五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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今回ちょっと文字数が多すぎてあとがきまではみ出てます
ご了承ください


第2話 前途多難

作戦会議の翌日、僕は自分の教室へ登校すると中野さんに声をかけるために心の準備をしていた。

そこ!ヘタレとか言わないの。昨日は授業中に助けたから自然に話せたけど、何もないときに女の子に声かけるのって結構勇気いるんだぞ。

しかも中野さんは美人だ。とびっきりの。ナチュラルメイクであんだけ可愛いし髪もサラサラだしネイルもバッチリ決まってる。

一体朝何時間かけて準備しているのか想像もできないくらいバッチバチに決めているくらいには。

それに僕には女の子の友達なんていない、昨日中野さん姉妹と話してたけどあれも内心ではめっちゃ緊張しながらだったんだからな。

 

「おはよ~。」

 

と色々と考え事をしていると、お目当ての中野さんが登校してきたようだ。

中野さんはクラスメイト達とあいさつを済ませると、僕の隣の席に着席する。

 

「おはよ、御影くん。」

「おはよう、中野さん。」

 

にっこりと微笑みながら挨拶してくれる中野さんに対して、僕も精いっぱいの笑顔で答える。

…よし、頼むならここしかない。

 

「中野さん、ちょっといいかな?」

「ん?どうしたの?」

 

席に着くなりスマホを触り始めた中野さんは一旦手を止め、こちらを向く。

 

「えっと、妹の五月さん?とちょっとお話がしたいなーって思ってるんだけどさ…」

「え、五月と?」

 

僕がそういうと、中野さんは少し考え込むような表情を見せた。

まぁいきなり転校してきた次の日に隣の席の男から妹を紹介してくれと頼まれたんだ。姉として普通なら警戒して当たり前だろう。

とりあえずこれですんなり了承がもらえるとは思っていない、その場合の策はしっかり考えている。

 

「…どうして?用があるなら私が伝えておくわ。」

 

中野さんは、やや声のトーンの落としながらそういった。

明らかに警戒されている、眉間にしわが寄っているしあまりいい気はしていないようだ。

まぁこのくらいなら想定済みだ、次の一手を打とう。

 

「えーっとね…言いづらいんだけどさ、家庭教師の件で話があるって言えばわかるかな?」

「家庭教師!?あ、あんた何でそのことを…」

「ちょっと知り合いから聞かされてね…その様子だと生徒は妹さんだけじゃないみたいだね。」

 

そう、策というのはもう包み隠さずに家庭教師の件を伝えてしまうことだ。

策でも何でもない気がするけど気にしてはいけない。いいね?

 

ともあれ、まさか僕が家庭教師の事を知っているとは思わなかったのだろう。

中野さんの表情には明らかに動揺が見える。…というか今「あんた」って言わなかったか。

そんなことを考えていると、中野さんは慌てた様子で席を立ちあがる。そしてこっちへ向かって歩いてくると…僕の手首をつかんだ。

 

「ちょっと来なさい!」

 

いきなり手首をつかまれて困惑していると、中野さんはそのまま僕の手首を思いっきり引っ張る。

このままだと肩から床に激突してしまうので、僕は慌てて席から立ちあがった。

それを確認すると、中野さんは教室の外へ向かって歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと中野さん!?」

「いいから来なさい!」

 

力づくで止めることもできたが、それでは中野さんが怪我をしてしまうかもしれない。

そう思った僕は、抵抗するのをやめて彼女に手を引かれるまま歩く。どこまで歩くのかと思っていたところ、中野さんは渡り廊下のど真ん中で停止する。

そして僕の手首を掴んでいた手を離すと、3歩歩いて僕に向き直った。

 

「じゃ、話の続きするわよ。」

 

そう言うと、中野さんは腕を組んで僕を見据える。

 

「いやそれはいいんだけど…なんで渡り廊下に連れてきたの?」

「御影くんは私が同級生と家庭教師の件で話し合ってるのを他のクラスメイトに聞かれたいと思うのかしら?」

「…確かにね、家庭の事情とかも入ってくるかもしれない。あそこで声をかけた僕が軽率だったよ。」

 

確かにそれは中野さんの言う通りだ。

あんな大勢のクラスメイトの前で家庭教師なんて個人的な話をすべきではないだろう。その点、この渡り廊下は人気が少なくひっそりとしている。

僕は「ごめん」と謝罪した。

 

「それはもういいわ。…それで?五月に家庭教師の件で話があるって言うのはどういうことかしら?知り合いから聞いたって言ってたけど、一体誰から聞いたの?」

「えーっと、知り合いって言うかその家庭教師本人に聞いたんだよ。今度引っ越してきたお嬢様の家庭教師をすることになったってね。」

「…じゃあ御影くんはその家庭教師の関係者ってわけ?」

「関係者っていうか、友達かな。」

 

僕の言葉に中野さんは頭にハテナマークを浮かべた。

まぁそりゃそうか。家庭教師って言ったら普通は大人か大学生がやるもの、まさか同級生が家庭教師だなんて夢にも思わないだろう。

何でそんな奴と友達なんだ?と思われるのも当たり前だ。…仕方ない、ここまで来たら隠さずに言った方がいいな。

 

「上杉風太郎って知ってる?」

 

僕は間を置かずに中野さんに質問を投げつける。

 

