Angel Beats! the after story   作:騎士見習い

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クライスト

 

俺こと日向秀樹は休日の午前中に公園へ赴いた。暇だから?居場所がない?そんな理由ではない。俺だってそんな時があったら場所を選ぶ。

 

とまぁ、俺が場違いな場所に来なきゃいけない理由は一つしかないだろう。

 

 

「日向くん遅いわよ!リーダーを待たせるってどういう了見かしらね」

 

「そうだぞ日向ァ。ゆりっぺを待たせるとは良い度胸してるぞ!」

 

我らが戦線のリーダーであるゆりっぺと噛ませ犬の野田。付き合ってるだけあって、やはりどこか似てる所があると思う。

その二人以外にも幸の薄そうな奴が一人。

 

「日向く~ん。お~い」

 

「大山、待たせて悪い。お前も大変だな、組長なのに午前中から公園に呼ばれるなんてよ」

 

現役組長を呼び出せる肝の太さと度胸に改めてゆりっぺの大胆さを知る。

 

 

「そんなことないよ。……持つべきもんは持ってきてるしな」

 

怪しげな顔で胸元を掌で触れながら言う。

 

 

「お、大山!?お前まさか危ないもん持ってきてないよな!?」

 

「危ないもん?それってこのことかな」

 

 

ばっ!と瞬時に出されたのは黒光りする物騒なものではなく………ポッキーだった。

 

 

「あら、大山くんも気が利くわね。一つ貰うわよ」

 

「うん。いいよ。野田くんも」

 

「あぁ悪いな。……どうだ?ゆりっぺ、ポッキーゲームでも?」

野田の気持ち悪い発言を、自重しろ発情期、と口悪く一蹴したゆりっぺ。

 

「って!!んだよポッキーってよ!!なんで遠足気分でパクパク食べてんだよ! why!!!」

 

 

なんで朝から俺はこんな全力でツッこんでるんだよ。

 

 

「日向くんそれ流行らせたいわけ?全然、流行ってないわよ」

 

「日向くん。それってカタギの中で流行らせたいのかな?全然、流行ってないでしょ」

 

「日向、それを流行らせたいのか?全然、流行ってないぞ」

 

 

「三人同時に言うな!てか!流行らせてないわ!そんなことより、何の用なんだよ!!」

 

 

このメンバーは本当に疲れるわ。もう一人ツッコミ役が欲しいところだが、そんなのがいるわけもなく話が進む。

 

 

「今日呼び出したのは他でもないわ!チャーに会いに行くわよ!」

 

 

「チャーってギルドのチャーか?」

 

「他に誰がいるのよ。日向くんの知っているチャーよ」

 

「チャーさん元気にしてるかなぁ」

 

 

戦線初期メンバーだけあって俺たちのチャーへ対する思いは大きいと思っていたが若干一名は苦手意識を持っている。

 

「ち、チャー……だと!?べ、別にいいんじゃないか。ほっといても大丈夫だ」

 

 

なかなかの最低発言だが野田は戦線加入前のチャーにボコボコにされている。

 

 

「野田くんのことはほっといて説明するわよ。と、その前に……さぁ!現れなさい!」

 

 

白いガスもライトアップもない登場演出。ゆりっぺの指差す方向を見ると、すべり台の上に人が立っていた。

その人物を見た時、ゆりっぺ以外は絶句した。

 

「お、お前は……誰だっけ?」

 

なんとか名前を思い出そうとしても出てこない。とても、とても……どうでもいい奴だったはずなのに!

