五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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最近筆がなかなか進まない…


第11話 中野家にて

五人全員の五科目の赤点回避。

 

文字列にしてしまえばなんてことないように見えるが、中野姉妹にとってこれは至難の業である。

やる気のある3人はまだいいが、やる気のない2人が問題すぎる上に1人は上杉くんと仲違いしてるし1人は授業を受けるつもりがないという始末。

そして全員学力は最低レベル。そしてタイムリミットは中間試験までの一週間。こんなん無理ゲーでしかない。誰がクリアできようかと言うレベルである。

 

賭けるのは「家庭教師の解雇」と言う絶望的な条件。

もはや悩むのを通り越して笑えるレベルであるが、僕達はそれでも諦めるわけにはいかなかった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

時は土曜日。

今日も今日とて家庭教師をするために赴いた上杉くんの付き添いで、僕は中野家へとやってきていた。

いつも通り授業に参加しているのは一花さん、三玖さん、四葉さんの3人のみである。もうこの光景も見慣れてきたもんだけど。

今日は朝からテスト範囲の徹底予習&復習。昼食をはさんで授業範囲の復習と僕が作成した予想問題集、テキストを使った応用の勉強などである。

自分の首がかかっているということもあり上杉くんはえらい気合の入りようであった。空回りしている気がしなくもないけどね。

 

ちなみに上杉くんと五月さんは未だに仲違いをしたままであった。

僕が何度か五月さんに上杉くんと仲直りするように伝えても突っぱねられるし、かと言って実際に顔を合わせてもお互いに謝る気配がない。

両方とも強情すぎてここまで来ると逆に笑ってしまうレベルだ。似た者同士何故仲良く出来ないのか理解に苦しまざるを得ない。

特に上杉くんは「何であんな事言っちゃったんだ!」とか「首がかかってるのに仲違いしてる場合じゃないだろ!」って言ってたような気がするんだけど。

まぁ、僕も二乃さんとのことがあるんだから人のことは言えないんだけどさ。

 

「上杉さん!御影さん!私結婚しましたー!」

 

そんなことをぼんやりと考えていると、テーブルをはさんだ向かい側にいる四葉さんが突然そう口走った。

テーブルへ目を落とすと、そこにはやたら派手なルーレット。おもちゃの紙幣。独特の車型のコマと赤と青の棒人間のレプリカなどが置かれている。

そう、僕達は勉強の息抜きと言うことで現在は5人で人生ゲームをやっている最中であった。

 

「ご祝儀ください!」

「あ、あぁ…」

「分かった。えーっと、こんなもんかな。」

 

僕と上杉くんは手持ちのおもちゃの紙幣からいくらかを四葉さんへの祝儀として手渡す。

 

「ありがとうございます!」

「次…私の番。」

「くっ…ゲームでも貧乏な俺…」

 

上杉くんは自分のゲームでの残り資産を数えながら苦悶の表情を浮かべた。

 

「…って、エンジョイしてる場合か!休憩終わり!さぁ勉強の続きを始めるぞ!」

 

そう言うと、上杉くんは紙幣をテーブルに叩き付けながら立ち上がってそう宣言した。

 

「えー!?でも今日はたくさん勉強したし…」

「もう頭がパンクしそうです…」

「無理は良くない。」

「そ、それはそうだが…」

「まぁまぁ上杉くん。彼女達の言う事にも一理あるんじゃない?今日は朝から勉強してるんだし、息抜きも大事だよ。上杉くん自身のもね?」

 

張り切っている事は大いにいいことだと思うんだけど、やはりこの子達もこの子達で息抜きは必要だ。

人間、1日中勉強にだけ集中できる人種はむしろ少ないと言ってもいいだろう。勉強をして、適度に息抜きもした方が勉強だけやるよりは頭にも入ってきやすいと思う。

それに、上杉くんは最近焦って余裕がないからね。首がかかってるんだし気持ちは分かるけど、だからこそ上杉くん自身も息抜きを忘れないで欲しいし。

 

「そ、それは確かにそうだが…!」

「…フータロー、なんかいつもより焦ってない?」

「私達、そんなに危ないんですか?」

「い、いや…その…」

 

