甲鉄城のカバネリ 鬼   作:孤独ボッチ

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 随分と長い時間が掛かりましたが、折れていません。
 では、お願いします。


 


第十二話

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 倭文での物資補給を終えた夜、甲鉄城では七夕が行われた。

 笹を飾り、来栖が何故か短冊を作らされ、吉備土が嬉々として彦星と織姫を竹で器用に削って作り、子供達に喝采を浴びていた。

 吉備土はまんざらでもなさそうだが、来栖は仏頂面で文句を言っていた。

 短冊が全員にいき渡り、願い事を短冊に書き始めた。子供は楽しそうに、大人は切実な思いを持って書いた。武士達だけは微妙な表情でサラサラと書いていた。

 逞生は、真っ先に書き上げて神妙に頷いた。

 だが、それを見ていた人物が一人。無名である。

 無名は、悪戯心を発揮してコッソリと逞生背後に回り込み、短冊を取り上げた。

 逞生が気付いた時には、手から短冊が消えていた。あっと声を上げた時には無名にマジマジと短冊を見られていた。

「おい!勝手に見るなよ!」

 普段の無名ならば、揶揄って短冊を取り返そうとする逞生から逃げるが、無名はそうせずに黙って逞生に短冊を返した。

 それは笑えない願いだったからだ。

『長生きしたい』

 ただ一言そう書かれていた。

 流石の無名も揶揄う気にはなれなかった。

「そんな願いしかねぇよ。今はよ」

 いつもは元気な無名が笑顔を消した為、少しきまずくなり逞生はそれだけ言った。

 生駒は、そのやり取りだけで何が書かれているかを察した。

 そして、だからこそこの空気を払拭したかった。

「俺の願いは!カバネを打倒して、駅も畑も全て取り戻すだ!」

 生駒は願いを一気に書き上げると、大声で内容を宣言した。

 周りは暫し唖然とした空気が流れた。

 あまりにも大それた願いで、しかも願いが一つではなかった所為だ。

「そりゃ、欲張り過ぎだろ…」

 巣刈ですら呆れた声で言った。

「じゃあ、巣刈は生きてるだけで満足か?それだけじゃ、俺はとてもこの先やっていける気がしない!夢は持たないとな!大袈裟でも大それていてもいいじゃないか!」

 生駒の勢いに呑まれた訳ではないだろうが、納得の色が周囲に伝播していく。

 それを見て想馬は思った。

(やっぱりこの男は普通じゃないな…)

 内心苦笑いしつつ、見ていた。

「私も決めました!顕金駅を取り戻して領主になりますよ!」

 菖蒲も生駒に同調して、とんでもない事を言い出した。いくら時代が進んだとはいえ、女の領主を幕府が認めるとは思えない。だからこその願いなんだろうが。

 皆も口々に大きな願いを口にし出した。

「私は寺子屋の先生になりたい!」

 鰍の夢はそこまで大きくなかったが、皆の笑いを誘った。

「侑那さんは、どうなんです?」

「自分の駿城を手に入れる」

 巣刈の問いに侑那が珍しく笑みを浮かべて言い切った。

「いいっすね!俺も乗せて下さいよ!」

「ダメ」

 侑那は即座に拒否したものの、そこには笑みがあった。

「じゃあ、俺は商売を成功させて、美人の嫁さんを三人は貰う!」

 逞生が鼻息荒く宣言する。先程の神妙さは綺麗さっぱりなくなっていた。

「おいおい…三人って…」

 生駒は流石に親友の宣言に頭痛を感じた。武士や金持ちなら複数妻を娶る事もあるが、平民には想像も付かないものがある。大丈夫なのかと心配される。生駒としては、周りの妻帯者しか見本がいない。その全員が大体女房は怖いと言っていた。それが複数となれば、想像を絶する。

「夢はでっかく!だろ!?」

 生駒の心配に逞生はまるで気付いた様子がなかった。

 想馬はというと、無名の接近には気付いていたが放置していた。見られて困るような願いは書いていないからだ。

「ちょっと!生駒が願い事は大きいのって言ってたでしょ!?」

 想馬の短冊を見た無名は怒ったような声を上げるが、素知らぬ顔で通した。

「本来の願いは、これで正解なんだよ」

 想馬が短冊に書いた願いは、武芸上達だった。

 本来の七夕は技術の向上を願うのが普通で、それは女子が主であった。庶民は兎も角、武士は未だに七夕に願い事を書いていなかったのである。想馬は厳密には、もう武士ではないが。

