五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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男同士の友情っていいよね


第8話 夢と思い出と約束と

二乃さんを助けるため、僕は人込みを全力でかきわけていた。

早くしないと見失ってしまいかねない。その気持ちが僕を焦らせていた。

 

「四葉!一花!五月!三玖!もうこの際上杉でも…!」

 

彼女の声が近くなってきた。もうすぐだ!

 

「もう!お人よしなんだから早く助けに来なさいよ!御影!」

 

今から行くからもう少し頑張ってくれ…!

 

「…いた!二乃さんだ!」

 

必死で人込みをかきわけて前へ進むと、前方に特徴的なウサギの浴衣姿の女の子が見えてくる。間違いない、二乃さんだ。

彼女は見る限り、かなり狼狽えている様子だった。顔は真っ青だしかなり慌てている。必死で人込みをかきわけているが女の子ということもあってうまく進めていない。

早く合流しなきゃ…と思った瞬間。二乃さんの体に人がぶつかったかと思うと、その衝撃で二乃さんがバランスを崩す。

 

「きゃぁ!?」

「…っ!」

 

考えるより先に体が動いていた。

僕は周囲の事などおかまいなしに体当たりしながら人込みを進むと、そのまま倒れこむ直前で二乃さんの手首をつかんだ。

面食らって口をパクパクしている彼女をそのまま引っ張り起こし、人にぶつからないよう抱きかかえる。

 

「み、御影!?」

「呼んでくれたのに遅くなってごめん、二乃さん。助けに来たよ!」

 

彼女を抱きかかえながら、僕はそう言った。

 

「…あんた、さっきの聞いてたの?」

「え、うん。何かまずかった?」

「…何でもない。忘れろ。変態。痴漢。」

「理不尽すぎない!?」

 

顔を真っ赤にして力なくそう言う二乃さん。

…と言うか不可抗力とはいえ抱きかかえてる事には文句言わないんだな…こっちは平然装ってるけど、結構ヤバいんだよ?

だってなんかいい香りするし、色々とすっごい柔らかいし…って!今はそんな事考えてる場合じゃないよ!

 

「二乃さん、とりあえず予約した店まで案内してもらえるかな?」

「ふん、あんたなんかお呼びじゃないわよ。」

「今はそんな事言ってる場合じゃないよ!5人で花火、見るんでしょ!」

「!?あんた、なんでそれを!」

「三玖さんに聞いたんだよ。…お母さんとの思い出なんでしょ。」

「あんたには関係ない…!」

「詳しいことは分からないし、変に同情するつもりもない。でも君が必死になってるんだ。だったら、それに協力しない理由はないからさ。ほら、行くよ!」

 

僕は抱きかかえていた二乃さんをなるべく優しく解放すると、彼女の手首をつかむ。

そのまま手を引いて進もうとするが、彼女が抵抗を示したためそれはかなわずに終わった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「何さ!?今はグズグズしてる時間はないでしょ!」

「そうじゃなくて!あんた、予約した店の場所わかんないでしょ!何自分が先導しようとしてんの!?」

「…あっ。」

 

そ、そうだった。僕は彼女達が予約している店の場所なんて知る由もない。

なのに僕は彼女を先導してどこへ行こうとしてたんだ…恥ずかしい。恥ずかしすぎる。完全にやらかした。穴があったら入りたい。

 

「ご、ごめん…今のは忘れてくれると助かるよ。」

「い・や・よ。みんなに会ったら言いふらしてやるんだから!」

「ちょっと!?さすがに鬼畜過ぎない!?」

「ふふっ、私を抱きかかえた代償は高くつくわよ?」

「理不尽だよ!」

 

心底楽しそうに笑う彼女に抗議するが、どうやら聞き入れてはもらえないようだ。

…でも、さっきまでの不安に染まっている彼女よりは笑っている彼女の方がよっぽど魅力的だし見てて安心できる。

僕は二乃さんが笑ってくれたことに安心感を覚えていた。

 

「…何やってんの?協力してくれるんでしょ?早く行くわよ!」

「あ…ごめん。行こうか!」

 

しばらく二乃さんをボーっと見つめていたが、声をかけられて我に返る。

 

