五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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この作品を開いていただいてありがとうございます。
これがハーメルンでの処女作になります、よろしくお願いします。

:この作品は五等分の花嫁の二次創作です
:主人公はオリジナルキャラクターです
:基本的に原作に沿って話が進みますが所々オリジナル展開が入ります
:作者はアニメ視聴済、原作流し読み程度の知識です
:文才はありません(重要)

オリジナルキャラクター紹介

御影恭平(みかげきょうへい)
166m A型

上杉風太郎、中野姉妹と同じ高校に通う2年生。二乃と同じクラス。
誰に対しても丁寧で礼儀正しく、真面目で明るい性格。
そのためコミュニケーション能力が高く顔が広いが、意外にも友達と呼べる人物は少ない。
風太郎とは1年生の時に同じクラスだったため仲良くなり、2年生でクラスが別れた今でも学食で食事したり連絡を取り合う仲。
趣味は囲碁、得意科目は地理。特技は国旗を見て即座に国名を当てること。
成績は中間よりやや上で全科目70点台前後(特異な地理は90前後)をキープしており人並より学力はある。
現在はアパートの一室を借りて1人暮らし中。


第1話 始まりの日

「…ははは。」

 

人間は予想だにしないことやどうにもならないことを目の当たりにすると語彙力がなくなるらしい。

そう、まるで今の僕のように。

 

「だ・か・ら!私達には家庭教師なんて必要ないって言ってるでしょうが!」

「黙れ!早くテキストをそろえて席へ付け!」

 

目の前では、目つきの悪い1人の男と両サイドに蝶を模したリボンを付けた女の子が言い争いをしている光景が繰り広げられていた。

…どうしてこうなってしまったんだっけなぁ。

 

「どうでもいいんだけどさ、僕お腹すいたんだけど…」

「奇遇ですね!私もです!」

「ハハハ、さっき肉まん食べてたのに何言ってんのこの子。」

 

深いため息を吐き出す。ああ、そうだ。事の始まりは数日前。

目の前の男、上杉風太郎が家庭教師のアルバイトを始めた日に遡る。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「生姜焼き定職、タレ濃いめでお願いします。」

「はいよー。」

 

時は昼休み。昼食を求めた学生でごった返す学食で僕は焼肉定食焼肉抜き…ではなく、いつもと同じ生姜焼き定職を注文。

程なくして生姜焼き定職が出てきたため、トレーを受け取るといつも座っている席へと向かって歩き出す。

 

僕の名前は御影恭平(みかげきょうへい)。なんてことはない、平凡な男子高校生だ。

今日もいつものように友人である上杉風太郎くんと共に食事を取るために、学生食堂を訪れていた。

いつもなら学食の入り口で合流してから一緒に食事を注文して席へ向かうことになっているんだけど

今日はたまたま昼休み直後に先生に教科書の運搬を頼まれたため上杉くんに先に向かってもらうように連絡して後から合流する事になっている。

 

「えーっと上杉くんは…あ、いたいた。」

 

学食で僕たちがいつも座っている席へとたどり着くと、既に上杉くんはそこに座って食事を始めていた。

 

「おまたせ上杉くん!」

「…御影か。もう用はすんだのか?」

「うん、ったく先生もひどいよね。こっちは限られた昼休みだってのにさ。」

 

けだるそうにこちらを向いてそういう上杉くんに対して、僕は苦笑いをしながらそう返した。

彼の名は上杉風太郎。この学校で学年主席という成績を誇り、全国模試でも常にトップクラスをキープしている天才である。

上杉くんとは1年生の時に同じクラス、隣の席だったこともあり意気投合して仲良くなった。

2年生になってクラスが別々になった今も、毎日こうして昼休みには食堂で顔を突き合わせている仲だ。

 

「…丁度いいところに来てくれた御影。この女をなんとかしてくれ。」

 

上杉くんが溜息を吐きながら親指でさした方向を見ると、そこには1人の女の子が佇んでいた。

やや赤みのかかった髪、整った顔立ち。星の形をしたヘアピン。抜群のスタイル。贔屓目に見なくても美人でかわいい女の子だ。

ははぁ、なるほど。上杉くんも隅に置けないなぁ。

 

「上杉くんいつの間に彼女作ったの?俺は恋愛するつもりないとか言ってなかった?」

「なに、彼女だと!?違う!」

「彼女…!?断じて違います!」

 

意地の悪い笑みを浮かべながらそう言ってみる。

すると上杉くんと女の子はテーブルを叩いて同時に立ち上がると、声を荒げながらそう言った。

…息ぴったりじゃん、お似合いなんじゃないかな。

 

