このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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この忌まわしい遺物に爆焔を!後編

 

 

「ちょっ!まっ!何だぞれっ!?ま、待て…アーーーッ!」

 

突然、中からダストの絶叫が木霊した。

 

「なっ、何だ!?」

 

「ちょっと!今のって、ダストの声じゃない!?」

 

「ま、まさか、やられちまったのか!?」

 

ダストがやられてしまったかもと、リーン達に動揺が走った。

 

「す、済まない!僕がシルビアをしっかりと抑えておけば…!」

 

そう言って、ミツルギは悔しそうな表情で言葉を零していた。

 

「と、兎に角!皆…!?」

 

皆に声を掛けようとすると、突然、遺跡が震え始める。

 

ま、まさか!?

 

「ま、不味いぞ!遺跡が崩れるかも!?一旦退避しろ!!」

 

俺がそう叫んだ瞬間、壁や地面がひび割れていく!

 

「崩れるぞ!急げ!!」

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶ、無事か?」

 

俺の問い掛けに、皆はなんとかと答えている。

どうやら、あの場に居たメンバーは全員無事らしい。

 

……奥に入ってしまったダストを除いて。

 

「…アクア、蘇生は…?」

 

「……死体が見つかればね。」

 

地下の状況次第か…

 

そんな事を考えていたら、上空から声が響いた。

 

「アハハハハハ!ようやく手に入れることが出来たわ!貴方達、どうせ使えないとでも思っていたんでしょ!?」

 

声がした方を見ると、シルビアが異形の姿に変わり果てていた。

 

「な、何だよアレ!?」

 

その姿を見て驚愕していると、シルビアが更に言葉を紡ぐ。

 

「おあいにく様、残念だったわね!貴方達!私がグロウキメラだって事を失念していたんじゃない?」

 

グロウキメラ。

 

確かに、あの遺跡に侵入した時点で、体の一部としての利用するつもりではと考えていた。

だけど、その場で取り込めるなんて事は想像もしていなかった。

 

「ちっ!あれが人類を滅ぼしかねない兵器か!?」

 

今のシルビアはラミアの様な姿になっていた。

おそらく、あの下半身部分が件の兵器とやらだろう。

 

「あ、アレは!?魔術師殺し!?」

 

其れを目にしたぶっころりー達が口々に叫ぶ。

 

「魔術師殺し!魔術師殺しが乗っ取られたぞ!?」

 

魔術師殺し…。

 

その名前からして、如何考えても俺達が圧倒的に不利なのでは!?

 

シルビアを見ると、何かを吸い込むような動きをしていた。

 

「…グロウキメラ…はっ!?」

 

あれは予備動作…なら来る攻撃は!?

 

「ブレスが来る!皆退避しろー!!」

 

俺は、呆然としていた仲間に向かってそう叫んだ。

 

『!?』

 

皆はその言葉に驚きながらも、慌てて瓦礫の影に身を潜めた。

 

そして次の瞬間、つい先程まで俺達が居た場所が火の海に包まれた。

 

「うわ!こりゃ、駄目だ!魔神の丘まで一旦引こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶっころりー達のテレポートで、何とかあの場の危機を脱した俺達は、燃え盛る紅魔の里を見ていた。

 

周りを見回すと、避難して来たのか多くの紅魔族がその場に集まっていた。

 

「めぐみん、魔術師殺しっていうのは何なんだ?あれが世界を滅ぼしかねない兵器なのか?」

 

「いえ、あれではない筈です。…ですが。」

 

言い淀むめぐみんから引き継ぐように、ゆんゆんが口を開く。

 

「魔術師殺しは魔法が効かないといった対魔法使い用の兵器で、私達紅魔族にとっては天敵なんです。」

 

「マジか…。」

 

魔法を無効化って…、どのレベルまでだ?今も昔も爆裂魔法の使い手なんて多くは無いだろし…。

 

「とにかく、めぐみんは切り札に…。」

 

そう言い掛けた所で、紅魔族の会話が聞こえてきた。

 

「ああ…里が燃えていく……。」

 

眼帯をつけた少女がそう呟く。

 

「…もはや、この里は捨てるしかないな…。幸いにも死傷者はいない。生きてさえいれば、またやり直せるだろう…。」

 

ゆんゆんの親父さん…族長がそう宣言していた。

 

「くっ!僕の所為で!!僕がダストに教えていなければ…!?」

 

「ミツルギ…、情報を共有しなかった俺だって同罪だよ…。…クソッ!」

 

何か手はないのか!?