どうやら俺だけでないらしく大山も野田も首を捻っていた。

 

 

「はぁ、冷たい男ね。彼は我らが戦線の頭脳!……えっ……と……。く、クライアント?クライスラー?」

 

「いや、お前も覚えてねぇじゃねぇか!」

 

 

俺たちがああだ、こうだ、している間に名前が分からない奴がすべり台から降り、こちらに近づいてきた。

 

嫌味たらしくかけている眼鏡をくいっ、と直す。

 

「クライアントは広告主という意味です。クライスラーはアメリカ合衆国ミシガン州オーバーンヒルズに本社を置く自動車メーカーのブランドの一つです」

 

聞いてもいない知識を披露され一拍置く。

 

「そして僕の名前はクライスト……ではなく竹山です」

 

 

その名前を聞いた瞬間俺たちは、なぜか自分から呼んだはずのゆりっぺも驚きに溢れていた。

竹山ことクライストはゆりっぺが俺たちに欠けているもの……つまり知力を補うべく戦線へスカウトしたのだ。

 

あの時は誰もクライストなんて呼ばなかったけどな。

 

 

「久しぶりだなぁ!クライスト!」

 

昔馴染みの再開を喜ぶ。さすがにクライストと呼んであげなければ可哀想だろう。

 

 

「僕を……僕をクライストと呼ぶなぁァァァ!!!」

 

 

叫びだし頭を抱えながら悶えていた。あれは違うだの、思春期特有の病気だの、と延々と言葉を並べている。

 

「おいおい一体どうしたんだよ?お前いっつもそう呼べって言ってたじゃねぇか」

 

「そうでしたね……ふ、ふふふ、はーっはっはっは!!!!」

 

突然笑いだす竹山に一同ドン引きである。そしてもう一つ言っておくと、ここは公園だぞ。

 

「あの頃の僕は若かった!でも今は違う!大人になり超が付くほどの一流のIT会社で精鋭として働いてるんだ!クライスト?ハァーーーン!!中二病をこじらせてるのもほどほどにしとけってんですよ!!だから、僕はクライストではない!ただの竹山だァァァ!!!!」

 

地面を拳で殴っている。整っていた髪は乱れ、息を切らせながらの全力発言に俺らは頷くしかなかった。

 

「ど、どどどうしよ!?僕の次ぐらいにキャラが薄いクライストくんが急激にキャラが濃くなってるよ」

 

「驚くのはそこなのかよ」

 

 

野田が未だに殴るのを止めない竹山を止め、平常心に戻す。

 

「つまり、だ。恥ずかしかったのか。んで?ゆりっぺ竹……クライストをどう使うんだ?」

 

「だから!僕はた、ブヘッ」

 

さすがに鬱陶しかったらしくゆりっが見事なハイキックで沈める。

 

 

「それはね。竹イストくんの持ってるパイプでチャーにアポを取ったのよ。さすがに私でも法律には逆らえないからね。だから正攻法よ」

 

ま、直井くんがいれば話は別だけどね。といらぬ一言を置いてく。

 

「なんでチャーに会うためにアポなんて取るんだよ?そんなに偉いのか、あいつ」

 

「無知って度が過ぎると可愛げがなくなって殺意が湧くものなのね。……しょうがないから教えてあげるわ!耳の穴かっぽじって聞きなさい!日向虫!」

 

「だれが虫じゃ!家畜ぐらい価値はあるわ!」

 

俺のツッコミを聞き、なぜか大山と野田は涙していた。俺のツッコミに感動したのか?ふぅ、完璧なツッコミ役も疲れるものだぜ。

 

「日向……そこまで自分を卑下にするもんじゃないぞ……」

 

「もう見てられないよ!日向くんがいい歳して知能が足りないなんて……」

 

なぜか二人して空を見ていた。涙を堪えるように。

 

「日向くんが虫か家畜かっていうそんな些細な問題は置いときましょ。チャーは今や世界的に有名なおもちゃ会社の社長なのよ。そんな雲の上の人物に私たち一般人とヤクザが会えるほど世の中は甘くないわよ」

 

 

まさかあのチャーがおもちゃ会社なんて信じられねぇな。あんな怖い顔におもちゃを作ることなんて出来るのかよ。

 

半信半疑だがゆりっぺの言葉に嘘がないのは分かってるから本当のことなんだろう。

 

「有名人に会うにはそれ相応の地位の人物がいなきゃダメだと。そういうことか?」

 