「人に戻る方法を見付ける!とかさ!この場合、書くべきじゃないの!?あんな事、私に言ったんだからさ!!」

「生駒に協力するって言ったんだ。願うような話じゃないさ」

 無名は不満気に想馬を睨み付けていたが、想馬は無視した。

 そうするうちに周囲の視線が散っていくのを感じた。面白そうな話題ではないと思ってくれたのだろう。こういう時は、無闇に反応してはならない。想馬はそれを心得ていた。

 だが、生駒達に感化されたのか、心得ていない男は存在していた。

「来栖は何を願ったのですか?」

「い、いけません!願いは人に見せれば叶わぬといいますから!」

 この慌てぶりに、その場に居る全員が悟った。

 コイツは、ある意味で大きい願い事をしたなと。

 全員の生暖かい視線を受けて、珍しく動揺する来栖の様子を菖蒲を除いた者達が見守ったのである。

 その時に大きな音と共に、花火が打ち上がり、空に大輪の花を咲かせた。

「そういえば、倭文じゃ花火を上げるって言ってたな…」

 生駒の呟きは、連続して打ち上げられる花火に打ち消された。

 

 それから、暫し花火の美しさを甲鉄城の面々は堪能したのだった。

 

 

 

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 甲鉄城の面々が花火を楽しんでいる時、その輪から外れている男が二人いた。想馬と生駒である。

 生駒が想馬に花火を眺めながら話し掛けたのが切っ掛けだった。

「無名に人に戻してやるって約束したのか?」

 笑みを含んだ顔で生駒が揶揄うように言った。

 想馬は、素っ気なく言い返した。

「協力すると言ったんだ。他人事じゃないからな」

「そうか、協力してくれるのは有難い。俺と逞生だけじゃ手が足りないからな。無名は考えるのに向かないし」

 生駒は、そう言って苦笑いした。

 だが、想馬は笑わなかった。無名が言った言葉が頭に浮かんだからだ。

『私、カバネに一度も噛まれた事ないくらいに強いからさ!』

 無名はそう言っていた。

「どうかしたのか?」

 真剣な顔で黙り込んだ想馬に、生駒が怪訝な顔で尋ねた。

「いや、無名にも訊いた方がいいのかもしれん。真面に答えられるかは兎も角な」

「どういう事だ?」

「無名は言っていた。一度も噛まれた事がないと」

 それと同時に想馬は、他に知っている事や詳しい話も生駒にした。生駒には知って置いて貰いたかったからだ。これから生駒は、こういった事実に直面するであろうから。

 生駒の顔からも笑みが消えた。想馬の言葉に、ある可能性が思い浮かんだからだ。

 それでも確かめるように想馬に尋ねた。

「それはカバネリになってからって意味じゃないのか?」

「可能性は否定しないが、無名は言っていた仲間がどんどん記憶が薄れていって処分されていったってな。偶然カバネリがそんなに生まれるもんか?大体は自決するだろ」

 生駒は、今度こそ黙り込んだ。

 二人の脳裏に思い浮かんだ可能性。それは、幕府か狩方衆が人工的にカバネリを造り出しているというものだからだ。

 自らカバネリになる事を選んだ生駒だからこそ分かる。こんな事は偶然に起きる事はほぼない。

 

 生駒は、信じられないといった感じで黙って考え込んでいた。

 

 

 

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 七夕が終わり、盛り上がった所為か疲れてほぼ全員が、甲鉄城の中で雑魚寝していた。

 疲れていたお陰で、男女が雑魚寝していても間違いは起こらなかった。

 その中で、いち早く目覚めた生駒は、想馬と鰍に挟まれて寝ている無名を真剣な表情で見詰めていた。

(想馬の予想通りなら、天鳥美馬は無名から本当の名を取り上げて、役に立たなければ殺されても仕方ないって教えたのか?そうすると弱い人間は死ぬしかないっていうのか?もし、そうだというなら俺は確かめないといけない…)

 生駒にとって戦う理由は、妹のような弱い立場にいる人間を少しでも救う為でもあった。それを否定する人間が英雄たり得るのか。生駒にとっては確かめなければならない重要な事だった。

 生駒がなおも考え込んでいる途中で、それを断ち切るように外から歓声が響いた。歓声があまりに大きかった為に、甲鉄城で雑魚寝していた人々も目を覚ましてしまった。

「なんだ?」

 逞生が顔を顰めて、腹を掻きながらのっそりと身を起こした。

「見に行ってみよう」

 生駒が真っ先に立ち上がり外へ出た。それに釣られるように甲鉄城から人が飛び出して様子を見に行った。

 その先には、独特な威容を誇る駿城が入って来ていた。

 倭文の住民達は歓喜の声で駿城を護るように歩く一団を迎えていた。

「なんだ?あの連中?」

 逞生が訝し気に覗き込みながら言った。装備が明らかに、そこら辺にいる武士とは違っていたからだ。

「あれが狩方衆だよ。カバネを倒す事を目的に創られた独立部隊だ」

 吉備土が端的な答えに、逞生があれがそうかと呟くように言った。

 生駒は、この時に運命のようなものを感じていた。無名の主が問い質したい時に現れたのだから。

「兄様!」

 いつ起きたのか、無名が甲鉄城の面々をすり抜けて美馬へ向かって走り寄る。

 後ろから想馬も続いていたが、美馬を見た瞬間に足を止めた。

「無名!無事だったか!心配したぞ!」

「私は大丈夫」

「一人なのか?四文はどうした?」

 美馬の問いに、無名の顔が曇る。

「顕金駅がカバネに襲われて…でも、立派に死んだよ」

 美馬が痛ましげに目を閉じて祈りを捧げた。

「輪廻の果報があらんことを」

 無名もその間目を伏せていた。

 生駒は、それを険しい表情で見詰めていた。

(俺は…この男が本当に英雄か確かめなければならない)