「彼女じゃないの?じゃあこの子は…」

「俺がいつものようにこの席を取ろうとしたら、こいつが先に自分が席を取ったから隣に移れと言ってきたんだ。」

「そうしたらこの人ったらひどいんですよ!自分が先に席に座ったからここは俺の席だって言いだしたんです!」

 

えぇ…どっちもどっちな気がするんだけど。子どもの喧嘩じゃないんだしさ。

まぁ正直に言うとこの女の子が上杉くんの彼女じゃないのは分かり切ってたんだけどね。

上杉くんは驚くほど他人に興味を示さないし、それどころか恋愛なんてものは勉強の邪魔だとまで言っているくらいだ。

そのせいで交友関係も狭く、友達と呼べるのは現状僕くらいしかいないだろう。

ちょっとからかってやろうかと思って…っと、話がそれた。

 

「それだけじゃありません!この人は100点のテストを自慢げに見せつけてきたんです!しかもどや顔で!」

「お前が勝手に見たんだろうが…」

「あー、それは上杉くんならやりかねないような気がする。」

「おい御影…!」

「じょ、冗談だって…本気にしないでよ。」

 

抗議の視線を送ってくる上杉くんに対して苦笑いしながらそういう。

 

「お前以外の人間にそんなことするわけないだろ。」

「僕にはやるんかい!」

「…とにかく俺は気分が悪いから先に教室に戻る、その女の相手は任せたぞ。」

「ちょ、ちょっと上杉くん!さすがに丸投げはひどくないかな!?」

「文句があるならその女に言ってくれ。」

 

そう言って残っていた味噌汁を胃に流し込むと、上杉くんはトレーを持って立ち上がる。

 

「ま、待ってください!それだけで足りるんですか?よかったら私の分少しわけますよ?」

「結構だ。あいにく満腹なんでな。というかあんたは頼みすぎなんだよ。太るぞ。」

「ふ、ふとっ…!?」

 

上杉くんの言葉に、思わず僕は彼女の食事の乗ったトレーに目をやる。

そこにはうどんをはじめ、エビてんなどの大量のてんぷらに加えてデザートにプリンまでもが所狭しと並んでいた。

…確かにこりゃ太りそうなメニューだ。ほぼ揚げ物だし野菜がない、摂取カロリーがとんでもないことになっていそうである。

それでも、女の子に対して太るはNGワードだ。例えそれがデリカシーのデの字もない上杉くんであっても。

 

「…御影、今失礼なことを考えなかったか?」

「そ、そんなことないよ!それよりも上杉くん、さすがに女の子に対してそれは失礼だと僕は思う。」

「俺は事実を言ったまでだ。」

 

いや、そうなんだけどさ。

もう少し言い方ってものを考えてほしいんだけどなー御影さんとしては。

 

「いいです!あなたにはもう何もあげませんから!」

 

あーあーほらもう、女の子拗ねちゃったじゃんかー。

 

「じゃあな御影。」

「ちょ、ちょっと待ってよ上杉くん!ほんとに丸投げするの!?」

 

そんな僕の抗議の声もむなしく、上杉くんは席を立つとさっさと返却口へと向かってしまった。

…あれはよっぽど機嫌を損ねているなぁ。あとで機嫌取りしておかないと色々と今後が面倒くさいことになりそうだ。

 

「まったく…なんなんですかあの人は!」

「あはは…ごめんね、ああ見えて悪いやつじゃないんだけどね。彼は。」

「いーえ!どう見ても悪い人です!まず見た目からして悪い人じゃないですか!人相最悪ですし!」

「確かに人相は悪いけど、そこまで言わなくても…」

 

そしてこちらもこちらでかなりご立腹している様子。

まったくもう…なんでご飯食べる前に機嫌を損ねた女の子の機嫌取りをしないといけないんだ。恨むぞ上杉くん…

 

「ところでさ、そろそろ僕もご飯食べたいんだけど…ここ座ってもいいかな?」

「あ、はい!どうぞご自由に使ってください!」

 

食堂をざっと見渡してほとんどの席が埋まっていることを確認した僕は、女の子にそう交渉を持ち掛けた。

随分とあっさりと許可をもらえたので、ありがとうと言いながらさっきまで上杉くんの座っていた場所へ着席して手を合わせる。

 

「いただきます。」

「それにしてもさっきの人ほんとにひどいと思いませんか!?」

 

むしゃむしゃと生姜焼きを頬張り始めた僕に対して、女の子は未だ怒り冷めやらないと言った様子で話しかけてきた。

 

「そうだね…確かに女の子に向かってあれはないと僕も思う。」

「ですよね?そうですよね?」

「ただ、彼は他人にあまり興味がない部分があるからさ…あと思ったことわりとストレートに言っちゃうタイプなんだよ。」

「それにしたってひどすぎますよ!それにあの人、食事しながら勉強していましたし…行儀が悪いです!」

 

