Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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ドキドキ!?お見合い大作戦!
麻婆豆腐は命よりも重し


全身が震えだす。寒いわけでもない、武者震いというわけでもない。これは……人間の本能が訴えかける『恐怖』だとすぐ分かった。

視線の先には、俺が知っている中で最強だと確信している人がいる。口や体の表面から蒸気を噴出しながら一歩一歩近づき、血管の浮き出た拳を叩き込もうと握りしめている。

 

「く、来るならさっさと来い!」

 

自分を鼓舞するように声を荒らげる。

 

「ふっ、はっはっは!足が震えているぞ音無よ。威勢が良いのは口だけのようだな」

 

し、死にたくねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休み旅行から数日。企画者である初音は満足したらしく、心機一転、受験勉強に向けて黙々と参考書を解いていた。今日も昼飯を食べてすぐに始めている。好調に解いているらしかったが突然、その手が止まる。

 

「ムムッ」

 

「これはですね。この公式を使って求めるんです」

 

かなでからの的確なアドバイスを受け、再び解き始めた。

まぁ、旅行の一件で晴れて俺とかなではゴニョゴニョとなったわけだが、俺の家にいるのとは別にそれとは関係ない。

 

ここぞという時に頭の切れる初音は、科目ごとに家庭教師つまり戦線のみんなを使い効率よく勉強している。

理数なら医大生の俺とかなで。英語ならTK。国語はゆりと野田。社会は日向、ユイという具合に全員の予定を見ながらである。

 

お兄ちゃんとしてはTKと二人っきりというのは全力でやめて欲しいのだが、悔しいことに教えるのが上手いらしく初音は満足していた。

 

 

 

 

今日はゆりたちの国語講座へ午前中から出かけていった初音。何をして過ごそうか、と時間を持て余していると、かなでから『今から私の家に来れませんか?』という心躍る素敵なメールが届いた。

 

「きたきたきた!!うっしゃぁぁ!!」

 

るんるん♪しながらマッハで着替えながら、かなでにメールをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まぁこの時点で俺の人生は積んでいたのだろうな。人類史上最強最悪と名高い生物が『お義父さん』である。

 

「さぁ!死ね!音無ぃぃ!!」

 

「俺は生きるぅぅ!!ダァラッシャャァァ!!」

 

飛んでくる拳に回し蹴りをぶつけて相殺しようとした瞬間……吹き飛ばされた。空中で弧を描きながら綺麗に舞う。

 

「逃げずに真っ向から相殺しようとしたのは褒めてやろう。だが!地力が違うわ!!まぁ、靴にジェットパックでも付けてれば話は別だがな」

 

脚一本犠牲にすれば相殺できるという規格外の拳。コンクリートの地面に受け身も取れないまま墜落する。

 

「我が天使……じゃなく、我が女神……でもなくて、だ。我が愛しの娘と交際しているだと?今度という今度は許さん!」

 

「くッ……」

 

 

「死ぬ前に言い残すことはあるか?」

 

死へのカウダウンが間近に迫る。

 

「娘さんを僕にください……お義父さん」

 

本気で言い放つ。かなでパパは怒りを通り越し無の境地に達したのか、無表情だった。

 

「死ね」

 

 

叩き潰すように振り下ろされるのを目視した後そっと、目を閉じる。拳圧の衝撃で大気が震えるのを肌で感じながら終わりを待つ。

 

 

「あなた!もう、何をしてるの!もう……。消えたと思ったら暴力なんて大人として恥ずかしいわよ」

 

女性の声が聞こえた。

 

「ま、ま、ママぁ!?」

 

かなでパパの慌てる声と共に拳が寸のところで止まったらしく、強力すぎる威力のためか、突風が巻き起こった。

 

かなでパパがママと呼ぶ女性。つまり、かなでママを見るべく、目を声の方向へ向ける。

 

「ほら、中に入って入って。お隣さんに見られたら誤魔化すのが大変だから」

 

「チッ……命拾いしたな音無」

 

さっさと家に入ってしまった二人。だが、かなでママは、やはりかなでに似ていた。

 

 

 

「君が音無くんね~かなでから聞いてるわよ。もう、かなでったら彼氏ができたなら、できたって言えばいいのに。ねぇパパ?」

 

明らかにかなでパパの額には青筋が浮かび上がっている。

 

「あ、ああ。そうだな。もっと早く聞いていれば、すぐにでも殺す(祝う)つもりだったが、残念だ。今からでも殴り合う(語り合う)か?」

 

