五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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今回は結構話が動きます


第14話 不安と試験本番と

あれから一週間、ついに試験当日がやってきた。

 

あの後、図書館へ向かった一花さん、四葉さんの活躍によって五月さんと上杉くんの仲は無事修復されたらしい。

この1週間、五つ子全員が揃ってリビングで勉強をする光景を見た上杉くんが号泣を始めて最初は授業が進まなかったりしたものの五つ子達は全力で勉強に取り組んでくれた。

居眠りをする一花さんを起こし、文句を言う二乃さんと喧嘩し、日本史しかやりたがらない三玖さんに他の教科を無理矢理消化させたり。

アホすぎて計算式すら書けない四葉さんに徹夜で教え込んだりもした。自己流で変な覚え方をしている五月さんの知識の矯正を2人がかりでやったこともあった。

全ては五つ子全員の赤点を回避させるために。上杉くんの首を回避するために。そして…僕が家庭教師としての正式雇用をしてもらうために。

 

僕が全員の赤点を回避させたら家庭教師として正式雇用してもらえる、と言った話はすぐに上杉くんや他の姉妹にも伝わった。

上杉くんは大いに歓迎してくれた。と言うかむしろ「ぜひそうして欲しい。給料を分けれない罪悪感がやばかったから」と言って内心はほっとしているようだった。

五つ子の二乃さん、三玖さん以外の他の3人も僕が家庭教師として雇われることには賛成してくれた。本当にありがたい限りだ。

もちろん彼女達が言ってることであって、雇い主である彼女達の父親がどういうかはまだわからないのだけれど。

 

そして、ついに試験当日がやって来た。1週間みんなはよく頑張ったと思う。

前日の夜には再び泊まり込みで勉強会を行い、一夜漬けもやって準備万端…のはずだったんだけど。

 

「何で僕達は揃いもそろって全力疾走してんだーッ!!!」

 

どうしてこうなってしまったのか。

事の発端は数十分前までさかのぼる。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

時刻は数十分前、中野家のリビングでのことである。

 

「んん…ふぁぁ。」

 

試験前日の夜ということもあり、泊まり込みでの勉強会を再び行った僕達はいつの間にか寝落ちしてしまったようだ。

床に直接寝ていたせいでギシギシと痛む体を頑張って起こしながら、僕は背伸びをして立ち上がった。

 

「…ん?起きたか御影。」

「あ、おはよー上杉くん…早いね。」

 

僕は大きなあくびをしながら、先に起きていたらしい上杉くんに声をかけた。

着替えるために歩きながらリビングを見渡すと、テーブルの椅子では二乃さんと五月さんが。ソファでは一花さん、三玖さん、四葉さんがそれぞれ眠っていた。

机にはまだ勉強道具などが散乱しており、この子達が頑張って勉強をしたということを物語っている。

 

「ついに当日だね…」

「あぁ、やれるだけのことはやったつもりだ。あとはこいつらを信じるしかない。」

「そうだね。一週間、ホントに頑張ったよこの子達。上杉くんも。」

「お前もな…御影。俺だけではここまで成し遂げることは出来なかったよ、お前には本当に感謝してるんだぜ。」

「大げさだなぁ、このくらいお安い御用だよ。」

 

僕と上杉くんはお互いに顔を見合わせると、愉快に笑った。

 

「ふぁぁ…あ、上杉君に御影君…早いですね。」

「あ、おはよう五月さん。」

 

そうこうしていると、五月さんが目を覚ましたようだ。背伸びをしながらこちらへと話しかけて来た。

さてと、それじゃあそろそろ制服に着替えようかな…と思った瞬間だった。

 

「な、なぁ御影。五月。」

「…ん?どうしたの?」

 

不意に時計の方を眺めながら上杉くんがそう問いかけてきた。…心なしか、声が若干震えている気がする。

 

「確認だが、うちの学校は8時半登校だったよな?」

「そうですね…確かそのはずですが。」

「うん、合ってるよ。それで、試験の場合はそれから15分後に開始だったはずだよ。」

「そ、そうだよな…それで合ってるよな…」

 

上杉くんは相変わらず震える声でそう言った。しかし上杉くんが登校時間を忘れるなんて珍しいこともあるもんだね。

なんだろう…とてつもなく嫌な予感がするんだけど。

 

「…あの時計、壊れてたりしない?」

 

そう言って上杉くんはリビングの時計を指さした。

冷や汗をかきながら時計の方を見てみると、時計が示している時刻は既に8時10分を過ぎていて…

 

「…い、いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

と言うわけで、僕達は7人で仲良く学校までの通学路を全力疾走することになりましたとさ。

 

「ぜぇぜぇ…なんでこんなことに…」

「あんたと上杉が一夜漬けやるなんて言うからでしょ!」

「しょ、しょうがないじゃんか…!前日の勉強が一番大事なんだから…!」

 

乳酸の溜まってきた両足で地面を蹴りつつ、悪態を付く二乃さんとそんなやり取りを交わす。

 

「みんなおっそいよー!上杉さーん!御影さーん!先行っちゃいますよー!」

 

