Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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C7
戦線旅行


また新しい季節が来た。

春。それは、終わりであり始まりでもある。そんな新しい旅路を促す季節。

 

首都高速に入り、凄まじいスピードで次々と車を追い越して行くTK。いくら高速とはいえ、出しすぎじゃないのか?

 

だが、そんな心配する余裕は今の俺にはない。なぜなら……。

 

「岩沢さん!音無さんにくっ付き過ぎじゃないですか?」

 

「何を言ってるんだ?車内が狭いから自然とこうなるだけだけど。そういう立華こそ」

 

「わ、私も車内が狭いからしょうがないんです」

 

かなでと岩沢が俺を挟むというサンドイッチ状態なんだが、俺を挟んでの修羅場は勘弁してほしい。

 

「役得だな音無、羨ましいぜ。ところでユイ、抓らないでくれ。すまなかった」

 

「ツーん。浮気者のひなっち先輩のことなんて無視です」

 

「ほんとバカね日向くんも。ユイという者がいながら、ね、野田くん?」

 

「そうだぞ日向ぁ!漢というのは他の女に目を移ってはいけないぞ!」

 

今日までほとんど会ってない二組は何故か仲良さがUPしていた。

 

かなで、ゆりの受験のために俺たちは合格発表まではできる限り会わないように二人をきずかったためにこうして、みんなに会うのは何ヶ月ぶりだろうな。

 

合格祝いの旅行ということで俺たちは温泉旅館に向かっている。この旅行を提供してくれたのが岩沢たちで今度、収録するリポートの下見を含めて俺たちを誘ってくれた。

最初は岩沢の独断で俺だけを招待しようとしていたがひさ子たちの協力で『結弦がそこまで言うなら、ゆりっぺたちもいいよ』と不満タラタラといった感じで了承してくれた。ひさ子たちとは現地集合の予定だったんだが、何故か岩沢だけがこっちに来ていた。本人曰く、旅行は始めが肝心らしい。

 

で、運転免許を持ってるTKも誘って今にいたる。

 

ついでに席順は助手席に荷物、その後ろに俺とかなでと岩沢。後部座席に日向、ユイ。トランクにゆりと野田。ジャンケンによる席決めでした。

 

「折角なんだから、直井くんも来れたらよかったのに」

 

「あいつ忙しいからな」

 

〜直井を誘う回想〜

 

直井には世話になってたしな。こういう機会ぐらい一緒に遊びたいな。と思ったらケータイに着信が入る。

 

『もしもし』

 

『うぉとぉなぁしぃさぁん!!』ブチッ

 

もしもしを言わないとか、それ日本人として終わってね?

 

再度着信が入る。

 

『次それやったら着信拒否するからな』

 

おっと、俺も人のこと言えないな。ハッハッハッ。

 

『すいません……でした』

相当な落ち込みで。

 

『すいません音無さん。折角のお誘いなんですが僕も色々と仕事がありまして、ゆりっぺさんからの要件もありまして。本当に申し訳ありません』

 

『そうか、残念だな。それよりもなんで誘うって知ってるんだよ?」

 

『それは愛』ブチッ

 

本当に残念だよ。色んな意味で……。

 

〜回想終了〜

 

そんなことがあったが。ゆりの要件が気になって、ゆりに聞いても何も教えてくれなかったな。

「だから、くっ付き過ぎです!」

 

「くっ付いて何が悪い?結弦も嬉しいよな?」

 

Oh……。柔らかな二つの膨らみがこれは一言で言うなら……極上!

 

「鼻の下伸ばしすぎです音無さん!うぅ〜」

 

不機嫌なかなでも捨てたもんじゃないな。

 

「結弦、結弦」

 

岩沢にいきなり名前を呼ばれる。

「どうした岩沢?」

 

「………」

 

「えっと……どうしたまさみ?」

 

「…………あっ、間違えた。もう一回」

 

よく分からずテイク2。

 

「どうした岩沢?」

 

「…………」

 

「えっと……どうしたまさみ?」

 

「ただ……呼んでみただけ」

 

微笑む岩沢。これを一発で成功させれば文句無しでハートを撃ち抜かれたんだがな。やっぱり音楽以外は抜けてるな。

 

それから修羅場が何度も訪れたが今は二人ともグッスリと寝ている。

 

「おや、かなでちゃんと岩沢ちゃんはお寝んねですか」

 

