上手く出来ているか、心配ですがお楽しみください
嵐ってのは突然やって来ると相場が決まっているものだ。
そして、決まって嵐の事など微塵も考えていないときに不意打ちのように。
「みーかげさーーーん!!!」
…ほら、こんな風にね。
直後、体の上半身に激しい衝撃を感じた僕は思考を放棄した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あはは…すみませんでした!御影さん!」
「もう大丈夫だから気にしなくてもいいよ…いてて。」
時は休み時間。空き時間を使ってトイレを済ませた僕は教室へ戻る際に四葉さんとエンカウントして彼女の突撃を食らって廊下に転倒した。
考えるのをやめたおかげで変に頭はすっきりしているが、全身を激しく打ち付けたせいで体中が痛い。
「ところで、なんで四葉さんは僕に突撃してきたの?」
「それはですね!御影さんを廊下で見かけて嬉しくなったので突撃しちゃいました!」
「えぇ…」
やだこの子ったらお転婆なんだから…って、そんなレベルじゃないぞ。
「あっ、そう言えば見てください御影さん!この前の上杉さんから出された英語の宿題なんですけど!」
「そう言えば上杉くん四葉さんには宿題出したって言ってたっけ。どこか分からないところでもあるの?」
「全部間違ってましたー!あはははは!」
「駄目だこの子!」
いやいやいやちょっと待ってほしい。いくらなんでも全部間違ってるのはイカンでしょ。
ほら、単語くらいなら1つか2つなら分かるんじゃないの?
しかし、彼女がつきだした答案を見ると見事にすべてに丁寧に赤ペンでバッテンマークが書かれていた。
いやいくら小テスト8点って言ってもここまでアホだとは…想像以上なんだけど。
「上杉くんが頭抱えるのも分かる気がするよ…」
そう言いながら、僕は額に手を当てた。
馬鹿だとは聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかった。そう言えば、最初上杉くんのテストを届けたときに見せていたテストも0点だったっけ。
と言うか、逆に僕からしたら0点なんてどうやって取るんだって聞きたいレベルなんだけど…4択問題とかもあると思うが、よくわからない。
「どうしたんですか御影さん!?頭痛いんですか!?お薬もらってきましょうか!?」
「…大丈夫だよ。ちょっとめまいがしただけだから。」
君の事で頭が痛いんだよと言うわけにもいかない僕はとっさに嘘をついてごまかした。
四葉さんって人の事良く見てるよね、それに気遣いも出来るし人をぐいぐい引っ張っていくリーダーシップのようなものもある気がする。
そして素直で人懐っこい。取っ付きやすさで言えばあの姉妹の中では断トツなんだけどな…まぁ人には何かしら欠点があって当たり前だから仕方がないと言えば仕方ないけどさ。
「そういえば、今日は放課後に図書室で勉強会だけど忘れてないよね?」
「はっ、そう言えばそうでした!すっかり忘れてました!」
うん…もう何も言うまい。
「すみません御影さん!」
「いいんだ、ちゃんと来てくれるだけ君はまだいい方だからさ。」
「…やっぱり他の皆はまだ来てくれませんか?」
「一応説得は続けてるんだけどね…手ごたえを感じるのは三玖さんくらいで、後は全然。」
三玖さんはこの前の一件でだいぶ勉強について前向きになってくれたみたいなんだけど、それでもまだ押しが足りないかなと思う部分もある。
とりあえず今日の放課後の勉強会には来てくれるみたいだから一安心だけど。僕がいるという条件付きではあるけど。
「そうですか…すみません、私の姉妹がご迷惑を…」
「四葉さんが気にすることじゃないよ。これは僕と上杉くんの仕事だから、気にしないで。」
そう言って、僕は四葉さんに向かって親指を立てる。
「はい!私にもお手伝いできることがあれば言ってくださいね!」
