ブルーのアオは煽りのアオ   作:はるみゃ

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ニックネームっていうのはね、こうやって使うためにあるのよ

 翌日の朝九時。

 

 集合時間より三十分早くにブルーは待ち合わせ場所であるジム前に向かっていた。

 

 

 

 理由は勿論、昨日に引き続き清楚な美少女を演じるためである。

 相手が偽りの自分を信じ込めば信じ込むほど、真実を見せた時の表情は愉快なものに変わる。

 

 

 

 これのソースは哀れな幼馴染二号(グリーン)

 

 

 

 

 初めて煽りプレイを見せたときのグリーンの表情と言ったら……もう……それはそれは最高なものだった。

 

 

 今思い出しても、ご飯二杯はいける。

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

 

 

 

 ――嗚呼、あの少年は一体どんな表情を見せてくれるのだろう。

 

 そんなことを考えながら、ジムの直近の曲がり角を抜けようとした……その時だった。

 

 

 

 

 ジムのガラスに佇む少年の姿が目に入った。

 何度も何度もガラスで自分の姿を確認して髪型を整えては、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

 三十分前だというのに今か今かとブルーの登場を待ちわびている少年の姿に、ブルーの心が疼く。主に悪戯心と嗜虐心が。

 

 

 

 ――これは敢えて遅刻して行った方が絶対面白いでしょ……!!

 

 

 

 

 

 ブルーは素早く身を翻し、曲がり角に姿を隠しながら、少年の痴態を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………ごめん、遅れちゃった……」

 

 

 結局ブルーが待ち合わせ場所に姿を見せたのはあれから一時間後だった。

 

 三十分の遅刻である。本来なら遅れるつもりは無かったのだが、それもこれもすべてこの少年が悪い、とブルーは内心思っていた。

 

 

 集合時間の五分前に、いきなりジムの前で勝利時のポーズ練習をし出す少年にどうして笑わずにいられようか……。

 

 誰もいない空間に向かって、指で作った銃でバキューンとやっているところを見てしまったせいで、笑いが押さえきれず姿を見せるに見せられなかったのだ。

 

 

 現に息が切れているのは急いできた感を出すための演技ではなく、単に先程まで腹を抱えて笑っていたからであった。

 故に――

 

 

「いや、大丈夫だよ。俺も今来たばかりだからさ……」

「うぐっ!?」

 

 

 ――故に、少年が言った定番のセリフにブルーは堪えきれず噎せた。

 

 

「お、おい……大丈夫か?」

「……う、うん大丈夫大丈夫」

 

 

 

 幸いにも、少年はそれを『笑いかけて噎せた』ではなく『急いで走ってきたから噎せた』と解釈したらしく。

 

 

「じ、じゃあ行きましょうか……」

 

 

 ブルーは何とか平常心を保つことに成功すると、ジムの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年は呆気なく敗北した。

 

 大事なことなので二度言わせて貰おう。

 

 一人目のジムトレーナーの一匹目の手持ちに六タテされていた。

 

 まぁ、いわタイプのポケモンを使うジムトレーナーに対して、少年の手持ちは六匹全てが不利タイプであるむしタイプ。

 しかもキャタピーとビードルだけで構成されていたから当たり前と言っては当たり前なのだが……。

 

 もしかしてタイプ相性を理解できていないのだろうか……

 

 少年は何が起きたか分からないと言う顔で呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「……っ!!!」

 

 

 ブルーはもう、笑い堪えるのに必死である。

 

 

 

 ――さっきのポージング練習が無駄になったね?

 ――ねぇ、今の気持ちはどう? ジムリーダーどころかジムトレーナーのポケモン一匹に六タテされた感想を教えて?

 ――ていうかキャタピーとビードルだけでホントに勝てると思ってたの? 

 

 

 

 そんな言葉をぶちまけて今すぐ煽り倒したい。

 

 

 だが、ブルーは喉まで出掛けたその言葉を押し止めた。

 

 このまま煽っても十分楽しめるが、やはり煽る要因は私の手で作りたい。

 

 そう考えたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……では次の挑戦者、前へ」

 

 施設内にジムリーダー、タケシの声が響く。

 

「はい」

 

 ブルーはその言葉に、頷くと一歩前に出てバトルフィールドに入った。

 

 どうやら対戦相手は少年を倒したジムトレーナーがそのまま務めるらしく、相手のボールから六タテを成し遂げたイシツブテが現れる。

 

 心なしかジムトレーナーとイシツブテの表情はドヤ顔しているように見えた。

 

 

 ――うん、あの表情。崩すのが楽しみね。

 

 

 そんな湧き出る感情を押さえ、ブルーは出来るだけ声を高くして、ぎこちない動きでボールを投げた。

 無論、初心者と思わせるための策略である。

 

「出ておいで! ゼニちゃん!」

 

 