 

「めぐみん、アレに弱点とかはないのか?例えば、魔法を無効化する代わりに物理に弱くなるだとか。」

 

それなら、ミツルギを始めとする此処に居るメンバーで十分にごり押せると思うんだが…

 

「それは…試した事が無いのでわかりません。

ただ…、その昔突如暴走して里に脅威をもたらしたそうなのですが、

私達のご先祖様が、地下格納庫に封じられているある兵器を使って何とか破壊したそうなのです。」

 

「対抗出来る物があるのか!?……ってか、今お前破壊したって言ったよな?」

 

「ええ。ですが、ご先祖様がせっかくだからとアレを修理して再封印をしたそうなので…。」

 

せっかくだからって何だよ!?

 

「んな物騒なもん、さっさと廃棄にしろよ!?」

 

今更言ってもどうしようも無い事だが、突っ込まずには居られなかった。

 

「……いや待てよ!それが本当なら、あれに対抗出来る兵器もまだ地下格納庫にあるんじゃないのか?」

 

「確かに!その可能性は高いかも知れないね!?」

 

俺の言葉にミツルギも賛同してくれたが、めぐみんは困ったような表情を浮かべていた。

 

「残っている可能性はあるかも知れませんが、その兵器の使用方法は誰も分からないのです。

それの使用方法を記した手記が、残されていたようですが誰も読めないらしく。……あ!」

 

めぐみんは何かに気づいたように目を見開いた。

 

「そうです!カズマとミツルギならそれを解読出来るかも知れないです!」

 

「カズマ、ミツルギ、此処は任せてくれないか?お前達はその手記が読めるのだろう?

私達がシルビアを抑えている間に、その兵器とやらを探し出して来てくれないか?」

 

めぐみんの説明を聞いていたダクネスが、俺とミツルギにそう提案してきた。

 

「お前達が探している間は俺達が時間を稼ごう。ダクネス程ではないが俺も防御スキルには自信があるからな。」

 

「あたしがアークウィザードになってから、火力より防御に重きを置いたんだよねー!」

 

「まあ、お前らの影響だろうな。俺の弓とリーンの魔法があるからと、テイラーの奴は貯まっていたスキルポイントを全部防御スキルに振ったんだよ。」

 

その言葉に、俺達は顔を見合わせる。

 

「…分かった。お前ら無茶はするなよ?アクア!皆に支援を!めぐみんは指揮を執れ!」

 

「分かったわ!」「分かりました!」

 

「行くぞ!」

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

魔神の丘を駆け下り、俺達は先程の地下格納庫を目指す。

その道中を、皆がサポートしてくれている。

 

「ちぃっ!こっちに気が付きやがった!」

 

「進路を塞がれている!サトウ君!同時攻撃!」

 

「「穿て!『疾風閃!!』」」

 

居合いの要領で、俺とミツルギがシルビアに向けてソードマスターの飛び道具スキルを発動させる。

 

「チィ!やるじゃない!?」

 

クソッ!直撃したのに大したダメージが入っているようには見えねえ!

 

「ダクネス!テイラー!カズマ達の援護を!キースとフィオは牽制して下さい!

ゆんゆん、リーン!万が一の備えを!アクアは皆の支援を切らさないように!!」

 

クレメアとぶっころりーに護られながら、めぐみんは皆に指示を飛ばしていく。

 

「!奴の気が逸れた…今のうちに!」

 

「皆、無理はしないでくれよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

俺達は戦線を離れ、地下格納庫に戻ってきていた。

 

「よし、まだ中には入れるな!って、凄い事になってるな。」

 

「…流石に暗いね…。」

 

「そういや、お前は暗視が無かったな。『ティンダー!!』…此れで見えるか?」

 

俺はコブシ大程度の炎を掌の上に発生させて、周囲を照らした。

 

「ありがとう。…偶にキミが羨ましくなるよ…。」

 

「これが俺の特典だからな。お前のグラムだって大概だろ?」

 

「…そう、だね…。じゃあ探そうか!」

 

荒れ果てた倉庫を探し回るしかないのかと思っていたら、目的の物も程なくして見つける事が出来た。何故か携帯ゲーム機やらがあったりもしたが…

 

「其れが手記かい?」

 

そう言って、ミツルギが後ろから覗き込んでくる。

 

「ああ、読んで見よう。」

 

『〇月×日。ヤッバイ!この施設の事がバレた!

