五等分の…なんだって?   作:焼きそばの具

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これもひとえに読者の皆様のおかげです!

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第9話 長女の決意

「もう遅いわよあんた達!待ちくたびれちゃったじゃないの!」

「ごめんごめん、お待たせ。」

 

あの後、事情を説明して二乃さんと五月さんに連絡をした僕達は約束通り集合場所の公園にやってきていた。

事情を聴いた二乃さんと五月さんは最初は若干怒りを隠せない様子だったが、僕と三玖さんや四葉さんの説得でなんとか納得してくれたようだ。

全員そろって一花さんを許して、笑顔で迎える。そう決まったらしく、彼女達の表情は明るいものだった。

 

「って三玖!?あんた何で御影に背負われてるのよ!?」

「説明した通りだよ。足踏まれてる上に走らされて怪我が悪化したから。これ以上悪くなったらいけないしね。」

「まぁそういうことなら仕方ないけど…あんた、三玖に変な気を起こしてないでしょうね!?」

「お、起こしてないよそんなの…あと指突き付けるのやめてほしいな。君の爪尖ってるから刺さりそう…」

「なんですって!?」

「じょ、冗談だから本気にしないでよ…」

 

詰め寄ってくる二乃さんに対して後ずさりしながらそう言う。

 

「…二乃、やきもち?」

「はぁ!?なんで私がやきもち焼かなきゃいけないのよ!」

「ふふ…キョーヘー。もう大丈夫。ありがとう。」

「ほんとに?無理してない?」

「うん、大丈夫だよ。」

「分かった。じゃあ下ろすね。よっと…」

 

僕はそのまましゃがみこむと、三玖さんは僕の背中からゆっくりと降りる。

先ほどまで重量のあった僕の背中に開放感が戻ってきた。

 

「ありがとう。…重くなかった?」

「うん、大丈夫だよ。また痛くなったら言ってね?すぐおぶるからさ。」

「…うん、ありがとう。」

「そう言えば、一花と上杉君にこのことは伝えてあるんですか?」

「上杉くんには僕がメールで連絡しておいたよ。一花さんには四葉さんが送ってくれてるけど…メール見れるかは怪しいね。」

「まったく…一花もそうならそうと連絡くれればよかったのに。水臭いわね。」

「まぁまぁ、彼女には彼女なりの理由があったんでしょ。戻ってきたら笑顔で迎えてあげようよ。それが一番、彼女にとっていい方法だよ。」

「ふん、あんたに言われなくたってそうするわよ!」

 

二乃さんはそう言うと、花火の準備をするために公園の中央へと向かって歩いて行った。

 

「四葉さん…私眠くなってきちゃった…」

「あーもうこんな時間だもんね。らいはちゃん、あそこのベンチでおやすみなさいしよっか。」

「うん…そうする…」

「御影さん。私、ちょっとらいはちゃんが寝付くまで一緒にベンチに座ってますね。」

「分かった。お願いね。」

 

公園の時計を見てみると、時刻は既に9時を回っていた。そりゃらいはちゃんが眠くなるのも当然だわな。

らいはちゃんは四葉さんと一緒にベンチに座ると、彼女に膝枕をしてもらっているようだった。

 

「御影君も色々大変だったみたいですね。お疲れ様でした。」

「ううん、僕は大したことはしてないよ。それは帰ってきた上杉くんに言ってあげて欲しいな。」

「…そうですね、彼は彼なりに私達の事を考えてくれているようですし。」

「うん、きっと上杉くんの中で君達五人の存在は日に日に大きくなってると思うんだ。」

「まぁだからと言って、私が彼の授業を受ける事とはまた別の話ですけどね。」

「あはは…手厳しいね。」

 

五月さんは相変わらずだなぁ…でも上杉くんに対して感謝の言葉を言おうとしてる辺り、彼女の中で上杉くんの印象は変わり始めているのかもね。

 

「キョーヘー、お水飲む?」

「うん、ありがとう。丁度喉渇いてたんだ。」

 