「上杉風太郎…?あぁ、確かこの学校で学年主席とかいう根暗で陰キャのガリ勉?昨日五月と話してて少しだけ話題に出たから覚えているわ。」

 

根暗で陰キャ…まぁ客観的にはそう見えるのだろう。

友達として否定してあげたいけど僕もたまに思うことがあるしここは黙っておく。

 

「…それに、五月に対して太るって言ったこともね。」

「あはは…やっぱ聞いてるよね、それ。」

「で?その根暗な陰キャ野郎が家庭教師とどう関係あるっていうのよ。」

「だって家庭教師、上杉くんだから。」

「は?」

「家庭教師、上杉くんだから。」

「はぁぁぁぁぁ!?」

 

中野さん、魂の叫びである。

そんな大声出したら人が集まってきて渡り廊下で話してる意味なくなっちゃうよ…

 

「どどど、どういうことよ!?なんで私達5人の家庭教師が同級生でしかも男なわけ!?」

 

それは僕に聞かれても困る。上杉くん本人でさえ何故自分が雇われたのかすらよくわかってない状態なんだ。僕が答えられるわけがない。

と言うか今さらっと「私達5人」って言ったな。これは本当に五つ子5人の面倒を見ろってことで間違いなさそう。

いくら給料が5倍とは言え骨が折れそうだ…僕は心の中で上杉くんに合掌した。

しかしどうしたものかと悩んでいると、中野さんはズンズンとこちらへ向かって歩いて来る。

そのあまりにも迫真の表情に僕は思わずたじろぎ、一歩後ろへと下がる。

 

「どういうことなのよ!黙ってないで答えなさいよ!」

「そ、それは僕に聞かずに本人か雇い主に聞いてよ!」

 

後近い!距離が近いから!あああ女の子特有の甘い香りがする…普段こんな香り嗅ぎなれないだけに頭がくらくらしてくるんだけど…

そんな僕などお構いなしでなおも距離を詰めてくる中野さんに対して、僕も同じだけの距離を後ずさりながら後ろへ下がる。

…が、とうとう廊下の端まで来てしまったようだ。一定の距離を後ずさった後に背中に固い感触を感じた。

対する中野さんは情報を処理しきれていないといった様子だった。頭からは煙が出そうな勢いで目をぐるぐる回しており、明らかに普通ではない。

 

「とりあえず落ち着いて…」

「落ち着いてるわよ!」

 

そしてなおも距離を詰めてくる中野さん。

いやいやちょっと待ってくれ。その距離からさらに踏み込んでこられると僕中野さんと密着しちゃうんだけど。

え、なに?最近の女の子ってこんなアグレッシブなの?

 

「って違う!頼むから落ち着いて、中野さん!」

 

そう言うと、僕は中野さんの両肩に手の平を当てて彼女を目を真っ直ぐと見据える。

中野さんは一瞬体をビクッと震わせたが、徐々に荒くなった息も収まってきて上気して赤くなった顔も肌色を取り戻しつつあった。

 

「とにかく、君達の家庭教師は同級生の上杉風太郎くん。ここまでは分かった?」

「え、えぇ…それは分かったわ。」

「じゃあ次の話するよ、その上杉くんなんだけど君の妹さんと昨日食堂で揉めちゃっててさ。謝りたいって言ってるんだよ。」

「…五月から昨日聞いたわ、自分に対して太るぞって言ってきた失礼な人がいるってね。」

「うん、僕もその場に居合わせたから知ってるんだけどね。それでこのままじゃ家庭教師やりづらいから、謝らせてほしいんだよ。」

 

僕は中野さんの目を真っ直ぐと見据えながらそう言い切る。

 

「それで五月と話がしたいって言ったのね。」

「そういうことになるね。上杉くんと妹さんのわだかまりの解消が目的ってこと。僕が仲裁に入るから、妹さんと話がしたい。」

「……」

 

中野さんは何やら深刻そうな顔をして考え込んでいる。…もう一押しかな?

 

「中野さんだって家庭教師と妹さんが仲悪かったら嫌でしょ?」

「……」

「僕は昨日妹さんと少し話してて、面識はある。会って2日目だし抵抗はあるかもしれないけど僕に任せてもらえないかな?」

「…ええ、わかったわ。」

 

中野さんの答えを聞いた僕は、肩を掴んでいた手をそっと離す。そのまま中野さんは僕から3歩歩いて距離を取ると、再び僕へ向きなおる。

しかしなぜだろう。中野さんの表情には邪悪な笑みが張り付いていた。

 

「悪いんだけど、あんたの頼みは聞けないわ。」

「…マジで?」

 

え、これ引き受けてくれる流れじゃなかったの?御影さん聞いてないよ?

