このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。   作:如月空

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調査開始。

<アクア視点>

 

事件発覚から30分、皆が揃ったので私は状況を説明した。

 

「温泉に毒か…。」

 

「カズマ…。」

 

あれ?カズマ達の反応…。もしかして、何かを知っているのかしら?

 

「ね、ねぇ。カズマ…。犯人に心当たりはあるの?」

 

「ん?いや…。」

 

カズマにしては歯切れが悪い、もしかして、アクシズ教徒が犯人だから私に言えない…とか!?

 

「もしかして、アクシズ教徒の悪戯だとか思って…る?」

 

「はぁ?いや、可能性としては無い事も無いんだろうけど…多分違うな。」

 

へっ…?

 

「む、どうして、そう思うんだ?」

 

思わず出たダクネスの疑問に、めぐみんが口を開く。

 

「先程偶然聞いてしまったんですよ…。『これで忌々しい教団も終わりだ…。』

『既に他の温泉でも順調に行っている。秘湯の細工も終わって、後は結果を待つのみだ…。』と…。」

 

『なっ!?』

 

「そう言う訳だ。調査をしてみないと断言は出来ないが、多分此処だけじゃなく…。」

 

「他の温泉もって事!?」

 

私の言葉に、カズマが頷いて…。

 

「ああ、多分な。それならアクシズ教徒の仕業だとは考えにくいだろ?」

 

カズマの話は尤もだった。アルカンレティアにあるお店の殆どがアクシズ教の系列なんだから。

それなら、アクシズ教徒の仕業ではない?…待って、確か、忌々しい教団って…。

 

「もしかして、アクシズ教徒に恨みを持った者の犯行!?」

 

「其の可能性が高いと思っている。」

 

なんて事なの!?私は自分の教徒達に疑いの目を…!?

 

「でも、此処はエリス教徒が経営する店だぞ?」

 

「それって、疑いの目を逸らすためじゃ!?だから、此処は毒が少ないんじゃないの!?」

 

「バカを言うな!エリス教徒がそんな事をするもんか!?」

 

ダクネスと口論になってしまい、其れを見ためぐみんが私達の間に立った。

 

「二人とも落ち着いてください!まだ何も分かっていないのですよ!?カズマの言う通り、先ずは調査をしてからです!」

 

「うっ!」「むっ!?」

 

この二人に言われては、私達も引き下がるしかなかった。

 

「兎に角調査だ。チームを幾つかに分けよう。先ずは、比較的安全な場所での情報収集として、

ふにふら、どどんこ、あるえにねりまきも頼めるか?」

 

「は、はい!良いですけど…。」

 

「私達は何処に向かえば良いのかな?」

 

「警察署、それとエリス教会だな。ダクネス!4人を頼む。」

 

え?エリス教会も?

 

「任せておけ!」

 

「次にテイラーのパーティーだが温泉を回って貰いたい。ダスト…、行けるか?」

 

「…報酬は出るのかよ?」

 

紅魔の里で何日も引き篭もっていたダストは、未だに顔色が悪い。でも、らしい事を言うぐらいには回復しているみたい。

 

「100万でいいか?まぁ、パーティーに対してだが。」

 

「ちょっ!?何でカズマが出すのよ!しかも、100万って!?」

 

むしろカズマは貰う側でしょ!?何言っているのよ!この男は!?

 

カズマは私の言葉をスルーして、言葉を続ける。

 

「フィオはテイラーの所に行ってくれ。毒の感知は出来るだろ?」

 

「…しょうがないわね…。それと、いざって時のテレポート持ちも分けたいのよね?」

 

「ああ。」

 

ふにふら達もテレポートは使える。でも、新人だから危険な役割は与えられない。カズマの考えそうな事だ。

 

「ミツルギ!町の水源の調査に行ってみてくれ。アクア、ゆんゆん、クレメアと一緒に。」

 

「ああ、わかった!」

 

「それとミツルギのチームは危険が伴うかも知れない、フィオが別行動だから警戒はしておいてくれよ。」

 

盗賊スキル持ちが少ないのが痛いわね。クリスが居てくれたら良かったんだけど…。

 

「ん?カズマとめぐみんは如何するの?」

 

「俺達はギルドと…少しな…。」

 

何をするつもりだろう?まさか、デートだとかふざけた事は言わないでしょうね?でも、ギルドって?