そう言って、ここにいる皆よりもはるか前方を走っている四葉さんが後ろの僕達に向かってそう叫ぶ。

すっかり忘れていたけど、そう言えばあの子は運動神経ならだれにも負けないどころか校内でもトップクラスの体力や反射神経も持ち合わせているんだったな。

あっという間に彼女の背中が見えなくなっていく。

 

「ま、待ってよ四葉さーん!」

「お前ら車で通学してたんじゃなかったのか?」

「はっ…はっ…江端さんはお父さんの秘書だから…」

「はぁはぁ…お父さんたちが家にいたら良かったんだけどね!」

「そ、そうだな!」

 

しかし、遅刻の場合はどうなるんだ…この子達の雇い主になんて説明すればいいんだろうか。

でも普通に考えたら遅刻で試験を受けられませんでしたなんてことになったら赤点よりも結果としては下になってしまうのは間違いないだろう。

何が何でも間に合わせなければ…!そう思った瞬間だった。急に僕の横を走っていた二乃さんが立ち止まると、スマホを見て頬に手を当てたのだ。

どうしたんだろう?走りすぎて気分でも悪くなったのか?だったら、背負って運ぶことも考えないといけないかもしれない。

とにかく、僕は二乃さんに声をかけるために口を開く。

 

「どうしたの二乃さん、気分でも悪い?」

「やっぱすっぴん見せたくないなぁ…」

「今そんなこと気にしてる場合じゃ無くない!?」

 

どうやら、彼女は今朝時間がなくて化粧が出来ずにすっぴんで学校へ行くことをためらっているようだった。

今はそんな事気にしてる場合じゃないでしょ!心配して損したよまったく!

いや女の子ならすっぴん見せるのに抵抗あるかもしれないけどさ。テストと天秤にかけたらどっちが大切かくらい分かって欲しい、切実に。

 

「他の4人はバンバン見せてるだろ!?」

「そうだよ!それに二乃さんはすっぴんでも充分可愛いから!」

「は、はぁ!?あんた何を言って!」

「いいからほら行くよ!」

 

顔を赤くして何かを言いかけた二乃さんの手首を掴むと、僕はそのまま勢いよく走りだす。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「ごめん!でも急がないとまずいでしょ!」

 

化粧なんてしなくても二乃さんは可愛いんだから堂々としていればいいのに…僕はそんなことを思いながら、彼女の手を引いて先を走るグループと合流する。

…あれ、今度は三玖さんがいない気がするんだけど。

 

「上杉くん、三玖さん知らない?」

「三玖?いや、見てないが…」

 

いや、さすがにそれはまずいぞ。通学路で迷子になるのはシャレにならない。と言うか今はただでさえ時間がないというのに…!

三玖さんを探すために辺りをきょろきょろと見まわすと、重そうな荷物を持って信号を渡っているおばあさんに付き添って手伝いをしている三玖さんの姿が目に入った。

 

「うーん偉い!けど今じゃない!」

「三玖さーん!めっちゃ立派で涙でそうなんだけど、急いでるから!それ終わったら戻ってきてねー!」

「一花ァ!寝るなァ!と言うか手すりに座って寝るなんて器用な事してんじゃねーよ!起きろ!」

 

僕が三玖さんに声をかけている間に、上杉くんはその辺の手すりに座って寝ようとする一花さんの肩をゆすって目を覚まさせていた。

って言うか、みんな頼むから遅刻しそうになってるって事を自覚してくれ。このままだと本当にヤバいんだって。

 

「はぁ…はぁ…もうだめです…!」

「諦めんな五月!」

「いえ…限界です…!」

「頑張って五月さん!もう少しで学校だから!」

 

チラッと時計を確認すると、現在の時刻はこのまま全員が立ち止まらずに走り続ければぎりぎり間に合いそうな時間ではあった。

僕と上杉くんはフラフラになりながら走る五月さんを励ましつつ、必死に足を動かして前へ進む。

 

「五月!ほら、頑張れ!」

「もうだめです…お腹が空いて力が出ません!」

 

そういうと、五月さんは走るのをやめて完全に歩みを止めてしまった。

…まぁ起きた時間が時間だっただけに朝ご飯食べる余裕なかったから仕方ないかもしれないけどさ。

今はそんなことを言ってる場合ではないんだけど…

 

「お願いします!あそこのコンビニで何か買わせてください!走りながら食べますから!」

「えぇ…でも時間が…」

 

そう言うと、五月さんは目の前にあるコンビニを指さした。

いや…まぁでもこのまま腹ペコの状態の彼女を試験に送り込んだところで頭が回るかは怪しい話だ。

だったらイチかバチか、コンビニで朝食を買って食べてもらう方がいいのかもしれない。

 

「…分かった。でも急いでね!時間がないから!」

「御影君、ありがとうございます!」

「上杉くん、付き添ってあげてもらっていい?」

「あぁ、任せろ!五月、時間をかけたら許さないからな!」

「分かっています!」

 