三玖さんに焦りを見抜かれた動揺からか、上杉くんの目が宙を泳ぐ。

まぁ無理もないだろう。彼からしてみたらこの子達はまだまだ学力が足りない。これだけ詰め込んでいてもやっと基礎が終わるかどうかというレベルである。

僕の目から見てもこれじゃ中間試験に五科目とも赤点回避は全部マークシート形式でもない限りは不可能だろう…特に四葉さんは。

 

「あー!なんだ勉強サボって遊んでるんじゃない!私もやる!」

 

そんなことを考えていると、いつの間にかリビングへとやってきていた二乃さんが会話に混ざってきた。

…と言うか、いつも思うけど二乃さんの服のセンスって結構いいよね。今関係ないけど。

 

「勘違いしないでもらいたいんだけど、サボってるんじゃなくて息抜きでやってるだけだよ。」

「うっさいわね!そうだ、あんた変わりなさいよ?」

「何で僕が変わらないといけないのさ…」

「じゃあ上杉でもいいわ。…って、お金すっくな…」

 

そう言うと、上杉くんのゲームの紙幣を引っ掴んだ二乃さんは顔をしかめながらそう言った。

そんな二乃さんの事を上杉くんは苦虫をかみ潰したような表情で見ている。…まぁ無理もないだろう。

もし、この子に上杉くんの首の条件が知られでもしたら…考えるだけでぞっとする。

 

「あんたも混ざる?」

「…あんたって誰さ?」

「そこにいる五月のことだけど?」

「えぇ!?い、いつの間に…」

 

二乃さんが指をさした方を見ると、そこにはいつの間にか後ろに立っている五月さんの姿があった。

僕は上杉くんに素早くアイコンタクトを送り「謝れ」と口パクで伝える。上杉くんはうなずくと、おずおずと口を開いた。

 

「い、五月!こ、この前は…その…」

「私はこれから自習があるので。」

「お、おい…!」

 

声をかけようとした上杉くんのことを無視してそう言った五月さんは、そのまま階段を上って自分の部屋に閉じこもってしまった。

…ダメだ、こりゃ本格的に重症すぎる。多少時間がたってもこれって一体彼女に何を言ったんだ上杉くん。

時間がないのにこんなことをしている場合ではないんだけど、これは本格的になんとかしないと赤点回避以前の問題だ。

 

「さ、あんた達も今日のカテキョ終わったんでしょ?帰った帰った!」

 

不意に手を掴まれたかと思うと、二乃さんが顔を近づけてきてそう言った。

そしてそのままの流れで上杉くんにも近寄っていくと、背中を強引に押して上杉くんをリビングから追い出そうとする。

僕はそれを阻止するため、立ち上がって二乃さんの手首をつかんだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ二乃さん!」

「なによ!カテキョ終わったんならいつまでも居座ってんじゃないわよ!あと何さらっと私の手首触ってるのよ!」

「落ち着いて!人生ゲーム終わったらまた勉強再開するからまだ終わってないって!」

「うっさいわね!かーえーれー!」

「やだ!帰らない!」

「帰れって言ってんのよ!」

 

手首を掴んだ報復なのかは分からないが、二乃さんはそう言うと僕の肩を掴んで力を込めて押して来た。

僕も負けじと彼女の肩を掴んでお互いに押し合いへし合いをしながら言い合いをする。

まずいな…これじゃ何も解決出来ない…

 

「ちょっとフータロー君!キョーヘー君!」

 

そんな事を思ったその時だった、不意に一花さんが立ち上がりながらそう声をかけてくる。

 

「約束が違うじゃん!」

「「「え?」」」

 

その言葉に、僕と上杉くんと二乃さんは声をハモらせた。

約束?約束…なんか約束してたっけ?

 

「今日は泊まり込みで勉強を教えてくれるって話でしょ?」

「「…え?」」

 

そう言うと、一花さんは教科書を見せつけながらそう言ってきた。

なるほど、そういうことか!一花さんナイス!僕はアイコンタクトで一花さんに合図を送ると、一花さんは軽く頷いた。

 

「そ、そうだったね!すっかり忘れて…」

「「えぇぇぇぇぇ!?」」

「…たよ。」

 

僕が彼女に話を合わせようと口を開くと、上杉くんと二乃さんの驚愕した叫びがこだました。

いや、君まで叫んじゃだめでしょ上杉くん。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「ふー…いい湯だった…上杉くん、空いたよ!」