いつの間にか三玖さんがペットボトルに入った水を持ってきてくれていたようだ。

僕はお礼を言ってペットボトルを受け取ると、蓋を開けて一気に中身を煽った。…生き返る。やっぱり水は最高だ。

 

「ぷはっ…!」

「すごい飲みっぷり…私背負ってて体力使わせちゃったね。」

「いいっていいって。女の子を助けるのは男として当然だよ。気にしないで。」

「ありがとう。キョーヘーはほんとに優しいね。」

「あはは、そんなに褒められると照れちゃうよ…うん。どういたしまして。」

 

少しむずがゆくなって頭をかきながらそう言うと、三玖さんは隣で柔らかく微笑んだ。

…最近、三玖さんが笑顔を見せてくれることが増えたような気がする。いいことだ。それに僕は彼女の笑顔を見るのは嫌いじゃない。

彼女は元は美人なんだ。笑ってる方がいいに決まってるしね。あとかわいいし。かわいいし!

 

「なーにデレデレしてんのよこの変態!」

「女の子の笑顔見ただけで変態扱いってひどくない?君の理論だと世の中は変態だらけなんだけど…」

「うっさいわね!ぼけっとしてないで花火の準備手伝いなさいよ!」

 

二乃さんは相変わらずだけど、やっぱり彼女とはこうやって軽口をたたき合ってる方が性に合ってるかもしれないね。

 

「はいはい…それじゃ、僕はバケツに水でも汲んでくるとしようかな。」

「あ、それならそこのバケツを使ってください。」

「これだね。よっと…それじゃ、ちょっと行ってくるよ。」

「お願いします。御影君。」

 

五月さんに軽く手を挙げた僕は、近場に合った水道へと向かった。

到着した僕はバケツを置き、蛇口をひねる。水が溜まっていくのを見ながら、僕は今日の事を思い返していた。

 

今日は本当に色々な事があったな。

浴衣姿の4人に会ったこと。上杉くんとらいはちゃんと合流したこと。一緒にお祭りを楽しんだこと。

二乃さんを助けたこと。三玖さんをおぶったこと。そして上杉くんを送り出したこと。

気が付けば、僕の日常には最近この五つ子たちと上杉くんがいつもいるような気がするな。なんと言うか、もう生活の一部になっているというか。

上杉くんを助けるために始めた家庭教師の補佐も、いつの間にか率先してやるようになってる僕がいるのも事実だ。

 

「…でも、これでいいのかもしれないな。」

 

2年生になってこの五つ子に会うまで、上杉くんとは一緒に食堂でご飯を食べていたけど今みたいに毎日放課後も顔を合わせることはなかった。

皆からはコミュ力お化けなんてあだ名を付けられているけど、仲のいい友達なんて僕には上杉くんぐらいしかいない。

そんな僕にできた、5人の新しい友達。…いや、そのうちの1人からは友達と思われているか怪しいけどね。

顔は同じなのに性格や好みは違っていて、手を焼くけどそれでいてどこか放っておけなくて。目が離せなくて。でも一緒に居ると心地いい。そんな子達だ。

 

「…頑張ろう。絶対に五人揃って笑顔で卒業してもらわなきゃね。」

 

ここまで親しい関係になった以上、彼女達には絶対に卒業してもらわないとね。上杉くんのために、彼女達のために。

まだまだ苦労は絶えないだろう。でも、上杉くんと一緒ならなんだって乗り越えていけるさ。

 

「ちょっとあんた何やってんのよ!水あふれちゃってるじゃないの!」

「…え?あぁほんとだ!ご、ごめん!」

「まったくもう…!」

 

物思いにふけっていたせいで、バケツの水が満タンを通り越してあふれてしまっているのに全く気づいていなかったらしい。

二乃さんが文句を言いつつもこちらへやってきて蛇口を閉めてくれた。

 