 無名は、無邪気に甲鉄城へ身を寄せている事などを話していた。

 

 生駒は無言で拳を握り締めた。

 

 

 

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 無名が笑顔で美馬に自分達の事を話しているのを、想馬もまた無表情で眺めていた。

 ここで菖蒲が来栖を伴って動いた。美馬の前に進み出た。

「天鳥美馬様でいらっしゃいますね?勇名は兼ねがね窺っております。私は四方川の菖蒲と申します」

「四方川?確か老中の?」

「はい。牧野は叔父になります」

 想馬は、美馬の目が一瞬細めたのを見逃さなかった。

「兄様!甲鉄城も金剛郭へ行くんだよ!」

 美馬がほうっと呟く。

 想馬は、この段階でこの男に係わりたくなくなっていた。何を考えたのか分からないが、愉快なものではないだろうからだ。想馬は長い傭兵暮らしで、そんな顔をした連中を嫌という程見てきたから分かる。

「我々も金剛郭へ補給に戻る途中だったのです。丁度いい、無名を助けて頂いたお礼といってはなんですが、我々に護衛をさせて頂けませんか?」

 美馬は、穏やかな笑みを浮かべて菖蒲に申し出た。菖蒲にしてみても悪い取引ではない。最強の護衛に護られて金剛郭へと行けるのだから、道中の安全は保障されたようなものである。菖蒲の中では即決だったが、そこは礼儀もある。

「宜しいのですか?」

「勿論です。無名は我等狩方衆の切り札の一つです。それを救って貰った礼としては安いくらいです」

「それでは…お世話になります。お世継ぎ様に護衛して頂くなど、恐れ多い事ではありますが…」

「いえ、勘当された身ですので天鳥を名乗っていても関係はありませんよ。それでは、我が駿城へご案内致しましょう」

 菖蒲は、恐縮して歩き出すと、来栖も付いて歩き出す。

「しかし、無名さんのいう兄様がまさか美馬様だったとは思いませんでした」

 てっきり、狩方衆にいる誰か立場のある者だろうと思っていた。内心、将軍家の姫を監禁したのは不味かったと冷汗を流していた。

「いえ、無名とは血縁ではありません」

 菖蒲の不安を美馬が解消してくれた。菖蒲がやはり内心で、ホッとしたと同時に疑問が浮かぶ。では、何故無名は兄などと呼んでいるのだろうかと。

「私が兄様って呼びたいってお願いして、許して貰ってるだけ」

 菖蒲の内心の疑問が次の瞬間に解消される。

 美馬は勘当されたとはいえ将軍家の人間だ。血縁でもない子供に兄などという呼び方は普通は認められない。

(つまり、無名さんは、それだけ重要な存在という事なのかもしれませんね)

 心の中で菖蒲は、そう考えた。

 一行の足が止まり、菖蒲も慌てて思考を打ち切って止まる。誰かが前に立ったのだ。見ればそれは生駒だった。

「生駒?」

 菖蒲は、険しい表情の生駒に不安を掻き立てられる。

 だが、無名は気にしていないようで、無邪気に生駒を紹介した。

「兄様!こいつが私の盾の一枚!まだ、頼りないけど頭は良いよ!それで…」

 無名は、美馬を睨み付ける生駒を無視して、視線を周囲に向ける。そして、目的の人物を探し当てると大声で呼んだ。

「想馬!こっち来て!」

 想馬があからさまに嫌そうに顔を顰めたのを見て、菖蒲は更に不安になった。勘当されたとはいえ、美馬にあまり無礼を働いて欲しくない。折角のいい話が台無しになるくらいならばいいが、美馬の信奉者達を敵に回したくなかった。

 美馬に恩を売れと言ったのは想馬であるのに、今は不服そうな様子に菖蒲は顔を顰めそうになるのを堪えるのに苦労した。

 想馬は渋々とこちらに歩いて来た。

「こいつがもう一枚の盾!こっちは強いよ!」

 無名は笑顔で美馬へ紹介した。美馬も無名の高い評価に若干驚いた顔をした。こうも素直に無名が他人を強いと評するのは珍しい事だったからだ。

 値踏みするように想馬を観察すると、納得したように頷いた。

「成程。確かにできる御仁のようだ。狩方衆でも敵う者がどれ程いるか」

 美馬が目を細めて呟くように評価する。

 だが、菖蒲の傍にいた来栖は、それが評価しているようには聞こえず困惑した。

 生駒や想馬は、もっとハッキリと不穏なものを感じていた。

「生駒はね!自分で処置してカバネリになっちゃったんだよ!変な奴でしょ?」

「自分で」

 生駒は、自分の体の中まで見透かすような視線に嫌悪感を抱いた。それは先程の美馬の言葉が原因だと、生駒は客観的に悟ってもいた。故に問うた。確かめる為に。

「無名が助かって良かったと思うのは、切り札だからですか?そうでなかったら、どうでも良かったですか?」

「「生駒!」」

 奇しくも菖蒲と無名の声が重なる。

 だが、止めるのは遅過ぎた。歓迎している倭文の住民にも聞こえていたからだ。倭文の住民の間で、英雄に難癖をつける存在に不快感が広がっていく。

 それを美馬は感じ取った。

「その話は、駿城でしよう」

 菖蒲達に異論はなかった。

 