「お、おう…じゃあ俺は風呂入ってくるわ。こいつらの勉強、教えておいてやってくれ。」

「合点承知!」

 

濡れた頭をハンドタオルでごしごしとふきあげながらそう言うと、上杉くんはそう言い残して風呂場へと向かっていった。

結局あの後泊まり込みで勉強会をやる事を一花さんと僕とで強引に押し通したため、本当に僕と上杉くんは泊まり込みで五つ子達の勉強を見ることになったわけだ。

ちなみに僕は一旦着替えを取りに家へ帰ったんだけど、上杉くんの着替えはらいはちゃんに頼んで用意してもらったものを持ってきたため野郎どもの着替えは準備万端だ。

そして夕食を終えたあと(二乃さんが作る気なかったためピザの出前になった)五つ子、僕の順でお風呂に入って最後の上杉くんを送り出して今に至る。

それじゃあ上杉くんが出てくるまで勉強を見ているとしよう、僕はいつものメンツに近寄るとノートをのぞき込んだ。

 

「えーっと、今どの辺やってるの?」

「私は数学の公式の辺りかなー。」

「社会の日本史の辺り…」

「私は国語です!」

 

なるほど、どうやら今はそれぞれの一番得意な科目をやっているようだね。

この五つ子は顔は同じなのに得意科目はそれぞれバラバラだ。

上杉くんの実施した最初の小テストを見る限りでは一花さんは数学、二乃さんは英語、三玖さんは社会、四葉さんは国語、五月さんは理科が正解率が高い傾向にあった。

まぁ…得意科目、と言うよりは一番成績がマシな科目と言った方が正しいかもしれないけど。

 

「キョーヘー先生!ここなんだけど、教えてくれない?」

「あ、了解。どこかな?」

 

一花さんに呼ばれたため、僕は一花さんの隣に座っている三玖さんの更に横に座ると一花さんのノートをそのまま覗き込む。

 

「はーい!詰めて詰めて!」

「ちょ!?一花さんなにを!?」

 

その瞬間だった、一花さんは三玖さんに体を押し付けるとそのままこちらへグイグイと押すように移動させてくる。

完全に不意打ちを食らった僕はその場で硬直する。

するとそのまま一花さんがこちらへグイグイと押し出した三玖さんがバランスを崩しそうになったため、慌てて体全体を受け止めるように抱きかかえる。

ってか、風呂上がりでパジャマなせいでいつもより薄着だから色々とやばいって…!

 

「きょ、キョーヘー…!?」

「ご、ごめん!ちょっと一花さん!?危ないじゃん!」

「あはは、少しはドキドキしたでしょ?」

「少しどころじゃないよ!ドッキドキだよ!」

「だってさ三玖!良かったね!」

「ちょ、ちょっと一花…!」

 

そりゃ普通はこんな美少女が倒れこんできたらドキドキするでしょ…一花さん、これ絶対狙ってやったな。超いい笑顔だし。

三玖さんはしばらく僕に抱きかかえられていたが、顔を真っ赤にするとおずおずと自分のノートの前へ戻った。

 

「ご、ごめん。とっさにああなっちゃったけど…」

「ううん。いい。大丈夫。ありがとう。」

「いやぁ青春ですなぁ!四葉先生!」

「これは熱いですねぇ!一花先生!」

「だからそのやり取り気に入ってるの!?」

「うっさいわねあんた達!もう少し静かにしなさいよ!」

 

そんなやり取りをしていると、いつの間にかリビングに来ていたらしい二乃さんが後ろから文句を言ってきた。

 

「…あれ、あんた達だけ?上杉は?」

「上杉くんならさっきお風呂へ向かったよ。」

「ふーん、そう。」

 

そう言うと、二乃さんはそのまま台所へ向かって姿を消した。

一瞬、彼女が何かを思いついたような表情をしていたが一体何だったんだろう…まぁ、それは置いておいて今は勉強に集中しよう。

 

「とりあえず、各自今やってる範囲を終わらせちゃおうか。」

「了解です御影さん!」

「分かった。がんばる。」

「んー!それじゃあもうひと頑張りしようかな!」

 