「どうしたのよ?ボーっとしちゃって。」

「いや、ちょっと考え事しててさ…ごめんね。すぐ水減らして持ってくから。」

「いいわよ。このくらいなら私が持っていくわ。」

「ごめん。ありがとう。」

「もう!まだ私達の花火大会は終わってないんだから、シャキッとしてよね!」

「そうだね。そうするよ。」

「…あ、そうだ。あんたに言っとくことがあるんだったわ。」

「ん?どうしたの?」

 

二乃さんは一旦立ち上がると、僕の正面に移動する。

 

「その…色々と大変だったみたいね。私の姉妹が迷惑をかけてごめん。」

「ううん、あのくらいお安い御用だよ。気にしないで。」

「二度は言わないわ。その…あ、ありがとね!」

「…うん!」

 

そうとだけ言い残し、水を減らしたバケツを持って公園の中央へ戻っていく二乃さんを見つめながら僕も立ち上がって後へ続く。

…そう言えば四葉さんはちゃんとらいはちゃんを寝かしつけられたかな?少し気になったためベンチの方へ赴くと、そこには四葉さんの膝に頭を置いて寝息を立てる来葉ちゃんの姿があった。

 

「あ、御影さん。らいはちゃん、気持ちよさそうに寝ちゃいました。」

「そうみたいだね。お疲れ様。良かったら、これらいはちゃんにかけておいてあげてよ。」

 

そう言うと、僕は自分が羽織っていた上着を脱ぐと四葉さんに手渡した。

 

「夜は少し冷えるからね。らいはちゃんが風邪でもひいちゃったら大変だからさ。」

「分かりました!ではお預かりしますね!ありがとうございます!」

 

四葉さんはそう言って笑うと、らいはちゃんの肩に僕の上着をかぶせた。

 

「ふふ、可愛い寝顔ですね。」

「そうだね。こうしてみると上杉くんの妹とは思えない可愛さだよ。」

「御影さんって仲いい人に対して結構毒舌ですよね?」

「…何の事かな?」

 

僕は明後日の方を向きながら口笛を吹いてごまかす。

 

「おーいあんた達!花火の準備できたわよ!」

「あ、はーい!御影さん、行きましょう!」

「うん、行こうか。」

 

四葉さんはそう言ってらいはちゃんの頭をゆっくりと膝から退けて立ち上がると、公園の中央へ向けてパタパタと走っていく。

僕はらいはちゃんの頭に持ってきていたカバンを乗せると、そのままゆっくりと公園の中央へ向かう。

 

「じゃあ準備も出来たことだし、さっそく始めちゃいましょー!」

「ちょっと四葉!そんなに量ないんだし、一花が戻ってきてからでもいいでしょ!」

「えー!でももう待ちきれないよ!」

「…まぁ、いいんじゃない?この花火買ったのは四葉さんだし、少しくらいなら別に構わないでしょ。」

「あんたねぇ…!」

 

二乃さんがこっちを睨んで何かを言おうとした瞬間、僕のポケットに入っているスマホから着信音が鳴り響いた。

慌ててスマホを取り出すと、ディスプレイには「上杉風太郎」と表示されている。

 

「…誰?フータロー?」

「うん、上杉くんからみたい。ちょっと電話するよ。」

 

僕はそう言って立ち上がると、少しその場から離れて応答ボタンをタップする。

 

「もしもし、上杉くん?」

『御影か。一花のオーディションが今終わった。今からすぐにそっちへ向かう。』

「分かった。…どうだった?うまくいった?」

『あぁ、バッチリだ。詳しくは分からんが一花に聞いたらすごくいい演技が出来たらしい。』

「そっか、良かったじゃん。これも上杉くんのおかげだね。」

『バカを言うな。俺は何もしてない。頑張ったのは一花だからな。』

「そんなことないと思うけどな…とりあえず、了解だよ。気を付けてね。また直接色々聞かせてよ!」

『あぁ、なるべく早く向かうようにする。じゃあな。』

 

そう言うと、僕は応答終了ボタンをタップしてポケットへスマホをしまった。

 

「上杉君は何と?」

「今終わったらしいから、一花さんと一緒にこっちに向かうってさ。」

「そうですか、無事に終わったのですね。良かった。」

 