「じゃあ僕がエスコートするから道案内してもらえる?さすがに人込みの中を女の子を先に歩かせるわけにはいかないし。」

「…あんた、私達とそこまで身長変わらないんだし無理しなくてもいいけど?」

「そうじゃないよ。君は今浴衣着てて動きにくいでしょ。僕は私服だから身軽なんだってことだよ。」

 

着ている服を指さしながら僕はそう言った。

 

「それに、身長が変わらなくたって僕は男だ。女の子を危ない目には合わせられない。」

「…何よ。強がっちゃって。後悔しても知らないからね?」

「大丈夫だよ。後悔なんてしないから。じゃあ道案内は任せるよ、二乃さん。」

「えぇ、分かったわ。でもその前に…」

 

そう言うと、二乃さんは僕に近寄ってきた。

何をするつもりなんだろう?と僕が思っていると、彼女はおもむろに僕の手首をつかんだ。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「うっさいわね!急に大きい声出さないでよ!」

「ご、ごめん。でも…」

「また人込みではぐれたら困るじゃない?それの予防よ。言っとくけど他意はないんだから、変な勘違いは起こさないようにね?」

 

そうは言っているけど、彼女の顔はりんごのように真っ赤だった。

…絶対恥ずかしがってるなこれ。

 

「エスコートしてくれるんでしょ?ま、一応期待してあげなくもないわ。」

「はいはい…これで顔が真っ赤じゃなかったら余裕のある女の子で通ってるんだけどね。」

「うっさいわね!早く行きなさいよ!そこ真っ直ぐ進めばいいから!」

 

そう言うと、彼女は足を振り上げて僕の足をガンガンと蹴りつける。

文句を言おうと思ったが、今は店へ向かうことの方が先決だろう…そう思った僕は何も言わずにまっすぐ歩きだした。

手首が引っ張られる感覚がする、浴衣着てるし歩くスピードも遅いだろう。少しゆっくり歩くことにするか。

 

「…ねぇ、ついでだし1つ聞かせなさいよ。」

「どうしたの?」

「何であんたは私を助けてくれるの?私は今まであんたと何回も喧嘩してるし、拒絶もしてる。普通なら見捨ててもおかしくないんじゃないの?」

「なんだ、そんなことか。」

 

僕は歩きながら言葉を続ける。

 

「困ってる人を助けるのに理由がいる?」

「…ほんっと、あんたって救いようのないバカよね。」

「はいはい。もう何とでも言ってよ。」

「…ありがと。」

「…どういたしまして。」

 

二乃さんが潮らしいと調子が狂うな…僕はいつもの元気な彼女とやり取りしている方が安心感があるっていうかなんていうか。

…今はそんなことを気にしてる場合じゃないか。

 

「それにさ。」

「…なによ?」

「君は一番家族の事を思ってる。だから今日一番張り切ってたんでしょ。だったらその気持ちを無駄にはさせたくないじゃん?」

「うるさいわね。余計なお世話よお節介野郎。」

「それは誉め言葉として受け取っておくね。」

 

そうこうしていると、彼女の足が1つのビルの前で止まった。

 

「…ここ?」

「ええ、このビルの屋上がそうよ。」

「わかった。じゃあ行こう!」

 

僕と二乃さんは顔を見合わせて頷くと、階段に足をかけて登り始める。

 

「きっともうみんな集まってるわ!」

「だといいけどね!」

 

階段を全力で駆け上がりながら、僕と二乃さんはやっとの思いで屋上までたどり着いた。

…しかし二乃さんの思いは届かなかったようだ。屋上には五つ子のうちの誰もいないどころか、上杉くんの姿すら見えなかった。

 

「だ、誰もいないんだけど…」

「おかしいわね…結構時間たってるはずなのに…」

 

屋上を見渡しながらそうこうしていると、不意に頭上から爆発音がすると共に周囲が赤色に染まる。

まさかと思って上を見上げてみると、そこには赤、青、緑、黄色。彩鮮やかな花火たちが真っ暗な夜空を彩ったなんとも幻想的な光景が広がっていた。

僕はそのあまりに現実離れした奇麗な光景にしばし見入っていたが、ふと我に返る。

…花火、始まっちゃったんだけど。

 

