甲鉄城のカバネリ 鬼   作:孤独ボッチ

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 凄まじいまでの時間が経過しましたが、まだ
 折れていません。

 それではお願いします。


第三話

           1

 

 三人は再会を果たした。

 だが、ただ一人想馬だけは怪訝な顔になった。

 それはそうだ。想馬は一番最後に生駒に会った時とイメージが違っていたからだ。

 そして、無名は首を傾げる。

「あれ?でも、なんか雰囲気が違ってない?」

 無名が小動物の如く、顔を近付けてジロジロ見ると、突然に目を見開いて驚き、

生駒の臭いを嗅ぎ出した。

 流石にその行動には、想馬は引いた。思わず無名から距離を取る。

 それを見て無名がムッとした後に、自分の行為がどう見えるか察したのか、顔を

真っ赤にした。

「違うわよ!これには理由があるの!!」

 遣られた方は、置いてきぼりを食った形で、どう反応していいか微妙な顔付だった。

 残りの一人、小太りの青年も呆れ顔である。

 無名にしてみれば、臭いフェチのような扱いをされては堪らないので、必死なのだが

逆効果になっている。

 平手と脚で想馬を軽くではあっても殴る蹴るし始めた無名に、流石に想馬も揶揄い

過ぎたかと反省した。というか、させられた。

「分かった…。それで?どういう習性だったんだ」

「……」

 無名が無言で想馬の脛を蹴り付けた。

 動物扱いはお気に召さないらしい。当然ではあるが。

 痛みに顔を顰めた想馬と不機嫌な顔の無名が、無言で睨み合う。

「そこのお前等!検閲だ!噛み痕が無いか調べる!」

 四人が奇しくも同時に声の方を見る。

 そこにいたのは菖蒲の傍に張り付いていた来栖という若侍だった。

 流石に一触即発な空気くらいでは、来栖は眉一つ動かさなかった。

 来栖の視線は、二人の中で一番怪しい人物に向けられていた。

 生駒である。

 何しろ生駒の格好は、赤マント擬きのボロ布を羽織っただけの上半身半裸状態だった

のだから仕方がないだろう。

 視線の意味は生駒自身が一番分かっていた。

 怪しさに関してではない。相手が自分に好意的ではない事に関してだ。

 生駒は格好に気を遣ったりしない蒸気鍛冶である。

「そこのお前からだ。そのボロ布を取れ」

 馬上で蒸気筒を構えたまま、来栖は命じる。

 生駒は舌打ち一つして、ボロ布に手を掛けるが、連れの男が慌てて止める。

「どうした。見せられないのか?」

 来栖は今にも蒸気筒の引き金を引きそうな勢いだ。

 すぐにでも殺し合いが始まりそうな殺伐とした空気の中で、無名の声が割って入る。

「そいつはカバネじゃないよ」

「何故、そんな事が分かる!?」

「そりゃ、分かるよ。アンタ達よりカバネとの戦闘経験があるし、よく知ってるから。

カバネはね、潜伏期だろうがなんだろうが、()()()()()

「っ!!」

 来栖はあまりの言い分に激昂しそうになったが、辛うじて抑えた。

 これではまるで武士達が敵に関して無知で、戦ってもいないような言い草である。

 だが、一方で想馬や無名の二人が出した戦果を越えた事等ない事も、来栖は自覚して

いた。そして、自分達はカバネの臭い等、気にした事はなかった。

 来栖にも武士としての意地はある。だが、アレだけの戦果を目にして何か言える程、

恥知らずでもなかった。だからこそ、追及を緩めてしまった。

 言った当人の無名は、だから違うって言ったでしょ?と言わんばかりに想馬を見て

いた。

 だが、想馬の方もカバネとの接近戦は嫌という程やっている。

 臭いという理由は分からないでもなかったが、納得するする事が出来ずにジッと無名

を見詰めていた。

 

 結果的に生駒は、ここで撃たれるのは避けられたのである。

 

 

           2

 

 生駒の連れであり、親友である逞生はといえば、生駒への追及が有耶無耶になって

ホッとしていた。

 今の生駒の身体は、ハッキリ言って身体を見られれば問答無用で殺されていただろう。

 その生駒は貫き筒を使用する為に、後部車両にいた方がいいとそっちに向かっていた。

 逞生は、つい先程の出来事ではあるが、生駒の背を見詰めながら親友を見付けた時の

事を思い出していた。

 

 あのカバネの疑いを掛けられた男を庇った事で、生駒は見事親方から暫くの間、仕事

に来なくていいと言い渡されていた。

 クビにならなかっただけマシだろう。

(あの馬鹿!もう少し考えて動けってんだよ!)