3人はそう言うと、それぞれのノートを目を落として勉強を再開した。

この3人だけでもこうやってきちんと勉強をしてくれているのを見ると、上杉くんも僕も今まで頑張ってきた甲斐があるなぁとしみじみと思う。

最初なんて四葉さんだけだったからな…まともに勉強に対してやる気があったのは。

そんなことを思いつつ、僕はカバンの中から作りかけのテキストと予想問題集をテーブルに置くと完成させるために手を加え始めた。

 

「…キョーヘー、何やってるの?」

「予想問題集とテキストを完成させようと思ってさ。二乃さんと五月さんの分をね。」

「二乃と五月ちゃんの分を?」

「そうだよ。確かにあの2人は上杉くんの授業を受けてくれないけど、だからってないがしろにしていいわけじゃないからさ。」

「それでテキストを作ってくれてるんだね。」

「うん。二乃さんはともかく、五月さんは勉強自体への意欲はあるからね。何もしないよりはましかなって思ってさ。」

「おぉ!さすがは御影さんです!」

「あはは…僕としても君達にはちゃんと卒業してほしいからね。」

「キョーヘーは優しいね。」

「そんなことないよ。ただのお節介みたいなものさ。」

 

まぁ、五月さんはともかく二乃さんはこうでもしないと絶対に勉強してくれないだろうからね。

上杉くんの首もかかってるんだ、首根っこ掴んででも勉強させてやるさ。

 

「でもフータロー君もキョーヘー君もここまで私達の事考えてくれてるなんてね。じゃ、私達ももっと頑張らなきゃね!」

「御影さんと上杉さんのためにも、私も頑張っちゃいますよー!」

「キョーヘー、私頑張る。フータローのためにも。」

「みんな…うん、ありがとう!一緒に頑張っていい点取ろう!」

 

あぁ、本当にこの3人はいい子だなぁ。僕の目にはこの3人の背中には天使の羽が生えてみるよ。

この調子だとテスト範囲の詰め込みは前日までかかりそうだけど、なんとか出来なくもなさそうだね。問題はやっぱり二乃さんと五月さん…だよなぁ。

五月さんは上杉くんと仲直りしてもらいさえすれば勉強自体に意欲はあるからなんとかなりそうではあるんだけどね。

二乃さんをどうやって説得するかが問題だ。…いっそ、赤点回避出来たらなんでも言う事1つ聞いてあげるよとか言ってみてもいいかもね。

 

「…あら、あんた達まだやってたの?」

 

噂をすればなんとやら、だ。台所へ行ったきり行方の分からなかった二乃さんはいつの間にかリビングへ戻ってくると、僕達へ向けてそう問いかけてきた。

 

「試験へ向けての対策だよ。悪い?」

「別に悪いとは言ってないわよ。」

 

そう言うと、二乃さんは僕達がテキストを広げているすぐ後ろのテーブルの椅子に座るとスマホを触り始めた。

…よりによってそこでやるんかい。勉強に参加しないなら自分の部屋に戻ればいいのに。

 

「そこにいるなら勉強に参加したら?」

「お断りよ。」

 

バッサリである。これは骨が折れそうだ。仕方がないから後で部屋に押しかけて無理やりにでも予想問題集を押し付けて勉強させるしかないな。

それにしても、やたらと二乃さんが上機嫌なのが気になる。何かいいことでもあったんだろうか。

 

「…そう言えば、上杉くんお風呂行ったきり帰ってこないな。」

「上杉さん、お風呂長いんですね。」

「きっと美少女達の残り湯を堪能してるんだよ!」

「ただの変質者じゃんそれ…あと君達が上がった後に僕も入ってるんだけど。」

「美少女5人の後に男1人入っても美少女の方が人数が多いから勝つ。つまり美少女の残り湯なのだよ、キョーヘー君。」

「どんな理論!?」

 

そう言って、一花さんは口に手を当てて笑う。

 

「まったく…そんなことよりも勉強を…」

「あ、上杉さん!おかえりなさーい!」

「待たせて悪かったな。」

 

またまた噂をすればなんとやら、いつの間にかリビングへと戻ってきた上杉くんに対して四葉さんが笑顔で声をかけていた。

僕も彼に声をかけようとテキストから顔を上げたが、彼の顔を見た瞬間に僕は硬直した。

上杉くんはお風呂から上がってきたにも関わらず、冷や汗をだらだらと流して真っ青な顔をしていたからだ。

…これは何かあったな?とにかく話を聞いた方がよさそうだ。

 

