五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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オリジナル展開だと
不自然さをなくす作業がしんどかったり


第13話 次女と三女と勉強と

最近、1つ分かったことがある。

女の戦いは怖い。それも姉妹喧嘩ってのはどうしようもなく面倒くさくて。

そして、どうしようもなく騒々しいものだということだ。

 

「うるさい。二乃は黙ってて。」

「なんですって!?あんたこそ黙ってなさいよ!」

 

僕の目の前では二乃さんと三玖さんが顔を見合わせてギャーギャーと言い争いをしていた。

 

「あの…2人とも、そろそろ…」

「うるさいわね!私は今三玖と話をしてるのよ!あんたは引っ込んでなさい!」

「大丈夫キョーヘー。すぐ終わらせるから。」

「いや、そうじゃなくって!」

 

だー!もう!なんでこうなったんだよーッ!!!

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「…何をやっているんですか?あなた達は。」

 

全ての始まりは五月さんのその一言からだった。

結局、あの後二乃さんと三玖さんに挟まれて思考を放棄した僕は二度寝に突入したわけなんだけど。

 

「…ふぁぁ、あれ?五月さん?」

「お腹が空いて二乃を起こしに来てみれば…3人で寄り添って添い寝ですか?随分と仲良くなったんですね?」

 

どうやら五月さんは朝ご飯を食べたくて二乃さんを起こしに来たらしい。どこまでも行動の根底に食欲のある子だと言わざるを得ない。

僕はそんな彼女を寝ぼけた目で見つつ、頭にハテナマークを浮かべながら問いかけた。

 

「添い寝って誰とさ…?」

「何を言ってるんですか?あなたの両隣の二乃と三玖ですよ。」

「両隣?………あっ。」

 

そこまで言われたところで、僕の思考は急激にクリアになっていく。

…そうだった。僕は何故か三玖さんに隣に密着されて二度寝を始められてから思考を放棄して何も考えずに寝てしまったんだった。

って言うかこの状況、どう言い訳しよう。いい方向に見積もってもかなりまずい状態だと思うんだけど。

…いや、テーブルの上には勉強の教材が置いてあるし勉強しててそのまま寝てしまったと言い訳をすればいけるか?

五月さんは恐らく昨日は自分の部屋に閉じこもって勉強してたはず…ならいけるはずだ。

 

「い、いや…実は二乃さんと三玖さんと3人で勉強しててさ。夜中までやってたからそのまま寝落ちしちゃったみたいで。」

 

僕は精いっぱいの笑顔を作りながら、冷や汗を流しつつ震える声でそう言った。

別にやましいことは何もしていないからな。それは本当だ。ただ、本当だとしても第三者からどう見えるかと言うのはまた別問題なわけであって。

それに、もし彼女が三玖さんが朝に二乃さんの部屋に来るところを見られているとアウトだ。正直、賭けではあるけど。

 

「…どうやらそのようですね。テーブルの上に教材も散らばっているようですし。」

 

五月さんはテーブルの上に広げられた教科書を眺めながら、意外にもアッサリと信じてくれたようだった。

…良かった、とりあえずこれでひとまずは大丈夫だろう。

 

「すみません、変な誤解をしてしまいました。私はてっきり御影君が2人といかがわしいことでもしていたのかと…」

「そ、そんなことするわけないじゃん。手を出したらまずいことくらいわかってるって。」

「ふふ、そうですよね。いつもは一番早い二乃がこの時間になっても起きないので心配だったのですが、遅くまで勉強していたのなら納得です。」

 

そう言うと、五月さんはくるりと後ろを向いた。

 

「では私は部屋に戻って自習していますので、二乃が起きたら呼んでください。」

「あ、うん。分かった。」

 

五月さんはそうとだけ言い残すと、そのままスタスタと歩いて自室へと戻っていってしまった。

…いや、ちょっと待って。この状況でそのままにしていくんかい!

