多分二乃と三玖のダブルヒロインで固まりそうです
誰にだって譲れないものがある。
形は様々だろう、でも人には必ず退いてはならない理由というものが1つは存在しているはずだ。
今思えば、僕と彼女は似た者同士だったのかもしれない。
お互いに譲れないものがあって、お互いに思ってる人がいてその人のために行動して。
友達のため、姉妹のため。理由は違えど、根っこは同じ。
だからこそ…余計に譲れないんだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「う…うぅ…」
…知らない天井ではなかった。
随分と長い間気を失っていた気がする、僕は痛む後頭部をさすりながらゆっくりと半身だけを起こす。
「ここは…」
まだはっきりしない意識でぐるりと周りを見渡してみるが、どうやらここは中野家のリビングのようだった。
僕はそこのソファに枕と毛布を用意された状態で寝かされていたらしい。僕の下半身にはかわいいピンク色の毛布がかかっていた。
更に、何気なく自分の上半身に目を落としてみるといつの間にか服も真新しいものになっている。
これは…誰かのワイシャツだろうか?恐らくサイズが大きいのだろう、僕には身長が足りずにぶかぶかだった。
(えーっと…)
…そうだ、僕は確か二乃さんの上に落下する花瓶から彼女を庇った結果後頭部に花瓶が直撃して…
そこからはよく覚えていない。二乃さんが必死に僕を呼ぶ声をぼんやりと覚えているくらいで、それも徐々にブラックアウトしたせいで定かではない。
しかし、気を失ってしまうとは…よっぽど打ちどころが悪かったんだな。
「…ってか、今何時だ!?」
そうだよ、僕は上杉くんの単語帳を回収しに来たんだった。慌ててポケットに手をやるが、単語帳は無事にポケットに収まっているようで一安心だ。
もう片方のポケットに手を突っ込んだ僕はスマホを取り出し、タップしてディスプレイを確認する。
「げっ…もうこんな時間…」
スマホのディスプレイには、恐らく僕が気を失ってから2時間は経過しているであろう時刻が写し出されていた。
参ったな、単語帳取りに行くだけだからすぐ帰るつもりだったんだけど…とりあえず、上杉くんが心配しているかもしれない。メールだけは送っておこう。
僕は「遅くなってごめん、野暮用でもうちょっと遅れそう」とだけ打ち込んで送信ボタンを押す。詳細は会ったときにまた話そう。
メールを送信し終えた僕はスマホをポケットにねじ込む。
「…あっ、良かった!目が覚めたんですね!御影さん!」
「うわぁ!?よ、四葉さん!?」
とにかくここにいても仕方ないので、起き上がろうと思った瞬間だった。
急に視界の色が肌色一色になったかと思うと、目の前に四葉さんの顔があったのだ。僕は思わず体を震わせて顔を手前に下げる。
「良かったです!このまま目を覚まさなかったらどうしようかと…」
「お、大げさだなぁ。そんなにやわじゃないって。」
「でもびっくりしましたよ!私がバスケ部の助っ人から帰ってきたら御影さんが居間でお休みしてらっしゃるんですもん!」
「え、ええと…色々と事情があってね。」
なおも顔をぐいぐいと近づけながらマシンガントークを繰り出してくる四葉さんに対して、僕は近い近いと言いながら苦笑いを浮かべる。
前から思ってたけどこの子って距離感ほんと近いよね…いい意味では人懐っこくて接しやすいんだけど、悪いやつに騙されないか心配でならない。
…そう言えば四葉さんは二乃さんに言われて今日はバスケ部の助っ人に行ってたんだったな。すっかり忘れていた。
「あ、その事情なら三玖から大体聞いてますよ!二乃を守ってくれてありがとうございます!」
「ううん、当然のことをしただけさ。それに元はと言えば僕が悪い部分もあるしね…」
「それでも自分の体を張ってまで助けるなんて中々出来ないことじゃないですよ!御影さんはお優しいんですね!」
「褒めすぎだって四葉さん。そんなに褒めても何も出ないよ?」
「やや?御影さん褒めると何か出てくるんですか!?」
「いやただの例えだからね!?」
四葉さんは明るくて礼儀正しいから話しやすいんだけど、ちょっと頭の回転が鈍いのがたまに傷だったりするけどね。