 生駒は頭はいいのに、世渡りが致命的に下手くそだった。

 逞生にとっては、そういうところが好ましくもあるし、苛立たしくもあった。

 夜になり仕事が一段落して、思わず愚痴を言ってしまう。

 周りには、自分の愚痴にイチイチ悪意を持って反応する輩が居なかったからだ。

「馬鹿なんだよ!生駒は!すぐに熱くなって後先考えずに突っ走りやがってよ!」

 周りは比較的生駒に理解のある面々だった為に、逞生の愚痴に毎度の事とばかりに

苦笑いして聞いている。

「でも、私には無理だな。武士の人に何か言うのなんて」

 薬缶を持って、お湯をみんなに注いで回っている少女が感心したように言う。

 逞生の数少ない女友達である鰍である。

 その言葉に逞生の顔が苛立ちに歪む。

「それが普通なんだよ!なんでもかんでも正論吐けばいいってもんでもないだろうが!」

 鰍が荒ぶる逞生を宥めるように、逞生の茶碗にお湯を注ぐ。

 逞生が生駒の事を心配して言っているのが分かっているので、鰍としては微笑ましい。

 これからの生駒の懐を思えば笑えないが。

 逞生が慌ててお湯を注ぐのを辞めさせる。

 愚痴に夢中で危うく溢れさせるところだったからだ。

 

 そこからすぐに異変は起きた。

 突如鈴鳴りの鐘がなったのだ。

 鈴鳴りの鐘は、駅の住人が一番聞きたくない鐘の音であり、恐怖の対象だ。

 それはカバネの侵入を告げる鐘だからだ。

 蒸気鍛冶達に緊張が走る。というよりまだ実感が湧かずに恐慌状態になっていないだけ

なのだが、それでもまだ冷静さを残しているだけ、一般居住区よりマシと言えた。

「どうなっちゃうのかな…」

 鰍の不安そうな声に、逞生はハッとある事に気付く。

「生駒の奴は!?」

 逞生の大声に鰍が驚き、薬缶を取り落とす。

「大丈夫じゃない?生駒君、家に居るんでしょ?きっと避難しているんじゃない?」

「アイツがそんな奴なら、今も一緒に居るに決まってるだろ!?」

「ああ…」

 鰍は不安も忘れて、そんな微妙な感想を思わず漏らしてしまった。

 逞生には目に見えるようだ。

 生駒が貫き筒を持って、カバネに突撃していく姿が。

「クッソ!」

 逞生は悪態をつくと、カバネが現れた時の装備(足軽と同じ装備だが)を急いで装着

すると、鰍の制止も振り切り走り出す。

 武器は箒。何故かといえば、不浄を清める意味がある。

 だが、逞生には分かっていた。こんなもの意味はないと。

 それでも持って行ったのは、逞生が自身に大丈夫だと暗示をかける為だ。

 そこまでして行くのは、なんだかんだ言って、逞生もお人好しなのだ。

 馬鹿な親友を見捨てられない程度には。

 

 一方、その馬鹿はと言えば、想馬の言葉のお陰で貫き筒を抱えて迷っていた。

 皮肉な事に実戦で使える程、威力が上がらなかった訳は、昼間の間に分かった。

 あのまま親方から暫く来るなと言われ、帰る途中で改良して出来た空間の分、炸薬を

増やしていないと思い出したのだ。つまり、想馬と会うまでに貫き筒は完成していたの

である。

 自信作を否定され、しかもそれが説得力のある言葉であった為、いつもの積極性が

鈍っていたのである。

 いくら生駒が無謀であろうと、勝算のない状態で突撃する程、愚かではなかった。

 だが、外から悲鳴が上がる。

 生駒の家にまで肉を食い破る嫌な音が聞こえた。

(すぐ近くに来ている!!どうする!?このまま何もせずに、逃げるのか!?また!!)

 強く握り締めた拳が掌の石の存在を思い出させる。

 それは生駒が見捨てた妹の形見だった。

 あの日を忘れない為に、常に掌に付けていたものだ。

(そうだ!!俺の命はカバネを狩る為にある!!貫き筒は使えるんだ!!走り出さな

きゃ、俺でも殺せる筈だ!!)

 戸の隙間から外を伺う。

 カバネが一匹、口を血で濡らして彷徨っている。

 生駒に気付くのも時間の問題だろう。

(なら、誘い込むだけだ。ここなら狭いし、問題ない)

 戸を少し開き、腕を持っていた刃物で少し斬る。

 血が流れ、床に血が滴る。

 これだけ近ければ、これくらいの量でもカバネは血の匂いを嗅ぎ付けるのだ。

 カバネが生駒が観察しているのにも気付かずに、立ち止まると生駒の家の方へゆっくり

と向かって来る。

(よし!)

 生駒は蒸気の圧力を上げて、貫き筒を構える。

 カバネが戸を開けた瞬間こそが勝負だ。

 不意討ちで至近距離からカバネの心臓被膜を破壊するのだ。

 生駒の全身から汗が噴き出す。

 時間がやけに遅く感じられる。

(早く来い!俺がお前等を殺してやるぞ!!)

 集中している事によって時間の流れが遅く感じているのかと思っていた生駒だが、

いくらなんでも遅いような気がしてきた。

 生駒の頭の中で疑念が浮かぶ。

(おびき寄せるのに失敗したのか?)