――でも幸いな事に、俺の作った物が何なのかまでは分からなかったらしい。

国の研究資金でゲームや玩具を作ったなんて事が知られたら、どんな目に遭わされるやら…。

 

――〇月×日。俺の楽園に踏み込んできたお偉いさんがゲームの用途を聞いてきた。

玩具ですよ…なんて当然言える筈もない。

だから、これらは世界を滅ぼしかねない兵器ですよとぶっこいといた。

 

同僚の女研究者が「こ、これが…」とか恐れ戦いていた。

スイッチを勝手に入れてピコ―ンって鳴った起動音にビクッとしていた。

普段気が強い癖して、たかがゲーム相手に何をビビってんスか?』

 

「…なあ、これって…。」

 

「ま、まさかね…。」

 

『――〇月×日。俺の研究所に多くの予算をつけてやると言われた。

その代わり魔王に対抗出来る兵器を作れとの事。

いやもう、俺のチート能力で十分国に貢献したじゃん。

「争いは何も生み出せない」とか真面目ぶって言ってみたら、引っ叩かれた

仕方ないので何かを作ろうと思ったが、何を作ろう…?』

 

『――〇月×日。巨大人型ロボを作ろう、変身合体できる奴。

そう言ったら舐めんなって怒られたので、面倒になった俺は

魔法に強くてデカいの作ればいいんじゃないんスかね?

って、鼻をほじくりながら言ってみたら、その案はあっさり通った。

 

何をモデルにしようかと迷っていたら、野良犬が迷い込んで来たのでもうコイツでいいやと思った。

犬型兵器「魔術師殺し」と名付けてやろう。』

 

『――〇月×日。設計図を提出したら、蛇と言われた。手足がないのが高評価だったらしい。

いやそれ犬なんスけど…。改めて設計図を確認したら、蛇だわこれ…。』

 

『――〇月×日。実験開始。

うん、ちゃんと動いた。でもバッテリーが全然もたねえ…駄目だ此れ。

魔族相手にけしかけてみたら、ビビッて居たので此れは人類の手にはあまるとか言って此処にしまっておこう。

バッテリーが無いから動かないけど、そのうちキメラの材料にでもして生態兵器に出来ないかな?

それが出来ればバッテリー要らずで格好良さげなんだが…。』

 

「ああ、これ書いた奴分かったわ。」

 

『――〇月×日。対魔王軍用の新兵器が出来た。と言っても改造人間なんですけどね。

改造手術を受けたい奴を募集してみたら、抽選になる程の人気になった。

皆どれだけ改造人間に憧れを抱いているんだ。術後は記憶がなくなるんだけど本当に良いのか?

 

魔法使い適正を最大レベルまで上げるだけの簡単な手術と言っておいたのに、連中は我侭を言い出した。

赤目にして欲しいだの、一人一人に生体番号が欲しいだのと、この国の連中こんなのばっかなのか!?』

 

「ん?」

 

『――〇月×日。全員分の手術がようやく終わった。

「マスター我々に新たな名をとか言って来た。マスターって誰だよ。

面倒くさいから、適当な渾名をつけて呼んでやった。

何故か喜んでいたが、こいつらの感性はどうなってんだろ?