幻聴だろうか?普通のことを言っているのに殺意が湧き出ている言葉が聞こえてくる。

 

真正面からかなでママを見ると、かなでと瓜二つだった。ほんわりとした優しい目、白く澄んだ肌。かなでが母親に似て良かったと心の底から思う。

 

「そうそう。かなでだけど部屋の片付けをしてるから心配しないで大丈夫よ」

 

「そうですか」

 

「ねぇねぇ音無くん。かなでとはどこまでいったの?手は繋いだ?抱き合った?もしかして……キスとか?」

 

ぶっちゃけた質問にかなでママは頬に手を置き、きゃ~♪と顔を横に振った。年相応ではないにしろ、全然セーフな仕草。ちなみに、かなでパパは指の関節を鳴らし、見た目相応な仕草をしていた。

 

 

「本人がいないところで言うのは少し……」

 

 

「いいのいいの。もう年かしらね、こういうところで野次馬根性が出ちゃって。年は取りたくないものね」

 

 

ダンダンダン、と二階から騒がしい音が聞こえたと思ったら、今日の目的であるかなでが慌てた様子で来た。

 

「も、もう!パパ、ママ。ゆ、結弦を困らせないで」

 

まだ呼び捨てに慣れてないらしく、とても初心で可愛い反応に俺とかなでパパはガッツポーズを自然にやってしまった。

 

「ふふっ、ほんとにかなでは音無くんが好きなのね。大丈夫よ、困らせちゃったお詫びにゆっくり二人で遊んでいいわよ。ね?パパ。久しぶりにデートでもしましょ」

 

「だ、だが……「しましょ?」……はい」

 

一瞬の目が笑ってない笑顔によってかなでパパは食い下がることすらできず了承していた、。

 

 

「じゃ、夕暮れには戻るから、かなでをよろしくね。音無くん」

 

「あ、はい。了解です」

 

「いってらっしゃい」

 

リビングを出ていく途中、かなでパパは目で語っていた。『何かしたら殺す』と……。

 

「音無、お前はせいぜい死なないように努力するんだな。本当の敵は味方にいると思え」

 

意図の読めない言葉を残し、かなでパパとかなでママは出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうぞ」

 

「お、お邪魔します」

 

かなでの部屋へいざ!オンライン!女性の部屋なんて滅多に入ることもなく、緊張で手足が痙攣気味だが、用意されていたクッションに座る。

 

 

「ごめんなさい。パパとママが……」

 

「気にしてない気にしてない!むしろ、挨拶ができてよかったよ」

 

 

危うく死にかけたけど、と心の中で呟く。

 

今日のかなでファションはハイウエストの暗色のスカートに白のブラウスと天使感極まりない服装で眼福だった。

し!か!も!だ!三つ編みだ!!眼福どころか眼球が聖なる光で溶けるぐらいである。

 

「三つ編みなんて珍しいな。もしかして家にいる時はそうしてるとか?」

 

「そういうことはないんですけど、たまには結弦に普段と違うところを見せたいなって、変かな?」

 

「変じゃない変じゃない!むしろ見れてよかったよ。これで今年はいい年になるよ」

 

大げさですよ、と笑うかなで。恋人という関係になるとその何気ない仕草の一つ一つが特別で愛らしく思えてしまう。

 

「結弦!」

 

「うぇ?!ど、どうした!?突然大声でして」

 

「あ、あの。私の夢のつ、続きをするんだよね?だ、だからその、初めてだから上手くできないかもしれないけど、ごめんね」

 

もう待てないというような、荒い息遣い。四つん這いになりながら顔をぐいっと近づけてくる。

とてつもなくエロスなその表情と体制に何かが崩壊し始める。

 

「だ、大丈夫だ!最初はみんなそんなもんだ……たぶん。俺もがんばるから!」

 

「結弦ならそう言うと思ってた。じゃ、早速だけど準備すらキッチンに来て!」

 

「かなでさん!?初めてをキッチンというのはハードルが高いんじゃないんですかね?!」

 

「いいから早く早く!」

 

パニック状態で手を引かれキッチンへ連れていかれる。い、いったい何をするんだ……。期待と不安を胸にする。

 

 

 

だが、その期待と不安は期待だけが裏切られた。

 

「さ!召し上がってください!」

 

キッチンに連れてこられたと思ったら、スプーンだけを持たされ、リビングで座って待っていてと言われたのだが、その後すぐに来たかなでが両手に持つ皿をテーブルに置いてくる。

