このすば カズマが冷静で少し大人な対応ができていたら。 作:如月空
≪テイラー視点≫
「…成程、それで、作戦期間はどの程度見ていらっしゃるので?」
「そうですね…。最長で一月もあれば…。」
カズマ達の根回しのお陰で、俺達はギルドのマスターと直接話し合う事が出来た。其のお陰でとんとん拍子で話が進んだが、やはり問題は出てくる。
「流石に難しいですな、先ず参加者の報酬を用意するのが難しい。それに、町の防衛や周辺の魔物討伐にも支障が出てしまいそうです。」
そう言って、ギルドマスターは表情を曇らせる。彼も事の重大さが分かっているのだろうから、俺達の言葉を無碍には出来ないのだろうが、やはり厳しいようだ。
「確かに町の防衛も必要だけど、街中に潜伏している魔王軍の幹部の方が重要だよ?あたし達が聞いた話だと、幹部の中でも1,2位を争う実力みたいだし。」
「遠征が必要な討伐は兎も角、町の防衛なら問題ないわよ、ずっと拘束している訳じゃないし私達も出るわよ。」
リーン、クレメアとギルドマスターへの説得が続く。此処は俺も続くべきだろう。
「二人の言う通り、其処まで拘束しません。ただ、召集時に直ぐに駆けつけて貰う事が出来れば良いんです。それと報酬についてですが、我々の仲間が直接、王家に掛け合っている頃だと思います。」
「はっ…?直接王家に!?」
流石に此れは予想外だったか…。ダクネスには悪いがギルドマスターに納得して貰わねばな。
「…はい、我々の仲間には、王家に伝手がある貴族がいまして…。」
まぁ、名前を出さなければ問題は少ないだろう。ただ、それで納得してくれれば良いが…。
「貴族ですか…、しかし、王家ともなると…。」
「心配しなくてもいいぜ?あのダスティネス家のお嬢様だからな!」
「ダスティネス家!?」
言い淀むギルドマスターを見て、念押しをしておきたかったのだろうが、ダストは口が軽すぎる!すまんな、ダクネス…。
「……そうです。なので、軍資金を用意して貰える可能性は高いと思います。それに、無事討伐出来れば他にも報奨金も出る事でしょう。」
「分かりました。人選については此方で選別致します。必要なスキル、職業がありましたら教えてください。」
「はい、先ずは――――。」
―――――――――…
≪ダクネス視点≫
「「「ふわあ!」」」
「此れだけの人数がいると壮観だねぇ…。」
私に同行して来たふにふら達は、王都が珍しいのか視線をあちこちに彷徨わせてはしゃいでいた。其の姿は年相応の少女に見え、私は思わず頬を緩ませる。
「さて、久しぶりの王都だ。先ずはクレアのシンフォニア家にアポを取らねばな…。」
だが、私達は遊びに来た訳ではないのだ。先ずはやる事を済ませてしまおう。それが終れば少しぐらいなら彼女達の王都観光に付き合うのも悪くは無いだろう。
「私から離れると迷うだろうから、しっかり付いて来るんだぞ。」
「「「はいっ!」」」「了解した。」
本来、アポを取るのなら数日前に行うものではあるが、魔王軍の幹部が絡んでいるとなると、その様な余裕は無い。
それにクレアであれば、事の重大さを理解し、直ぐに行動を移すだろう。…遅くても昼過ぎには会う事が出来るだろうな。
私達は先ず、シンフォニアの屋敷に向かった。クレアの事だ、此処に滞在しているとは思えないが連絡を取る事は出来るだろう。
クレアの職場である王宮に直接向かうという手もあったが、今回は私一人ではないからな。いきなり大勢で押し掛けるのは無茶だ。
「これはこれは…、ララティーナ様。本日はどのような御用向きでしょうか?」
屋敷のドアノックを叩くと、初老の男が出てきた。彼はシンフォニア家の執事だ。
「うむ、至急クレア殿に取り次いで頂きたい!魔王軍の幹部が関わっていると言えば、理解してくれるだろう!」
「なっ!?魔王軍の幹部ですと!?」
「そうだ!此方としてもあまり時間はない!頼むぞ!」
「畏まりました!」
執事の男をそう言うと、直ぐに使用人を呼び寄せた。そして、私達を屋敷の中に招き入れた。