と思ったが、あの邪悪に染まったニヤニヤ顔を見ると交渉は決裂してしまったらしいな。

 

「どういうつもりか…教えてもらってもいいかな?」

「ええ、いいわよ。あんた友達なのよね?その上杉とか言う陰キャに伝えておいて。」

 

中野さんはそういうと、今日一番の笑顔を浮かべて口を開く。

 

「私達に家庭教師なんかいらないってね!」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

放課後。僕と上杉くんは建物の陰にコソコソと隠れながら、中野五月さんの後を追いかけていた。

 

「上杉くん、これ傍から見たら僕達完全に変質者だよ。やっぱ後付けるのはまずいんじゃ…」

「しかしもうこれしか方法がないだろう。なりふり構ってはいられん。」

 

何故僕と上杉くんがこんなストーカーまがいの行為をすることになったのか。

全ての理由は中野二乃さんにある。

 

結局あの後中野二乃さんに必死に説得を試みるもことごとく失敗し、そのまま予鈴が鳴ってしまったため教室に戻る羽目になってしまった。

どうして家庭教師がいらないんだ、何故妹さんに頼んでもらえないんだ。何度訴えかけても聞く耳を持ってもらえない。

ならばと休み時間に声をかけようとしてみたけど、中野さんはとっとと友達の方へ行っておしゃべりを始めてしまう始末である。

あれじゃ声のかけようがない、申し訳ないけど僕はガールズトークの中に飛び込んでいけるほど心臓に毛の生えた人間ではないからね。

 

だったらもう中野二乃さんを頼らずに中野五月さんの方へダイレクトに声をかけてみよう。

そう思ったのだが、休み時間のたびに中野五月さんの机には必ずと言っていいほど来訪者が居てとてもじゃないが声をかけられるような雰囲気ではなかった。

ある時はショートヘアの女子が、ある時はヘッドホンを付けた女子が、ある時は頭にリボンを付けた元気の良さそうな女子が、あるときは中野二乃さん自身が。

ちなみに中野二乃さんと目が合った時に軽く鼻で笑われたため、恐らくあの女子たちは彼女たちが話をさせないためにけしかけたものだろう。僕も嫌われてしまったもんだ。

 

ならばと食堂で彼女を誘おうとするも、既に先約を入れられていたおかげで無理でしたとさ。

その時に上杉くんがショートヘアの女の子に声をかけられていたり、頭にリボンの乗っかった女の子に絡まれていたりしたがそれはまた別のお話。

結局その後もチャレンジしてみたが、放課後になってしまったため上杉くんと緊急の作戦会議をしたんだけど。

 

『奴の後を着けるぞ。』

 

と、どや顔で言い放った上杉くんのこの一言で晴れてストーキングに決定した。

というわけで絶賛中野五月さんストーキング中である。

…まぁ考えた上杉くんも上杉くんだけど、なんやかんやで付き合ってしまっている僕も僕なんだけどさ。

ちなみに「家庭教師はいらない」というのは上杉くんには伏せてある。変に動揺させてもいけないしね…

 

「まったく…なんでそこまでして嫌がるんだろ。」

 

自分たちの家庭教師は同級生でしかも異性。そんな奴が思春期真っ盛りの姉妹だけの空間に入ってくるのにいい気がしないってのは分かるような気はする。

けど、家庭教師を雇うってことは成績がよろしくないってことだ。そんな贅沢を言ってる場合ではないと思う。

その辺の一般的な男子高校生ならともかく、教えるのは学年主席かつ全国模試でもトップをキープし続けている上杉くんだ。講師として文句のつけようはないはず。

ただ異性の同級生ってのが嫌なだけなのか…それとも、単純に勉強が嫌いなのか。あるいは両方か…まぁ考えても埒が明かないか。

 

「帰り道なら1人になると思ったんだがな…」

「見事に姉妹と帰ってるね…あれは。」

 

同時にため息を吐き出した僕と上杉くんの目線の先には、中野五月さん。中野二乃さん。そしてもう1人ヘッドホンを付けたセミロングの女の子がいた。

前者2人は既に顔見知りだからわかるが、後者のヘッドホンの子も中野さん達と同じ顔をしていることから彼女達の姉妹で間違いなさそうだ。

 

「五月食べすぎじゃない?」

「そうですか?まだ二個目ですけど。」

 

そう言うと幸せそうに肉まんにかぶりつく中野五月さん。いやまだ二個目ですけどじゃないよ、君の胃袋はブラックホールか何か?

学食で頼んでいたあの量といい、どうやら彼女はかなり大食いなようだ。

 

「この肉まんお化けー!」

「ちょっと!?やめてくださいー!」

「男にモテねーぞー!」

「余計なお世話ですぅー!」

 

目の前でキャッキャウフフしている女の子2名、片や看板に顔を突っ込んでストーキングをしている男子2名。

どう考えても危ない構図です本当にありがとうございました。

 

「あいつらが移動する、行くぞ御影。」

「わかった、行こう。」

 

そんなことを考えていると、どうやら中野さん達が移動を開始したらしい。

先に看板から顔を外して走って行ってしまった上杉くんを追いかけるべく僕も看板から顔を外して上杉くんの後を追いかけ…

 

「…それ、楽しい?」

 

ようと思った瞬間、不意に後ろから声がかかった。

なんだと思って振り向いてみると、そこには先ほど中野さん達と一緒にいたヘッドホンを付けたセミロングの女の子が立っていた。

けだるそうな表情に眠たそうな瞳に整った顔立ち。遠めでも分かったけど、近くで見ると一発で中野姉妹の1人だとわかる。

ってかこれまずくね?ストーキングしてるのバレてるじゃん。

 

「ま、まぁね。」

「ふーん…下校中の女子高生を眺める変質者…予備軍?」

「言葉にすると心に突き刺さるからやめて。あと通報しようとしないでお願いだから。」

 

スマホを取り出して110番と打ち込もうとしている彼女を必死に静止する。

 

「…わかった。通報はやめてあげる。」

「そうしてもらえると助かるよ。」

「何をやっているんだ御影!早く行くぞ!」

「あ、うん!今行くよ!じゃあそういうことだから、くれぐれも君の姉妹には内緒でね!」

「えっ、なんで私達が姉妹って…ちょっと…!」

 