「早速、試験対策を…」

「上杉くん上杉くん。ちょーっと今度実施する予想テストに関することで話があるんだけど。」

「予想テスト?なんだそれは、俺はそんなものを実施する予定は…」

「いいから、話を合わせて。」

 

何かあったんでしょ、と小声で彼に伝えると彼は一瞬体を震わせてから僕を見据えた。

そして軽くうなずくと、僕もそれに合わせて軽くうなずく。

 

「そ、そう言えばそうだったな。お前ら、俺はちょっと御影と教材の件で話があるから勉強を進めておいてくれないか?」

「了解しました!」

 

四葉さんが元気よく返事をすると、それに続いて一花さんと三玖さんも首を縦に振った。

僕と上杉くんはそれを確認するとリビングを出て玄関まで赴き、ドアを開けてマンションの廊下へと出る。

 

「…で、何があったの?」

「な、何があったって…一体何のことだ?」

「君の表情見れば分かるよ。お風呂で何かあったんでしょ?」

 

僕がそう言うと、上杉くんは一瞬目を見開く。

 

「お前には叶わないな…」

「まぁそりゃ伊達に友達やってないしね。…で、どうしたのさ?」

「実はな…二乃に俺の首の条件がバレちまった。」

「ゲームオーバーじゃんか!?」

「あぁ…赤点で解雇なんてあいつにとっては好都合すぎる。絶対に勉強にいそしまない。いそしまないことにいそしむに決まってる!」

 

その言葉を聞いた瞬間、僕は頭を抱えた。

なんてこった…ただでさえ五月さんと上杉くんが仲違いしてるっていうのに、そこに一番知られたくない二乃さんに上杉くんの首の条件を知られてしまうとは。

こんなことを二乃さんが知ったら絶対に今以上に勉強に取り組むわけなんてない。何が何でも赤点を取るための努力をするに決まってる。

詰んだ…完全に詰んだ…

 

「な、なんでそんなことになったのさ…」

「風呂に入ってるときに奴に五月のふりをされてしまってな…謝るのと同時に事情を説明しようと思ったら二乃だったんだよ。」

「姑息な手を使うなぁ…そこまでして家庭教師がいらないって言うのか。」

 

難易度は正直ナイトメアモードってレベルじゃない。エキスパートモードを通り越して無理ゲーどころかクソゲーになってしまったけど。

それでも、僕は二乃さんに言ったからね。どんなことをしようと何をしようと、絶対に真っ向からぶつかってやるって。

彼女が何が何でも家庭教師を排除しようと動くなら、こっちだって何が何でも勉強をさせてやろうじゃないか。

 

「分かった。上杉くん、二乃さんの事は僕に任せて。どんな手を使ってでも勉強させてやるからさ。」

「本当か!?頼む御影!こればっかりは…すまないが俺にはどうしようも…」

「いいっていいって。その代わり、君は早く五月さんと仲直りしなよ。事情を知った二乃さんが相手となると、付きっ切りになるかも。多分相当手ごわいだろうから。」

「分かった。やれることはやってやるさ。」

「まぁ前途多難ではあるけど、なんとかなるでしょ。頑張ろうよ。」

「あぁ!…ありがとうな、御影。」

「いいって。お安い御用だよ。じゃ、戻ろうか。」

 

僕と上杉くんは顔を見合わせて笑うと、玄関のドアを開けて中野家のリビングへと向かう。

問題はどうやって二乃さんを説得するかだよな…こっちも彼女の弱みか何かを握ってやれればいいんだけど、さすがにそんなことをするのは気が引けるし。

どうしたもんか…と頭をひねっているうちに、僕と上杉くんはリビングへ戻ってきた。

ちなみに、二乃さんは相変わらずリビングの椅子に座ってスマホを眺めていた。

 

「あ、上杉さんに御影さん!お話はもう済んだんですか?」

「うん。ちょっと範囲の再確認をしてて。ね?上杉くん。」

「あ、あぁ!どこまでを出すかは重要だからな!」

 

上杉くん、もうちょっと動揺を隠さないとばれちゃうよ…

 