 思わず、生駒は少し貫き筒の筒先を下ろしてしまった。

 その時である。

 天井が派手に破られた。

「っ!?」

 辛うじてカバネの持っている鉈を躱せたのは、幸運以外の何物でもない。

 体勢を崩さなかったのは僥倖。

 カバネの膂力で振り回される鉈を辛うじて躱す。

(あの浪人…想馬の攻撃に比べれば大した事ないぜ!!)

 そして、更なる幸運が生駒に味方したのだ。

 予め鋭い攻撃がどういうものか知れたお陰で、カバネの攻撃が雑で遅く感じたので

ある。

 だが、回避を続けるうちに生駒の背が家の壁に付いた。

 生駒の顔に焦りが浮かぶ。

 壁まで追いやった事でカバネは、生駒に鉈を大振りした。

 鉈は生駒ではなく、壁を大きく突き破った。

 生駒は不注意で壁に背を付けた訳ではなかったのだ。

 鉈が壁を破ると同時に、生駒は左手でカバネの顔を背けさせて、片手で貫き筒を胸に

押し付ける。

 だが、そこから後、一歩のところで生駒は計算違いをやった。

 それはカバネの力が常人を大きく上回る事を失念していたのである。

 なまじ攻撃を躱せてしまったが故に。

 左手はアッサリとカバネに押し返され、生駒の首筋にカバネの牙が迫る。

 だが生駒は押し返された左腕を盾に、貫き筒の引き金を引いた。

 青白い燐光が光り、血が反対側の壁に肉片と共に叩き付けられる。

 カバネは仰向けに倒れ、生駒はズルズルと壁に背を預けたまま座り込んだ。

 生駒は呆然とカバネを見詰める。

 だが、すぐに感情がカバネを倒した事実を理解し、生駒の口から咆哮が上がる。

「やったぞ!!やってやった!!俺が倒した!!俺の貫き筒が!!」

 だが、狂喜は長くは続かなかった。

 アドレナリンが出ていて、気付かなかった痛みが戻ってきたのだ。

 生駒は左腕を見ると、今度は恐怖で染まった。

 盾に使った左腕に大きな噛み痕が残され、腕がカバネのウイルスに侵されていたのだ。

 思わず口から悲鳴が漏れる。

 生駒の非凡なところは、まさにこの時に発揮された。

 恐怖に支配されずに、自身が助かる方法をすぐに実践しようとしたのである。

 親友である逞生と共に調べ上げた方法を。

 成功するかは確信がない。だが、迷っていれば生駒自身がカバネとなってしまう。

 生駒はすぐに焼けた鉄で傷口を焼き潰し、これ以上ウイルスが広がらないように、左の

肩を柔らかい金属で締め上げ、打ち機で固定する。

(こんなところで終われるか!!)

 自身の首に革のベルトを巻いてセットし、両足を固定すると機会の起動させた。

 凄い勢いでベルトが巻き上がり、生駒の首を締め上げる。

 下手をすれば首の骨が折れるのではとすら思うが、生駒にそれを気に掛けている余裕は

ない。生駒は縋るように妹の形見を見る。

 妹に背を向け逃げていく自身の姿が、生駒には見えた。

 走馬灯。

(俺は…あの頃の俺じゃないんだ!!俺は、もう、逃げない!!)

 朦朧とした意識が強靭な意思によって繋ぎ止めれる。

 首から上を目指そうとしていたウイルスは、時間切れとばかりに首から下に撤退すると

同時に、君の悪い色に変わっていた肌の色も若干不健康な色合いだが、正常に戻った。

 それを確認し、生駒は機械の停止させた。

 ベルトが緩み、生駒の身体は床に投げ出される。

 痛みを感じるより、空気を吸い込む事の方が重要だ。

 激しく咳き込みながら、必死に空気を肺に送り込む。

 ようやく落ち着いた頃、慌てて自身の身体を確認する。

 身体の怪我すら、嘘のように消えてなくなっている。

 だが、明らかにカバネではない。カバネ特有の死体そのものといった肌や、牙や

ぼんやりと光る眼もない。心臓被膜の不気味な脈動と共に光る心臓も現れていなかった。

「カバネにならなかったーーーーー!!!」

 生駒は歓喜のあまり大きな声で叫んだ。

 自分は成し遂げたのだと、生駒は思った。

 

「生駒!!無事か!?」

 自分の成果を噛み締めていると、そんな声と共に逞生が生駒の家に突入して来た。

 そしてまず床に転がるカバネを見て、大きく後退る。

「逞生!やったぞ!!」

「うおっ!?」

 カバネに目がいっていた逞生の視界に、生駒が突然入り込んだ為、逞生は思わず奇声を

上げてしまった。

「な、何!?」

「だから、やったんだよ!貫き筒が完成したんだよ!!カバネの心臓被膜を突き破ったぞ!!」

「じゃ、じゃあ、このカバネは…」

「そうだ!!俺が倒した!!」

 ジワリジワリと生駒の言葉が逞生の頭に浸透していく。

「「うぉおおおおおおお!!」」

 逞生にしても共にカバネの研究をして、武器の開発にも尽力してきた。

 それだけに、この危機的状況での成功に二人は沸いた。

「じゃあ、お前は無事に…」

「いや、噛まれた」

「は?」

「噛まれた」

 逞生の脳が今の言葉の理解を拒絶している。

 だが生駒は、逞生の様子に気付いた様子もない。

「心配ない。ウイルスは脳に入れなかったからさ。それも俺達が調べた通りだったんだよ!!