あー、上杉くんまたご飯食べながら勉強してたのね。

勉強熱心なのはいいことだと思うけど…

 

「それは僕も注意してるんだけど、直らないからもうあきらめてるかな。」

 

あはは、と苦笑いを浮かべる。

 

「まったく…ところで、あなたは先ほどの失礼な人の…えーっと。」

「一応、友達かな。」

 

生姜焼きを食べ終え、水を一口飲んだ僕はそう言って一呼吸をする。

 

「えっと、上杉くんが失礼なことをしちゃったみたいで本当にごめんね。代わりに謝罪させてもらうよ。」

 

そう言って、僕は頭を下げる。

 

「あんなやつだけど、根は優しくていいやつなんだ。ただちょっと他人に対する関心が薄いだけで…だから恨まないであげてほしい。」

「あ、頭を上げてください!あなたは何も悪くありませんから!」

 

そんな僕を見た女の子は、あわあわとしながらそう言った。

 

「…わかりました、私もそこまで鬼じゃありません。今回の事はあなたに免じて水に流すことにします。」

「本当に?ありがとう!」

 

渋々ながらもそう言ってくれた彼女に対して僕は全力の笑顔でそう応える。

そう言えば、お腹すいてたり上杉くんに面倒を押し付けられたせいで今まで全然気づかなかったんだけど…

今さらながらこの女の子の着ている制服がこの学校ものじゃないということを認識した。僕の記憶が正しいなら、確かこの制服は…

 

「えっと、素朴な疑問なんだけど君ってこの学校の生徒じゃないよね?その制服って確か黒薔薇女子のものだった気がするんだけど。」

「はい。そうですよ。私、今日の午後からこの学校に転入することになっているんです。」

「あーなるほど。だから食堂でご飯食べてたんだね。」

 

どうやら僕の記憶は正しかったようだ。ちなみに黒薔薇女子とは超ド級のお嬢様校として有名な学校である。

当然偏差値も高く、通っている生徒はほぼ全員がお金持ちの令嬢という筋金入り。

話を聞くと、彼女は黒薔薇女子の生徒だったようだが今日の午後からこの学校に転入してくるとのことであった。

 

(なるほどね…この子が噂の転校生ってわけか。)

 

というのも、今日の朝登校してから学校内はある話題で持ちきりになっていたからである。

それはこの学校に転校生がやってくる、というものであった。

毎日毎日代わり映えしない学校生活を送っている僕達にとってはちょっとした一大イベント、当然盛り上がらないわけがない。

かくいう僕もそこまで興味はなかったけど、どんな子が来るのかなーと人並み程度には気になっていた1人である。

それを一足先に知れてちょっと得した気分だ。しかし、そう考えると上杉くんは転校生といきなりドンパチやらかしたことになるな。

 

「あ…そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は2年生の御影恭平って言います。」

「ご丁寧にありがとうございます。私もあなたと同じ2年生の中野五月と言います!よろしくお願いしますね、御影君。」

「うん。よろしくね、中野さん。」

 

自己紹介を終えた僕たちは、顔を見合わせて軽く会釈をする。

同い年だったんだな、落ち着いた雰囲気と言い礼儀正しい佇まいと言い年上でもおかしくないと思ってたんだけどね。

 

「それにしても、御影君は礼儀正しいんですね…先ほどのあの目つきの悪い人の友人にはもったいない方だと思います!」

「あはは…あんま悪く言わないであげてね。悪いやつだったら僕も友達やってないからさ。」

 

水に流すとは言ったとはいえ、中野さんの中では未だに上杉くんへ対する怒りは収まりきっていないようだった。

 

「まぁそれはともかく、同じクラスになるかどうかは分からないけど…改めてよろしくね。」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

そう言い終わるとほぼ同時に、昼休みが残り10分だということを告げる予鈴が校内に響き渡った。

僕と中野さんはお互いに残っていた食事を急いで胃に詰め込む。

 

「んぐ…それじゃ中野さん!同じクラスになれたらまたよろしくね!」

「はい!」

 

残っていたご飯と漬物を味噌汁で胃の中に流し込んだ僕は、僕は中野さんにそれだけ告げると大急ぎで自分の教室へ走るのであった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

中野さんと別れて教室へ戻ってきた僕は、次の授業の準備をしてボーっとしながら予鈴を聞いていた。

 

「はいはいお前ら静かにしろー。午後のホームルーム始めるぞー。」

 

先ほどまでおしゃべりで騒がしかった教室内が、担任の一言でぴしゃりと静かになる。

僕はぼんやりと窓の外の雲の数を数えながら大きなあくびをする。

 

「それじゃあ…お前らも知っていると思うが、今日からこのクラスに転校生が入ってくることになった。」

 