 

「さすがに助けてくれてもいいんじゃない…?」

 

まぁ、彼女も自分の勉強で余裕がないのだろう。他人の事へ気を配れないほどに思いつめているのかもしれない。

…そうすると、早急に上杉くんとの仲の修復を急がないと本当にまずいな。一花さんと昨日話し合っていたようだけど…いい成果は得られそうなんだろうか。

って、今はそんなことを言ってる場合じゃない。とにかくこの状況をなんとかしなければ。

 

(とは言ったものの…)

 

左肩には二乃さん、右肩には三玖さん。それぞれの頭が乗せられている以上、僕は身動きを取ることすらできないわけで。

このまま強引に立ち上がってしまえば2人して地面に激突してしまうのは明白だから、それは避けたいんだけど。

どうしたものか…そう考えていると、急に左側の二乃さんがもぞもぞと動き出した。

 

「んん…ふぁぁ…あら、寝ちゃってたのね…」

 

そう言うと、二乃さんはまだ寝ぼけているのか目をこすりながら体をゆっくりと起こし始めた。

ずしりと肩に乗っていた頭が持ち上がり、左半身が解放される。

それと同時に、彼女が虚ろな目をしながらこちらをじっと見つめてきた。眠たげだった目は段々と思考がクリアになったのか、徐々にしっかりとした目になっていく。

そして完全に彼女が目を覚ました瞬間…彼女は顔を真っ赤に染め上げるとあたふたとしながら慌て始めた。

…まぁそりゃ勉強してて寝落ちたと思ったら、教えてもらってたやつに寄りかかって寝てましたなんて慌てない方がおかしいとは思うけど。

 

「おはよう、二乃さん。」

「な、なんであんたが隣にいんのよ!?」

「昨日勉強してて2人で寝落ちしちゃったっぽくてね…それでじゃない?」

「それでじゃないって、あんた何でそんなに冷静なのよ!」

 

そりゃ一回起きて状況把握してますし…とは言えない僕は黙って口をつぐんだ。

 

「嫁入り前に男と一緒に寝るだなんて…こんなことしてもうお嫁にいけないわよ!どう責任取るつもりよ!」

「勘違いを招く表現はやめてもらっていいかな!?あと、よくわかんないけどお嫁にいけないなら責任もって僕がもらうけど?」

「なっ…ななななな!何言ってんのよこのアホォ!!!」

 

そう言うと、二乃さんは真っ赤な顔をさらに真っ赤にすると立ち上がってあわあわと狼狽え始めた。

…どうでもいいけど、寝起きなせいか彼女の髪の毛はぐしゃぐしゃであった。

 

「わ、私が寝てる間に変なことしてないでしょうね!?」

「してないよ!眠ってる子に手を出すほど僕は落ちぶれてないっての!」

「じゃ、じゃあ起きてる時には手を出すっての!?この変態!」

「ちょっと待って!?お、落ち着いてよ!それと今理不尽な怒られ方したからね僕!?」

「知らないわよ!魅力のない女で悪かったわね!」

「魅力ないとは言ってないじゃん!」

 

むしろ魅力的すぎて色々と困ったっての!無防備な寝顔とか妙に色っぽい寝息とかね!

僕の目の前であたふたと慌てる彼女に応戦していると、右側で二度寝をしていた三玖さんがごそごそと動き出した。

 

「んぅ…うるさい…」

「え…?み、三玖ぅ!?」

 

そう呟いた三玖さんの声に気が付いたようで、二乃さんは僕の右肩に頭をのせて眠る三玖さんを見つけると驚いたように目を見開いた。

 

「な、なんで三玖まであんたの隣で寝てんのよ!?」

「それはこっちが聞きたいよ。朝、三玖さんがこの部屋に君を起こしに来たかと思ったら僕の隣で急に寝だしたんだよ。」

「はぁ!?何それ意味わかんないんだけど!?」

「意味わかんないよね?うん、大丈夫。僕も意味わかんないから。」

 

二乃さんを起こしに来たところまではいいんだけど、二乃さんだけずるいって言って僕の隣で寝始めたのは本当に理解に苦しむから嘘は言っていない。

 