でも運動をそつなくこなす体力にこのコミュニケーション力はこの子の大きな武器だ。それは間違いない。テストは8点だけど。
そして、四葉さんの今の言葉を聞くと三玖さんはきちんと他の皆には事のいきさつを説明してくれているようだった。
僕を招き入れたのは彼女だし、仮に彼女がお風呂を出て気絶した僕と狼狽えている二乃さん。割れた花瓶を見れば何が起こったかは一発で分かるはずだし。
事情を一番理解できるのは彼女しかいないと思っていただけに、僕は胸をなでおろす。
「それでは、私は御影さんが目を覚ましたことをみんなに伝えてきますね!」
「あ、いや…大丈夫だよ。僕はこのまま帰ろうと思うからさ。」
「えぇ!?で、でもまだ私しか御影さんにお礼を言ってないですよ!?」
「お礼が言われたくて助けたわけじゃないよ。それに、あれは僕が好きでやったことでもあるからさ。」
あれは嫁入り前の女の子の肌を見ちゃったせめてもの罪滅ぼし…ということにしておいてほしい。
不可抗力とはいえ、二乃さんの裸を(バスタオル巻いてるとはいえ)見ちゃったのは事実なわけだし。
それはどうやっても消えるわけじゃないからね。
「だから、わざわざ皆に伝える必要は…」
「ない、っていいたいわけ?」
「!?」
僕がソファを立ち上がってカバンを掴もうと思った瞬間、ふと二階の踊り場から聞きなれた声が聞こえてきた。
振り向くと、そこにはジャージ姿の二乃さんがいた。
「に、二乃さん!?いつからそこにいたの?」
「このまま目を覚まさなかったらどうしようかとって所かしら?」
「一番最初じゃんか!?」
「なによ、悪い?」
「いや、悪くはないけどさ…」
二乃さんはそう言いながら一歩一歩ゆっくりと階段を降りてくると、四葉さんの隣に並んで僕を見据えてきた。
「…三玖から事情は聴いたわ。私の裸を見たのは助けてくれたことでチャラにしてあげなくもないわ。」
「だとしても、君の肌を見たのは事実だ。謝るよ。ごめんなさい。」
そう言うと、僕は二乃さんに対して頭を下げる。
「不可抗力とはいえ、悪かったと思ってる。ごめんね。」
「…もういいわよ。元はと言えば三玖が招き入れたんだし。あんたがいなかったら私は今頃病院だったかもしれないんだから。」
「そ、それでも…!」
「しつこいわね!私がいいって言ってるからいいのよ!さっき言ったでしょ、助けてくれたのでチャラにしてあげるから。」
「違うでしょ二乃!助けてもらったら何て言うの!?」
「よ、四葉?」
「助けてもらったら『ありがとう』だよ、二乃!」
二乃さんに詰め寄りながら、四葉さんは子どもを諭すようにそう言った。
「わ、わかったわよ…言うわよ。」
「うん!はい、じゃあ御影さんの方を見て!頑張ってね!」
四葉さんに言われた二乃さんは、観念したように僕の前まで来ると真っ直ぐと僕の目を見据える。
…ここで目をそらすのは最大の失礼に当たる。僕は同じように二乃さんの瞳を真っ直ぐと見つめた。
「そ、その…助けてくれて…ありがと…」
「うん。君が無事でよかったよ、二乃さん。」
いつになく潮らしい雰囲気の二乃さんに若干ドキドキしながらも、僕はにっこりと微笑みながらそう言った。
…こうやって大人しかったらすごい美人でかわいいんだけどね…二乃さんって。
「…あんたね、誰にでもそんなこというんじゃ…」
「はい!よくいえましたー!」
二乃さんが何かを言いかけたが、その前に勢いよく僕達の間に割って入った四葉さんが二乃さんの頭をなで始めた。
四葉さんって何というか…こういったら悪いけどお母さんみたいだな、なんか。
子どもっぽいところもあるんだけど、それでいて皆を強引にまとめてしまう行動力。優しく人を包み込む包容力。
きっと一緒にいる人はみんな自然と笑顔になる。そんな子な気がする。
「ちょ、ちょっと四葉!」
「んー今のセリフ!くっさいけど二乃には効果抜群だったみたいだね!」
「い、一花!?あんたいつの間に!?」
「ふっふっふ…あ、三玖から事情は聞いたわのあたりかな?」
「ほぼ最初からじゃない!?」
そして、いつの間にかリビングにやってきていたらしい一花さんが二乃さんをからかい始める。
…というかめちゃくちゃ自然に入ってきたな!?全然気づかなかったんだけど。