ヘッドホンの女の子が何か言っているような気がしたが、これ以上話していると中野さん達を見失いかけない。

上杉くんに呼ばれた僕は急いで彼に合流するのだった。余談だが、その後中野さん達と合流した彼女が僕達の方を睨んできたのは気にしないことにする。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「上杉くん、ここで間違いないの?」

「ああ、送られてきた住所によるとここで間違いない。」

「うっひゃー…こりゃすごいね。」

 

結局あの後中野さん達をストーキングし続けたが一向に五月さん1人になる気配がなかった僕達は、中野さん達の家までたどり着いてしまっていた。

僕達の目の前には30~40階くらいはありそうな超高層マンションがそびえ立っている。

上杉くんの話によるとここが中野姉妹の自宅らしい。…こんなマンションに住めるなんて本当にお金持ちなんだな。僕達みたいな人間とは済む世界が違うのを否が応でも感じる。

家賃とかいくらなんだろう、考えるだけで頭が痛くなってくる。

 

「本当に金持ちなんだな…ちなみにあいつらの家は30階、最上階らしいぞ。」

「ここの最上階!?やっぱブルジョワはレベルが違うんだね…」

 

しかも最上階と来た。

そんなところに住めるなんてね…羨ましい限りだよ。

 

「とりあえず、中野さんもう中入っちゃったし急がないと。今ならまだエレベーターに乗る前くらいなはずだよ。」

「ああ、そうだな。急ごう。」

 

ここへたどり着くちょっと前に中野さん達3人はマンションの中に入ってしまったであろうから急がないと。上杉くんと僕は小走りでマンションの入り口へと向かう。

ちなみに入ってしまったであろう、と言うのは途中で彼女達を見失ってしまったからである。

恐らくあれは僕達が尾行してるのに気づいたんだろう。

これは3人揃ってマンションの中に入られてしまったか?そうなるとまずいな、出来たら中野五月さんと上杉くんには1対1で引き合わせたいんだけど…

そんなことを考えながらマンションの入り口へ向かって歩き出した…瞬間だった。

 

「何君達?ストーカー?用があるなら私が聞くけど?」

 

突然、どこからともなく中野二乃さんが現れたのだ。

中野さんはそのまま片足を看板に勢いよくたたきつける。ガシャン、という鈍い金属音が響き渡った。

 

「って、あんたは!?」

「ヤァコンニチハナカノサン、キグウデスネ。アハハ。」

「奇遇ですねじゃないわよ!なんであんたがここに…それとなんで片言なのよ!」

「キノセイダヨ。」

「気のせいじゃないわよ!」

 

なにこれ、コントかな?自分で吹っ掛けておいてなんだけど。

しかし僕がストーカーの1人だとは思わなかったのだろう、突然現れた僕に対して中野二乃さんはかなり狼狽えている様子だった。

 

「お前たちじゃ話にならない、どいてくれ。」

「…だって二乃、どうする?」

「こ、こほん!なるほどね、御影の隣にいるのがあんたが今朝言ってた噂の上杉って奴なわけ?」

「そういうことになるね。この根暗そうで悪人面の人が上杉風太郎くんだよ。」

「御影!?なんで俺は今ディスられたんだ!?」

 

ジョークだよジョーク、と僕はへらへら笑いながら言う。

 

「ちょっと何私達放ってコントやってんのよ!とにかく、そういうことなら猶更ここを通すわけにはいかないわ。…早く帰れよ。」

「…だってさ上杉くん。どうする?」

「ここまで来て諦めるわけにはいかないだろ…なんとしても中野五月に謝罪して家に入れてもらうさ。」

 

恐らくタイミング的に、中野五月さんが家に帰るまでに声をかけるラストチャンスはここしかない。

ここで声をかけられずに険悪なままだと家庭教師に影響が出るどころか、中野二乃さんにドアを固く閉じられて門前払いされてしまう可能性が非常に高い。

上杉くんにだって生活がかかってる、ここで諦めるわけにはいかないだろう。…仕方ない、か。

 

「上杉くん。ここは僕が時間を稼ぐ。」

 

僕は上杉くんに少しづつ体を寄せながら、小声でそう言った。

 

「君はその隙にマンションに入って中野さんに声をかけてきなよ。」

「御影…しかしお前は…」

「ここまで来たらとことん付き合うよ。君と僕の仲じゃんか。」

「…サンキューな。お前は本当に頼りになる。」

「僕にはもったいない言葉だよ。上杉くん、僕は家庭教師として雇われてるわけじゃないから彼女達の家にまではついていけない。」

 

そう、本当は仲直り出来るか不安だから僕もついていきたいのは山々だが状況が状況なだけに上杉くん1人で行かないといけない。

そして僕は家庭教師として雇われてるわけじゃない、つまり彼女達の家の中にまでは入れないということだ。

僕にできるのは今ここで2人を相手に時間を稼ぐこと。その後のことは、全て上杉くんの頑張りにかかっている。

 

「僕が協力できるのはここまでだ…後は上杉くん、君の頑張り次第だよ。」

「ありがとう。頼むぞ。」

「任せて!」

 

僕と上杉くんは顔を見合わせて笑うと、次の瞬間上杉くんは看板を飛び越えてマンションの入り口へとダッシュする。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