「花火始まっちゃったね…まぁでも、姉妹の皆が後からここに来れば解決するしとりあえず待ってたらいいかな?」

「…どうしよう。よく考えたら、お店の場所私しか知らない…」

「…ごめん二乃さん。よく聞こえなかったんだけど。」

「お店の場所、私しか知らない。」

「空耳じゃなかった!」

 

僕は頭を抱えてしゃがみこんだ。そう言えばすっかり忘れてた、この姉妹が筋金入りのアホだということを。

ってかそもそも何で全員に伝えてないんだよ!普通は伝えるでしょ!自分が先導するから5人揃ってればいいと思ってるなら不測の事態考えてなさすぎでは!?

…まぁでも、こうなっちゃったものは仕方ない。早く全員をこの場に集めないと。

 

「とりあえず全員に連絡を取ろう。僕は上杉くんにかけてみるよ。」

「分かったわ。じゃあ、私は手あたり次第にかけてみる。」

 

そう言うと、僕と二乃さんはお互いにスマホを取り出して操作する。

上杉風太郎と表示された場所をタップし、電話をかける。しばらくのコール音の後、スピーカーの向こうからは騒がしい音が聞こえてきた。

 

「もしもし上杉くん?」

『御影か!?今どこにいるんだ!?』

「二乃さんと一緒に彼女が予約した店の屋上だよ。上杉くんは今どこに?」

『俺は歩道橋の辺りだ。三玖も一緒に居る。』

「あ、三玖さん一緒にいるんだね。良かった。」

 

正直三玖さんの事だから上杉くんとはぐれてないか心配だったんだけど、一緒に居るみたいで一安心だ。

さて、問題はどうやって合流するかだな。

 

「そう言えば上杉くん、一花さんと四葉さんと五月さんとらいはちゃんは見てない?」

『四葉と五月とらいはは見ていない…だが、一花ならさっき見たぞ。』

「本当に!?」

『あぁ、だが声をかけようとしたんだが変な髭のおっさんに邪魔されてどこかへ行ってしまってな…』

「変な髭のおっさん?」

 

なんだそれ…変な事に巻き込まれてなきゃいいけど。

 

『…フータロー。あれ五月じゃない?』

 

スピーカーから三玖さんの声がした。

 

『ん?本当だ!すまん御影!五月を見たから今から追う!また後でかけなおしてくれ!』

「あ、そういうことなら僕が歩道橋までいくよ!そこで3人で待ってて!」

『分かった!じゃあまた後でな!』

「うん!」

 

スマホをタップして電話を切った僕は、二乃さんの様子を見るために彼女に近づいた。

 

「四葉?もうどこにいるの!?…え、時計台?…うん、わかった!迎えに行くからそこで…あっ!?」

「どうしたの?切れた?」

「もう!ええ、電波が悪いみたいでね…上杉の妹ちゃんは大丈夫。四葉と一緒に居るから。」

「分かった。なら安心だね。上杉くんには伝えておくよ。」

 

僕はスマホを取り出して、四葉さんとらいはちゃんが一緒に居ることをメッセージで打ち込み送信ボタンを押した。

 

「あんたはどうだった?」

「上杉くんが三玖さんと五月さんと一緒に居るみたい。これから迎えに行ってくるよ。」

「そう…なら後は行方不明は一花だけね。」

「一花さんならさっき上杉くんが見かけたらしいよ。」

「え、そうなの?でも一花ったらスマホに何回かけても全然出てくれないのよ。何やってるのかしら…」

 

…そう言えば、一花さん今日は時々みんなと離れて電話をしているところがやけに目についたような気がするな。

なんだろう、嫌な予感がする。言い表せないけどこう、胸騒ぎみたいな何かが。

髭のおっさんの事は二乃さんには伏せておくか。変に不安にさせてもよくないだろう。ただでさえ、彼女は今不安でいっぱいなんだろうから。

 

「とにかく、僕は3人を迎えに行ってくる。他の皆の事はひとまず任せたよ。」

「ふん、あんたに言われなくても。」

「うん!頼んだよ二乃さん。じゃあ行ってくるね!」

「待ちなさい御影!」

 

走り出そうとした瞬間、二乃さんから声がかかる。

 