「ナヨナヨしてると思ってたけど、案外男らしいとこあるじゃん!二乃を助けただけじゃなくてあんなセリフまで言えるなんてねー。」
「い、いやあれは僕の本心で…!」
「そんなキョーヘー君に有益なアドバイスをあげよう!二乃は意外とストレートな物言いに弱かったりするよ!」
「この人話聞いてくれないんだけど!?というか何なのさなのその情報は!?」
「ちょっと一花!?あんた何適当な事言ってんのよ!」
「あれー?キョーヘー君が寝てる間に三玖に事情知らされて顔赤くしてたのはどこの誰かなー?」
「あ、あれはお風呂上りだったからよ!それ以上でもそれ以下でもないわ!」
ギャーギャーと食い下がる二乃さんを、一花さんはどこ吹く風といった様子で聞き流す。
「…起きたんだ、キョーヘー。」
「うわぁ!?三玖さん!?いつの間に…」
「一花が二乃をからかう前からずっと後ろにいたよ。いつ気づいてくれるかなって思ってたけど中々気づいてくれなかった。」
そう言うと、三玖さんはほっぺたをぷくーっと膨らませるとそっぽを向いてしまった。
…なんだこの可愛い生き物。
「ご、ごめんって。悪かったよ。」
「…騒がしいと思ったら、起きてらしたんですね。御影君。」
「い、五月さん…」
うん、ここまで騒がしかったらそりゃ来るよね。なんか流れ的にそう思ったよ。
と言うわけで、僕の目の前には中野家の五つ子が勢ぞろいした格好になったわけだ。しかし…改めてみると本当に壮観だなこの光景。
なんせ同じ顔が五つも並んでるんだ。判断するためには髪型や付属品で判断するしかないわけで…あとは声かな。
「改めて、姉を助けていただいてありがとうございます。御影君。」
「あのくらいどうってことないよ。二乃さんが無事でよかった。」
「ですが…それはそれとして、二乃の裸を見たのは感心しませんよ?」
「それには返す言葉もございません。」
図星をつかれて僕は即座に五月さんに対して頭を下げる。
「三玖がお風呂に入るといったなら部屋の外で待つことも出来たのではないですか?それに、他の姉妹がお風呂に入っている可能性もあったのにそれを考えなかったのですか?」
「おっしゃる通りです、ごめんなさい。」
「五月。キョーヘーは私が部屋に入れたの。録音もしてあるからやり取りを聞けば分かる。それにキョーヘーが入ってこなかったら二乃は無事じゃ済まなかったでしょ。」
「…そうですね。すみません御影君。少し熱くなってしまったようです。」
「ううん、当然の反応だよ。僕も同じこと考えてたしね。」
気にしないで、と僕は続ける。
「そうだ御影さん!そのワイシャツ、私達のお父さんのものなんですけど着心地はどうですか?」
「あ、これ君達のお父さんのなんだね…ちょっとサイズ大きいけど、大丈夫だよ。」
「ほんとにぃ?鎖骨とか丸見えだけど?色男だねー。」
「…別に減るもんじゃないから大丈夫じゃない?僕の鎖骨見て喜ぶ奴なんていないでしょ。」
「1人直視できない子がいるみたいだけどねー。」
えぇ…男の鎖骨を見て喜ぶなんて変わり者がいたもんだなぁ。まぁそういうことなら第一ボタンまでしっかりと閉めておくか。
「そう言えば、僕の着てた服は…」
「あ、こちらで洗濯しておきましたー!今乾燥機にかけてます!」
「そうなんだ、ありがとう。それじゃあ今日は服が渇いたら着替えて帰るとするよ。もう遅くなっちゃったしね。」
すっかりと日が落ちてしまった外の景色を見ながら僕はそう言った。
…しかし、ここ30階なんだよな。日が落ちると町全体が見渡せてめちゃくちゃ奇麗な夜景が見られるんだね。
これを毎日見ることのできる皆が少し羨ましいよ。
「…キョーヘー。体はもう大丈夫なの?」
「うん。もうだいぶ痛みも引いてきたしこの分なら明日には完治してると思うよ。」
「無理はしないでね?」
「ありがとう。このくらいどうってことないよ。心配しないで。」
僕がそう言うと、三玖さんは「良かった」と言うと柔らかい笑みを見せる。…少しドキッとしてしまったのは僕だけの秘密だ。
って言うか…何故か三玖さんはいつの間にか僕が寝ていたソファの上を片付けると、ちゃっかりと僕の横に陣取って座っていた。
四葉さんと話してて気づかなかったけどいつの間に座ったんだ…?