僕の言葉を聞いた五月さんは、ほっとしたように胸をなでおろしていた。…すごいな。この姉妹は。

誰かの失敗で花火を見られなくても嫌な顔1つせずに、それどころか自分の姉妹の成功を願って心から応援出来る子達だ。

きっとこの五つ子達は強い絆で繋がっているんだろうね。少し羨ましい。

 

「見てください御影さん!きれいですよー!」

「四葉、振り回すと危ないよ。」

 

公園の中央では、四葉さんがすでに花火に火をつけて4人が花火を楽しんでいた。

僕もその輪の中に入ってしゃがみこむ。

 

「ほんとだ、奇麗だね。」

「打ち上げ花火に比べたら見劣りするけど、こういうのも悪くないわね。」

「キョーヘー、線香花火やる?」

「あ、じゃあもらおうかな。ありがとう。」

「じゃあ私はこの花火がいいです!四葉、火を貸してもらえますか?」

「わかった!はい!」

 

僕は三玖さんから受け取った線香花火に蝋燭で火をつけると、線香花火は緩い火花を立てながらぱちぱちと燃え始めた。

独特の火薬の香りに交じって、赤や青。黄色などの色とりどりの火花が優しく弾ける。

 

「奇麗だなぁ…」

「あ!一花に上杉さん!おかえりなさーい!」

 

僕が線香花火をしみじみと見ていると、四葉さんが急に立ち上がって公園の入り口にそう叫んだ。

僕達も遅れて視線をそちらへやると、そこにはオーディションを終えて私服姿の一花さんと上杉くんの2人の姿があった。

 

「お帰り、上杉くん。一花さん。」

「遅くなって悪かったな。」

「ううん、気にしないで。」

「上杉さん準備万端です!我慢できずにおっぱじめちゃいました!」

「ちょ、四葉さん花火上向けないで!火の粉飛んできてるから!」

「あ、すみません…あはは…」

 

照れたように頬をかきながら四葉さんはそう言った。

 

「はは…お前が花火を買っていたおかげだ。助かったよ。それに、らいはの面倒もな。」

「あ、いえ!どちららかと言うと、私が面倒みられてたような…ししし。」

「君!」

「ん?」

 

突然、二乃さんがそう言いながら立ち上がった。

 

「五月を置いてどっかいっちゃったらしいじゃない。この子半べそだったわよ?」

「二乃!?そのことは内緒って…!」

 

半べそだったのね…まぁ、知らない場所に1人でいたら女の子じゃなくても不安だからね。

無理もないけど。

 

「わ、悪い…」

「あんたに一言言わないと気が済まないわ!」

 

そう言うと、二乃さんは上杉くんへ向けて距離を詰める。

 

「お・つ・か・れ!」

「ま、紛らわしい…」

 

あはは…相変わらず素直じゃないんだから、二乃さんは。

でも、上杉くんにああやってきちんとお礼を言ってるということは彼女なりに姉妹を助けてくれたことへの感謝なんだろうね。

…僕にもさっきお礼言ってくれたし、やっぱり姉妹思いのいい子なんだな。

 

「五月…」

「さ、一花も花火しましょうよ。三玖、そこにある花火取ってください。」

「…うん。」

 

三玖さんはそう言って、花火をもって立ち上がる。

そして二乃さんの合図でこの場にいる全員が横になって並んだ。

 

「遠くありません?」

「それじゃ、本格的に始めよっか!」

「…みんな!」

 

そしていざ花火に火をつけようとした瞬間だった。

突然、一花さんの声が周囲に響いた。

 

「ごめん!私の勝手でこんなことになっちゃって…ほんとにごめんね!」

 

そう言うと、一花さんは頭を深々と下げて謝罪した。

確かに今回五人で打ち上げ花火を見られなかった原因の一端を担ったのは一花さんだ。それは間違いない。

この五人にとっては、花火は母親との大切な思い出。だからこそ二乃さんもあれだけ張り切っていたわけだし、宿題だって終わらせたわけだ。

だから謝罪はもちろん必要だ。迷惑をかけたら謝罪するのが当然である。…でも、この姉妹ならきっと笑って一花さんを許してくれるはずだよ。

自分の夢を追いかける一花さんを、誰が攻められるだろうか。誰も攻められるわけがない。

 