先ほどまでの元気のなさが嘘のように元気になった五月さんは目にもとまらぬ速さでコンビニへ駈け込んでいった。

上杉くんがそれを慌てて追いかけると、彼もコンビニへと入店する。

 

「はぁはぁ…ご、ごめんキョーヘー…」

「お帰り三玖さん。ううん、気にしないで。大丈夫だから。」

 

そうこうしているうちに、息を切らした三玖さんが合流してきた。どうやらお婆さんを目的地まで送り届けたらしい。

時間が時間だけにあまり褒められたことではないけど、人助けをしたのは立派な事だ。恥じることは何もないだろうからね。

 

「…ねぇ御影。1つ聞いておきたいことがあるんだけど。」

「どうしたの?二乃さん。」

 

コンビニの前で五月さんと上杉くんを待っていると不意に横にいた二乃さんが声をかけてきた。

僕はコンビニの入り口を見つめたままそう答える。

 

「このままテストに間に合ったとして、私達が赤点回避出来ると思ってるの?」

 

やや震えた声で、そんな言葉が聞こえてきた。

僕は彼女の顔を見るために、くるりと横を向く。彼女の表情は苛立ち、諦め、焦燥。色々なものが混ざり合って何とも言えないものだった。

恐らく彼女は不安なのだろう。勉強したとはいえ、赤点を回避出来るかどうかが定かではないという現状に。

確かに全員が赤点を回避するのは難しいとしか言えない。一週間、死ぬ気で頑張ってきたけどテスト範囲がギリギリ詰め込めたくらいだったからな。しかもかなり駆け足で。

だから赤点回避は困難だろう。…でも、これだけは言える。その言葉を言うために僕は口を開く。

 

「短い期間だったけど、僕や上杉くんに出来ることは全部やったつもりだよ。」

「えぇ、めちゃくちゃスパルタだったわね。正直二度とごめんだわ。」

「それは君達の学力のなさを恨んで欲しいけどね…」

 

僕は苦笑いをした。

 

「…でも、これだけはハッキリ言える。君達はこの一週間、死ぬ気で勉強をした。」

「一花さんも、三玖さんも。ここにいない四葉さんも五月さんも。そして二乃さん、もちろん君も。」

「その努力はきっと実るはず。…もし実らなくても、絶対に今後の役には立つはずだ。」

「どんな結果になってもいいじゃないか。悔いのないように全力でぶつかってほしいんだ!」

「自分の力を信じて欲しい!一週間やって来たことを信じて欲しい!そして…僕と上杉くんを信じて欲しい!」

 

みんなは一週間、死ぬ気で勉強をやってきたんだ。

そりゃ赤点を回避出来たら言う事はないけれど、仮に赤点になってしまったとしてもそれは彼女達の糧として今後に生かされていくはずだ。

どんな結果になったっていい。全力でぶつかって全力で試験と向き合ってほしい。この言葉に嘘はない。

 

「だから、頼んだよ!」

「そこまで言われちゃあ、頑張らないわけにはいかないね!」

「キョーヘー、私頑張るよ。頑張って、絶対に赤点を回避するから。」

「…ふん、そこまで言うならやってみるわよ。ただし、私はどんな結果になってもパパにそのまま真実を報告するから。」

「元からそのつもりだから問題ないさ。結果にこだわって固くなりすぎないようにね。」

 

僕は目の前で笑う一花さん、握りこぶしを作って胸の辺りで構える三玖さん、腕を組んでこちらを真っ直ぐ二乃さんに対してとびっきりの笑顔でそう言った。

たとえ赤点回避が無理でも悔いはないさ。やれるだけのことはやったんだ。ダメだったらその時は仕方がない。情状酌量を期待するしかあるまい。

…と言うか、すぐに出てくるっていったのに上杉くんと五月さん時間かかりすぎじゃないか。

 

「…ってか、五月さんと上杉くん遅くない?」

「ゲッ…ほんとだ…ちょっと五月!あんたいつまで選んでるのよ!」

 

コンビニにダッシュで入っていく二乃さんを見つめながら、僕はため息を吐き出した。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「タイムオーバーだ。試験もじきに始まる。」

 

そう言って青ざめた表情で差し出された上杉くんの携帯のディスプレイには「8:33」と言う数字が写し出されていた。

僕はその数字を見て、深いため息を吐き出しつつ頭を抱える。

 

結局、あの後コンビニで呑気に何を買うか悩んでいたバカ2人(上杉くんと五月さん)を二乃さんと引っ張り出した僕達は全力疾走で学校までたどり着いた。

…のは良かったんだけど、コンビニで時間をロスした分がギリギリ足りなかったらしい。

先ほどの通り、時刻は8時33分を過ぎようかと言うところ。うちの学校は8時30分に登校を終えて着席するのがルールのため、完全に遅刻となってしまったわけで。

こうなった以上、全員で校舎へ入るわけにもいかなくなった僕達は一旦玄関のすぐ横の木陰にしゃがんで身をひそめていた。

 