中野二乃さんが慌てたような表情で手を伸ばすが、その手はむなしく空を切る。

 

「追うわよ、三玖!」

「うん。」

「ちょっと待ったぁ!」

 

三玖と呼ばれた女の子と中野二乃さんも彼を追いかけるようにマンションの入り口にダッシュしようとする。

だけどそうはいかない。僕は2人の間を走り抜けるとマンションの入り口へ立ちふさがった。

 

「御影!?そこをどきなさい!」

「悪いけどそれは出来ない…ここを通すわけにはいかないんだ。」

 

僕はいっぱいに両手を広げると鋭い眼光で2人を睨む。

そしてとうとう御影って呼び捨てになりました、転校初日の友好的だった彼女はどこへ行ってしまったんだろう。

 

「邪魔すんじゃないわよ!」

「やだね。ってか、元々きみが五月さんと上杉くんを普通に引き合わせてくれたらこんなややこしいことしなくても良かったんだけど。」

「今朝私達に家庭教師はいらないって言ったでしょ!聞いてなかったわけ!?」

「いやそれは聞いてたけどね?上杉くんにも彼なりの事情があるからはいそうですかって引き下がれないんだよ。」

「あいつの事情なんて知ったこっちゃないわ!」

「そっか、じゃあこっちも君達の事情なんて知ったこっちゃないね。」

 

中野さんを挑発する意味も込めて僕は鼻で笑ってみせる。

…決して昼間に鼻で笑われたからその仕返しにやってやろうと思ったわけではない、それは断じて違う。違うからな!

 

「…なんで君はそこまであの人のために必死になってるの?」

「決まってる、彼が友達だからだよ。友達を助けるのに理由がいるのかな?」

「友達だからって普通はそこまでしないわよ!バッカみたい!あんた魔性のバカなんじゃないの!?」

「よく言われるよ。あと知らなかった?バカって言う方がバカなんだよ。」

「うっさいわよバーカ!!!」

 

中野二乃さんは顔を真っ赤に染めて握りこぶしをふるふると震わせていた。…ちょっと彼女を煽るの楽しいと思ってしまったのは秘密にしておく。

 

「…二乃の言う通り。私達に家庭教師はいらない。」

「君達がいらなくても上杉くんには家庭教師をやらなきゃいけない理由があるんだ。その邪魔はさせないよ…!」

「じゃあ質問だけど、君はこんな強引な手段を取って私達が素直にあの人の授業を受けると思うの?」

「え、そりゃ受けるでしょ。だって家庭教師雇うってことは君達成績あんまよくないんでしょ?」

 

僕がそう言うと、目の前の2人は揃って苦虫をかみ潰したような表情を浮かべる。

…図星みたいだね。

 

「じゃあ受けないと駄目じゃん。お金を払って雇ってくれている人にも失礼じゃない?」

「あなたには関係ない。勝手に人の家の事情に首を突っ込まないでくれる?」

 

ヘッドホンを首からかけた女の子はそういうと、僕を思いっきり睨み付けてきた。

 

「だから僕だってこんな手段取りたくなかったんだってば。上杉くんを五月さんと引き合わせて上杉くんが一言謝れば全部丸く収まったんだからさ。」

「例え五月と上杉が和解しても私は認めるつもりはないわよ。隣の三玖も同じ。」

「そっか…強情だね、君達。」

「うっさいわよ。ここまで言われて一歩も引かないあんたの方がよっぽど強情じゃない。」

「うん、違いないね。」

 

僕と中野二乃さんはお互いに顔を見合わせると、2人同時に呆れたような苦笑いを浮かべた。

 

「そういうことだから、君達が上杉くんを認めるまで僕はここを動くつもりはない。」

「あら奇遇ね。私も一度こうと決めたら突っ走るタイプなの。」

 

腕を組み、大きな胸を張りながら中野二乃さんは宣言する。

 

「二乃がこうなったら絶対折れない。諦めた方が身のため。」

「それは出来ない。中野さんに譲れないものがあるように、僕にも譲れないものがあるんだ。退くわけにはいかない。」

「…似た者同士お似合い。」

 

そう言って大きなため息を吐き出したヘッドホンの女の子は、僕がテコでも動かないことを察したのかヘッドホンを耳に装着するとスマホを触り始めた。

 

「僕達お似合いだってさ、中野さん。」

「はぁぁぁぁぁぁ!?誰が誰とお似合いだってのよ!あんたみたいな強情な奴なんかお断りよ!」

「いや、僕もギャルはちょっと…」

「誰がギャルじゃゴルァァァァァ!!!」

 

いや、どう見てもギャルっしょきみ。

ネイルしてるしメイクもバッチバチに決まってるし髪だって何時間かけてセットしてんのさそれ。

 

「というか叫びすぎでしょ中野さん。近所迷惑だよ。あと喉痛くならない?喉あめあるけどいる?」

「誰のせいだと思ってんのよこのバカ!そして何なのよその変な気遣いは!」

「いや、ほら。女の子が喉痛めたらまずいかなって…」

「誰のせいだと思ってんのよ!」

「え、僕のせいなの?」

「あんた以外に誰がいんのよ!」

「…そこのヘッドホンつけてる女の子?」

「んなわけあるかぁ!」

 

なんか中野さんで遊ぶの楽しくなってきた。

 

「もういいわ!こうなったら実力行使よ!力づくででも通ってやるんだから!」

 