 これ以上、生駒が倭文の住民を敵に回す前に。

 

 

 

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 生駒達を引き連れた美馬が機関部に差し掛かった。

「止まって下さい」

 美馬が、手を上げて一行を制止する。

 機関部は、蒸気漏れでも起こしたのか、湿度と温度が高かった。

「どうした?」

「どうも蒸気が漏れているようで…」

 蒸気鍛冶が困り顔で各所を点検しながら答えた。

「戦続きだからな…。振動で緩んだのだろう。締め具はあるか?」

 美馬は、普通の武士ならば嫌がる蒸気鍛冶の仕事も躊躇なく手伝うと言った事に、菖蒲達は驚いた。

 そして、それは冗談ではなく、本当に準備を始めていた。

 それを見た蒸気鍛冶は、慌てて止める。

「いや!汚れますよ!我々にお任せを!」

「気にするな。カバネと戦っても汚れる。そんな事を気にしてどうする」

 そう言って、美馬は蒸気鍛冶に他の点検をしてくるよう命じて、自分は作業を開始する。

 生駒は、これを好機と捉えて進み出た。

「俺も手伝いましょうか?俺は蒸気鍛冶でもありますから、充填剤も持っています」

 美馬がジッと生駒を暫く見た後、微かな笑みを浮かべて頷いた。

「分かった。お願いしよう。滅火。菖蒲殿達をご案内してくれ」

「承知しました」

 一緒に歩いていたどこか無名と雰囲気の似た女性・滅火が淡々と引き受ける。似ているというのは、戦闘を熟す人間特有の気配が似ているという意味合いである。

 菖蒲達に付いて来ていた想馬は、生駒をチラリと見ただけで菖蒲達の後に続いた。一瞬、美馬と視線が合ったが何もお互いに言わず、すれ違った。

 

 後には、眼に決意を宿した生駒と美馬のみが残された。

 

 

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 一方、生駒達と別れた菖蒲達は、滅火に案内され美馬の駿城・克城の内部に入る入口で待たされていた。

 狩方衆の中枢というべき場所の為か、滅火は内部に一足先に入り話を通しに行ったのだ。勿論、菖蒲達にも事情は説明されている為、大人しく待っていた。

 そこへ菖蒲達の後から小柄な男が近付いてきた。小柄でも気配は鋭く只者ではない雰囲気を漂わせていた。それが菖蒲にも察せられたくらいである。狩方衆でも上位の隊員なのだろう。

 その男が菖蒲を見て、おどけた態度で言った。

「おや?こんな所に場違いなお姫様がいるな」

 揶揄う声に来栖が顔全体で不愉快であると表現していたが、それを見ても小柄な男に恐れ入った様子はなかった。

「まあ、まずは武器を預かろうか」

 逆に来栖を揶揄うように手を突き出した。

「そちらの主に招待を受けている。渡すいわれはない」

 来栖が険しい顔で拒否した。

 だが、ここで全く反応しなかった想馬が斬馬刀の柄を握り締めた。

 小柄な男が一瞬警戒するように目を細め、手を引っ込めた。

「どうした?武器を渡せって言ったのは、お前だろう?ちゃんと受け取れよ」

「そりゃ、俺の腕じゃ受け取れないな。応援を呼んでくるとしよう」

 小柄な男は、想馬を警戒していた。想馬もそれは感じ取っていた。想馬自身そのまま手を出していたら斬馬刀ごと駿城から突き落とす積もりだったのだから、警戒は当たっていた。

「俺は渡さんぞ」

 二人の遣り取りを無視するように、来栖が吐き捨てる。

「そうかい?すぐに必要なくなるのにな」

 わざとらしく菖蒲達に聞こえるように小柄な男が言った。

「どういう意味だ!?」

 来栖が声を荒げるが、小柄な男は碌に反応せずに想馬の横を通り過ぎようとした次の瞬間、小柄な男の手が素早く動き、背に納められた短刀が抜かれ一切の迷いなく振り抜かれた。

 来栖が菖蒲を庇い、短刀を避けるべく動いた。

 だが、想馬は反応を示さなかった。

 想馬の顔の真横を短刀が走り、刃が駿城の装甲で止まり甲高い音を立てる。

「なんの積もりだ!?」

 来栖が遂に刀の柄に手を掛ける。いつでも抜き打ち出来るような態勢である。

 小柄な男は、それでもなおふざけた態度を崩さず言った。

「落ち着けよ」

 小柄な男は、最早菖蒲達を見ていなかった。ただ想馬を観察していた。想馬は動揺もなく刃を一瞥すらしなかった。刃が自分を試すものであり、背後に這っていた毒虫を狙ったものだと分かっていたからだ。