「すみません、私が寄り道したせいで…」

「私も…」

「生徒指導の先生許してくれるかなぁ…」

「もう正直に話すしかない気がするけどね…さすがにテストは受けさせてくれるでしょ。終わってから呼び出されてお説教はされるかもしれないけど。」

 

木の陰から顔を出して玄関の入り口を伺うと、そこには相変わらず目のキマっている生徒指導の先生が仁王立ちをしていた。

相変わらず筋肉ヤバいなあの先生…まぁでもああ見えて物分かりはいい方だから、素直に謝って入れてもらうしかないんじゃないのかなぁ。

 

「…そうだ!」

 

そんなことを考えながら様子を伺っていると、上杉くんが突然何かを思いついたような声を出す。

怪訝に思った僕は彼を見ると、自信満々なゲス顔を浮かべていた。…嫌な予感しかしないんだけど大丈夫なのか?

 

「四葉だ!五月。四葉に電話してくれ。」

「え、四葉にですか?いいですけど…一体何をするつもりですか?」

 

五月さんは上杉くんの提案に顔をしかめるが、すぐにスマホを取り出してディスプレイを操作し始めた。

…四葉さんに生徒指導の先生を引き付けてもらっている間に僕達が全員突入するとかだろうか。それだったらまぁ大丈夫っちゃ大丈夫そうだけど。

と言うかすっかり忘れてたけど四葉さんは先に学校に来てるんだったな。あの時間で間に合うとはさすが姉妹一の体力の持ち主だ。

 

「あ、もしもし?四葉ですか?…はい、上杉君があなたに電話して欲しいとのことで。はい、今変わります。」

「もしもし?四葉か?もう学校に付いてるな?…あぁ、いやいい。そのまま学校に居てくれ。」

 

…あれ、四葉さんに生徒指導の先生をおびき寄せてもらうんじゃないのか?

 

「ちょっと、どうするつもりなの?」

「ふふふ…名付けて…ドッペルゲンガー作戦だ!」

 

そう言うと、上杉くんはどや顔でそう口走った。…いや、ドッペルゲンガー作戦ってなんだよ。

何がどうドッペルゲンガーなんだよ。果てしなく嫌な予感しかしないんだけど。

 

「ちなみに上杉くん、作戦内容は?」

「聞いて驚くなよ。こいつらは五つ子、つまり顔が同じだ。だったら四葉のリボンを頭に付けたらどこからどう見ても四葉にしか見えなくなる!」

「いや、無理がありすぎるでしょ!?」

「そんなことはないぞ御影!こいつらは髪型をちょっと変えてリボンを付けてしゃべり方を四葉にしたら四葉にしか見えないからな!」

「そりゃそうかもしれないけど、百歩譲って全員四葉さんに見えたとして何回もは無理でしょ!さすがに気づかれるよ!」

「大丈夫だ!あの先生は脳筋だからな!」

「失礼すぎない!?」

 

ドヤ顔で作戦内容を披露する上杉くんに対して、僕はそう言いながら頭を抱える。やばい頭が痛くなってきた。

と言うか普通に考えたら身に着けてるものとか髪の長さ、服装でバレるでしょ。仮に百歩譲って全員四葉さんに見えたとして何回も通ってたらさすがに不審がられるよ。

 

「…誰か頭痛薬持ってない?」

「気持ちは分かるけどしっかりしなさいよ…」

 

僕と同じくため息を吐き出す二乃さんが無言で頭痛薬…ではなく胃薬を差し出してきたため、僕は無言でそれを受け取った。

 

「…上杉くん、仮にこの子達はドッペルゲンガー作戦で入れたとしても僕達はどうやって入るのさ?」

「え?そりゃ俺達も四葉のリボンを付けるに決まってるだろ。」

「もうやだこの優等生!!!」

 

僕はもらった胃薬を勢いよく開けると、そのまま口へ放り込んでカバンから水を取り出してがぶがぶと飲み干した。

 

「ぶはっ…!」

「…キョーヘー大丈夫?」

「だ、大丈夫…」

 

目の前で徹夜明けのテンションで騒ぐ友人を見て胃が痛くなってきた、薬飲んだから大丈夫だとは思うけど。

 

「はぁ…上杉くん、ドッペルゲンガー作戦は中止してもらえる?」

「何故だ!?この完璧な作戦のどこがダメなんだ御影!」

「全部だよ全部。」

「全部!?」

「うん、全部。…そんなことしなくても、僕に考えがあるから大丈夫だよ。」

 

そう言って水のペットボトルをカバンへ放り込んだ僕は、そのまま立ち上がりながらそう言った。

 

「御影君?一体何をするつもりですか?」

「決まってるよ…僕があの先生をなんとかしてあそこからどかすから、みんなはその間に中へ入って。」

「えぇ!?でもそんなことをしたらキョーヘー君はどうなるの?」

「大丈夫だよ。後でお説教は食らうだろうけどさすがにテストは受けさせてくれるでしょ。」

 

そして、僕は話しながら木陰のギリギリへと移動した。

 

「お、おい御影…やっぱりドッペルゲンガー作戦にした方が…」

「いいって。僕が説教されるだけで済むんだしさ。それに、皆には全力でテストに臨んでもらいたいから。今までの努力を…無駄にはさせたくない。」

 