「何かあったときにあんたと連絡が取れないと不便だわ。私の連絡先教えるからスマホ貸しなさい。」

「確かにその方がいいね。わかった、どうぞ。」

 

僕が差し出したスマホを受け取ると、二乃さんは慣れた手つきで操作を始める。

 

「…はい、これで交換し終わったわ。」

「うん、ありがとう。じゃあ今度こそ行ってくる。」

「えぇ…みんなの事頼んだわよ!」

「うん、任せてよ!」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

ビルの屋上を飛び出した僕は、ひとまず上杉くん達が待機しているらしい歩道橋に来ていた。

…のはいいんだけど。

 

「どこにいるんだよぉぉぉ!」

 

僕は人込みにも関わらず渾身の叫びを繰り出した。

そう、歩道橋で待ってるからと言って歩道橋に来たのはいいもののそこには上杉くんの姿はなかったのである。

それどころか三玖さんも、五月さんの姿すらない始末だ。一体どうなってるんだ…

 

「待ち合わせの時はその場を動いちゃだめって小さいころに教わらなかったのか…ぜぇぜぇ。」

 

さっきから走りすぎているせいで足が棒になりかけてるんだけど…上杉くん電話かけてもつながらないし。

そもそも三玖さんと五月さんは連絡先すら交換して無いという始末だ。こんなことならさっき二乃さんに全員分連絡先を聞いておくんだったよ。

嘆いていても仕方がない、今はみんなを探さないと…と思った最中に視界の端に見覚えのある浴衣が目に入った。

あの水色の浴衣は…間違いない!

 

「三玖さん!」

「…キョーヘー?」

 

僕が叫ぶと、三玖さんは驚いたような様子でこちらを振り返った。…間違いない、三玖さんだ。

あれ?でもなんだかはぐれる前に見たときと髪型が変わっているような気がするけど。

三玖さんはセミロングの髪を後ろでお団子にまとめ、青いリボンで縛ってショートヘアーみたいな感じにしていた。

 

「ぜぇぜぇ…やっと見つけたよ…上杉くんと五月さんは?一緒じゃないの?」

「それが、フータローってば五月を呼んでくるって言って出て行ったきり帰ってこないの。さすがに遅すぎるから探すために私も移動した。」

「なるほど…また人の波に攫われちゃったのかな。」

 

まぁ、これだけ大勢の人がいるなら仕方ないだろう。とりあえず三玖さんと合流できただけでも良しとしよう。

スマホを取り出して合流したことを二乃さんに連絡するために何気なく視界を下へ写すと、三玖さんの足に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 

「それ、どうしたの?もしかして怪我でもした!?」

「う、うん。ちょっと足を踏まれちゃって。でも大丈夫。フータローが手当てしてくれたから。」

「そうなんだ…なら安心だね。後で上杉くんに僕からもお礼言わなきゃ。」

 

上杉くんも気が利くようになったなぁ…1年生の時は絶対にこんなことはしなかっただろうに。

もしかしたら…五つ子の家庭教師を始めてから、上杉くんは少しづつ変わり始めているのかもしれないな。

っと、今はそんな事考えてる場合じゃない。

 

「歩ける?三玖さん。良かったらおぶるよ。」

「ううん、いい。このくらいなら気を付けて歩けば大丈夫。」

「分かった。じゃあ行こうか。二乃さんが待ってる。」

「うん。」

「ゆっくりでいいからね?また痛むだろうし、無理しちゃだめだよ。」

「うん、ありがとうキョーヘー。」

「あ、そう言えばさ。三玖さん。」

「…どうしたの?」

「髪型変えたんだね。似合ってるよ!」

「…あ…ありがとう…」

 

そう言うと、三玖さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

…あれ、僕なんか変な事言った?

 

「まぁいいや、とりあえず行こうか。お店はこの先…」

「見つけた!一花ちゃん!」

 

僕が店の場所を三玖さんに伝えようとしていると、不意に後ろから聞き覚えのない声で叫ばれる。

なんだ?と思って振り返ると、そこには全く見覚えのない髭のおっさんが立っていた。

 

「…誰?知り合い?」

「う、ううん。知らない人。」

 

三玖さんは首を横に振りながらそう言った。

…と言うかあのおっさん、今一花ちゃんって言わなかったか?そう言えば上杉くんが一花さんを見つけたとき変な髭のおっさんに邪魔されたって言ってたな。

まさか、この人がその髭のおっさんじゃないだろうな。一花さんを探してて、三玖さんを一花さんと間違えてるのか?

