Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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彼女は面倒見のいいお姉さん

俺は、かなでとの初めてのメールをした後、かなでに伝えられた通りに待ち合わせ場所に着いた。興奮して、ものすごいスピードで待ち合わせ場所まで行ったため、まだ、かなでの姿が見えなかった。かなでと2人っきりで会うから、身だしなみを整えながら、先に喫茶店を出て行った、日向とユイのことを考えていると、息を弾ませながら、走ってくる女性がいる。

かなでだ。

 

俺のところに着くと少し肩で息をしていたがすぐに回復した。

「音無さん、待ちましたか?」

「いや、今来たところだよ」

「よかった〜」

かなではホッとしたように、胸に手をあてていた。あらためて、かなでの服装を見ると秋が来たな〜と実感させられる服装だった。

「よし!行きましょ音無さん」

気合いを入れたらしく、先導して歩きだすかなでについていく。

 

「なぁ、かなで、どこに行くか教えてくれないか?」

 

「音無さんはそんなに知りたいという気持ちは、ものすごく分かりました。でも、メールで伝えた通り……ひ☆み☆つです。」

 

そんなぁ〜と気になるのを抑えながらかなでに黙ってついていく。そして案外、目的地は待ち合わせ場所から近かった。

「ここですよ。おもしろいものがある場所は」

 

かなでの前に立つ建物は世間一般ではおもしろいものを置いてあるような場所ではなかった。いや、一部の年齢層にはおもしろいものがある場所ではあるが、今の俺とかなでには、おもしろいとは感じないだろう。

 

なぜかって、それはここが…………幼稚園だからだ!

「なにボ〜としてるんですか、早く行きますよ」

「あ、ああ」

 

何かの冗談かと思ったが、本気と書いてマジと読むらしく、かなでは幼稚園の敷地の中に躊躇いもなく、入っていった。意を決して俺も敷地の中に入る。

 

「かなで、本当に何もなさそうな幼稚園におもしろいものがあるのか?」

「ありますよ。そうですね〜ヒントです。誰かが働いてます」

ヒントをもらったが、幼稚園で、働く人なんて検討もつかない。

「この辺りでいいですね」

おもしろいものがやっと分かる。期待感大でかなでの指さす方向を見たらぁぁ!?

 

「ジャジャーン、ゆりちゃんです!」

 

う、嘘だろ。あのゆりが……ジャージの上にエプロンを着て、長い髪はゴムで縛っている。そ、そ、そしてあのゆりが、悪意のカケラもない満面の笑みを無邪気な幼稚園児に振りまいているではないか……。

 

「どうですか音無さん、ビックリしたでしょ」

「オドロイタヨ」

 

「ちょっ、音無さん!信じられないのは、分かります!私だって、最初は信じられませんでした……でも、でも!あれがゆりちゃんということには、変わらないのです!」

「ハッ!俺はいったいどうしたんだ」

 

「正気に戻ってよかったです。もう…ダメかと……」

「そうか…俺はゆりのあの…満面の笑みを無条件に振りまいているのに、気が動転してしまったのか…」

 

あ、危なかった。かなでが助けてくれなかったら、俺は…やめとこう、今は正気に戻ったことを喜ぼう。

「ありがとう。かなで」

「そんな、お礼を言われるほどでもないですよ。それよりも、見た感想をどうぞ」

誰かのマネなのかよくわからないけど、一応乗ってみる。

 

「いや〜、さすがにビックリ仰天でしたね。あの、ゆりがあんなことをやっていたなんて、耳を疑いましたよ〜」

「耳ではなく、目ですよ」

 

「こりゃー失礼しました」

「クク、音無さん反則的です。お腹が…」

スベるつもりで言ったことがまさか、かなでのツボにハマるとは、やっぱりあっちの世界と変わらないんだな。

 