「二乃さんもそこにいるんだったら勉強したらどう?」

「私には必要ないから。」

「20点取った人が言っても説得力がないんだけど。」

「うっさいわね!やらないっつってんでしょ!」

 

駄目だ、取り付く島もない。

ひとまず説得は後でするとして、今は3人の勉強を進めるとするか。

 

「じゃあ勉強を始めるぞ!分からないところはなんでも聞いてくれ!」

「はい!」

「四葉くん!」

「討論って英語でなんて言うんですか?」

「いい質問ですね!debate。でばてと覚えるんだ。debate。でばてだ!これは確実に試験に出るぞ!」

 

ドヤ顔で知識を披露すると、上杉くんは二乃さんへ視線を向けて「俺は使える男だぞ」と言わんばかりにアピールを始めた。

しかし当の本人はスマホに夢中でこちらに気づいていない始末である。…上杉くん、頑張れ。超がんばれ。

 

「…はい。」

「三玖くん!」

 

続いては三玖さんが分からないところがあったようだ、控えめに手を上げた。

 

「教えて欲しいこと…2人の好きな女子のタイプは?」

「…え?」

「…は?」

 

彼女の口から出てきた言葉を聞いて、僕と上杉くんは揃って困惑した。

…えっと、僕と上杉くんの好きな女子のタイプ?あれ、それって勉強に関係ないんじゃないですかね三玖さん。

ちなみに何故か三玖さんは僕に向けて熱い視線を向けている。いや、そんなの向けられても…

 

「…それ、今関係ある?」

「はいはーい!私は俄然興味ありまーす!」

「そんな事言われても…どうするよ上杉くん?」

「…いいぞ、そんなに知りたければ教えてやる。」

「えぇ!?教えるの!?」

 

てっきり却下するとばかり思っていた僕は、上杉くんの意外な答えを聞いて驚愕の声を上げた。

 

「ただし!ノートを1ページ埋めるごとに発表します!」

 

そう言うと、上杉くんはどこからともなく「上杉風太郎の女の子の好きなトコベスト3」という看板を取り出した。

そして、もう片方の手には「御影恭平の女の子の好きなトコベスト3」と書かれた看板を手にしている。随分と用意周到だな。いつ用意したんだこんなの。

そしてそれを聞いた女性陣は一心不乱にノートを埋めるための作業を始めた。効果はてきめんだったみたいだね。

 

「…って、上杉くんなんで僕の好きな女の子タイプなんか知ってるのさ!?」

「お前、前に言ってただろ?たまたま覚えてたから作ってみたんだが…」

「いや作ってみたんだがじゃないけど!?そもそもいつ作ったのこれ!?そして僕のプライバシーはどこに行ったのさ!?」

「勉強のためだ、許せ。」

「理不尽すぎるよ!…まぁ、そのくらいいいけどさ。」

 

色々と突っ込みたいところが多すぎるが、なんかもう面倒になってきたので全部スルーすることにしておこう。

まぁ年頃の女の子ってこういう話題大好きだろうし、エサで釣るって言ったらいい方は失礼だけど一番動かしやすい方法と言えば間違いないのかな。

僕は観念すると、上杉くんから僕の名前が書かれているボードを受け取った。

 

「はい、出来ました!」

 

しばらくすると、一番最初にノートを埋め終わった四葉さんが手を挙げた。

 

「では、俺が好きな女の子のタイプ第3位は…いつも元気!」

「僕が好きな女の子のタイプ第3位は…気配りができる、だよ。」

「はい、出来た。」

 

続いて三玖さんが手を挙げる。

 

「第2位は…料理上手だ!」

「僕の第2位は…優しくて芯の強い人、だよ。」

「終わったよ!」

 

最後に一花さんが手を挙げた。

 

「よし!俺の第1位は…お兄ちゃん思いだ!」

「それあんたの妹ちゃんじゃん!」

「って、それらいはちゃんじゃん!」

 

上杉くんが1位を発表すると、思わず声を上げた僕と二乃さんの上げた声が丁度ハモってリビングにこだました。

 

「なんだ二乃。盗み聞きするくらいならお前も一緒に勉強を…」

「聞きたくなくても耳に入るわよ!」

「まぁそりゃそこにいたらそうなるよね…」

「上杉さん!らいはちゃんだったなんでずるいですよ!せっかく頑張ったのにー!」

「俺のスタンスは前にも言ったろ…恋愛なんて…」

 