 これからは噛まれた人だって救える!!やったんだよ!!俺達は!!」

 歓喜に沸いている生駒には、気付けなかった。

 逞生が信じ難いといった表情で、恐れを抱いているのを。

 しかし、生駒にそれに気付けと言うには酷かもしれない。

 逞生は、すぐに別の問題に強引に頭を切り替えてしまったのだから。

(そうだ。生駒は正気っぽいし、カバネっぽくないし、様子見でいいだろ。それより早く

合流しないと置いてかれちまう)

 カバネが襲ってきているのに、他人を待つ奴はいない。

 どんな地位に居る人間だろうが、平然と置いて行かれたのである。

 逞生は現実からめを逸らしたが、別の現実を見詰めたのだ。

 

 そして、今に至るのである。

 逞生は生駒の背を見ながら、一番の懸念である駿城に置いて行かれる危険性が消えた

事で、目を逸らした別の懸念を感じ出していた。

(こいつは…本当に俺の知っている生駒なのか?)

 

 

           3

 

 想馬と無名も漸く駿城に乗り込む事が出来た。

 駿城を護る為の態勢が整ったのだ。

 無名は夜の子供のように眠そうにしている。

 それを想馬が何気なく観察していた。

 普段の無名なら、その視線に気付いただろうが、無名は全身が気怠く集中力を欠いて

いた。

 程なくして、駿城が動き出した。

 想馬達は先頭車両へと向かって歩いていた。

 速度は一向に上がる気配はない。

 いきなり凄いスピードで走り出したりしないと分かっていても、もっとスピードが

出ないのかと言いたくなる。 

 先頭車両に着くと、赤い鎧を着込んだ巨漢に出くわした。

 来栖と一緒に居た武士だ。

「ちゃんと動いたみたいだね」

 無名が眠そうな声で巨漢に声を掛ける。

「ああ。まだ危機は脱していないがな」

 この武士は、どうやら想馬や無名になんら含むところがないようで、声に負の感情は

見当たらない。

「脱してないなら、無理矢理突き抜けるまでさ」

 想馬は、そう言って不敵に笑って見せた。

「それは頼もしいな」

 普通は嫌味に聞こえる言葉も彼が言うと、本当にそう思っているように聞こえて、

想馬は少し笑ってしまった。

「まあ、お前達が本当に強いのは分かっている。頼らせて貰うさ」

 想馬は笑って頷いた。

(武士の中にも偶にこういう奴がいるんだよな。こういう奴ばかりなら、もっといいん

だがな)

 想馬は、既に舟を漕ぎそうになっている無名の背を押して、歩かせながらそう思った。

 運転席まで進むと、菖蒲がいた。

「お二人共、助かりました」

「アンタも、よくあそこから統制して避難させたな」

「もう、やるしかなかったので…」

 菖蒲が苦い顔で無理矢理笑みを浮かべた。

 おまけに顔が引き攣っている。

 だが、ここに非情な鬼が存在した。

「でも、戦は下手だね。もっと頑張らないと死んじゃうよ?」

 無名である。

「そんな…」

 無理矢理にでも、気を張って自分を保っていた菖蒲が、一気に沈んでしまう。

(容赦ねぇな、こいつ)

 想馬は、叩くだけでなく時に褒めてやらなければ、人は伸びないと実感として知って

いる為、無名の言葉に溜息を吐いた。

 その言葉は無名の今までの修練から出た言葉だと分かってはいても、人付き合いの

下手さに呆れてしまった。

 取り敢えずこれ以上、空気が悪くならないうちに想馬は無名の背を押した。

 無名は眠そうにトロンとした眼ではあったが、想馬を睨み付けた。

 だが、抵抗したり手や足を出す余裕はないらしく、なすがままだった。

 造りの頑丈な個所を見付けて、無名を座らせた。

「お前、取り敢えず休んどけ」

「うん…」

 反発する事なく無名は素直に頷いた。

 想馬としては、約束は護って貰ったので、このくらいの気遣いはしてもよかった。

 無名は座り込むと羽織っていた時羽織の中に頭を突っ込んで、すぐに寝息を立て

始めた。

 本人の申告通り、長時間戦う事が出来ないようだ。

 あれだけ非常識な力が、そう都合よく使いたい放題とはいかないだろう。

(確かに、あれくらい戦ったくらいで、これじゃ護る奴がいる訳だな。それに装備も

戦い方も普通じゃない。おそらくこいつが所属しているのは…)

