Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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番外編 大人のデート?

「ひなっち先輩、次はあれ食べたいです」

 

お好み焼きの屋台を指差しながら俺の袖をクイクイと引っ張る。

 

「お前まだ食べるのかよ。これで5件目だぞ」

 

ご褒美とは言ったものの、遠慮の無さが逆に清々しく感じてしまう。

 

まずはたこ焼き、焼きそば、と続きラーメン、たい焼きとどんだけ食うんだよとツッコミを入れたくなるほど食っている。

 

「いいじゃないですか〜がんばったんですから」

 

「それもそうだが、遠慮というものを少しはしてくれてもいいんじゃねぇか?」

 

まだまだですねと言いたい風にチィチィチィと指を振るユイ。

 

「ひなっち先輩、世の中にはこんな言葉があります…………。タダで食う飯ほどうまいって知らないんですか?」

 

あまりにもゲスい世の中の言葉に呆れながらも屋台の列にならぶ。

 

「何を頼むんだ?」

「豚玉ですね」

 

即答で1番高いものを選ぶあたりがムカついてしょうがない。

 

「ひなっち先輩」

「どうした?」

 

「なんで豚玉って言うんですか?」

 

ガキみたいな質問をし始めたユイ。

 

「ハッ!まさかお好み焼きの中に豚の玉が……!?」

 

こいつは女としての自覚を持っているのか?恥じらいと言う言葉を記憶を戻す代わりに失ってしまったのではないだろうか?

 

「はぁ〜。お前はもう少し自重しとけよ」

「何言ってるんですか!もし、もし本当にお好み焼きの中に豚の玉が入っていたらどうするんですか!」

 

豚の玉、豚の玉と連呼する女性に周りの人が奇異の目線を向けてくる。

 

早く食って違うところに行こうと屋台の店員に注文する。

 

「豚玉を一つ」

「HI!かしこまりました!……と日向氏じゃないですか」

 

「うえっ!TKなんでここにいんだよ!?」

「いや、ここの屋台を手伝ってるですYO」

 

屋台の見た目と全く合わない金髪エセ外国人がノリノリで営業している光景。シュールだな。

 

「TK先輩、ども〜チィ〜す」

「チィ〜すユイちゃん来てくれてthank you」

 

「いやいやチィ〜すじゃねぇよ」

「もしかしてひなっち先輩もチィ〜すやりたいんですか?」

 

「日向氏も素直じゃないですねぇー」

 

「ふん、誰がチィ〜すなんかやるかよチィ〜すとかギャルじゃねぇ〜んだし、チィ〜すだってチィ〜すとかチィ〜すとかな」

 

べ、べつに、チィ〜すなんてやりたいじゃないんだからね!

 

ニヤニヤと俺を見る二人に機嫌を悪くしてさっさと作れ!とTKに命令する。

 

それから10分後に席に豚玉が置かれる。

 

「注文は以上でよろしいですか?日向氏」

「ああバッチリだ」

 

ユイは豚玉をもくもくと食べて

 

「ふぅいけぇしゃんぱぁい。ほやなまたなほやには?」

 

口に豚玉を入れているため何を言っているかわからない。

唯一、TK先輩と言ってるのは伝わった。

 

「食ってから喋ろ」

 

と軽く小突くと少し不服そうに頬をふくらませていたが言う通りに口に入っている豚玉を飲み込む。そういう仕草がカワイイと思うのは俺だけだろうか?否!これは世界共通だな。

 

「TK先輩、なんで豚玉って言うんですか?やっぱり豚の玉なんですか?」

 

まだ、その質問で悩んでたのかよと思いつつ、正直俺も気になっていたのでTKの言葉を待つ。

 

「その前にユイちゃん、もう一回さっきの質問を言ってください」

 

「豚の玉なんですか?」

「も、もう一回お願いします。『なんですか』無しで」

 

「豚の玉?」

「も、ももう「おい、TKいい加減にしないと殺すぞ」

 

「てめぇ!何、彼氏の前で彼女にセクハラ行為してんだよ!!」

 

「日向氏も豚の玉と言ってるユイちゃんを見て悶えてたんじゃないんですか?」

 