「拒否すればいいじゃないのそんなもん!」

「だって動いたら君が起きちゃうかもしれなかったから…勉強頑張ったし、寝かせてあげたかったんだよ。」

「お…大きなお世話よ!」

 

二乃さんは僕がそう言うと面食らったような表情を見せた後、小恥ずかしそうに下を向きながらそう言った。

 

「ま、まぁちょっとだけなら感謝してあげなくも…」

「うるさいなぁ…何の騒ぎ…?」

 

右隣の耳元から聞こえてくる声に、僕は冷や汗をかきながら頭を抱えたくなる。

ギチギチと首を右へ回すと、そこには目の覚めたらしい三玖さんが眠そうな目をこすりながらあくびをしていた。

 

「…あ、キョーヘー。おはよう。」

「お、おはよう…」

 

そして僕が起きていることに気づいたらしい彼女は、僕を見るとにっこりと微笑んでそう言った。

…やばい、間近で見ると本当に三玖さんってかわいいんだな。しかも色々柔らかいしいい匂いもする。頭がおかしくなりそうだ。

 

「ちょっと三玖!あんた何でこいつの横で寝てんのよ!」

「二乃を起こしに来たらキョーヘーと寝てたんだもん。二乃だけずるかったから私もキョーヘーの肩で寝ただけ。」

 

そう言うと、三玖さんはずいっと二乃さん詰め寄った。

二乃さんはそれに対して一瞬だけひるんだが、すぐ表情を引き締めると負けじと三玖さんに向かって詰め寄っていく。

…ちょっと待って、ここで喧嘩おっぱじめるの?

 

「ずるかったってあんたねぇ…!好きでこいつと一緒に寝たわけじゃないわよ!」

「でも一緒に寝てたのは事実でしょ。しかも頭をキョーヘーの肩に置いて幸せそうに寝てたよ。」

「し、幸せそうなんかじゃないわよ!ただでさえ嫌な勉強をこいつと一緒にさせられて…もう散々だったんだからね!?」

「二乃、勉強あれほど嫌がってたのにやる気になったの?…何があったの?」

「こ、こいつが脅すから仕方なくやらされてたのよ!」

「ちょっとォ!?僕別に脅してはないからね!?」

 

顔を突き合わせて喧嘩を始めた彼女達に対して、聞き捨てならないセリフを聞いた僕は思わず突っ込む。

 

「うっさいわね!あんたは黙ってなさいよ!」

「二乃、キョーヘーはそんなことする人じゃないよ。」

「分かってるわよ!」

「…じゃあなんで脅されたなんて嘘ついたの?」

「え、えっと…それは…」

 

そう言うと、二乃さんは冷や汗を流しながら言いづらそうに口をつぐんだ。

まぁ彼女にとって「赤点回避したら僕が何でも言う事を1つ聞く」なんて条件を他の姉妹に聞かれでもしたら恥ずかしくて死んでしまいそうだからな。

無理もない。彼女としては条件を知られるのはあまり好ましくないだろう。…仕方ない、助け舟を出そうかな。

 

「三玖さん。朝も言ったと思うけど僕が頑張って言いくるめてやってもらったんだよ。」

「…あんなに断固拒否してたのに?」

「いや、それがさ。他の皆は勉強してるのに二乃さんだけ赤点かぁ!そっかー!1人だけ赤点だったら他の姉妹はなんていうかなー!って言ったら…」

「あぁ…確かに二乃ならそれで勉強しそうだね。」

 

三玖さんは納得したように頷いた。とりあえず、誤魔化せたみたいでよかった。

 

「あんた達は私の事を何だと思ってんのよ!?」

「負けず嫌い。」

「単純。」

「ぶっ飛ばすわよ!」

「ごめんごめん…まぁそう言うわけだからさ、三玖さん。僕が彼女と昨晩勉強してたのはそう言う理由があってだよ。」

 

僕がそう言うと、三玖さんは「わかった」と言って引き下がった。

 

