このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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戦いの後、紅魔の里編。

「うわあああん!!」

 

夜が明け、空が白み始める頃、アクアの泣き声が響いた。

 

「カズマさあん!!ダストが…、ダストが~!」

 

アクアはダストを見つけたらしく、泣きながら俺達の元まで走って来た。

 

それを、ゆんゆんに抱き止められて、アクアはゆんゆんの胸に顔を埋めていた。

 

「ミツルギ、テイラー…。」

 

俺の呼び掛けに、二人は頷く。キースとリーンは悲しげな表情で俯いていた。

 

アクアの反応から察するに、蘇生も出来ない程に無残な状態なんだろう。

 

誰もが口を閉ざし、俺達は重い足取りで奥に向かった。

 

 

 

……そして、ダストは発見された。

 

見るも無残な姿で……

 

 

 

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

俺達は完全に言葉を失っていた。

 

それはそうだ、悪友とはいえ友人の…そして仲間のこの様な姿を見てしまえば……。

 

だけど、何時までもこうしているわけには行かない、そう思った俺は口を開いた。

 

「……なあ、誰が運ぶ?正直俺は触りたくないんだけど…。」

 

「僕も遠慮したいな…。」

 

「うっ…。」

 

俺とミツルギの拒否の言葉に、あからさまに顔を引きつかせるテイラー。

パーティーリーダーとして、流石に拒否をするわけにはいかないだろう。

 

「うぅ…。」

 

「「「あ…。」」」

 

よく見れば、ダストは涙を流しながら嗚咽していた、どうやらまだ生きていた様だ。

 

ダストの状態を説明すると、素っ裸な状態で尻を天に向け、白濁とした物が体中にくっ付いていた。

股間部分も丸出し状態で、床にも白濁とした物がある事から、そちらはダストの物だろうと判断した。

 

「…シルビアって、グロウキメラだったよな?」

 

「うん…。」

 

「ああ、つまりそういう事か…。情けない…。」

 

ダストがシルビアに従った理由を、何となく察した俺達は、深い溜息を吐いていた。

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

 

シルビアとの戦いから三日が過ぎた。

 

「何これ、どうなってんの?」

 

「言っている意味が分かりませんが…?」

 

あれだけの被害を受けた紅魔の里が、僅か三日で殆ど復旧していた。

 

「あ、いや…なんでもない…。」

 

復旧作業には、召還された悪魔やゴーレムが使役されていた。

 

なんかもう突っ込む気力も起きないや…、紅魔族だしで納得しておこう。

 

ゴーレムは兎も角、悪魔を使役していても問題ないのか?とは思うが、

それを指摘した所でどうなるわけでもないし、国だって紅魔の里に干渉したくはないだろう。

 

何しろ、1000を超える魔王軍を蹂躙しちまう連中だ、敵対されたら国が落ちちまう…。

 

「だけど、こんな簡単に復興出来るんなら、なんであの子は「ああ、里が燃えていく…」なんて言っていたんだ?

いやまあ、家具とか他に大事な物があったのかも知れないけど、それなら別の言い方をすると思うんだけどな。」

 

「ふむ、それはどんな子でしたか?」

 

「えっと、めぐみんが持っている眼帯と似たような物を着けていて…

……ああ、そうそう、丁度この子みたいな…?」

 

あれ?というかこの子じゃ?

 

「やあ、めぐみん探していたよ。」

 

「おや?あるえじゃないですか、お久しぶりですね。」

 

めぐみんの知り合いらしい少女は、かなりの巨乳で中々の美少女だった。

 

「あ、カズマもしかして?」

 

「ああ、この子だな。」

 

「ん?そちらは、どなたかな?」

 

「フッフッフッ、我が相棒のカズマですよ!」

 

そう言いながら、こちらをチラチラと見てくるめぐみん。

 

やれってか…はあ、しょうがねえな。

 

「我が名はカズマ!最強の冒険者にして爆裂コンビが一人!数多のスキルを操る者!料理の道も極める予定の者!」

 

「お、おお…。最後のは少し締まらない気がするけど外の人がやってくれるとはね。」

 

締まらない言うなっての…。

 

「それであるえ、私に何か御用ですか?」

 

「ああ、新作の小説を書いていてね、区切りのいい所までいったから、一度めぐみんに見てもらって意見を聞こうと思っていてね。」

 

紅魔族が小説か…、いや、悪くは無いか。

 

「成程、そういう事でしたら一度何処かへ入りましょうか。」

 

めぐみんの提案に俺達は頷いた。

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

 

「一つ気になっていたのだが、めぐみんの腰にある物はなんだい?」

 

「これは、私の武器でカズマの国に伝わる小太刀と言う物です。」

 

そう言ってめぐみんは小太刀を腰から抜いてあるえに見せた。

 

「ほう…、これは中々…刀身が妖しく光っていて…、このコダチという武器は何処で売っているんだい!?」

 

「おや?あるえも興味を持ちましたか。」

 