「此方でお待ち下さい。」
執事に案内されたのはシンフォニア家の客間だ。十分寛げるスペースがある空間だ。
メイドが紅茶と菓子を用意して、『御用があれば、お申し付け下さい』と言って、メイドも退出する。
そして、この部屋に私達だけが残ると、ふにふら達がソファに倒れこんだ。
「うわああ、緊張したー!!」
「本当にね……、変な汗掻いたよ。」
そう言って、口々に言葉を零すふにふらとどどんこ。
「ふむ、本物の執事とメイドを見れたのは、嬉しい収穫だったね。これは、小説の方を少し手直ししても良いかも知れないね。」
「…やっぱり、大口のお客様となると、貴族家が一番かな…。将来的に売り込めるように顔も覚えてもらわないと!」
一方であるえとねりまきは、仕事に繋がりそうだと嬉しそうな顔を浮かべている。
この二人は強かなのだな。いや、カズマもめぐみんも物怖じはしないか。アクアは…、考えるまでもないな。ゆんゆんは…ふにふら側だろうか。
あるえの質問やねりまきのダスティネス家への売り込みを適当に躱しつつ、ふにふら達との交流を続け、待つ事1時間程度で、執事が戻って来た。
「お待たせしました、ララティーナ様!クレア様からの伝言ですが、直接王宮に来て欲しいとの事です。」
「了解したが、彼女達を連れて行っても平気だろうか?」
「ええ、その旨も伝えてありますので問題はありません!」
「そうか、では向かうとするか。」
執事や使用人達に軽く挨拶を済ませ、私達はシンフォニア家の屋敷を出る。そして、王宮の目の前まで来ると、紅魔族組が声を上げた。
「ふわぁあ!?こ、今度は王宮だよ!?」
「き、貴族の屋敷でもいっぱいいっぱいだったのに、だ、大丈夫かな?」
「私としては、王宮内を見れるというのは貴重な体験になるよ。不謹慎だけど、ハンスに少し感謝だね。」
「ちょっと、あるえ…、本当に不謹慎だからそう言う事言っちゃダメだよ。」
やはり、この四人の中では、あるえが一番良い性格をしているな。めぐみんやカズマに通じる物がある。逆にふにふら達は紅魔族にしてはまだ常識人な方なのかも知れんな。
「ダスティネス・フォード・ララティーナだ!入らせて貰うぞ!」
『ハッ!』
敬礼する門兵を横切り、私達は王宮内を進んでいく。
クレアが居るのはおそらく、アイリス様の部屋だろう。ふにふら達を連れて行くのは少し心配ではあるが、カズマやめぐみんと会わせるよりはマシだろう。あの二人も一応は常識人ではあるのだが、アイリス様とはあまり会わせたくはないからな。
程なくして目的の部屋まで行くと、廊下に見知った人物がいた。
「ダスティネス卿!お待ちしていました!」
「久しぶりだな、レイン。最後に会ったのはアルダープの件を調べていた時か。」
「そうですね!と言ってもあまり間隔は空いてませんね。」
そう言って、苦笑いを浮かべるレイン。
「そういえば、そうだな。最近はバニルにシルビアと色々あったからな。」
「え?シルビアを討伐したのですか!?」
「ああ、っとそういえば、其方の連絡もまだだったな。紅魔族達と協力して何時ものメンバーで倒したのだが、今はもっと大事な話がある。」
「あの、今のお話も魔王軍の幹部の話だと思うのですが…。」
「そうではあるが、先ずはクレアを呼んで貰えるか?」
私がレインにそう促していると、突然扉が開いた。
「問題ないですよ、話は中まで聞こえていていましたから。お久しぶりですね、ダスティネス卿。」
「ああ、元気そうで何よりだ、シンフォニア卿。」
クレアに挨拶を返していると、部屋の中から姫様が顔を出した。
「ララティーナ!」
「お久しぶりです!アイリス様!」
佇まいを直して、姫様に挨拶をしていると、後方がざわついた。
「もしかして、お姫様!?」
「すごい!私、はじめて見た!」
「これは…創作意欲が刺激されるね…。」
「ふわぁ…!?」
「お、おい。お前達!アイリス様に失礼だろう!?」
「良いですよ、ララティーナ。貴方のお仲間なのでしょう?」
「は、はい。騒がしい連中で申し訳ありません…。」
