Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

33 / 70
彼女には感謝している。
こんなどうしようもない俺を───と言ってくれた。
彼女に惚れ、彼女についていくことで自分の何かが変われた気がした。
今の俺に彼女は守れるんだろうか………



不幸以上の幸福を

早速野田の部屋に行きたいのだが……

 

「ひなっち先輩見てくださいよこのチーズ!アニメに出てくる穴だらけのやつですよ!」

明らかに冷蔵庫から取り出して来たチーズをユイが俺にこれでもかっ!てほど見せてくる。

 

「Oh!これは仮面ライダー新1号のフィギュアじゃないですか!こっちには2号。あっああ!V3まである!ここのご主人とは良い酒が飲めそうですね」

仮面ライダーフィギュア専用だと思われる棚に目を奪われるTK。だから、お前は何歳だよ!

 

「これが小さい頃の野田くんかしら」

飾ってある野田の子供時代の写真をほうほうと頷きながら見るゆりっぺ。

 

野田母が買い物に行った瞬間にこれだ。こりゃあ単なる空き巣だな。

「いい加減に野田の部屋に行こうぜ」

 

「それも、そぃでかゆすね」

 

「お前何食ってんの?」

 

「チーズですけど。ひなっち先輩も食べます?」

 

「食べねぇよ!おま、何勝手に食ってんだよ!って、あ〜歯型ビッシリついてるし」

 

さっき、俺に見せてきたチーズを食べているユイ。なぜこいつは人の家の食べ物を勝手に食えるんだよ。神経の太さが自分の脚ぐらいの太さあるんじゃないのか?あっユイの脚は細いから別に太くないな。

 

何事もなかったように食べ残しを冷蔵庫にしまうユイをデコピンする。そのチーズは俺が美味しくいただきました。

 

「じゃいきますか日向氏。野田っちの部屋へ」

 

TKはガサゴソと何かをポケットに詰め込んでいるけど、絶対さっき見ていた仮面ライダーのフィギュアだわ。明らかにポケットが人型の形でボッコリしていた。良い酒飲めるとか言ってたが、お前が飲むのは苦汁だけで十分だな。

 

「ゆりっぺ行こうぜ。それとTKそれ、盗んだら犯罪だからな」

フィギュアを元の位置に戻すTKを確認した後ゆりっぺの方を見てみる。

 

「おい、ゆりっぺもういいか?」

 

「ええ、そろっと行きましょ」

 

写真たてを置きリビングを出るゆりっぺ。それについていく。野田の部屋は野田母に事前に教えてもらっていたのでスムーズに部屋に着く。

 

野田の部屋に着いたがいいが……。

 

「なんか空気がドヨーンとしてますね」

 

「これがNEETの能力いやアビリティですか」

 

想像以上の負のオーラに後ずさるユイとTK。俺も正直この部屋に入りたくねぇな。だってさ野田が脂ギッシュな体型だったらここまで来たこと後悔するの目に見えてるし。

 

「いつまで突っ立てるつもり?早くしましょ」

 

人の家のインターホンを押すのを散々嫌がってたのに、ドアをノックするのは大丈夫なんだな。ゆりっぺのやつ、もしかして……んなわけねぇよな。

 

コンコンとリズム良くノックされる。鬼が出るか蛇が出るか、この場合だと……Gが出るかゴミが出るかだな。うん。

 

「…………………」

 

何もアクションがなかった。ゆりっぺはもう一度ドアをノックすると。

 

「ゲーム中はノックすんなっていつも言ってるだろ!!集中できねぇだろうが!」

 

本当に自宅警備員をこじらせている野田がドア一枚向こう側にいた。姿は見えないがその懐かしい声が死後の世界の記憶を鮮明に蘇らせてくれる。その感覚は俺だけじゃなくゆりっぺたちも同じように懐かしむようにその声の主の姿を想像しているのだろう。

 

最初に声を発したのはゆりっぺだった。

 

「残念だけどさっきのノックはあなたのお母さんじゃないわ。………野田くん」

 

「じゃ、じゃあ誰だ!」

 