「ああ、切れ味も鋭そうなのに、かなり強力な魔力も感じる…。資料として是非手に入れたい…!」

 

「んじゃ、今度作ってやろうか?流石にめぐみんと同じ仕様には出来ねえけど…、ただの小太刀なら無料でいいぞ?」

 

俺の提案に、え?といった表情で固まるあるえ。そして、そのまま口を開いた。

 

「…めぐみんのと同じ仕様にすると、何か問題でもあるのかい?というかキミが作ったのかい!?」

 

「そうだけど…?ちなみに同じ仕様に出来ないっていうのは無料提供が無理だって意味だからな?」

 

「む…、それもそうだね…。マナタイトの杖と同等かそれ以上の効果がありそうだし、100万エリス以上ともなると流石に…。」

 

いや、材料費は一本200万だけどな。

流石に、めぐみんの友達ってだけで、其処まで大盤振る舞いには出来ない。

 

「おまたせー!って、何この格好いい剣!?」

 

料理を運んできた酒場の看板娘――ねりまきが目を瞠っていた。

 

「私の愛刀ですよ。」

 

そう言ってめぐみんは席を立って少し広めの場所で二刀の構えを取る。

その姿は俺から見ても中々と決まっていて…周りに居た紅魔族も感嘆の声を上げて遠巻きに眺めていた。

 

「ふあああ、いいなあ!私もそれ欲しい!…けど、お小遣いが…。」

 

残念そうに言う彼女にめぐみんが語り掛ける。

 

「マナタイト無しで良いのなら、カズマに言えば作って貰えますよ。」

 

めぐみんはそう言いながらも、良いですか?と俺に確認を取ってくる。

 

「別に構わないぞ?スキル鍛錬で打ってるから、どうせ余る奴だしな。」

 

「そういう事なら是非!」

 

「あいよ、んじゃ今度あるえの分と一緒に持って来るよ。」

 

俺がそう宣言すると、二人はとても喜んでいた。

 

遠めで眺めていた連中が、俺もとか言っていたがそれをスルーして、飯を食い始める。

すると、周りからブーイングが飛んできたので、今度販売するからと言ったら何とか収まってくれた。

流石に大人達まで無料で貰えるとは思ってなかったらしく、それで納得してくれたらしい。

 

昼食後、本題となっていた小説をめぐみんと一緒に読み、意見を交わすことになった。

酒場が一段落したので、ねりまきも同席している。

 

「面白くはあるのですが、少しテンポが悪いですね…。」

 

「ああ、此れだと少しくどいな。」

 

「え!?」

 

あるえの書いた小説は十分面白かった。若干気になる点はあったが許容範囲内だと思う。

ただ、紅魔族特有というかなんというか…壮大なストーリー展開なのはいいが、

乱発される中二展開に加えて、カッコ良さ重視にしすぎており、本筋のストーリーが伝わり難くなっている。

それさえなければ、十分ラノベ小説として楽しめる内容だったのだが…。

 

俺達の評価を聞いて愕然としていたあるえは、暫く固まった後泣きそうな顔で口を開く。

 

「一体何が不満なんだい!?」

 

あるえの言葉に、俺はめぐみんと顔を合わせる。

 

「カズマ、説明出来ますか?」

 

「あいよ。」

 

違和感には気づいているけど、上手く説明が出来ないからか、めぐみんは俺に全部任せるつもりらしい。

 

俺はあるえにさっき気が付いた点を全て説明してやった。

 

「し、しかしそれでは…!?」

 

「いや、あるえは小説家になりたいんだろ?紅魔族相手だけではなく国を超えて浸透させるぐらいの有名な小説家に。」

 

「あ、ああ…そうだよ。」

 

「なら、やはり削るべきだ。一般人が紅魔族の名乗りに微妙な顔をするのは何故かわかるか?」

 

「え?…それは、考え方の違いかもしくは…ノリの違いかい?」

 

「ああ、あとは単純に羞恥心もあるけど…。」

 

名乗り上げの事を引き合いに出したので、横で頬を膨らませるめぐみん。

そんなめぐみんの頭を撫でて嗜めつつ、俺は更に言葉を続けた。

 

「つまり、一般人には受け入れづらいって事だ。面白いし、格好いいキャラも揃っているのにこれじゃ勿体無い。」

 

「う…。」

 

「冒険譚っていうのは、冒険者でなくても憧れるものなんだよ。

命の危険が無くても、ハラハラドキドキ出来る…それが冒険譚なんだ。」

 

「…そこを直せば、一般の人にも買って貰えるのかな…?」

 

「ああ、十分需要はあると思うぜ?なんなら知り合いに頼んでお前の本を出版してやろうか?」

 

「なっ!?それは本当かい!?」

 

俺の言葉に、あるえは身を乗り出して確認してくる。

 

…顔が近い…いい匂いだし、巨乳美少女というのも中々…。

 

「うぉ!」

 

呆けていたら、いきなりめぐみんに頭を掴まれ、そのまま抱きしめられた。

 

「それであるえ?どうするんですか?カズマに頼めば出版は可能だと思いますが。」

 

「あ、ああ。出来れば頼みたいところだけど…。」

 

あるえはそのまま言い淀む。

 

「では決まりですね。カズマ、バニルへの説明を御願いしますね。」

 

「それは良いんだけどさ…。」

 

めぐみんの胸に、頬を当てている状態で返事を返す俺。

そして、それを目を丸くして見つめてくる美少女達…。

 

すごく居た堪れないんですけど!?

