Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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大山組

ヤクザのヤーさんになってしまった藤巻。ま、常日頃からドス持ってたし、必然なのか。

 

「おい、貴様ら。これはどういうことだ?」

 

「どういうことって、こういうことだ」

 

「貴様は説明すらできないのか?それとも、日本語を使いこなせないのか」

 

こんな口の悪い奴が、日本の未来を背負って立つなんて世も末だぜ。

真っ黒な政治家にさっきまでの事情を簡単に説明する。

 

「大体の事情は分かった。そのために、この僕を呼ぶのに音無さんが会いたいという嘘をついたわけだな」

 

「もち」

 

深い溜め息をつく直井。

 

「僕は音無さんに会えるという機会が訪れたことを心底喜んだ。だが、貴様は僕の純情を弄んだんだ!責任を取れ!」

 

後半だけ聞くと誤解されやすいことになっているが、多分、こうでもしないとこいつ俺の呼び出しなんて無視するに決まってるからな。

 

「そうだぞ日向。男なら黙って責任を取れよな」

 

「日向氏のたらし!」

 

「えんこつめて責任取れ!」

 

明らかに一人だけ俺らと住む世界が違う言葉を使っているが、気にしない。

まぁ、悪いことをしたのには変わりないよな。

 

「その、なんだ。悪かったな、嘘ついちまって。許してくれ」

 

「貴様が素直に謝るのは何か気持ち悪いが、反省してるようだから、今回だけは不問にしとく。それと、そこの社会のゴミの件も乗り掛かった船だ、協力してやる」

 

 

直井のやつも本当に丸くなったな。やっぱり、戦線での日々は良い影響となってたんだな。

 

「それはありがてぇ!早速行くぞ!」

 

「今からか?藤巻」

 

「ったりめ〜だろ。ひさ子、思い立ったが吉日だ」

 

いつの間にか外に黒の高級車が待機されている。ひさ子は藤巻に腕を引っ張られて早足で外に向かっていっている。

なんだかんだでお似合いな二人だな。

 

「高級車に乗るなんて初めてでテンションアゲアゲですよ!」

 

「僕はあんな車乗りすぎて飽きているがな」

 

「置いていかれるから、早く行くぞ」

 

 

案の定、車の中はフワフワ座席だった。底なし沼か?というほど沈んでいくぐらい低反発。

 

「なんでお前、ヤクザになったんだ?」

 

野田に負けず劣らずの噛ませ犬っぷりだったが、そんなやつが組のNo.3だなんて不思議だ。

 

「僕も聞きたいな。大山組といえば名の通ってる組だ。そんな組に噛ませ犬の貴様が、入れるなんて何をしたんだ?」

 

「散々言ってくれているが、ちゃんと手柄を挙げてのし上がったとしか言えねぇよ。昔はヤンチャしてたから自然とそっちの世界に足を踏み入った結果、うまくいったんだよ」

 

どうにも俺みたいな一般人には、ヤクザなどにどうやってなっていいかが分からないんだよな。

 

「でもまぁ、俺の記憶が戻ったのは大山に会えたからなんだよな。最初は呼び捨てにして、近づいていったら取り巻きにリンチにされたよ」

 

懐かしき思い出に浸るようにハハッと笑みを浮かべている藤巻。リンチされたことを楽しそうに思い出すのは危ないやつとしか言えない。

 

「そこから、大山と真正面から話ができるように雑用からやばい仕事も一言で受けていて、気がついたらここまで昇ってきたってわけだ」

 

藤巻にとって大山はそこまで大きな存在になってるのか。

 

「ほら、着いたぞ」

 

話に夢中になってたせいか時間感覚が変になってたらし

く、あっという間だった。

 

始めに見えていたコンビニなどの店の面影が全くなく、住宅が二、三軒見える程度。そこにポツリと周囲に重苦しい空気を放っている一軒の豪華な和式の家が建っている。

家の周りを囲う塀に瓦屋根。木造の大門と明らかに踏み入れてはいけない造りだった。

 