 小柄な男が面白そうに笑うと、刃を引っ込めた。それと同時に毒虫が落ちた。

「仲良くしようぜ、仲良く」

 小柄な男は、短刀を鞘に納めると平然と来栖の横を通り過ぎた。だが、何を思ったのか突然立ち止まった。

「ああ、そうだ。アンタ名は?」

「人に名を訊く時は自分から名乗れって、教わらなかったか?」

「おっと!これは失敬。俺は瓜生だ。そっちは?」

「想馬」

「覚えとこう」

 小柄な男・瓜生は、今度こそ立ち去って行った。

 

 滅火が戻って来たのは、その直後だった。

 

 

 

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 菖蒲達の背を見送って生駒と美馬は作業を再開する。将軍の息子とは思えないくらいに美馬は整備に慣れていた。最初は、横で補佐しつつ話そうと思っていた生駒だが、すぐに別の場所を点検する方が効率的だと思い直した程だ。

 無言で作業していたが、生駒の方は話を切り出す切っ掛けを探っていた。だが、それは美馬によって解決した。

「生駒君、だったか。先程の答えだが」

 美馬の方から生駒に話し掛けてくれたのである。

 答えてくれる事が分かり、生駒は聞き逃すまいと手を止めずに美馬の声に集中する。

「君は綺麗事が聞きたい訳ではないだろうから、ハッキリと言う。私が無名を心配する時、あの子の腕前を考慮しない事はない。誤解を恐れずに言えば、君の言う通りだな」

 生駒は驚愕のあまり手を止めてしまった程だった。あまりに直截な答えだった。

「無名は!」

 生駒は思わず声を荒げた。想馬から無名の恐怖を聞いていたからだ。弱いと判断される恐怖、捨てられればどうなるかという恐怖、自分の心が無くなってしまう恐怖を無名は抱いて戦っていたのだ。

 それをこの男は理解しているのかと。

 だが、美馬は生駒の怒りを遮った。

「無名は強い。現にあの子は武器を捨てずに戦い続けている。私はあの子の強さを信じている」

「まだ子供ですよ!」

「なんの関係があるのかな?」

「なんですって!?」

「私が戦っているのは、カバネだけではないと思っている」

 生駒は突然の言葉に、美馬が何を言い出すのかと訝し気に思った。

「そういった価値観とも戦っている積もりだ」

「どういう意味ですか?」

「私は初期にカバネが広がった頃に初陣に出た。そこで大敗を喫した。決して前線で戦っていた勇士達の所為ではない。戦わない後ろにいるだけの連中に足を引っ張られたからだ。言われなければ統制も取れない民もそこには含まれる。非常時にどう動くかくらい確認すべきなのにしていない駅のなんと多い事か。君は顕金駅で見た筈だ。我先に逃げ出そうと、人を押し退ける者達を。最悪を想定し、備えるのもまた強さの一つだ」

 生駒は、何も言えなかった。助けを求めて拒絶された生駒には否定する事が出来なかった。それ故に生駒は自ら戦おうとしたのだ。

「考えてもみたまえ、蒸気筒は女子供にだって扱える武器だ。今や武士の中には昔ならば姫と言われた者が武器を取り武士として働いていたりするだろう。菖蒲殿も何かしらの技は持っているのじゃないか?女だとか、子供だとか、戦わない事の理由にはならない。戦わずとも銃後を護る事だって出来る。それをやろうとしないのは私から言わせれば怠慢に過ぎない」

 美馬の声は、熱く根底に怒りを含んでいるようだった。だが、肝心な事がまだ聞けていない。生駒は、取り敢えず美馬に喋らせて置く事にした。口を滑らせてくれれば都合がいい。

「君は弱さとは腕前の事を指していると思っていないか?私が無名を強いと思っているのは腕ではなく、心の方だよ。あの子は確かに子供だ。でも、戦う事を選んだ。だからこそあの子は生き延びた。君もだろう?」

 否定したかった。しかし、咄嗟に言葉が出なかった。無名の弱い部分を聞いたのに、即座に言い返せなかった自分に腹が立った。心を引き合いに出されては、生駒も無名は恐怖を抱えて戦い続ける強さがあると言わざるを得ない。

「まあ、腕を度外視する訳ではないけどね。我々が居る場所は常に危険な戦場だ。腕も立たなければ並び立てない。私と共に戦場に立つ者は例え蒸気鍛冶であっても戦友でなければならない。だから、この駿城に全く戦えない者は乗っていない。何があるか分からないからだ。座して死を待つのではなく、最後の最後まで生きる希望を捨てない。そういう者こそ価値がある。勇士と臆病者、どちらが価値があるか、考えるまでもない」