 想馬は頭の中でそんな事を考えていた。

 だが、その考え事は中断される事になる。

「おい、お前達。想馬と無名といったな。警護が足りない。お前達は後部車両の警護に

回って貰う」

 あからさまな命令口調で来栖が言ってきたからだ。

「こいつはもう戦えない。見れば分かるだろ。そして、俺はこいつに雇われてる。ここ

までやったんだ。後はそっちで頑張ってくれや」

 あの赤鎧の武士の後とあって、かなり苛立った想馬はぞんざいに言い放った。

「何!?」

「来栖。ここまで戦い抜いた方々です。お疲れでしょう。確かに今度は私達でどうにか

しなければならないでしょう」

 激高しかけた来栖を沈んでいた菖蒲が止める。

 来栖にしても、成果を口にされると反論は難しかった。

「居眠りとは、いい気なものだな!」

 捨て台詞を吐いて来栖は背を向ける。

 想馬は一瞬、身の程を教えてやろうと思ったが、それは中断される事となった。

 駿城に衝撃が立て続けに襲ったのだ。

 よろけた菖蒲を来栖が咄嗟に支える。

「な、何!?」

 菖蒲が狼狽えた声を思わず出してしまった。

「不味いな。前にもあった事だが、おそらくはカバネが身を捨てて体当たりしてるんだ」

「ええ!?」

 菖蒲が驚愕の声を上げる。

 来栖も目を見開いて驚いていた。

 想馬はカバネと肉薄して戦うが故に、カバネの攻撃を嫌という程知っていた。

「早く止めないと、駿城といえども破られるぞ。…仕方ねぇ。俺も出る。誰か、こいつの

傍に付いててやってくれ」

 想馬は、そう言い捨てて薙刀を掴んで走り出した。

 風のように走り去る想馬の背を、菖蒲達は真っ青な顔で見送るしかなかった。

 

 夜明けはまだ遠い。

 

 

           4

 

 迷いなく後部車両に向かって駿城の中を進んでいく生駒の背を追っていた逞生だが、

奇しくも目を逸らした問題に目を向けた時に、それは起きた。

 駿城が衝突音と共に揺れ出したのだ。その拍子にパイプの一つが破損し外れ、漏れた

蒸気で勢いよく人に向かって倒れ込んだ。

 そこにいたのは、逞生の女友達である鰍だった。

 逞生にとってはあってはならない偶然に、顔が真っ青になる。

 鰍は子供達を庇っていた。逞生の位置からは助けられない。逞生は惨事を覚悟した。

 だが、それは生駒によってアッサリとパイプは止められたのだ。

「カバネか。厄介な事するな」

 生駒は、それだけ言うとパイプを元に戻した。

 生駒があまりにもアッサリと戻したものだから、逞生は人が犇めいた通路を通る時に

手を付いてしまった。

 あまりの熱さに逞生は情けない声を上げて、手を放す。

 とても熱くて持てるものではない。()()()()

 逞生は呆然と生駒の背を見た。

 それに更なる疑問が頭を過ぎる。

(なんでカバネがやってるって分かったんだ?)