「そ、そんなに謝らなくても…」

「まぁ、反省してるんだし…」

「まったくよ!何で連絡くれなかったのよ。」

 

そんなことを思っていると、二乃さんが口を開いた。

 

「今回の原因の一旦はあんたにあるわ。」

(…まぁ、間違いではないよね。)

「あと…目的地を伝え忘れた私も悪い。」

 

二乃さんはそう言うと、照れたようにそっぽを向く。

 

「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました!」

「…私も。今回は失敗ばっかり。キョーヘーがいなかったらと思うとぞっとする。」

「よくわかりませんが、私も悪かったということで!屋台ばっかり見てしまったので…」

「僕もだ、一花さん。もう少しやりようがあったかもしれないのに、こんな手段しか取れなかった僕にも責任はある。」

「それを言うなら俺もだ。お前の様子がおかしいことにもう少し早く気付くべきだった。」

「みんな…」

 

一花さんは目に涙を溜めながら、こちらを向いて笑った。

…うん、やっぱりその表情の方がいいね。

 

「はい、あんたの分!」

 

そう言うと、二乃さんは自分の持っていた花火を一花さんに手渡した。

その流れで五つ子達が円になって並ぶ。

 

「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越える事。誰かの幸せは五人で分かち合うこと。」

「喜びも。」「悲しみも。」「怒りも。」「慈しみも。」

「私達、全員で五等分ですから!」

 

そう言うと、五人は一斉に花火を火をつけると輪の中で1つの花火へと合体させる。

五人の女の子の中央でキラキラと輝く花火はなんとも幻想的な光景だった。

僕と上杉くんはお互いに顔を見合わせると、らいはちゃんの寝ている隣のベンチに腰掛けた。

そして、お互いにもらった花火に火をつける。炎の音と共に、火薬の弾けるパチパチと言う音が響き渡った。

 

「…奇麗だね。」

「あぁ、そうだな。」

 

僕達2人は、しばし会話を忘れて花火に見入る。

 

「お疲れ様上杉くん。」

「お前もな。…悪いな、お前にこんなことまでさせちまって。」

「いいっていいって。友達でしょ?」

「御影…お前って奴は本当に…いつもすまないな。ありがとう。」

「ううん、大したことはしてないよ。それに…」

 

僕は上杉くんの胸に拳を当てた。

 

「今回は君が一番頑張ったんだからさ。」

「俺は…俺は、お前の言葉がなければ何もできなかったかもしれない。」

「そんなことはないよ。だって君は、自分自身で一花さんの事を考えてあげてたじゃないか。」

「御影…」

「だからああやって一花さんと間違えられた三玖さんを追いかけてたんでしょ?昔の君だったら、あんなことはしてないはずだ。」

「…そうかもしれないな。」

「僕はただ、君の背中を押しただけだよ。やり遂げたのは君自身だ。だから自分に自信を持てばいい。僕が保証する。」

「…あぁ、そうだな。お前は本当に頼りになる奴だよ。俺には勿体ない。」

「そうかな?どっちかと言うと、君が僕には勿体ないよ。」

 

僕と上杉くんはお互いに顔を見合わせると、軽くハイタッチをした。

 

「…なぁ、ところで御影。」

「ん?どうしたの?」

「あいつらは花火をしている。らいはは満足して寝ている。」

「うん、そうだね。」

「…俺さ、帰ってもいいんじゃね?」

「このタイミングで!?」

「こんな時間になっちまったが、自習再開だ!勉強の遅れを取り戻さなければ!」

「いや、日付変わるまであと2時間くらいしかないんだけど!?」

「何を言ってるんだ御影!その2時間があればどれだけの範囲が勉強できると思っているんだ!」

 

駄目だ、完全に上杉くんの勉強精神に火がついてしまった。

こうなってしまってはもう僕がどう頑張っても彼を止めることはできない。

 