「ありがとう、助かるよ。四葉さん。」
「えへへー。」
…なんだこのかわいい生き物。超頭なでなでしてあげたい。
そんなことを思いながら休み時間は過ぎていくのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時は打って変わって昼休み。
いつもの如く学食で生姜焼き定職タレ濃いめを注文した僕は上杉くんの待ついつもの席へとむけて歩を進めていた。
「あれ?キョーヘー君じゃん!」
「……」
「ちょっと!?無視はひどくない!?」
「…どうしたのさ、一花さん。」
やはりスルーすることは許されなかったようだ。
一花さんは僕の真正面に回り込むと、胸を強調するポーズでニコニコした笑顔を浮かべていた。
正直、僕は少しこの子のことが苦手だ。何を考えているのかよく分からないし、いつも顔に笑顔を張り付けていて本心が読めない。
態度も飄々としてるし、つかみどころが全くないためどう接していいのかよくわからずにいた。
「いやーたまたまキョーヘー君を見かけたもんだからさ!一緒にお昼でもどうかなーって思って。」
「生憎だけど、僕はお昼は上杉くんと食べるって決めてるんだ。お断りさせてもらうよ。」
「えー、こんな美少女がせっかくお昼に誘ってるのに勿体ないなぁ。」
「…それ、自分で言うこと?」
「あはは…手厳しいね。」
僕がジト目で抗議すると、一花さんは手を後ろにやって頭をかきながらそう言った。
「それならさ!フータロー君も一緒に食べない?それならいいでしょ!」
「ま、まぁそれなら別にいいけど…」
「やった!じゃ、決まりね!」
そう言ってほほ笑むと、一花さんは僕の隣に並ぶ。
「ってか、他の姉妹と食べたらいいんじゃないの。」
「あ、三玖と五月ちゃんとは約束してるよ!二乃と四葉は友達と食べるらしくてねー。」
「あぁ…あの2人コミュ力高そうだもんね。」
四葉さんはあんな性格だ、きっともう友達もたくさん出来ていることだろう。
問題は二乃さん。クラスでは完全に猫かぶってるんだよなぁ、あの子。
同じクラスだから分かるけど、クラスメイトとかと話してるとき完全に別人になってるからな。
なお、クラスメイトの前だと僕と話していても猫をかぶっている始末だ。たまに素が出そうになって焦ってるけどさ。
「ちょっとー、お姉さんにコミュ力がないみたいな言い方やめてくれない?」
「じゃあ一花さんはこの学校でもう友達出来たの?」
「え!?い、いやーそれは…あはははは。」
「…出来てないんじゃんか。」
笑ってごまかす一花さんに僕は思わず突っ込む。
「ま、まぁまぁ!学校生活って友達の多さだけじゃないしね?」
「そうだね。勉強とかも大事だからね。」
「うんうんそうそう、勉強ね。勉強は…まぁ適当にやろうかなー。」
「一花さん。目が泳いでるけど?」
「き、気のせいだよ!」
明らかに気のせいじゃないんですがそれは。
「まったく…一花さんも上杉くんの勉強会に参加したらどうなの?」
「私はパスかな。ほら、私バカだし。」
「だからってそれが勉強しなくていい理由にはならないでしょ…」
「それにせっかくの高校生活なんだしさ、もっとエンジョイしようよ!例えばそう、恋とか!」
「…それ、僕に相手がいないの分かってて言ってる?」
「あはは…キョーヘー君目が怖いよ…」
そう言って冷や汗を流す一花さんを僕はジト目で睨み付ける。
それにしても、恋ねぇ…まぁ僕も高校生である以上そういうことに興味がないわけじゃないけど、そもそも相手がいないから恋なんてしようもないし。
好きな人でも出来たら何か変わってくるんだろうけどね。無理して作るもんでもないっしょ。
そうこうしているうちに、どうやら目的の席が近づいてきたようだ。三玖さんと五月さんの姿が見える。
「おーい、三玖!五月ちゃーん!」
「遅いですよ一花!私もうお腹がペコペコで…って、御影君!?」
「あれ…キョーヘー?」
「こ、こんにちは…」