 ブルーの一連の動きに、すっかり騙されたのか、弱点である水タイプのゼニガメを出されたというのにも関わらずジムトレーナーとそのイシツブテの頬が緩む。

 ブルーが若干震えているのも理由の一つだった。きっと緊張で震えているのだろう、と彼らは解釈したのだ。

 

 

 ――初心者だと侮っていたトレーナーに負けたとき一体どんな表情を見せてくれるのかなぁ……。

 

 実際は緊張の震えではなく、そんなことを考えてゾクゾクしているだけなのだが。

 

 そうとも露知らず、両者の戦いが今始まろうとしていた。

 

 

「両者準備はよろしいですね」

 

 

 審判の言葉に両者は頷く。

 ジムトレーナーは自信満々に、ブルーはおどおどしながら。

 

 

「――では勝負始め!」

 

「イシツブテ、『ころがる』だ」

 

 

 開始と同時に勢いよく接近してくるのはイシツブテ。一瞬で蹴りを着けようという魂胆らしい。

 

 確かにいわタイプのポケモンはその名の通り、岩のように硬く、重い。

 いくら『ころがる』と言えど、もろに食らったら一発KOの可能性もあり得る。事実、キャタピーやビードルはどれも一撃で倒されていた。

 

 だが、それはあくまで攻撃を食らえばの話。

 愚直に突撃してくる、いわタイプなど恐れるに足らず。

 

 

「ゼニちゃん、イシツブテに向かって『みずでっぽう』よ!」

 

 

 ゼニガメのレベルは低い。 いくらタイプ相性が有利でも、イシツブテを一撃で仕留めることは恐らく不可能。

 

 故に、ブルーは、ジム戦前にゼニガメにある言葉を伝えていた。

 

 

 

 

 

 ――よく聞いてゼニガメ。私がゼニちゃんって呼んでるときは、ポケモンに技を当てちゃだめよ。足元を狙うのよ。

 

 

 ――ゼニガメって呼んだときは素直にしたがってくれればいいわ。

 

 

 

 

 

 

 事前に交わしたその言葉通り、ゼニガメはイシツブテの足元に『みずでっぽう』を放つ。

 

 

 ゼニガメが技を外したことに、ジムトレーナーは勝ちを確信したのだろう。頬を緩め、数秒後目を見開いて絶句した。

 

 

 単純なことだ。

 『みずでっぽう』で濡れた地面に、イシツブテが滑って転んだのである。

 

 

 

「えっ? 今よ、ゼニガメいっけー!」

 

 

 致命的な隙を見せたイシツブテに、ブルーはチャンスとばかりに命令し。

 三発もの『みずでっぽう』がイシツブテを襲った。

 

 

「あぁ……イシツブテ!?」

「やったぁ!」

 

 

 一発ならまだしも、三発も受けて耐えられるはずもなく、戦闘不能になったイシツブテを見て、ブルーは白々しくガッツポーズ。

 

 

「くっ、まだだ。まだ終わっちゃいない」

 

 諦めずに二匹目を出すジムトレーナーを、あわあわと、しかし玩具でも見るような眼で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、ブルーは二匹目、三匹目共にまぐれ勝ちを演じた。

 

 二匹目は先程と同じように足元を狙い隙を見せたところをタコ殴りに、三匹目はほぼ相討ちで。

 

 

 少年に本当の実力を見せるのはジムリーダー戦だけ。

 その為に、可能な限り初心者っぽく振る舞っていたが、ゼニガメを戦闘不能寸前まで追い詰めてしまったことに反省する。

 

 

「ありがとゼニガメ」

 

 

 キズぐすりを使いゼニガメの体力を回復させるとボールへと戻し、目の前のジムトレーナーへと視線を移す。

 

 見下していた初心者に敗北した、ジムトレーナーを。

 

 自分は他者より優れている。そんな意識があったのだろう。そして少年との戦いでその思いが強まったジムトレーナーは、あからさまに初心者であるブルーに負けたことにショックを抱いていた。

 尤も、ブルーはあくまで初心者っぽく見せていただけなのだが、そんなことはジムトレーナーに知る余地もなく。

 

 

「お強いんですね。普段どのように鍛えているんです? 私は、昨日トレーナーになったばかりなので、鍛え方とか全然分からないんですよ……よければ教えてくれませんか?」

 

 格下だと思っていたブルーの、敗者を労るような声と、差し伸べた手に。

 そして、昨日なったばかりという……その言葉に。

 

 ジムトレーナーは、立場も構わずジムから飛び出した。

 

 

 手を差し伸べたまま残されたブルーはその後ろ姿を見て、慌てて手を口で押さえる。

 

 

 

 

 ――ダメだ。ニヤけちゃう

 

 ――けど仕方ないよね、だってあの表情!!

 

 ――あぁ、愉しい!!

 

 

 

 

 その様子をジムリーダーであるタケシは、ただでさえ細い目を更に細めて見ていた。

 

 

 

 

 

 




※普段はなんか知らないけど浮いてるイシツブテさんですが、転がるときは流石に地面に体を着けているでしょう……多分
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