 

だけど、こいつらは凄い強い。

お偉いさんたちからもすっごい褒められたし、せっかくだから種族名でもつけてやろう。

赤い目だから、それに合わせて『紅魔族』』

 

「ええ!?」

 

「やっぱりか…、めぐみんとしてる時に見たんだよな、バーコードみたいな奴。」

 

「…サトウ君?生々しい話はやめてくれるかな?」

 

「ん…まあ、それは置いといて、紅魔族ってコイツの手腕かよ…。俺の嫁が…。」

 

いや、めぐみん達が悪いわけじゃないけど、よりにもよってコイツに生み出されていたとは…。

 

俺は頭が痛くなってきて、目頭を押さえていた。

 

「サトウ君、まだ続きがあるよ。」

 

『――〇月×日。紅魔族達が天敵の魔術師殺しに対抗出来る物を作って欲しいと懇願して来た。

いや、あれ動きませんよ?バッテリーもないし、そもそもお前達の天敵として作ったわけじゃないし。

 

幾ら説明しても、誰として聞く耳を持たなかったから、仕方ないので適当に有り合せの材料で作ってみた。

…適当に作るつもりが、懲りすぎて凄い物になってしまった。

電磁加速要素なんてないけど、便宜上「レールガン」と呼んでおこう。

 

レールガン凄え!?マジで凄え!!これこそ世界を滅ぼしかねない兵器なんじゃないか!?

魔力を圧縮して撃ち出すだけのお手軽兵器だったのに、連中に試しに撃たせて見たらその威力に圧倒された。

 

とはいえ、こんな威力を誇るのは今だけだろう、あり合わせで作った物だし数発撃ったらぶっ壊れそう。

悪用されても怖いし、長さも丁度良いから物干し竿にでもしておこう。

 

しかし参ったな。紅魔族計画が上手く行った事で、気を良くしたお偉いさん達が

今度は莫大な予算を掛けて巨大兵器を作るとか言っている。

バカじゃないのか?そんな物簡単に作れるわけがねーだろ。

 

―――――まあ、俺には関係無い事ですけどね。』

 

「……。」

 

「……。」

 

「さて…、レールガンは何処だ?」

 

「物干し竿代わりになる様な大きさなら、直ぐに見つかると思うんだけど…周辺には無いね。」

 

「もっと奥か?……あ!」

 

「ん?どうかしたのかい?」

 

確か、あの店で…!

 

「行くぞ!ミツルギ!!」

 

「え?え?ちょっと待ってよ!サトウ君!」

 

急に走り去った俺を見て、慌てて追い掛けるミツルギ。

 

そして俺達は忘れていた、この格納庫にいた奴の事を。

 

 

 

―――――…

 

 

 

 

 

一方その頃めぐみん達は

 

 

≪めぐみん視点≫

 

 

私達は戦線を離れ、遠巻きに戦場を眺めていた。

 

「何なの!?このクルセイダーは!?幾ら攻撃しても倒れないとかどんだけバケモノなのよ!?」

 

「どうした、シルビア!?貴様の攻撃はこんな物なのか!?さあ!私をもっと昂ぶらせて見せろ!!」

 

シルビアはダクネスに対して、苛烈な攻撃を仕掛けていた。

だけど、ダクネスはそれらの攻撃を全て耐え切り、あるいは受け切っていた。

シルビアも、流石に相手にしていられないと何度もダクネスを振り切ろうとしたが、

ダクネスは執拗に食らい付いていた。最早嫌がらせレベルで。

 

「流石に無理だった…。」

 

不甲斐無さそうな顔で、肩を落とすテイラー。

 

始めは、テイラーもダクネスと共に戦っていた。

テイラーの持つベルディアの大剣は、シルビアに対して十二分に効果を発揮していた。

 

しかし、ダクネスの挑発で次第に苛烈になっていくシルビアの攻撃を耐え切れず戦線離脱となった。テイラーのレベルはダクネスよりも高いというのに…

 

まあ、ダクネス一人で抑えられているので問題はありませんが…。

 

「そけっとさん…、いや、あれはきっとお茶目なだけだ。そうだ!そうに違いない!」

 

キースはキースで、そけっととぶっころりーの茶番を見て何故かショックを受けていた。

とりあえず、良い方に解釈をしようしているので、私はキースに語りかけた。

 

「そけっとは何時もあんな感じですよ?あ、今日のは何時ものよりマシだったかも知れません。」

 

「えっ…。」

 

私が真実を話すと、キースは何やら固まっていた。

 

「カズマさん達はまだなのかな…?もしかして、見つからないのかな…。」

 

不安そうに呟くゆんゆん。それを見ていたアクアがそっと抱き寄せた。

 