「ここに来る途中で会ったからさ、連れて来ちゃった!じゃ、私はこれからフータロー君を拉致してくるから先に食べてて!」
「ちょ、ちょっと!?」
そうとだけ言い残すと、一花さんはさっそうと上杉くんの座っている席へと向かって歩いて行ってしまった。
仕方がないので、僕は彼女達の向かい側の席にトレーを置いて座る。
「な、何故あなたがここに…」
「さっき一花さんが言ったとおりだよ。たまたま彼女に会って連行されたんだ。」
「…なんでフータローも連れてくるの?」
「僕はいつも昼休みは彼と食べてるからだよ。彼がいるならいいよって言っちゃったから、多分そのせい。」
僕は心の中で上杉くんに合掌をしながらコップの水を一口飲む。ふと目線を彼女達へ向けると、それぞれ置かれている彼女達の昼食が目に入ってきた。
三玖さんはサンドイッチと抹茶ソーダで、いかにも女の子らしい昼食だ。…あれで足りるのか若干不安ではあるが。
一方の五月さんはと言うと、醤油ラーメンの麺2倍サイズとチャーハンの大盛りに更には唐揚げとシューマイ。デザートに杏仁豆腐と今日は中華でまとめているようだった。
ってかいくら彼女が人より食べるとは言ってもこの量は異常すぎる気がするんだけど…合計何キロカロリーだよこれ。エンゲル係数がえげつないことになっているぞ。
見てるだけで胸やけが…本当に彼女の胃袋はブラックホールなんじゃないだろうかと心配になる量だ。
「…どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。」
あまりジロジロと見すぎたせいで五月さんから怪訝な表情をされるが、適当にスマホを触ることで追及を逃れる。
「まぁいいでしょう、一花は先に食べててって言ったことですし先にいただきましょうか。」
「そうだね、冷めちゃっても悪いし。」
「「「いただきます。」」」
僕達は3人揃って食膳のあいさつをすると、それぞれの食事に手を付け始める。
「…そういや、五月さんってさ。」
「はい、なんでしょうか?」
「やっぱりまだ上杉くんの授業を受けるつもりはないの?」
「もちろんです。あの人に頼るくらいなら自分で何とかします。」
五月さんは上杉くんの話題が出たのが嫌だったようで露骨に不機嫌になりながらそう答えた。
…ほんとに何やったんだ上杉くん。いくらなんでも好感度低すぎじゃない?
「キョーヘー。抹茶ソーダ飲む?」
「いや、今はそんな気分じゃないかな…生姜焼きにはあわないと思うしさ。」
「そう…残念。」
「…って言うか今ナチュラルに飲みかけ渡そうとしなかった?」
「気のせい。」
「気のせいじゃなくない…?」
少し顔を赤くする三玖さんに対して僕はジト目で抗議をする。
あの日以来、三玖さんは僕に対しては随分と警戒心を解いてくれた。…のはいいんだけど、今度は少し距離感が近いような気もするんだよな。
今だって飲みかけの抹茶ソーダ渡そうとしてきたし、もうちょっと貞操概念を強く持ってもらいたいものだ。
「みんなー。フータロー君連れてきたよ!」
「離せ一花!俺は御影と飯をだな…」
「やっほー上杉くん。」
「御影…何故お前がここに…それに三玖と五月も…」
「ちょっと途中で一花さんにつかまってね。せっかくだし一緒に食べようってことで連行されたんだ。」
「…大変だな、お前も。」
上杉くんは観念したように僕の横へ座ると、それを見た一花さんは満足したように向かいの席へ着席した。
念のため上杉くんのトレーを確認してみるが、やはり今日も焼肉定食焼肉抜きを食べているようだった。
「上杉くん、僕の生姜焼き半分あげるよ。」
「…いつもすまないな、助かる。」
「いいっていいって。そのためにタレ濃いめにしてもらってるしね。」
そう言うと、僕は生姜焼きを半分くらいに分けると取り皿に移して彼のトレーへ乗せる。
「みっともないですよ上杉君。御影君から恵んでもらうなんて。」
「キョーヘーの分が減る…」