「でも勉強してた理由は分かったけどキョーヘーと一晩寝たのは別。」

「そう言われても好きで一緒に寝たわけじゃないわよ…」

「だから私も二乃と同じ格好でキョーヘーと寝た。これでお相子。」

「お相子ってあんたは何と戦ってるのよ!」

 

…うん、これもう収集付かなくなってきてないかな?喧嘩は悪いことだと思わないけど、起きてすぐに始めるのは勘弁してほしい。

 

「それに、勉強するならフータローに教えてもらえばいい。彼は私達の家庭教師だから。」

「あいつに教わるくらいならまだ御影の方がマシだわ!」

「私はキョーヘーに勉強を教えてもらうから定員オーバー。」

「それを言うなら私だって昨日こいつと勉強するって約束したから定員オーバーよ!」

「いや、別に2人くらいまでなら一緒に教えられるけど…」

 

そもそも何でこの2人は僕の取り合いをしてるんだ?自分で言うのもなんだけど、僕に教えてもらうよりは上杉くんの方がレベル高い勉強教えてもらえると思うんだけど。

まぁ2人くらいまでなら一緒に教えられるし、別にいいと言えばいいんだけど。

 

「私はキョーヘーと赤点回避するって約束したから。」

「だったら私だってこいつと赤点回避の約束したわよ!」

「いや、だから2人くらいなら大丈夫だから…」

「キョーヘーには私が教えてもらうの。」

「私だってこいつに教わるわよ!」

「この子達人の話聞いてくれないんだけど!」

 

どうすりゃいいのさこれ。もう収拾が付かないんだけど。

 

「うるさい。二乃は黙ってて。」

「なんですって!?あんたこそ黙ってなさいよ!」

「あの…2人とも、そろそろ…」

「うるさいわね!私は今三玖と話をしてるのよ!あんたは引っ込んでなさい!」

「大丈夫キョーヘー。すぐ終わらせるから。」

「いや、そうじゃなくって!」

 

だー!もう!なんでこうなったんだよーッ!!!

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「キョーヘー、ここの問題が分からないんだけど…」

「えーっと、それは公式を活用すればいいよ。こうやってこうすれば…ほら。」

「本当だ。ありがとう。」

「ちょっと御影。ここの問題教えなさいよ。」

「はいはい、えっと…あぁ、それは応用方法が間違ってる。そうじゃなくて…こうしたらいいよ。」

「分かったわ。」

 

結局、あの後無理矢理2人に対して「2人くらいなら面倒見れるから大丈夫」と言って強引に場を収めた僕は中野家のリビングで彼女達と勉強をしていた。

席順は僕の右前に三玖さん、左前に二乃さんである。2人は揃ってテキストを広げながら問題集やノートを埋める作業をこなしていた。

 

ちなみに上杉くんと一花さん、四葉さん、五月さんの3人は僕達がドンパチやってる間に4人揃って図書館へと向かったらしい。

なんでも一花さんが上杉くんと五月さんの仲直り大作戦を決行するんだとかなんとか言う事を上杉くんがメールで送ってきていた。

ここはもう2人の仲をうまく修復してくれることを一花さんと四葉さんに託すしかない。

ちなみに、上杉くんには既に二乃さんと三玖さんに中野家で僕が勉強を教えるということはメールで伝達済みである。

 

『二乃が勉強だと!?一体どんな魔法を使ったんだ!?』

 

と、メールが帰ってきたときはあまりの驚きっぷりに少し笑ってしまったけど。

でも上杉くんからしたら解雇条件が知られてしまった彼女が、理由はどうあれ赤点を回避するために勉強しているということは信じられないのだろう。

まぁ僕もいまだに信じられないしね。目の前で机に向かってる彼女を見ても現実じゃないみたいだし。

それはともかく、僕に今できることは目の前の2人に少しでもテスト範囲を叩き込んで赤点を取る可能性をギリギリまで下げることだ。

と言うわけで、二乃さんが用意してくれた簡単な朝食を3人で取った後に僕達はすぐ勉強に取り掛かった。もちろんパジャマから私服には着替えたけどね。

しかし、一時はどうなることかと思ったけどひとまず今は2人とも大人しく勉強してくれているようで何よりだ。

 