そういうと、僕は苦笑いを浮かべた。

僕は最後に彼らへ向けてグーサインを送ると、そのまま木陰から飛び出した。

 

「先生ー!おはようございまーす!」

 

僕は玄関へ向かって走っていくと、先生に大声で声をかける。

 

「こらお前!遅刻だぞ!」

「すみません!それより先生、ちょっと来てもらえませんか!」

「遅刻しておいて何だその態度は!?」

「違うんですよ!ちょっとあっちに倒れている人がいるんです!助けたいので一緒に来てくれませんか!?」

「何!?本当か!?よし、行くぞ!」

「了解です!」

 

適当な理由を付けて先制を呼び出した僕は、そのまま階段を下って道路の方へ先制を誘導する。

そして皆が視界に入らない事を確認すると合図を送る。

 

(今だ!早く!)

 

僕が口パクでそう伝えると、頷いた上杉君を先頭に5人全員が校舎へと駆け込んだ。

それを見送った僕は、安心したように息を吐く。

 

「おい!倒れてる人ってのはどこだ!?」

 

…さて、ここからどう誤魔化そうかな。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「…はい、そこまで!答案を裏返して机に置け!最後尾の奴は自分の列の答案を集めて持ってくるように!」

 

担任が号令と共にテストの終わりを告げる。

式の見直しを終えて時計をぼんやりと眺めていた僕は、裏返したテストを回収に来た生徒に手渡すとそのまま額に手を当てた。

 

今日の中間試験はとりあえず、今終わった数学のテストで全科目が終了した。

国語・数学・社会・理科・英語。全て僕は死力を尽くし、知識のすべてを総動員して挑んだ。手ごたえは…多分70点前後くらいだろうか。それなりに解けた気はする。

少なくとも50点は固いだろう。五つ子の勉強を見てたおかげでほとんど一夜漬けにも関わらず自分ではよく出来た方だなと褒めてやりたいくらいだ。

結果発表は2日後。それまではとりあえずテストが終わった後の解放感を楽しみながら、結果をドキドキしながら待つしかない。

 

2日後にはすべてが決まる。上杉くんの家庭教師の存続か、解雇か。そして僕の家庭教師としての就任か、それとも無かったことになるのか。

もし赤点だった場合はあの五つ子とも接点がなくなり、今後は学校でたまに会う程度の関係になるんだろう。

…そう考えると、少し寂しい気もする。なんだかんだであの五つ子と会ってからはずっと彼女達や上杉くんと行動を共にしているような気がしているから。

そして、彼女達や上杉くんと一緒に居ることを心地いいと感じている僕もいて。あの空間、あの場所にいることがとても楽しく感じていて。

その空間がもうなくなってしまうかもしれないと思うと、胸が痛んだ。

 

(…って駄目だ駄目だ!僕がブルーになってどうする!)

 

この一週間、彼女達は死ぬ気で勉強をしてきたんだ。

弱音を吐いたこともあった、血反吐を吐いたことはなかったけど頭が痛くなって寝込んだ子もいた。文句も言われたし、たくさん怒ったりもした。

でも彼女達はやり遂げた。自分に与えられた課題をクリアし、テスト範囲の勉強を五人揃って終えたんだ。

だから大丈夫だ。どんな結果になっても悔いはない。たとえ赤点だったとしても、それは彼女達の今後につながっていくはずだ。

彼女達の頑張りを今は信じよう。それが今の僕に「教師」として彼女達にしてあげられることだろう。

 

「…よし!じゃあ起立!礼!気を付けて帰れよ!」

 

担任の号令で僕も起立して、礼をする。今日はすべての試験が終了したため、少し早めの放課後がやってきた。

…さて、じゃあ僕は放課後に生徒指導室に呼ばれているから行かなくては。あの先生怒ったら話長いからなぁ…いつ解放してくれるだろう。

そんなことを考えながら、僕はカバンを掴んで立ち上がる。

 

「御影。」

 

そしてそのまま教室を出ようとした瞬間、隣の席の二乃さんから声がかかった。

僕はくるりと回転し、彼女の方へと向き直る。

 

「テスト、どうだった?」

「全力は尽くしたわ。ただ…」

 

そう言うと、二乃さんは悔しそうに顔を下へ向ける。

 

「自信はないわ。」

 

そして、そう吐き捨てた。…無理もないだろう。

彼女は上杉くんが家庭教師として就任してから一番長い期間勉強をしてこなかったんだから、一週間の勉強だけで良く頑張ったほうだと思う。

二乃さんにはメインで勉強を教えていたから分かるが、この子はやればできる子だ。呑み込みも早かったしもっと勉強すればそのうち赤点は回避できるようになると思う。

ただ、今回は時間がなさ過ぎた。それを考慮すると仕方がないことだからね。

 

「…今朝も言ったと思うけど、私は真実をそのままパパに伝えるわ。」

「うん、わかってるよ。」

「私達の中の誰かが赤点なら、上杉には首になってもらうしあんたの家庭教師の話もなかったことになるわ。」

「そうだね。それは僕の努力不足ってことだから、しょうがないよ。」

 