と言うか、距離近くないですかね三玖さん。肩と肩当たりそうなんだけど。なんかいい匂いするんだけど。
「…何デレデレしてんの?…キモ。」
「デレデレなんてしてないよ!?」
ゴミを見るような目で見下してくる二乃さんに対して、僕は立ち上がりながらそう言った。
「うっさいわね!鼻の下伸ばしてへらへらしてキモいのよ!」
「な、何もそこまで言わなくても良くない!?それに鼻の下なんて伸ばしてないよ!」
「さぁどうかしらね!?三玖の方見てニヤニヤしてたじゃない?」
「してないって!」
「それと、助けてくれた事には感謝してるけど私の裸を見たのは許さないからね!?事故とはいえ嫁入り前の女の子の裸見るなんて最低よ最低!」
「さっきと言ってることが違うんだけど!?」
僕は二乃さんに距離を詰めながらそう言うと、彼女はふふんと鼻で笑うと嫌味な笑みを顔に浮かべた。
…でもなんだろう。潮らしい彼女よりはこうやって気が強くて僕と言い合いをしている方がなんというか、僕の中であぁ二乃さんだなって感じがする。
これはもしかしたら姉妹を守るための演技かもしれないし、本心なのかもしれない。それは分からない。
けど、僕の中では彼女と言い合いをしているときに変な安心感が芽生え始めていたのだった。
「……ふふ。」
「いきなり笑っちゃって何よ…キモいんだけど?」
「いや…やっぱり二乃さんはこうでなくっちゃって思ってさ。」
「はぁ!?何よそれ!?」
「さぁ、なんだろうね?」
「はぐらかすな!答えなさいよ!ちょっと!」
なんでもないってば、と言いつつ僕は再び腰を下ろす。
二乃さんはそんな僕の態度が気に食わなかったのか、僕の目の前までやってきて鋭い眼光で僕を見下ろしてきた。
…そっち系の趣味の人にはたまらない光景だろうねこれ。あいにく僕にそんな趣味はないけど。
「二乃、キョーヘーが困ってる。」
「そいつがはぐらかすのが悪いんじゃない!」
「まぁまぁ二乃。キョーヘー君も目を覚ましたところなんだし、あまり刺激しちゃ悪いよ?」
「そ、それはそうだけど…!」
「御影さん!よかったら飲み物とかどうですか!」
「ありがとう、じゃあいただこうかな。」
「わっかりましたー!」
「四葉、冷蔵庫に私が買った抹茶ソーダがある。キョーヘーは抹茶ソーダ好きだから持ってきてあげて。」
「りょーかい!」
抹茶ソーダ好きってわけじゃないんだけどな…と思ったけど、せっかくの好意なので受け取らないもの失礼だろう。
ここは黙っておくことにする。
「あとこの際だから言っておくけど、私はあんたを認めたわけじゃないからね!」
「ちょ、ちょっと二乃…」
「確かに私を助けてくれた事には感謝しているわ。でも、それと家庭教師の件は別だから!勘違いしないでよね!」
「分かってるよ。ちょっとやそっとで君の理解を得られるとは思ってないさ。」
そう言って、僕は再びソファから立ち上がる。
「だから、これからも真っ向からぶつかっていくよ。僕はあきらめないから。必ず5人揃って授業を受けてもらう。上杉くんのためにもね。」
そして、真っ直ぐと二乃さんの目を見据えながらそう言い切った。
それを聞いた二乃さんは口の端を吊り上げながら…
「望むところよ!」
そう言った彼女の表情は100点満点の笑顔だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よっと…いろいろ迷惑かけてごめんね、助かったよ。」
「気にしないでいいよー。可愛い妹を助けてくれたイケメン君への恩返しってことで!」
「顔はイケメンとは程遠いけどね。」
「悪かったね!」
場所は打って変わって中野家の玄関。僕は帰る準備を整えて五つ子全員を正面に据えた状態で立っていた。
結局、服が渇くまで抹茶ソーダを飲んだり五月さんがお腹が減ったと言ってドーナツを引っ張り出して来たり四葉さんに突撃されたりして結構疲れた…けど、楽しかったかな。
