黒いうちは此処を通さぬ!どうしても通りたければ私を倒していくんだな!」

 

「なんて邪魔な女だ!攻撃はへっぽこの癖に幾ら攻撃してもびくともしないとは!?」

 

ダクネスの異常な頑強さに、魔王軍の兵士達は恐れおののく。

 

「どうしたのかしら?敵一体を相手に何を手間取っているの?」

 

兵士達の後ろから女が出てくる。

 

「シルビア様!」

 

「あの女、助けを呼びに行く訳でもなく此方の攻撃を受け続けていて、

何か狙いがあるのかも知れません!おさがりを!!」

 

「へぇ…。」

 

「お前はこいつらの親玉の様だな!雑兵の生ぬるい攻撃には飽き飽きしていた所だ!遠慮なく掛かって来い!」

 

「貴方、アタシと対峙してもまったく臆さないのね。いいわ、相手になってあげる。」

 

そう言って、女はダクネスと向き合う。

 

「魔王軍が幹部の一人、シルビア様がね。」

 

「貴様が幹部か、相手にとって不足は無い!」

 

ダクネスは構えを取り、相手を睨みつける。

 

「……。」

 

「……。」

 

「……?如何したのかしら?さっさと…。」

 

「特殊進化を遂げたオーク達はメスしかいないと聞かされ、絶望していた。」

 

「はい…?」

 

「雑魚共の攻撃は軽すぎて問題外…、だが、貴様は女とはいえ魔王軍の幹部、ならば多少は期待出来るだろう。」

 

ダクネスは目をカッと見開き、シルビアに向けて叫ぶ。

 

「言っておくが生半可な攻撃は、私に通用しない!

シルビアと言ったな!幹部の名に恥じぬよう全力を持って掛かってこい!

そして、この私を屈服させてご主人様とでも言わしめて見せろ!」

 

ダクネスの発言にシルビアも含め、魔王軍全員が絶句をする。

 

「え?ちょっと、何を言っているのか分からないんだけど?」

 

シルビアは見るからにドン引きしていた。

 

「ダクネス!」

 

「なっ!カズマ!?それに皆も!?」

 

「お待たせしました!ダクネスさん!私達も戦いますね!」

 

「流石ダクネスですね、これだけの数を相手に一人で持ちこたえるんですから。」

 

「『ヒール!』大丈夫だと思うけど一応掛けておくわね!」

 

ようやく現場までやって来れた俺達は、ダクネスとの合流を果たす。

 

「アクア、こめっこ連れてるんだから無理はするなよ!」

 

「ええ、分かってるわ!」

 

「成程…。防御一辺倒だったのは味方が来るまでの時間稼ぎだったのね。

やられたわ、中々頭の切れるクルセイダーじゃないの。」

 

「……あ、ああ、バレてしまっては仕方ない。私一人では骨が折れただろうからな。」

 

……ダクネスの表情から察するに、こいつ楽しんでいやがったな?

んで、俺達が思ったより早く来たんで、今は絶対残念がっている筈だ。

 

「ダクネス、彼女は?」

 

途中で合流していたミツルギが、ダクネスに問い掛けた。

 

「奴は魔王軍幹部のシルビアだそうだ。」

 

「成程、グロウキメラのシルビアか、どうやら目的の相手に出会えたようだね!」

 

グロウキメラ?キメラって事はつまり合成獣だよな。

となると、見た目通りの能力じゃ無さそうだ。

 

「あら?貴方アタシが目的だったの?貴方の名前は?」

 

「僕の名は御剣響夜だ!」

 

「ミツルギ…魔剣の勇者ね。貴方の事は聞いているわ、王都襲撃の際に大分暴れていたらしいわね?」

 

「僕は役目を果たしただけ!さあ!僕達と勝負だ!」

 

そんなやりとりを続けていると、騒ぎを聞きつけた紅魔族達がやって来る。

 

「何だ…昨日コテンパンにした奴じゃないか。」

 

「懲りずにまた来たのかよ。」

 

紅魔族達の登場で分が悪いとでも思ったのか、シルビアは焦るように撤退を始める。

 

「貴方達に加えて紅魔族まで来たんじゃ分が悪いわね。悔しいけれど此処は引かせてもらうわ。」

 

「なっ!?逃げるのか!」

 

ミツルギはそう叫ぶ。

 

「おい、俺達から逃げられると思うなよ!?」

 

「逃がすか!捕まえて魔法実験の実験台にしてやる!」

 

……何かものすっごい物騒な事言ってる奴がいたんだけど…、俺の聞き間違えじゃないよな?

 

即座に紅魔族達がシルビアを追い掛け始める。

 

「僕達も向かおう!」

 

「…いや、ちょっと待て。」

 

「サトウ君?」

 

「今はこめっこを連れているんだ、それに罠があるかも知れない。」

 

「それなら、僕達だけでも!」

 

それでもミツルギが行こうとするので、俺は更に話を続ける。

 

「追撃戦は紅魔族達に任せた方が良い。魔法戦が想定されるんだ近接職が行っても邪魔になるだけだぞ。」

 

それに、俺達はまだ周辺の地理も把握していない。

シルビアと戦うなら、こちらの準備が整ってからの方が安全だ。

 

「…確かにそうだね……。」

 

「そう気を落とさなくても良いですよ、ミツルギ。彼女は里の襲撃を諦めた訳ではないでしょうから。」

 

「兄ちゃん!姉ちゃん!ごはんまだー!?」

 

無邪気なこめっこの発言で、一気に緊張が緩んでいく。

 

「じゃ、とりあえず飯に行こうぜ?俺もカレーが食いたいしな。」

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

「はぐはむはぐはむ…!!」

 

「こ、こめっこちゃん!?もうちょっとゆっくり食べないと、体に悪いわよ!」

 

「言っても無駄ですよ、アクア。うちでは食事の時は争奪戦になりますから、これが普通になっているのです。」

 

「いや…、これからは直す様に言ってやれよ…。」

 

昨日は言えなかったので、横から突っ込んでみたがめぐみんは無理ですと首を横に振った。

 

「カレーお待ち!」

 

「はあ、アクア悪いけど、こめっこを見ててやってくれ。」

 

「うぇ!?私もゆっくりご飯が食べたいんですけどー!?」

 

とりあえず、こめっこの事はアクアに任せておこう。

 

久々に食べるカレーに舌鼓を打ちながら、店主さんにレシピを聞いてみる。

すると、店主さんは交換条件として何かレシピを教えてくれるならと言ってくれた。

 

版権問題があるので、店の奥で互いにレシピの使用許可証を作成し、其れを交換する事で成立された。

 

話が纏まって、俺達が店内に戻るとこめっこが幸せそうな顔で転がっていた。

 

……。

 

こめっこの席を見ると、どんぶりや皿が何枚も重なっていた。

 

「しあわせ~。」

 

こめっこは大きくなったお腹を摩りながらそんな事を口にしていた。

 

「食いすぎだろ…。」

 

そう呟いていると、此方に気がついたアクアが寄って来た。

 

「私は一応止めたんだけどね…。それよりもカズマ、アンタの子よ!認知してあげなさい?」

 

「おい!」

 

アホな事を口走るアクアに、俺は突っ込まざるを得なかった。

 

 




現在、空気になっている人が多いですが、次回あたりから登場すると思います。
それにしても、やっぱりミツルギって使いやすい(話を進める時は)

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