「お、音無さん、も、もういt「かなで、音無くん、ここでなにしてんだ?事情聞いてやっから、さっさと敷地外に出ろやコラ!!!」

そして、俺とかなでの2人っきりの楽しい会話は、突如として現れた魔王ゆりに引き裂かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

私が幼稚園の手伝いをするようになったキッカケは簡単だった。

去年の夏休みのことだった。

私とかなでの高校は2年生になると必ず夏休みを使って、いくつかある職業の中の一つを選択して職業体験をする決まりがあるの。理由としては社会経験を積むためらしい。

夏休み前に各教室に貼り出された職業1覧表

 

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『職業体験学習のお知らせ』

本校は夏休みを利用し、将来をまだ決めかねている

2年生に働くということを知ってもらうために実施する。

本校は2年生諸君に良い刺激、将来への布石として有意義な

時間になってほしいと考えている。

 

 

①警察官

 

②消防士

 

③医師

 

④保育士

 

⑤運送業

 

⑥その他

 

 

※以下が今回の職業体験の職業の種類です。

⑥その他を希望する者は担当の教師に直接

職業、理由を提示してください。

 

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職業体験があるということは入学説明会で聞いていたから、あまり驚かないけど普段、体験できないことができるといくことで私は少し楽しみだった。でも、先輩から聞いた話によると、毎回ほとんどの生徒が『⑥その他』を選択するらしく、用紙に書いてある職業を選択する人は少ないらしいけど。

 

まぁ、他の人のことは考えるだけ無駄ね。そう思いながら、真剣に考える。

 

①警察官←婦警っていうのは憧れてるけど、私のキャラじゃないわね。

 

②消防士←却下

 

③医師←ん〜看護婦もいいけど消毒液の匂いがちょっと…

 

④保育士←1番無難よね。子供の面倒をみるのも悪くないわ。

 

⑤運送業←絶対却下!

 

⑥その他←これといって体験したいのは無いから却下

 

 

やっぱり無難に保育士かしら。そう結論がみえてきた時に声をかけてくる人がいた。

 

「ゆりちゃん決まった?」

親しく声をかけてきたのは、立華 かなで、高校に入ったと同時に仲良くなった私の1番の親友よ。

 

「ん〜そうね。無難に保育士かしら」

「うんうん。ゆりちゃんにピッタリだね」

 

「ありがと。かなではどうするの?」

「私は医師かな」

 

「ウソ〜意外ね。どうして?」

「なんていうか、私にもよくわかんないの」

 

「ハァ〜〜。あんた、ほんと考えがないわね。そんなんじゃ何もできないわよ」

 

テヘヘと笑うかなでを見てるとほんと心配だわ。

かなでは医師か〜。理由はともあれ、いい選択かもね。かなで…

 

 

 

そして、夏休みになり職業体験が始まった。人数としては、私を入れて4人の少数だったから幼稚園側の提案で1人1つの教室を受け持って、1日ごとに変えるローテーション方式になったけど、あの時の私たちにはこの提案は酷なものだったとは思わなかったわ。

 

簡単な仕事かと思ったけど、保育士の仕事は私の想像の斜め上をいっていたわ。

 

園児の遊び相手、着替え・食事の手伝い、お昼寝の面倒。まだまだ続くわ。園児が帰ったら、教室を消毒したりするの。数人だったらまだいいけど、1人では相当な重労働だったわ。でも、やりがいはあった。今ならいい経験になったと思うわ。

 

職業体験の最終日、これが私が職業体験が終わってもまだ、幼稚園の手伝いをすることになったキッカケの1部かしら。

 

きつかった仕事も、いざ終わるとなると寂しさが込み上げてくるものね。

園児たちとのお別れ会が終わり、帰路につこうと思った矢先、1人の女の子が走ってやってきた。彼女は天草 五十鈴(あまくさ いすず)ちゃん。職業体験の中で1番関係が深くなった子と言えるわね。

 