運転しているTKは少しシュールだな。

 

「そうみたいだな」

 

俺の両肩にかなでの頭と岩沢の頭がくっ付き可愛い寝顔と寝息をたててる。

 

「なんだ、結局野郎どもしか起きてねぇのか」

 

「ゆりっぺの寝顔は眩しすぎる」

 

どうやら女性陣はみな寝てしまったようだ。

 

「いつもはうるさいけど、こうして無防備に寝ている姿を見ると守りたくなるよな」

 

「ハッハッハッ。その通りですね」

 

「俺はいつでも守っているがな」

 

「ということは、俺たちは騎士ってことになるよな」

 

それはいいな、と日向が笑うと野田もTKもつられて笑う。

 

「こんな可愛い姫様を守れるのは世界広しといえども俺らだけだな」

 

「「「まったくだ」」」

 

あらためて男と男の友情を強くした、そんな車内だった。

 

 

 

「着いた〜〜!!」

 

車から降りると同時に声を上げるゆり。

目の前には純和風の造りの壮大な旅行が建っている。

 

「おっ!遅かったな岩沢!こっちだ!」

 

先に着いていたひさ子たちが玄関付近で俺たちを手招く。

 

「じゃあ全員揃ったし、中に入るか」

 

恐る恐る中に入ると熊の剥製や埃一つない床、カーペットの敷かれた長い廊下。俺たちみたいなのが泊まっていいのだろうか。ダメだろ。

 

「遠路遥々ご苦労様です。この旅館の女将を務めさせてもらってます加藤と言います。よろしくお願いします」

 

女将の加藤さんはとても色気があり、フェロモンっぽいのが出てそうで、つい魅了されてしまう。そして何故か、かなでと岩沢に抓られていたのは分からずじまい。

 

さっきからあまりの豪華さに口一つ動かせないゆりたちは口をパクパクさせ、庶民魂全開だった。

 

「荷物はここに置いといて下さい。後で我々が部屋に持っていきますので」

 

高級な旅館の女将だけあって一つ一つの動作は洗礼されてますます美しく感じる。

 

「部屋は男女別なので途中までは一緒ですが女性の皆様はこちらの新人が御案内しますのでよろしくお願いします」

 

女将が手招きで呼んだ女性はそれこそ、この旅館にピッタリな女性だった。

 

黒い艶のある長い髪に繊細そうな見た目と反している鋭い瞳は現代の大和撫子と言っても過言ではないかもしれない。

 

女性は見た目通りの美しい動作でお辞儀をし、顔を上げる。

 

「最近、この旅館でお世話になっております。椎名といいます」

 

???????

 

まさか………。

 

「みんな集合!」

 

ゆりの号令のもと、かなで以外のみんなが円陣を組む形で集まる。かなではというと、好奇心旺盛でお土産を見ている。

「みんなどう思うかしら?」

 

「多分、俺は椎名だと思う。いやそう信じたい」

 

「んまぁ、椎名っちかもしんないな」

 

「ですが、もし人違いだったら」

 

「僕は椎名氏に近いなにかを感じます」

 

「私もそう思うんだが、岩沢はどう思う?」

 

「あたしは結弦を信じる」

 

「岩沢先輩そういうことは控えてくださいよ」

 

「みゆきちの言う通りですよ岩沢先輩」

 

みんなそれぞれの意見を述べる。ボソボソと小声で話してるから旅館の人の目を気にしてしまう。恥ずかしいぞ。

 

「最後に野田くんはどう思う?」

 

なぜか円陣に入っていない野田。どこ行ったんだあいつ?

辺りを見るとすぐに見つかった。

 

柱の隅っこで三角座りになり小刻みに震えている野田がいた。

 

(((((やっぱり椎名(さん)(っち)だ(な)(わ)この人)))))

 

野田の椎名恐怖症が出たということはそれが答えだ。まさか、あの椎名が旅館の従業員とは。

 

「どうかなさいましたか?」

 

女将の言葉を聞き、全員が整列する。

 

見た目から見るに椎名の年は少なくとも俺よりは年上だな。あっちの世界でも綺麗だったが大人になってるせいか、もっと美人になってる。

 

「い、いえなんでもありません」

 

「そうですか、では、お部屋に御案内します」

 

建物が大きい割には部屋はあまり多くなかった。高級なところはだいたいそうなんだろうな。

 