下を向いて淡々とそう言う二乃さんに対して、僕は窓の外を見つめながらそう返した。

いくら二乃さんが反抗的で勉強をしたがらなかったとはいえ、それを言いくるめてもっと早期から勉強をさせていればこんなことにはならなかったかもしれない。

もちろん彼女に原因がないわけじゃないけど、僕にも原因はある。特に人間関係的な部分は僕が担っていた。

上杉くんが勉強を教えることだけに集中してもらうのが僕の役目だったにも関わらず、二乃さんを説得できたのは1週間前。こんなんじゃ補佐としては失格だろう。

 

「…あんたは、悔しくないの?」

「え?何が?」

 

二乃さんはそう言うと、顔を上げる。その目には涙が溜まっていた。

 

「…場所を変えようか。ここじゃまずいね。」

 

そう言って彼女の手首を掴むと、僕は人気のない場所へと移動するために教室を出た。

そして、そのまま渡り廊下まで彼女を連れていくと僕は手を渡した。

 

「…ここ、覚えてる?」

「ええ、私達が最初に言い合いをした場所でしょ。」

「正解だよ。」

 

そう、僕が彼女を連れてきたのは最初に「五月さんに合わせて欲しい」と頼んだあの渡り廊下だった。

 

「ここなら人気もないし、ゆっくり話せるでしょ。」

「…ええ、そうね。」

 

そう言うと、彼女は袖で涙をぬぐって僕を真っ直ぐとした目で見据えてきた。

 

「じゃあ改めて聞くわ。あんたは悔しくないの?」

「…さっきも言ったけど、何がかな?」

「テストどうだった?ってあんたはさっき聞いたじゃない。その時に私が自信が無いって言ったことがよ。」

「あぁ、そんなことか。別に悔しくないよ。だって、二乃さんは悪くないじゃん。」

 

僕がそういうと、二乃さんは目を見開いた。

 

「二乃さんはよく頑張ったよ。一週間であそこまで持っていったんだもん。そして全力でテストにぶつかった。」

「ええ、テストに関しては一切手は抜いてないわ。」

「だったら別に悔しくなんてないよ。全力でやって自信がない。ならそれでいいじゃんか。全力で持てる限りの力を使って挑んだ。だったら悔しくなんてないよ。」

 

僕はカラカラと笑いながら言葉を続ける。

 

「むしろ、もっとわかりやすく教えてあげられなかった自分を悔やむかな。少なくとも君の結果に悔いはない。これはハッキリと言えるよ。」

「…私はあんたや上杉に反発してここまで来た。そのせいで、あんた達は私に勉強を教えるのが大幅に遅れてるのよ。」

「そうだね。」

「あんたはそれが悔しくないの!?もし私が赤点を取るなんてことになったら…あんたはそれで許せるの!?」

「…それは二乃さんのせいじゃないんじゃないの?」

「………え?」

 

僕がそういうと、彼女は面食らったような表情になる。

 

「二乃さん前に言ったよね。私達5人の家に僕達の入る余地はないって。だから僕達に対してきつく当たってるし、姉妹を守るための行動だったわけじゃん。」

「なら、二乃さんは姉妹のためを思って行動したわけじゃん。結果的にそれが家庭教師の妨害って形で出て来てはしまってたけどさ。確かにそのせいで君に勉強を教えるのは一週間前になったよ?」

「しかも赤点回避したら僕が言う事をなんでも1つ聞いてやるって言う半ば脅迫じみた理由でね。」

「確かに最初はイライラしたよ。なんで君達の事を思ってるのに聞いてくれないんだって何度も思ったし、正直投げ出してやろうかと思った時も何回もあるよ。」

「でも、僕は別にそれは二乃さんのせいだとは思わないさ。どっちかと言うと、君を説得しきれなかった僕に原因があると思ってるくらいだし。」

「もっと早く君を説得出来ていれば、自信を持ってテストへ望んでもらえたかもしれない。もっと早く説得出来ていたら、赤点を回避出来ていたかもしれない。」

「そう考えると後悔の念で頭がいっぱいだよ。君は姉妹のためを思って行動してた、僕は君達の事を思って行動してた。でもそれを伝えきることが出来ずに君の信頼を得られなかった。」

「だから、君がもし赤点を取るなんてことになったらそれは僕の責任だ。僕が悪いんだから。僕がもっと早く、君の信頼を得ていたら起こりえなかったことだよ。だから…二乃さん。」

 

僕はそこでいったん言葉を区切る。

 

「ごめんなさい。」

 

そして、僕は彼女へ頭を下げた。

 

「君が赤点を取ることになったら、それは僕の責任だ。人間関係の改善が補佐である僕の仕事だったのに、僕はそれを一週間前にしか改善できなかった。」

「だからそうなった場合は僕の責任だよ。二乃さん。君は悪くない。君はよく頑張ったって褒められてもいいくらいだと思う。」

「よく頑張ったね、二乃さん。」

 