「行くよー!」

 

どうしたものかと頭を抱えていると、静かな住宅街の公園によく通る四葉さんの声が聞こえてくる。

僕と上杉くんはそちらを向くと、ちょうどそこには簡易的な打ち上げ花火がセットされていた。

そして次の瞬間、打ち上げ花火が発射される。夜空に一発だけ弾けた小さな花火は、僕には花火大会の何発もの花火よりも輝いて見えた。

 

「…しょぼい花火。」

「でもさ、奇麗だね。」

「あぁ、本当にな。…もう少しだけ見ておくか。」

「…うん、そうしよっか。」

 

目の前ではしゃぐ彼女達を見て上杉くんも何か思うところがあったのだろう、帰るのをやめてもう少し彼女達に付き合うようだった。

僕がどう頑張っても止められない上杉くんの勉強魂を鎮めるとは…本当にあの五つ子は上杉くんにとって大切な存在になり始めているんだろうね。

…なんだろう、ちょっと妬いちゃうなぁ。

 

「上杉くん、ちょっと彼女達の様子見てくるよ。」

「あぁ、俺はここで座っている。」

 

僕はそう言って立ち上がると、輪になってはしゃいでいる彼女達に近寄った。

 

「残り五本!」

「じゃあ、好きなのを選びましょう!」

 

すると、ちょうど残りの花火が五本になったためそれぞれが好きな花火を選んでいるところだったようだ。

せーの!という掛け声とともに、それぞれが好きな花火を手に取る。

 

「やったー!」

「これです!」

「じゃ、私はこれかな。」

 

花火を選び終えたらしい一花さん、四葉さん、五月さんはウキウキで花火に火をつけると最後の一本を噛みしめるように楽しみ始めた。

…そんな中で、僕は二乃さんと三玖さんが同じ花火を手にしているのを見る。

 

「あら?珍しいわね、あんたと好みが被るなんて。」

「そうだね。二乃、これやる?」

「あ、私はこっちでいいわよ。それは譲れないんでしょ?あんたがやるといいわ。」

 

そう言うと、二乃さんは余った花火を手に取ると火をつけた。

三玖さんは譲ってもらった線香花火に大切そうに火をつけると、しゃがみこんでじっくりと花火を眺めている。

 

「三玖ー!線香花火より派手な方が面白いよ!」

「…私はこれがいい。」

「へー…そんなに好きなんだ!」

「うん、好き!」

 

四葉さんと三玖さんはワイワイとはしゃぎながら最後の花火を楽しんでいるようだった。

僕は三玖さんの隣に行くと、同じようにしゃがみ込む。

 

「…キョーヘー?」

「線香花火、奇麗だね。」

「…うん。」

「足、大丈夫?」

「うん、もう大丈夫。痛みも引いてきた。ありがとう。」

「そっか、それならよかった。」

 

線香花火を眺めながら、僕は口を開く。

 

「…ごめんね。結局五人で花火、見せてあげられなくて。」

「キョーヘーが謝ることじゃないよ。それに、私は一花に夢を諦めてほしくはなかったから。」

「ありがとう。君は優しいね。」

「キョーヘーほどじゃない。キョーヘーはもっと優しい。心配になるくらいに。」

「僕は好きでやってるだけだからさ。そんな褒められるようなことじゃない。」

「じゃあ私が褒めてあげる。キョーヘーは優しくて強い。すごいって。」

「…あはは、ありがとう。三玖さん。」

 

照れくさくなった僕は頭をガリガリとかきながらそう言った。

 

「それと、フータローの事も見直した。」

「うん、彼は立派な人間だよ。きちんとみんなの事を考えてくれている。」

「そうだね。一花のために一生懸命になる姿を見て、私も協力しなきゃって思った。」

「三玖さん…うん、そうだね。これからも勉強、頑張ろう。」

「うん。もちろんキョーヘーも一緒だよね?」

「当たり前だよ。僕は君達が卒業するまで上杉くんと面倒を見るって決めたんだ。途中で見捨てはしない。」

「…良かった。これからもよろしくね、キョーヘー。」

「こちらこそよろしく、三玖さん。」

 