上杉くんは四葉さんに詰め寄られてタジタジになっているようだ。

 

「…で?あんたの一位はなんなのよ?」

「えぇ…これ発表しなきゃダメなの?」

「そりゃそうだよ!じゃなかったら私達、頑張った意味ないじゃん!」

「キョーヘー。私、早く見たい。」

「わ、分かったよ…じゃあ発表するよ。僕の第1位は…」

 

えーい、もうどうにでもなれ!僕は覚悟を決めると、半ばヤケクソでテープをはがした。

 

「甘やかしてくれる子、だよ!」

「えっ…」

 

僕がそう叫ぶと、一瞬リビングが静まり返る。

は、恥ずかしすぎる…だから発表したくなかったんだよ!

 

「キョーヘー、甘やかしてくれる子が好きなの?」

「…色々あって親にあんまり頼れない生活しててね。誰かに甘えるって機会が中々ないんだ。だから甘えてみたいなって願望も入ってるけどね。」

「ふーん、あんたにまさかそんな趣味があったなんてね…」

「まあいいんじゃない?キョーヘー君も男の子だもんねー。」

「へー、そうなんだ…あんたは甘やかしてくれる女の子が好きなのね…へぇ…」

「キョーヘーは甘えられる子が好きなんだ…」

 

…なんか、二乃さんと三玖さんが2人そろってニヤニヤしてるんだけど一体何なんだろう。よくわからないけど背筋に寒気を感じる。

 

「よ、四葉やめろぉー!」

「待ってください上杉さーん!」

 

そして上杉くんと四葉さんはいつの間にかリビングで運動会を始めていた。

もう夜だと言うのに元気のいいことだ。

 

「…騒がしいですよ?」

 

そんなこんなで僕達がリビングでギャーギャーと騒いでいると、いつの間にか自分の部屋から出てきていたらしい五月さんが声をかけてきた。

五月さんの方を見ると、表情は曇っている。…まぁ自室で自習しているのにリビングが騒がしければ不快な思いもするか。少し悪いことをしてしまったな。

 

「勉強会とはもう少し静かなものだと思っていましたが…」

「あはは…ごめんね。」

「ふん…それじゃあ私は部屋に戻るから。」

 

そう言うと、二乃さんはさっさと階段を上って自室へと閉じこもってしまった。

そんな彼女を尻目に僕は上杉くんに謝るようアイコンタクトを送るが、当の本人は五月さんを見つめたまま硬直していてとてもじゃないが声をかけられる状態ではなさそうだ。

確かに喧嘩した相手に面と向かっては謝りにくいとは思うけど、早く仲を修復しないと取り返しのつかないことになるぞ。

 

「…三玖、ヘッドホンを貸してもらえますか?」

「いいけど…なんで?」

「1人で集中したいので…」

 

それだけ言うと、彼女は三玖さんから受け取ったヘッドホンを首にかけると背を向けて階段を上ろうとする。

まずい、さすがに声をかけよう。ここで逃してしまっては本当に謝るタイミングを失ってしまう。

 

「いつ…」

「おい五月!」

 

そう思った僕が声をかけようと口を開いた瞬間だった。僕よりも先に上杉くんの声がリビングに響き渡る。

五月さんは驚いたように振り向くと、上杉くんを見据えた。

 

「…お前を信用していいんだな?」

「足手まといにはなりたくありません。」

「だったら五月、せめてこいつを受け取ってくれ。」

 

そう言うと、上杉くんはテーブルの上に置かれた五月さん専用の予想問題集とテキストを彼女へ手渡した。

 

「御影、こいつはもう完成してるよな?」

「もちろんだよ。五月さんのは見直しも終わってる。二乃さんのはまだだけどね。」

「と言う事だ。これは俺と御影が2人で作ったテスト範囲の予想問題集とそのテキストだ。これをお前に渡しておく。」

「い、いりません。私はあなたの助力は必要ありません。」

「何の指標もなく勉強するよりは少しでも参考になるものがあったほうがいいだろ。いいから受け取ってくれ。」

「…分かりました。受け取りましょう。ただし、使うことはないと思いますが。では…失礼します。」

「おい五月!この前はその…っておい!」

 