カズマとミツルギが組んでいるから、何かがあったとは思わない。

きっと、探すのに手間取っているか、道中で多少の妨害があって遅れているんだろう。

 

そんな事を考えていたら、カズマの気配が近づいてきた。

 

「あ、戻って来ました。」

 

「え?何で分かるの?めぐみん…。」

 

ゆんゆんの突っ込みを無視して、カズマの気配がする方に顔を向けると、二人が何か大きな物を抱えて走って来る。

 

「本当に戻って来たよ…。」

 

ゆんゆんがまだ何かを呟いているようだけど、私は其れをスルーした。

 

「カズマ!お帰りなさいです!それが例の物ですか?」

 

「ああ、魔力を圧縮して撃ちだす兵器だそうだ。…所で、何で此処にこめっこが居るんだ?」

 

「どうやらこめっこは警報に気づかなかったらしく、さっきまで家で眠っていたそうです。」

 

「それで逃げ遅れて合流したのか。」

 

「ええ、そうです。で、それは如何すれば良いのですか?」

 

「……。」

 

「……?」

 

「…分からん。」

 

「…えっ?」

 

「あ、いや!多分魔力を込めりゃいいんだと思うんだけど…。」

 

カズマは困ったような顔で此方を見る。

 

「それなら私に任せなさい!『セイクリッド・エクソシズム!!』」

 

アクアの放った退魔魔法が兵器に吸い込まれていった。

 

「あ、アクアあたしにもやらせて!『ファイア・ボール!』」

 

攻撃魔法を放ったリーンに、皆は一瞬ぎょっとしたが問題なく吸い込まれていった。

 

「『セイクリッド・エクソシズム!!』『セイクリッド・エクソシズム!!』…ふう、良いわよ。」

 

「お、おう…。あ、ミツルギ、ダクネスが巻き込まれないように一旦離脱させてやってくれ。」

 

「分かった。」

 

そう言って、ミツルギはダクネスの援護に向かう。

 

「狙いやすい場所に移動だな…。」

 

 

――――…

 

 

 

 

シルビアを狙い撃つ為に、私達は小高い丘に移動していた。

 

「よし、ダクネス達が離れたな。」

 

カズマはうつぶせの姿勢で地面に寝そべり、兵器をシルビアに向けていた。

 

「……シルビア、此れで終わりだ!『狙撃っ!』」

 

カチリ

 

「………あれ?」

 

カズマが間の抜けた声をあげる。

 

「ちょっと!カズマ!如何なっているのよ!?」

 

「あ、あれー?魔力不足か?それとも紅魔族の魔力じゃないと反応しないと…?」

 

「あら、貴方達。随分と物騒な物を持っているじゃない!」

 

「げっ!?」

 

ダクネスが離れた事を幸いに、シルビアが此方を直接狙ってきた。

 

カズマはその場で飛び起きて、兵器を持ち出す。

 

「アクア!手伝え!!テイラーはこめっこを!」

 

その場から全力で逃げ出す私達。そして、シルビアは私達を全力で追って来た。

 

「待ちなさい!其れを置いていきなさい!何だか凄い嫌な予感がするのよ!?」

 

「待てって言われて待つバカがいるかよ!?キース!フィオ!逃げながら牽制してくれ!」

 

「無茶言い過ぎだろ!?カズマ!『狙撃っ!!』」

 

「本当に人使いの荒い!!当たって!!」

 

「もううんざりなの!逃げてばかりの紅魔族も、バカみたいに頑丈なクルセイダーの相手も!!」

 

「特に紅魔族!何が最強の魔法使い集団よ!?ただ、臆病なだけじゃないの!?」

 

シルビアによる紅魔族のバッシングが始まった。

 

だけど、シルビアには言われたくはない。自分だって散々逃げ回っていたのだから。

 

「姉ちゃんは、臆病なんかじゃない!」

 

「あ、こめっこ!待て!」

 

テイラーに背負われていたこめっこは、そう言ってテイラーの背中から飛び降りた。

 

慌てて、テイラーがこめっこを庇う。そして私達も足を止めていた。

 

「あら?今だって逃げていたじゃない。臆病者な証拠よ。」

 