 

流石に知り合ったばかりの美少女の前でこういう事をされると流石に恥かしい。

離れようと思って体を起すと、今度は胸元に顔を突っ込まされた。

 

「あの?めぐみん?その人はめぐみんの相棒じゃなかったの?」

 

其の様子に暫く固まっていたねりまきが、めぐみんに恐る恐る問い掛けた。

 

「そうですよ?」

 

俺の頭を抱きしめるように、あっけらかんと答えるめぐみん。

 

「その、ふたりは相棒というより、…こ、恋人のように見えるんだけど…?」

 

「そう見えますか?」

 

めぐみんがそう言うと、二人はこくこくと頷く。

 

「なら、正常ですよ。私とカズマは相棒なのですから!」

 

「「え?…ええっ!?」」

 

「ま、まさか、二人は恋仲なのかい!?孤高を気取っていたキミが!?」

 

「色気より食い気のめぐみんが!?」

 

中々辛辣な反応ではあるが、ゆんゆんの話を聞く限り妥当な反応だろう。

 

「そ、それなら是非取材をさせてくれないか!?恋愛小説を書く時に役に立ちそうだ!」

 

いや、それは勘弁!今こうしているのだって、かなり恥かしいのだから!?

 

暫く二人から質問責めをされていたのだが、めぐみんがそっと二人に耳打ちをすると急に二人は大人しくなっていった。

 

その様子を胡乱気に見ていると、あるえは何処か楽しそうに、そしてねりまきは耳まで真っ赤にしていた。

 

「またかよ…。」

 

めぐみんは意外にも自慢をするのが好きらしい。

特に気を許している相手には、平然と惚気話をしてしまうくらい…。

まあ、そういう話をする時は流石にめぐみんも赤くなっていて、それはそれで可愛いとは思うんだが…。

 

そして、それを止める訳にもいかない。

下手に介入しようとすると、何時ぞやのクリスの様に思いっきり引かれるかも知れない。

あれはあれでかなりショックを受けるし、間違ってこっちに確認をされでもしたらドツボに嵌る。

 

暫く続く女の子達の会話を尻目に、俺は死んだ魚の様な目でぐったりしていた。

 

 

 

 

「え?酒の販路を確保したい?」

 

あるえの出版の話が出て、俺が独自の販路を持っていると思ったらしいねりまきが、そんな事を言ってきた。

 

「確かに販路はいくつか持っているけど…。」

 

まともな販路は武器屋とバニルぐらいしかない。ちなみに小説の方はバニルに担当して貰うつもりだ。

俺の考えを読めるアイツなら、需要性を理解出来る筈…。

まあ仮にアイツが駄目でも俺個人の販路を広げてもいい、アクセルの出版社に紹介する事ぐらいは出来る。

ただ、酒となると……。

 

「需要はあるだろうから、売れるとは思うんだけど…俺が出来るのはギルドや商店街への口聞きぐらいだな。」

 

「カズマ、アクアはどうです?」

 

「アクアか…。」

 

確かにあいつなら酒を扱う店は大体網羅している筈。

しかもアイツは上客だろうし、話も通しやすいだろう。

 

「アクアに会ったら聞いてみるか。」

 

一応、うちで買い取ってから販売という手もある。

屋敷の空き部屋は多いし、倉庫代わりに出来る部屋は十分に在る。

ただ、それだと手間が増える分、手数料が高くつく。

つまり、ねりまきから安く買い叩かないといけないわけで、それは彼女も望んではいないだろう。

 

そもそも、アクアがこっそり盗み飲みする可能性もある。アクアという女神はそういう奴だ。

 

一通りの話が終わり、二人と別れて俺達は帰路につく、屋敷ではなくめぐみんの実家に。

 

「今夜は何にする?」

 

「そうですねえ…、豚肉が余っていますし生姜焼きとかどうです?」

 

「お、いいかもな。ツマミにもなるだろうからひょいざぶろーさんも喜ぶだろうし、後は豚汁でも作って…。」

 

アクアとダクネスはゆんゆんの実家で、他の連中は里の旅館にいるらしい。

シルビアが倒されたので、もう戻っても良かったんだが急いで帰る理由もないし、それぞれのんびりしている。

 

ちなみにダストの奴は部屋に引き篭もっている。

大分人間不信に陥っているらしい、自業自得なので誰も心配はしていないが。

 

もう暫く滞在して、頃合を見てから帰ろう。

そんな話をしながら、俺達は家に戻っていった。

 




次回は同日のアクア達目線の予定です。
構想がまだふわっとしている段階ですので、時間が掛かりそうです。

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