 美馬には確固たる信念がある。それは認めなければならないだろう。だが、最後の問いの答えによっては生駒は、この男と戦わなければならない。

「カバネと戦う為に必要なのは、逃げ隠れする事ではなく。恐れずに戦う事だ。そこに女子供であるとか老人であるとかは関係ない。この国難は、全ての人間が一丸とならねば乗り越える事は出来ないのだ。違うかな?」

 正論だった。無名の事を知らなければ共感し、この人物の下で戦う事を望んだかもしれない。だが、そうではない。故に生駒は最後の重要な問いをしようと口を開きかけた。

 だが、突然けたたましく警笛が鳴り響き、生駒の問いは発せられる事はなかった。

 

 カバネが攻めて来たのである。

 

 

 

          8

 

 警笛が鳴る少し前、防壁の上を護る武士達は戦慄していた。

 見た事もない数のカバネが倭文に押し寄せていたからだ。慌てて、警笛が鳴らされた。カバネの襲来を告げる方法は実は統一されている訳ではない。駅によって異なるところも当然の如くあったのだ。

 だが、防壁を護る武士達を戦慄させたのは、人の悪意だった。防壁の下には虫の息の馬と血を流した人の死体が転がっていたからだ。こんな事は人にしか出来ない。何者かが馬に死体を括り付け走らせ、カバネを呼び寄せたのだ。

 そして、領主は怒りに身を震わせていた。

「カバネを呼び寄せて倭文を襲わせるなど!!」

 領主の怒りなど、意にも介さず双眼鏡でカバネの集まり具合を確認していた。

「まあ落ち着いて下さい。カバネは狩方衆が片付けてくれますよ。それに乗じて…」

 領主は小源太を睨み付けたまま、己の行いを後悔した。過去の所業だけでなく、こんな男を倭文に入れた事を。

 これだけのカバネを片付けるなど、本当に可能なのか。領主には分からない。だが、もう賽は投げられたのだ。

 

 後は、どのような目が出るかを見届けるしか、領主には出来る事はなかった。

 

 

 

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 警笛を聞き付け外に出た生駒と美馬は、即座に事態を把握した。

「生駒君。君はどうする?」

「戦います」

 生駒は美馬の問いに即答する。

「では戦場で」

 美馬もそれだけ言うと即座にその場から姿を消した。生駒もそれを確認せずに走り出した。

 

 美馬が克城の指揮系統を司る先頭車両へと入って来たのを、無名を含む全員が確認する。

 全員の顔は既に戦人の顔となっているのを確認し、美馬は口を開いた。

「仕掛けてきたな。数は?」

「群れ七つ。薄く展開して倭文を半包囲している形です」

「ここなら融合群体の危険もない。すぐに片付く」

 美馬の問いに、参謀である沙梁が簡潔に状況を報告し、瓜生が不敵な笑みで勝てると断言した。外の武士達が聞けば、正気を疑っただろう。

「舐められたものだな。迫撃砲で足を止め、突撃する。総員、軽具足で出陣」

 美馬は即座に出陣を決意した。これが何かの仕掛けである事は、ここにいる全員が承知していたが、それでもなお瞬時に決断出来る美馬は間違いなく傑物であった。

 そして、美馬が腰の剣を引き抜く。その刀身は、想馬の持つ刀や薙刀同様の物だった。

 美馬が抜いた剣を天高く掲げるように振り上げる。それを合図にしたように、その場に居る隊長格の隊員も剣を抜き同様にした。

「百錬成鋼貫かせたまえ」

 刃が打ち鳴らされる。これが狩方衆の出陣の儀式のようになっていた。

 

 克城が跳ね橋を下ろさせ、勢いよく走り出す。戦場へと。

 

 

 

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 一方、甲鉄城の面々もまた戦闘準備に取り掛かっていた。

 逞生も蒸気筒を手に緊張した面持ちで戦場を見渡していた。

 生駒が貫き筒を手に走るのを見て、逞生が声を掛ける。

「気を付けろよ!」

「応!」

 生駒が力強く応えて、走る速度を上げて去って行く。

 想馬も黒い鎧を身に着け、背に斬馬刀を括り付けて悠然と生駒の背を追う。

(こんな事なら、生駒に無理させてでも斬馬刀に心臓被膜を張らせるんだったぜ)

 心中でボヤキながら、戦場へと向かって行った。

 菖蒲も弓を手にカバネの群れを見つつ、苦い声で言った。

「こうして出るしかないのですね…」

 それに応えた訳ではないだろうが、跳ね橋が突然下りて勢いよく黒い駿城が飛び出して行った。

「美馬の駿城!?」

 克城が出てすぐに跳ね橋は上げられ、退路はなくなる。それだけでも驚愕だが、あろう事か美馬は駿城の先頭に立っていたのだ。指揮官なのだから当然安全な所に居ると思い込んでいた者は、まさに信じられないものを見た思いだった。