そんなことを考えていると、中野さんはこちらへ向けてズンズンと歩を進めてくる。

とうとうしびれを切らして実力行使に訴えてきたか…当然ここを通すつもりのない僕は両手を広げて道をふさぐ。

しかし、中野さんはそんなことなどお構いなしと言った様子でこちらへ向かって距離を詰めてきた。

 

「ちょ、ちょっと待って!僕はここを動くつもりはないよ!?」

「だから力づくでも通るって言ったでしょ!」

「なら力づくでも通さない!」

 

もう少しで僕と中野さんの距離がゼロになる、というところで僕は中野さんの両肩を掴む。

…よくよく考えたら朝と同じ光景なのではこれ。今朝と違うのは肩を掴んだ時に中野さんが体を震わせなかったことくらいかな。

 

「離しなさいよこの変態…!」

「やだね…!あと僕は変態じゃない…!」

 

そしてそのまま全体重をかけてくる中野さんに対して、僕は腕を突っ張って押し返して対抗する。

 

「女の子の肩を許可なく掴んでる奴が変態じゃなくて何だって言うのよ…!」

「僕は君と密着しないようにしてるだけだ…!君が引いてくれればこんなことせずに済む…!」

「絶対どかないわ…!!!」

「僕だってどかない…!!!」

 

僕も中野さんもお互いに体に力を入れすぎているせいか、お互いに絞り出した声が震えていた。ちなみに体もぷるぷると震えている。

ど…どうしよう、さすがにこのまま押し問答するのは不毛でしかないぞ…何かいい方法は…何か…

 

「なになにー?痴話喧嘩?」

 

そんなことを考えていた瞬間だった、お互いに全力を振り絞って押し問答をする僕と中野さんの後ろから間の抜けた声がかかる。

ちらりと声のした方に目をやると、そこには薄ピンクのショートヘアの髪の女の子が立っていた。

耳のピアス、整った顔立ち、第二ボタンまで開けて目に毒な胸元、そしてこの子も中野さんと「同じ顔」をしていた。…姉妹のうちの誰かかな?

なんかこの人、どっかで見たことがあるような?

 

「い、一花!?」

「やっほー二乃。」

「君は…確か食堂で上杉くんに声をかけてた子だったっけ。」

「おー、覚えててくれたんだ!確か食堂で優等生くんと一緒にいた子だよね?」

「う、うん。そうだけど…」

「なになに?二乃とどういう関係?見た目に似合わず手が早いねー。」

 

そう言うと、ショートヘアの女の子はニヤニヤとした顔でこちらを見てきた。

…ちょっと待って、この人なんか重大な勘違いをしていないか?

 

「あの、何か勘違いしてない?」

「あれ?君って二乃の彼氏じゃないの?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?こんな奴が私の彼氏?冗談じゃないわよ!」

「僕もギャルはちょっと…」

「だから誰がギャルじゃゴルァァァ!!!」

 

あれ、このやり取りなんかデジャブを感じるんだけど…というかそろそろ腕がヤバいかも。

そんなことを思った瞬間だった、長いことずっと全力で押し問答を続けていた限界が来たのだろう。腕の感覚が徐々になくなってきていたのだ。

考えた瞬間これである。認識ってつくづく怖いんだね。というかまずい…今ここで手の力が抜けたら…

 

「あはは、照れ隠ししなくてもいいって!」

 

そんな僕の事情を知ってか知らずか、一花と呼ばれたショートヘアの女の子は二乃さんの背中を軽く小突いた。

ちょ、ちょっとまって!今そんなことされたら…!!!

 

「きゃぁ!?」

「うわぁ!?」

 

一花さんに背中を小突かれた勢いで、僕と取っ組み合いになっていた二乃さんはそのまま僕の胸に体ごとぶつかってきた。

恐らく彼女も力を入れすぎて限界だったのだろう、力の抜けた彼女の全体重が僕の体に一気にのしかかる。

そんな状態で腕がしびれて感覚がなくなり、力の入らなくなった僕が耐え切れるはずもなく彼女に衝突された僕は勢いそのまま地面へ倒れこんだ。

後頭部に衝撃が走る。

 

(いてて…)

「ご、ごめん!大丈夫!?」

 

まさかこうなるとは思わなかったのだろう、一花さんはかなり慌てた様子で僕達の様子を伺っているようだった。

幸い頭は打ったものの意識ははっきりとしている、さっさと起き上がってしまおう。そう思った瞬間だった。

 

「なんとかね…ん?」

 

起き上がろうと地面に手をつき、顔を上げようとすると何やら顔全体が柔らかいものに埋まる。

…なんだこれ?こんなエアバックみたいなものマンションにあるの?転んだ時の怪我防止用か何かかな?