車から降りて、近くで見るとその迫力は増していた。

 

「ようこそ我が家へ」

 

大門が開けられ、敷居を跨ぐと。

 

「「「「お帰りなさい藤巻さん!!!!」」」」

 

石畳の両端に並べられた十数人ものヤクザが迎えてくれており、まるで漫画のひとコマのような光景が広がっていた。

 

「おう、ご苦労さん。今日は俺の客が来てるがいつも通り過ごしてくれ」

 

ウイッス!と綺麗にハモる。信じられない出来事にひさ子と直井は立ち尽くしていた。俺も声がつまり何も言うことができずにいた。

 

「藤巻氏まさか本当に若頭補佐だったなんて驚きましたよ」

 

「信じてなかったのかよ。この光景を見たら、嘘じゃないって分かっただろ?お前ら」

 

「うむ。にわかには信じ難いが本当なんだな」

 

一人の男性が歩み寄ってくる。

 

「おいみんなぁ!藤巻さんが女を連れてきたぞ!!」

 

突然なことにまたも立ち尽くしてしまうが、それを気にせず周りのヤクザは盛り上がっている。

 

隅に置けないだの、羨ましいだの、お似合いとそれぞれの反応をする。

 

「ちょっと待ってよ!あたしと藤巻はそんな関係じゃない!勘違いすんなお前ら」

ヤクザ相手にお前ら呼ばわりをするひさ子の姉御っぷりに尊敬しつつ、照れているのがよく分かる。

 

「姉御が照れてるぞみんなぁ!!祝言も時間の問題だぞ!!」

 

おおー!!と歓声がまたしても起こる。馬鹿なんだなこいつら。

 

「悪いなひさ子。こいつらいつもこんな感じなんだわ。お前も困るだろ?俺みたいなやつと祝言だなんて」

 

「別に……困りはしないよ。うん」

 

ポニーテールまで赤くなっているひさ子を俺とTKはニヤニヤと温かい目で見守る。

 

「じゃ、俺は用事を済ませに行くからな」

 

「「「ウイッス!!!!」」」

 

行くところほとんどに馬鹿がいると思うんだが。これも全て妖怪のせいなんだきっと!

 

 

 

 

妖怪のせいにして現実から逃げていたが、さすがに組の屋敷の中にお邪魔することによって胃がキリキリと痛んでくる。

 

いくつもの部屋があり、渡り廊下からは風流な庭が見える。一際、大きい障子の扉の前に止まる藤巻にあわせて、全員障子の前に立つ。

 

「藤巻です。お電話で伝えた通り俺の客を連れてきましたので挨拶しに来ました」

 

そう断りをいれてから障子を開けるとやはり広い空間の畳部屋があった。

 

「どうも、若」

 

「おう、藤巻相変わらずだな」

 

部屋の奥でラフそうな袴姿で胡座をかいている人物がいた。

藤巻の指示に従い、若の正面に俺らは座る。

 

「右から。TK、直井、日向、ひさ子です。俺の世話になった旧友たちです」

 

「初めまして、俺は大山組若頭次期頭首大山 輝人。歳は二十二。まぁそんな硬くなんな藤巻の友人なら俺の友人と変わらないからな」

 

カッコ良くもワイルドでもなく中世的な幼さを少し感じさせる顔。多少目つきが鋭いが、どう見ても俺らの知っている大山に違いない。

 

「山ちゃん特技とかあるんですか?」

 

もうこいつの考えてることが分かんない!組の若頭をいきなりあだ名って何なんだこの金髪は!!