その後、乾燥機にかけ終わった服を受け取った僕は素早く着替えて言った通り帰るための準備をして今に至る。
「御影君、今日は改めて姉を助けていただいてありがとうございました。」
「いいっていいって。あのくらいお安い御用だよ。それよりこっちもわざわざ服洗ってくれてありがとうね。」
「このくらいのお返しは当然ですよ。お気になさらないでください。」
「ありがとう、五月さん。」
そう言って、僕は五月さんに頭を下げる。
「キョーヘー、ほんとにタクシー呼ばなくていいの?」
「大丈夫だよ。ここから家までそんなにかからないし、それに帰りに上杉くんの家にもこれ届けに寄らないといけないからさ。」
ポケットから取り出した単語帳を見せながら心配そうな顔をする三玖さんに笑顔を向ける。
先ほど、服が渇くまでの間に色々やってる間に三玖さんは頭を強打して間もない僕のためにタクシーを呼ぼうとしてくれたのだが僕はそれを断っていた。
お金も払うって言われたけど、回復している以上そこまでしてもらうのは悪いからね。それに上杉くんの家によることを考えるとタクシーには頼らない方がいいだろうし。
「まったく…そもそも上杉がそれを忘れてなければこんな事にはならなかったのよ!」
「まぁまぁ、彼だってわざとじゃないんだ。許してあげて欲しいな。」
腕を相変わらずな様子で怒る二乃さんに対して僕はそう言った。
「上杉さんと御影さんは本当に仲がいいんですね!」
「まぁね、彼とは色々付き合いも長いし。…なるべく助けてあげたいんだよ。」
「おぉ!男同士の熱い友情と言う奴ですね!」
「まぁね。」
目を輝かせながらそういう四葉さん。…ほんとにかなわないな、この子には。
「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。色々ありがとうね。」
「あ、ちょっと待ってキョーヘー君!」
お礼を言ってドアを開けるために後ろを向こうとすると、唐突に一花さんに呼び止められる。
「どうかしたの?」
「ほら二乃、王子様が帰るんだからロビーまで見送ってあげなきゃ!」
「はぁ!?だ、誰が王子様だってのよ!?大体何で私がそんなことを…」
「助けてもらったお礼、まだ2人の時にちゃんと言ってないでしょ?この際だから見送ったときに言ってきなよ。」
そう言うと、一花さんは二乃さんの背中をグイっと押して前へと押し出した。
…いや、別にお礼ならみんなの前で言ってくれたしいいんだけど。
「あ、あの…僕は別に1人でも帰れるから心配しなくても…」
「だったら私が見送る。」
僕がそう言いかけると、三玖さんが自ら前へ出てきた。
「み、三玖さん?」
「二乃、見送るの嫌なんでしょ?なら私が見送るからいい。」
「べ…別に嫌だとは言ってないわよ!」
「え、嫌じゃないの?僕はてっきり嫌なのかと思ったんだけど…」
「う…うっさいわね!これはそのあれよ!あの…えっと…」
「はいはーい!ストップストップ!」
お互いに睨み合っている二乃さんと三玖さんの間に一花さんが割って入る。
「三玖、今回は二乃がちゃんとキョーヘー君に謝るために行かせるだけだから。我慢して、ね?」
「…分かった。一花がそういうなら。」
「うん、ありがと。じゃあそういうことだからキョーヘー君!二乃とよろしくね!」
「ちょ!?一花さん!?」
一花さんは三玖さんを強引に言いくるめると、僕と二乃さんの背中をグイっと押して部屋の外へと放り出した。
「じゃあ二乃、ちゃんと謝るんだよ!それまでここは開けないから!」
「ちょっと一花!?いくらなんでも強引すぎ…」
納得がいかないのか二乃さんは食い下がってドアに手をかけるが、どうやらドアは中からロックがかけられてしまったようだった。