半ば強引に彼女にテキストを渡した上杉くんは彼女に謝ろうとしたようだが、彼女は聞く耳を持たずにさっさと二階へ上がると自分の部屋に閉じこもってしまった。

…本当に強情だなぁ。似た者同士なんだし、一回和解さえしてしまえばうまくいくような気もしなくもないんだけど。

 

「…あ、ほらフータロー君見て!星がきれい!」

「は?」

「ちょっと休憩しよ!ほらおいで。」

「え…お、おい!」

 

一花さんは何かを察したのか、上杉くんの腕を引っ張ると2人でベランダへと出て行こうとする。

その際、彼女と目が合う。すると、彼女はウインクをして口パクで「任せて」と言うとそのまま上杉くんを引っ張ってベランダへと出て行った。

 

「…ありがとう。一花さん。」

 

恐らく、今ので上杉くんと五月さんの間に何があったのかを大体察してくれたのだろう。

だったら上杉くんは一花さんに任せておいた方がよさそうだ。長女の一花さんならきっと仲直りの方法を彼に伝えてくれるだろう。

 

「それじゃ、僕達は勉強の続きやってようか!」

「うん、そうだね。」

「わっかりましたー!張り切ってやりますよー!」

 

そう言って三玖さんと四葉さんをテーブルへ向かわせた僕は同じテーブルの正面に座り、二乃さんのテキストを完成させるために手を動かし始めた。

 

「家綱、綱吉、家宣。」

「なるほど…家綱、綱吉、家綱…」

「違う2人居る。」

「あぁそうか!家綱吉…家宣…」

「合体してる…」

 

目の前でそんなやり取りをしている2人を横目に、僕はペンを走らせていた。

三玖さんは社会の中でも日本史の知識に関しては上杉くんにも負けずとも劣らないものを持っている。

そのため、上杉くんや僕の手が回らないときにはこうやって他の姉妹に教えてくれているのだ。実際に教えながらやる方が自分の身にもなるしね。

僕は彼女に心の中で感謝しつつ、二乃さん用のテキストの見直しにかかる。

 

「…そう言えばキョーヘー。本当に私のベッド使わなくていいの?」

「あぁうん。大丈夫だよ。さすがに男2人で女の子の部屋のベッド使わせてもらうのは悪いしね。」

 

僕はテキストを見ながらそう返事を返した。

中野家に宿泊が決定して僕と上杉くんがどこで寝るのかと言う話になったとき、最初は三玖さんの部屋のベッドで2人で寝たらいいという話が出たんだけど…

さすがに男2人して女の子の部屋のベッドを使うのは忍びないので、僕と上杉くんで話し合った結果リビングに布団を敷いて寝かせてもらうことになった格好だ。

ちなみに布団は1組しかないらしいので、僕か上杉くんのどっちかはソファで寝ることになりそうだがそれはまぁどうでもいいだろう。

 

「…よし、出来た。」

 

二乃さんのテキストの見直しを終えた僕は、テーブルに一旦テキストを置いて背伸びをする。

そして腹を括ると、僕はテキストを持って立ち上がる。

 

「キョーヘー?どこ行くの?」

「ちょっとこれを二乃さんに渡してくるよ。今勉強してないのは彼女だけだ。彼女にも勉強してもらわないといけないからね。」

 

そう言うと、僕は階段を上るために足をかける。

 

「三玖さん、四葉さん。もしかしたら結構長くかもしれないから、その場合は終わったら切り上げてていいからね。」

「うん、わかった。…真剣に向き合えばきっと二乃も分かってくれるよ、頑張って。」

「ふぁいとですよ!御影さん!応援してます!」

「2人とも…うん、ありがとう。頑張ってくるよ!」

 

三玖さんと四葉さんに向けて感謝の言葉を言った僕は、二乃さんの部屋へ向かうために階段を踏みしめるのだった。




ここまで1日1話ペースで来ましたが
そろそろ筆が追い付かなくなってきそうなので
2日に1話、もしくは3日に1話くらいのペースに
落とすかもしれません

一回書きだした以上、絶対に完結はさせますので
自分のペースでゆっくり執筆できればと思います

読者の皆様をお待たせすることになるのは
大変心苦しいですが、ご了承いただければ幸いです
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