頭を上げた僕は、満面の笑みを浮かべながらそう言った。

二乃さんはそれまで黙って話を聞いていたが、やがてふるふると体を震わせると思い立ったように下を向けていた顔を上げる。

その目には…涙が溜まっていた。

 

「どうして…どうしてなのよ!」

「私はあんたに何度も嫌がらせをした!何度もあんた達を追い出そうとしたわ!」

「うん、そうだね。」

「そうよ!姉妹を守るためよ!あの子達に手出しはさせないって!そのためなら私は嫌われ役を買って出るって!」

「正直言ってクッソむかついたわよ!私がいくら罵倒しても平気な顔で言い返してくるし!何をやっても涼しい顔で何事もなかったかのように振舞うし!」

「背は低いし、イケメンじゃないし、むっつりスケベそうだし、目を離したらすぐにエロい顔してそうだし!」

「私の裸は見られるし!お礼を言ったかと思えば君が何をしてきても何を言われても全部受け止める!とか喧嘩は売られるし!」

「ひどい言われようだね…」

 

僕は苦笑いを浮かべる。

 

「でもあんたは…私を助けてくれたわ。落ちてくる花瓶から自分を犠牲にしてまで!悪態つきまくってるのに自分を犠牲にした条件を出してまで勉強を教えてきて!」

「心配してた邪な気なんて一切なくて…いつもまっすぐで…馬鹿みたいにお人よしで…馬鹿みたいに純粋で…馬鹿みたいに人の気持ちがわかって…馬鹿みたいに自分を大切にしなくて…」

「いつも人の事を考えてて…!自分のことは後回しで…!今だってそうよ!悪いのは私なのに!邪魔して素直になれなかった私だっていうのに!」

「あんたはいっつもそう!人は悪くない、悪いのは自分だって!自己犠牲の精神もいい加減にしなさいよ!」

「どう考えたって悪いのは私じゃない!あんたは何度も説得に来てくれた!それでも部屋を開けなかったし尖った態度で追い返していた!」

「それでもあんたは何度も何度も…!何度突き放したって、何度拒絶したって!あんたは真正面から真っ直ぐにぶつかってきた!なんでなのよ!なんでそこまでできるのよ!」

「あんたから見れば私はさぞ嫌な女だったと思うわよ!?なのになんでそこまで優しいのよ!そこまで助けてくれるのよ!そこまで…笑顔を向けてくれるのよ!」

「あんたが出した条件だってそうよ!私、もし赤点を回避出来たらあんたに何をさせるつもりだったと思う!?」

 

「二度と家に近づくなって言うつもりだったのよ!?」

 

二乃さんは絶叫にも近い声でそう叫んだ。

両目からは涙がボロボロとこぼれており顔はぐしゃぐしゃになっている。

 

「それなのに悪いのは自分だ、私は悪くないって…頭おかしいでしょあんた!」

「どう考えても私が悪いじゃないの!一週間しか猶予がなかったのも私のせいじゃないの!私があんたを拒絶してきたからじゃないの!?」

「なのに…なのに…よく頑張ったって…私にそんなこと言われる資格なんてない!何で責めないのよ!なんで罵倒しないのよ!」

「なんであんたはそこまでお人よしなのよ!自分を大切にしないのよ!なんでそこまで…誰に対しても優しいのよ!」

「人を守ろうとするのに必死になって自分の傷には気が付かなくて…!」

「もっと自分を大切にしなさいよ!バカ!」

 

もっと自分を大切にしろ…か。昔、母さんからも良く言われたっけな。

 

「私はあんたが気にかけてくれてるのも知ってた!本気で心配してくれてるのも知ってたわ!それを踏まえたうえで鼻で笑って一蹴してたのよ!?」

「純粋に心配してくれる気持ちを踏みにじって…!あまつさえそれを笑って…!そんな私があんたに謝ってもらう資格なんてない!」

「…そんなことはないよ。」

「そんなことあるわよ!むしろ私が…」

「…二乃さん。ありがとう。」

 

そう言うと、僕は彼女を抱きしめた。

 

「ありがとう。君はやっぱり優しいよ。」

「何言ってんのよバカ!そんなわけないじゃない!私はあんたの気持ちを踏みにじにったのよ!?優しいわけが…」

「だって、君は僕の事を心配してくれたじゃないか。」

 

彼女を髪をやさしくなでながら、僕はそう言った。

 

「もっと自分を大切にしろって。優しくない人がそんなことを言えるとは僕には思えないよ。」

「私はあんたの気持ちを踏みにじったのよ!?純粋に心配してくれるあんたの気持ちを!何度説得に来ても冷たく突き放して!」

「でもさ、こうやって自分の想いをこうやってぶちまけてくれてるわけじゃん?本当に悪くないと思ってるなら、そのままその気持ちは胸の内に秘めているはずだよ。」

 