「女性の皆様はこちらへ」

 

T字路で男女別れる。どうやら左が女性部屋、右が男性部屋らしかった。ちなみに夫婦やカップル、家族は別階らしい。

 

 

 

 

男共と別れ、椎名さんに着いて行く私たち。

本当に椎名さんだなんて信じられないけど、野田くんのトラウマスイッチがONだったから間違いないわね。

 

それにしても着物って……可愛いじゃない。

 

「あの椎名さんって何の動物が好きなんですか?」

 

かなでちゃんの何気ない質問。ここは注意するところだけど今回はナイスよ、かなでちゃん。

 

私たちは椎名さんの答えを待つ。椎名さんは少し考えた仕草をした後。

 

「可愛いものなら、なんでもいいんですが……強いて言うなら、犬ですね」

 

(((((椎名(さん)だこれ)))))

 

やっぱり犬が好きなのね椎名さん。何体もぬいぐるみ作ってたもんね。

 

「こちらでございます」

 

畳敷きに障子、別室もあり外には露天風呂が常備されている。流石に番組で紹介するほどの贅沢具合だわ。

 

岩沢さんたちは慣れてる感じでくつろいでいる。それに比べてかなでとユイは辺りを物色し始めている。私も物色したいけど!けど!リーダーとしての威厳が……。

 

まっ、結局物色したわよ。文句あるかしら?

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

女将さんに案内された部屋は男四人には十分過ぎるほどの広さだった。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

女将さんが襖を閉めようとしたが少し止まって。

 

「この時間の温泉は一番風呂ですので御自由に入浴してください」

 

わざわざ一番風呂だということを言い残していくなんて、どうやら女将さんは俺たちを子供扱いしてるらしいな。

 

「今更一番風呂なんかで喜んだりしねぇよな」

 

「ふん。愚問だな」

 

「僕たちは大人ですからね」

 

「TKの言う通り俺たちは大人なんだよ」

 

女将の言葉に呆れる俺たち。

 

ボーンという時計の鈍い音が部屋に響いた瞬間。

 

「「「「一番風呂は俺だーー!!!」」」」

 

野生の力を解き放ち俺は全速力で温泉に向かう。

 

「風に風になるんだ!」

 

 

 

結果、怒られました。

 

 

旅館の華ともいえる温泉。

 

今は春。だから桜の木がライトアップされている露天風呂は神秘的な雰囲気を感じさせる。

 

「あ〜良い湯だわ〜」

 

「だな〜」

 

溶ける勢いで湯に浸かる。今日一日の疲れが吸われてるようで気持ちいい。

 

男四人で風呂に入ってるのは中々に暑苦しいがこれはこれで有りだと思う。

 

突然、女性の露天風呂が騒がしくなる。どうやらゆりたちも入ってきたらしく、話し声が聞こえてくる。

 

『あれ?ユイちゃん少し大きくなった?』

 

『いきなりどうしたの、しおりん?』

 

『どうしたもこうしたもない!ユイちゃん!』

 

『ヒャ!いきなり何するの。ぁあっ!ちょ、やめっててばぁあん!』

 

『みゆきちも触るかい?ユイちゃんのを』

 

『……遠慮しとくよ』

 

ど、どうやら竹の柵一枚向こうには楽園があるらしいが、そんなんで騒ぐのは中高生だけだ。

 

いきなり、日向が立ち上がる。ゆっくりと竹の柵に近づき。

 

「楽園の入り口はどこだ!!」

 

覗けるような隙間を探しているらしく、竹と竹の間に顔を近づけて見て回っている。

 

はぁ……。この年で覗きって馬鹿らしいな。

 

『私なんかより、ゆりっぺ先輩の方が十分良いですよ。出るとこは出て、締まるところは締まる。モデル体型じゃないですか!正直羨ましいです』

 

『私なんてまだまだよって!どこ触ってんのよ、あんたたち!ちょっと鎖骨は鎖骨はらめぇ!』

 

次は野田が立ち上がった。ゆっくりと日向に近づいていく。

 

「野田!日向にガツンと言ってやれ」

 

「そうですよ。紳士として一言、言ってやってください」

 

野田が日向の肩を掴む。

 

「おい日向ぁ!お前は右側を担当しろぉ!俺は左側を担当するぅ!」

 