 美馬が腰の剣を抜いたと同時に駿城が停止し、側面のハッチが音を立てて開いた。そこにいたのは、見た事のない武装をした狩方衆の姿だった。

「焼夷弾!放て!」

 美馬が剣を振ると同時に命ずると、狩方衆の脇にに置かれた武装から何かが飛び出し、迫り来るカバネに着弾すると爆発炎上した。

 それからは流れるような連携で狩方衆は、砲弾を装填し次々とカバネに砲弾を撃ち込んでいく。その度にカバネが吹き飛び炎上する。

 砲弾の雨が止むと、瓜生率いる突撃部隊が飛び出した。これまた武士達が見た事もない二輪の乗り物・蒸気バイクで飛び出し、撃ち漏らしたカバネの脚を接近しつつ撃ち抜き文字通り足を止めていく。

 美馬も克城から飛び出した馬に飛び乗ると、前線へとバイクの後を追い走り出した。襲い来るカバネを剣で斬り捨てながら、進む姿はまさに英雄といった風格があった。

 更に掃討部隊が蒸気筒を手にまだ動けないカバネの心臓被膜をすぐ傍まで寄って撃ち抜いて止めを刺していく。

 勿論、接近するからには、噛まれる危険は増す。掃討部隊の一人が足を噛まれたにも拘わらず、動揺一つせずにそのカバネに止めを刺すと仲間に頼むとだけ言うと、なんの躊躇もなく自決した。武士でさえ自決するのには相当の覚悟が要るのに躊躇も逡巡もない。自決が即座に実行される。仲間も頷くと振り向きもせずに、別のカバネに止めを刺していく。その姿に倭文の武士のみならず、甲鉄城の面々も驚きを通り越して寒気すら覚えた。覚悟が全く違うのだ。

 カバネの包囲がみるみるうちに破られ突破されていく。その光景を信じられない思いで、倭文の武士達は眺めていた。

「カバネと外で戦う…だと!?」

「強い…」

 倭文の武士達は、呆然とそんな言葉を呟くだけだった。

 それは甲鉄城の面々も同じようなものだったが、二人だけは違った。想馬と生駒である。二人は既に外に出てカバネを片付けて回っていた。

「そうだ。カバネを倒すなら接近しなければ駄目なんだ!」

 カバネを未知の兵器で蹂躙する姿に目がいきがちだが、狩方衆も接近しての心臓被膜の破壊を基本としているのが生駒には分かっていた。

 そして、想馬は別の感想を持っていた。

(チッ!號途の奴。美馬の奴にも武器を提供してやがったのか…。いつから武器商人になりやがった)

 あんな物を造るのは、日ノ本でもあの男しかない。號途自身、想馬が美馬に一方的に複雑な思いを持っている事を知らないのだから、非難は的外れではあると分かっていたが納得出来るものではない。

 不機嫌さを剣に籠めてカバネを引き裂いていく。心臓被膜を張らなくても斬馬刀は切れ味を犠牲にしているだけあって、頑丈だった。カバネを引き裂いても今のところ問題は生じていない。

 しかし、流石の想馬も克城から自分達を観察する者がある事には気付いていなかった。普段の想馬ならば気付いたかもしれないが、今は苛立ちで気が逸れていた。

「野良のカバネリだと?余程頭がおかしいとみえるわ」

 武士とは明らかに雰囲気の異なる男は、楽し気に想馬と生駒を観察していた。その眼は実験動物を見る眼であった。

 もし、生駒が聞いてたら掴み掛ったかもしれない。何故なら、この男こそが人工的に人をカバネリにして実験している正真正銘の狂人なのだから。

 一方、前線では戦況に変化が生じていた。

 三体のカバネが融合しかけた個体が現れたのだ。バイクに跨った狩方衆が果敢に銃撃するが、身体の強度は普通のカバネの比ではなくなっており、まだ十分に接近出来ていない状態では弾が弾かれる始末だった。

 融合カバネは片手に刃毀れした大刀、もう片方の手には、融合していないカバネの脚を掴んで引き摺っていた。融合カバネは、カバネを持った腕を振り上げ、銃撃した狩方衆に投擲する。カバネは冗談のように飛び、バイクに正確に向かってくる。

 狩方衆は、すぐにバイクを捨てて跳ぶと地面を転がる。カバネが命中したバイクが当たった衝撃で横倒しになり滑って、融合カバネに当たり爆発するも相手はビクともせずに悠然と歩いてくる。

 その姿にバイクを破壊された狩方衆は、忌々し気に舌打ちする。

 そこに小さな影が走り込んで来た。無名である。

「兄様!私が!」

 無名が真っ直ぐに融合カバネに走る。

 美馬は、瞬時にあれくらいならば問題ないと判断し応えた。

「頼む!滅火、手を貸してやれ」

 これで必勝とばかりに、美馬は次のカバネの元へ向かう。

 滅火の方は、すぐに無名に追い付き並走する。無名とは視線を交わす事もない。お互いにやるべき事は分かっている。今更確認する事などない。

 滅火が頸の金具を解除し面頬を装着する。滅火の眼が一瞬紅く光った。首輪のようになっている物は無名の物と同じ制御装置の役割を果たしていたのだ。つまりは、彼女もまたカバネリであった。