マンションの廊下に僕と二乃さんだけがポツンと取り残される。
「…しょうがない、ロビーまで行こうか。」
「仕方ないわね…全く。何で私があんたを見送らないといけないのよ?」
「僕は別に1人で帰れるから良かったんだけどね、それに君にはちゃんと家で謝ってもらってるわけだし。」
「…一花の基準はよくわかんないから。」
エレベーターに乗り込みながら、僕と二乃さんはそんなことを話す。
「ま、まぁでも一応言っておくわ!…あ、ありがと。」
「うん。お安い御用だよ。二乃さんが無事でよかった。」
「そのセリフ、さっきも言ってなかったかしら?」
「言った気がする。」
ごめんごめん、と続けながら僕は苦笑いを浮かべた。そんな僕を見た彼女は呆れたように笑いつつ、エレベーターの数字に視線をやった。
いつもこのくらい素直だったら苦労しないんだけどね…多分、僕を怪我させたことに対して負い目みたいな物を感じているんだろう。
でもこっちも事故とはいえ、二乃さんの肌を見ちゃってるんだしお互い様な気がするからそこまで潮らしくなられると困惑するんだけど…とは言い出せなかった。
…でもちょっと待てよ、これは考えようによってはチャンスなのでは?
さっきまでは5人いたせいで言い出せなかったけど、よくよく考えてみたら2人きりの今が彼女が何故家庭教師を否定するのかを直接聞けるチャンスだ。
二乃さんをかばって気を失う前に彼女は「私達5人の家に僕達の入る余地がない」と口走っていた。十中八九、それが家庭教師を拒絶する理由だろう。
タイミング的にもここしかない…行くしかないか。
「そう言えば二乃さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。」
「…何よ。これ以上あんたと話すことなんて何もないわ。」
「まぁまぁそう言わずにさ。ちょっとだけ付き合ってよ。」
そう言った瞬間にエレベーターが1階へ到着したことを告げるチャイムが鳴る。
僕はエレベーターを降りて数歩進んだ後、二乃さんへ向かって向き直る。
「私達5人の家にあいつらの入る余地なんてない…君はそう言ったよね、二乃さん。」
僕がそう言うと、二乃さんは目を見開いて体を震わせる。
「あ、あんた何でそれを…!」
「君を庇って気を失う前に君が言ってたのを思い出してさ。」
「…それが一体なんだって言うのよ?」
「回りくどいことはナシ、単刀直入に言わせてもらうよ。」
そう言って一呼吸おいて僕は口を開いた。
「二乃さん。君は姉妹の皆が大好きだから僕や上杉くんって言う異分子が家に入り込むのが我慢できない…そうでしょ?」
「な…何でそこまで…」
「…その様子だと当たってるみたいだね。」
目を白黒させて視線を泳がせる二乃さんに対して僕は畳みかけるようにそう言った。
「…そうよ、悪い!?私達5人の家にあんた達みたいな得体の知れない男は必要ないわ!」
「君からしたらそうなのかもしれないよ、だけど僕や上杉くんは君達の将来を本気で心配してる。みんな揃ってちゃんと卒業してほしいと思ってるんだよ。」
「だからそれは余計なお世話だって前も言ったじゃない!」
「…君は本当に姉妹が大好きなだね。そうじゃなかったらここまで姉妹のために必死になれないと僕は思うよ。」
「だからなんだってのよ!」
「すごいなぁって思ってさ。」
「…え?」
僕の言葉に、二乃さんは言葉を詰まらせる。
「そこまで姉妹の事を本気で考えて心配できるなんて、本当にすごいと思うよ。」
「思ってもないこと言うんじゃないわよ!」
「嘘じゃないよ。これは僕の本心だ。」
二乃さんの目を真っ直ぐと見据えながら僕はそう言う。
姉妹の事をここまで考えて、真剣に心配してここまで必死になれるんだ。二乃さんは、きっと思いやりがあってとてもやさしい女の子なんだろう。