「うるさいな、お前達には関係ないだろ。」
「あはは…みんなは知らないかもしれないけど、僕はいっつも昼休みには生姜焼き半分彼に分けてあげてるからさ。心配しなくても僕もお腹いっぱいになるから安心して。」
「この前は誰かさんのせいで生姜焼き分けてもらいそこなったからな。」
「なっ…私のせいだって言うんですか!?」
「誰もお前のせいだとは言ってないだろ?五月。」
口ではそう言ってるけどゲス顔隠しきれてませんよ上杉くん。そして五月さんも睨まないの。
…なんでこの2人こんなに仲悪いんだろうなぁ。傍から見てると僕と二乃さんみたいな感じがする。なんていうか、いつもいがみ合ってるような。
「まぁまぁ。せっかくの楽しい食事なんだし辛気臭いことはなしでいこうよ!ね?」
「うん、そうだね。せっかくなら楽しく食べたいし。」
「キョーヘー。サンドイッチいる?私お腹いっぱいになってきた。」
「いやだからそれ食べかけだからね!?」
いらないよ、と言いながら僕は生姜焼きとご飯をかきこむ作業へ戻る。
「三玖、ちゃんと食べないと夕飯までにお腹が空いてしまいますよ?」
「五月は食べ過ぎでしょ。」
「いえ、このくらい食べないとエネルギーにはなりません!食事はすべての栄養素が吸収されるわけではないのですから!」
「にしても食いすぎだろ…力士かよお前は。」
「りきっ…相変わらず失礼な人ですねあなたは!」
「お前には言われたくないね。」
だーもうこの人たち面倒くさいなぁ!
いちいち突っかかるんじゃないよ上杉くん!そして五月さんもスルースキル皆無すぎでしょ!
「あはは、フータロー君と五月ちゃんって仲いいんだねー。」
「一花さん。僕にはどこをどう見たらこの2人が仲がいいのか全然わからないんだけどご教授願ってもいい?」
「ほら、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃん?」
「この2人の場合は憎しみが勝ってる気しかしないんですがそれは。」
「君と二乃もよく喧嘩してるじゃん?二乃が家に帰ってくると話題の7割はキョーヘー君だからねぇ。」
「どうせ彼女の事だから僕の事ボロカス言ってるんでしょ…」
「うん、当たり。」
だろうな!そりゃ二乃さんが僕の事を良く言うなんて天地がひっくり返ってもあり得ないだろうし当然と言えば当然だが。
結局マンションの前での一件以来、僕はえらい二乃さんに嫌われているからな。最近なんて朝の挨拶すら無視されるようになったぞ。僕は悲しいよ。
「でも二乃がキョーヘー君の話をしてるとき、すごい楽しそうなんだよね。」
「うそでしょ…えー、明日槍でも降るんじゃないの?最近クラスでも無視されるんだけど僕。」
「あはは…二乃も素直じゃないなぁ。それで、キョーヘー君の悪口を二乃が言いすぎて三玖が食って掛かったりとかね。ね?三玖。」
「ちょ、ちょっと一花…!」
「三玖さん…ありがとう…君は本当にいい子だ…!」
「きょ、キョーヘーが泣いてる…!?」
これがこの世の天使か。今の僕には三玖さんの背中に天使の羽が生えて見える。
「お礼に今度何かおごってあげるよ!何がいい?」
「え、えっと…じゃあ抹茶ソーダ、買ってほしいかな。」
「抹茶ソーダね!任せて!今度自販機で買ってくるよ!」
「うん、ありがとう。」
そう言うと三玖さんは普段は見せないような柔らかい笑顔を浮かべた。
…やばい、めっちゃかわいい。ドキドキしてしまいそうだ。
「み、三玖のあんな顔初めて見ましたよ…」
「これは完全にお熱だねー。お姉さん妹に先越されちゃったなー。」
「お前ら…一体何の話をしているんだ?」
「さぁ…?」
そうとだけ言うと僕は味噌汁でご飯を胃の中へと流し込む。
「二乃さんなぁ…どうやれば彼女と和解できるんだろうね。」
「俺に聞くなよ。そうだな、奴の好きなものでもプレゼントしてやればどうだ?」
「二乃さんの好きなものってなんだ…?」
