Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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俺にはあいつが僕には君が
姉御麻雀


三十路を超えている大人たちの煙草の臭いが辺りに広がっていて、不快に思いながらも少し硬めの椅子に座りながら淡々と打ち続ける。

「日向それ、ロン。七千七百」

 

ひさ子に振り込んじまったか。気を取り直して、もう一局始める。

 

「ポン!」

 

TKから張りのある声が出る。ひさ子の親を早く流したいらしいな。

とりあえず、聴牌気配のあるひさ子を警戒しつつ牌を切る。ひさ子は山から牌を取るとすぐに捨てた。

 

「カン!」

 

TKの加槓。張ったなコイツ。TK嶺上牌を取ろうとしたその時。

 

「その嶺上取る必要なし」

 

TKはその言葉を聞き、警戒した表情でひさ子の方を見る。

 

「カンした瞬間ロンと言ったはずだが?聞こえなかったか」

 

ひさ子の手牌がパラララと音をたてながら倒れる。

 

「槍槓だ。その槓成立せず」

 

「嘘だろ!?槍槓ってどんな確率だよ」

 

「Oh………」

 

一万二千と鬼のような強さで、俺らの点棒を消し飛ばしていく。これが賭け麻雀だったらお陀仏だな。

そして、またしてもひさ子の親番。

 

実際今してるのは三麻だが、

 

「カン!」

 

折角仕事のない日を麻雀に使うなんて

 

「もいっこカン!」

 

どんだけ麻雀が好きなんだろうな。

 

「もいっこカン!」

 

しかも、出禁になってる店がありすぎて大変だ。なんて麻雀キチとしか言えねぇよな。

 

「ロン、清一色対々和三暗刻三カンツ赤一嶺上開花。数え役満。三万二千」

 

えっ?跳んだのか俺。

 

「って、うえぇぇ!!数え役満!?うえぇぇ!!」

 

さっきといい、こいつの悪運どうなってんだほんと。

 

「弱すぎだろ日向」

 

「お前が強すぎんだよ。なぁ、TK?」

 

「牌に愛されし者ですね」

 

ふざけてるように聞こえるTKの言葉もあながち間違えじゃあない。現にトップどころか跳ばなかったこと自体がない。

 

「なかなかおもしれぇ麻雀を打つんだなお嬢ちゃん」

 

突然背後から声が聞こえ、体が強ばった。俺も含め、二人の視線もその男性の方に向く。

グレーのパーカーを着て、フードを目深く被ってるせいで、顔が見えず口元だけが見えていた。百人中百人が怪しいと思う格好だった。

 

「なんだい?いきなり話しかけるなんて。ナンパなら帰んな」

 

姉御対応を見せるひさ子に惚れそうになるが、男性はふふっ、唇を吊り上げ苦笑混じりに笑っている。

 

「それもいいが、今日はここら辺で噂になってる雀士のあんたと打ちに来たんだよ」

 

「残念だが人違いだ。他に行きな」

 

「凛々しい顔つきにポニーテール、そして巨乳。情報通りだが、仮に違うとしてもここで会ったのも何かの縁だ。東風戦ぐらいいいだろ」

 

了承も得ず、自然な動作で空いてる椅子に座りかける。いつから居たのか分からないが、黒服の男性二人がフード男の後ろに着く。

 

裏社会関係かもな。たった一人の雀士を探すための情報量、時間的余裕、人員。この点だけで確信が持てる。

 

別段、ひさ子と打つのはこれが初めてじゃないからな。ああいう関係者とは何度も見る機会があったから、そういう類っつうのは雰囲気で察することができる。

 

「はぁ〜。ったく、めんどいな。東風戦だけだからな」

 

「ありがたいな。簡潔に、俺とお嬢ちゃんだけが二万五千点持ちの他二人は点棒無制限。もちろん、そこの兄ちゃんたちはお嬢ちゃんの味方として、アシストなりしてもいいぜ」

 

純粋な一対一をしたいらしいが、最後の軽い挑発は軽率だな。俺たちがそんなことしたら、ひさ子のやつに殺されちまう。

TKも俺と同じ考えらしく中立つまり、トップを狙いにいく。

 

「まぁそれでいいよ。早速、始めようか」

 

ひさ子が次々と四面の牌の山を築いていく。

 

起家はTK。東風戦は半荘の半分のため最短で四回で終わる。そのため、必要なのは圧倒的スピード。鳴いて鳴いて鳴きまくるぜ!