「あら、日向くんのクセに珍しく理解が早いじゃない。その通り、だから竹山くんに協力してもらうの。……たまたま遭遇してたまたま記憶が戻ったんだけどね」

 

 

「聞きたくなかった!そんな可哀想な一言を聞きたくなかった!竹イストくん!僕は君の味方だよ」

 

 

さすがにあの発言に大山も同情している。ゆりっぺには優しさというものが欠落してるんじゃないか。

そっと復活した竹山は自分に対するゆりっぺの扱いに慣れているのか、それとも諦めているのか文句を言わずに聞いていた。

 

「そういう訳で我が社と協力して次世代おもちゃを作ろうという嘘のアポを取りました。もちろん脅されてです」

 

「ゆりっぺのことだ。何かしらの救済措置はあるのだろう。竹イスト、心配するな俺の彼女はそういうやつだ」

 

 

救済措置なんてきっと何も考えてないんだろうな。

 

 

「それよりも竹イストってやめてくれませんか?僕も反応に困るんですよ」

 

「あらそう?ごめんなさいクライストくん」

 

「だから!僕は竹山だって言ってるでしょう!!」

 

「分かった分かった。クライストくんよろしく頼むわよ」

 

 

ぜんぜん分かっていないゆりっぺである。もう竹山は気にせずメモ帳を取り出す。

 

「ねぇねぇ日向くん」

 

肩をちょんちょんされ大山に耳を貸す。

 

「今更だけど本当に野田くんとゆりっぺ付き合ってるんだね。意外でもないけど」

 

「あの二人はいつかは結ばれるように決まってたんだろうな。感慨深いものがあるよな」

 

「ははっそうだよね。ああいうのを見ると微笑ましいね。僕も年をとったのかな」

 

 

直接見てない大山は半信半疑だっただろうが今日見て本当のことだと分かったんだろう。

年をとったと大袈裟な表現だが、実際ゆりっぺたちはまだ成人じゃないので大山の感想もうなずける。

 

「え~三日後に会えるようにアポを取りました。場所はチャーさんの会社本社です。一応、立場上目上の人と会うので、それなりの服装でお願いします」

 

 

的確な説明に関心する。

ん~卒業式に着たスーツ着れっかな。

 

「ありがとクライストくん。そんな訳で三日後に集合よ!一分一秒でも遅れたらご飯おごりだから!いい?」

 

「「「アイアイサー!!!」」」

 

 

話し合いも終わり、これから大山の奢りで昼飯に行くことになった。焼肉やら鰻やらイタリアンやらと高価なものを並べていく三人。

もうちっと遠慮したらどうなんだよ。はぁ、いくら大山が金を持ってても……

 

「俺!寿司!寿司食いてぇ!!」

 

やっぱ食える時に食わなきゃもったいねぇよな!

 

 

「あ、そうそう肝心なことを忘れてたわ」

 

 

肝心なこと?俺たちは全く覚えがなく顔を合わせる。

 

 

「恒例のあれよあれ!」

 

あ~~と付き合いが長いだけ俺と野田と大山は思い浮かんだ。竹山も頭の回転が早いだけあって理解出来たらしい。

 

 

「これよりチャー戦線再加入作戦!オペレーションRe-admissionを発動する!」

 

「ねぇ、なんて意味?」

 

「再加入という意味です」

 

「まんまだな」

 

「シンプルが一番。さすがゆりっぺだな」

 

死ね!と順番にボディを殴られてしまった。全員その場に倒れ込み腹を抱える。苦悶の表情を浮かべる俺たちを見て満足したゆりっぺは気を取り直して息を吸い込む。

 

 

「オペレーション!スタート!!!」

 

 

 

 

 




みなさんお久しぶりです。騎士見習いです。なんとか時間を作って何ヶ月ぶりかの投稿です。

さて、竹山くんが登場!細いことは気にせずに!
そして今回はチャーの話です!!

ほぼ不定期になってしまいますが皆様申し訳ありません。少しでも早く次回を投稿するようにがんばります。

では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




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