「助かるぜ!野田!」

 

覗こうとするバカがまた一人増えた。こんなんと一緒に風呂に浸かるなんて嫌になるな。ほんと。

 

『にしても……ひさ子先輩って大きすぎですよ』

 

『そうよね。このレベルになると犯罪ね』

 

『ひさ子さんは歩く性犯罪ってことですか?』

 

かなでは何を言ってるんだ?ひさ子に向かって歩く性犯罪って根性あるな。

 

『立華、誰が歩く性犯罪なんだあっ、あん!ユイお前いきなり』

 

『おお!すごい揉み応え。一生揉んでたいぐらいです』

 

『枕にしたいな』

 

『マシュマロの中のマシュマロみたいです!』

 

『おい岩沢!ユイ!揉むな〜!そんなとこ触っちゃあらめぇだって〜!やめてぇ〜!』

 

マシュマロの中のマシュマロだと!?一体どんなマシュマロなんだ!?だが落ち着け俺。COOLに行こうぜ。

 

常識人の最後の砦、TKが立ち上がる。これであの二人は終わったな、お気の毒に。

 

威圧感のある足取りで日向と野田に近づくTK。

 

「あいつらに常識を叩き込んでやれTK!」

 

ついにTKの手が二人の肩を掴む。そして………。

 

「わいも力を貸したる!わいらの欲望をこの憎き竹の柵に叩き込んでやるんや!」

 

だ、れ、が!欲望を竹の柵に叩き込めって言ったんだ?おい!

 

「TK……。がんばろう!共に!」

 

「TKがいれば百人力だ!」

 

力を得た覗き魔は残像ができるぐらいの速さで竹と竹の間を調べている。

 

『かなでの肌スベスベでモチモチ!憧れるわ〜』

 

『くすぐったいよ、ゆりちゃん』

 

『岩沢も負けてないぞ。張りのある肌!胸も大きくなってる、まさに理想の女性だ』

 

『そんなに触られると恥ずかしいんだが』

 

今だに楽園の入り口を見つけられない三人。

 

もう、ここは俺がガツンと言ってやる!立ち上がり、日向たちのところへ行く。

 

本当学習しない奴らだな。呆れながら三人の肩を叩く。

 

「もっと頭を使え!女風呂から湯気がこっちに漏れてる箇所を探せ!そこは隙間が大きいぞ!ほら急げぇ!!」

 

「来ると信じてたぜ!相棒!」

 

「これが漢と漢の友情……。悪くないな」

 

「おぉぉ!!気合が入ってきたわ!」

 

そして、俺たちは一つになった。美しき楽園に辿り着くために………。

 

「合言葉は!!」

 

「「「「漢の(ロマン)楽園(サンクチュアリ)へ!!!」」」」

 

俺たちは闘いへ、身を投じた。

 

 

 

 

 

半分のぼせたが、結局覗くことができなかった俺たち。

 

俺たちの苦労を知らずに旬の料理を頬張る女性陣。

 

料理は美味しかった。でも、何かモヤモヤしたものがあった。

 

 

そして、就寝前。

 

「みんな飯どうだった?」

 

「音無。分かってるだろ、そんなことぐらい」

 

「モヤモヤしてたぞ」

 

「僕もです」

 

やっぱりみんな同じ気持ちのようだった。なら!

 

「このモヤモヤを解消するには覗ききるしかない!だから、明日で決着をつける!」

 

「「「おう!!!」」」

 

「漢の中の漢の力を見せてやろうぜ!!みんな!」

 

「「「しゃああ!!!」」」

 

「じゃあ!寝るぞ!!」

 

「「「合点!!!」」」

 

ものすごいハイテンションのまま俺たちは旅行の一日目を無事に終えた。

 

 

 

 

 

 

 




どうも、最近2週間に1話というペースで投稿したいと願ってる騎士見習いです。
今回の話であさはかなりこと椎名さんが出てきました!高級旅行の従業員、着物を着こなす和風美人!椎名さん可愛すぎるぅぅ!!この部は色々とありますので。
そして!漢の友情が深く強くなる話も!覗きたいです私も楽園に行きたいです!!
では、あらためまして1ヶ月ぶりぐらいの投稿でしたがこれからは投稿ペースを上げたいと思っているので応援よろしくお願いします。(意見・感想・評価ドシドシ募集してます!どうかよろしく)

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