 

「ポン!」

 

八巡目で鳴き、一気にリーチに近づく。三人を見るに張ってなさそうだな。二索を捨てる。

 

「ロン。三千九百。悪いな兄ちゃん」

 

な!?気配が読めなかった。だけど、次は俺の親番。切り替えて行くか。

 

「ロン。六千四百。またまた悪いな」

 

振り込んでばっかだ。悪いひさ子、このままじゃ、お前が負けちまう。

 

「拾いにすり替え。あんた、つまんないことすんだな」

 

「拾い、すり替え!?それってイカサマじゃねぇかよ」

 

すり替えは手牌とツモ牌を入れ替える技。拾いは捨牌から好きな牌を拾い、代わりにいらない牌を置く技。どれも、有名なイカサマだ。

 

「どこにイカサマをしたって証拠があるんだ?疑うのはよしてくれよ。仲良くやろうぜ」

 

白々しいやつ。ずっと気づかなかったんだ、今更注意して、見てても見落とす可能性が高い。打つ手なしか。

 

「目には目を歯には歯をイカサマにはイカサマをだ」

 

背筋が凍るような言葉と共に牌を混ぜるひさ子。そして、ひさ子の親だが、イカサマを使われたんじゃすぐに流れちまう。

我らがひさ子の姉御を信じつつ手牌を見る。良くもなく悪くもない手牌にため息しつつ、東三局が始まる。

 

「ツモ」

 

「「「はっ?」」」

 

倒れた牌は確かにツモっていた。これって……。

 

「天和なんて初めて見た」

 

確率的には確か、三十三万局で一回できるかどうかだったか。まさか、こんな奇跡的な瞬間に遭遇できるなんてな。

 

「四万二千。あたしの勝ちだな」

 

「ひさ子姉さんカッコいい!まさにミラクル!アカギか何かの親戚かなんかなんですか、ひさ子姉さんは!」

 

TKも興奮している。そんな俺もTwitterとかにツイートしたい衝動に駆られてるぜ。

 

「クッ、ククク。アッハハハハ!!燕返しなんて使う奴初めて見た!やっぱりお前は大物だな!」

なぜか、上機嫌の男を不思議に思ってると。

 

「そろっと、顔を見せなよ。藤巻」

 

藤巻というフードの男。

 

「やっぱり気づいてたか。ひさ子」

 

「当たり前だろ。何百回もお前の打ち方、イカサマを見てきたんだ、それくらい分かるよ」

 

フードを脱ぎ、その顔が出された。

そこにいたのは、嘘偽りのない。戦線の藤巻だった。

 

「相変わらずだな、お前らも」

 

「ほんとに藤巻か?」

 

藤巻じゃなくって、富士牧なんて名前のやつだったら、ぶっ飛ばす。

 

「ドスは忘れちまったが、日向の知ってる藤巻だ」

 

再会を喜びたいんだが、一つ疑問がある。

 

「なんで、記憶があるんだ?」

 

「ちょっと、訳があってな。それに、お前らに頼みがあるんだわ」

 

藤巻は引率してた黒服の男二人に首で指図し店から出した。

 

 

 

 

 

雀荘の客室にある、ソファーに藤巻と向かい合うように座る。

改めて顔を見れば分かるが、風貌というか気迫が戦線の頃よりも格段に増している。

 

「で、あたし達に頼みってなんなんだ?」

 

再会を喜ぶことなく、いきなり核心を突くのはなんともひさ子らしいが、もうちょっとオブラートに包んでもいいと思うがな。

 

藤巻が突然立ちだし、テーブルとソファーの間の隙間に移動し。

 

「大山の!大山の記憶を戻してくれ!!」

 

誠心誠意の土下座だった。額をひいてあるカーペットに擦りつける。

 

「話が唐突すぎるぞ。ちゃんと一から説明してくれなきゃ、分かるもんも分からなくなるだろ。だから、土下座をやめろ」

 

「あ、ああ。突然すまなかったな」

 

沈んだ表情でソファーに座り直す藤巻。

テーブルに置かれているコーヒーを一口飲んで落ち着いたらしく俺らの顔を見る。

 

「説明する前にこの世界に生きる、俺の自己紹介がまだだったな」

 

着ていたパーカーを脱ぎスーツが顕になる。襟には金色に輝く代紋が目に入った。

 

「大山組若頭補佐が一人、藤巻 龍哉、二十七歳。どうぞ、お見知りよ」

 

「「「え、ええ〜〜!!」」」

 

わ、若頭補佐ってヤクザのNo.3みたいなもんだろ。それが藤巻だって!?

 

もしかして、俺らって相当メンドイことに巻き込まれたのかもしれないな。




騎士見習いです。なんとも1月というのは忙しいですよね。まったく執筆時間が取れなく大変でした。

今回で藤巻がでてきましたね。着々とメンバーを集めてきてようやく半分ってところまできました。終わるまでに今の倍以上の話を書かなきゃ、いけないかもしれないです。
そして、TKの登場数がすごくなっている。困ったらTK。そんな便利なキャラ!TKこれからもよろしく!

では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからも応援ヨロ ゚+.゚ヽ(*>∇<)ノ゚.+゚ シク♪お願い(^人^)しますぅぅ。

(意見、感想、評価お待ちしてます)
あっ、質問もお待ちしてますよ。もちろん、私への質問でもおkです。

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