「…そう言えば、五月は上杉と図書館へ行ったんだっけ?」

「そうだよ。仲直りするために一花さんと四葉さんが一緒に連れて行ってくれたらしい。」

 

久しぶりに自分のテスト勉強をしている僕は、二乃さんの問いかけにペンを走らせながらそう答えた。

 

「あいつに五月と仲直りする気があるなんて驚いたわ。」

「上杉くんにも色々あるんだって、五月さんも五月さんで色々あるみたいだしそれですれ違ったんじゃないの?今は仲違いしてる場合じゃないし、いい事じゃん。」

「…そうね。ちょっと意外だっただけよ。」

 

二乃さんはそう言うと、ノートに目を落としてペンを握る。

 

「まぁそれにしても、君が勉強をしてくれるようになるとは思わなかったけどね。」

「うっさいわね!私だって考えがあるんだから放っておいて。」

 

心なしか、そう言う二乃さんの顔は少し赤くなってる気がした。

 

「キョーヘーやフータローが私達のために頑張ってくれてるんだもん。私達も頑張らないとね。」

「三玖さん…ありがとう。」

 

そう言うと三玖さんはニッコリと微笑みながらそう言った。やはり三玖さんはいい子だ。この世の天使である。

 

「ね?二乃。」

「私は別にあんた達のために頑張るんじゃないからね。私だけ赤点だったら嫌だから頑張るだけ。勘違いしないでよね。」

「あはは…うん、わかったよ。ありがとね二乃さん。」

「口を動かす暇があるなら手を動かしたら?」

「そうだね、そうさせてもらうよ。」

 

赤点を回避することが結果的に上杉くんのためになるとわかっていながらも、真剣な表情で勉強に打ち込む二乃さんを見て僕は思わず笑みをこぼした。

理由は分からない。本当にあの条件が気に入ったのか、はたまた考え直してくれたのか、もしくは本当に赤点が嫌なのか。それは分からないけど。

いずれにせよ二乃さんが机に向かって勉強してくれている。その事実だけで、今は充分だった。

 

さて、五月さんと上杉くんのわだかまりも一花さんと四葉さんのおかげで何とか解消できそうなところまで来ているわけだ。

となると、今後の問題は純粋にテスト範囲をいかに詰め込めるかとの戦いになってくる。スタートラインには立った、あとはどこまで記録を伸ばせるかの勝負だ。

えっと、確か今やってもらっているのは二乃さんが数学。三玖さんは理科だったはずだから…今日はその辺を重点的にやろうかな。

明日が学校な事を考えるとタイムリミットは夕方くらいまでだろう。なら詰め込めるだけ詰め込んでいこう。

 

(えっと…)

 

僕は2人の勉強している範囲を把握すると、ノートを開いて問題の正解率の傾向を計算し始めた。

それと同時に自分のテスト勉強も並行して行うことにする。片手間にはなるけど、さすがにノー勉強でテスト当日を迎えるのはしたくないし。

自分のテスト勉強もしながら、2人の勉強もみる。両方やらなきゃいけないのが家庭教師補佐の辛いところだな。

 

「…ねぇ。」

 

僕がノートに今後の事を書き込んでいると、不意に二乃さんから声がかかる。

 

「ん?どうしたの二乃さん。分からないところでもあった?」

「いや、そうじゃないわ。あんたに1つ聞きたいことがあるんだけど。」

「聞きたいこと?何かな?」

 

僕は一旦ペンを走らせる手を止め、二乃さんの目を見据える。そんな僕を見て、二乃さんは一旦咳ばらいをすると口を開いた。

 

「あんた、ちゃんと上杉から給料の何割かはもらってるんでしょうね?」

 

その言葉を聞いた瞬間、隣で勉強をしていた三玖さんの手が止まる。…いつかは聞かれるだろうと思ったけど、このタイミングでそれを聞いてくるのか。

答える義理はないけど…まぁ別に聞かれて困ることでもないか。

 