そんな担任の一言で、静まり返った教室に再び騒がしさが戻る。転校生…言うまでもなく中野さんのことだろう。

昼に食堂で同じクラスになれたらいいねとは言ったけど、あれはほぼ社交辞令みたいなものだったしね。

まさか本当に同じクラスになれるとは…こんな偶然ってあるんだな、とお腹がいっぱいになって働かない頭で考える。

 

「静かに!ごほん…それじゃあ入ってきていいぞー。」

 

担任がそういうと、教室の扉が開いて転校生が教室に入室してくる。

黒薔薇女子の制服。整った顔立ちに赤みのかかった髪。モデル並みのスタイル。間違いなく中野さんだった。

…でも気のせいかな?心なしか、さっきと少し雰囲気が違うような気がする。

 

「それでは中野さん。自己紹介を頼む。」

 

中野さんが教壇の前まで歩いてきたところで、担任が声をかける。

それに対して「はい」と答えると、中野さんはくるりとこちらを向いてにっこりと笑った。

 

「初めまして、中野二乃です。黒薔薇女子から転校してきました。よろしくお願いします。」

「えっ…?」

 

ぺこり、と頭を下げた中野さんに対してクラス中から拍手が巻き起こる。

だが僕は拍手をすることを忘れ、頭にハテナマークを浮かべていた。

 

…どういうことだ?今、中野さんは自分の事を「中野二乃」だと名乗った。

食堂で自己紹介したときは中野五月と名乗っていたはずなんだけど…まさかあれは偽名だったとでも言うのかな。

でもだとすると偽名で名乗る意味が分からないし、あの堂々とした様子からしてそんなことはないだろうという気はするんだけど。

…解せない、なんでそんなことをする必要があるんだろう。

 

…そういえば中野さんって星形のヘアピン付けてなかったっけ?

よく見ると、目の前の「中野二乃」さんは星形のヘアピンではなく頭の両サイドに蝶を模したであろうリボンを付けていた。

それに今思えば声も違ったような気がする…でもあの顔は間違いなく中野さんなんだよなぁ。

一体どういうことなんだろう。

 

「じゃあ中野の席は…御影の隣が空いてるな。あそこに座ってくれ。」

「はい、わかりました。」

 

1人で勝手に困惑する僕をよそに、担任は中野さんの席を告げた。中野さんが僕の隣の席に歩いてくる。

…しかし、ほんとに見れば見るほど絵になる女の子だなぁ。

めっちゃ美人だし、スタイルもいいし、赤みのかかった髪はサラサラで纏っている雰囲気が常人のそれではない。

僕は思わず息をのんだ。何もかもが食堂であったときと違っていたからだ。。顔は全く同じなのに、まるで別人のような…そんな雰囲気が漂っている。

 

「よろしくね、御影くん。」

「…うん、よろしく。中野さん。」

 

女の子特有の甘い香りを漂わせながら、中野さんは僕の隣の席に着席するとそう声をかけてきた。

僕はまとまらない頭を総動員してなんとか声を絞り出す。

…考えていても仕方ないか、授業が終わったら中野さんに直接どういうことか聞いてみよう。そしたらすべてがハッキリする。

強引にそう考えをまとめた僕は、用意していた教科書に目を落とした。

 

「それじゃあ授業を始めるぞ、テキストの38ページを開いてくれ。」

 

担任の指示に従い、ぺらぺらと教科書をめくって38ページを開く。なおうちの担任の強化は地理だ。

確か前回やったところはなんだっけ?北アフリカのあたりの国名と特産物とかの暗記だった記憶があるが…

ちなみに僕の一番の得意科目も地理だ。特に国旗を見ただけで国名を当てることに関しては自信がある。逆に苦手なのは数学辺り。

 

「前回はエジプトについて勉強したから…今回はこの国を勉強していくぞ。」

 

そういうと、担任は1枚の紙を取り出した。

そこには真ん中に黒い星が描かれ、3本の色の違う射線の入った国旗が描かれている。

なるほどね、これはガーナの国旗である。今日の授業はガーナについてか。

 

「それじゃあこの旗の国名を…早速だが中野、答えてくれ。」

「え…は、はい!」

 

たまたま目が合ったのか、それともクラスで早く目立たせたかったのかは知らないが担任は中野さんを指名する。

中野さんは少しどもりつつもすぐに席を立つ。

食堂で見たときから思っていたけど、中野さんは頭もよさそうだしこの程度なら難なく答えるだろう。

すぐガーナという声が聞こえてくるはずだ。

 

「え、えーっと…」

 