「うーん、イケメンとかアクセサリーかなぁ?あとはネイルもやってるからそういう系統とか?」
「いやー見事に僕には縁のないものばっかだね。とてもじゃないけど無理だよ。」
しかし、そう考えると二乃さんってまんまギャルだよね。
ただなんて言うんだろう、ケバさとかは全然ないんだけどね。メイクはナチュラルだし。多分。
「…二乃なんて放っておけばいいよ。キョーヘーの悪口ばっかだもん。」
「まぁ僕は別に悪口言われること自体はいいんだけどね。」
「むー…ならいいけど。」
三玖さんはぷくーっとほっぺたを膨らませて抹茶ソーダの缶を手に取った。
「と言うか一花に五月。お前らもそろそろ勉強会に参加をだな…」
「嫌です!あなたの教えは請いませんと言ったはずです!」
「私もパスかなー。ほら、バカだしね私。」
「…お前らに期待した俺がアホだったよ。」
上杉くんはそう言うと頭を抱えてしまった。…後でフォローしておくか。
「まぁまぁ。…2人とも、いつかは参加してあげてね。これでも上杉くんは君達のために頑張ってるからさ。」
「…まぁ御影君がそこまで言うなら考えておきましょう。」
「気が向いたらね!」
「…前向きなお返事をありがとう。」
僕も頭を抱えたくなるが、ここはぐっと我慢だ。
「フータロー。勉強会って今日の放課後だよね?」
「ああ、図書室でやるから間違えないようにしてくれ。」
「もちろんキョーヘーもいるよね?」
「うん。いるよ。分からないところがあったら教えるから気軽に声かけてくれたらいいよ。」
「わかった。じゃあがんばる。」
両手でこぶしを作ってぐっと胸のあたりで構えながらそういう三玖さん。…かわいい、普通にかわいい。
「まぁまぁ、3人ともそんな勉強勉強って若いうちから言ってたらバカになっちゃうよ?」
「12点取った奴が言っても負け惜しみにしか聞こえないぞ。」
「うっ…それを言われると弱いなぁ。」
そう言えば一花さんって小テストじゃ下から2番目なんだよね。
…頭の回転は速い方だと思うんだけど、ただ勉強ができないってだけなんだろうか。
「私はしっかり自習してますから問題ありません。」
「バカが1人で勉強してもバカのままだぞ。」
「余計なお世話です!」
五月さんは勉強する意欲はあるんだけどね、上杉くんの教えを乞うのが嫌だって言うだけで。
実際彼女が自習しているところは僕も何度か見たことがあるし。28点だけど。自習しているところを見るとまめな性格なんだろうなとも思う。28点だけど。
「まぁいい、意地でも俺が勉強を教えてやるから覚悟しておけよ。」
「ふん、望むところです!」
「あはは…お手柔らかにお願いね。」
「私はキョーヘーに教えてもらうから。」
「分からないところがあったら極力教えられるよう頑張るよ。」
三玖さんはあの一件以来は勉強にすごく前向きになってくれてうれしい限りだ。
これでこそあそこまで頑張って説得した甲斐があるってもんだ。勢いあまって色々余計なことを言ったような気もするけど、気にしたら負けだ。
「私も御影君が勉強を見てくれるなら参加してもいいですよ?」
「何故俺では不満なんだ、言ってみろ五月。」
「あなたのような失礼な人から教わることなんてありませんから。」
バッサリだな。上杉くんちょっとへこんじゃってるじゃん。
なお、当の本人の五月さんはデザートの杏仁豆腐を幸せそうに食べていた。…ってかあれだけの量本当に1人で食べたのか。
マジで胃袋ブラックホールなんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、いつもよりちょっとだけ騒がしい昼食は過ぎていくのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それでね。信長は骸骨にお酒を入れたんだよ。」
「いやーそれにはびっくりしたよね。ほんと信長って変わり者だなぁ。」