 確かに外はカバネが犇めいている。予想は簡単だろう。

 だが、あまりに断定した口調ではなかったか。

 先程まで考えてしまった疑念が、ハッキリと逞生の中で成長していた。

 だが、逞生の口から決定的な言葉が出る事はなかった。

 駿城が衝撃で揺れると共に、扉が歪んで隙間からカバネが入ってこようとしていた

のだ。

 人々から悲鳴が上がる。

 逞生も、疑念どころではなくなってしまった。

 生駒が雄叫びを上げて突っ込んでいく。

 その姿は、不謹慎なくらいに嬉々として見えた。

 カバネが丁度扉をこじ開けたところで、生駒がガラ空きになった胸に貫き筒を押し込む

と、引き金を引いた。

 燐光と共に血飛沫が飛び散る。

 扉がその拍子にかなり開いてしまったが、生駒は嬉々として振り返った。

「見たか!これさえあれば、人はカバネと戦える!!」

 振り返った生駒が見たものは、生駒の想像とは掛け離れたものだった。

 そこには生駒が期待した希望ではなく、恐怖が刻まれていたからだ。

 逞生が震える指で生駒の胸を指す。

「生駒…お前、やっぱり…」

 逞生の顔には恐怖だけではなく悲しみも混じっていた。

 生駒は訳が分からず、逞生が指差した自分の胸を見た。

 マントのようなボロ布が開けて胸が露出していた。

 問題は、そこにはカバネの証たる心臓被膜が輝いていた事だった。

「え?な、なんで!?…いや、ち、違うんだ、これは…」

 生駒は自分でも支離滅裂だと分かってはいたが、止める事は出来なかった。

 突然、前方の車両の扉が開く。

 出て来たは、薙刀を持った想馬だった。

「おい!武士!そ、そいつはカバネだ!!」

 車両に居た誰かが叫ぶ。

 想馬は眉を顰めて生駒を見た。

「ち、違う!俺は大丈夫なんだ!」

 想馬の眼にも、生駒の心臓被膜の輝きが想馬にも視認出来てしまった。

 想馬の顔が苦虫を嚙み潰したように歪む。

「生駒、お前…」

 確かに生駒は正気を保っているようではある。

 無名と会う前の想馬であったなら、問答無用で殺しただろうが、想馬は躊躇した。

 無名のカバネではないという断言があったからだ。

 彼女の身元を推測していた想馬は、根拠のない戯言とは思えなかったのである。

 だが、背後から近付いて来た侍が先に動いてしまった。

 想馬を押し退けて蒸気筒を構えたのだ。

「貴様。やはり人ではなかったか」

 生駒が声を上げるより先に、来栖は引き金に指を掛けた。

「待て!」

 想馬は咄嗟に声を上げたが、来栖は問答無用に引き金を引いてしまった。

 弾丸は生駒の心臓に命中し、生駒は自ら開けた扉から外に弾き出されてしまった。

「ふん!呆れたものだな。カバネ相手に躊躇するとは」

 来栖は想馬を冷ややかに見て、吐き捨てて去って行った。

 想馬は鼻を鳴らして歩き始めた。チラリと生駒の消えた扉を見やって。

「生駒…」

 逞生は下を向いたまま、拳を握り締めていた。

 

 鰍は、そんな逞生に掛ける言葉が見付からなかった。

 

 

           5

 

 想馬が一仕事終えた後、武士はかなり減っていた。

(まあ、全員が乗れる訳でもないしな。それにあんな豆鉄砲に頼ってたんじゃ、

死ぬのも仕方ないだろう)

 想馬は特に死んだ武士に同情はしない。

 もっと戦い方があった筈なのに、恐れに駆られて蒸気筒を撃つだけしかしない

なら、同情の余地はない。

 一般居住区の住人ならばいい。だが、武士ならば勝つ為に全力を尽くす必要がある。

 

 例によって血塗れで戻ると、住人達が恐怖の眼で想馬を見たが、想馬の方は慣れた

もので、無視して運転席のある先頭車両に戻った。

 戻った事を伝えようとしたまさにその時、またしても緊迫した声が耳朶を打つ。

「前方にカバネです!!」

 急いで先に戻っていた来栖が物見用のハッチを開けて、外を確認する。

 菖蒲も気になったのか、後に続いて登って行った。

 想馬は慣れていても感情は別物で、次から次へと湧いて出るカバネにウンザリとした。

 無名を確認すると、相変わらずの姿勢で眠っていた。

 菖蒲は約束を守ったようで、無名の傍には菖蒲の傍に付いていた女官が一人いた。

(こいつは暫く期待出来ないな)

 想馬は無名を見て、そう判断を下した。

 便宜上、雇われたとしたからには、想馬は無名を護る義務がある。

「お父様!!」

 想馬の上から菖蒲の悲痛な叫びが聞こえた。

「違います!あれは、カバネです!」

 暫し、二人共無言だった。

 想馬は再度、外に出て戦う覚悟をした。

 前方にまでカバネに回り込まれている以上、かなりのカバネが血に惹かれて集まって

いる。簡単に駅脱出とはいかない事は、容易に想像出来た。

 その時、菖蒲が何か言ったようだった。耳を澄ませてみる。

「…そ…どを…あげ…な…」

 菖蒲の声がボソボソと聞こえる。

「菖蒲様!?」

 来栖の驚いた声が降って来る。

 

「速度を上げなさい!!」

 

 今度はハッキリと菖蒲は命じた。

 菖蒲の性格を知る面々は驚愕の顔で、菖蒲を見た。

 だが、只一人不謹慎にも笑うものがいた。想馬である。

 降りて来た菖蒲は、涙を流していた。それでも毅然とした態度を保っていた。

 この姫は無理をしている。そう、分かったからこそ皆は指示に従った。

 姫の勇気と決意を台無しにしない為にも。

(涙は減点だが、上出来だ。姫様)

 只一人、想馬だけは菖蒲の成長を喜んだ。

 あそこで来栖が代わりに声を上げていたら、弱々しいだけの姫の印象が定着して

しまう。

 ここは、毅然と命令を下すべき場面なのである。菖蒲はそれをやった。

 姫の成長はこの先、危険な局面を減らす事にも繋がる。

 この甲鉄城にとって有益な事だったのである。

 