…と思っていたんだけど、隣から聞こえてきたのは明らかに不安の色を含む声だった。

まさか分からないのか?チラリと中野さんを盗み見ると、手を組んで指を動かしながら目を泳がせていた。

明らかに動揺している。誰の目から見ても明らかだった。

 

(…仕方ない、助け舟を出そうかな。)

 

僕はノートの端を素早く切り取ると、そこにガーナと書き込んで中野さんの手にそっと当てる。

紙を当てた直後、中野さんは体を震わせてこちらを驚いたような表情で見てきた。

僕は中野さんと紙を交互に見て、なんとかアイコンタクトで紙を受け取れと伝える。

 

「!」

 

すると中野さんは察してくれたのか、軽くうなずくと僕の差し出した紙を手に取った。

その紙をちらりと確認すると…

 

「が、ガーナです。」

「その通りだ。座っていいぞ。今日はガーナについて教えていく。」

 

中野さんはその言葉に大きく息を吐き出すと、ゆっくりと着席した。

そして僕の方を向いて両手を合わせて申し訳なさそうに笑う。僕は口パクで「気にしないで」と言って軽く手を上げた。

さて、あの担任は1人の生徒を何度も指名するような人ではないからこれでこの授業中は中野さんは安全だろう。

謎の安心感を得た僕は、ノートを取るためにシャーペンを取り出した。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「さっきはありがとう、御影くん。」

 

授業が終わってホームルームも終わった放課後の教室。

寄り道の相談でざわざわと騒がしくなったクラスメイト達をよそに、カバンを持って立ち上がった瞬間だった。

隣の席の中野さんから不意に声をかけられる。

 

「あなたのおかげで恥をかかずに済んだわ。」

「ううん、あれくらいお安い御用だよ。」

 

にっこりと微笑みながら中野さんはそう言った。

…かわいい女の子の笑顔ってなんでこう破壊力が抜群なんだろう…僕は思わず息をのんだ。

正直、中野さんは頭結構良さそうだっただけに意外ではあったけれどもね。

そういえば食堂の事を聞こうと思ってたんだっけ…向こうから話しかけてくれたのはちょうどよかったかもしれない。

僕は食堂で中野五月と名乗ったのは何故なのかの疑問をぶつけるため、口を開く。

 

「…そういえば中野さん。少し質問したいことがあるんだけど、いいかな?」

「質問?ええ、いいわよ。」

「ありがとう。」

 

一呼吸置く。

 

「お昼に食堂であったときは五月って名乗ってたと思うんだけど、さっきの二乃っていうのが君の本名なの?」

「えっ…五月?どういうことかしら?」

 

僕の質問に、中野さんは怪訝な表情を見せる。

 

「私が御影くんと会ったのは教室が初めてのはずだけど?」

「いや、そんなはずはないと思う。僕達は今日の昼に一度食堂で会ってるはずだよ?」

「そんなことないわ!そもそも私は今日は転校初日だし、食堂には行っていないわよ?」

 

…どういうことだ?

 

「というか、ちょっと待って。さっき御影くん五月って言わなかったかしら?」

「え?あぁうん、食堂ではそう名乗ってたと思うからさ…」

「…もしかしてその子、星形のヘアピンを付けてなかった?」

「う、うん。付けていたと思う。」

 

僕がそういうと、中野さんは口元に手を当てた。

 

「そっか。うん。そういうことだったのね…ふふっ。」

「え?どういうことなの…?」

 

意味が分からない僕は眉をひそめる。

 

「その五月って子、私の妹なのよ。」

 

Oh…マジか。妹ってあれだよね。英語でシスターって呼ぶあれだよね。

まさか…いやでもそういわれると納得かもしれない。食堂であった中野五月さんと目の前にいる中野二乃さんの顔は本当に瓜二つ。

更にはスタイルも髪の色も似ている、違うのはサイドについているリボンくらいなものだし。

 

「妹さんだったんだね。勘違いして変なこと言ってごめん。」

「ううん、いいのよ。私達を最初に見た人はみんな大体そんな反応するから。」

 

気にしないで、と中野さんは言葉を続ける。

しかしまさかここまで瓜二つとは思わなかった、学年も2年生と同じことを考えると恐らく双子か何かなんだろうね。

一卵性か二卵性なのかは分からないけど双子ならここまで似ているのも納得がいく。

 

「でも本当にそっくりなんだね。びっくりしちゃったよ。さすがは双子だね。」

「え?私達は双子じゃないわよ?」

 

…なんですと?あれだけ似てるのに?学年も同じなのに?

