Angel Beats! the after story 作:騎士見習い
「かなで!」
「ひゃ!」
肩をびくつかせ、かなでおそるおそる後ろを振り返る。俺の姿を見た瞬間、かなではとても怖がっている顔をしていた。
その気持ちは分かる、いきなり見知らぬ男性が自分の手首を掴んだら誰だって怖くなる。ましてや、相手が自分の名前を知ってるなんて俺だったら気絶している。
だが今の俺にはそんなことを考えている余裕はなかった。
大切な人に会えた興奮で自我を忘れている俺を見ながらかなではおそるおそる聞いてくる。
「あの、どなたですか?なんで私の名前を知ってるんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はさっきまでの興奮から一気に絶望した顔に変わる。
まだ現実を認められない俺は、かなでの肩を掴み大きく揺すぶった。
「なんでなんだかなで!俺だ、音無結弦だ!知らないなんて嘘だよな、俺を驚かせようとしてるんだろ……?」
やめろ、やめろ!現実を認めるんだ。かなでの記憶は今はないんだ。
理性を失いかけている俺を見ながらかなでは今にも泣きそうな顔をしていた。
周りの通行人はそんな俺たちを怪しい目で見る人もいれば警察を呼ぼうか悩んでいる人もいた。
そんなかなでと人々を見た俺は、現実を認めるしかなかった……。
「す、すみません。人違いでした さっき電話で名前を名乗ったとき自分が探してた人と同じ名前だったのでつい感情が高まってしまって、ほんとにすみませんでした」
嘘をつくことしか出来なかった。そうしないとこの場で暴れてしまいそうだったから。
いきなりの変わりようにかなでは戸惑っていたが、もうこの場に居たくない俺は立ち去ろうとした。けれど、かなでが慌てたように言った。
「あ、あの。……涙出てますよ」
言われた瞬間、俺は自分の目元を拭ってみる。
だがその行動は意味がなく拭っても拭っても次から次へと涙が溢れて止まらなかった。
かなでがバックからハンカチを取り出して俺の目の前に差し出してくる。
「もしよかったら使ってください」
心配そうな顔をしながら俺に差し出す。
その瞬間俺は思った。──かなで、君は変わらないんだな。
例え記憶が無くても、心の奥底にあるモノは失われていないと分かった時にはさらに涙がこぼれ落ちていく。
「ありがとうございます。でも持ってるんで大丈夫です」
甘えたい気持ちを抑え、ポケットに手を入れハンカチを取り出そうとした拍子にケータイを落としてしまった。
「あっ」
「大丈夫です。ハンカチを取り出してください、私が拾いますから」
かなでは俺のケータイを拾いケータイに着いているストラップを見てから、かなでは興奮を抑えられないらしく俺のストラップを見て目をキラキラさせ、ものすごくそわそわとしていた。
やべぇ可愛い!!
そんなことを思っているとキラキラと輝いた目をこちらに向けながら聞いてきた。
「このストラップってもしかしてこの通りを進んだ先にある宝雷亭の激鬼辛唐辛子10倍麻婆豆腐の完食者にしか与えられない麻婆ストラップですよね!!」
あまりの変わりように唖然としていた俺は声を絞り出して答える。
「あ、ああそうだけど」
かなでは満面の笑みを浮かべケータイを取り出して俺が持っているのと同じストラップを見せてくる。
「お揃いですね。まさかこんなところで同志に会えるなんてラッキーです!突然なんですけど、今時間ありますか?今から友達と麻婆豆腐食べに行くんですけどどうですか?」
「えっ、でも大丈夫なのさっき怖い目に合わせたばっかりなのに」
「大〜丈夫です。あそこの麻婆豆腐を完食した人に悪い人はいませんから」
麻婆論とでもいうのだろうか?無茶苦茶な理屈に微笑みながら、
「迷惑じゃないなら喜んで」
「じゃあ〜決まりですね。そうと決まったら早く行きましょう。友達を待たせてるんです」
俺はかなでに腕を引かれながら歩き出す。
少しですが書くのにも慣れてきたので、これからも頑張ります。