 だが、すんなりと脱出とはいかないもので、外の防壁の跳ね橋を下ろす段階で問題が

発生した。

 本来なら駿城からの連結棒を接続する事によって、防壁を開ける事が可能なのだが、

何かの故障か作動しなかったのだ。

「こうなったら、外部のレバーで手動で下ろすしかないですね」

 運転席に座る見習いの少女が、冷静にとんでもない事を要求してくる。

 つまり、それはカバネで溢れ返っている外へ出て行く事を意味している。

 行ったら戻って来る事は出来ない。人としては。

 来栖は無言で踵を返した。

 赤鎧の巨漢が慌てて来栖の肩を掴んで止める。

「来栖!どこへ行く!」

「決まっている。跳ね橋を上げる」

「死ぬぞ!!」

「俺達は侍だ!!命を捨てるべき時に捨てねばならないだろう!!」

 赤鎧の巨漢は言葉を詰まらせる。正論だったからだ。

「吉備土、後を頼む」

 赤鎧の巨漢・吉備土がそれでも何か言おうとした時、動いた者がいた。

「見ろ!!カバネが!?」

 全員が狭く小さい窓や、物見用のハッチの中に開けられた小さい隙間などから外

を見る。

 そこには幾度もカバネに噛み付かれながらも、全身を続ける生駒の姿があった。

 これには見た全員が呆気にとられた。

 一部の人間を除いては。

「生駒…」

 その姿は逞生の眼にもハッキリと映った。

 

 生駒は落ちた後、動く気力がなかった。

 自分は失敗したのだという失意から、生駒は身動きが取れなくなっていた。

 絶望が体を蝕んでいた。

 正気を失い、人に襲い掛かるかもしれないという恐怖も上乗せされている。

 だが、カバネの接近を感じて跳ね起きた。

 先程まで動けないと思っていたのにだ。

 生駒の口から忍び笑いが漏れる。

(俺はまだ死にたくないと思っているのか!未練たらしく!なんて人間なんだ、俺は!

 いいだろうさ。成果の一つも出してやる!見てろ!俺の姿を!そして、誰でもいい!

 俺に続いてくれ!)

 生駒は、襲い来るカバネを噛まれながらも撃退していく。

 噛まれても平気である生駒ならではの戦法。

 それはカバネの攻撃に構わない事だ。

 防御しようと思うから体勢が崩れる。だからこそ、防御を捨てたのだ。

 そして、生駒に最後といえる機会が訪れた。

 駿城が止まっていたのである。

 蒸気鍛冶である生駒には原因が容易に推測出来た。

(跳ね橋を下ろさずに停車している?そうか、大方何かが挟まったか壊れたで、連結棒

が使えなくなってるな。助けてやるよ!俺がな)

 生駒は当然外部から操作するレバーの事も知っていた。

 レバーのところまで生駒は迷わずに進んでいく。

(よく見てろ!俺が、俺がお前等を救ってやる。お前等が足掻くのを地獄から嗤って

見ていてやる!そらみた事かってな!!)

 あともう一歩というところで生駒はレバーに近付けずにいた。

 カバネがそれをやられると餌が取り上げられると分かっているように、生駒を邪魔して

いるのだ。

 

 駿城の内部でも黙って見ているだけではなかった。

 生駒の援護をすべく動いた男が居た。

 想馬である。

「俺は行くぞ。邪魔だから供は要らない」

 来栖が鼻で嗤う。

「カバネの共食いを、わざわざ見物に行くというのか」

 次の瞬間、来栖の胸倉を想馬が掴んでいた。

「確かに、あいつは噛まれたんだろうさ。だが、今は確実に人間だ。見捨てた俺達を

助ける為に傷付きながら進んでる。それを見て、お前は何も感じないのか?」

 来栖の表情に何某かの変化はなかった。

 自分は間違っていないと信じる者の顔だった。

 こういう手合いには、何を言っても無駄だろう。

 想馬は早々に見切りをつけて手を離した。

 来栖は無言で着衣の乱れを正す。

 想馬は、それを見届ける事なく走り出した。

 

(もう少しなのに!!)

 生駒が内心で悔しがる。

 あと一歩で跳ね橋を操作出来る。

 なのにカバネに阻まれ進めない。

「うぅおぉぉぉーーー!!」

 邪魔なカバネの心臓被膜を破壊しても、次が圧し掛かって来る。

 だが、不意に身体が軽くなった。

 生駒は原因を探るべく、周囲に目を遣った。

「っ!?」

 そこには想馬がいたのだ。

 漆黒の薙刀を小枝のように振り回して暴れていた。

 気合と共に薙刀が一閃される度に、カバネが二三匹千切れ飛んでいく。

 がら空きになった胴をカバネがカバネが襲い掛かるが、驚異的な膂力を持つ想馬は

薙刀を片手で振り回していた為に、片手が空いていた。視界の外からの攻撃であった

にも拘らず、想馬は難なく裏拳をカバネの顔に叩き込んだ。カバネは成す術もなく

吹き飛ばされた。

 まるで背後にも眼があるかのようだった。

 人間の戦いとは信じ難い。

 真後ろから近付いて来たカバネが、背後からの首筋に噛み付いて血を啜ろうとしたが、

想馬は咄嗟に上体を倒すように躱す。カバネの両腕は空を切り、代わりに顎に蹴りを

食らう事になった。

 生駒は、重要な仕事も忘れて呆然と見物してしまった。

「生駒!!さっさとやれ!!」

 生駒は、その言葉で我に返った。

「お、応!!」

 かなりの数のカバネが想馬へと流れる。

 想馬の方が強いのだから仕様がない事だ。

 生駒はそのお陰で余裕が出来たものの、いつ邪魔されるかも分からない状況だった為、

生駒はそのまま倒れ込むようにレバーを倒した。

 防壁の門が開き、跳ね橋が降りていく。

(終わったな…)