「相変わらずお前には敵わないな」

 

そう言い、お互い手を握り合い熱い友情を確認する。だが、俺はTKの手がへし折れるぐらいの力を入れていたのは秘密だ。

 

TKが切り替えるようにユイの質問に答える

 

「豚玉の玉というのはeggつまり卵という意味なんですよ。そして、大阪市民は物を略すのが好きなので、豚玉になったんですよ。ちなみに、大阪は肉マンではなく豚まんと言います」

 

まさか本当に答えるとは………。少しいやドン引きだな。

 

「へ、へぇ〜そ、そうなんですか〜〜」

 

聞いた本人ですら引いていた。

 

「じゃあユイちゃんの質問にも答えたので僕は仕事の手伝いに戻りますよ」

「悪かったな、邪魔して」

「TK先輩また会いましょう」

 

TKが仕事に戻るのと同時に俺とユイも屋台から出た。

 

ユイは次にデサートを食べるためにいいものがないかと探索していると

 

「プハァ〜〜。やっぱりビールはいつ飲んでもうまいなぁ〜」

 

どこの酒豪だよと思いつつ声の方向を向くと……

ひさ子だった。

 

人気バンドという自覚がないらしく、昼間っからグビグビとビールを煽ってた。

「ひさ子先輩そろっとやめましょうよ」

「そうですよ。体が悪くなりますよ」

 

関根と入江が懸命にひさ子を説得している。

 

「ひなっち先輩なんかあったんですか?」

「いや、なんでもない。さっさとデサート食いにいくぞ」

 

これ以上の面倒事は嫌だったから見て見ぬふりをしてその場を離れた。

 

 

それから数分歩いているとユイの足が止まった。どうやら、デザートが決まったらしく指を指す。

 

「ひなっち先輩、私はあれをデザートととして所望します」

 

ユイが選んだのはクレープだった。

 

話は変わるがゆりっぺと天使こと立華が通っているこの学園は北と南の二つに校門がある。なぜ校門が二つあるのかは分からないが学園祭としては屋台を並べる場所が多いので便利なのかもしれない。

とまぁゆりっぺたちの学園説明は終わりとしてユイと一緒に並ぶ。

 

案外、人が並んでいるので、学生店員がメニューが書かれた紙を配っている。

 

「中々本格的なんだな。俺の学園祭にはこんなにメニュー豊富じゃなかったぞ」

 

なんとかクリームやらコーヒーゼリークレープやら目立つ色で納豆オクラネバネバクレープという学生の悪ふざけが滲み出ているものまであった。

 

「ナットウオクラ…………」

 

隣から呪詛のような言葉の呟きを聞こえないふりをする。

そして、俺らの番になったらしく注文する。

「何にするんだ?納豆オクラネバネバクレープ以外でな!」

 

念には念を、備えあれば憂いなし。一応釘をさしとく。

一瞬ユイの動きが止まったが気にしない。

ユイがメニューをつついて食べたいのを俺に伝える。

それを俺は店員に伝える。

 

「じゃあ、この一期一会のイチゴ甘々クレープで」

 

半ばヤケだった。こんな羞恥プレイみたいなものを頼ませるユイを軽く睨むが、してやったりという顔をユイは浮かべていた。

 

納豆オクラなんたらのせいで完全に見落としていたのを後悔する。

 

「お待たせしました。一期一会のイチゴ甘々クレープです」

 

えっ?なんでわざわざ声に出して言うの?なんで俺に渡してくんの?意味が分からず、すぐにユイに手渡す。

 

それを美味しく食べるユイを見てるとそんなことはどうでもよくなる。地球温暖化も増税もどうでもよくなる。

 

いきなりイチゴのシロップが付いてるクリームをスプーンに乗せて俺に向けてくる。

 

「えぇーとそのーあ、あ〜ん」

 

ちょ、いきなりこれは反則だろ!?あのタダで食う飯はうまいと言ってたユイが俺にあ〜んだと!?

 

意を決して あ〜んと声に出しながら口を開ける。

「あ〜〜ん」

 

なにが起きたのか分からなかった。

俺に向けられていたスプーンがユイ自身の口の中に消えていった。

「ん〜〜おいしい〜〜」

 

「ユ、ユイーッ!自分が何をしたか分かってんのかーーー!!!!」

 

男心を弄んだ罪重いぞ!