そう、もしも彼女が僕の気持ちを踏みにじったことを何とも思ってないのならここでこんなことは言わないはずだ。そのまま心の中で舌を出して終わる話だからね。

彼女自身、僕の心配する気持ちに気づいていながら姉妹を守るって言う事と警戒心が勝ってああいう態度になっていたんだろう。

本来、彼女は優しい性格のはずなんだ。それが僕のせいでこうなってるっていうのは彼女に申し訳なく思う部分もある。

 

「…ありがとうね、本音を言ってくれて。」

 

今言ったことは、彼女が今まで尖った態度の裏に隠してきた本音なのだろう。

僕に対する感謝の言葉、罪悪感、自分に対する嫌悪、そして何よりも…僕を心配してくれる言葉の数々を聞けば、彼女がどんな人間かなんて一発で分かる。

二乃さんは優しい。それもとびっきり。僕以上にきちんと人の事を見ているし、そのうえで欠点も見抜いて警告も出来るんだから。

こんな人間をやさしいと言わずに何といえばいいだろうか。

 

「思ってもない事言ってるんじゃないわよ。私は最低よ…最低な人間だわ…あんたの気持ちを私は…」

「そんなことないよ。君は僕に対してきちんと感謝してくれてる、僕の心配もしてくれてる。それに、自分に対する嫌悪も抱いてるじゃないか。」

「だから何だって言うのよ…」

「君は優しい人なんだなって思ってさ。人の事をしっかり見て欠点もすぐに見抜いて指摘できるし。姉妹思いだし。それに本音を隠すことなく言ってくれたじゃん。」

 

僕がそういうと、彼女は僕の目を見て顔を真っ赤にした。

そして突然顔を下へ向けて俯くと、ふるふると体を震わせながら僕の胸をこぶしで叩いた。

 

「…何よ、突然そんなこと言っちゃって。キモ…」

「褒めたのにひどくない?」

「それを言うなら私だってあんたの事結構褒めたんだけど?そこにはノーリアクションなわけ?」

「…ワーウレシイナー。」

「棒読みすぎて感謝の気持ちが全然伝わってこないんだけど?」

 

制服の袖で涙をごしごしとぬぐった彼女は、僕の腕の中で意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「…やっぱ、君にはその笑顔が一番似合うよ。」

「うっさいわね、大きなお世話よ。…と言うかいつまで抱きしめてるわけ?」

「あ、ごめん!泣いてる子を慰めるためにはどうしたらいいか考えてたら自然とこうなっちゃって…」

 

僕は彼女に言われて慌てて彼女を開放する。

心なしか、二乃さんの顔はりんごのように真っ赤になっていた。

 

「…今までは色々とよく分かんなかったけど、今回の事でハッキリしたことがあるわ。」

「そうなの?」

「えぇ…やっぱ私、あんたの事嫌いみたい。」

「フォロー入れた上に慰めたのに!?」

「ふふっ…ええ、嫌いよ。あんたなんか嫌い。大っ嫌い。」

 

そう言って、彼女は心底楽しそうに笑った。

 

「でも…ありがと。」

「どういたしまして。」

「私、思ったよりもあんたの事意識してたみたいだわ。あんなにポンポンあんたの事出てくるなんて自分でも思わなかったし。」

「それは僕もびっくりしたかな。僕なんて君の中ではミジンコ程度の存在だと思ってたからさ。」

「さすがにミジンコまではいかないわよ。ゾウリムシくらいかしら?」

「そこまで変わらなくない!?」

 

どこまでいっても僕は微生物と同じなのか、ちょっとへこむぞ。

 

「まぁでも、言いたいことは言えたしスッキリしたわ。モヤモヤしたものが無くなったし。」

「それは良かったよ。」

「…あと、よくわからなかったあんたへの気持ちも分かったことだしね。」

「え?それはどういう?」

「色々踏まえた結果、やっぱ私はあんたが嫌いって事よ。」

 

そういう割には、彼女は何故か妙に言いづらそうにしている。

…まぁ元々素直じゃないし、別に変ではないけど。

 

「だから、私は自信を持って今回の結果をパパに報告するわ。あんたの頑張りの結果と、私の頑張りの結果。その両方を。」

「うん、そうしてくれるとありがたいかな。理由はどうあれ僕も君も頑張った。今回の結果はその成果ってことで。」

「そうね、そういうことにしておきましょ。」

「…それじゃ、僕生徒指導室行かなきゃいけないからさ。」

「あ、そう言えばそうだったわね。」

 

もうずいぶんと待たせちゃったから…先生カンカンだろうな。考えるだけでも気が滅入ってくるよ。

 

「御影。」

「ん?どうしたの?」

 

頭を抱える僕に、二乃さんが話しかけてくる。

 

「私は一度決めたら曲げないわよ?これから覚悟しておく事ね。」

「…どういうこと?」

 

そう言うと、二乃さんはくるりとこちらを向いて口を開く。

 

「あんたなんか、大っ嫌いだってことよ!」

 

そう言って笑う彼女は100点満点の笑顔で…そして、その顔はりんごのように真っ赤だった。




二乃が自分の恋心に気づきました(重要

あまりドロドロにはしたくないので
さっぱりした感じで書いていきたいですね
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