あの後昼食を終えた僕は全員と別れて自分の教室へと…戻ろうとしたんだけど、何故か三玖さんだけが付いてきたため一緒に教室まで向かっている次第である。
三玖さん曰く隣のクラスだから道は一緒でしょということらしい。それで道中暇だから三玖さんの好きな歴史トークをしているわけだ。
しかし、それなら何故一花さんと五月さんは一緒に来なかったんだろう?上杉くんは僕と一緒に食堂を出ようとしたら一花さんに引っ張られていっちゃうし。
五月さんは一緒に行くか誘っても断られてしまったし…もしかして僕嫌われてるとかないよね。だとすると結構ショックなんだけど。
「どうしたの?キョーヘー。」
「あ、なんでもない。ちょっと考え事をね。」
「頑張るのはいいけど、無理はしすぎないでね。キョーヘーは親しい人の事になると周りが見えなくなってるから。」
「返す言葉もないよ…うん、ありがとう。気を付けるね。」
「うん、もっと自分を大切にして。」
親しい人の事になると周りが見えなくなるか、確かにその通りかもしれないな。
やっぱり親しい人が困っていたら何が何でも助けてあげたいからね、そのために自分の事を投げ出すなんてのは今までの人生で幾度となくあったことだ。
もっと自分を大切にして…か。あはは、心配されてしまったな。これからは気を付けるとしよう。
「ありがとう、三玖さん。」
「べ、別に…いい。」
僕が笑顔でそう言うと、三玖さんは顔を赤らめて下を向いてしまった。
…と言うか、やっぱり距離感が近い気がする。今だって並んで歩いてるけど肩と肩当たりそうなくらい距離近いし、当たらないよう気を付けてはいるけどさ。
それにしても、やっぱり三玖さんって美人だしかわいいよな。スタイルも抜群だし。
「…あ。」
「…ゲッ。」
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、自分のクラスに近づいてきた頃にバッタリと二乃さんに遭遇してしまった。
…僕、今彼女に学校じゃ無視されることが多いんだよなぁ。ここは何も言わずに横をすり抜けるのが正解だろう。
「…行こう、三玖さん。」
「うん。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
僕は三玖さんと共に彼女の横をすり抜けようとするが、彼女から待ったの声がかかった。
「三玖!あんた、なんでそいつと一緒にいるのよ!」
「二乃には関係ないでしょ。邪魔しないで。」
「邪魔ってあんたねぇ…!」
三玖さんと二乃さんはお互いにギリギリの距離まで歩み寄ると、廊下のど真ん中でにらみ合いを始めた。
いや、ちょっとここでドンパチやらかすのは勘弁してほしいんだけども。いくら人が少ない時間帯とはいえ、完全にいないわけじゃないんだしさ。
「ちょっと2人とも!ここ廊下だから!」
「うっさいわね!私は三玖に話があるのよ、あんたは引っ込んでなさい!」
「大丈夫キョーヘー。すぐに終わらせるから。」
「いやそうじゃなくって…!」
ま、まずい。最近転校してきてまだまだ話題の種になっている2人が廊下でにらみ合いなんてしてたら絶対学校中の噂になるに決まってる。
しかも三玖さんの方は僕を庇おうとしてくれている。それはものすごく嬉しいんだけど、誰かに聞かれでもしたら変な尾ひれを付けた噂を流されかねない。
「2人とも!ちょっと来て!」
そう判断した僕は2人の手首をそれぞれの手でつかむ。
「キョーヘー!?」
「な、何すんのよ変態!離しなさいよ!」
「いいから!来て!」
そのまま有無を言わせず、僕は2人の手を引いて廊下をズンズンと突き進む。
そして、人の気配のしない渡り廊下の突き当たりまで引っ張ったところで2人の手を離した。
「いきなり何すんのよ!」
「あのままあそこで騒いだら変な噂が立つかもしれないでしょ?だからここに連れてきたんだよ。」
「余計なお世話よ!」