…可能性はなくもない、なんてったって同じ顔だからな。ぱっと見はわからないだろう。でも、浴衣とかで判別できそうなものだけど。

 

「もう何やってんの!早く来て!」

 

僕と三玖さんが困惑していると、髭のおっさんはそのまま近寄ってきて三玖さんの手を掴む。

そして、そのまま引っ張って連れて行こうと…って、ちょっと!

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

僕はおっさんの前に立ちふさがる。

 

「な、なんだ君は!?」

「あんたこそ何だよ!理由も言わずにその子を連れて行こうとして!何が目的なの!?」

「そういう君は一花ちゃんの何なんだ!?どういう関係!?」

 

やっぱり、このおっさんは三玖さんの事を一花さんと勘違いしているようだった。

それにしてもどういう関係って…いやそりゃ友達ですとしか言えないけど。

 

「僕はその子の…」

「ごめん今は君にかまってる暇はないんだ!一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるの!邪魔しないでくれる!?」

「オーディション?どういうことだよ!説明してくれないとわかんないけど!?」

「あ、あの!私は…」

「ほら行くよ一花ちゃん!」

 

髭のおっさんはそう言うと、三玖さんの手を引くと猛スピードで走りだしてしまった。って、これもしかしなくても誘拐じゃないか!なんてことを…!

それにしても、一花さんと勘違いしていることと言いオーディションって口走ったことと言い、一花さんもしかして僕達に何か隠し事をしているんじゃ…

ふと、一花さんが今日はしょっちゅう電話をしていたことを思い出す。それと何か関係があるのか?…って今はそんな事を考えてる場合じゃない。

 

「待てぇぇぇ!!!」

 

三玖さんを取り戻すため、僕はわき目も降らずに全力で髭のおっさんを追いかける。

多分あの人は何か勘違いをしているんだと思う。でも、多分時間がないせいで事情を聴いている暇がないんだろう。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

幸い、髭のおっさんは三玖さんの手を引いているおかげでそこまで走るスピードは早くない。

見失わなければ追いつけないことはないだろう。そう思いながらしばらく走り続け、僕はやっとの思いで祭りの屋台通りから外れた道でおっさんに追いついた。

僕は素早くおっさんの手と三玖さんの手の間に手を入れて2人を切り離すと、バランスを崩した三玖さんを自分の方へ抱き寄せた。

三玖さんは小さく悲鳴を上げるが、腰の後ろに手を回して耳元で「大丈夫」とつぶやくと安心したようにうなずいた。

 

「何だ君は!?しつこいな!」

「そっちこそいい加減諦めたらどうなの?しつこい男は女の子にモテないよ?」

「大きなお世話だよ!何なんだね君は!あの時の男の子と言い、何故君も邪魔をする!一体、その子は君のなんなんだ!?」

「この子?この子は僕の…」

 

三玖さんは僕の何かだって?そんなの、決まっているじゃないか。

 

「この子は僕の…大切な人だ!」

 

そう、三玖さんは僕の大切な人。大切な友達だ。

確かに付き合いは短いかもしれない。でも、僕にとっては友達はみんな大切だから。上杉くんだってそう、他の姉妹の皆だってそう。

僕の大切な人に手出しはさせない!!!

 

「キョーヘー…」

 

三玖さんは顔を真っ赤にすると、僕の服を掴む手の力を強めた。

…怖かったんだろうな。体も震えている。僕は少しでも彼女を安心させるためにさらに体を寄せる。

 

「大丈夫三玖さん。安心して。僕が付いてる。」

「そ、そうじゃなくて…」

「…?」

 

そうじゃなくて…?一体なんなんだろう…?よくわからない。

三玖さんの顔はゆでだこのように真っ赤だし、走って息も荒い。足の怪我も痛むのだろう、うつむいたまま顔を上げようとしない。

…ひどいことするな、このおっさん。まずます許せない。

 

「まぁとにかく…そういうことだから、返してもらうよ!」

「何をわけのわからないことを…!」

「おーい!御影!三玖!」

 

僕とおっさんがにらみ合いを続けていると、後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は…上杉くん?

