Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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彼女が教えてくれた希望(新)

かなでたちと昼飯を食い終わって別れてから、時間が経ち夕日が沈んで暗くなっていた。

 

今、俺は自分の家にいる。家と言っても、駅から十分歩いたら着き、五分歩いたらスーパーがあるという最高の位置にある。

 

そのアパートの一室に俺は住んでいる。それにトイレ風呂付きで月4万円のお得物件である。自立している俺にとっては楽園と言っても過言ではない場所となっている。

 

そんな楽園の一室の中、俺は風呂の湯船浸かっている。

 

「ふぅ〜今日は色んなことがあり過ぎて疲れた」

 

湯船に浸かりながら、俺は今日1日を振り返ってみた。

 

 

かなでと会い、ゆりに会い、昼食を一緒に食べ、連絡先も交換した。俺にとって今日は奇跡とも言える一日だった。

 

 

「これも全て、ゆりのおかげなんだろうな」

 

ゆりが死後の世界で俺に希望をくれた。もしゆりがあの時、俺に教えくれなかったら、今頃俺は一人だけ記憶を取り戻して悲しんでいただろう。

 

あの時、ゆりが教えてくれた言葉が鮮明に蘇ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

死後の世界での卒業式が始まる少し前、俺はゆりに呼ばれた。

指定された場所は死んだ世界戦線が作戦本部として使用していた校長室であった。

 

 

「こんなところに呼びだしてどうしたんだゆり?」

「あら、案外早かったわね」

 

「お前が早く来いって言ったからだろ。で、話しってなんだ?」

 

「少し待ってちょうだい、整理してるから」

 

「あんまり遅くなるとかなでたちに迷惑かけるから早くしろよ」

 

 

これから俺たちは卒業式をする。かなでが仲間になり、みんなが消えた今、俺たちがここにいる理由がないからだ。死ぬ前に学園生活を満足に送れなかった俺たちにとって卒業式は特別なことである。

この世界に未練がない今、消えることは簡単だがせっかくだからとかなでが提案して採用されたのだ。

 

「時間をとって悪かったわね。もうまとまったわ」

今のゆりは初めて会ったときよりも殺伐とした雰囲気やリーダーとしての責任感が消えて今はとても女の子らしくなったと思っている。多分、みんなが消えて組織がなくなり肩の荷が下りたからだろう。

 

 

そしてゆりが口を開いた。

 

「今から言う事を真剣に聞きなさいね」

 

「あぁ」

 

「あなた生まれ変わるなら容姿をそのままにしたい?」

 

「は?」

 

「だ〜か〜ら、容姿そのままで生まれ変わりたいかって聞いてん

のよ」

 

いきなりの質問に戸惑ったが一応答えた。

 

「それが出来るなら、そうして欲しいな」

 

俺は思ったことをそのまま口に出した。

 

「そんなあなたに朗報よ。伝えるのは簡単だけど、こうして二人っきりなんて滅多になかったんだし少し歩かない?」

 

「わかった」

 

 

どこに向かうかわからないが適当に歩いているとゆりが口を開いた。

 

 

「私は黒幕のコンピュータを使い容姿をそのままにできるソフトを見つけてプログラムしたの」

 

何を言っているかわからなかった。

 

「どういうことなんだ?」

 

「そのまんまの意味よ。大丈夫ちゃんと説明してあげるから」

 

 

俺たちはいつの間にか外にいた。心地よい風が吹いていて気持ちよかった。ゆりは風で煽られている髪を少し抑えながら説明をし始めた。

 

「あなたたちが影との抗争の時、私が黒幕のところに行ってたのは知ってるわね?」

 

俺は黙って頷く。

 

「で、黒幕の部屋のコンピューターを片っ端から銃で壊したのも知ってるわね?」

 

そんな話は初耳だったが一応頷く。

 

「だけどその中に一つだけ壊れてなかったのがあったの。つい勢いで撃ちまくって少し後悔したけど生きているのがあって助かったわ」

 

勢いで撃つってどういうことだよ!と言おうとしたのを喉にとどめて続きを聞いた。

 

「私はコンピュータを起動させ一つのソフトを見つけたの」

 

「それはなんなんだ?」

 

「転生ソフトよ」

 

 

転生その言葉を聞き色々と考えたが答えは一つしかなさそうだ。

 

「最初の質問の意味がようやくわかったよ」

 

「さすが音無くんね。理解が早くて助かるわ」

 

「具体的にはどんなソフトなんだ?」

 

「主に消えた後の設定よ」

 

「設定?」

 

 

どういうことなんだと思いながらもゆりの言葉を聞く。

 

「顔を生前のままにしたり、ある条件を果たしたらこの世界、前世の記憶が蘇るプログラムがあったわ」

それが本当なら俺にとっては朗報以上の知らせだった。だが確信がない限りそれは信じられない。

 

「確信がない今、それを信じていいのか?」

 

「それは私にもわからないわ。でもこの世界には神も仏も天使もいない。なら、信じられるのは自分がこうなって欲しいただの純粋な願いだけでしょ」

 

俺はゆりが言った言葉に腹を抱えて笑ってしまった。

 

「ああまったくその通りだな」

 

俺は笑いながらもゆりの方を見てみると、ゆりは赤面としていた。

「あ〜もう、笑うな!私がこういう考えを持ったのは音無くんの影響なの」

「悪い悪いついな。でもそうだよな、一番大事なのは確信でも根拠でもない自分がそうなりたいと思う純粋な願いだけだな」

 

 

ゆりも俺の言葉を聞いて微笑む。

 

「音無くんは消えたらどうするの?」

 

 

「誰よりも早く記憶を戻してみんなと会って記憶を思いださせる。だけど問題がな……」

 

「言おうとしてることはわかるわ。でも心配しないでちゃんと戦線メンバーをソフトにプログラムしたわ」

 

本当にうちのリーダーは頼れる。そんなゆりに何回も救われて感謝の気持ちでいっぱいだった。

 

「ありがとなゆり、君と出会えて良かったよ。

俺の言葉にまたゆりは赤面する。今までにない新鮮な反応に彼女自身の可愛らしさが際立つ。

 

「ちょっいきなりなに言ってんのよ!?」

 

その驚きように、また笑そうになったが堪えてゆりの言葉を待つ。

「んまぁ、私もあなたと出会えてよかったわ」

 

歩いているうちにあの日、あの時のゆりと出会ったところに立っていた。目を閉じれば瞼の裏に浮かぶよ。

 

「覚えているか?」

 

「えぇ。あの時は大変だったわね」

 

「あぁ。お互い様にな」

 

 

俺はここでゆりに会い、戦線のメンバーになった。数多くのオペレーションをこなしている時は楽しかった。

 

今はもう戦線メンバーも俺を含めて4人しかいない。だがいいんだ。今日卒業して生まれ変わってまたみんなと出会い楽しく過ごせる時間が来ることを信じて。

 

そう思っていると体育館の方から声が聞こえた。

 

 

「お〜い音無、ゆりっぺ始めるぞ〜」

「音無さーん早く来てくださいよー」

 

「ゆりちゃーんはーやーく」

 

日向と直井とかなでの声だった。

 

「さぁ音無くん。みんなが待ってるようだし行きましょ」

 

「あぁ」

 

俺はみんなのところに向かって走りながら思った。

 

 

必ずお前らを探し出して記憶を思い出させてやる。

 

その時まで待っていてくれ。

 

 

────みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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