「違う!姉ちゃんは凄いんだよ!凄い魔法で邪神だってやっつけちゃうんだよ!」

 

「こめっこ…。」

 

まだ幼い妹に此処まで言われてしまえば、引き下がるわけには行きませんね。

 

「カズマ、やりますよ。」

 

「…俺、魔力ギリギリなんだぜ?はあ…。」

 

そう言ってカズマはちゅんちゅん丸を、私はぴょん吉、しげしげを抜いた。

 

「あら?紅魔族が剣なんて抜いてどうするつもりかしら?」

 

「これから、私達の必殺技で貴方を消滅させます。」

 

「へえ?面白いじゃない!?やってみなさいよ!!」

 

私達は刀を構え、魔力を練り込み始める。

 

「「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。」」

 

私達の周りの空気が振動をはじめる。

 

「「 覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」」

 

地面が揺れだし、流石のシルビアも顔色が変わっていく。

 

「「 踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。」」

 

魔力の奔流が、刀そして小太刀に纏わり――

 

「「万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが俺(私)達最大の威力の攻撃手段」」

 

「「これこそが究極の攻撃魔法!」」

 

私達の武器に破滅の光が宿る。

 

「そ、その魔法は、まさか!?」

 

今更気づいても遅いです!

 

「「『エクスプロージョン!!』」」

 

「……。」

 

「……。」

 

「な、何…?」

 

結果だけいうと、私達の魔法は発動しなかった。

それなのに、私達は体中の魔力と体力がごっそりと奪われて、カズマは膝を付き、私は倒れてしまった。

 

「何なの!?結局ハッタリだったって事!?」

 

な?何で発動しなかったんですか?

 

「あ…、あれだ…。ポンコツ兵器め…。」

 

カズマの目線を追うと、兵器がありそしてそれに魔力が吸い込まれていった。

 

「もう、いい加減に終わりにしてあげるわ!」

 

シルビアが叫びながら、此方に向かってくる。

 

「『疾風閃!!』」

 

「なっ!?もう追いついて来たっていうの!?」

 

「兵器は失敗か…!だが、私達は諦めない!貴様を倒すために食らい続ける!!」

 

ダクネスが再びシルビアに張り付いた。

 

「ええい!鬱陶しい!せっかく離れたと思ったのに!?」

 

ダクネス達が時間を稼いでくれている間に、アクアから魔力と体力を分けて貰いなんとか動けるようになった。

 

「クソ!離れた魔法まで吸収するなんて、予想外だったぜ!」

 

悪態をついていたカズマを尻目に、こめっこが兵器にとてとてと近づいていった。

 

「あれ?何か光っているよ?」

 

「「!?」」

 

もしかして…。

 

「魔力不足だったのか!アクア、もう少し魔力をくれ!」

 

「後で高級シュワシュワと高級果実酒を奢ってよね!」

 

「それぐらい幾らでも奢ってやるから、早くしろ!」

 

その言葉を聞いて、アクアはにかっと笑う。そして、カズマの前に立って背を向けた。

 

「『ドレインタッチ!』…狙撃分だけで良い…。」

 

手早く魔力を回復させたカズマは、再び兵器に手を掛けた。

 

「ダクネスとミツルギがいるから…狙いは少し上……今だ!『そげ「えい!」」

 

横から手を出したこめっこが、兵器を発動させる。

 

兵器から眩い光が飛び出し、シルビアの体を貫通させた。

 

「あ、あれ?…何これ…。え?わた、し…こ、れで、おわ…り?」

 

光に巻き込まれたシルビアの体は、上半身と下半身に別れ…そして絶命した。

 

皆が呆然としていると、我が妹は決め顔で立ち上がる。

 

「我が名はこめっこ!紅魔族随一の魔性の妹!魔王の幹部より強き者!!」

 

こめっこは最高のポーズを決めていた。

 

「「美味しいところを持ってかれた!?」」

 

合体爆裂魔法の不発に続き、其れを再利用したカズマの狙撃を阻止されてしまい。私達は思わず叫んでいた。

 

 

 




思った以上にシルビア戦は早く終わってしまいました。
なので前編後編とタイトルを直します。

紅魔の里編はもう少し続きます。エピローグと閑話が少々入る予定です。

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