振り返ると、そこには息を切らしてこちらへ向かってくる上杉くんともう1人の人影の姿があった。あの浴衣は…一花さん!?

 

「や、やっと追いついたぜ…」

「もーキョーヘー君走るの早すぎだよー。」

「ど、どういうこと?何で君がここに?それになんで一花さんも…」

「おっさん!よく見てくれ!その男の横にいるのは一花じゃない!」

「君はさっきの!?な、何を言ってるんだ!その顔は見間違えようがない!うちの大切な若手女優から手を放しなさい!」

「…え?」

「…ん?えぇぇ!?い、一花ちゃんが2人!?」

「若手女優?カメラで撮る仕事って…そっち!?」

「ちょ、ちょっと待って!話が呑み込めないんだけど!?」

 

一体どういうことだ…これ。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「…と言うわけだ。」

「なるほど。」

 

あの後、髭のおっさんを交えた僕達は互いの情報を交換していた。

まず、この髭のおっさんは一花さんが所属している事務所の社長らしい。そして、一花さんはこの社長の元で若手女優として色々な役に出演してたんだとか。

それが今日、急遽映画の代役のオーディションが入ったそうだ。それに向かおうとしていたところ、上杉くんを見つけたため彼に事情を話すため路地裏へ連れ込んだ。

そしたらそこでちょうど僕と合流した三玖さんを一花さんと勘違いした社長さんが連れて行ったため、僕が走って追いかけた。

それを路地裏で見ていた上杉くんと一花さんは誤解を解くために僕を追ってここまで来た、ということらしい。

なるほど、そういうことだったんだね。それなら、今日一花さんがよく皆から離れてどこかに電話していたのも納得のいく話だ。

…でも、それならそうと皆に伝えてくれたらよかったのにと思わずにはいられないけど、彼女なりに事情があるんだろう。深い詮索はしないでおこう。

 

「一花が女優って…」

「一花ちゃんが五つ子って…」

「「マジ?」」

 

息ぴったりだな、上杉くんと社長さん。

 

「…おっと、こうしている場合じゃない。行こう、一花ちゃん!」

「おい待てって!」

 

一花さんの手を引いてその場を去ろうとする社長さんを上杉くんが呼び止めた。

 

「人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ。」

「そんな…一花!花火はいいのかよ!五人で見るんじゃなかったのか!」

「…ごめんね。フータロー君。」

「一花さん。待って。」

 

僕は移動しようとする一花さんに声をかける。

 

「君は…本当にそれでいいの?」

「キョーヘー君…うん。私は自分の夢を諦めたくない。だから、オーディションに行く。」

「…分かった。悔いのないようにね。頑張って。君ならきっとできるよ。」

「お、おい御影!?」

「…ありがとう。みんなによろしくね。」

 

そう言うと、一花さんは社長さんと共に歩を進めていく。

 

「上杉くん。一花さんを頼める?」

「御影…しかし…」

「フータロー。私からもお願い。」

「三玖…」

「大丈夫。三玖さんは僕が見てるから。君は一花さんを追いかけてあげて欲しいんだ。」

「…何故俺なんだ?口ならお前の方がうまい、説得するならお前の方が…」

「上杉くんさ、一花さんに路地裏で色々事情を聞いたんでしょ?」

 

僕がそう言うと、上杉くんは目を見開いた。

 

「そこで何があったのかは僕には分からないよ。でも、一花さんがわざわざそうするってことはさ。君を一番信頼してるからこそだと思うんだ。」

「俺を…一番信頼してるから?」

「うん。だって信頼してない人に自分の事情なんて話さないでしょ?君を信頼してないなら、黙って社長とオーディションに行けばいい話じゃん。」

「言われてみれば…確かにそうだが。」

「だからこそ、だよ。僕が行く方が確かに説得は出来るかもしれない。でも、僕は一花さんの一番じゃない。僕は彼女から事情を聴いてないからね。」

「そ、それはそうだが…」

「彼女の一番は…君なんだからさ!上杉くん!」

 