「あんたは上杉が家庭教師に来るときは大体一緒に来てるじゃない。しかも、教材作ったり勉強見たりしてるし。やってることは家庭教師と変わんないからよ。」

「まぁそりゃ僕は補佐だからね。それにこれは僕が彼を助けるために好きでやってることだし…」

「キョーヘーは優しいね。でもそれとこれとは別だよ。私は、キョーヘーはお給料をもらってもいいくらいの働きをしていると思う。」

「これに関しては私も三玖と同意見だわ。…で、どうなのよ?」

 

そう言うと、二乃さんと三玖さんは僕をじっと見つめてくる。

正直、給料をもらわずに無償で彼の手伝いをしていることはあまり知られたくなかったんだよね…上杉くんが責められるのが嫌だからさ。

僕は完全に善意で彼の手伝いをしてる訳だし、彼の家の事情を考慮してボランティアで手伝いをしているわけだ。

見返りなんてこれっぽっちも求めないし欲しいとも思わない。どうせ暇だし、なら友達に協力して有意義な時間の過ごし方をしてもいいだろう。

そう思って僕は無償で補佐を請け負っている。ここは正直に言った方がよさそうだ。

 

「…もらってないよ、完全にボランティアでやってる。」

「はぁ!?あんた、本気で言ってるの!?」

「本気だよ。彼には事情があるから、訳があって給料は受け取ってない。今やってるのは僕の善意でやってることだよ。」

「じゃあ…私達に勉強を教えてくれてるのも、教材を作ってくれてるのも?」

「うん。全部ボランティア。けど別にいいんだよ。僕は好きでやってるわけだしね。どうせ時間余ってて暇なんだし、見返りを求めるつもりもない。それに…」

 

僕は一呼吸置いて、口を開いた。

 

「友達を助けるのに理由はいらないでしょ。」

 

上杉くんの家には借金がある。なら友達としてその借金を早く返済させてあげたいと思うのは当然のことだろう。そのために理由なんて必要ないさ。

そう思いながら、僕は屈託のない笑顔でそう言い切った。

そんな僕の顔を見て、二乃さんは呆れたような顔をしている。一方で三玖さんは心配そうな表情を浮かべていた。

 

「はぁ…本当にあんたって超弩級のアホなのね。」

「さすがにアホはひどくない?」

「キョーヘー…フータローのためにそんなことやってたんだね。」

「勘違いしないで欲しいけど、彼から脅されてるとかでは断じてないからね。僕が好きでやってることだから。」

「…いいわ、じゃあこうしましょう。」

 

そう言うと、二乃さんはペンをノートに置く。

 

「今度の中間試験。もし私達全員が赤点を回避したら、あんたを正式な家庭教師として雇ってもらえるようパパに頼んであげるわ。」

「…へ?」

 

僕は一瞬彼女が何を言っているのかを理解できなかった。

混乱する頭で彼女の目を見ると、その眼は本気だった。とてもじゃないが嘘をついているような目には見えない。

チラリと三玖さんに目をやってみると彼女は驚いたような表情を浮かべていたが、やがて大きくうなずく。

 

「うん、私も賛成。キョーヘーにはちゃんとお給料をもらってほしいし。」

「…でも、いいの?上杉くんに5倍のお給料を払ってるのに、更に僕にもなんて…」

「中野家の財力を舐めない事ね。あんた達2人分の給料くらい払えるに決まってるじゃない。」

「今も言ったけど、僕が彼に協力してるのはお金のためじゃない。それに僕はお金に困ってるわけでもないから…」

「あーもう!ぐちぐちとうるさいわね!」

 

そういうと、二乃さんはテーブルに両手を叩きつけると立ち上がった。

そして、僕を指さしながら口を開く。

 

「私が嫌だって言ってるのよ!確かにあんたは上杉のために自分の時間を犠牲にしてまで協力してるのかもしれないわよ?」

「……」

「それが気に入らないのよ。その異常なまでの自己犠牲の精神…見ててイライラするわ。」

「…そうだね、確かに自分でも行き過ぎていると感じることはあるよ。」

 