 

「カズマ、ギルドに行って如何するつもりだ?」

 

そう言うテイラーの疑問に

 

「お前らだけで、回り切れる訳がないからな、何人か助っ人を頼もうと思っている。100万出せばやってくれるだろ?」

 

「成程な…、となると、俺達は金を受け取る訳にはいかんな。ダストには俺が何か奢ると言う事にしよう。」

 

「ん、別に良いぞ?言い出したのはアクアだし、俺達も気になる事があったからな。」

 

「そう言う訳にはいかないさ。この程度の事でお前から金を受け取ったら、後々高くつきそうだ。」

 

そう言って笑うテイラーに、カズマも笑い返した。

 

「じゃ、それで頼むわ。フィオはどうする?」

 

「この流れで受け取れる訳ないじゃない!?アンタ、私を何だと思っているのよ!?」

 

怒っているような言い方だけど、フィオは怒ってはないだろうな。呆れてはいそうだけど。

 

「ああ、ふにふら。」

 

「あ、はい!」

 

ふいにカズマに呼ばれて、少し挙動不審な様子でカズマに近づくふにふら。

 

「此れ、何かあった時用に渡しておくわ。4人で分けておいてくれ。」

 

そう言って、ポンと100万エリスを手渡すカズマ。

 

「ふ、ふぁ!?こ、こんな大金を!?」

 

「ちょっ!ふにふら!お、驚き過ぎだって!?」

 

生まれて初めて手にしただろう大金を見て、ガタガタと震えるふにふら。と、蒼白になっているどどんこ。

 

「はぁ…、あるえ、ねりまき。お前らで管理しておけ。あいつらじゃ心配だわ。」

 

「あ、はい…。」

 

「仕方ないね。」

 

本来、この二人はただのゲスト枠なんだけど、新人ちゃん達にはきつかったようだ。

 

「じゃ、行動開始と行こうぜ。」

 

そのカズマの言葉に皆が頷いた。

 

そして、皆が行動を開始する中、私はカズマに声を掛ける。

 

「ねぇ、カズマ…。」

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

 

 

<カズマ視点>

 

 

俺とめぐみんは早速ギルドにやって来た。観光地だけあってギルドも豪華で、中には強そうな奴らがゴロゴロしている。

 

「クエストを発注したいのですが?」

 

「え?受注ではなく…?」

 

……………

 

「と、言う訳なので、目立たずに行動してくれる冒険者を探しているのですが。」

 

別室に通して貰った俺達は、そこでギルドの偉い人に事情を説明した。

 

「それが本当ならとんでも無い事ですよ!?それにしても長い寿命を持つ者達ですか…。」

 

エルフやドワーフという可能性もあるけど、この世界だと混血が進みすぎて純血種ってのは少ないらしい。

となると、有力候補になるのは…、魔王軍だ。其の可能性を考えたからこそ、ギルドにも声を掛けたと言う訳だ。

 

「ええ…、なので、強いのは勿論の事、目立たずに行動出来る人を御願いしたいです。

ただ、事が事なのでアクシズ教徒は避けて欲しいのですが…。」

 

「そうですね…。分かりました、何人か心当たりがあるので声を掛けてみましょう。」

 

「御願いします…。とりあえず、300万を置いていくので3パーティ程、声を掛けてみてください。」

 

「いや、この件はギルドとしても、町の住人としても看過は出来ません!情報料を支払いたいぐらいです!」

 

「…いえ、それには及びませんよ。それに何かあった時の為に其れは残した方がいいと思うので…。」

 

それに…

 

『ねぇ、カズマ。ギルドの報酬の事なんだけど、私の貯金から出して欲しいんだけど…。』

 

『は?何でだよ?』

 

『だって、どちらにしてもアクシズ教徒が絡んでるじゃない!?加害者だとしても被害者だとしても!だから、教徒達の為にも私が出すべきなのよ!…御願い、カズマ…。』

 

まさか、アクアがあんな事を言うなんてな…。

 

「…分かりました、ではこのお金はギルドでお預かりします。」

 

 

――――――…

 

 

 

 

 

 

<あるえ視点>

 

 

取材の為に訪れた今回の旅行は興味深い物になった。

不謹慎だと言われるだろうけど、里では味わえない珍しい体験に私の心は踊っている様だ。

 

「それは本当ですか!?ダスティネス卿!」

 

「ああ、まだ、調査中ではあるが、何者かが暗躍しているのは確実だろう。

ただ、おおっぴらには捜査をしないでくれ。連中に気づかれたら、ほとぼりが冷めるまで姿を消す可能性があるからな。」

 

この件に関しても私は驚いた。パーティーメンバーがこの国の懐刀と言われる貴族の令嬢だなんて、まさしく物語の定番だろう。……まぁ、彼女はかなり特殊ではあるが…。

 

暫く警察署で、情報の遣り取りをした後、私達はエリス教会に向かう。

其処でも、同様の遣り取りが行われ、私達は見ているだけで終わってしまった。

 

「な、何か私達役に立って無くない?」

 

「そ、そうだね。何か出来る事はないのかな?」

 

ふにふらとどどんこがソワソワしている様だけど、君達が役に立てるのは戦闘時ぐらいだと思うよ?