そう言うと、僕は上杉くんの胸にこぶしを当てる。

 

「一番じゃない僕の口先だけの言葉より、口下手でも一番信頼している君の言葉の方が彼女の胸には響くはずだよ。」

「御影…」

「だから、これは君じゃないと駄目なんだ。君にしか出来ないんだ。僕じゃダメ。君じゃないと駄目なんだ。」

 

僕の言葉を上杉くんは黙って聞いている。

 

「…それに、自分でも気づいてるでしょ。この子達の家庭教師を始めてから変わったなってさ。」

「お前…何故それを…」

「そりゃ伊達に君の友達やってないからね!見てたらすぐわかるよ。今の君は、前の君よりも随分と生き生きしてる。」

 

前までの上杉くんだったら、一花さんに路地裏に連れ込まれても突き放して終わっていただろう。

それどころか祭りにまで付いて来ないで家で勉強をしてたかもしれない。

今こうやって一花さんと三玖さんを取り戻すために追いかけてくることだってなかっただろう。

上杉くんは、最近笑顔を見せることが多くなった気がする。五つ子の家庭教師になってから表情も増えた気がする。友達としては嬉しい限りだ。

 

「…俺の家には借金がある。」

「うん、知ってる。」

「その借金を返すために家庭教師を始めた。だが、あいつを含めて5人には手を焼きっぱなしだ。」

「それには完全同意だね。みんな勉強嫌いすぎて困っちゃうよね。」

「まったくだ…結局、何の成果もあげられないまま給料をもらっちまったからな。せめてもらった分の義理は果たしたい。それが今の俺の本心だ。」

「うん、いいんじゃないかな?それで。」

 

そう言うと、上杉くんは真っ直ぐと前を向いた。…いい表情してるじゃん。さすがは僕の友達だ。

 

「どんな結果になったって、僕は君を攻めたりしない。もし他の皆が君を攻めるなら僕が皆を説得する。」

「御影…」

「だから自分に自信を持てばいい。全力でぶつかってくればいい。君の言葉はきっと、彼女に響くはずだよ。」

「…ありがとう、御影。」

「お安い御用だよ。相棒!」

 

僕と上杉くんは顔を見合わせて笑う。

そしてお互いにこぶしを作り、それを合わせた。

 

「一花さんを頼んだよ、上杉くん!」

「あぁ、任せろ!」

 

上杉くんはそう言うと、一花さんたちを追いかけて消えていった。

 

「キョーヘーとフータローは本当に仲がいいんだね。」

「うん、僕の自慢の友達だからね。彼ならきっとやってくれるはずさ。」

 

本当に…変わったね、上杉くん。嬉しい限りだ。

 

「私もキョーヘーとフータローみたいな友達作れるといいな…」

「君ならきっと作れるさ。…そう言えば三玖さん、足大丈夫?引っ張られたから悪化してるんじゃ…」

「…ごめん、ちょっと動けそうにない。」

「だよね…結構すごいスピードだったし無理もないか。…ほら、乗って。」

「…え?」

 

僕はしゃがみこむと、三玖さんに向けて背中を差し出す。

 

「で、でもキョーヘーが…」

「いいから!僕は大丈夫だよ。そんなにヤワじゃないって。それに、傷ついた女の子1人守れないようじゃ男が廃るからさ。」

「…じゃ、じゃあ…お、お邪魔します…」

「うん、どうぞ。」

 

直後、背中にずっしりとした重みが加わる。

…なんかすごい柔らかいものが当たってる気がするけど気にしたら負けだ、平常心…平常心でいよう。

 

「さてと、それじゃあ二乃さんが待ってるお店へ行こうか。」

「うん。分かった。」

 

三玖さんを背負ったまま、僕は歩き出す。

 

「…三玖さん。もしかしたら、今日は花火を五人で見れないかもしれない。」

「うん。なんとなく、そんな気がする。」

「…ごめんね。あそこで無理矢理引き留めることも出来たんだけど、一花さんの事を考えるとあれが最善な気がして。」

「キョーヘーが謝ることじゃないよ。気にしないで。」

「…ありがとう。でもさ、やっぱり申し訳ないよ。花火は君達とお母さんの大切な思い出で、毎年やってたんでしょ?」

「うん。…残念じゃないと言えば嘘になる。でも一花には自分の夢をあきらめてほしくないから。」

「…君は優しいね。」

「キョーヘーほどじゃない。」

 