「じゃあ聞くけど君はクラスじゃ猫かぶってるよね。それがバレたら色々と都合悪いんじゃないのって思ったんだけど。」
「そ、それは…そうだけど!」
「…二乃。キョーヘーは私達の事を考えてここまで連れてきた。文句を言うのは筋違いだよ。」
「…分かったわよ。悪かったわ。」
…なんだかえらい素直だな。まぁいいことではあるんだけど。
「ところで御影!あんた、何で三玖と一緒にいるわけ!?」
「食堂で一緒にご飯食べてたんだよ。それで一緒にクラスに戻るところだったもんでさ。」
「…ふーん。三玖、あんたいつから2人でご飯食べるくらいこいつと仲良くなったの?」
「2人では食べてない。一花、五月、フータローも一緒だった。」
「なーんだ、2人じゃなかったのね。なら別にいいわ。」
…ん?なんか今二乃さんホッとしなかった?気のせいだろうか。
「じゃあ今回は大目に見てあげるけど、あんた三玖に変な気を起こしたらただじゃおかないからね?」
「変な気ってなにさ。別に心配しなくてもそんなの起こさないよ。」
「さぁどうだか?男は全員獣なのよ?」
「大丈夫。キョーヘーにそんな度胸はない。」
「三玖さん!?地味にひどくない!?」
いやそりゃまぁ変な事するつもりなんて微塵もないけどさ、なんか釈然としない。
「だって気づいてもらえないんだもん…」
(気づくって何にだ…?)
「まぁそっか、このヘタレ野郎にそんな勇気なんてないわよね。」
「さっきからひどい言われようだね僕…」
目じりからしょっぱい水がこぼれてきそうになるのをぐっとこらえる。
前から思ってたけどこの姉妹って結構辛辣だよね。わりとズバズバ思ったこと言うし、毒も結構吐くし。
「それにしても、随分楽しそうだったじゃない?いつの間にそんなに仲良くなったのかしら。」
「色々あったんだよ。それに彼女と話してて楽しいのは事実だからさ。」
僕も日本史には興味がないわけじゃないしね。
「へぇ、言うじゃないの…」
「二乃には関係ないでしょ。話ってそれだけ?なら私達はもう行く。」
「ちょ、ちょっと!まだ話は終わってないわよ!」
「じゃあ続きはクラスに帰ってから聞くよ。そろそろ予鈴なっちゃうし、ひとまず教室行った方がいいでしょ。」
「げっ、本当だわ…仕方ないわね!」
「じゃあ僕は三玖さんを彼女のクラスまで送ってくるから。先に戻ってて。」
「はぁ!?なんでそうなるのよ!?別に1人でも教室にくらい帰れるでしょ!」
「元々送るって話してたからね。約束だから。」
そう言うと、僕は三玖さんの手を引いて歩き出す。
「んじゃ、そういうことだからまた後でね。」
「ちょっと!待ちなさい!三玖!御影!」
後ろから聞こえてくる二乃さんの声をスルーして僕は三玖さんの教室へ向けて歩き出した。
それよりさっきから三玖さん顔真っ赤っかなんだけど、熱でもあるのかな?念のために保健室に連れて行った方がいいか…?
「三玖さん大丈夫?保健室行く?」
「ほ、保健室!?キョーヘー、さすがにそれは早すぎるよ…!」
「え…早いって何が…?熱あるんだったら早い方がよくない?」
「…キョーヘーのバカ。知らない。切腹。」
「えぇ!?」
そう言ってそっぽを向く三玖さんの顔はとても幸せそうだった。…僕何で怒られたの、解せぬ。
結局そのあと、三玖さんを教室まで送り届けた僕は自分のクラスへ戻って二乃さんに放課後まであれこれと色々聞かれることになるけどそれはまた別のお話。
でもなんだろう、僕と話しているときの二乃さんは口こそ悪いもののどこか楽しそうな気がした。…まぁ気のせいだろうけど。
ちなみに放課後の勉強会は三玖さんと四葉さんが参加してくれたため、無事に開催することができた。
この調子で他の姉妹も説得できるといいな。そんなことを考えながら今日も一日が無事に過ぎていくのだった。
いかがだったでしょうか
今後もちょいちょいオリジナル日常パートは挟む予定です
クオリティを高められるよう、もっと頑張ります