それにしても、このチームは割りと暇だ。私は収穫があるけれど三人は退屈だろう。

 

「よし、此処での情報収集も終わったな。宿に戻るぞ。」

 

 

 

―――――――…

 

 

 

 

<アクア視点>

 

 

「……。」

 

「ど、如何ですか?アク…さん。」

 

私の後ろから心配そうに覗き込むゆんゆん。

 

「うん、此処も大丈夫みたいね!」

 

私がそう言うとゆんゆんは安堵の表情を浮かべる。

 

「でも、良かったわね。此処がアレだったらかなり被害が出たでしょうし…。」

 

「そうね。あ、ミツルギ。次は何処に行けばいいの?」

 

「次は湖です。でも、もう遅いですし、今日は此処までにした方が…。」

 

「そんな訳にはいかないでしょ!あそこだって大事な水源なのよ?何かあったら大変じゃない!?」

 

私達が行動を開始したのは、日が落ちた頃からだったので既に辺りは真っ暗になっていた。

勿論、女神である私は普通に見通せるけど、ゆんゆん達はそうは行かない。

彼女達の事を考えれば、明日の朝に出直すという手もあったけど、今回ばかりはそうは言ってられなかった。

 

湖に移動した私達は早速調査を開始した。とは言っても実際調べるのは私だけで、皆は護衛に付いてくれているんだけど。

 

「…!?反応があったわ!直ぐに浄化を始めるわよ!皆警戒して置いてくれる!」

 

「「はい!」」「ええ!」

 

此れだけ大きい湖なら、直接入って浄化魔法を唱えた方が早い。

その旨を皆に伝えると、ゆんゆんとミツルギが何かを言いたそうな顔をして…。

諦めるように頷いてくれた。

 

此処の毒、温泉の物よりかなり強い…。全力で浄化しないと!

 

「『セイクリッド・ピュリフィケーション!』」

 

よし、このまま……。

 

 

 

――――――――…

 

 

 

 

 

<フィオ目線>

 

 

「うーん、此処も反応があるわね。」

 

宿の人に事情を説明して、立会って貰ったんだけど、カズマの予想通り何処の温泉も毒が含まれていた。

其の事実を聞いて、流石のアクシズ教徒も愕然としている。

まぁ、こいつらの悪いところは全部エリス教徒の所為にする所だけど、否定する材料もないから私達は黙っている。

 

「此れで7件目だよね…。本当に全部駄目になっちゃってるのかな…。」

 

「それより如何するんだ?もう、かなり遅い時間だぜ?飯も食ってねぇしよ。」

 

「流石に一度宿に戻るべきだろう。カズマ達と相談をしないといけないからな。」

 

テイラーの言葉に皆が頷く。勿論、私も。

 

「じゃあ、今日は此処までね。」

 

宿の人にあまり騒がないように釘を刺して、泊まっている拠点戻る。

 

「ご飯どうする?宿の人に言えば出してくれるかな?」

 

「流石にこの時間じゃ無理なんじゃない?まぁ、カズマが何とかしてくれるでしょ?」

 

あいつなら、屋敷に戻って作ってくるって言う手もあるだろうからね。

実際、紅魔の里に向かう道中でやってた事だし。

 

「あ、キース。不審な奴は居ないわよね?」

 

「ああ、今の所は見かけてない。フィオの感知は?」

 

「こっちも反応は無いわね。」

 

犯人からの襲撃があるかも知れない、警戒はしておいて損は無い。…とカズマが言ってた。

いや、私もそう思うわよ!?ただ、あいつちょっと慎重過ぎない!?

……だから、私達の指揮官なんてやっていられる訳か。普通こんな人数なんて纏め切れないだろうしね。

めぐみんの指揮能力も高いし、なんかあの二人って私達のリーダーになっているわよね。色んな意味で…。

 

「宿が見えて来たわね!カズマに何か作って貰いましょ!」

 

 




真実を求めてカズマ達が動き始めました。
次回はカズマ目線かめぐみん目線でスタートする予定です。

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