 

「え、双子じゃないの?学年が同じだからてっきりそうなのかと思ったんだけど…」

「五月が私の妹なのは間違いないわ。ただ、私達は双子じゃない。私達は…」

 

そこまで言うと、中野さんは一旦咳払いをした。

そして次の瞬間に口から出てきた言葉は…自分の耳を疑うような発言であった。

 

「私達は、五つ子よ。」

 

イツツゴ?なんだそれは…ちょっと何言ってるかワカンナイデス。

機能を停止しそうになる自分の脳みそを必死に動かして僕は口を開いた。

 

「五つ子って…」

「言葉の通りよ。私には五月以外にもあと3人姉妹がいるの。」

「い、いやでもさすがに…」

 

あり得ない、そう言おうとして僕は口をつぐんだ。

双子の出生率は世間一般的に100分の1と言われている。つまり100回に1回生まれるかどうかという非常に低い確率なのだ。

それが五つ子ともなるとどんな確立になるのだろう。おそらく天文学的数字になるのは火を見るよりも明らかだよ。

確かに可能性はゼロじゃない、けどあまりにも現実離れしすぎ。とはいえ、中野さんが嘘や冗談を言っているようには見えない。

いたって真面目な顔をしている以上、真っ向から否定するわけにもいかない。

 

「無理もないわ。初めて聞いた人はみんなそんな顔をするもの。」

「まぁ…さすがに五つ子って言われたらね。」

 

あまりにも現実離れしすぎてて、はいそうですかと受け入れることはとてもじゃないが無理である。

ちょっとコンビニ行ってくるくらいのレベルなら脳がすんなりと受け入れを許可してくれたんだろうけどなぁ。

 

「分かった、ありがとう。おかげでもやもやしてたものが無くなったよ。」

「ふふ、お役に立てたのならよかったわ。」

 

正直まだ信じ切ったわけじゃない。この目で見るまでは完全に納得は出来ないだろう。

ただ嘘や冗談じゃないことも中野さんを見る限り無いと思う。いわゆる半信半疑って状態だけど、食堂の件は別人ということで納得がいった。

授業中もずっと気になってモヤモヤしてたけど、ようやくこれでスッキリしたかな。

 

「…ん?」

 

そんなことを考えていると、ポケットの中のスマホが振動しているのに気が付く。

授業中はもっぱらマナーモードにしているので気づくのが遅れた格好だ。慌ててスマホを取り出すと、ディスプレイには「上杉風太郎」と表示されていた。

 

(…上杉くん?珍しいな。)

 

彼が向こうから連絡を寄こしてくることは滅多にないだけに、僕は画面を見つめながら面食らう。

なんせ彼は勉強が恋人のような人だ。休みの日に遊ぶこともなければチャットアプリを使ってくだらない話をしたことすらないくらいである。

そんな彼からの連絡だ、かなり重要な事なんだろう。

 

「ごめん中野さん、友達から電話みたい。」

「分かったわ。私も妹達が待ってるから行くわね。」

「うん、いきなり質問したのに答えてくれてありがとう。また明日!」

「また明日。ばいばい。」

 

そう言って手を振りながら教室を出ていく中野さんを見送った後、僕はスマホをタップする。

 

「もしもし?ごめん上杉くん。お待たせ。」

『いや、構わない。それよりも今から時間あるか?』

「今から?うん。大丈夫だけど…」

『すまん…少しお前に相談したいことがあるんだが。』

「相談?珍しいね…何かあった?」

『少し居り入ったことでな…電話じゃなんだ。直接話が出来ると助かるんだが。』

「分かった。それじゃあ今から校門の前に行くからそこで待ち合わせで大丈夫かな?」

『大丈夫だ問題ない。』

「了解。」

 

再びスマホをタップして上杉くんとの通話を終了した僕は、カバンを掴んで教室を出る。

しかし、普段は人にあまり頼らない上杉くんが僕に相談だなんて珍しいこともあるものだなぁ。明日槍の雨でも降るんじゃない?と思わざるを得ない。

くだらないことを考えるより、今は友人の頼みを急いで聞いてあげなきゃね。そう思った僕は小走りで校門へ向かうのだった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

校門へたどり着くと、そこにはすでに上杉くんが到着して手帳を眺めていた。

ダッシュで上杉くんに近寄ると彼はこちらへ気づいたのか、手帳をポケットにしまってこちらを向いた。

 

「ごめーん上杉くん!お待たせ!」

「急に呼び出してすまないな御影。」

「ううん、全然。」

 

荒れた呼吸を整えながら、僕はそういう。

 

「ところで、相談って何かな?君が相談を持ち掛けてくるなんて珍しいね。」

「ああ、そのことなんだが…あまり人の大勢いるところで話すことでもないから、帰りながら話そうと思うんだが…いいか?」

「わかったよ、丁度帰り道も同じだしね。」

 