 

「そうだな、挙げるとしたらダーツだな。どうだ?今度俺の行きつけのダーツバー連れてってやるよ。もちろん俺のオープンカーでな」

 

どうやら、戦線の頃に言ってたことを現実にしているらしい。

 

「んで、直井議員はどうしてここに?賄賂かなんかで」

 

「ふん、馬鹿を言うな。僕は肥えた豚どもと違い、自分の力でなんとかする」

 

「ウチは汚い金を貰わない正当なヤクザだ。もしも、さっきあんたが賄賂とか言い出したらお帰り願えてたぜ」

 

裏でNPUの生徒に暴力を振ったり、催眠術を使ったり、痛々しく神だって自称したりしてた直井がこんなに立派になって嬉しいな。

 

「直井。お前は本当に良いやつなんだな」

 

「気持ち悪いことを言うな。気持ち悪い」

 

お前の毒舌がまったく痛くも痒くもないぜ。むしろツンデレぽくってニヤけちまう。

 

「他のやつから聞いたが、そこのポニーテールと祝言を挙げるんだってな。めでたいめでたい」

 

「それはあいつらが勝手に言ってるだけで祝言なんて挙げませんよ」

 

「そうなのか。こっちとしてもお前が祝言を挙げてくれれば生まれた子供が次期若頭補佐候補にできるからありがたいんだが」

 

「そうと言われましても」

 

組が全面的に押しているが、当の本人はどうなんだろうか?

 

「オトコノコ二人オンナノコ一人は欲しいな」

 

ひさ子が何かを言っていたが~が欲しいとしか聞き取れなかった。もしかして、酒が欲しいとかいってるのか!?

 

「話はここまでだ。俺は明日の組長就任式の準備があるからここらでお開きだ。楽しかったぜ」

 

数人の男たちが入ってくる。

 

「いや、もうちょ「お引き取り下さい藤巻さん」

 

両肩を掴まれ無理やり藤巻は部屋から追い出される。俺らも素直に出る。

 

「本当に楽しかったぜ……藤巻くん」

 

言い終わると共に障子が閉まる。

 

「おい!大山!」

 

障子をぶち壊さんとばかりに腕を振り上げたが、すぐに脱力し空き部屋に移動すると崩れ落ちる藤巻。

 

「へへ、間に合わなかったのか。笑えてくるぜ」

 

状況が分からない俺らに藤巻はただ絶望していたが一人だけ藤巻を立たせる人がいた。

 

「しっかりしなよ藤巻!状況がよく分かんないけど、あんたはこんなところで諦めるようなやつなのか?カッコ悪くてもいいから最後まで勝負を投げ出すな」

 

胸ぐらを掴まれていた藤巻は掴んでいたひさ子の右手を掴み、そっと放させるとひさ子を抱きしめた。

 

「俺にそんなことできるのか?」

 

いきなりで驚いたひさ子だったが、優しく微笑み抱きしめ返す。

 

「できるよきっと。あんたのことはあたしがよく知ってるんだから」

 

何かハブられてる気がするな。

 

「二人だけの空間を創りやがって。今は俺たちがいるのを忘れんなよ」

 

「そうですよ藤巻氏。僕らがついてます」

 

「これ以上の面倒はゴメンだが、付き合うと言ったんだ。最後まで付き合ってやる」

 

ひさ子から離れた藤巻は目元を拭う。

 

「どんな結末になるか分からねぇが最後まで頼む」

 

まるで戦線の頃に見せていた悪ガキみたいな笑顔をしていた。

 

「あとさ、ひさ子ありがとな。おかげでやれる気がしてきた。お前が俺の隣にいて助かった」

 

「あたしを抱きしめたんだ。責任は取ってもらうからな」

 

責任と怖いことを言うがひさ子の顔を見る限りじゃ悪いことをではなさそうだな。

 

「大山の記憶が戻ってるのが分かったんだ。どんな手を使っても大山を取り戻す」

 

今更だが戦線最後の噛ませ犬は立派に成長したのを俺らはこの目で見た。

 




キャラ紹介を先に投稿しようと思っていましたけど、あっ、そう言えばこの話で大山くん出るじゃんと思い。こっちを先に投稿させてもらいました。

大山くんは組長ではなく若頭でした。さすがに老けた大山くんを書きたくないというのが本音ですけどね。ともあれ、次で章の完結にしたいなぁと思っております。

では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。藤巻くんのイケメンっぷりを見ててください。
(感想・意見・質問・評価お待ちしてます)

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