ブルーのアオは煽りのアオ 作:はるみゃ
ジムリーダーに認められた証であるジムバッチ。0個なら一戦、1個なら二戦と、その所持数によってジムリーダーに挑むまでの
ブルーは先日トレーナーになったばかり。
捕獲などのルールを簡単に破った彼女でも、ジムに挑むのは初めてだった。
だからこそ。ブルーは対面したタケシの言葉に一瞬表情を崩してしまった。
「ニックネームを使い分けるとは中々面白い戦い方をするんだな」
「……なんのこと……?」
流石ジムリーダー。まさかたった一戦で見抜くなんて。
内心戦慄しながらもブルーはすかさず愛想笑いを張り付け、白を切る。
ベテラントレーナーがニックネームを使い分けていたら、何かあると確信を持っても仕方ない。
しかし、何度も繰り返すがブルーは先日トレーナーになったばかりの新米。
故に私が名前を呼び間違えた可能性も否定できないだろう。そう考えての行動だった。
「……まぁいい。どちらにせよ、戦ってみれば分かることだからな。いけイワーク」
「ゼニガメ」
前にボールを投げるタケシに対して、ブルーは手前にボールを落とすようにして投げた。
理由は単純。少しでも距離を取るためだ。
物理に対して無双な強さを誇るいわタイプ相手に接近戦を持ち込むなんて愚の骨頂。
それに岩蛇ポケモンであるイワークはリーチが長い。一度間合いに入ってしまえば一方的にやられることは目に見えていた。
――ここは距離を取って特殊技でなぶり殺すべきね。
「ゼニガメ、『みずでっぽう』」
「無視だ! 突っ込めイワーク!」
「な!?」
ゼニガメの『みずでっぽう』を正面から食らってもモノともせず突っ込んでくるイワークに、ブルーは思わず声を漏らして舌打ちする。
イワークほどの巨体を持つ相手と戦うことは初めてだった。故にブルーは、現実とゲームとの区別があまり付いていなかったのだ。
冷静に考えてみればあんなデカイ相手に小柄なゼニガメの『みずでっぽう』で太刀打ち出来るわけがない。現に、『みずでっぽう』を食らって濡れている箇所は一部分だった。
「ゼニガメ、『まもる』」
――あっぶな。……デカイ相手は厄介ね。
間一髪指示をいれたことでなんとかイワークの攻撃を防いだブルーは認識を改める。
先のイシツブテの様に地面を濡らしても恐らく無駄。隙を作ることができても恐らく倒すことができないし、ニックネームの使い分けについて確信させてしまうことになる。
タケシのポケモンはイワークだけじゃない。
少なくてもあと一体はいるはず。
――ゼニガメを外せば楽なんだけど……まぁ、最初のジムくらいはゼニガメに活躍させてあげたいし……
せめてゼニガメでイワークだけでも倒したい。
――仕方ない。一枚切るか……
ブルーはゼニガメと目を合わせ頷く。
そして、大きな声を張って命令した。
「ゼニガメ『ハイドロポンプ』」
「何だと!?」
それに驚いたのはタケシだ。
『ハイドロポンプ』と言えばみずタイプ上位の技。初心者が使える技ではない。
ただの初心者ならば、虚言だと判断出来るが。相手はジムトレーナーを手玉に取った得体の知れないトレーナー。
虚言であると決めつけるのは無理があった。
「『あなをほる』だ! 深く潜れイワーク!」
故にタケシが取った方法は単純。回避させようと地面に逃げ込ませた。
イワークは普段地面の中に生息しているポケモン。その為地面を掘るのが早く、素早く潜っていく。
相手の技より早く潜れたことにタケシは安堵しつつ、数秒後眉を潜めた。
流石に遅すぎる。上位技とはいえ、ここまで時間がかかる技を彼女が選ぶだろうか、と。
そんな疑念を抱き始めた彼の元に、ブルーのわざとらしい声が届いた。
「……あり? あ、しまった~。『ハイドロポンプ』は覚えてないんだった、てへ!」