 

「こ、これは、にゃんだ?かなで」

 

「ナニって……麻婆豆腐ですよ」

 

「ははっ、だ、だよな」

 

乾いた笑みを浮かべる。目の前にあるのは俺の知っている麻婆豆腐ではなかった。

辛さを表すための色合いは赤を通り越して表面は黒く染まっている。立ち込める湯気は肌に触れる度に刺すような痛みが走る。

 

「こ、これが夢の続きなのか……?」

 

「言ったじゃないですか。麻婆豆腐を食べてたって。だから、きっと二人はもっと美味しそうな麻婆豆腐を食べただろうと思って、作ったんです」

 

ふふん!とドヤ顔である。顔を再び麻婆豆腐の方へ向ける。

 

痛い!痛い痛い!ほんとにコレ食べ物なの!?化学兵器とかそっち方面の類じゃないの!?

食べてもないのに顔から汗が尋常じゃないほど出る。

 

 

「わざわざ海外輸入した特別なソースなどなどを入れたので味が少し心配だったからお父さんに味見してもらったんですよ。そしたら美味しいって言ってくれたので大丈夫です」

 

ようやくかなでパパの言葉の意図を読み取ることができた。そういうことだったのか……同情するよ。

 

「た、食べたいのは山々なんだがお腹が、な」

 

かなでに悪いと思いつつも死への道を進むのにはまだ早いと思うんだ!

 

「……そ、そうなんですか…。そ!それならし、仕方がないですよ……ね。気にしないでください。」

 

涙目でどこからどう見ても落ち込んでいる表情。

あぁぁーー!!!日向ァ!骨は指輪にしてかなでに贈ってくれよな!

 

「あれ?お腹の調子が良くなった!いやぁついでにお腹も減ってきたよ。かなで美味しそうな麻婆豆腐ありがとな」

 

ぱぁと満開の笑顔が咲く。

 

「せ、折角なので……」

 

かなではスプーンを手に持ち、麻婆豆腐(化学兵器)を一掬いし、

 

「あ、あ~~ん」

 

恥じらいながらの初と言ってもいいぐらいカップルらしいことに感極まりながら、全身の震えを抑えながら口を開く。

 

「あ"あ"~ん"」

 

咀嚼し飲み込む。一拍の置いた瞬間に口、喉、胃に激痛がし、俺を襲う。ふっ、と気を失いそうになるが気を保つ。またもや気を失いそうなのを堪える。手足が痙攣する。

 

「どうですか?」

 

答える力も残ってない。しかし!振り絞る振り絞る振り絞る!

 

「お、美味しい。す、少し辛さが強めかな」

 

「辛さが強めだったんだ。次はもう少し弱くするね」

 

「ああ、そうしてくれると完璧だよ」

 

「まだまだあるから遠慮しないで食べて」

 

皿に盛られた麻婆豆腐。そして中華鍋にあるだろう残りの麻婆豆腐。

 

「か、かなで!鍋ごと持ってきてくれハァハァ」

 

少し驚きながらも喜びの顔に変わったかなではすぐに引いたシートの上に鍋を乗せる。

鍋越しだからこそ再度伝わる、この麻婆豆腐のやばさ。

 

 

「──愛してるよ、かなで」

 

「ふえぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

音無がかなでに手を出してないか気が気でない俺は、すぐに玄関の扉を開け、リビングに行く。

 

そこには……。

 

 

「あ、お父さん。見て見て!結弦がね私の作った麻婆豆腐を全部美味しいって言って食べてくれたの。でね、お腹いっぱいになっちゃて結弦寝てるの」

 

机に突っ伏し、最後まで手放さなかった白銀の光沢を放つスプーンを右手で突き上げるように上げる姿がそこにあった。

 

 

「ふん、今回だけはよくやったと褒めてやろう。音無よ」

 

「そうそう。お父さんの分もちゃんとあるから心配しないでね」

 

 

 

 

音無よ……すぐに後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも騎士見習いです。

今回は初登場のかなでママが出ました。拍手!
次回から物語を進めていくのでよろしくお願いします。

そして!読者の中にいる、かな?受験お疲れ様です。この作品が少しでも力の糧になれたのなら幸いです。

では、あらためまして。読んでくださってありがとうございます!これからもチビチビと投稿できるようにがんばるので応援よろしくお願いします!

(意見、感想、評価お待ちしてます)


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