はぇ~すっごい、最近のマンションってそんなハイテクなんだ~。アハハ…

 

「な…な…な…」

 

…うん、だよね。知ってた。そろそろ現実逃避はやめて現実を見よう。

取っ組み合っていた僕と二乃さんの背中を一花さんが小突いて二乃さんが突撃してきたということは、必然的に僕が下敷きになる形で倒れこむわけだ。

となると、僕の顔が埋まっているこの柔らかいものは…もう言わなくてもご理解イタダケルデショウ。

 

「ななななな…なにすんのよこの変態ッ!!!今すぐどきなさいよ!はやく!」

「ちょ、ちょっとジタバタしないで!苦しい!息苦しい…!」

「そ、そこでしゃべるなぁ!吐息が当たってるのよ!バカ!キモイ!変態!痴漢!」

 

そ、そんなこと言われても体に力が入らない上にそんな激しくジタバタされたら身動きが取れないんだけど…

恐らく二乃さんも体に力を入れすぎて一気に力が抜けたせいでうまく動けないのだろう、口ではああいっているが全く立ち上がる気配がない。

い、息苦しい…でもなんか甘い香りする…でも息苦しい…でも柔らかい…なんだこれ…ああそうか、これが桃源郷って奴か…

 

「…お盛んだね。」

「あ、三玖いたんだ。」

「さっきからそこにいた、この人と二乃がイチャイチャしてるせいで暇。」

「イチャイチャなんてしてないわよ!というかあんた達!見てないで早く起き上がるの手伝いなさいよ!」

 

ちょ、中野さん…それ以上のしかからないで…マジで息できなくなるから…死んじゃうから僕…

せめてもの抵抗として中野さんの肩を掴んで状態を無理矢理起こそうとするが、相変わらず腕に力が入らないせいでうまくいかない。

 

「し、死ぬ…死んじゃうから僕…」

「だからしゃべるなぁ…!」

「どうでもいいけど起こしてあげたら?下の彼が死にかけてる。」

「ほんとだ!ほら二乃、つかまって!」

「もう、手を貸すのが遅いわよ!」

「ごめんごめん…いくよ、せーの!」

 

一花さんがそう言った次の瞬間、二乃さんの体が引き起こされると同時に僕の顔は柔らかいものから解放される。

二乃さんから解放された瞬間に僕は息を思いっきり吸い込んだ。

 

「げほっ!」

 

肺に急に空気が入ってきたにより僕は盛大にむせる。

 

「ごめんね~。まさかこんなことになるとは思わなくってさ。」

「二乃の自業自得、彼が根負けするまで待ってればよかったのに。」

「うっさいわね!こいつ絶対テコでも動かないわよ!こうするほかに方法はなかったの!」

 

3人がわいわいと話しているのを横目に、僕は徐々に力の入るようになってきた体を動かして立ち上がった。

それに気が付いたのか、二乃さんがこちらへ向かって距離を詰めてくる。

 

「まったくどうしてくれんのよ!あ、あんなことされて…もうお嫁にいけないわよ!どう責任取るつもり!?」

「じゃあその時は僕が責任取ってお嫁にもらうからさ、とりあえず落ち着いてよ。」

「はぁぁぁぁぁぁ!?ななな何言ってんのバッカじゃないの!?」

 

え、僕なんか変な事言ったの?解せぬ。

 

「おー!見た目に似合わず男らしいとこあるじゃんきみ!」

「やっぱりお似合い?」

「うっさいわね!どうせ意味も分からずに言ってるに決まってるわよ!」

 

いや、さすがに意味は分かって言ってるんだけど…

 

「というかあんたが素直にそこを退けばこんな目に合わなかったのよ!」

「だから僕はどけないんだってば…上杉くんがちゃんと謝り終わるまではさ。」

「…これだけ時間があればもう謝り終わってるでしょ。」

 

三玖、と呼ばれた女の子はそういうとこちらをジト目で睨み付けてくる。

…まぁ確かに、これだけ時間を稼げば大丈夫だろうとは思うけど。あの上杉くんだしなぁ…念のためもう少し時間稼ぎした方がいいかな?

 

「やや?皆揃って何やってるんですかー?」

 

そんなことを思いながらにらみ合いを続けていると、3人のさらに後ろから元気のいい声が聞こえてきた。

なんだなんだと思ってそちらの方を確認すると、そこには頭にやたらデカいリボンを付けた元気の良さそうな女の子がいた。

例によって「同じ顔」である。うん、なんかもうそうだと思った。流れ的に。

 

「あれ?あなたは確か私が上杉さんにテストを届けるときに一緒にいた御影さんじゃないですか!」

「君は確か…中野四葉さんだっけ?」

「おぉ、覚えててくださったんですね!そうです!中野四葉です!」

 

そう言うと、何故か敬礼のポーズを取る四葉さん。

ってかまずくないかこれ…2人だけだからなんとか抑えられてたけど、4人もいたらさすがに力づくで来られたら無理だぞ…どうする。

 

「ところで御影さんは私の姉達と何をやってらしたんですか?」

「こいつが私達の家庭教師をやりに来た上杉って奴を五月に合わせるためにここから動かないから、なんとかしてどかそうとしているところよ。」

「え、私達の家庭教師って上杉さんなんですか!?」

「昼間に言ったじゃない!あんたもう忘れたの?」

「え、えーっと…たははー。」

 

右手を頭の後ろにやりながら苦笑いを浮かべる四葉さん。

 

「まぁまぁ、そう言えばきみさ。御影キョーヘー君って言ったっけ?」

「う、うん。そうだけど…」

「ふーん…へぇー…」

 

僕の周囲をぐるぐると回りながら、舐めるような視線を送ってくる…確か一花とか呼ばれてたな、この人。

 

「な、なんなのさ…?」

「ふふっ、外見の割には度胸あるなーと思ってね。普通は友達のためにここまでするなんて中々出来ることじゃないからさ。」

「ふん、ただバカなだけでしょ。」

「あはは…でもさ、さすがにそろそろ通してもらえるとありがたいかなぁ。私達も早く家に帰りたいし、それに家庭教師くんを待たせちゃうのも良くないしね?」

 