僕と三玖さんはお互いに顔を見合わせると、照れたように笑った。

 

「じゃあ、僕は上杉くんと話してくるよ。」

「うん、いってらっしゃい。」

 

手を振る三玖さんに手を振り返し、僕は立ち上がって上杉くんの待つベンチへと向かう。

 

「待ちなさい。」

 

…向かおうと思ったんだけどなぁ。

僕は足を止めて深呼吸し、観念して後ろを向く。そこには予想通り腕を組んだ二乃さんが立っていた。

 

「…どうしたの?」

「あんた、随分と三玖と仲良くなったみたいじゃない?」

「色々あったんだよ…」

「ふぅん、色々とねぇ。あんた、やっぱり三玖に変な気があるんじゃないでしょうね?」

「無いってば!さっきも言ったじゃん!」

 

姉妹を大切に思うのはいいことだと思うけど、ここまで疑り深いのは勘弁してほしい。

そりゃ走って追いかけたり、背負ったから身体的な接触はあったけどそれまでカウントされたら何も出来なくなる。

 

「…まぁそれはそれとして、悪かったよ。」

「はぁ?何がよ?」

「五人で花火、見せてあげられなかったこと。母親との思い出だったんでしょ。」

「あぁ…そのことならもういいわよ。一花も反省してるみたいだし、私も目的地を伝えてなかったのが悪いんだから。」

 

二乃さんは髪の毛をくるくると触りながらそう言った。

 

「あぁそれと、言っておくけどね。上杉には今回の件は感謝しているわ。でも、だからって家庭教師を認めたわけじゃないから。勘違いしないでよね。」

「そっか。別にいいんじゃない?君が受け入れられるその時までは受け入れなくても。」

「何言ってるのよ、受け入れるわけないじゃない?」

「あはは…何言ってるんだよ。受け入れさせてやるさ、絶対にね。」

 

僕と二乃さんはお互いに顔を見合わせると、どちらからともなく笑った。

 

「んじゃ、僕は上杉くんのとこに行くから。」

「ちょっと待ちなさい!」

「なにさ?まだ何かあるの?」

「そ…その…人込みで困ってた時、助けてくれてありがとうね。」

「何だそんな事か。お安い御用だよ。」

「相変わらずねあんたは。ちょっとは喜んだらどうなの?」

「喜ぶも何も、当たり前の事やっただけだし。」

「そ、そうね!あの時のあんたは…ちょっとだけカッコよかったわよ!」

「え?それってどういう…」

「ふふ、知らない!せいぜい自分で頭使って考える事ね!」

 

そう言うと、二乃さんはこちらへ向かって真っ赤な顔であっかんべーをすると五月さんと合流して話を始めた。

…一体何だったんだろうか。って、こうしてはいられない。上杉くんの元へ行かないと。

僕は小走りで上杉くんが座っているベンチへ向かう。

 

「ごめん上杉くん…!」

「しーっ。」

 

すると、そこには人差し指を口に当てて静かにと言うポーズをとる一花さんの姿があった。

あれ、上杉くんはどこに行ったんだろう?

 

「あれ、一花さん?さっきまでここに上杉くんいたんだけど、見なかった?」

「フータロー君ならほら、ここにいるよ。」

 

一花さんはそう言うと、くいくいと自分のひざ元を指さした。

何だろうと思って視線を下に下げてみると、そこには一花さんの膝の上で寝息を立てている上杉くんの姿があった。

 

「寝ちゃったんだね。」

「うん、頑張ってくれたからね…」

「そうだね。寝かせておいてあげようか。」

 

僕はベンチから少し離れると、時計の柱にもたれかかる。

 

「…キョーヘー君はさ。」

「ん?どうしたの?」

「本当にフータロー君と仲がいいんだね。私と話してるときも、君が背中を押してくれたって言ってたし。」

「僕はただアドバイスをしただけさ。頑張ったのは上杉くん自身。他の誰でもないよ。」

「…そうだね。彼は今日、本当に頑張ってくれた。みんなのために…そして、私のために。」

 