僕はうなずくと、上杉くんの隣に並んで校門を出る。

上杉くんの家は僕の家から徒歩5分程度で非常に近いため1年生の頃はよく一緒に下校していたんだよね。

それがクラスが別になった今はたまたま会わない限りなくなっていた…だからかな、久しぶりにこうして上杉くんと肩を並べて下校するのは悪くないと思うのは。

 

「久しぶりだね、こうやって一緒に帰るの。」

「そうだな…1年生の頃はよく一緒に帰ってたのを思い出す。」

「せっかく僕が色々話題振ってるのに上杉くんってばずっと参考書と睨めっこしてたりとかね。」

「当たり前だ。世間話をする暇があるなら勉強しなければいけないからな。」

「あはは、そうだね。」

 

こうやって他愛もない会話をしながら友人と帰る帰り道はいつもよりも輝いて見えた。

 

「…じゃあ本題に入ろっか。」

「ああ。」

 

さて、いつまでも雑談に花を咲かせているわけにはいかない。

僕は表情を引き締めると、上杉くんに問いかける。

 

「実は…上杉家の借金問題が解決するかもしれないんだ。」

 

かなり言いづらそうにしていたが、上杉くんは重たい口を開くとそう言った。

何を隠そう。1年生が終わりに差し掛かったころに、上杉くんの家はかなりの貧困家庭かつ家庭の事情により多額の借金を抱えているということを上杉くんは教えてくれた。

現在は上杉くんのお父さんの稼ぎだけでは足りないため更に上杉くんがアルバイトをすることにより、なんとか食いつないでいる状態らしい。

そして彼が「焼肉定食焼肉抜き」を頼む理由でもある。

 

焼肉定食焼肉抜きとは、上杉くん曰く「学食の最安メニューはライス(200円)だと思いがちだが、焼き肉定職から焼肉を抜くと同じ値段で味噌汁とお新香が付いてくるんだ」らしい。

なんともまぁ彼らしい涙ぐましい努力に僕の涙腺は一時崩壊し、今でも昼食では自分のおかずを少し分けてあげている。

今日はあの中野五月さんがいたから叶わなかったけど、本来なら今日も生姜焼き定職の生姜焼きを上杉くんに半分くらい分ける予定だったしね。

っと、話がそれたが、とにかく彼の家はものすごい貧乏だということ。そして彼の家が抱えている借金がなくなるかもしれない。こんなめでたい話はないだろう。

 

「実は食堂でお前と別れたあとすぐにらいはから連絡があってな。」

「らいはちゃんから?」

「ああ。親父が割のいいアルバイトを見つけてきたらしくてな。」

 

そこまで言ったところで、上杉くんの表情が曇る。無理もないだろうけどね。

ちなみにらいはちゃん、というのは彼の妹だ。上杉くんとは似ても似つかないほど礼儀正しく、そしてとてもかわいい。

まさしくこの世の天使である。

 

「なんでも『アットホームで楽しい職場!相場の給料の五倍を約束します!』がキャッチコピーらしい。」

「大丈夫なのその仕事?職場に行ったらいきなり白い粉渡されて運べとか言われない?」

「…人間の腎臓は片方なくても正常に生命活動は出来るらしいぞ。」

「ねぇ何で今その知識言ったの!?そんなにやばいの!?マジでそっち系の仕事なの!?弾の発射される金属の塊でドンパチやるの!?」

「落ち着け御影。仕事内容も聞かされている。」

 

…正直胡散臭すぎるけど大丈夫なんだろうか。友達として、そんな怪しい職場には行ってもらいたくないんだけども。

 

「仕事内容は家庭教師らしい。」

「どう見ても家庭教師という名のそっち系の仕事です本当にありがとうございました。」

「戻ってこい御影、話はまだ終わってない。その家庭教師の生徒ってのは、最近この辺に引っ越してきた金持ちのお嬢様らしいんだ。」

「お金持ちのお嬢様…ねぇ。」

 

そう言えば、今日転校してきた中野二乃さんと五月さんも黒薔薇女子に通ってたみたいだしいいところのお嬢様だよなぁ。

…まさかその生徒って中野さん達の事じゃないよな。ははは、まさかなー。

 

「名前は…中野というそうだ。」

 

Oh…ジーザス。どうすんだこれ、家庭教師始める前から詰んでないかな?クソゲーってレベルじゃないんだけど。

最近引っ越してきたお金持ちのお嬢様で中野さんって言えばもう中野さん達で決まりじゃないか。どうするんだ上杉くん。

 

「間違いない…俺のクラスに転入してきた中野五月。あいつが俺の生徒らしい。」

「あ、中野五月さんって上杉くんのクラスに転校してきたんだ。…で?快く家庭教師を受け入れてもらえそう?」

「声をかけても無視された。」

「でしょうね。」

 