困っている人や友達を助けるために理由はいらない。必要であるはずがない。

分かっているさ。それが詭弁だということは。

 

「…でも、もう嫌なんだよ。そのせいで誰かを…」

「…キョーヘー?」

「ごめん、なんでもない。」

 

思わず口が滑りそうになってしまったけど、これはここで言う事ではない。僕は固く口を閉じる。

 

「だから、あんたにも給料を支払うわ。それであんたは善意で上杉の手伝いをする補佐じゃなくなる。」

「うん、私もそれがいいと思う。いくらキョーヘーがフータローを思って手伝っていても、やっぱりお給料をもらわないのはおかしいと思う。」

「そうすればあんたは上杉のためじゃなくて、私達のために給料をもらって勉強を教えるわけよ。つまり、善意もいらないし自己犠牲をしなくてもいい。」

 

二乃さんはそういうと、一呼吸を置いて再び口を開く。

 

「これなら文句ないでしょ。そうすればあんたは給料がもらえるようになるし、私もあんたの異常なお人よしにイライラすることはなくなるわ。」

「…理由は分かったけど、それで君達の父親は納得してくれるの?」

「あら、あんたは今度私達の赤点を回避させるんじゃなかったのかしら?」

 

二乃さんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「もしそれを成し遂げることが出来たら、私からパパに言ってあげるわよ。もう1人家庭教師として雇ってほしいやつがいるってね。」

「うん、私からもお父さんに頼んでみるよ。それに、私や二乃だけじゃなくて他の3人からも。」

「二乃さん…三玖さん…」

「キョーヘーはそのくらいの頑張りはしてる。それはフータローだけじゃなくて、私達も今まで見てきたから。」

「だから…実現させてみせなさい。あんたと上杉で、五人全員の赤点回避を!」

 

そう言うと、二乃さんと三玖さんは揃って笑顔を浮かべた。

正直、どんな心境の変化なのかは分からない。あれほど勉強を嫌がっていた二乃さんが、僕を家庭教師として雇うための条件として赤点回避を提示してくるとは。

それはつまり、自分たちに勉強を教えろということに他ならないだろう。意味も分からずに言っているなんてことはありえないはずだ。しかも今のみならず、今後もずっと。

…夢みたいだな。もしかしたら、夢なのかもしれないけれど。

 

今まで家庭教師の補佐をやってきて、不満に思う事なんて一度もなかったけれど。

僕の頑張りをしっかりと見ていてくれたんだ。二乃さんも、三玖さんも。そして他の3人も。見返りを求めていたわけじゃない…けど、こんなにうれしいことはない。

それに、考えようによっては正式な家庭教師として雇ってもらえるなら好都合だ。お金をもらいつつ、今まで通り上杉くんの手伝いができるわけだから。

その条件として二乃さんは赤点の回避を提示してきた。なら、成し遂げてやろうじゃないか。赤点回避、そして正式雇用を勝ち取るために。

正直、僕に家庭教師として雇ってもらえるだけの勉強が出来るとは思えないけど…やってやるさ。やれるだけのことは。

 

「…分かった、頑張ってみる。受けて立つよ、その条件!」

「キョーヘー…うん、私頑張るよ。」

「ふん、精々頑張る事ね。」

「よーし、それじゃあ今やってるテキストに加えてこれとこれもやってもらおうかな!」

「はぁ!?あんた本気で言ってるの!?」

「当然だよ。赤点回避するなら急ピッチでテスト範囲詰め込まないといけないからね!さぁ、バリバリやっていくよ!」

「二乃、どうするのこれ…」

「こ、こんなの聞いてないわよー!」

 

こうなったら絶対に成し遂げてやろうじゃないか。上杉くんと一緒に、姉妹全員の赤点回避を。

僕はそう決心すると、目の前で青い顔をする2人を尻目にニッコニコで課題の作成に取り掛かるのだった。




御影君は風太郎よりは点数低いですが
普通に考えると全教科70点以上取れるのは
頭良いのでは…と最近思ってますw
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