ブルーのアオは煽りのアオ   作:はるみゃ

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煽ることが生き甲斐 だって楽しいもの

 

 

 価値観とはある日を境に急激に変わるものである。

 

 

 

 

 私、ブルーはその日、それを身を持って実感した。

 

 それは八歳の時。楽しい楽しい旅行の最中の出来事だった。両親との初めての旅行。

 

 

 はしゃいでいた私は、ホウエン地方の観光スポットでとあるポケモンを見て、固まった。

 

 

 

 

 ――このポケモンって確かチルットだったよね……

 

 

 

 

 見た瞬間頭に浮かぶポケモンの名前。

 同時に疑問が浮かんだ。

 

 

 ――あれ……なんで私、このポケモンの名前を知ってるんだろ……

 

 

 

 ホウエンに来たのは初めて。故郷であるマサラタウンからほとんど出たこともない私が知っているはずのない情報だった。

 

 

 沸き上がる疑問に首を傾げた瞬間、それは唐突に起きた。

 

 

 

 ――う、頭が痛い……これは……流れ込んでくるこの記憶は一体……!?

 

 

 

 突如頭に流れ込んでくる明らかに私のものではない記憶。それはあまりに膨大で、私の脳では一度に処理することができず、一瞬にして視界は暗闇に染まった。

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、私は病院のベッドに寝かされていた。

 

 

「――ここは……」

「ブルー! よかった……気がついたのね」

「お前、丸一日寝たっきりだったんだぞ……本当によかった」

 

 体を起こすと同時に両親が、少し遅れて看護師と医者が駆けつけてくる。

 

 両親の話によると私は突然意識を失って倒れたらしい。

 

 原因は不明。何度検査しても私の体からは異常が見つからなかったらしく……

 

 そのため私は医者からの質問に答えることになった。

 

「――昨日一昨日と比べて今日の調子はどうでしたか?」

「いつもと変わりませんでした」

「――心当たりはありますか?」

「いいえ、ないです」

「――分かりました。……原因は不明ですが、とりあえず貴女の体には異常はありませんので明日には退院できるでしょう。今日はゆっくり休みなさい」

「はい、ありがとうございました」

「お二方も。心配なのは分かりますが、ご本人も何が起こったか分かってない様子なので、今は一人にしておいた方がよろしいかと……」

「分かりました…」

「ブルー。何かあったらすぐに呼んでね」

 

 

 

 

 

 看護師と医者、両親が出ていき、部屋に一人になったことを確認すると、私は今も尚、頭の中で渦巻く記憶に意識を向けた。

 

 

 

 それは一人の男の記憶だった。

 生まれてから死ぬまでの記憶。その全てを赤裸々に記録していた。

 

 可もなければ不可もない面白味に欠ける人生。

 だからこそ、その名前を見たとき私は声を上げていた。

 

「え……」

 

 男の記憶に私の名前が存在していたのだ。

 こうして記憶が流れ込んでくることがなければ一生縁が無かっただろう男の記憶に私の名前が……。

 何故?

 

 疑問に思い、より詳しく探っていると、その名前はとあるゲームの登場人物のものだと言うことが分かった。

 

『ポケットモンスター』

 

 登場人物の一人、ブルー。

 同性同名なだけだったら単なる偶然と片付けることが出来ただろう。

 しかし、作中に登場する『マサラタウン』『幼馴染の存在』が、確実に私のことを指していると確信させた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 初めは驚きで言葉も出なかったが、 男の記憶を繊細に探るに連れ次第に、驚きは薄れていった。

 

 

 

 

 流石に膨大な記憶を一日で処理することは出来ず、

 その日から男の記憶を探るのが私の日常となった。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

「……凄く……凄く……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わざと見た目が弱そうなポケモンを使い、相手に勝ちを確信させてから、そのポケモンで打ち倒す。そして「今どんな気持ち? 逆転負けしてどんな気持ち?」などと、その心境を笑いながら訊ねる。

 

 男が嬉々してやっていたそんな、所謂煽りプレイの一貫に。私は………心惹かれた。

 

 

 

「…凄く……………煽りプレイって……凄く楽しそう!!!」

 

 高度な煽る技術もそうだが、何より、自分を見下した始めた相手を打ち倒した瞬間の、その表情が絶望に変わるのを見るのが堪らなく愉快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして二年後。

 

 私は、今しがた相棒(ヒトカゲ)が倒れたばかりであるグリーン、そして己を圧倒したグリーンが圧倒的な差で倒されたことに驚きを隠せないレッドに、指を向けて笑う。

 

「ねぇ、今どんな気持ち? ねぇ? ねぇ? ねぇ? 完膚無きまでに負けるってどんな気持ち? 教えてよグリーン君。あはは、ねえ? 答えてよグリーン君。下を向かないでさ。今どんな気持ちなの? レッド君もさ、自分が圧倒された相手をいとも簡単に倒される気持ちを教えてよ? 私気になるの。こんな弱い人に圧倒されたことないからさ。ねぇ? ねぇ? どんな気持ちなの? あははははははははは!」

 

「くっ、……このっ、性悪女が!」

 

「あっ、もしかしてプライド刺激しちゃったかな。そんな気はなかったんだけど……。一応謝るね、ごめんね。けど無駄に高すぎるグリーン君のプライドもいけないんだよ? 高い割に同世代の少女にも勝てないし」

 

「…………」

 

「お……落ち着けグリーン! ブルーはそういう奴だって分かってるだろ!? ここで乗せられたら奴の思う壺だ!」

 

「そうだよ、グリーン君。レッド君を見習いなよ。ほらプライドないところとか……プライドないところとか…………プライドないところとか………………ごめん、本気で思い付かない」

 

「ガチトーンで謝るなよ!?」

 

「あはははは。ところで話戻すけど、今どんな気持ちなの? 惨めな赤と緑さん」

 

「「最悪だよ!!」」

 

 これは()のブルー改め、()りのブルーの冒険記である。

 

 

 

 

 

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