「カバネリがもう一人!?」

 逞生がそれを悟り、驚きの声を上げる。無名が居るのだから居ても可笑しくはないが、当たり前のように戦力に組み込んでいる狩方衆に改めて驚かされる。

 滅火は無名を隠すように前に出ると手に持っていた銃を投擲する。だが、融合カバネもそんな攻撃に当たる訳もなく大刀で弾き、接近してきた滅火に振り下ろす。滅火もそんな攻撃を掠らせる事もないばかりか、融合カバネに背を向けて手を組み足場をになった。無名もなんの躊躇もなく滅火の作った足場を蹴って跳び上がると、弾かれた銃を掴み取ると頭部と一体化しつつあるカバネの額を正確に撃ち抜いた。滅火も無名も最初から弾かれる事を織り込み済みで動いていたのだ。撃ち抜かれたカバネが引き剥がされ吹き飛ぶと同時に、大刀を滅火に再び振り下ろしたが背を向けたまま回避された。滅火は腰の剣を引き抜くと心臓被膜を刺し貫いた。無名も吹き飛んだカバネの心臓被膜を、落下の力を利用した一撃で貫き止めを刺した。

「おいおい、これが狩方衆かよ…」

 巣刈も流石に軽口を言う余裕もなく呆然と戦闘を見ているだけになっていた。

 あれだけの数のカバネが、甲鉄城の面々だけでなく倭文の武士すら殆ど何もしないまま事態が収束しようとしていた。

 だが、驚きもなく事態を見守っていた者がいた。小源太達である。

「始まるようです」

 双眼鏡を領主に渡して不敵に小源太は笑った。

 領主は、ひったくるように双眼鏡を受け取り戦場を観察した。

 覗き込んだ先には美馬が居り、背後から榎久が接近していた。 

 

 これで過去に決着が着くのか、領主には未だ確信がなかった。

 

 

 

          11

 

 カバネが粗方掃討された戦場で美馬は、背後に人の気配を薄っすらと感じていたが、振り向かなかった。知り人だったからだ。

「榎久か」

 榎久は仕込み杖を抜き構えつつ、口を開いた。

「貴方は御存知あるまい。数多の敵に命を狙われている事を。私はそうした者達に差し向けられました。貴方を隙を見て刺せと」

「老いとは恐ろしいものだな…」

「なんと?」

 榎久は美馬の言葉に思わず聞き返してしまった。榎久は、この機に狩方衆へと復帰出来るように美馬と交渉する積りだった。だから、美馬がどんな言葉を口にするかを想定し考えていた。そのどれとも違う言葉だった故に、思わず間の抜けた事を言ってしまった。

「隙を見て刺せと言われたのだろう?そして、お前はそれを呑んだ。嘗てのお前ならば、敵に話す余裕など与えなかっただろうに。今頃、私の首は地面に転がっていた筈だ」

「そ、それこそが私が裏切っていない証です。若様、今一度私に戦働きを!」

「不要だ」

 全くの取り付く島もない声音に榎久は怒りに震えた。

「それが!貴方の答えか!」

 怒りに任せて仕込み杖を馬上の美馬に振るったが、美馬の姿は既に馬上から消えていた。虚しく刃が空を切る。馬が怯える事なく走り去り、馬がいた場所からまるで美馬が湧き出したように榎久へと迫った。榎久は馬上の相手を斬り付けんと跳び上がっており、一撃を外した事で態勢がまだ整っていない為に、美馬に全く反応出来なかった。容赦のない蹴りが榎久の腹に突き刺さる。胃液を撒き散らしながら榎久が吹き飛んだ。美馬は素早く刃を榎久の頸に突き付けた。榎久は身動き出来ずに固まった。

「裏切っていないだと?よく言う。お前は俺を売ると決めていた筈だ。だからこそ刃を抜いた。一度裏切った者は何度でも裏切る。お前の教えだ」

 幼い美馬は、剣鬼・榎久から数多くの事を学んだ。あの大敗した戦の後は特に。それが今の美馬を形作った。だから、本人がそれを忘れようとも美馬は忘れないし、破りはしない。

「た、助けてくれ!」

 榎久から飛び出したのは、無様な命乞いだった。だから、榎久は気付かなかった。美馬が失望した顔をしていた事に。

「止めろ!」

 誰かが叫ぶ声がしたが、美馬に躊躇はなかった。迷わず喉を貫いた。せめてこれ以上無様を晒さないように。これが美馬なりの最後の情けだった。

 美馬は、領主がいる方を睨み付けた。

 これから後片付けをしなければならない。

 

 美馬は、昏い眼で倭文を睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 




 キリのいいところまで書けたと思います。これから佳境に入っていきます。
 難しいですね。今回も難しかった。
 美馬の考えは、殆どは妄想です。アニメでは、殆ど語っていないので勝手に書きました。気に入らなければ御免なさい。

 次回はいつになるか分かりませんが、頑張って書きますのでお付き合い頂ければ幸いです。それでは。


 
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