家族以外の誰かが部屋の前にいることが信じられないのだろう。そもそも、家に訪ねてくる友達がいるのなら最初っから引きこもってはいない。

 

「今ここにいるのは野田くん、あなたの仲間よ」

 

セリフとしては三流なんだろうが、ゆりっぺが言うと力がある。それに惹かれたのは野田を含む俺たちなんだろう。

 

「俺が仲間と呼べるのはネットの中の奴らだ……」

 

突然の来訪者に戸惑いながらも答えたその言葉は重みがあった。味わったやつしか分からない重みが……。

 

「そんなことないですよ野田先輩!」

 

「少なくとも僕たちは野田っちの仲間ですよ」

 

野田の発言を否定する二人。だが返事がない。

 

「どうするんだゆりっぺ?」

 

部屋に大きな音が聞こえた。

 

「ゆりっぺを知っているのか!?」

 

俺の何気ない発言に野田が食いついてきた。野田のお母さんの話は本当にらしく、唯一ゆりっぺという単語が記憶に焼き付いているらしい。

 

「ああ、ゆりっぺはここにいる」

 

「ほんとなのか!」

 

「嘘じゃねぇよ。ここにいるから少しドアを開けて確認してみろよ」

 

「………わかった。ゆりっぺをドアの目の前に立たせろ」

 

「わかった。頼むゆりっぺ」

 

コクリと頷きドアの前に立つゆりっぺ。そして、ドアがほんの少し開き隙間から瞳が確認できる。

瞳がゆりっぺを見たとき大きく瞳が見開いたがすぐに元に戻り、ドアが閉じられた。

 

「……が……」

微かに聞こえる野田の声。

 

「………が………う」

 

「どうしたんだ?」

 

「俺の記憶のゆりっぺじゃない!!偽物だ!それは、ゆりっぺじゃないエセっぺだ!」

 

???。

「どういうことですか?」

 

「僕にもさっぱり」

 

わからない。一体どういうことなんだ。確かにドアの前に立っているのは正真正銘の我らがリーダーゆりっぺだ。それを偽物と否定する野田がよくわからなかった。

 

「おい、お前の記憶のゆりっぺってどんな感じなんだ?」

 

「俺の記憶のゆりっぺは可愛い」

 

「私も可愛いと思うのだけど?」

 

「もっと可愛い」

 

ドン!とドアにパンチが叩きつけられる。その音に部屋の中からヒィィと声が漏れていた。

 

「そして、誰にでも優しいし素直だ」

 

「私も優しいし、素直だし」

 

「鏡を見てから優しいと言うんだな」

 

「僕、手鏡持ってますよ。どうぞ」

 

またしてもパンチが叩きつけられる。ビキキッと木が軋む音が聞こえ、ひび割れが入る。ついでにTKにも叩きつけられた。バキキッと骨が軋む音が聞こえる。ひびは……入ってないよな。たぶん。

 

「そう言うことだ。だから大人しく帰るんだなエセっぺ」

 

ラストのセリフで完全に切れたゆりっぺのコークスクリューブローでひび割れの入ったドアはことごとく吹き飛び、野田のプライベートルームが解放された。

 

部屋の中は大して汚れてもないし、ゴミもない、Gもいない。普通の部屋が俺たちの目の前に広がっていた。ゆりっぺを切れさせた張本人は吹き飛んだドアを盾にしながら怯えていた。

 

無理もない、実際パンチでドアが吹き飛ぶなんて、アニメの世界だからな。

 

野田は脂ギッシュな体型ではなく死後の世界とあまり変わらない体型だったが髪は伸ばしっぱなしでボサボサ、目には隈ができており、生活習慣が崩れているのがすぐにわかった。

 

「ごめんなさい!ちょーしこきました!すいませんでした!」

 

全力で謝る野田にゴゴゴゴッ!!と効果音がつきそうな足取りで野田に近づく。

 

「ゆりっぺ落ち着け」

 

「TK先輩お願いします」

 

「………OH……すみません」

 

致命傷らしくTKは今だにうずくまっていた。

 

俺たちの心配をよそに野田は外れたドアを退かし、立ち上がった。

 