僕や上杉くんに対してやたら態度がトゲトゲしいのは姉妹を守るために盾になるためと考えれば納得がいくしね。
「君はきっと本来はすごく優しくて思いやりがある性格なんだと思う。それが姉妹を守るために憎まれ役を演じてる訳でしょ。」
「ち、違うわよ!私は!」
「…いいんだよ別に。隠す必要はない。僕と君は今まで何回もぶつかって来た。隠し事はナシで行こうよ。」
そう言って、僕は自分の胸に握りこぶしを当てて2回トントンと叩く。
「君には君の譲れないものがある。僕には僕の譲れないものがある。」
「だから君が何を言っても、何をしてきても…」
「僕が全部受け止めてやる!」
これは僕から二乃さんへの宣戦布告だ。
何を言われても、何をしてきても君には絶対に負けない。全部受け止めたうえで僕はその上を行ってやる。
そんな意味を込めて僕は挑発的な笑みを浮かべながらそう言い放つ。
「…ええ、望むところだわ!私はあんたを認めない!上杉のことも認めない!何度でもぶつかってやろうじゃないの!」
二乃さんはしばらく面食らっていたが、やがて僕と同じく挑発的な笑みを浮かべると腕を組みながらそう言った。
そして、僕と目を合わせてお互いに表情を崩して笑う。
「うん、そうこなくっちゃね!やっぱりそんな感じで元気がいい方が二乃さんらしいよ。」
「…あんた、誰にでもそんなくさいセリフ言うんじゃないわよ?」
「うん?んーよくわかんないけど、わかったよ。」
「ほんとにわかってるんでしょうね…?と言うか御影!あんた私が5人の家に入る余地がないって言ったことは…!」
「分かってるよ。誰にも言わないから。」
僕がそう言うと、二乃さんはほっと胸をなでおろした。
彼女の性格的にこのことが姉妹や上杉くんに知れたら発狂ものだろうからな…
「まぁいくら君が5人の家に入る余地がないって言っても、僕がその気持ちをぶっ壊して認めさせてやるさ。」
「ふん!そこまで堂々と言えるなんていい度胸じゃない!いいわ、その自信満々な顔を泣き顔に変えてやるから覚悟しなさいよ!」
「望むところだよ。いつでも相手になるさ。」
僕と二乃さんは顔を見合わせてお互いに笑った。
「…んじゃ、そろそろ帰るとするよ。長々と悪かったね。」
「まったくだわ。」
「…そこは気にしないで、じゃないの?」
「はぁ?なんであんたに気を使わないといけないのよ。」
「うん、期待した僕がバカだった。じゃ、おやすみ。」
そう言い捨てると、僕はマンションのロビーのオートロックのドアをくぐって歩き出す。
「待ちなさい!」
すると、不意に後方の二乃さんから声がかかった。
なんだ?と思って振り返る。
「その…気を付けて帰りなさいよ!おやすみ!」
「…うん!」
そう言って閉まるガラスのドア越しに見た二乃さんの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「…さて、帰ろう!」
これで彼女と分かり合えたとは思っていない。きっと、これからも彼女は僕達の最大の壁になって何度もぶつかることになるだろう。
けど、僕はそれを真っ向から受け止めてやるさ。二乃さんが何をしてきても、何を言ってきても、全部受け止めたうえで真っ向からぶつかってやる。
絶対負けない、負けるもんか。いつか上杉くんのことを認めさせるその日まで、僕は絶対にあきらめない。
「…負けないからね。二乃さん。」
上杉くんのために、そして彼女達のために。やり遂げてやるさ。必ず。
「…さて、それじゃあ上杉くんに単語帳届けに行くかな!」
こぶしを突き上げてそう言った僕は、上杉くんの家に向かうために地面を踏みしめるのだった。
ここまでいい投稿ペースで来れてるので
今後も維持していきたいです
とりあえず次は夏祭りのお話ですが
どっかで風太郎と御影が家庭教師の教材作るだけの
パートを差し込もうと思っています