いや、カズマにめぐみん、そしてアクアよりは大分マシではあるのだが…。
「話は、クレアから聞きました。そして、先程のシルビア討伐の話も…、となると、また新しい幹部が現れたのですね?」
「はい、アルカンレティアにして、仲間がデッドリーポイズンスライムのハンスと遭遇しました。今は討伐の為に仲間達が動いています。」
「ハンスだとっ!?」
「そんな!?ハンスは何十年も前に討伐されたと!」
クレア、レインが驚愕の表情を浮かべる。それはそうだ、レインの言う通り記録では既に討伐されているのだから。
「…それで、街への被害はどれぐらい出ているのですか?」
「はい、今は温泉を初めとする水源に毒を撒かれている状態です。仲間達が毒の浄化に当たっているので被害者はまだ出ていませんが、あくまで”まだ”です。」
「水源に毒を撒くとは、しかしハンスか…。」
「本当にハンスなのですか?いえ、疑っている訳ではないのですが、どうにも信じられなくて…。」
「…毒を撒かれているのは事実なのでしょう?ララティーナが言うのであれば、可能性は高い筈です。此処は最悪を想定すべきです。」
アイリス様にこう言われてしまえば、二人は頷くしかない。すると、クレアが此方に質問を投げ掛けてくる。
「それで、ダスティネス卿が此方に出向いた目的というのは?」
「相手が相手なのでな、奴と普通に戦えば仲間が危険な上に周辺の被害も大きくなる。それで、この様な作戦を取る事にしたのだ。」
そう言って、私はクレアに作戦書を渡す。受け取ったクレアは其れを読み込んでいく。アイリス様やレインも一緒に覗き込んでいた。
「…成程、氷魔法で再生を絶つ作戦ですか、それと防衛の為のクルセイダー、ハンスを削る為のソードマスターに氷結処理をするアークウィザード、そして、サポート役のアークプリーストですか。」
「となると、ダスティネス卿が此方にいらしたのは。」
「ああ、軍資金の提供とハンスへの懸賞金を御願いしたい。」
私がそう言い放つと、クレア達はアイリス様を見る。流石に一貴族としては決めかねる事だろう。動く金額も大きいからな。
「…そうですね、本来は私の一存では決められませんが、お父様もお兄様も遠征でいませんし…。」
アイリス様は目を伏せるように思案し、そのまま暫く返答を待っていると。
「決めました!今回は緊急の案件ですので、お父様には後で説明しておきましょう。ただし、ララティーナは後日仲間を連れて王都に出向いてください。」
「分かりました!アイリス様に良い報告が出来る様に努めます!」
これで、軍資金が用意出来る。後は私達がカズマの作戦通りに戦うだけだ。そう、心配は何も要らない。其れは今までの戦いで証明してきたからな。
ダスティネス・フォード・ララティーナ 作中年齢18歳
アクセルの爆裂コンビと行動を共にしているパーティーメンバー。
ベルゼルグ王国屈指の魔王軍討伐部隊、アクセル軍(仮称)の鉄壁の盾。
レベルは28、此れは高火力持ちのアークウィザードが多い事の弊害だろう。ただ、噂では攻撃下手という話もある。
普段は生真面目で硬いイメージのある彼女ではあるが、突如可笑しな言動を放つ事がある。
彼女の役割は、アダマンタイトより固いと言われている鉄壁の盾役だ。その防御能力は魔王軍の幹部であるベルディアですら傷つける事が出来なかったと噂される程で、魔術師の多いパーティーメンバーからすれば非常にありがたい存在だろう。
パーティー内では最後に加入した事、そして、二組のカップル?が居る事から少し疎外感を感じているらしい。
そんな彼女に思いを寄せている男性も多く、貴族であるバルター氏等が例に挙げられる。 だが、彼女はまだ結婚をするつもりはないらしい。
そして、以前から付き合いのある盗賊の少女とは親友同士の様で、二人で歩いている所をよく目撃されている。
その事から、パーティー内の他のメンバーの噂もあり、二人の仲を邪推している者も多いとか。
だが、あくまで噂なので確証はない。 アクセル編集部