そう言うと、一花さんは第二ボタンまで開けた胸元を強調するようなポーズを取りながら上目遣いでこちらを見てきた。

…まぁ確かにこれだけ時間を稼いだらさすがの上杉くんでも五月さんに謝罪は済ませているはずだろう、4人だとさすがに分が悪いしそろそろ引き時かもしれない。

それに僕だって彼女達が家に帰るのを妨害してるのに何の罪悪感も感じていないわけがないしね…

 

「…わかった。そろそろ上杉くんも話が終わってる頃だろうし、退くよ。」

「ごめんね。君にも事情があるのは分かるんだけどねー。」

「こっちこそ…なんか、ごめん。」

「いいっていいって!お姉さんは気にしないよ!」

「いでっ!?」

 

そう言うと一花さんは僕の背中をバンバン叩きながらそう言った。

 

「…一花が頼めば随分素直に聞くのね、私の時はテコでも動かなかったくせに。」

「僕だって君達が家に帰るのを妨害してるのに何も感じてないわけがないからさ…あと君めっちゃ喧嘩腰なんだもん。」

「あんただって喧嘩腰だったような気がするんだけど?」

「いやそれは元はと言えば君が…!…ごめんなんでもない、返す言葉もございません。」

「…ふん。」

 

これ以上話を蒸し返しても意味がない。

そう判断した僕は腕を組みながらこちらを睨んでくる二乃さんに対して平謝りするしかなかった。

 

「なによ、いきなり素直になっちゃって…調子狂うわね…」

「なになに?二乃ったら拗ねてるのー?」

「はぁ!?拗ねてないわよ!」

「…やっぱりお似合い。」

「んなわけあるかぁ!」

「二乃と御影さんって仲良しなんですね!」

「どこをどう見たらそう見えんのよ!と、とにかく!きちんと謝ってくれたんだし、今回の事は多目に見てあげなくもないわ!」

 

二乃さんは僕へ向けて人差し指を突き付けながらそう宣言した。

 

「…分かった。改めて家に帰るのを邪魔して悪かったよ。ごめんなさい。」

「…ふん。行くわよみんな。」

「オッケー。じゃあキョーヘー君。またね!」

「御影さん!また学校でお会いしましょうねー!」

 

そう言うと、踵を返した二乃さんに続いて一花さんと四葉さんはそのままマンションへ向けて歩を進める。

僕の役目はここまでだ。あとは上杉くん、君の頑張り次第だよ。死ぬ気で家庭教師の座を安泰なものにしてもらいたい、僕も応援してるからね…

心の中で上杉くんにエールを送ると、僕も家へ帰るためにマンションに背を向けて歩き出す。

 




「待って。」

不意に、後ろから声がかかった。振り向くとそこには二乃さん達とマンションへ向かったはずのヘッドホンを首にかけた女の子がいる。
…確か三玖さんって言ったっけか。一体なんなんだ?

「…どうしたの?何か用?」
「これ、落としたよ。」

そう言うと、三玖さんは僕につかつかと歩み寄ってきて手を差し出してきた。
こちらも手を差し出すと、手のひらには僕がリュックに入れておいたはずの戦乱無双4の攻略本が置かれた。

「え、いつの間に…!?」
「二乃とぶつかったときに君のリュックから出てきたから思わず拾っちゃった。」
「あの時か…ありがとう。学校で暇つぶしに読もうと思って持ち歩いてたんだよね。」
「そう、それはよかった。」

僕は受け取った攻略本をリュックにしまいながらそう言った。
確かに紐がほどけて中身がこぼれてもおかしくない状態だ。どんだけ激しくぶつかってきたんだ…

「ありがとう。それじゃあ僕はこれで…」
「ま、待って!」

そして今度こそ帰ろうとした瞬間に、再び三玖さんに呼び止められる。

「…君、キョーヘーって言ったよね?」
「うん。そうだけど…」
「戦国武将、好きなの?」
「…戦国武将?あぁ、戦乱無双の本持ってたからってこと?」
「う、うん。」
「んー…まぁ、それなりには?」

正直言うとそこまで好きって訳でもないんだけどね、戦乱無双はアクション性がいいからやってるだけだし。
しかしそれを知ってか知らずか、僕の答えを聞いた三玖さんの目は少し輝いているように見えた。

「そうなんだ…戦国武将、好きなんだ…」
「まぁ人よりは…それがどうかしたの?」
「ううん、なんでもない。」

そうは言っているけど、明らかに先ほどよりも機嫌がよくてテンションも上がっているように感じる。

「三玖!なにやってんの!早くいくわよー!」
「わかった。じゃあ…またね、キョーヘー。」
「あ…うん。また学校で。」

三玖さんはそう言うと、今度こそマンションへ向かって姿を消していった。…一体なんだったんだろうか。
まぁいいや…今度こそ僕はマンションへ背を向けると、自宅へ向かって歩き出すのであった。


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ということで強引にこちらにあとがきをかきます
メモ帳で書いているので、次からはきちんと文字数を収められるように努力します
申し訳ありませんが今回だけ大目に見ていただければ幸いです

そして二乃の出番がかなり多くなってる…
一番動かしやすいからなぁ…
他の姉妹達もきちんと出番を増やしていきます
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