一歩一歩地面を踏みしめる。

 

「それに、花火は何も打ち上げ花火じゃないと駄目って訳じゃない。」

「え?それってどういう…」

「あーっ!御影さん!やっと見つけましたー!」

 

三玖さんにどういうことなのか聞こうと思った矢先、本日何度目になるか分からないくらいの聞きなれた声が聞こえてきた。

この声は…四葉さんか。声のした方を振り向くと、そこにはこちらへ向かって手を振る四葉さんとらいはちゃんの姿が。

 

「四葉さん。それにらいはちゃんも…」

「あ、三玖もいたんですね!あれ、なんで三玖は御影さんにおんぶされてるんですか?」

「ちょっと色々あってね…って言うか、2人とも時計台の前にいるんじゃなかったの?」

「それが…二乃が中々迎えに来てくれないので、移動しちゃいました!」

「ご、ごめんね御影さん!私は待ってた方がいいよって言ったんだけど…」

「らいはちゃん…大丈夫だよ。ありがとうね。」

 

と言うか、二乃さんあの後すぐ迎えに行かなかったのか?もう結構時間たってるはずなんだけど。

 

「御影さん、お兄ちゃんは?」

「上杉くんならちょっと一花お姉さんと一緒に大事な用事に行ったんだ。すぐに戻ってくると思うから、それまでは僕達と一緒にいよ?」

「わかりました!全く、お兄ちゃんったら人騒がせなんだから…」

「あはは、でも上杉くんは今すっごく頑張ってくれてるんだよ。一花お姉さんのために。」

「そうなの?」

「うん。だからお兄ちゃんの事、応援してあげて?」

「…うん!」

 

らいはちゃんはそう頷くと、満面の笑みを浮かべた。…かわいい。頭なでなでしてあげたい。三玖さん背負ってるから無理だけど。

 

「御影さん!事情は三玖から聞きましたよ!」

「うわぁ!?ちょ、近いから四葉さん!顔!顔!」

「あ、すみません!あははー!」

 

まさからいはちゃんを眺めていたらいきなり四葉さんの顔が真正面にドアップで写るとは思ってもみなかった。

僕は若干パニックになりながら後ずさる。

 

「それで、一花の事ですがすべて三玖から聞きました!」

「い、いつの間に…」

「キョーヘーがらいはちゃんと話してる間だよ。」

「それで、ですね御影さん!実は私にいいアイデアがあるんですよ!」

「…却下で。」

「えぇ!?まだ聞いてもないじゃないですか!?」

「いや、なんか色々不安だから…」

「…キョーヘー、大丈夫。私も一緒に考えたから。」

「あ、それなら安心だ。」

「御影さんが冷たい!?」

 

いや、だって四葉さんのアイデアって色々とガバガバそうだし…色々と。主に中身的な意味で。

 

「…で、そのアイデアって?」

「今から公園にみんなを集めて私がらいはちゃんに買ってあげた花火をやりましょう!」

「…なるほど。そういうことか。」

「うん。打ち上げ花火ほどじゃないけど、花火は花火だから。」

 

さっき三玖さんが言ってた打ち上げ花火じゃなくてもいい、ってのはこういうことだったんだね。

確かにオーディションが終わった一花さんも一緒に花火に参加すれば、花火を五人で見たってことには変わりないわけだ。

 

「じゃあ、そうしようか。」

「分かりました!では、私は今から二乃と五月に連絡しますね!ついでに上杉さんや御影さんの頑張りもお伝えしちゃいますよ!」

「あはは…うん、よろしくね。じゃあ、僕達は公園に移動しようか。」

「うん。」

「はーい!」

 

スマホを耳に当てて2人に連絡する四葉さんと共に、らいはちゃんの手を引きながら僕達は公園を目指して歩き出した。




御影だけじゃなくて
風太郎や彼に好意を寄せる女の子も
しっかり描写出来たらと思います

あと御影と風太郎でしゃべらせてるときが
一番書きやすかったりしてますね
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