僕は頭を抱えた。まぁそりゃ食堂であんな失礼な事を言ってしまっては中野五月さんが怒るのは当たり前だろう。

これに関しては上杉くんの自業自得としか言いようがない。

 

「…なんとなくわかったよ。僕が中野五月さんとの間に入って仲裁すればいいんだね?」

「その通りだ。見てないからわからないが、お前のことだ。あの後食堂で無難に中野と話したんだろう?」

「うん、ご名答。わかった、僕に任せておいてよ!」

「すまないな…お前は本当に頼りになる奴だ。」

「はは、僕には勿体ない言葉だよ。」

 

いいってことさ、と言いながら僕は上杉くんに対して親指を立てる。

…でも待てよ。確か同じクラスの中野二乃さんに聞いたところ、彼女達は2人を含めて五つ子だって言っていた。

相場の五倍の給料で、中野さん達は五つ子…同じ五という数字…嫌な予感がする。

 

「ねぇ上杉くん。生徒って中野五月さんだけなの?」

「そうじゃないのか?俺がらいはから話を聞いたときは人数の指定は特になかったからな。そもそも家庭教師は普通はマンツーマンだろう…」

「実はさ、僕のクラスにも転校してきたんだよ。…中野二乃さんって人が。」

「なんだって!?そいつも中野っていうのか?」

「驚くのはまだ早いよ。彼女本人に聞いたんだけど、僕のクラスの中野さんと上杉くんのクラスの中野さんは姉妹らしい。しかも彼女達は五つ子…5姉妹らしいんだ。」

「五つ子だと…?あり得ない…」

 

上杉くんは情報処理が追い付いていないのか、額に手を当てて天を仰いでいる。

 

「しかし、そういうことならば納得がいく。要は俺に5人分の家庭教師をしろということなんだろう。ならば相場の5倍という金額も納得だ。」

「確かにね。5人全員の面倒見るなら5をかけて5倍ってのには納得できるかも…」

「なんてこった…」

 

上杉くんの顔をのぞいてみると、彼はこの世の終わりのような絶望的な表情を浮かべていた。

彼の言う通り、普通の家庭教師はマンツーマン。1対1で勉強を教わるものだ。

しかし『アットホーム』な職場で『給料が相場の5倍』…あまりにも、彼から聞いた情報と合致しすぎている。

5人いるからわいわいアットホームで5人の面倒を見るから五倍給料を払うって照らし合わせて考えると、すべてのつじつまがあってしまうのだ。

 

「でも普通は家庭教師って大人とか大学生を雇うものじゃん?何で同級生の君を…いくら全国模試トップクラスの実力とはいえ。」

「それは俺に聞かずに雇い主に言ってくれ。」

「ごもっともだね。…ごめん。」

「構わんさ。」

「…受けるの?このバイト。」

「あぁ、受けようと思う。まだ五人全員の家庭教師をやると決まったわけじゃない。それに、相場の5倍の給料の仕事なんて他にあるわけもないしな。」

「最初から退路は断たれてるってことか…ハードモードもいいとこだね。」

「それに、らいはに『これでお腹いっぱいご飯が食べられるね!』なんて言われたら俺には断れなかった。」

「あぁ、それは無理だね。」

 

顔を見合わせてお互いに笑う。

らいはちゃんがそういうんじゃシスコン気味の上杉くんが断れるわけもない。

 

「わかった!頑張ってね上杉くん。僕も出来る限りの事は協力するからさ。」

「御影…お前にはいつも迷惑をかけてばかりだ、本当にすまない。」

「いいっていいって!気にしないで!」

 

さてと、そうと決まれば明日どうやって中野五月さんと上杉くんを引き合わせて話をさせるかが問題になってくるな。

2人は同じクラスと言うこともあって今日のひと悶着がなければいくらでも話す機会はあるはずだが、昼の一件のせいで仲最悪の状態ではとても無理だろう。

…仕方ない。ここは僕と同じクラスの中野二乃さんに頼むしかなさそうだ。明日、妹さんと話をさせてほしいと登校したら頼んでみようかな。

中野さんの僕に対する印象は話した限りでは悪くないはず…中野五月さんと話をしたいと頼んで、そのあと食堂で2人を引き合わせて僕が仲裁に入ればいいだろう。

その際にもうついでなので、中野二乃さんを始めとした他の姉妹にも来てもらえば上杉くんを一回で紹介できるし一石二鳥だ。よし、この作戦でいく。

そんなことを考えながら僕達は通学路を踏みしめ、帰路へ着くのだった。




第1話をお読みいただきありがとうございます
作者のやきそばの具です

まだまだ至らない点も多いと思いますが、よろしくお願いします
ちなみに見切り発車すぎてヒロインが決まってなかったり
プロットもガバガバだったりしますが、今後はうまくまとめていければと思うので
暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです
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