五十鈴ちゃんは幼稚園の先生から聞いた話によると、父親の転勤で引っ越してきたばかりで、友達ができなく幼稚園を休みがちになっていたらしかった。

そこで、私はどうにかしたいと思って、色々と作戦を決行した。お遊びの中心にしたり、髪の結び方も変えたりした。

結果、五十鈴ちゃんは今友達がたくさんできて、毎日が楽しくなったらしいと後からやってきた母親は喜んで私に話してくれた。

 

五十鈴ちゃんと目の高さが合うように縮む。少し恥ずかしいがっていた五十鈴ちゃんに「どうしたの?」と笑顔で先を促す。

 

「お姉ちゃん、ありがと」

 

勇気をふりしぼって言った言葉と満面の笑顔は、私に覚えのない失ったものを感じさせたけど、すぐに忘れてしまったわ。

 

 

 

最初は大した理由もなく選択した保育士は私にとって色々なものをくれた。だから、その恩返しと個人的な理由で今も手伝いを続けているの。

 

 

 

 

「「すいませんでした!」」

今、私は一生懸命手伝いをしていたのに、それを隠れ見て好き放題言っていたフトドキ者たちを説教中よ☆

「何やってたか分かってんのか?ああん!?」

「「ほんとにすいませんでした!」」

 

「かなで、あんたこれで何回目か分かってる?」

「に、2回か……な」

 

「ちっがーーう!10回よ10回!サルでも10回も同じこと繰り返さないわよ!」

かなでは、私が幼稚園の手伝いを始めたことをどこかで聞きつけたらしく、何度も来てその度に私が説教をしてるんだけど……

「ち、ちがうもん。私は…私はゆりちゃんの働きっぷりを直接この目で見たかっただけだもん!」

 

くっ……さすがに10回説教されているだけあるわね。言い訳が上手くなったじゃない。それに…涙目なんて卑怯よ!反則じゃないそんなのやられたら、許しちゃうしかないじゃない。

 

「分かったわ。今日は特別に許してあげる。次やったら……分かってるわね?仏の顔も三度までよ」

「いや、もう三度とうに超えてるじゃん」

「あら、音無くん説教中にツッコミを入れるなんて余裕じゃない」

「待ってくれ!俺もこの目でゆりの働きっぷりを見たかっただけなんだ!」

 

「で?」

「いや、だから許してくれ!」

「やだ」

 

あまいのよ音無くん、かなでと同じことを言えば許されると思ったら大間違いよ!そ、それに……ジャージのエプロン姿を見られたのよ恥ずかしくって死にそう!しかも、おママごとをしていたのよ!絶対子供っぽいって思われてるわよ!

 

「ゆりちゃん、音無さんは今日が初めてなんだからこの辺で…ねお願いゆりちゃん」

「はぁ〜。分かったわよ、許してあげる。それと、かなであんたがそのセリフを言っても説得力ゼロよ」

やっぱり、私ってかなでにトコトン弱いのよね〜。これからは気をつけないと。

 

「これ以上邪魔したらいけないから私たち帰るね」

「そうしてちょうだい。幼稚園のみんなも待ってるだろうし」

「悪かったな。邪魔して」

 

「反省してくれたならいいわ。じゃあね」

「バイバイゆりちゃん」

「じゃあな」

 

かなで、音無くんは帰っていった。

 

周りは気味が悪いぐらい静かになってしまった。

 

まるで……嵐の前の静けさのように……

 

 

 

 

 




ゆりっぺのジャージ姿そしてエプロン姿見てみたい!文字だけなのが残念なくらいです。
あらためまして、面白かったでしょうか?ついにかなでちゃんがメールで伝えていたおもしろいものの正体が出てきました。ゆりっぺ編は私が考えている限りだと全体の前半のラスト近づいてきたと思います。皆様のご期待にそえるようにこれからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
(感想・意見・アドバイスお待ちしています)

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