「好きなだけ殴っても構わない。……そういうのには……慣れてる……」

 

野田が引きこもる理由がさっきの発言で全てわかった。新しい人生でも苦しい生活をしている野田を見ると、いるのかする分からない神に怒りが込み上がってくる。

 

ゆりっぺは野田の今の状況を気づいているのに関わらず、野田に近づく。

 

「俺の記憶とは違うがゆりっぺに殴られるなら苦しくない」

 

ゆりっぺが右拳を振りかぶる。

 

俺とユイが必死に止めようと駆け込むが………。

 

パチンッ!と部屋に響き渡る。

 

「あ、あんたがそんなんじゃ、だ、だれが私を守るのよ!!」

 

グスンと鼻を啜る音が聞こえる。それが誰なのかはすぐにわかる。

ビンタをされた野田は俯き、頬の赤い紅葉を手でさする。

 

「あんた言ったわよね!私を守るって!なら、これからも責任持って守りなさいよ!」

 

だが、野田は何も答えない。目に涙を浮かべているゆりっぺ。

 

「私は大切なものを守れなかった。だから、私は戦線の仲間を守ろうとした。そう決めていたけどあなたが私を守るって言ってくれた時は正直嬉しかった。形はどうあれ、かっこ悪くても、バカにされても守ってくれた。こんな守る価値のない女を……」

 

「ゆりっぺは……じゃない」

 

野田は徐々に俯いていた顔を上げ、ゆりっぺを真正面に見据えた。

 

「ゆりっぺは守る価値のない女じゃない。俺のもう一つの記憶にあるゆりっぺはどうしようもない俺を仲間にしてくれた。ゲームよりも刺激的なものをくれた。他の人にとっては小さいことかもしれないが、二次元に逃げていた俺にはとても…とても大事な存在だ。いつでも言える。俺はゆりっぺを愛していると!!」

 

そこには咬ませ犬と呼ばれても先頭を進んで出た戦線きっての特攻隊長が目の前にいた。

 

「あなたの言うゆりっぺよりも可愛くもない、優しくも素直じゃない私をまた守ってくれるの?」

 

「俺が愛しているのは自分がいいように捏造したお姫様のようなゆりっぺじゃない、あの世界で出会った……ガサツなりに前へ進んでいき、道を示す勇者のような俺の目の前にいるゆりっぺを俺は愛している」

 

人のことを言えないが聞いていて、恥ずかしくなるような言葉を次々と告げる野田にゆりっぺはプシューとショートしていた。

 

「ひなっち先輩」

 

ボソボソと小さい声で俺に話しかけてくる。

 

「やっぱりゆりっぺ先輩、野田先輩にほの字ですよね」

 

世間でよく言う、押してダメなら引いてみな戦法なのだろうか?だが、今言えることはただ一つ。

 

「あの二人はラノベの主人公並みに鈍感だから期待するだけ無駄だから、暖かく見守ってあげようぜ」

 

チラッとユイはゆりっぺたちを見てから

「そうですね。あの調子ならいつになることやら」

 

「同感だな」

 

「これも青春の1pageというやつやな」

 

いつの間にか復活したいたTKが関西弁で語っていた。

 

まぁ何はともあれ彼女と彼に前世の不幸以上の幸福が訪れるように………。

 

 

 

 

 

 

 

その後、野田のお母さんが帰ってきて壊れたドアとショートしたゆりっぺと愛を叫びまくる野田を見て優しい笑みで料理の支度へ向かった。

 

そのあと、どうなったかはまた次の話だ。

 




どうも騎士見習いです!更新遅くってすみません。中々時間が取れず待たせてすみません。
謝罪はこの辺にして、野田くんは男だ!いや漢だ!野田くんをカッコ良く書きたかったんですどうしても。そして、ゆりっぺがアワワッ!にりましたね。
こちらとしても彼ら彼女らの行く末に幸多からんことを願わざるを得ない。(私の好きなタイトル兼言葉です)
まさにこの小説にあってますね。
では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからもがんばっていくので応援よろしくお願いします。
(意見・感想・評価待ってます)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。