臨戦態勢に入る寸前の俺にまたしてもスプーンが向けられる。

 

「ひ、ひなっち先輩。あ、あ〜〜ん」

頬を朱く染め、上目遣いのユイ。

 

「あ〜〜ん」

またしても同じ光景が広がっていた。

 

「ユゥウウツイーッ!!!またしても!!」

 

「ひなっち先輩がいけないんですよ!私に

納豆オクラネバネバクレープを食べさせないから!」

 

「そんなダークマターみたいなもんお前に食わせるわけないだろ!!腹痛で苦しむお前を見たくないんだよ!!」

 

「ひなっち先輩………」

 

「ユイ………」

 

周囲のリア充爆破しろという視線をガン無視しながらユイと愛を確認していた。

 

楽しい時間はすぐに終わるというが今日ほど自覚できたのは久々かもしれない。ましてや来年行けるのかすら分からない高校の学園祭なのだから。

 

そして、音無が岩沢に貰ったライブチケットでガルデモのライブを楽しんだ。

 

22時に終わったコンサート後の帰路。音無たちとも別れ、ユイといつものように二人で帰る。

 

「いや〜すごかったですね。岩沢先輩たち」

 

まだライブの余韻に浸っているユイに気になっていた事を聞く。

 

「なぁユイ。お前はやっぱり………ガルデモに戻るのか?」

 

岩沢にも実力を認められていて、前からの夢だった岩沢と一緒に演奏できる。

ユイにとってはこれ以上ないことだろう。

 

「ひなっち先輩はどうして欲しいですか?」

 

そこには普段おちゃらけているユイの姿はなかった。

 

それはただ純粋な質問なんだろうか?今の俺には検討もつかなかった。

 

だがもし、俺がガルデモで演奏しろと言ったらユイは素直にいうことを聞くと思う。そうしたら、俺とユイの何かが失われるそう思った。

 

 

プライドなんか捨て、ユイの幸せを考えずただ自分の幸せのためにユイの質問に答える。

 

「俺と一緒にいてくれユイ!女々しい、わがままと蔑まされてもいい。俺はお前と一緒にこの第二の人生を満足いくまで過ごしたい!」

 

ユイは緊張の糸が切れたようにふらっと俺の胸に体をあずけてくる。それを軽く受け止める。

 

「怖かったです。もしも先輩がガルデモに行けって言われたら私ダメになってましたよ。でも、先輩が先輩らしくってよかった」

 

ユイの小柄な体を包み込むように優しく抱きしめる。

 

「知ってるだろ?俺がお前に負けないぐらいのわがままだって」

 

「そうですね。先輩は自己中のわがまま男ですね。その自己中のわがまま男のわがままを聞いたんですから、私のわがままも聞いてくださいね」

 

俺の胸から抜けて、俺の目の前に立つ。

 

「夜遅いですけど、これから私の家に行ってご両親に挨拶してくださいね」

「ツッ!あ〜〜、わぁ〜ったよ。恥をかかない程度にビシッと決めてやんよ」

 

遅かれ早かれ通るべき道だ。今したって変わんねぇよな。

 

ユイの家に向かうまでは、ウキウキなユイと未来設計図について話し合った。

 

子供は男の子と女の子の二人が欲しい。

 

男の子には野球を女の子には楽器を習わせ。

 

休日はみんなで出かける。

 

そんな話しをしながら街灯が照らす薄暗い道を歩いていく。

 

ふっと、何もないはずの目の前に二人の子供を俺とユイが左右に挟んで手を繋いで歩いている。

 

そんな光景が見えた。

 

 




最近は忙しいのでたいへんです。
とまぁ、今回は番外編ということで音無くんが岩沢さんと学園祭をまわってる。同じ時系列の日向とユイの話でした。この二人のラブラブっぷりと番外編を書けてものすごく嬉しいです。
次回ですが、次はあの人がでるのかな?あの人を出せるか分かりませんが次回もお楽しみに。
では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
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