一花さんは上杉くんの頭をやさしくなでながらそう言った。

 

「それに、君は上杉くんを一番信頼してた。だから上杉くんにだけ事情を話したんでしょ。」

「うん、そうだよ。わざわざ仕事を抜けてまでね。彼を路地裏に引っ張って…そこで、色々話した。」

「……」

「オーディションに行く前も、フータロー君は色々話してくれた。自分の家の事情のことも、私達の事を気にかけてくれてることも。」

「…聞いたんだね、彼の家の事情。」

「うん。だからもらった分の義理は果たしたい言ってた。…でも、彼はそれ以上に私達の事を考えてくれてるんだとも思ったかな。」

「彼は根っこは優しいからね。もしかしたら、僕以上にお人よしかもしれないよ?」

「あ、キョーヘー君ってお人よしって自覚あったんだね。」

「まぁそりゃね。見返りは求めてないけど、やっぱ困った人はほっとけないし。上杉くんもそういうとこ、あるんじゃないかな。」

「…詳しいんだね、フータロー君のこと。ちょっと妬いちゃうな。」

「そりゃ伊達に友達やってないしね。あと、僕は男だから妬かれても困るんだけど…」

「あはは、そりゃそうだ。」

 

一花さんは笑うと、再び上杉くんの頭に手を置く。

 

「私ね、今日のオーディション。彼のおかげで頑張れたんだ。」

「そうなんだ、さすがは僕の自慢の友達だ。」

「本当に。それでね、私は彼からいっぱい勇気をもらった。いっぱい温かいものをもらった。…だから、今度は私が彼に協力するよ。パートナーだからね。」

「…その話、上杉くんが起きてるときに聞いたら泣いて喜んだだろうね。」

「そうなんだよ!なのに、フータロー君ったら寝ちゃってるんだから…ふふ、頑張ったね。」

「ほんとにね。…これから上杉くん、大変になりそうだ。」

「それはもちろんだよ!私は一筋縄じゃいかないからね、覚悟してもらわなきゃ!」

 

そう言って笑う一花さんの顔は幸せそうだった。

 

「…上杉くん、結構鈍感だからガツガツ行かないと気付いてもらえないと思う。頑張れ一花さん。」

「えぇ!?別にそんなんじゃ…!」

「見てたら分かるよ。僕は応援してるから。頑張ってね。」

「…うん、ありがとう。でも鈍感さで言えばキョーヘー君も負けてないよ?」

「まぁそれは否定できないかもね。誰かを好きになったことなんて今までで一度もないから、そういう気持ちには疎いと思ってる。」

「…もう少し周りをよく見てみるといいんじゃないかな?君に好意を抱いている子だっているはずだよ。」

「僕みたいな奴を好きになる物好きなんていないでしょ。」

「ふふ…さぁ、どうだろうね?」

 

一花さんは何故か姉妹の方を眺めながらそう言った。

 

「あ、そうだ。今聞いたことは全部上杉くんには黙っておくよ。」

「そうしてもらえると助かるかな。気持ちは自分で伝えるよ。整理が付いたらね。」

「うん、そうしてほしい。協力ならいつでもするから、その時は言ってね。」

「ありがとう。キョーヘー君。」

 

一花さんの言葉を聞いた僕は息を吐き出した。

 

「…ありがとう、フータロー君。」

「良かったね、上杉くん。」

 

僕は幸せそうに上杉くんの頭をなでる一花さんを横目に、空を見上げる。

無数に輝く星達は新しく生まれた彼女の気持ちを応援しているような気がした。

…さてと、それじゃあそろそろ花火も終わったころだろう。さっさと片付けてしまって、僕達も帰るとしよう。

僕は体を引き起こすと、他の姉妹と合流するために歩き出したのだった。




次は中間試験編です
中間試験が終わった辺りに
またオリジナルエピソードを挟もうと思っています

多分お出かけとかそんな感じになりそう
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