「なん……だと……」
「ごめんなさい。初めてのバトルだから緊張しちゃって~。ゼニガメ、穴に向かって全力で水を流し込み続けなさい」
いつの間にか穴の目の前まで接近していたゼニガメが水を大量に流し込む。
「しまった! イワーク!? すぐに出ろイワーク!?」
ハッとタケシが気を取り直した時にはもう遅い。
勢い良く流し込まれる水の音と、イワーク自身タケシの指示に従って地中深くいたことで指示は通らなくなっていた。
数分後水で溢れ変える穴の中から弱りきったイワークが這い出てくるまでタケシは下唇を噛み締めて目の前のトレーナーを見ていた。
コイツは異常だ。
「すまんイワーク……ゆっくり休んでくれ……。やってくれたな…」
「ごめんなさい、わざとじゃないんです~」
嘘つけ、と言いたいのをグッと堪え、タケシは己の最後のポケモンを繰り出す。
「ゆけ、サイドン」
もう油断はしない。
確かに目の前の少女は普通の初心者とは一味も二味も違うが、使っているポケモンは普通の初心者と大差ない。
本来サイドンは使う予定がなかったが、あの少女には敗北を教えてあげなければならない。
戦い方を教育するのもジムリーダーの役割だ。ジムリーダーとして、一人のトレーナーの矜持として、あんな性根が腐ったような戦い方を認めるわけにはいかなかった。
――イワークと違ってサイドンはレベル調整をしていない。正面からぶつかれば負ける筋合いがない。
そんな覚悟をしたタケシに、ブルーはニヤリと笑みを浮かべる。
ようやく弄り甲斐がありそうな顔つきになったと。
「へぇ……下がっていいよゼニガメ」
ブルーはゼニガメを下がらせると、新たなボールを手にした。
それはかつて前世の知識を取り戻したホウエンで出会ったポケモンだった。
その害悪さ故にファイアローやフェアリータイプが出始めた六世代まで恐れられてきたポケモン。
「いくよ、キノガッサ」
どくどくだまを持ったキノガッサによる蹂躙が始まった。
◇
――なにもできなかった。
――なにも。本来の手持ちのポケモンを使っても勝てなかった。
「いやーお強いですね。さすがジムリーダーです」
ふぅ、と小さく笑みを浮かべながら手を差し出してくる少女。
その手を、タケシは思わず拒否してしまった。
しまったと思った。
瞬時に謝ろうと、そう思った。
しかし、目の前の少女を見た瞬間、その気は失せた。
嗤っていた。笑っていたのではない、嗤っていたのだ。
まるで拒否されることを望んでいたかのように少女は笑顔だった。
「……そんなにショックだったんですか? まぁ、自慢の一体がやられちゃったらショック受ける気持ちは分かりますけど。本当強かったですよ、あなたのサイドンは。お陰でキノガッサのレベルが上がりましたし」
「――ッ」
ねぇ、と少女は不意に観客席の方を見る。
そして一緒に来ていた少年を見つめると、手で銃の形を作って撃ち抜く素振りをして見せた。
何を考えて少女がその行動をしたのか分からない。が、顔を真っ赤にして涙目で走り去っていく少年を見る限り意味がある行動だったのだろう。
少年の姿が完全にジムから消えると、再び少女はこちらを向いて笑いかけた。
「次は是非とも本気の戦いをしてみたいですね。私のキノガッサとあなたの鍛えぬいた六体。どちらが強いんでしょうかね―……」
「…………」
「一対六ですけど、サイドン相手に無傷で勝てましたから可能性はあると思うんですよ、私」
「…………」
「じゃあジムバッチと経験値ありがとうございました。レベル上げスポットとしてとても有効でした!」
タケシはずっと黙ったままだった。
少女が去るまでずっと。
強く噛み締めていた唇や、握りしめていた手のひらからは、うっすらと血が滲んでいた。