 生駒の中に残ったのは、そんな言葉だった。

 直前まであんなに自分の生き様を見せ付けてやると思っていたのに、今は悲しみと

虚しさしかない。

 駿城が速度を上げて生駒の横を通過していく。

 生駒の眼からは自然と涙が流れ出した。

 みっともない事だ思ったが、止まらなかった。

 だが、突然襟首を掴まれて引き摺られる。

「っ!?」

 なんとか顔を動かして自分を引き摺る者の正体を見る。

 想馬が自分の襟首を掴んで走っていたのだ。

「お、おい!止めろ!俺は…カバネなんだ!」

「お前!いつからそんなに諦めがよくなった!無名の奴が言っていた。お前はカバネじゃ

ないってな!俺はそれに賭ける!借りを返さないままなのは気が引ける質でね!」

「馬鹿な事言うな!」

 カバネが後から迫って来る。

 追い掛けてきているのだ。

 想馬は舌打ちすると、薙刀を背後に向けて斜めに強引に振る。

 相変わらずの膂力のお陰で、何体かは転がり脱落するも、相当な量の数が追い掛けて

来ていた。

「キリがねえ!お前も走れ!」

「この体勢から、どうやって走れっていうんだ!」

 馬鹿二人の会話は、銃弾により打ち切られた。

 想馬は来栖が撃ったかと思ったが、射手は無名だった。

 背後のカバネが眼球を撃ち抜かれ、後続を巻き込んで脱落する。

 無名は武士から借りたのか、大型の蒸気筒を構えていた。

 いつの間にか動けるようになっていたようである。

「おデブ!」

「俺には逞生って名があるんだよ!!」

 そして牽引用のワイヤーの近くにいるのは逞生だった。

 逞生は素早くワイヤーフックを想馬に投げて寄こす。

 想馬はそれを掴むと、生駒に括り付けた。

「お前等、正気か!?カバネを招き入れる気か!!」

 武士が物陰から文句を言っている。来栖達の姿はない。

 カバネが大挙して走る場所が怖いのか、文句を言いつつも武士は逞生のところに

来ない。

「そのカバネに助けられたんだろうが!!それにあそこにいるのは、俺の友達だ!!」

 無名は、ひたすらにカバネを狙撃していく。

 その腕前は、まさに達人の域だ。

 カバネの身体で一番脆い眼球を、車両の屋根から正確に狙撃しているのだから。

 逞生がワイヤーを巻き上げると、生駒は強引に引き摺られ引き上げられた。

 生駒という錘がなくなった想馬は、そのまま甲冑を着ているとは信じ難い動きで駿城に

飛び乗った。

 それを見届け、無名が大量の自決袋を投げ込むと、それの一つを正確に撃ち抜いた。

 火薬は見事に引火して大爆発を起こす。

 追い掛けるカバネは爆風と火に巻かれ、想馬達を追うどころではなくなった。

「逞生!俺はカバネなんだ!下ろせ!」

「今更そりゃ、出来ないな」

 生駒の文句に、逞生はにべもなくそう言った。

 想馬も無名と一緒に後部車両に入って来た。

「危ねえな!危うく吹っ飛ばされるところだったぞ!」

「アンタの膂力なら平気でしょ?」

「ふざけんな!」

 無名と想馬は先程の爆破の件で言い争っていた。

 

 だが、空気を読まない男がいた。

 生駒の前に自決袋が放り投げられる。

 投げた者は来栖だった。

「使え。まだ人の心が残っているなら」

 来栖の言葉に自分でも思っていた事なのに、生駒は反射的に怒りを覚えた。

 思わず睨み付けてしまうが、来栖は顔色一つ変えなかった。

「そいつはカバネじゃないよ。人間でもないけど」

 想馬との言い争いを一時棚上げにして、無名が生駒の前に立って言った。

「何を言っている!?」

 来栖は銃を構えたまま、問い質す。

 無名は溜息を吐くと、徐に上着の一枚を脱いで背中を見せた。

 全員が息を呑んだ。

 そこにはカバネ特有の心臓被膜が輝いていたからだ。

「私達はカバネリ。人とカバネの狭間にある者」

 

 全員が呆然とする中、想馬だけは冷静に成り行きを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 原作とは生駒の腕の噛み痕が逆になりました。
 ま、大した事ではないでしょう。

 メイン投稿とサブ投稿、そして本作は気晴らし
 投稿となっている為、随分と時間が経ってしま
 いましたが、これからも書いて行く積もりです。
 
 書く時間がなかなか取れないので、もっと時間
 が掛かる可能性大です。

 めげずに付き合って頂ければ幸いです。




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